博 士 (水 産科 学) 清水孝士
学 位 論 文 題 名
ス ケ ト ウ ダ ラ 底 刺 網 に お け る 漁 獲 過 程 の モ デ ル 化 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
【背景と目的】
多くの網漁具の中でも刺網漁具は漁獲性能のー指標である選択性能に優れていることで知られ,その特 性を生かして資源量調査と商業漁業の両者に広く用いられている。刺網漁具の漁獲性能を把握することは 資源管理の観点から重要であるが,これまでの刺網の漁獲性能に関する研究は操業試験による漁獲結果と 漁具の仕様にのみ着目したものが多く,本来可変であるはずの流況などの漁場環境が漁具の形状など物理 的な状態に与える影響などは考慮されてこなかった。漁獲効率に影響を与える要因は漁具の物理的な状態 と生物の形態や行動に大別される。前者は漁具の仕様と流れなどの漁場環境に左右され,また後者は魚種 や環境によって変化する。このような観点から見れぱ,刺網における漁獲機構に重点を置いて漁獲過程を 普 遍 化 ( モ デ ル 化 ) す る と い う ア プ ロ ー チ が 漁 獲 性 能 の 解 析 に 有 効 で あ る と 考 え ら れ る 。 そこで本研究では漁具の仕様と漁場環境によって変化する漁具の動態と,魚種によって異なる形態や対 漁具行動の双方をパラメータに含む漁獲過程モデルを構築することを目的とした。モデル検証のための適 用対象はスケトウダラTheragra chalcogrammaを漁獲対象とする底刺網とした。構築するモデルには,1) 絶対漁獲効率(漁獲尾数/遭遇尾数)を出カできること,2)実操業に適用できること,3)漁具仕様,対象 魚種,漁場環境が変わっても対応できること,の3っの性能を要求した。
【漁獲過程のモデル化】
本研究で構築した漁獲過程モデルでは,エラから最大胴周部までの胴部で魚が網目に保持されると仮定 し,羅網が成立するための静的条件と動的条件を設定した。静的条件は魚体サイズと網目周長の大小関係 に関する条件で,A)魚のエラ後端部周長が網目周長に任意の網目周長補正係数を乗じた値より小さぃ,B) 魚の最大胴周長が網目周長に任意の網目周長補正係数を乗じた値より大きい,C)魚のエラ後端部周長が 網目周長に任意の網目周長補正係数を乗じた値より大きい,の3っを設定した。動的条件は魚が網糸に接 触した際の反応となる逃避行動に関する条件で,魚が初めて網糸に接触する際(1次接触とする)と,魚 の胴の全周にわた って網糸と接触する際(2次接触とする)を問題とした。この2段階において魚が示す 行動の結果と,先 に挙げた3っの静的条件を用いて,以下の3つの羅網成立条件を設定した。実測された 底刺網操業時の環境照度が低く,スケトウダラが網を視認している可能性が小さいことから,本モデルで は視認による逃避行動については考慮していない。
1. 静 的条 件AとBを 満た し,1次 接 触,2次 接触 の両 方で前進行動を示し た場合(胴部保持型)。
2. 静 的条 件AとCを 満た し,エラ後端より深 く網目に頭部を進入してから1次接触し,後退行動を
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示した場合(エラ掛かり型)。
3. 静 的 条 件AとCを 満 た し , エ ラ 後 端 よ り 深 く 網 目 に 頭 部 を 進 入 し て か ら2次 接 触 し , 後 退 行 動 を 示した場合(エラ掛かり型)。
モデル では, NaI,A;NetIshapeandLoa曲1gん迫lySissystem により離散質点系として表現された網形状 と, 魚 体 上 の接 触 部 位 の関 数 と し て前 進 と 後退 とにモ デル化 したス ケトウ ダラの 接触時 反応行動 を用い て 漁獲 効 率 を 算定 す る 。 実験 的 に 求 めた 魚 体 上の 接触部 位と前 進行動 の発現 確率の 関係を 正規確率 分布関 数 で近似することにより,次式から前進行動の発現確率が求められる。
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ここ で 轟 は 尾叉 長 で 相 対化 さ れ た 吻端 か ら 接触 部位ま での距 離,fiま 相対化 された 吻端か らの距 離,砺 び は分 布 の 平 均値 と 標 準 偏差 で あ る 。本 式 を 魚 と網 糸 の 問 に生 ず る1次 接 触 と2次接 触 に 適 用す る ことに よ り, 上 記 の3っ の 条件 が 成 立 する 可 能 性 を確 率 的 に 予測 す る 。 この 計 算を 想定し た遭遇 尾数に応 じて繰 り 返すことにより,漁獲尾数と漁獲効率が算出される。
【水槽実験による検証】
構 築 し たモ デ ル の 妥当 性 を 検 証す る た め ,水 槽内でス ケトウ ダラを 羅網さ せる実 験を行 なった 。実験 で は 屋 内 の 円 形 水 槽 ( 直 径4m, 深 さ60cm) に 目 合と 縮 結 の 異な る4種 類 の 模型 網 を 設 置し , 尾 叉 長340〜 536mmの ス ケト ウ ダ ラ 計332尾 を 遊 泳 させ て 網 へ の接 触 行 動 を観 察 し た 。実 験 は 暗 環境 下 で 行 なぃ,観 察 と撮 影 に は 赤外 線 照 明 とカ メ ラ を 使用 し た 。 撮影 さ れ た 画像 を 用 い て魚 が 網 糸 に接 触 し た 後の 現象を 逃 避,網目通過,羅網(漁獲)の3っに分類し,それぞれの発現回数を記録した。
実 験 で 観察 さ れ た 接触後 の結果 を逃避 ,網目通 過,羅 網の3っ に分け てそれ ぞれの 割合を 求めた ところ , いずれ の網も逃避率が83.7〜96.O%と最も高く,羅網率はO.9〜2.9%の範囲であった。網目通過率は2.2〜 1613% で, 目 合 が 大き い ほ ど 高く , 縮 結 が小 さく 網目の 開きが 小さいほ ど低く なって いた。 モデル による 数値計算で推定された逃避率,羅網率,網目通過率はそれぞれ87.O〜96.2%,0.2〜3.2%,1.4〜12.8%であ り, 実 測 値 を良 く 再 現 して い た 。 同一 の 目 合 でも 縮 結 の 違い か ら 網 目の 形 状 が 変化 し , そ の結 果漁獲 効 率に差が生じることが実験値,計算値の双方で確認された。
【実操業ーの適用】
構 築 し た漁 獲 過 程 モデ ル を 噴 火湾 で 行 な われ たスケト ウダラ 底刺網 の実操 業ヘ適 用した 。操業 中に観 測 され た 海 況 と操 業 情 報 から 網 の 位 置と 形 状 をNaI一Aによ り算定 し,モデ ルによ り尾叉 長ごと の逃避 率,網 目通 過 率 , 羅網 率 を 推 定し た 。 操 業中 に 流 向 流速 が 変 化 して い い た ため , 操 業 時間 を30分間 隔 で離散 化 して 漁 獲 効 率を 求 め , 通算 の 漁 獲 効率 の 期 待値 を求め た。算 定結果 は尾叉 長によ って異 なるが, 逃避率 が 最も高く88.4〜97.1%,網目通過率が1.8〜11.3%,羅網率は約0.1〜3.2%の範囲となった。尾又長ごとの羅 網 率 の 変 化 は な だら か で 明 瞭な ピ ー ク は見 ら れ な かっ た が ,450〜500nun付 近 で最 も 高 く なっ て い た 。 次 に , 全20回 の 操業 で 記 録 され た 漁 獲 尾数 と 推 定 した 漁 獲 効 率を 用 い て ,各 操 業 の 遭遇 尾 数を 尾又長 ご と に 推 定 し た 。1反 あ た り の 遭 遇 尾 数 は200〜800尾 で , 尾 叉 長 別 に見 る と ,430〜450mm付近 で 多 く なっ て い た 。い ず れ の 操業 で も 単 純な 単 峰 陸の 分布と はなら ず,遭 遇魚の 年齢が 単一で はなかっ たこと が 推察 さ れ た 。さ ら に , 操業 位 置 を もと に 遭 遇尾 数の時 空間分 布を再 現した 。その 結果か ら,同一 海域で の スケ ト ウ ダ ラの 分 布 密 度の 時 間 的 な変 化 や ,同 一期間 での空 間的な 密度差 など, 操業海 域であっ た噴火 湾 口域における分布密度の時空間的変化を推察することが出来た。
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本研究では,NaLAを用いた刺網漁具の物理モデルと,モデル化された魚の対網行動をパラメータとし て,刺網の漁獲過程モデルを構築した。スケトウダラを用いた水槽実験に本モデルを適用したところ,実 測された値に近い漁獲効率を推定することが出来た。また,モデルによって算定された漁獲効率を用い,
スケトウダラ底刺網の実操業において記録された漁獲尾数から遭遇尾数を推定することが可能であった。
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学位論文 審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
山本勝太郎 三浦汀介 平石智徳
高木 力(近畿大学)
学 位 論 文 題 名
スケト,ウダラ底刺網における漁獲過程の モデル化に関する研究
刺 網 漁 具 は 漁 獲 性 能 の 一 指 標 で あ る 選 択 性 能 に 優 れ て い る こ と か ら 資 源 量 調 査 と 商 業 漁 業 の 両 方 に 広 く 用 い ら れ て い る 。 こ れ ま で の 刺 網 の 漁 獲 性 能 に 関 す る 研 究 は 操 業 試 験 に よ る 漁 獲 結 果 と 漁 具 の 仕 様 に の み 着 目 し た も の が 多 く , 本 来 可 変 で あ る は ず の 流 況 な ど の 漁 場 環 境 が 漁 具 の 形 状 な ど 物 理 的 な 状 態 に 与 え る 影 響 な ど は 考 慮 さ れ て こ な か っ た 。 漁 獲 効 率 に 影 響 を 与 え る 要 因 は 漁 具 の 物 理 的 な 状 態 と 生 物 の 形 態 や 行 動 に 大 別 さ れ る 。 前 者 は 漁 具 の 仕 様 と 流 れ な ど の 漁 場 環 境 に 左 右 さ れ , ま た 後 者 は 魚 種 とそ の 対網 行動 およ び環 境な どに よっ て変 化す る。
本 研 究 は , 漁 具 の 仕 様 と 漁 場 環 境 に よ っ て 変 化 す る 漁 具 の 動 態 と 魚 種 に よ っ て 異 な る 魚 の 形 態 と そ の 対 漁 具 行 動 の 双 方 を パ ラ メ ー タ に 含 む 漁 獲 過 程 モ デ ル を 構 築 す る こ と を 目 的 と し て , ス ケ ト ウ ダ ラ 底 刺 網 を 対 象 に そ の 漁 獲 過 程 の モ デ ル 化 と モ デ ル の 検 証 実 験 お よ ぴ モ デ ル の 適 用 と し て 実 際 の 漁 獲 尾 数 か ら 遭 遇 尾 数 の 時 空 間 分 布 の 推 定 が 可 能 で あ る こ と を 示 し た も の で あ り , 審 査 員 一 同 が 高 く 評 価 し た 点 は 以 下 の 通 り で ある 。
1) 漁 獲 過 程 の モ デ ル 化 : 水 槽 実 験 に よ っ て ス ケ ト ウ ダ ラ の 刺 網 に 対 す る 行 動 を 観 察 し 羅 網 が 成 立 す る た め に , 魚 体 サ イ ズ と 網 目 周 長 の 大 小 関 係 に 関 す る 静 的 条 件 条 件 と し て ,A)魚 の エ ラ 後 端 部 周 長 がkiX網 目 周 長 に よ り 小 さ い ,B) 魚 の 最 大 胴 周 長 が セx網 目 周 長 よ り 大 き い ,C) 魚 の エ ラ 後 端 部 周 長 がk3x網 目 周 長 よ り 大 き い , の3 っ を設 定 して いる 。こ こにk1(1.25),k2(l.36),k3(0.84)は網目周長補正係数である。ま た , 動 的 条 件 と し て 魚 が 初 め て 網 糸 に 接 触 す る 際 (1次 接 触 ) と , 魚 の 胴 の 全 周 に わ た っ て 網 糸 と 接 触 す る 際 (2次 接 触 ) の 前 進 と 後 退 行 動 の 動 的 条 件 を 設 定 し て い る 。 こ れ ら の2つ の 条 件 か ら , @ 静 的 条 件AとBを 満 た し 前 進 行 動 を し た 場 合 の 胴 部 保 持 型 羅 網 率 と ◎ 静 的 条 件AとCを 満 た し エ ラ 後 端 よ り 深 く 頭 部 を 進 入 し て か ら 後 退 行 動 を し た 場 合 の エ ラ 掛 か り 型 羅 網 率 を , 実 験 的 に 求 め た 魚 体 上 の 接 触 部 位 と 前 進 確 率 の 関 係 か ら 求 め た 接 触 部 位 を パ ラ メ ー タ と す る 正 規 確 立 分 布 関 数 を 用 い て 算 出 し て い る こ と は , 刺 網 の 漁 獲 過 程 の モ デ ル 化 を 具 体 的 に 示 し た も の と 高 く 評 価 で き る 。