博 士 ( 医 学 ) 工 藤 俊 彦
学位論文題名
ラットの消化管における Ix/Iacrophage Migration InmbitoryFactor (へIF )の発現および胃における MIF の生理的意義について
学位論文内容の要旨
[緒言]MIF (macrophage migration血hibitory factor)は,1966年に活性化Tリンノ、球 より 分 泌 され る 最初 の り ンフオカ インとして 報告され ,その名 の通ルマ ク口ファ ージの 遊走 を 抑 制し 炎 症部 位 に マク口フ ァージを集 め,炎症 や免疫反 応を惹起 すること が明ら か に な っ た . し か し 物 質 と し て 同 定 さ れ た の は ご く 最 近 で あ り ,1989年 に ヒ 卜MIF cDNA,1995年 に ラ ッ 卜MIFcDNAが ク 口 ー ニ ン グ さ れ , と も に114個 の ア ミ ノ 酸 か ら なる こ と が明 ら かに さ れ た.MIFの組 織 分 布に つ いて は , 長ら く 活 性化Tリ ン バ球 の み に存 在 す ると 考 えら れ て きたが, 最近では, 脳,心臓 ,腎臓, 角膜,皮 膚上皮, 子宮,
卵巣 , 骨 芽細 胞 など 広 範 囲の 組 織に お い て発 現 する こ とが示 されてい る,また ,MIFが 胎生 早 期 のニ ワ トり の 水 晶体の分 化増殖過程 と一致し て発現す ることか ら,細胞 の分化 増殖を促 す因子で あること が示唆され ている.MIFの機能に ついては ,glucocorticoidの 刺激 に よ りMIFが 誘導 さ れる が,いっ たん誘導さ れるとそ のMIFがglucocorticoidによ る 過剰な抗炎症作用に拮抗する作用を持つことや,マウスにen do to xin(LPS)を投与すると,
下垂 体 前 菜よ りMIFが 放 出 され る こと ,endotoxinshockに よ る致 死 率 が抗MIF抗体 に よ り著 明 に 改善 す るこ と な どが 報 告さ れ て おり , 敗血 症 の病態 におけるMIFの重要性 が示 唆さ れ て いる . この よ う に, 多 様な 働 き を持 ち 合わ せ ているMIFであるが ,消化管 にお ける 存 在 は証 明 され て い ない . そこ で 本 研究 で は, ラ ッ卜の 消化管に おけるMIFの 発現 を 検 討 し , あ わ せ て 胃 に お け るMIFの 生 理 的 意 義 に つ い て 検 討 し た の で 報 告 す る .
[ 方 法 およ び 結果 ] ま ず , ウェ ス タン ブ□ ット法に てラッ卜 の消化管 におけるMIF蛋 白 の 発 現に つ いて 検 討 した . 食 道, 胃 ,小 腸,大腸 のいずれ にも,MIF蛋 白の発現を 認 め , そ の 中 で も ,胃 に おい て 最 も強 いMIF蛋白 の 発現 を 認 めた . 次にMIF mRNAの 発 現 に つ い てノ ーザ ンブ口ッ卜 法を用い て検討し た.食道 ,胃,小 腸,大腸 のいずれに も,
MIF mRNAの 発 現 を 認 め た が , 胃 に お い て , ほ か の 消 化 管 に 比 ぺ よ り 強 いMIFmRNA の 発 現 を認 めた .さらに免 疫組織染 色による 検討を行 ったとこ ろ,弱拡 大では,胃 粘膜 中 層 に 強いMIFの染 色 が 認め ら れ た. 強 拡大 で はMIF陽 性 細胞 は , 胃粘 膜の細 胞のなか で も , 大型 で多 角型の,細 胞質に富 む細胞で あり,形 態学的に は壁細胞 であった. 被蓋 上 皮 や 主細 胞, 粘液頚細胞 ,内分泌 細胞およ び筋層や 漿膜層に は染色を 認めなかっ た,
壁 細 胞 でのMIFの局 在 を 更に 明 ら かに す るため ,共焦点 レーザー 顕微鏡を 用いた.FITC
標識 のMIFの染 色は ,壁 細胞 の細 胞質 にの み認め られ ,核 には 染ま りを 認め なか った.
ラ ッ 卜 の胃 粘 膜 の 壁 細 胞 に 強 くMIFの存 在が 認め られ たた め,MIFが 壁細 胞に おい て生 理 的 機 能 を 持 つ 可 能 性 に つ い て 検 討 し た . ガ ス ト リ ン 刺 激 後 のMIFmRNAの 変 化 に つ いて ノー ザン ブ口ッ 卜法 を用 いて 検討 した とこ ろ, ガス トリ ン刺 激1時 間後 には 正常コ ン 卜 口 ール に 比 べ , い っ た んMIF mRNAの 発 現 の 減 少 が 認 めら れた が,6時間 後に は正 常コント口ールの発現レベルまで上昇する傾向が認められた. Relativein tensityでは,
ガ ス ト リ ン 刺 激1時 間 後 に 正 常 コ ン ト 口 ー ル に 比 べ , お よ そ 半 分 ま でMIFmRNAの 発 現が 減少 し, その後 ,正 常コ ン卜 □ー ルの 発現 レベ ルまで上昇する傾向が認められた.
[ 考 察] これ まで の報 告で は,MIFは 免疫 担当 細胞 以外 では, 皮膚 基底 層細 胞, 眼レ ンズ 細胞 ,骨芽細胞,ヒト自血病細胞(H1‑ 60)のように増殖能を有する未分化な細胞や,
下 垂 体前 葉 細胞 ,膵B細胞 のよ うな 内分 泌細 胞に 発現 して いるこ とが 明ら かに され てい る . 今回 の 検討 では 胃に おけ るMIFの局 在は ,粘 膜細 胞の 中でも 未分 化な 粘液 頚細 胞や 内分 泌細 胞では なく ,高 度に 分化 し増 殖能 をほ とん ど持 たな い壁 細胞に強い染色を認め た . 壁細 胞 に存 在す るMIFの生 理的 意義 は不 明で ある が, いくっ かの 可能 性が 考え られ る. すな わち, 壁細 胞の 最も 重要 な生 理的 機能 は塩 酸分 泌で あり ,壁細胞の細胞質に分 布 す る分 泌 細 管 膜 上 のH+/K+ATP aseに より 能動 的に 塩酸 の分泌 が行 われ てい る. 今回 の 検 討か ら ,こ のミ 卜コ ンド リアに 富み ,血 流の 豊富 な壁 細胞 の細 胞質 にMIF蛋白 が多 量 に 存在 し , そ の メ ッ セ ー ジ の 恒 常 的 な発 現も 見ら れる ことが わか った .こ のこ とは MIFが , 壁細 胞に おけ る塩 酸の 合成 分泌 に促 進的 ある いは 抑制的 に関 与を して いる 可能 性, もし くは壁 細胞 の生 理的 機能 を維 持す る上 で必 要と され るエ ネルギー代謝に関わっ ている可能性を示唆するものである・
壁 細胞 からの 酸分 泌は 、主 に迷 走神 経、 ガス トリ ン、 ヒス タミ ンによルコント口ール され てい る。最 近で はサ イト カイ ンも 胃酸 分泌 に影 響を 及ぼ すこ とが明らかにされてき て い る。 例 え ば , 中 枢 お よ び 末 梢 か ら 投 与 し たIしiBが 胃 酸 分 泌 を 抑制 する こと や,
IL‑1ロやTNF‑aが ウ サ ギ 単 離 壁 細 胞に 対 し 直 接 の 分 泌 抑 制 作 用 を 示 すこ とが 報告 され てい る. 臨床的 には ,IL‑1ロ やTNF‐aなど のpro血flammatory cytokineの壁細胞に対す る抑制作用が,Helicobacter pylori感染時に見られる酸分泌低下の原因のひとっと考えら れて いる . TNF_aがMIFの発現を誘導し,逆にMIFがTNF‐aやIL‑1ロの発現を誘導する こ と が明 ら かに され てい る. この点 を考 慮す ると ,壁 細胞 に存 在す るMIFが, 直接 ある いは 間接 的にこ れら のproinflammatory cytokineの 発現 調節 を介 して,酸分泌をはじめ と す る 胃 の 生 理 機 能 や 胃 粘 膜 の 免 疫 反 応 に 関 与 し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る . 壁 細胞 の 組 織 特 異 的 遺 伝 子 で あ るH+/K+ATPaseaサ ブュ ニット やcarbonic anhydrase IIは ,生 理的な 酸分 泌刺 激物 質で ある ガス トリ ンに より その 発現 が増強すると報告され て い る. 今 回, 壁細 胞に 存在 するM[Fも 同様 にガ ス卜 リン による 調節 を受 けて いる か否 かを 検討 したと ころ ,ガ ス卜 リン で刺 激後 の胃 の組 織に つい て行 った免疫組織染色では MIF蛋 白 の 明 ら か な 変 動 は 見 ら れ なか っ たが ,MIFの メッ セージ レベ ルは ガス トリ ン投 与後 いっ たん低 下し ,ふ たた び元 のレ ベル に戻 る傾 向を 見せ た. ガストリン投与後に認 め ら れ た 一 過 性 の MIFmRNAの 低 下 の 意 義 に つ い て の 解 釈 は 困 難 で あ る が , H+/K+ATPaseaサ ブ ユ ニ ッ ト やcarbonicanhydrase IIの 発 現 の 増強 に 加 え,MIFの 発現 調節 を通 して, ガス トリ ンが 酸分 泌反 応を 長期 的に 制御 して いる 可能性が示唆される.
[結語]1 .ラットの食道,胃,小腸,大腸においてMIF 蛋白およびMIFmRNA の発 現を認めた・
2 .免疫組織学的検討から,胃粘膜中の特に壁細胞に強い発現を認めた,
3 .ガ ス 卜リ ン 投与 に よる MIF の mRNA の 変動 から, MIF が 壁細胞の生理 L !的機
能に関わっていることが示唆された.
学 位 論 文 審 査 の 要旨
学位論文題名
ラ ットの消化管におけるMacrophage Ix/Iigration Inhibitory Factor (rvIIF) の発現および胃における MIF の生理的意義について
MIF (macrophage migration inhibitory factor)は、1966年に活性化Tリンパ球より分泌 される最初のりンフオカインとして報告され、その名の通ルマク口ファージの遊走を抑 制し炎症部位にマク口ファージを集め、炎症や免疫反応を惹起することが明らかになっ た 。し か し物 質 とし て 同定 さ れた の はご く 最近 で あ り、1989年に ヒ トMIFcDNA、 1995年にラッ トMIFcDNAがク 口ーニング され、とも に114個の アミノ酸からなること が明らかにされた。MIFの組織分布については、長らく活性化Tリンバ球のみに存在す ると考えられてきたが、最近では、脳、心臓、腎臓、角膜、皮膚上皮、子宮、卵巣、骨 芽細胞など広範囲の組織において発現することが示されている。1VJIFの機能については、
glucocorticoidの刺激によ りMIFが誘 導されるが 、いったん 誘導されるとそのMIFが glu co co rtico idによる過剰な抗炎症作用に拮抗する作用を持つことや、マウスに endotoxin(LPS)を投与すると、下垂体前葉よりMIFが放出されること、en dotoxinshock による致死率が抗MIF抗体により著明に改善することなどが報告されており、敗血症の 病態におけるMIFの重要性が示唆されている。このように,多様な働きを持ち合わせて いるMIFであるが、消化管における存在は証明されていない。そこで学位申請者は、ラ ットの消化管におけるMIFの発現を検討し,あわせて胃におけるMIFの生理的意義につ いて検討し、その成果をまとめたのが本研究である。
はじめに、ウェスタンブ□ット法によって、ラッ卜の消化管におけるMIF蛋白の発現 について検討し、食道、胃、小腸、大腸のいずれにもMIF蛋白の発現が認められること ‑ 355ー