博 士 ( 工 学 ) 中 宮 邦 近
学位 論文題名
リ グニン 分解細菌からのヒドロキノンベルオキシダーゼ の 性質の解 明とそれによる合成高分子の分解
学位論文内容の要旨
近年 、リ グニン ある いは 合成高分子の分解微生物を産業廃棄物あるいは一般ゴミ の 処理 に応 用する こと によ って、処理を低エネルギーかつ大規模に行えるのではな いかと有望視されている。しかし、リグニンの分解はPhanerochete chrysosporiumあ る いは 、こ れの分 泌す る酵 素による研究室レベルの実験にとどまり、また合成高分 子 に つ い て は 分 解 酵 素 が 見 つ か っ て い な い も の が 多 い の が 現 状 で あ る 。 この よう な観点 から 本論 文では、高速にりグニンを脱色、分解する細菌を広く天 然 界か ら検 索し、 さら に分 離菌から精製した酵素がヒドロキシラジカルを生成する こ とか ら、 これま で生 物分 解の報告されていなかった様々な合成高分子の分解に用 い たと ころ 、その 多く を低 分子に分解することが可能であることを明らかにした。
本 論文 はそ れらの 経緯 をま とめ たも ので 、全5章よ り構 成されている。各章の概要 は以下の通りである。
第1章 は序 論で あり 、リ グニ ンと 合成 高分 子に関 する 微生 物分 解の研究の現状と 問 題点 を述 ベ、 リグニ ン分 解酵 素を 用いて合成高分子の分解に着手するまでの背景 と目的を明らかにした。
第2章 では 、 リグ ニン を非 常に 速く 脱色 、分 解す る菌 株を 検索し 、細 菌HM121株 を土壌より単離に成功した、そしてAzotobacter beijerinckiiと同定した本菌株のりグ ニ ン脱 色、 分解 活性を 検討 した 。本 菌株の最適培養条件を決定し、この培養条件を 用 い る こ と で 分離 時に3日間 要し た培 養を2日間 に短 縮で きた 。ま たさ らに 繰り 返 し バッ チ培 養に よって 、菌 株は0.4 g/lのりグニンを1日で脱色、分解し、これは少 な くと も12日間 維持さ れ、 長期 間に わたる繰り返し培養にも耐えうることを見いだ し た。 本菌 株は 、針葉 樹ク ラフ トリ グニン以外は、良く脱色、分解した。これより 本菌株を用いたりグニンを含む排水の処理法を提案した。
第3章 では、リグニン分解酵素の精製を行い、精製酵素の緒性質の解明を行った。
A. beijerinckii HM121株のりグニン分解酵素活性は、過酸化水素存在下にヒドロキ ノ ンを 酸化する活性として検出した。酵素は菌体の細胞膜に存在し、0.1%トリトン X‑100で 処理 して 可溶 化し た。 酵素 は硫 安分 画、ブ チル トヨ .バ ール650Mによる疎
水 性 ク ロ マ ト グ ラ フ イ ー 、 ト ヨ バ ー ルHW‑55Fに よ る ゲ ル ろ 過 で わ ず か 数 ス テ ッ プ で 精 製 さ れ た 。 本 酵 素 は 過 酸 化 水 素 の 存 在 下 に 中 間 体 な し で り グ ニ ン を 低 分 子 に 分 解 し た 。 こ れ ま で の り グ ニ ン 分 解 酵 素 は 全 て 中 間 体 の 存 在 下 に お い て の み り グ ニ ン を 低 分 子 に 分 解 す る た め 、 本 酵 素 の り グ ニ ン 分 解 活 性 は 前 例 の 無 い も の で あ っ た 。 ま た 精 製 酵 素 の 温 度 安 定 性 はPchrysosporium由 来 のり グ ニ ン分 解 酵 素に 比 べ て高 か っ た 。 本 酵 素 は 各 種 の ス ベ ク ト ル 分 析 か ら 鉄 ヘ ム を 含 ま ず 、 マ ン ガ ン を 含 ん で い た 。 し か し 、 酵 素 活 性 に は マ ン ガ ン 要 求 性 は な く 、 さ ら に 反 応 系 に マ ン ガ ン イ オ ン を 加 え て も 活 性 は 促 進 さ れ な か っ た 。 酵 素 活 性 を 促 進 し た の は 、 亜 鉛 で あ っ た 。 酵 素 活 性 はl mMの エ チ レ ン ジ ア ミ ン 四 酢 酸(EDTA)と1mMの1,10 ‑フ ウ ナ ン ト ロ リ ン で 阻 害 さ れ た 。EDTAで 不 活 性 化 さ れ た 酵 素 は マ ン ガ ン イ オ ン を 加 え る と 活 性 は 回 復 し た 。 と も あ れ べ レ オ キ シ ダ ー ゼ の 中 で も マ ンガ ン を 含む も の は 見っ か っ てお ら ず 、 ま た 酸 化 酵 素 全 体 に お い て も マ ン ガ ン を 含 む も の に り グ ニ ン 分 解 活 性 を 示 す も の は 報 告 さ れ て い な い 。 さ ら に 本 ベ ル オ キ シ ダ ー ゼ は 過 酸 化 水 素 の 存 在 下Mn(II)をMn (iiDに 酸 化 す る 活 性 を も 有 し た 。 以 上 の 実 験 事 実 よ り 本 酵 素 は マ ン ガ ン を 含 み 、 鉄 を 含 ま な い 新 規 の べ ル オ キ シ ダ ー ゼ で あ っ た 。 ま た 本 酵 素 は ヒ ド ロ キ シ ラ ジ カ ル を 生 成 し て 分 解 反 応 を 触 媒 し て い た 。 こ れ ら の こ と か ら 本 酵 素 を ヒ ド ロ キ ノ ン ベ ル オ キシダーゼと命名した。
第4章 で は 、A. beijerinckii HM121株 由 来 の ヒ ド ロ キ ノ ン ベ ル オキ シ ダ ーゼ が 酸 化 カ の 高 い 活 性 酸 素 ヒ ド ロ キ シ ラ ジ カ ル を 生 成 し て い る こ と に 着 目 し 、 こ の こ と か ら 基 質 特 異 性 に 無 関 係 に 高 分 子 化 合 物 を 分 解 す る こ と が 予 想 さ れ た の で 、 様 々 な 合 成 高 分 子 の 分 解 を 行 っ た 。 こ の 酵 素 は こ れ ま で に 部 分 分 解 の 報 告 し か な いlg/lの ポ リ ア ク リ ル ア ミ ド(M2.000,000) を5mMの テ ト ラ メ チ ル ヒ ド ロ キ ノ ン 存 在 下 で30 分 間 で 低 分 子量 に 分 解し た ( 分子 量 は 数百 以 下 )。2つ の反 応 産 物 を精 製 し 、そ れ ぞ れ を1.dodeCene・2,4,6,8,10・pentaCarbO.Xyamideと1.heXadeCene・2,4,6,8,10,12,14. heptacarboxyamideに 同 定 し た 。 さ ら に 本 酵 素 は 、1g/ ´ の ポ リ ア ク リ ル 酸 (Mr 450,000)を1時 間で 、1g/ | の ポ リエ チ レ ングリコ ール(Mr4,000,000)も1時間で , そ し て1g/Jの ポ リ ビ ニ ル ア ル コ ー ル (Mr88,000) を20時 間 で 分 解 し た 。 ま た ポ リ エ チ レ ン グ リコ ー ル (Mr4,000,000)は テ ト ラメ チ ル ヒ ドロ キ ノ ンを 加 え なく と も 分 解 し た が 、 分 解 に は20時 間 を 要 し た 。 こ れ ら の 分 解 速 度 は こ れ ま で に 報 告 さ れ て い る微生物分解反応に比ぺて速い反応であった。
さ ら に 、 本 酵 素 は 基 質 と 直 接 接 触 せ ず に 分 解 反 応 を 触 媒 す る た め 従 来 用 い る こ と が で き な か っ た 条 件 、 有 機 溶 媒 中 に 溶 解 し た 水 不 溶 性 合 成 高 分 子 を 水 中 で 発 生 し た ラ ジ カ ル に よ り 界 面 上 で 分 解 す る こ と 、 が 可 能 で あ る と 考 え ら る た め 、 微 生 物 分 解 の 報 告 の な い ポ リ ス チ レ ン の 分 解 を 溶 媒 二 層 系 で 行 っ た と こ ろ 、 使 用 し た 分 子 量 の 異 な る ポ リ ス チ レ ン は 全 て 反 応 開 始5分 以 内 に 有 機 層 か ら 水 層 に う つ り 、 こ の 時 す で に 分 子 量2,000以 下 に 分解 さ れ た。 こ れ はさ ら に 分解 さ れ 分 子量300以 下 に なっ た 。 またこの分解は低分子量のものほど速かった。
第5章では以上の結果を総括している。
学位論文審査の要旨 主査 教 授 木下晋一 副査 教 授 棟方正信 副査 教 授 清水達雄 副査 助教授 大井俊彦 学位論文題名
リグニン分懈細菌からのヒドロキノンベルオキシダーゼ の 性 £ の 解 明 と そ れ に よ る 合 成 高 分 子 の 分 解
リグ ニン はセ ルロ ース に次 いで 植物によって大量に生産される物質であるが、現 在有効 には利用されていない。/ヾルプの製造工程で排出されるりグニンは燃焼処理 されて いる 。ま たバ ルプ に残 存す るりグニンの除去、すなわち漂白では、現在、塩 素系薬 剤が 多婁 に使 用さ れて いる 。しかしその使用は環境上の問題から禁止されよ うとし てい る。 そこ で考 えら れる のが微生物または酵素によるりグニンの分解であ るが、 今ま でに 最も よく 研究 され ているりグニン分解菌としては、白色木材腐朽菌 のもの があ るが 、そ の活 性は 弱く 、実用化できる見込みはない。そこで迅速にりグ ニンを分解できる微生物を特に細菌に絞って検索した結果、Azotobacter beijerincki1 HM121を取 得し てい る。 この 酵素、 ヒド ロキ ノン ベル オキ シダ ーゼを精製し、その 諸性質 を決 定し てい る過 程で 、こ の酵素はラジカルを発生していることを突き止め ている 。そ こで この 酵素 を生 物分 解が非常に困難な合成高分子の分解に応用して非 常に高速で合成高分子を分解することに成功している。
以下に本論文の要旨を示す。
第1章は 序論 で、 リグ ニン と合成 高分 子に 関す る微 生物 分解 の研究の現状と問題 点を述 ベ、 リグ ニン 分解 酵素 を用 いて合成高分子の分解に着手するまでの背景と目 的を明らかにしている。
第2章 で は、 リグ ニン を非 常に 速く 脱色 、分 解する 菌株 を検 索し 、細 菌HM121株 を土壌より単離し、そしてAzotobacter beijerinckiiと同定し、本菌株のりグニンの脱 色、分 解活 性を 検討 して いる 。ま た本 菌株 の最 適培 養条 件を決 定し、分離時に3日 間要し た培 養を2日 間に 短縮 できた 。さ らに 繰り 返し 回分 培養 によって、この株は
0.4g/lの りグ ニン を1日 で脱 色、 分解 し、 長期 間に わた る繰 り返し 培養 にも 耐えう る こ と を 見 い 出 し て い る 。 こ の 分 解 速 度 は従 来 の も の よ り も10〜100倍高 い 。 第3章で は、A. beijerinckii HM121株のりグニン分解酵素の精製を行い、精製酵 素の 諸性 質の 解明 を行 って いる 。この りグ ニン 分解酵素の活性は、過酸化水素存在 下に ヒド ロキ ノン を酸 化す る活 性とし て検 出し 、細胞膜から011%トリトンX‑100処 理で 可溶 化し 、さ らに 硫安 分画 、疎水 性ク ロマ トグラフイー、ゲルろ過クロマトグ ラフ イー で精 製し てい る。 本酵 素は過 酸化 水素 の存在でりグニンを低分子に分解し た。 本酵 素は 各種 のス ベク トル 分析か ら鉄 ヘム を含まず、マンガンを含む新規のべ レオキシダーゼであることを明らかにし、本酵素をヒドロキノンベルオキシダーゼ と命 名し てい る。 また 分解 反応 を触媒 する 活性 酸素種はヒドロキシルラジカルであ ることを明らかにしてしゝる。
第4章で は、A. beijerinckii HM121株由来のヒドロキノンベルオキシダーゼがヒ ドロ キシ ルラ ジカJレを生成していることに着目し、様々な合成高分子の分解に応用 して いる 。本 酵素 はこ れま でに 部分分 解の 報告 しかない1 g/lの分子量200万のポリ アク リル アミ ドを 過酸 化水 素と テトラ メチ ルヒ ドロキノン存在で30分間で分子量数 百以 下に まで 分解 する こと を示 した。2つ の反 応産 物を 精製 し、そ れら はラ ジカル 分解 で生 成し たと 思え る末 端構 造を有 して いる ことを明らかにしている。さらに本 酵 素 は 、 分 子 量45万 の ポ リ アク リル 酸を1時間 で、 分子 量400万の ポリ エチ レン グ ルコ ール も1時 間で 、そ して 分子 量9万 のポ リピ ニルアルコー少を20時間で分解する こと を示 して いる 。以 上の 合成 高分子 は水 溶性 であったが、非水系の合成高分子で ある 分子 量94万の ポリ スチ レン をジク ロロ メタ ンに溶解し、水と溶媒二相系で反応 させ た結 果、15分 以内 で分 子量 千以下 の水 溶性 小分子にまで分解することを明らか にしている。
第5章は 総括 で、 本研 究の 要約 とヒ ドロ キノ ンベ ルオ キシ ダーゼ によ る合 成高分 子分 解の 実用 化に おけ る問 題点 、ラジ カ少 を発 生する酵素の探索とその重要性に言 及している。
以 上の よう に、 本論 文は 高速 にりグ ニン を分 解する細菌を分離し、新規リグニン 分解 酵素 、ヒ ドロ キノ ンベ ルオ キシダ ーゼ がヒ ドロキシラジカルを発生することを 発見 し、 この 酵素 を用 いて 種々 の合成 高分 子を 分解することに成功している。これ は 生 物 工 学 の 分 野 の 研 究 の 進 展 に 貢 献 す る と こ ろ 大 な る も の が あ る 。 よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。