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学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 野 矢 洋 一

学 位 論 文 題 名

デイーゼル排気粒子に含まれる心・血管作用原因物質の 探索と単離、定量に関する研究

学位論文内容の要旨

[背景と目的]

ディーゼル 排気はディーゼルエンジンか ら排出されるガス状物質と 粒子状物質の混合物である。

これらは数 千種類もの有機化合物を含ん でいると言われ、都市部に おける環境汚染の主要因であ ると考えられている。ディーゼル排気粒子(diesel exhaust particles: DEP)による生物作用に関する 多くの研究 がなされており、肺がん、ア レルギー性鼻炎、気管支疾 患、内分泌腺機能障害などの 健康影響が 報告されている。しかし、こ れらの研究は、活性本体の特定も、DEPの十分な精製もな いまま行わ れていたため、定量的評価を 困難にしていた。これらの 生物影響を定量的に評価し、

DEPに よる 健康 被害 や環 境 に対 する 負荷 を検 討 する ため には 、DEP中 の生 物 活性 物質を分離、

同定し、それらの含有量を明らかにすることが不可欠である。

これまでの研究において、関らはヘキサン、ベンゼン、ジクロロメタン、メタノールを用いた連続的 溶媒抽出とカラムクロマトグラフイーの繰り返しによる多段階分析法を開発し、ホルモン様作用を指 標として多 くの化合物の同定に成功している。本分析法によって同定されたニトロフェノール類に は強い血管拡張作用を有することが見出された。これらのニトロフェノール類のいくっかはエストロ ゲンおよび抗アンドロゲン作用を有していることも見出されている。同様にして、抗エスト口ゲン作用 を 有す るヒドロキシ フタル酸類も見出されている 。これらの研究はDEP構成成 分の単離・同定が DEPの 健康に及ぼす影 響を検討する上でいかに有 効かつ有意義であるかを示し たものであった。

しかし、こ の多段階分析法は、各溶媒抽 出層に同一化合物が混入し ているなど単離に至る工程は 複雑なもの であり、分析法としての効率、精度あるいは定量性に大きな問題を抱えており、ディー ゼル排気に よる生体影響を定量的に評価することは依然として困難なままであった。このため、従 来 法 に 代 わ る 、 よ り 簡 便 か っ 信 頼 性 の 高 い 新 た な 分 析 法 の 開 発 が 必 要 で あ る と 考 え た 。   従来法に よるこれまでの研究から、DEP成分は大きく1)中性画分 、2)弱酸性画分、そして3) 強酸性画分 から成っていることが推察で きる。この考えに基づき新 規系統分析法として酸塩基抽 出 法を 基軸とした分 析法の開発に着手することと した。本研究は、DEPの簡便 かつ定量的分析法 を開発し、 従来法によって単離されていたDEP中のニトロフェノール類の定量を行うとともに、従来 不可能であ ったガス成分中のニトロフェ ノール類の定量も行うことにする。さらにDEP中の生物活 性 物質 の探 索も 行 い、 本分 析法 の有用性を確立 し、ディーゼル排気による生 物影響研究の進展 に寄与することを目的とする。

[材料と方法 ] 1. DEPとガ ス成分

デ ィ ー ゼ ル 排 気 の 粒 子 状 物 質(DEP)及 ぴ ガ ス 成 分 は 独 立 行 政 法人 国立 環境 研 究所 (茨 城県 っくば市)に 採取を依頼した。

2.機器

使 用 し た ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ 質 量 分析 計(GC―MS)は、 島 津製 作所 製GCMS―QP2010であ り、

Zebron ZB―5msキャピラリカラム(0.25mmX 30m)を用いた。カラム温 度は80―250℃で分析を行つ た。

    ‑ 15―

(2)

  高速液体クロマト グラフイ(HPLC)ば、LC−10A(島津製作所)、使用したカラムはInertsil ODS‑3

( 分 取250X 20mm、 分 析250X 4.6mm,GL Science)及 びLobar Si 60 (250mmX10mm,MERCK) である。検出波長は254nmで行った。

  1H―NMRは、JEOL JNM―ECA500(500MHz)(日本電子)を使用した。

  液体クロマトグラ フ質量分析計(LCーMS)は、LCMS―2010A(島津製作所) でカラムはShim―pack FC―ODS (150mmX 2mm、島津製作所)を使用した。

3.方法

  DEPを1ー ブ タ ノ ー ル(n―BuOH) に 溶 解 し 、 標 準 物 質 と し て4― ニ ト ロ フ ェ ノ ー ル

―2,3,5,6−d4(pNP―d4)を添加して1晩攪拌した。得られたnーBuOH溶液を水、飽和炭酸水素ナトリウ ム(NaHC03)水溶 液、10% 水 酸化 ナト リウ ムくNaOH)水 溶 液で 順次 抽出 した 。NaHC03抽出液及び NaOH抽 出 液 は 塩 酸 で 中 和 後 、 そ れ ぞ れジ クロ ロメ タン で 抽出 して 、H20画 分、NaHC03画分 、 NaOH画 分 を 得 た 。 得 ら れ た 各 画 分 は 分 析 目 的 に 応 じ た ク ロ マ ト グ ラ フ ィ に 付 し た 。

[結果]

塩 基 抽 出 法 を 基 軸 とし た新 規系 統分 析 法を 開発 した 。 本分 析法 を用 いてDEP及ぴ ガ ス成 分の 分析を行 い、以下の結果を得た。

1. DEPのニトロフェノール類をGC―MS測定に付した結果、DEP中 のニトロフェノール類が従来考   えられ ていたものより有意に高濃 度であった。

2.従来 不可能であったガス成分中の ニトロフェノール類の定量にも成功し、予想以上に多量のニ   トロフ ェノーノレ類が含まれてし ヽることを明らかにした。

3.カ ルボ ン酸 層に 焦 点を 当て 新規 生物 活性物質の探索を行った。 その結果、8種類の新規化合   物を 同定 し 、その内の4―メチルフタ ル酸と3―ヒドロキシー4―ニ トロ安息香酸に血管拡張作   用があ ることを明らかにした。

[考察]

  今 回 新 た に 開 発 し た 系 統 分析 法は 化合 物の 酸 性度 の差 を利 用し てDEP含 有 化合 物を 荒分 け し、各種のクロマトグラフイーによって分離、同定、定量を行うものである。本法によって、簡便な DEP分析が可能 となり、さらにガス成分にも応用することが可能であることが示された。その高い定 量値から本法の分析法としての有用性が確認できた。

  ニト ロフ ェノ ール 類は、強い生物活性を持つ 上、揮発性も比較的高いのでDEPのみならずガス 成分中の含有量 も求め、それらの総量によ る健康被害を評価しなければならなぃと考えられる。本 分析法によって 、DEP及びガス成分中のニトロフェノール類を精度よく分離し、同定・定量すること ができた。その 測定に際しては、ニトロフ ェノール類をメチルエステル誘導体に導きGC―MS測定に 付すことにより 、直接測定に比しておよそ100倍の高感度測定を可能と した。その結果、DEPに含 まれるニトロフェノール類は従来法の結果から考えられていたものよりはるかに高濃度であることが 明らかとなった。ガス成分中のニトロフェノール分析にも初めて成功し、これについても予想以上の ニトロフェノール類が含まれていることが分かった。これらの結果は、ディーゼル排気中のニトロフェ ノ ー ル 類 の 生 体 影 響 の 評 価 に 有 用 な 知 見 を 与 え る こ と が で き た も の と 思 わ れ る 。   DEPに は 依然 とし て未 知の 生 物活 性物 質が 含ま れ てい る。NaHC03画分を 焦点とし、新規の生 物 活 性 物 質 の 探 索 を 行 っ た 結 果 、8種 の 新 規 化 合 物 の 同 定 に 成 功 し 、 そ の う ち の2種 に 血 管 拡 張 作 用 を 見 出 し 、 定 量 し た 。 こ れ ら の 生 物 活性 は ニト ロフ ェノ ール 類 に比 して 弱い も の の 含 量 は 比 較 的 多 く 、 そ の 生 体 影 響 は 無 視 す るこ と がで きな ぃで あろ う と考 えら れる 。

[結論]

  DEPの主成分は燃料の酸化物 であり、さらにその主体を なすものはフェノール類とカルポン酸類 と 考 えら れて いる 。 以上 の結 果よ り、 こ れらの化合物 を効率よくNaOH画分とNaHC03画分に分画 し、精度よく同定・定量できることを明らかにし、本分析法の有用性を確立することができた。さらに 今 回 得ら れた 分析 結 果は 今後 のデ ィー ゼ ル排気の生体 影響研究にとっていずれも重 要なもので あった。

  ディーゼル排気による生物 影響の研究は今後ますます重 要となると考えられ、本研 究はそれら に対して十分な寄与をもたらすものであることカミ期待できる。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

デイーゼル排気粒子に含まれる心・血管作用原因物質の 探索と単離、定量に関する研究

ディーゼル排気は数千種類もの有機化合物を含んでいると言われ、都市部における環境汚 染の主要 因であ ると考えられている。ディーゼル排気粒子(diesel exhaust particles : DEP )による生物作用に関しては多くの研究がなされており、肺がん、アレルギー性鼻炎、

気管支疾患、内分泌腺機能障害などの健康影響が報告されている。しかし、これらの研究 は、活性 本体の 特定も、DEP の十分な精製もないまま行われていたため、定量的評価を困 難にしていた。これまでの研究において、関らはヘキサン、ベンゼン、ジク口口メタン、

メタノールを用いた連続的溶媒抽出とカラムクロマトグラフイーの繰り返しによる多段階 分析法を開発し、いくつかの化合物の同定に成功している。しかし、この多段階分析法は、

各溶媒抽出層への同一化合物混入を避けることができないため、単離に至る工程は複雑な ものであり、分析法としての効率、精度あるいは定量性に大きな問題を抱えていた。この ため、申請者は従来法に代わる、より簡便かつ信頼性の高い新たな分析法の開発が必要で あると考えた。

従来 法 に よる こ れ まで の 研 究か ら 、 DEP 成分 は大きく 1 ) 中性化合 物、2 )弱酸 性化合 物、そし て3 )酸性化合物から成る混合物と見なせるものと推察した。この考えに基づき 酸塩基抽出法を基軸とした新規系統分析法の開発に着手することとした。すなわち、溶媒 の塩基性 の差( 水、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム)を利用して、DEP を中性化 合物、弱酸性化合物(フェノール類)、酸性化合物(カルボン酸類)に大きく分画し、各分 画をクロマトグラフイーに付すとしゝうものである。 DEP 及びガス成分について本分析法を 適用した 結果、 1 ) DEP 中のニ トロフ ェノール類が従来考えられていたものより有意に高 濃度であ ったこ と、2 )従来不可能であったガス成分中のニト口フウノール類の定量にも 成功し、予想以上に多量のニト口フェノール類が含まれていることを明らかにしたこと、

さらに 3 )カ ルポン酸 層からは 、8 種類の新 規化合 物を同定 し、その 内の2 種の化合物に 血管 拡 張 作用 が あ るこ と を 明ら か に し たこ と 等 の成 果 を 得た 。以 上のよ うに、本 研 究 は 、 DEP に 含 ま れ る 生 物 活 性 物 質 を 精 度 よ く 分 離 、 同 定 で き る 系 統 分 析 法 を 開 発 し 、 種 々 の 生 物 活 性 物 質 の 分 析 に 成 功 す る こ と に よ り 、 本 分 析 法 の 有 用性 を 確 認す る こ とが で き た。 さ ら に 今回 得 ら れた 分 析 結果 は今 後のデ ィーゼル 排 気 の 生 体 影 響 研 究 お よ び 評 価 に と っ て い ず れ も 有 益 な も の で あ っ た 。    学 位 論 文 公 開 審 査 は 、 平 成 21 年 2 月 3 日 午 前 10 時 10 分 よ り医 学 部 臨床 大 講 堂に て

17一

一 良

興 長

   

   

木 輪

関 玉

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

行われ た。主 査から紹 介があっ た後、 申請者はスライドを用いながら約 15 分に渡うて学 位論文内容の発表を行った。その後、副査の玉木教授からディーゼル排気粒子の粒径やそ の吸収経路等についての質問があった。次いで副査の三輪教授からニト口フェノール類の 血管作用とそのアッセイ法について、及び新規分析法と測定法に関して酸塩基抽出法の原 理と意義、誘導体化測定の長所と短所等の質問があった。会場の出席者から測定データの 再現性についての質問があった後、最後に主査から新規に単離した化合物の概要について、

及び従来法と比較した新規分析法の長所についての質問があった。いずれの質問に対して も、申請者は自らの研究データや知見、過去の研究報告を引用し、将来的な構想も交えな がら適切に回答した。質疑応答の時間は約 15 分間であった。

   この論 文は、 数千もの化合物からなると言われるDEP の効率的新規系統分析法の開発を 行うと共に、生理活性物質の単離を行い、その有用性を示したという点で高く評価され、

今後の 環境汚 染原因物 質の探索 とその 評価に有益な手法を提供するものと期待される。

   審査員一同は、これらの成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに 充分な資格を有するものと判定した。

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参照

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