博 士 ( 工 学 ) 常 田 琢
学位論文 題名
Topological effectSOntheCDWpropertiesin NbSe3top010giCalCryStalS
(NbSe3 トポロジカル結晶における電荷密度波物性に対するトポロジー効果)
学位論文内容の要旨
卜ポ ロジー とは、 連続変形によって変化しない性質を取り扱う幾何学である。実空間の中で、
トポ ロジー 的に異な る系は 、果たして物理的性質も異なる特徴を持つであろうか?例えばイジン グスピン(スピンの自由度が上下の2値を取る、強磁性体)のように、実空間における回転対称性が 壊れ ている 秩序場を 例にと る。もし二次元平面から、メピウスの輪のような向きづけ不能な曲面 への トポロ ジー変換 があっ たとする。この場合、全域でスピン方向が一様にそろうような配置は なく、必ずどこかで反転してしまう。従って、強磁性秩序が保てない可能性がある。このように、系 の大 域的な トポロジ ーを操 作することにより、秩序構造に新たな特徴が現れる可能性がある。筆 者 は 巨視 的 波 動 関数 で 表 さ れる秩序 場とし て、特 に電荷 密度波(CDW)を選ん だ。CDWを司る 結 晶の トポロ ジーを変 えるこ とによ り、CDWの 位相が 変化する、すなわちトポロジー効果が現れる 可能 性があ る。筆者 は本研 究にお いて、CDW物性に 結晶トポロジーの影響が現れることを実証す ることを試みた。
第1章では研究の背景と本論文の目的が述べら.れる。
第2章 におい て、リ ング・ メピウ スの輪に 代表さ れるトポロジカル結晶について詳述される。
第2章 第1節に おいて 、電荷 密度波 物質NbSe3ト ポロジカル結晶の作製について以下の内容が述 べら れる。 気相輸送 法によ る結晶成長条件を最適化することにより、通常の結晶形であるホイス カー(ひげ結晶)とトポロジー的に異なる結晶形が初めて発見された。更に結晶形の観察を通じ、
トポ ロジカ ル結晶の 生成機 構は、 セレン 液滴の 周りにNbSe3ひげ結晶が巻きついてできる、テン プレート機構であると初めて明らかにされた。^
第2章 第2節に おいて 、X線回 折によ るトポ ロジカル結晶の構造解析に関して以下の内容が述べ られる。まず、単一の卜ポロジカル結晶に適する手法として、2軸の回転軸を持つGandolfiカメラ を用い、その結果にRietveld解析を行う方法が確立できた。解析結果によると、弾性変形に基づく 生成機構でありながら、これらの格子ひずみは非常に小さいことが分かった。特に8の字において 小さく、0.01%のオーダーのひずみしか生じていない。一方リングは最大で0.2%程度である。また、
リ ン グ の ひ ず み は 異 方 性 が 強 く 、 特 にa軸 に 関 し て の 収 縮 が 目 立 つ こ と が わ か っ た 。 第3章はトポ口ジカル結晶のCDW物性の章である。
第3章第1節において、CDWの基礎的性質について述べられる。
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次に第2節 において、ルング.8の字結 晶のCDW転移温度を調べた結 果が記される。転移温度は 確 かに 結晶 トポ ロ ジーに依存し ており、ひげ>リング>8の字 のように系統的に減少して いるこ とが明らかに なった。転移温度降下△ Tcは、リングにおいて最大0.7Kである一方、8の字では約7K という差が現 れた。
第3章第3節 では、前節の結果をもたら す原因として可能性が高い応力効果に主眼を置き、対照 実験を行った 結果について述べる。NbSe3ひげ結晶に対し、曲げ及び ひねり変形に対応する引張 り及びせん断 の2種類の応カを加えた結果 、応カによる転移温度減少 が確認されたことが述べら れる。
第4章にお いて、これまでの実験結果を 踏まえて、トポロジカル結晶の転移温度のトポロジー依 存性を統一的 に説明するごとを試みられ ている。まず、リングにおける△ Tcは第3章第3節で論じ られた応力効 果で説明できるが、8の字に おいては実測された値の方 が予想される値よりはるか に大きく、別 の説明が必要となることが 述べられる。トポ口ジカル結晶では長距離並進対称性が 破れているた め、CDWの位相秩序が乱れる ことによる転移温度降下が ありえることが示される。
更に、この位 相秩序のシナルオに基づく 考察が以下のように述べられ る。リングのCDWに生じた 乱れは、位相 面の刃状転位によって緩和 されることができる。この場合、転位の周りのみでしか 秩序の乱れは出てこないので、マクロな影響をこうむらない。一方、8の字結晶の場合、刃状転位と は別種の欠陥 でしか緩和できない。しか し、その欠陥は実際の結晶中では刃状転位のように安定 になれないこ とを示すことができる。よ って、8の字結晶では、リングにおけるような乱れの緩和 は起こり得な い可能性がある。
第5章では 、本論文の成果が総括される 。
1)リング ・メビウスの輪.8の字結晶 という新たなトポ口ジカル結晶の発見、生成機構の解明 及び構造同定 がなされた。
2)ト ポ 口ジ カル 結晶 のCDW転 移温 度 はひ げより下がって おり、降下量は8の字>リン グであ る事が分かっ た。
3)上記の 転移温度降下は、局所的な格 子ひずみが原因ではないこ とが分かった。他の原因と して、CDWの 位相秩序への乱れに基づくも のがある。この乱れの緩和 機構には、リングと8の字結 晶のトポロジ ーによる差が現れるという 示唆を得た。
以上のよう に、本論文では新規なトポ 口ジーを持つ新物質を発見し、その電子物性は結晶トポ ロジーによっ て変化するという画期的な 知見を得た。
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学位論 文審査の要旨
学位論文題名
Topological effects on the CDW properties in NbSe3 topological crystals
(NbSe3 トポロジカル結晶における電荷密度波物性に対するトポロジー効果)
トポ口 ジーと は、連 続変形に よって変化しない性質を取り扱う幾何学である。実空間の中で、
トポロ ジー的に 異なる 系は、 果たして物理的性質も異なる特徴を持つであろうかマ例えばイジン グスピン(スピンの自由度が上下の2値を取る、強磁性体)のように、実空間における回転対称性が 壊れて いる秩序 場を例 にとる 。もし二次元平面から、メビウスの輪のような向きづけ不能な曲面 へのト ポ口ジー 変換が あった とする。この場合、全域でスピン方向が一様にそろうような配置は なく、必ずどこかで反転してしまう。従って、強磁性秩序が保てない可能性がある。このように、系 の大域 的なトポ ロジー を操作 することにより、秩序構造に新たな特徴が現れる可能性がある。筆 者は 巨 視 的 波動 関 数 で 表さ れ る 秩序場 として 、特に 電荷密 度波(CDW)を 選んだ 。CDWを司 る結 晶のト ポロジー を変え ること により 、CDWの位 相が変 化する、すなわち卜ポロジ二効果が現れる 可能性 がある。 筆者は 本研究 におい て、CDW物 性に結 晶トポ口ジーの影響が現れることを初めて 実証することを試みた。
第1章では研究の背景と本論文の目的が述べられる。
第2章に おいて 、リン グ・メ ビウスの 輪に代 表され るトポロジカル結晶について詳述される。
第2章第1節にお いて、 電荷密 度波物 質NbSe3トポ 口ジカル結晶の作製について以下の内容が述 べられ る。気相 輸送法 による 結晶成長条件を最適化することにより、通常の結晶形であるホイス カー(ひげ結晶)とトポ口ジー的に異なる結晶形が初めて発見された。更に結晶形の観察を通じ、
トポ口 ジカル結 晶の生 成機構 は、セ レン液 滴の周 りにNbSe3ひげ結晶が巻きついてできる、テン プレー卜機構であると初めて明らかにされた。
第2章第2節にお いて、X線回折 による トポ口 ジカル結 晶の構造解析に関して以下の内容が述べ られる 。まず、単一の卜ポ口ジカル結晶に適する手法として、2軸の回転軸を持つGandolfiカメラ を用い、その結果にRietveld解析を行う方法が確立できた。解析結果によると、弾性変形に基づく 生成機 構でありながら、これらの格子ひずみは非常に小さいことが分かった。特に8の字において 小さく、0.01%のオーダーのひずみしか生じていない。一方リングは最大で0.20/0程度である。また
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聡 彦
勉
和
田 谷
政
丹 山
石
授 授
授
教
助 教
教
査 査
査
主 副
副
リ ン グ の ひ ず み は 異 方 性 が 強 く 、 特 にa軸 に 関 し て の 収 縮 が 目 立 っ こ と が わ か っ た 。 第3章はトポロジカル結 晶のCDW物性の章である。
第3章第1節において、CDWの基礎的性質について述 べられる。
次に第2節において、リ ング.8の字結晶のCDW転移 温度を調べた結果が記される 。転移温度は 確か に結 晶ト ポ 口ジ ーに依存しており 、ひげ>リング>8の字のよ うに系統的に減少しているこ とが明らかになった。転 移温度降下ロTcは、リングにおいて最大0.7Kである一方、8の字では約7K という差が現れた。
第3章第3節では、前節 の結果をもたらす原因として 可能性が高い応力効果に主眼を置き、対照 実験を行った結果につい て述べる。NbSe3ひげ結晶に 対し、曲げ及びひねり変形に 対応する引張 り及びせん断の2種類の応 カを加えた結果、応力fごょ る転移温度減少が確認されたことが述べら れる。
第4章において、これま での実験結果を踏まえて、卜ポロジカル結晶の転移温度の卜ポロジー依 存性を統一的に説明する ことを試みられている。まず 、リングにおけるロTcは第3章第3節で論じ られた応力効果で説明で きるが、8の字においては実 測された値の方が予想される 値よりはるか に大きく、別の説明が必 要となることが述べられる。 トポ口ジカル結晶では長距離並進対称性が 破れているため、CDWcD位 相秩序が乱れることによる 転移温度降下がありえること が示される。
更に、この位相秩序のシ ナリオに基づく考察が以下の ように述べられる。リング のCDWに生じた 乱れは、位相面の刃状転 位によって緩和されることが できる。この場合、転位の周りのみでしか 秩序の乱れは出てこないので、マクロな影響をこうむらない。一方、8の字結晶の場合、刃状転位と は別種の欠陥でしか緩和 できない。しかし、その欠陥 は実際の結晶中では刃状転位のように安定 になれないことを示すこ とができる。よって、8の字結晶では、リングにおけるような乱れの緩和 は起こり得ない可能性が ある。
第5章では、本論文の成 果が総括される。
1)リング・メピウスの 輪.8の字結晶という新たな トポロジカル結晶の発見、生成機構の解明 及び構造同定がなされた 。
2) ト ポロ ジカ ル結 晶 のCDW転移 温 度は ひげ 結晶より下がってお り、降下量は8の字>リング である事が分かった。
3)上記の転移温度降下 は、局所的な格子ひずみが 原因ではないことが分かった 。他の原因と して、CDWの位相秩序への 乱れに基づくものがある。 この乱れの緩和機構には、リングと8の字結 晶のトポ口ジーによる差 が現れるという示唆を得た。
以上のように、 本論文では新規なトポ口ジー を持つ新物質を発見し、その電子物性は結晶卜ポ ロジーによって変 化するという画期的な知見を 得た。これは物性物理における大局的トポ口ジー の位置付けを考える上で、大きく貢献するものと思われる。よって著者は北海道大学博士(工学)
の学位を授与され る資格あるものと認める。
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