博 士 ( 薬 学 ) 中 川 徹 也
学 位 論 文 題 名
ヒ ト CYP2E1 遺伝子導入によるがん原・異変原物質 に高感受性な細胞株の樹立とその毒性学的応用
学位論文内容の要旨
環 境中 に存 在す る化学発がん物質の 多くは、まずチトク□一ムP450(以下P450もしくは CYP)に代表される生体外異 物代謝酵素(薬物代謝酵素) によって、化学的に反応性の高い 活性 代謝 物へ と代 謝的に活性化される 。この反応性の高い活性代謝 物はDNAと結合し、付 加体(DNA adduct)を形成する。これがDNA複製の際、障害となり遺 伝子上に突然変異(塩 基置 換や 欠失 、挿 入など)を誘発する 。これら遺伝子損傷のほとん どは様々なDNA修復酵 素によって修復されると考 えられる。しかし、修復が行 われない場合、細胞増殖に伴う2回 目の複製の際に遺伝子の変 異が固定されてしまう。従って化学発がんの過程においては、薬 物 代謝 酵 素に よる 代謝 的活 性 化とDNA修復 酵素 によ るDNAの 修復 の 過程 はヒ トに おけ る 発がん感受性(発がんりス ク)に大きく寄与していると考えられる。従来、開発中の薬物、
食品添加物、農薬、環境汚 染物質等のヒトにおける発がん性を評価する試験系として、様々 な変異原性試験が行われて いるが、これらの試験に用いられる試験菌株や培養細胞株のほと んどは代謝的活性化を担う 薬物代謝酵素活性が著しく低下しているかあるいは全く欠損して いる。こうした欠点を補う ために、従来は薬物代謝酵素が含まれるラット肝臓のポスト・ミ トコンドリア画分からなる 酵素系(S9 mix)を培地中に添 加しているが、以下のような問題 点が存在する。第一点は代 謝的活性化にラット肝S9 mixを用いているが、薬物代謝酵素に は質的、量的にも動物種差 が存在し、必ずしもラット肝S9 mixを用いて得た結果をヒトに 外挿できないという点であ る。第二点として、がん原物質の代謝的活性化を細胞外で行うた め、反応性の高い活性代謝 物は膜に結合して透過せず、細胞内のタンバク質や核酸まで到達 できないため、結果的に変 異原性や毒性が低く見積もられる可能性がある。第三点としてS9 mixは様々な酵素の混合物で あるため、代謝的活性化の 詳細なメカニズムの解明が困難なこ とである。本研究において は、これら従来の試験系における欠点を補い、ヒトにおける発が んりスクを予測し得る試験 系の開発を目指し、ヒトの薬物代謝酵素を培養細胞内や大腸菌内 に発現させることを目的と した。第I章においてはヒトC1仰2E1を変異原性試験に汎用され る細胞株であるチャイニー ズハムスター線維芽細胞へ発現させることを目的とし、実際に細 胞毒性試験に適用できるか 否かを検討した。第II章にお いてはヒト細胞への適用と変異原 物質のさらなる高感化を目 指し、DNA修復酵素のーつで ある〇6‐メチルグアニン‐DNAメチ ル ト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼ (MGMDを欠 損 する ヒトHeh細胞 内で のヒ トCYP2E1の 発現 を検 討 した 。最 後に 第m章で はDNA修 復酵 素 を欠 損し てい る変 異 原性 試験 菌株である大腸菌WP2 uvrA.株においてヒトCYP2E1を大量発現させることによ るさらなる高感度化を目指した。
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第I章で は、変異原性試験に汎用されるチャイニーズハムスター線維芽細胞由来でモルモ ットORを 安定 的 に 発 現す るCR‑119株に ヒ トCYP2E1 cDNAを 導 入し 、 両 酵素を 安定的 に 発現するER‑181株を樹立した。コ□二一形成率を指標とした細胞毒性試験を行ったところ、
ER‑181株 は 親 株 であ るCR‑119株と 比 較 し てが ん原 性二ト 口ソア ミンであ るNDMAに 高感 受性を示した。また、6・チオグアニン抵抗性を指標とした突然変異誘発試験を行ったところ、
ER‑181株 に お い てND MAによ る変異 原性も 観察さ れた。以 上、ORを安定的 に発現 する細 胞株に ヒトCYP2E1 cDNAを導入 により 、従来 その変 異原性の 検出が困難であったがん原性 ニト口ソアミンに対して高感受性な細胞株の樹立に成功し、がん原物質の代謝的活性化に担 う薬物代謝酵素を培養細胞で安定的に発現させることによって、それら化合物を高感度に検 出 で き る 試 験 系 を 開 発 す る こ と が 可 能 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。 第u章で は、さらにがん原性ニト□ソアミンに対して高感受性を示す試験系の開発を目指 し 、DNA修 復 酵 素 の ひ と つ で あ るMGMTを欠 損 す る 細胞 株 ヘ ヒ トCYP2E1を 導 入 した 。 がん 原 物 質 によ っ て 損 傷を 受 け たDNAは そ の ほと んどがDNA修復酵 素によ り修復さ れて いる と 考 え られ る 。 そ こでDNA修 復 酵素 欠 損 株ヘ ヒトCYP2E1 cDNAの導入 を試み 、未修 復のDNAの 割合を 増加さ せるこ とによ り高感 受性を示 す試験 系の開発を目指した。アルキ ル 化 さ れ たDNAの 修 復 を 担 っ て い るMGMTを 欠 損 す るHeLa S3 Mer‑株 およ びMGMTを 有 するACr1―6株 ヘ ヒ トCYP2E1を導入 し、ほ ば同レ ベルのヒ トCYP2E1を 安定的 に発現 する 細胞ME‑17、AE‑5株を 樹立し た。こ れらの細 胞株に ついて コ口二ー形成率を指標として細 胞毒性 試験を 行った ところ、 ヒトCYP2E1を導入 したME‑17、AE―5株 におい てがん原 性二 ト 口 ソ ア ミ ン で あ るNDMAに 対 し て 感 受性 の 上 昇 がみ ら れ 、 特にDNA修 復 酵素 で あ る MGMTを欠損 するME‑17株にお いて著 しく感受 性が上 昇して いた。 また6‐ チオグ アニン抵 抗性 を 指 標 とし た 突 然変異 誘発試 験を行 ったと ころME‑17株におい てのみ 、NDMAに よる 明ら か な 突 然変 異 の 誘 発が 認 め ら れた 。 以 上、MGMTを欠 損するHeLa S3 Mer‑株に ヒト CYP2E1を導 入するこ とによ りがん 原性二ト口ソアミンに対して高感受性を示す細胞株の樹 立に 成 功 し ただ け で な く、DNA修 復 酵素 欠 損 株ヘ 薬物代謝 酵素を 導入し 、未修 復のDNA の割合を増加させることにより高感受性を示す試験系を樹立することが可能であることを明 らかに した。 第I.II章でのヒトCYP2E1の発現レベルは必ずしも高くはなく、さらに高感度 にす る た め には ヒ トCYP2E1やORを 大量 発 現 させ る必要 がある 。そこ で、ヒ トCYP2E1と ORを大量 発現さ せ、且 つ修復 酵素欠 損株を用 いた試 験系を 開発することを第III章の目標 とした 。近年 可能と なったP450の大腸 菌での 大量発 現を変異 原性試験に応用し、DNA修復 酵素 を 欠 く 変異 原 性 試験菌 株であ るWP2 uvrA‑株 にヒトCYP2E1およ びヒトORの同時 発現 プラス ミドを 導入し た。樹立 したWP2‑ER株を用 いて変 異原性 試験を 行った結 果、NDMA. NDEA, ND PA,NDBA,NPYRの 変異原 性を高 感度に 検出でき た。ま た同時 にNDP A,NDBA がヒトCYP2Elによっ て代謝 的に活 性化さ れ、そ の変異 原性を 示すこ とを初め て明ら かに した 。 さ ら にラ ッ ト 肝S9mixを 用いた 試験系 では検 出が困 難であっ たNPYRに っいて もそ の変異原性を高感度に検出できたことから、今回樹立した系が種差を克服し、ヒトでの変異 原性を予測し得る試験系であることを明らかにした。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
鎌 滝 哲 也 野 村 靖 幸 大 熊 康 修 有 吉 範 高
学位論文 題名
ヒ ト CYP2E1 遺伝子導入によるがん原・異変原物質 に高感受性な細胞株の樹立とその毒性学的応用