博 士 ( 農 学 ) 梅 津 一 孝
学 位 論 文 題 名
寒 冷 地 酪 農 用 メ タ ン ガ ス 生 産 施 設 の 設 計 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
本論文 は,6章 で構成され,図65, 表26,写真12,、 引用文献118を含む195頁の和文論文である。
北海道 酪農は府県に比ベ 飼料自給率が高く ,経営内での糞尿の 圃場還元は比較的容易であった。
し かし , 近年 ,1戸 当り 飼 養頭 数が100頭 を 越え る酪 農 家が 現れ , 排出 される糞尿はミ ルキング
・ パー ラ の排 水と と もに 膨大な 量となり,その取 り扱いが問題となっ ている。また近年 は,自然 環 境, 地 域環 境の 保 全の 立場か ら生態系に基づい た家畜糞尿処理の重 要性が再確認され ,その処 理方法と してメタン発酵に 対する関心が高ま っている。
しか し ,農 場規 模 での 大型メ タンガス生産施設 はまだ研究段階にあ り,一般に実用化 されてい な い。 特 に寒 冷地 に おけ る乳牛 糞尿を原料とした メタンガス生産施設 は冬期間の運転維 持が困難 なため北 海道での周年運転 の実績はない。
本研 究 は室 内実 験 とべ ンチサ イズの発酵槽によ る実験,さらに小型 プラントによるラ ンニング テ スト を 行い ,寒 冷 地型 酪農 用 メタ ンガ ス 生産 施設 の 設計 指針 を 得る ことを目的とし ている。
第1章 緒論 に は, 国内 お よび 国外 に おけ る研 究 の動向,工ネルギー としての可能性, さらに利 用の利点 と問題点にっいて 述べられている。
第2章 では1槽式 発 酵法 を用 い 発酵 温度 , 固形 分濃 度 ,平 均滞 留 時間 とメタンガス生 産量の関 係 ,さ ら に乳 牛糞 尿 の流 動特性 と消化液の肥料成 分などメタン発酵原 料としての乳牛糞 尿の特徴 にっいて 述べられている。 結果を要約すると,(1)発酵温度35〜 45℃で20日間の回分式試験を行つ た 結果 ,42.5℃の メ タン ガス生 成量が最大となっ た。(2)原 料当りのメタンガ ス生成量は,9%原 料 が最 も高い値を示し た。(3)有 効発酵槽容積当り のメタンガス生成量 は平均滞留時間が 短くなる に 従い 増 加し ,有 機 物投 入当り のメタンガス生成 量は平均滞留時間が 長くなるに従い増 加した。
(4)Chen&Hashimotoモ デル の予 測 値は 平均 滞 留時 間が 長 くな るに 従 いや や高 く ,平 均滞 留 時 間 が短 く なる に従 い やや 低くな る傾向が認められ たが,全体として非 常に高い精度でメ タンガス
化 し,肥 料価 値が増 加した 。
第3章で は2相 式 発酵 法 の 効 果 ,特 に 低 温 原 料 の投 入 の 影 響 にっ いて1槽 式発酵 法との 比較 を 行 い,寒 冷地 酪農へ の適応 性が述べられている。実験の結果は以下に要約される。(1)酸発酵槽で は ,pH値の 下 降 と 揮 発 性有 機 酸 量 の 上昇 は , お お むね2日 間 で 完了 する ことか ら,酸 発酵槽 の 平 均 滞 留 時 間を2日 間と した 。(2)2日 間滞留 による 酸発酵 連日投 入試 験では ,35℃に 加温 した原 料 と5℃ に 冷却 し た も の とで はpH値 なら び に 揮 発 性有 機 酸 量 で は有 意な 差は見 られず ,低温 原 料 を 投 入 し た場 合 で も2日間 の滞留 で十分 に原料 を昇 温させ ,酸発 酵が促 進され た。(3)1槽式 メ タ ン発酵 槽の 場合, 投入原 料の温 度はメ タン 発酵槽 の温度 に直接 影響 を与え ,メタ ンガス 生成量 は 低 温 原 料 の投 入 が 増加 するに 従い滅 少し たが,2相 式メタ ン発酵 槽の場 合,酸 発酵 槽は酸 生成 と ともに 加温 も同時 に行い メタン 発酵槽 内の 液温変 化tま極めて小さかった。(4)1槽式メタン発酵 槽 の 場 合 , 有 機 物 負 荷 が10g/ ¢ /dayを 越え る と 分 解 率は 急 激 に 低 下 した の に 対 し2相 式 発 酵 法は高 い有 機物分 解率を 維持し た。(5) 相分離 の程 度を各 発酵槽 内の有機酸量およびpH値より 間 接 的 に 推 定す る と , 酸 発酵 槽 内 で 揮 発性 有機 酸は 増加し ,メタ ン発酵 槽内で 分解 され,pH値 は 酸発酵 槽で 低下し ,メタ ン発酵 槽で上 昇し ,酸発 酵槽とメタン発酵槽の相違及び特徴が現れた。
上 記 の 結 果 より ,2相式 発酵 法は低 温原料 投入に 対す る緩衝 性が高 く,寒 冷地で の使 用に有 効で あ ること が明 らかと なった 。
第4章で は 開 発 試 作し た小型 プラン トにっ いて ,無希 釈糞尿 を用い 高負 荷運転 を行っ た場合 の 供 試プラ ント の運転 特性に っいて述べられている。結果は以下の通りである。(1)供試施設のメタ ン ガ ス 生 成 量は 有 機 物負 荷3.19から11. Og/ゼ /d,平均 滞留 時間7から20日の範 囲で有 機物 負 荷 と 正 の 相 関に あ り , 有 機物 負 荷8g/¢ /(以 上の高 負荷 運転が 可能で あった 。(2)発酵 槽保温 熱 量すな わち 発酵槽 からの 放熱量 は外気 温と 発酵槽 の温度 差が大 きく なる冬 期ほど 増大し た。戚 冬 期のプ ラン トから の放熱 量は盛 夏期の 約35% 増であ った。 供試 メタン 発酵槽 の総括 伝熱 係数は 発 泡ウレ タン による 吹き付 け断熱 の効果 によ り年間 を通し て低い 値を 示し, 平均で0. 60w/而 /
℃ であっ た。 また, 熱交換 槽の設 置によ って 原料加 温熱量 は夏期 で約50%冬期 で約3006減少し , 1日 当 り 約16. 7MJの 原 料 加温 熱 量 が 節 減 された 。年 間を通 して消 費熱量 に占 める原 料加温 熱量 は 約44%と 従 来 の プ ラ ント に 比 ベ 低 い値 と なり 熱交換 槽によ る原料 加温 の効果 が明ら かとな っ た 。正味 消化 ガス生 成量は 生成ガ ス量の 平均48.7%で その内 冬期は 約30% ,夏期 は約60% と年間 を 通して メタ ンガス 生産が 可能で あるこ とが 明らか となっ た。原 料の 投入, 移送, 攪拌, 温水の 循 環 , 制 御 等に 用 い た電 力量は 月によ りや やバラ ツキが 見られ たが, 平均 で6. lkwh/dで あっ た 。(4)投 入原料 の固 形分濃 度が高くなるに従い,メタンの基質となる揮発性総有機酸量が増加す
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る ことが 明ら かとな った。 総揮発 性有機 酸量 は熱交 換槽で やや増 加し ,メタ ン発酵槽で急激に減 少 した。 これ は熱交 換槽が 酸発酵 槽とし ても 機能し たため でメタ ン発 酵槽と の相分離が起こり,
2相式 による 発酵が 行わ れたこ とを裏 付ける 結果で あっ た。排 出消化 液の揮 発性総有機酸量は1, 500mg/kg以 下が 全 体 の80% で酢酸 の蓄 積は認 められ なかっ た。 総揮発 性有機 酸に占 める酪 酸の 割 合は投 入有 機物当 りのメ タンガ ス生成 量と 正の相 関にあ り,総 揮発 性有機 酸に占める酪酸の割 合 が増す に従 い投入 有機物 当りの メタン ガス 生成量 が増加 した。 これ らの結 果より,供試プラン ト を実用 規模 にスケ ールア ップし た際, 寒冷 地にお いても メタン ガス 生産施 設の周年運転が可能 で あるこ とが 明らか となっ た。
第5章で はこ れらの 結果を まとめ 実用 規模の 寒冷地 型酪農 用メタ ンガ ス生産 施設の 設計諸 元を 提 示 し,100頭 規模の 寒冷地 型酪農 用メ タンガ ス生産 施設の 設計を 行い ,熱収 支の試 算を行 って い る。(1) 実用プ ラン トは排 出消化液の排熱を利用し,投入原料の加温と酸発酵を行う2相式発酵 法 として いる 。発酵 槽の形 式はプ ラグフ ロ一 方式と し,未 分解の 固形 分やメ タン菌の流失を少な く するた めに 隔壁を 設け前 段の槽 から越 流し た糞尿 を後段 の下層 部に 流入さ せるバッフル方式を 採 用して いる 。(2)設計し た実用 プラン トの 熱収支 の試算の結果,寒冷地においても投入熱量を必 要 としな い周 年運転 の可能 なメタ ンガス 生産 施設の 稼働が 可能で あり ,生産 されたメタンガスは 牛 舎 で 用 い るミ ル カ や バ ルクク ーラの 動力源 とし て供給 可能で あると いう 結論が 述べら れてい る 。
第 6章 総 括 で は , 第2章 か ら 第5章 ま で の 各 章 毎 の 要 約 が 述 べ ら れ て い る 。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 伊 藤 和 彦 副査 教授 寺尾日出男 副 査 教 授 堀 □ 郁 夫 副査 助教授 松田従三
本論文 は,図65,表26,写真12,引 用文献118を 含む195頁の 和文 論文で,別に参考論文14編が
た。 し かし ,近 年 ,多 頭飼 育 と集 中化により ,排出される糞尿 はミルキング・パ ーラの排水とと もに 膨 大な 量と な り, その 取 り扱 いが問題と なっている。また 環境保全,工ネル ギ一資源の点か ら, 糞 尿を 集中 処 理し ,酸 性 雨の 原因となる アンモニアを発生 せず,さらに高い エネルギーが利 用できるメタン 発酵に対する関心 が高まっている。
し か し, 農場 規 模で の大 型 メタ ンガス生産 施設はまだ研究段 階にあり,一般に 実用化されてい ない 。 特に 寒冷 地 にお ける 乳 牛糞 尿を原料と したメタンガス生 産施設は冬期間の 運転維持が困難 なため北海道で の周年運転の実績 はない。
本 研 究は 室内 実 験と べン チ サイ ズの発酵槽 による実験,さら に小型プラン卜に よるランニング テストを行い, 寒冷地型酪農用メ タンガス生産施設 の設計指針を示し, 実用プラントの設 計を行つ ている。
第1章緒 諭 には ,国 内 およ び国 外 にお ける 研 究の 動向 ,工ネ ルギ―としての可 能性,さらに利 用の利点と問題 点にっいて述べら れている。
第2章で は1槽 式 発酵 法を 用 いて 発酵 温 度, 固形 分 濃度 ,平 均 滞留 時間 と メタ ンガス生成量の 関係 , さら に乳 牛 糞尿 の流 動 特性 と消化液の 肥料成分などメタ ン発酵原料として の乳牛糞尿の特 徴にっいて述べ られている。回分 式試験を行った結 果,42,5℃のメタンガス生成量が最大となり,
原料 当 りの メタ ン ガス 生成 量 は, 固形 分 濃度9%原 料が 最も高 い値を示すことを 明らかにした。
また,有効発酵 槽容積当りのメタ ンガス生成量は平 均滞留時間が短くな る.に従い増加し ,有機物 投 入 当 り の メ タ ン ガ ス 生 成 量 は 平 均 滞 留 時 間 が 長 く なる に従 い 増加 し,Chen&Hashimotoモ デル の 予測 値は , 全体 とし て 非常 に高 い 精度 でメ タ ンガ ス生 成 量が 予測 で きる ことを示した。
第3章 では2相式 発 酵法 の効 果 ,特 に低 温 原料 の投 入 の影 響に っ いて1槽式 発酵 法 との 比較 を 行い , 寒冷 地酪農 への適応性が述べ られている。実験 の結果,1槽式メタンガス発 酵槽の場合,・
投人 原 料の 温度 は メタ ン発 酵 槽の 温度に直接 影響を与え,メタ ンガス生成量は低 温原料の投人が 増カ 叮 する に従い 減少したのに対し ,2相式メ タン発酵槽の場合 ,酸発酵槽は酸生 成量とともに加 温も 同 時に 行い メ タン 発酵 槽 内の 液温 変 化は 極め て 小さ く,2相式発酵法は寒冷 地での使用に有 効であることを 明かにした。
第4章で は 開発 試作 し た小 型プ ラ ント にっ い て, 無希 釈糞尿 を用い高負荷運転 を行った場合の 供試プラントの 運転特性にっいて述べられてし、.る。供試施設のメタンガス生成量は有機物負荷3. 19か ら11.0g/ セ/d,平 均滞 留 時間7から20日 の 範囲 で有 機 物負 荷と 正 の相 関に あ り, 有機 物 負 荷8g/ £/d以上 の高 負 荷運 転が 可 能で ある こ とを 明ら か にし た。 ま た, 熱交 換 槽の 設置 に よる 原 料加 温の効 果が明らかとなり ,正味消化ガス生 成量は生成ガス量の 平均48.7%と年間を通
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して メタン ガス生 産が可 能であ るこ とを明 らかに した。 また ,総揮 発性有機酸量は熱交換槽でや や増 加し, メタン 発酵槽 で急激 に減 少した ことか ら熱交 換槽 が酸発 酵槽としても機能しメタン発 酵 槽と の 相 分 離 が 起こ り ,2相 式に よ る 発 酵 が行 わ れ た こ とを 裏 付 け る 結果 と な っ て いる 。 第5章でtまこ れら の結果 をまと め実用 規模 の寒冷 地型酪 農用メ タンガ ス生産施設の設計諸元を 提示 し,100頭規 模の寒 冷地型 酪農 用メタ ンガス 生産施 設の設 計を 行い, 熱収支 の試算 を行 って いる 。実用 プラン トは排 出消化 液の 排熱を 利用し ,投入 原料 の加温 と酸発 酵を行 う2相式発 酵法 とし ている 。発酵 槽の形 式はプラグフローのバ`ソフル方式を採用している。また,設計した実用 プラ ントの 熱収支 の試算 結果か ら, 寒冷地 におけ る投入 熱量 を必要 としない周年運転の可能なメ タ ンガ ス 生 産 施 設 の稼働 が可 能であ り,生 産され たメ タンガ スは牛 舎で用 いるミ ルカ やバル ク クー ラの動 力源と して供 給可能 であ るとい う結論 が述べ られ ている 。
゛以 上のよ うに, 本論文 は乳牛 糞尿 を原料 とした メタン 発酵 に関す る広範囲にわたる研究の結果 と寒 冷地の 酪農現 場で使 用可能 なメ タンガ ス生産 施設の 設計 指針を 示したものでその成果は学術 的 に 高 い 評 価 を 得 た と と も に , と く に 実 用 面 に 寄 与 す る と こ ろ 多 大 で あ る 。 よ っ て 審 査 員一 同 は, 別に行 った学 力確認 試験 の結果 とあわ せて, 本論 文の提 出者梅 津一孝 は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。