中学生の人間関係向上プログラムの開発的研究
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(2) 目次 1. 問題の所在と研究の目的. 1. 1.1求められる心の居場所. 1. L2 「心の居場所」の構成要件. 2. 1.2.1「心の居場所」感. 2. 1。2.2. 自己と重要な他者の関係. 一一一一一一……一一…一一一…一一…一. 3. 4. 1.2.3 自己と集団の関係 一一一一一…一一…一一一一一一…一……. 6. 自己概念・自尊感情の形成過程の要因 一一一…一一一一一一一一… L2.5 L3 「心の居場所」の定義. 7. 1.4研究の目的. 9. 1.2.4. 自己概念と自尊感情の関係. 8. 2 学校での人間関係の実態. 14. 2.1学校での心やすらぐ場所. 14. 2.2学級での人間関係. 15. 2.3学校での不安と気遣い. 16. 2.4. 学級での「心の居場所」感の意識差 一一一一……一…一一一一…一一…一一一. 19. 2.5本研究の実践的課題. 3 生徒が創る学級通信の開発. 22. 3.1 第1次実験授業開発の目的一一「一一一一一一一一一…L…一一一一一一…一一…一一…一 22. 3.2 いいとこ発見の目的. ……一一一一一一一一一一一…一一…一一一一………一一 22. 3.2.1「鏡」に映し合う目的 ……一一一一一…一一…一一…一一…一一一一…一22 3.2.2.「いいとこ」を伝え合う目的. 3.3 生徒が創る学級通信にする目的 3.3.1 生徒が創る目的. 一一一一一一一…一………一一一一……24. …一一一一一…………一…一一一…一一25. 一一一一一一…………一一一一一…一一一一一一…一一一一一 25. 3.3.2 学級通信として表す目的 ………一一一一一一一…一一一一一…一一一…一26 3.4 第1次実験授業の方法. 17. 一一…一………一一一一一一一一…一一一一……一… 28. 3.5 第1次実験授業の教育効果の分析方法 一一一一一一一一一一一…一一一一一一一一一一一一一一一32. 4.1.1 中学生活充実意識調査. …一…一一…一…一一一一一一……一…一32. 4.1.2 学級での生活についての意識調査 4.1.3 自分の学級についての意識調査. …一一一一一………一一一一…33. 一一一一一一一一……一一一…一一一一一 34.
(3) 4 生徒が創る学級通信の実践. 32. 4.1 第1次実践授業の対象と方法. 36. 4.2 第1次実践授業の実際. 36. 5生徒が創る学級通信の教育効果. 44. 5.1 教育効果の質的分析. 一一……一一…一一一一…一一一…一一一…. 44. 5.2 教育効果の量的分析. 一一一…一一…一一一一一…一一一…一一一…. 66. 5.2.1 実験群と統制群の等質性の分析. 一…一一一…一……一一一一…一. 66. 5。2.2 級友問不安度の分析. 67. 5.2.3 級友問安定満足度の分析. 71. 5.2.4 学級雰囲気度の分析. 74. 5.2.5 自尊:感情度(W)の分析. 81. 84. 5.3 第2次実践授業への課題. 6 生徒が創るデジタル学級通信の開発 6.1 生徒が創るデジタル学級通信開発の目的 6.2 第2次実験授業の内容. 一一一一一一一…一一一……一一一一. 一…一一一…一一…一一一一一一…一一一一…一. 6.2.1第2次実験授業の方法. 一一…一一一…一一一一一…一一一一…一一一一…. 6.2.2 第2次実験授業の検定方法. 一一一一一一……一一…一一一一一一……一一. 7 生徒が創るデジタル学級通信の実践 7.1 第2次実験授業の統計的実証方法. 7.2 第2次実験授業の計画と内容. 一一一…一…一一一一一一一一一一一一一一一一…. 一一…一一…一一一一…一一一…一一一一一一. 7.2.1第2次実践授業の対象と方法. 一一一一……一…一一一一一一一一一一一. 7.2.2 第2次実践授業の実際 一一一一…一一…一一一…一一一一一一…一一一一一一. 11. 86 86 86. 86 97. 89 89 89. 89 89.
(4) 8生徒が創るデジタル学級通信の教育効果 8.1教育効果の質的分析 8.2 教育効果の量的分析. 一一…. 一. 一. ■. 一. }. 一一一一一. 一. 8.2ユ自尊感情度(R)の分析. …. _. _. 一. 一. 一. 胴. _. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. ■. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 9 本研究の成果と課題. 一. 凹. 一. 一. 胃. 一. 一. 一. 一. 101. 一. 一. 一. 一. 一. _. 一. 一. _. 一. 一. _. 一. 一. 一. 一. _. _. 一. 一. _. 一. ■. 一. 一. 一. 一. 冒. 一. 冒. 冒. 騙. 曹. ”. 一. 一. 一. ■. 一. ■. 冨. 冒. 一. 一. 一. 鰯. ■. 101. 一. 脚. ■. 一. ■. 108 108. 110. 9.1本研究の成果. 110. 9.2本研究の課題. 110. 10引用・参考文献一覧. 113. 謝辞 Appenαix Appendix A. 第1次実験授業時の心理尺度調査用紙. Appendix B. 第2次実験授業時の心理尺度調査用紙. Appendix C. 第2次実験授業時のワークシート. 壷.
(5) 表目次 8. Table 1.1. 自己概念の形成要因. Table 4.l. 実験授業前のセッティングの内容. 36. Table 4。2. 第1時の授業目標・内容・留意点. 37. Table 4.3. 第2時の授業目標・内容・留意点. 38. Table 4.4. 第3時の授業目標・内容・留意点. 38. Table 4.5. 第4時前のセッティングの内容. 39. Table 4。6. 第4時の授業目標・内容・留意点. 39. Table 4.7. 第5時の授業目標・内容・留意点. 40. Table 4.8. 第6時前のセッティングの内容. 41. Table 4。9. 第6時の授業目標・内容・留意点. 41. Table 4.10. ポストテストの内容. 一一一一一一一一一一…一……一…一一一…一一一一一一一一一一一. 42. Table 5.1. 学級通信(第1信)に掲載された級友認知・級友受容項目 一一一一一一一. 45. Table 5.2. 学級通信(第2信)に掲載された自他の認知・受容項目 一一一一一一一一一. 64. Table 5.3. 心理尺度の平均点と標準偏差および分散分析の結果. 67. Table 5.4. 学校内場面別不安の要素の事前事後の推移. 68. Table 5.5. 生徒間不安度の対応のあるt検定の結果. 69. Table 5。6. 生徒間不安度の対応のあるt検定の結果:男子. 69. Table 5.7. 生徒間不安度の対応のあるt検定の結果:女子. 69. Table 5.8. 生徒間不安度の事前事後の階層別生徒数の推移. 70. Table 5.9. 生徒間不安度の事前事後の男女下階層別生徒数の推移. Table 5.10. 生徒間安定満足度の対応のあるt検定の結果. Table 5.11. 生徒間安定満足度の対応のあるt検定の結果:男子. 一一一…一. 72. Table 5.12. 生徒間安定満足度の対応のあるt検定の結果:女子. 一一一一一…. 73. Table 5.13. 生徒間安定満足度の事前事後の階層別生徒数の推移. Table 5.14. 生徒間安定満足度の事前事後の男女別階層別生徒数の推移 一一. 74. Table 5。15. 学級雰囲気度の対応のあるt検定の結果. 75. Table 5.16. 学級雰囲気度の対応のあるt検定の結果:男子. …一一…一一…. 75. Table 5.17. 学級雰囲気度の対応のあるt検定の結果:女子. …一一……一・. 75. Table 5.18. 学級雰囲気度の事前事後の階層別生徒数の推移. Table 5.19. 学級雰囲気度の事前事後の男女別階層別生徒数の推移. 1V. …一一一一一一一. ……. 71. 一一…………. 72. …一一…. 一一一一一一一一一…一…一. …一一一一一一…・. ……一. 73. 76 77.
(6) ………一一一一一一. 81. Table 5.20. 自尊:感情度(W)の対応のあるt検定の結果. Table 5.21. 自尊:感情度(W)の対応のあるt検定の結果:男子. …一一…一一. 81. Table 5.22. 自尊:感情度(W)の対応のあるt検定の結果:女子. 一一一一…一一. 82. Table 5.23. 自尊感情度(W)の事前事後の階層別生徒数の推移. Table 5。24. 自尊:感情度(w)の事前事後の男女別霜層別生徒数の推移. Table 7.1. 一………一. 82. 一一一一・. 83. 実験授業前のセッティングの内容. ……一一一一一一…一一一一一一…一一…. 89. Table 7.2. 第1時の授業目標・内容・留意点. 一一一一一…一一一一…一一…一一一……. 90. Table 7.3. 第2時の授業目標・内容・留意点. 一一一一一一一一一一一…一一一…一…一一…. 91. Table 7。4. 第4時の授業目標・内容・留意点. 一一一一一一一一一一…一一一一一一一一一一……. 91. Table 7.5. デジタル学級通信の入力ワークシート(1) 一一一一一一一一一…一一一一一一一…. 92. Table 7.5. デジタル学級通信の入力ワークシート(2) 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一…. 93. Table 7.5. デジタル学級通信の入力ワークシート(3) 一一…一一一一一一一一一一一一一…一. 94. Table 7.6第4時の授業目標・内容・留意点. 96. Table 7.7第5時前のセッティングの内容. 96. Table 7.8第5時…の授業目標・内容・留意点. 97. Table 7.9第6時前のセッティングの内容. 97. Table 7.10第6時の授業目標・内容・留意点. 98. Table 7.11第7時前のセッティングの内容. 99. Table 7.12第7時の授業目標・内容・留意点. 99. Table 8.1. デジタル学級通信に掲載された級友認知・級友受容項目 一一一一一…. 107. Table 8.2. デジタル学級通信(感想)に掲載された自他の認知・受容項目 …一. 108. Table 8.3. 匹:尊感情度(R)の対応のあるt検定の結果 一一一一一一…一一一一一一一…一一一. 109. Table 8.4. 自尊感情度(R)の事前事後の得点の階層別推移. 109. V. 一一一……一…一一.
(7) 図目次 一一一……一一……一一一……一一一一…一一一. 6. Fig.1.1. 「ジョハリの窓」. Fig.3.1. 「学級の雰囲気・居心地感」の質問項目の因子別分類 一……一. 32. Fig.5.1. 生徒が創る学級通信(第1信)「いいとこ発見」NO.1,NO.2. 46. Fig.5.2. 生徒が創る学級通信(第1信). いいとこ発見」NO.3. 47. Fig.5.3. 生徒が創る学級通信(第1信). いいとこ発見」NO.4. 47. Fig.5.4. 生徒が創る学級通信(第1信). いいとこ発見」NO.5. 48. Fig.5.5. 生徒が創る学級通信(第1信). いいとこ発見」NO.6. 58. Fig.5.6. 生徒が創る学級通信(第1信). いいとこ発見」NO.7. 49. Fig.5.7. 生徒が創る学級通信(第1信). いいとこ発見」NO.8. 49. Fig.5.8. 生徒が創る学級通信(第1信). いいとこ発見」NO.9. 50. Fig.5.9. 生徒が創る学級通信(第1信). いいとこ発見」NO.1旧. 50. Fig.5,10. 生徒が創る学級通信(第1信). いいとこ発見」NO.11. 51. Fig.5.11. 生徒が創る学級通信(第1信). いいとこ発見」NO.12. 51. Fig.5.12. 生徒が創る学級通信(第1信). いいとこ発見」NO.13. 52. Fig.5.13. 生徒が創る学級通信(第1信). いいとこ発見」NO.14. 52. Fig.5.14. 生徒が創る学級通信(第1信)「いいとこ発見」の感想取材文一…・. 53. Fig.5.15. 生徒が創る学級通信(第2信)「いいとこ発見(感想)」NO.1. 53. Fig.5.16. 生徒が創る学級通信(第2信)「いいとこ発見(感想)」NO.2. 54. Fig.5.17. 生徒が創る学級通信(第2信)「いいとこ発見(感想)」NO.3. 55. Fig.5.18. 生徒が創る学級通信(第2信)「いいとこ発見(感想)」NO.4. 56. Fig.5.19. 生徒が創る学級通信(第2信)「いいとこ発見(感想)」NO.5. 57. Fig.5.20. 生徒が創る学級通信(第2信)「いいとこ発見(感想)」NO.6. 58. 周頃g.5.21. 生徒が創る学級通信(第2信)「いいとこ発見(感想)」NO.7. 58. Fig.5.22. 生徒が創る学級通信(第2信)「いいとこ発見(感想)」NO.8. 59. Fig.5,23. 生徒が創る学級通信(第2信)「いいとこ発見(感想)」NO.9. 60. Fig.5.24. 生徒が創る学級通信(第2信)「いいとこ発見(感想)」NO。10. 61. Fig.5.25. 生徒が創る学級通信(第2信)「いいとこ発見(感想)」NO.11. 62. Fig.5.26. 実験学級Bの「学級雰囲気度」の事前と事後の推移. 78. Fig.5.27. 実験学級Cの「学級雰囲気度」の事前と事後の推移. 78. vi. …一・.
(8) Fig.5.28実験学級Bの「学級雰囲気度」の事前と事後の推移:男子. 79. Fig.5.29実験学級Bの「学級雰囲気度」の事前と事後の推移:女子. 79. Fig.5.30実験学級。の「学級雰囲気度」の:事前と事後の推移:男子. 80. Fig.5.31実験学級。の「学級雰囲気度」の事前と事後の推移:女子. 80. Fig.7.1生徒が創るデジタル学級通信「いいとこ発見」. トップページ. 一一…. 95. Fig.7.2 生徒が創るデジタル学級通信「いいとこ発見」ひな形 Fig.8.1生徒が創るデジタル学級通信「いいとこ発見」. トップページ. 95. …一・. 101. Fig.8.2. 生徒が創るデジタル学級通信「いいとこ発見. 第1・2チームー一一一・ 102. Fig.8.3. 生徒が創るデジタル学級通信「いいとこ発見. 第3・4チームー一一一・. Fig.8.4. 生徒が創るデジタル学級通信「いいとこ発見. Fig.85. 生徒が創るデジタル学級通信「いいとこ発見. 第5・6チームー一… 104 105 第7チーム・感想文. 頑. 103.
(9) 1 問題の所在と研究の目的. 1.1求められる心の居場所 今日、生徒の問題行動は、戦後第4の波といわれ、全生徒数が年々減少しているに もかかわらず、不登校生徒などは今も増加の一途をたどっている。1 文部科学省は、. 平成4年度の「学校不適応対策調査研究協力者会」の報告の中で、学校が心の居場所 としての役割を果たすことの重要性とその充実を求め2、さらに平成8年7月「児童 生徒の問題行動等に関する調査研究’協力者会議」の報告においては、多発するいじめ. の問題に対して「心の居場所」としての家庭や学校のあり方への改善を訴えている。3. また、2001年4月の「少年の問題行動等に関する調査研究報告」では、子どもたち の仲間意識の変化を取り上げ、友人関係の希薄さや友人関係をうまく結べずに疎外感 を持つ生徒の現状を指摘し、表面的には見えにくい状況をどのように見極めるか、学 校における児童生徒の積極的な生徒指導の必要性をも訴えた。4 その中で学級担任は、全ての生徒が自分らしさを発揮できる学級づくりを進めるた めに、生徒同士がお互いを認め合い、気持ちよく学級での生活を送れているかという 生徒間の人間関係や、生徒一人ひとりが自分の学級に所属していることに満足感や、 誇りを持てているかに気を配っているであろう。そのために、日常的な観察や面接ま たは調査(アンケート)、日記指導を通して学級や個々の生徒の状態をとらえようと努. めてきた。そしてその結果をうけて生徒指導の改善につとめ、さらなる実践を積み重 ねてきた。しかし、児童生徒の問題行動は、残念ながら文部科学省が示す数値だけは 起きているのである。児童生徒の仲間意識の有り様を見極め、生徒にとって学級が「心 の居場所」となるためのさらなる研究と実践が求められている。. では、児童生徒が所属する学校や学級が、児童生徒一人ひとりにとって「心の居場 所」となるということは、どのような意味を持つのであろうか。また、どのような学 級集団が、児童生徒にとって「心の居場所」となりえるのであろうか。この「心の居 場所」を構成している要件とは、どのようなものであろうか。. 1文部科学省ホームページhttp:〃www.mextgojplb_menulhoudou114/12/021215誼m. 生徒指導上の諸問題の現状について(概要)(平成14年12,月25日) 2文部科学省ホームページhttp:〃wwwmextgojpla_menu/sho重ou/clarinet1颯meO51052」貰ml. いじめ問題に関する行政資料情報 登校拒否問題への対応について(平成4年9,月24日) 3文部科学省ホームページh賃p:〃ww盟nextgojp/b_menulhoudou/08107/960710.htm. 児童生徒の問題行動等に関する調査研究協力者会議・報告(平成8年7,月) 4文部科学省ホームページh就p:〃wwwmext即4plb_menulhoudou1131041010410」厩m 少年の問題行動等に関する調査研究協力者会議報告(概要)(平成13年4月). 1.
(10) 1.2「心の居場所」の構成要件 1.2.1「心の居場所」感 高旗(1995)は、「居場所」の;概念について、「物理的空間的な意味と心理的な意味. とがあり、一般的には後者の心理的な意味で使われることが多い。心理的というのは、. 理由はいろいろだがその集団に居づらいことを意味する」とした。そして、「その居 場所感を規定するのは、「友達との人間関係」・「勉強、学級での役割の有無」・「先生と. の関係」・「保護者との関係」などがあげられる」とした。さらに高旗は、学校の中に、. とりわけ学級において、児童生徒が居場所をつくるための視点として、以下の3点に まとめている。「第1は、人間関係である。これは言うまでもなく児童生徒と教師の 関係、児童生徒相互の関係である。第2は、役割付与である。つまり、学級のなかに 居場所があるということは、学級に対して存在価値があるということである。自分が いないと学級の集団活動がうまく進まないようであれば、その子の存在価値は大きい。. あまり大きすぎると重圧にもなるが、適度な他者からの期待があってはじめて自己存. 在感が生まれる。これが役割付与である。第3は学習参加である。授業中の発言発表 による参加を全員に広げる工夫が大切である」としている。5 また、広島市立教育センターが行った児童生徒のとらえる「心の居場所となる学級」. についての調査研究がある。それは、小学1年生から6年前まで379名、中学1年生 から3年生まで215名に対して、「あなたが学級の中で、安心して楽しく生活できる ためには、どのようなことが大切だと思いますか。どのようなことでもいいですから、. 自由に書いてください。(5つまでならいくつでもいいです)」という質問に対して の自由記述の内容を分類・整理したものである。その結果「小学生中学生ともに最多 の回答の内容は、みんなが仲が良いなどの「親和的である」であった。続いて「いじ めがない」であった。つまり、児童生徒は「心の居場所」となる学級というものを児 童生徒の人間関係の視点から最:もとらえていることがわかる」と指摘している。そし て、全体的な集約から、「子ども同士の人間関係」・「教師と子どもの人間関係」・「教室. 環境」・「規範意識」の4つのカテゴリーを見いだしているのである。6 このような調査や見解を受け、本研究では、学級における「心の居場所」感を大き く規定していると考えられる生徒間の人間関係に特に注目するものである。本研究に. おける学級の生徒間の人間関係とは、学級内の仲良しグループを対象にしているので はない。学級というフォーマルグループを対象としている。ゆえに学級の「友だち」 という表現は、その人間関係の範囲を曖昧にしてしまう可能性を有しているといえよ う。本研究では、学級内の全ての所属員であるフォーマルグループをさすという意味. 5高旗正人編 2000 居場所 学級経営重要用語300の基礎知識 明治図書 p.20.. 6広島市教育センター 1998心の居場所となる学級づくりを図る援助・指導の在り方 pp。101−103.. 一2一. 研究紀要18.
(11) で、「級友」との表現を用いることにする。つまり「級友間」とは「学級における全て の所属員に関わる人間関係」のこととする。. 1.2.2 自己と重要な他者の関係 対人関係を特に問題にし他者との関係においてその行動を理解しようとする心理学 の理論がある。それがアドラー心理学である。アドラー心理学では、「個人の問題は、. その人が今所属している集団の人間関係の中で生まれる。したがって、その問題はそ の人が属している人間関係をより健康なものにすれば消えていくはずだ」と考えてい る。また、人間関係の基本は「相互尊敬」であるとの考えから、人間の精神的満足、. 至福の条件として「自己受容」「他者信頼」「貢献感」の3点を挙げている。アドラー 心理学がめざす人間像は、自立と存在感と考えてもよいだろう。7 創始者のAdler,A.は、全体論、つまり人間を分割できないもの(in−dividu−um)とし て扱うという意味での「個人心理学」(individual psychology)とした。また原因論的分析. ではなく、目的論的見方をすることもこの理論の基本的な視座である。Adlerの個人 心理学はその後、Dreikurs,Rが体系化した。それがアドラー心理学である。 「アドラー心理学は「罰すること」・「否定すること」・「説教すること」を否定してい. る。しかし「ほめる」ことも否定している。「ほめるというのは、その多くが能力の ある人が能力のない人に向かって、あなたはくよい〉と、上から下へと相手を評価し. 判断する言葉ですから、下に置かれた人は愉快ではない」8のである。つまり、「ほ める」とは、縦の対人関係とらえているからである。アドラー心理学では、横の対人. 関係を築くことを提唱している。9その「ほめる」ことに対しての代わりに行うの が「勇気づけ」である。「勇気づけ」とは、「子どもの人格や行動の肯定的な側面に着 目して自己受容を援助することであり、働きかけることであり、代表的な働きかけと して(以下の)10項目が挙げられている。」10. (1)貢献や’協力に注目する. (6)相手に判断をゆだねる. (2)結果よりも過程を重視する. (7)肯定的に伝え返す. (3)既に達成されている成果を指摘する. (8)私メッセージ. (4)失敗をも受け入れる. (9)意見や言葉を使う. (5)個人の成長を重視する. (10)感謝し共感する. 7諸富祥彦 1999 学校で使えるカウンセリング・テクニック(上)育てるカウンセリング編・11の法則 誠信書房 p.70.. 8心見一郎 1999 アドラー心理学入門 よりよい人間のために KKベストセラーズ pp.58−62. 9岸見一郎 1999 同上書 pp.89−90.. 10日向鋭自 1999 アドラー心理学 鐘幹八郎 一丸藤太郎 鈴木康之編集 教育相談重要用語300 の基礎知識 明治図書 p.62.. 一3.
(12) 子どもたちは成長するにつれ、次第に家族などの大人との関わりよりも友だちなど、. 同じ子どもとの関わりが深まっていく。つまり、子どもは成長するにつれ、友だちが 重要他者になっていく場合が増えていくであろう。重要な他者となる生徒同士(級友) の適切な関わり合いができたならば、学級が生徒にとって「心の居場所」となりえる。. この重要な他者となる級友との人間関係において、個と個の横の関係の重要性を指 摘してきたが、その横の関係を形成する個はどのような心理面が関係しているのであ ろうか。たとえば、重要な他者が重要であればあるほど、その他者が自分のことをど う思っているか、分からないときは、自己を開示することは不安でできないであろう。. 他者の自分に対する思いが分かれば、安心して出せるものである。 この関係を「ジョハリの窓」(Johari window)llは、明快に示しているといえよう。 学級における人間関係の向上を目指すことは、自己開示(seif−disclosure)の、このうち. の開放領域を拡大していこうすることと考えることができる。つまり、まず自分が、 相手である級友自身が気づいていないであろう級友の情報を開示することによって、 この開放領域を拡大することになる。また、自己開示をすることによって、級友は何 らかの形で、その開示された内容に対する評価をフィードバックしてきたり、あるい は相応の自己開示をしてきたりする。その結果、それまで自分が知らなかった自分自 身の情報を知ることによって、自己理解が深まり、開放領域は拡大されるというもの である。また、予め相互の持っている級友への情報を呈示し合い交流させることによ って、開放領域「開放の窓」は開かれていくのである。これは本研究の授業プログラ ムの開発に大きな示唆を与えてくれるものである。 自分が(1). 分かっている (知っている) 分かっている (知っている). 分かっていない (知らない). 開放領域. 盲点領域. 隠蔽領域. 未知領域. 他人が(You). 分かっていない (知らない). Fig.1.1「ジョハリの窓」. (出典:改訂版社会心理学事典1995に加筆). 11小川一夫監修 1995 改訂版社会心理学用語辞典 北大路書房 pp.172−173. Jose画し岨とHarry Inghamが提案した(1963)もので、二人の名前を合成して、ジョハリの窓(」曲磁 window)と命名した。心の4っの窓ともいう。. 一4一.
(13) 1.2.3 自己と集団の関係 学級を個と集団の視点から、学級集団の形成を扱った理論と実践として、全国生活 指導研究協議会の集団主義教育としての「学級集団づくり」がある。集団主義教育で は、あらかじめ決められたプロセス通りに生徒を歩ませようとした。このような形式 的なプロセスの適用では、生徒の内発的動機に依拠した集団づくりにはなり得ないで あろう。教師による組織行動の押しつけであるとの批判は、妥当であると考える。こ の点において、集団主義教育を批判した片岡らの研究がある。片岡らの研究は、集団 の発達としての「準拠集団化」の理論と実践ととらえることができよう。 倉田(1994)は、「心の居場所」という表現は使っていないが、「生徒が心のよりど. ころとしている集団とは準拠集団であり、自分自身の態度や判断、評価を形成するの に対して影響を受ける集団のことである」としている。さらに、「元来、教師は生徒 を選べない。子どもも教師を選べない。しかも生徒はお互いの仲間も選べない。学級 とはそこから準拠集団づくりが始まる」とした。そのためには、「学級集団の目標・ 仕事・組織づくりを、合力・助力・分担という集団活動の形態を用いて仕組む」とし たが、児童生徒が、その集団のねうちを実感するのは、目標達成の知的レベルでは「わ. かる」時であり、技術レベルでは「できる」であり、態度レベルでは「よくなる」時. である」とした。そして「満足感としては、自らの学びが学級の仲間の役に立ち、 仲間から認められる場などの仲間からの支援が不可欠である」とした。そしてさらに、 Rosendlal,R.らの実証的実験により明らかにされたピグマリオン効果を引用して、「. 相対的な長所ではなく個を見つめた絶対的な「相手の長所に注目」すること」の重要 性を強調している。12 このように集団をどう育てるかを論じたものが準拠集団づく りとするならば、学級の雰囲気づくりの視点から論じたものが支持的風土づくりであ ろう。支持的風土の形成に詳しい片岡(1981)は、学級集団の支持的風土の特徴につい. て、防衛的風土の特徴と対比して説明した。それは、「防衛的風土とは、点検・追求 を軸に、減点法や「班競争」を仕組み、「班競争」で相手に勝つために、相手の欠点を. 指摘し攻撃するものであり、攻められたら当然反撃を加えて自らを守るものである」 とした。「支持的風土の特徴は、構成員の一人ひとりの自信と心身の解放としての「自 信と自発」、落ち着いて善悪・正誤の判断ができる「客観的な知覚と判断」、自由な発 想や個性的な創造活動のできる「多様な創造」、相互の尊:敬と協力協同の「人格の尊重. と仲間の協調」である」とした。そして支持的風土づくりのためには、「第1に個 人の態度の中に支持的風土づくりをめざすことであり、相手の身になって考える。相 手の考えや行動の中に長所を探す。相手の間違いや逸脱を笑ったり、馬鹿にしない態 度をつくることである。そして第2に、全体の集団の雰囲気として支持的風土づくり をめざし、第3に、集団の構造としても支持的風土をめざす」とした。13. 12:倉田侃司 1994 準拠集団論 高旗正人 倉田侃司編著 特別活動 ミネルヴァ書房 pp.153−159.. 13片岡徳雄編 1981全員参加の学級づくりハンドブック 黎明書房. 一5一.
(14) また、坂本(1994)は、「生徒の学級での自己存在感とは、生徒が画一的に、マス(塊). として十把ひとからげにされるのではなく、「個別性」「独自性」が尊重され、学級の. 仲間から「代用不可能なものとして、存在が認められている」ことの実感が持てたと きに生じる感情である」と述べている。さらに「自己決定の機会」・「自己実現の場」 ・「人間的ふれあい(共感的関係)」の重要性をも訴えている。14 この高旗(1995)、倉田(1994)、片岡(1981)、坂本(1994)の考察を参回目して、学級. における「心の居場所」を構成する要素をまとめると、(1)物理的空間的な要素。(2) 学習過程や学業成績などの学業面の要素。(3)学級での役割の有無の要素。(これは、. 自己決定の機会や自己実現の場があるなしだけではなく、児童生徒が有能感を得てい るかという要素である)そして最:後に(4)教師と生徒や生徒相互の人間関係の要素が. 挙げられる。人間的ふれあい(共感的関係)が築かれているかや、代用不可能な存在と して認められていることが実感できているかといった要素である。. このような個を埋没させない集団である準拠集団づくりや、支持的風土づくりの理 論と実践を受けて、諸富(1999)は、学級集団における個と集団の関係を「つながりの. 中の個」または「個が生きるつながり」という視点から説明している。それは「まず. 生徒に育むカの第1は「個」としての「自分づくりの力」であり、それは自分をあり のままに受け入れ、自分を好きになるという「自己受容、自己肯定感」、自分がどうす るか、どうすべきかを自分で決めることができる「自己決定」、その決定に自分で責任. を負うことができる「自己責任」という3つの下位の構成概念である。第2は、「個 の関係」としての「人間関係の力」であり、それは、自他との違いを認める中で、お. 互いに折り合える点を見つけていくことのできる力のことである」としている。15 成田(1988)は、「望ましい友人関係とは、考え方や感じ方、性格、行動などの多様. な個性を持つ子どもたちが、相互の交流を通して一人ひとりの違いを知り、友人の考 えを柔軟に受けとめ、ともに協力し合う中で成立することを再確認することが大切で. ある」と指摘している。16 では、自己に対する自己へのまなざしや理解・受容の関係、いわば、自己に対する 自己との関係はどうであろうか。. 1.2.4 自己概念と自尊感情の関係 重要な他者(本研究では級友〉から、もたらされた情報を自己が理解し、受容してい く過程はどのようなものであろうか。まず、「自尊感情」・「自己肯定感」・「自己効力感」. 14坂本昇一 1994 生徒指導の機能と方法 文教書院 pp55−65. 15諸富祥彦 1999学校で使えるカウンセリング・テクニック(上)育てるカウンセリング編・11の法則 誠信書房 pp.10−18.. 16成田国英 1988 子ども同士の人間関係 島田一男監修 講座人間関係の心理3 学校の人間関係 ブレーン出版 pp.77−91.. 一6一.
(15) という訳語で言い表されているセルフ・エスティーム(se1琵steem)の概念について 考察してみる。. 遠藤(1992)は、「セルフ・エスティームとは、一般的には「人が自分の自己概念 と関連づける個人的価値および能力の感覚」と定義づけられている。それは大まかに いうと「自己評価」・「自己評価の感情」・「自尊:感情」・「自己肯定感」・「自己効力感」. などであり、人が持っている自尊心(self−respect)や自己受容(self−acceptance)など. を含め、自分自身に対しての感じ方をさしており、自己概念と結びついている自己の 価値と能力の感覚一感情一である。しかし多くの点で一致した見解が得られておらず、. 方法も結果もかなり異なっている」とまとめている。17 遠藤(1981)は、自尊感情を「社会との関わりの中で特定の役割、価値観の達成を. 通して、獲得される自己評価についての確信」と定義している。18 蘭(1986)は「自尊:感情には自己概念についての「良い一悪い」「好き一嫌い」といっ た評価の結果によって生じるものであり、「素朴な自己愛」「自他比較による虚栄心」「自. 系列内比較による自負心」の3つの側面があり、したがって、自己概念と自尊:感情は、. 相互に影響を及ぼすものである」としている。19 梶田(1980)は、「自尊感情には様々な自己評価的意識・態度を最も基底において支 えている基盤i的な感情や感覚(自:尊心、誇り、自己愛など)がある。したがって、自己. への感情と評価に対する自尊感情は、自己概念の中に含まれる」と説明している。20 Rosenberg,M.は、自尊感情を「一つの特殊な対象、すなわち、自己に対する肯定的 または、否定的態度」とし、自尊感情には「非常によい」(very good)と感ずる場合と、 「これでよい」(good enough)と感ずる二つの異なる意味があるとしている。前者は、. 他者との比較によって生ずる感覚であり、後者は、自分自身で設定した要求水準や理 想的な自己イメージに照ら合わせて生じた感覚である。Rosenbergは、後者の自尊感 情についての考えを採用している。21. 本研究での「自己概念」と「自尊感情」の関係のとらえ方を明確にしておきたいと 思う。「私の名前は∼で、13歳である」というような自分についての知識や「私は、. おちよこちよいである」という自分の性格についての思いを「自己概念」とし、その ような「自分をどう思っているか」が、「自尊感情」と定義づけることにする。いわば、. 自己概念は知であり、自尊感情は情である。つまり、前者は、知識・理解としての自. 己をとらえることであり、後者は、それをどのように受け止めるているかという受容 の関係ととらえることにする。. 17遠藤達夫 井上祥治 二千壽編 1992セルフ・エスティームの心理学 ナカニシや出版pp8−19. 18遠藤達夫編 1981アイデンティティの心理学 ナカニシや出版 pp.12−27. 19蘭千壽 1986 対人魅力 対人行動学研究会編 対人行動の心理学 誠信書房 pp.234−23g. 20梶田叡一 1980 自己意識の心理学 東京大学出版会 21遠藤達夫 井上祥治 三千壽編 1992セルフ・エスティームの心理学 ナカニシや出版pp.26−27.. 一7一.
(16) 1.2.5 自己概念・自尊感情の形成過程の要因 では、自己概念や自尊感情が形成される、または変容する過程にはどのような要因 が関わっていると考えられているのであろうか。 梶田(1986)22と蘭(1992)23の子どもの自己概念の形成に影響する要因をもとに、本. 研究に関わる、肯定的な人間関係の形成のための授業プログラムの全体的な開発に向 けての参品目なる理論を加え、分類したものをTable 1.1に示した。 Table 1.1自己概念・自尊感i情の形成要因. 蘭(1992). ・同一視に基づ. 梶田(1985). ・モデリング. の体験や様々. ・Bandura,A.の自己有能感に基づくモデリング行動. ・Koh砥H.の自己愛ニーズの理想化と双子対象. く取り入れ. ・役割遂行など. 授業プログラム開発の参考となる理論や概念. ・体験や経験の. 自己吟味. ・James,W.の社会的自己 ・Mead,G。H.の役割取得理論. な経験による. ・Edkson,E.H.の自我同一性. 気づき. ・Frankl,V.E.の人生には意味がある. ・他者からの評. 価や承認によ る気づき. ・周囲からのレッ. テル ・他者からの評価. や承認 ・他者からの呼び. ・強化理論に基づく強化因子としての評価や承認 ・Cooley,C.H.の鏡映自己. ・Mead,G.H.の重要な他者 ・Adler,A.の相互尊敬. ・Koh砥H.の自己愛ニーズの鏡. かけによる自覚. 1.3「心の居場所」の定義 このような構成概念を考慮して、本研究における「心の居場所」を定義づけたい。. まず文部科学省は先にあげた平成4年度の「学校不適応対策調査研究協力者会」の 報告の中で、「心の居場所」を「児童生徒にとって自己の存在を実感でき、精神的に安. 定していることのできる場所」と示している。24 22梶田叡一 1985 子どもの自己概念と教育 東京大学出版会. 23蘭千壽 1992セルフ・エスティームの形成と養育行動 遠藤達夫 井上祥治 一千一編 セル フ・エスティームの心理学 ナカニシや出版pp.玉70472. 24文部科学省ホームページ 前掲載,. 一8一.
(17) また広島市教育センター(1998)は心の居場所としての学級を「他者から受容され、. 自己存在感を実感することができ、精神的に安心して過ごせ、自己の成長にとって意 味のある魅力的な学級」と定義している。25. 先行研究や調査研究から得られた学級の「心の居場所」を支える要素は、個として の「他者からの受容」・「自己の存在感の実感」・「魅力的な集団」という知見により、. 本研究で考える学級における「心の居場所」とは、「生徒にとって、他者から受容され、. 自己の存在を実感することができ、精神的に安定して過ごせる魅力的な学級」と定義 づけることにする。. 1.4 研究の目的 中学生という時期は、仲間関係の中で社会化が促進される時期であろう。学級集団 の中での生徒相互の理解を深め、幅広い交流を展開することが必要であると考える。. 自他との関わりの中で、自他の多面性を相互に発見していく力を育てるためには、生 徒相互のコミュニケーションを図る活動を意図的に進めなければならない。コミュニ ケーションとは、人間関係を築く基礎となるものであると考える。コミュニケーショ ンを通して「自己理解と自己受容を深める」・「他者理解と他者受容を深める」という. 相互理解にねらいをおいた活動を展開することにより、学級の生徒間の信頼関係を築 くことが基本となると考えている。つまり、本研究では、生徒が自らの学級において 「心の居場所」感を持ち得るための教育的課題の一つとして、学級における人間関係、. とりわけ生徒相互の人間関係形成の向上の効果を期待する授業プログラムを開発し、. さらに、実験学級と統制学級を組織し、実験授業を実践し、心理尺度を用いて実証的 にその効果を吟味することを目的としている。 その授業プpグラムの基本的は構造は、「自己理解」・「自己受容」と「他者理解」・ 「他者受容」がその基礎となる。そして、「役割付与」・「役割取得」や「貢献感」など. と表現される学級においての活動の成果の「認知面」と「感情(達成感)面」の高揚を も図るものである。つまり、「認められている」・「役に立つ」という社会情動的な満足. 感と、「できる」という自己成長に関わる学習内容的な満足感とを得るためのプログラ ム(活動・取り組み)づくりが求められると考えたわけである。そこで、本研究の「心 の居場所」の定義から、「他者からの受容」・「自己の存在感の実感」・「魅力的な学級と. しての認知」を人間関係形成のための過程、または展開ととらえ、授業プログラムの開. 発を行うものである。「他者からの受容」については、Cooleyの鏡映自己やKohutの 自己愛ニーズの鏡に刺激を受けた他者理解と他者受容としてのアプローチを授業プロ グラム化したいと考えた。「自己の存在感の実感」については、Adlerの相互尊敬と. 25広島市教育センター 1998. 心の居揚所となる学級づくりを図る援助・指導の在り方 研究紀要18. p.102.. 一9一.
(18) 自己受容に刺激を受け、「自分は∼だと思う」という認知面の肯定的な自己理解と、「こ. れでいいんだ」という感情面の自己受容の2面からのアプローチを授業プログラム化 したいと考えた。「魅力的な学級としての認知」は、Meadの役割取得理論に刺激を 受けた協同活動と、一般化された他者に刺激を受けた合意形成のための交流の意味を 持ったアプローチを授業プログラム化したいと考えた。. 本来このような取り組みは、単発的、短期的のものではなく、年間を通して取り組 まれるべきものであろう。しかしながら、本研究は、取り組みにおける効果の吟味と いう目的のため、他の要因の影響を受け、検定に交絡がおきないように短期の取り組 みにするものである。また、介入的アプローチにより、比較検討するという実験的検 証の倫理的側面を考え、実験学級の実施日との問をできうる限りあけずに、統制学級 においても開発したプログラムの実験授業を行いたいと考えるものである。以上のこ とから、本研究としては、学級における様々な取り組みの中でも、学級担任が学級の 滞った雰囲気を蘇生させたいとの目的で取り組まれる活動に特化して実験授業のプロ グラムを開発し、実施し、検証するものである。. また、さらに本研究の開発した授業プログラムを活用し、継続的に活動が進めば、 生徒は常に「自己理解を深める」・「他者理解を深める」という相互理解の深化・拡大. 化がはかられ、学級における生徒間の肯定的な人間関係が形成されるばかりでなく、 自尊感情を高揚させることができるであろう。つまり、生徒はそれだけ学級集団に対 しても能動的・主体的・創造的にはたらきかけることができるようになるのではない だろうか。その教育効果も期待するものである。. そして、このような対人関係を築くためのコミュニケーションの一つ交流の方略を 学び、強化された経験により、自らが関わる様々な集団というものへの交流の在り方 への肯定的な自尊感情をも取得することになるのではないだろうか。つまり一般的な 対人関係における一つのコミュニケーションスキルの取得されること通じていくので はないかという期待である。. 一10一.
(19) 引用・参考文献 1。安藤清志 1994 見せる自分/見せない自分自己呈示の社会心理学サイエンス社. 2。蘭千壽 1986 対人魅力 対人行動学研究会編 対人行動の心理学 誠信書房 pp.147−157.. 3.蘭千壽 1990パーソン・ポジィティヴィティの社会心理学 北大路書房. 4.二千壽 古城和敬編 1996教師と教育集団の心理 誠信書房 5.Asher,S.R&CoieJ.D.1990 P66r吻60∫∫oη∫ηc痂」肋oo以Cambridge University Press,. 山崎晃 中澤潤監訳1996子どもと仲間の心理学一友だちを拒否するこころ 一 北大路書房. 6.遠藤達夫編 1981アイデンティティの心理学 ナカニシや出版 7.遠藤達夫 井上祥治 蘭千丁編 1992セルフ・エスティームの心理学 ナカ. ニシや出版 8.Hamilton,D. 1989 7;owαr43αη2ωη(ゾ5「choo伽8. Taylor&Francis Group Ltd.,. 安川哲夫訳 1998 学校教育の理論に向けて 世職書房 9.秦敏子 1990 学級通信と学級集団づくり 明石書店. 10.波多野誼余夫稲垣佳世子 1981無気力の心理学やりがいの条件 中公新書 11.広島市教育センター 1998心の居場所となる学級づくりを図る援助・指導の在 り方 研究紀要 18pp.101−122. 12.Hogg,M。A.1992 η36500’α1 P岬cholo8yげ(}roゆCoh83∫vθη63乱. 廣田君美 藤i下等監訳 1994 集団凝集性の社会心理学 北大路書房. 13.井口大介 1982人間とコミュニケーション 一粒社 14.垣佳世子 波多野誼余夫 1989 人はいかに学ぶか常識的認知の世界 中公新書 15.井上健治 久保ゆかり編 1997 子どもの社会的発達 東京大学出版会 16.石隈利紀 1999 学校心理学 誠信書房. 17.梶田二一 1966二三間系に及ぼす自己評価の効果一他者からの働きかけに対す る反応を規定する要因として一 心理学研究 38pp.63−72.. 18.梶田叡一1988 自己意識の心理学第2版東京大二三版会 19.梶田叡一 1985 子どもの自己概念と教育 東京大学出版会 20.狩野七二 1985 個と集団の社会心理学 ナカニシや出版 21.狩野二二 田崎敏昭 1990 学級集団理解の社会心理学 ナカニシや出版. 22.児島邦宏 1987信頼性を育む人間関係 ぎょうせい 23.片岡徳雄i1974 支持的学習団の形成 大進印刷. 24。片岡徳雄編 1975集団主義教育の批判. 黎明書房. 25.片岡徳雄編 1981全員参加の学級づくりハンドブック 黎明書房 26.片岡徳雄 高旗正人編 1987 全員参加の学級・学校行事づくりハンドブック. 黎明書房. 一11.
(20) 27.片岡徳雄編 lggo 特別活動論死福村出版 28.木下芳子編 1992 対人関係と社会性の発達 新・児童心理学講座,8 金子書房. 29.居回一郎 1999 アドラー心理学入門よりよい人間のためにKKベストセラーズ. 30.國分康孝 1998カウンセリング心理学入門 PHP研究所 31.古城和敬 1985 校風と級風 小川一夫編著 学校教育の社会心理学 北大路 書房 PP.114425. 32。Lundin,R.W.1989肋ア6〃4Zε酌B副。 Coηc6郷Aπ41吻1’oα’∫oη乱 Accelerated. Development Inc.,前田憲一訳 1998アドラー心理学入門 一光社 33,文部科学省http:〃www.mext.gojp/b_menu/houdou/14112/021215.htm. 生徒指導上の諸問題の現状について(概要)(平成14年12月25日) 34.文部科学省http:〃www.mext.gojp/a_menulshotou/clarinet/ijimeO5/052hmlいじめ問. 題に関する行政資料情報 登校拒否問題への対応について(平成4年9月24日) 35.文部科学省http:〃www.mext.gojp/b_menu/houdou108/07/960710.htm. 児童生徒の問題行動等に関する調査研究協力者会議・報告(平成8年7月) 36.文部科学省http:〃www.mext.gojp/b_menu/houdou/13104/0104103.htm. 少年の問題行動等に関する調査研究協力者会議報告(概要)(平成13年4月). 37.諸富祥彦 1996カウンセラーが語るこころの教育の進め方 教育開発研究所. 38.諸富祥彦 1997生きていくことの意味PHP研究所 39.諸富祥彦 1999学校で使えるカウンセリング・テクニック(上)(下)育てるカウ. ンセリング編・11の法則. 誠信書房. 40.望月衛 1984 社会心理学 共立出版. 41.中西信男 1981 自我の発達と自己概念の形成 中西信男 鐘幹八郎編 心理. 学10 自我・自己有斐閣pp.87−90. 42.成田国英 1988 子ども同士の人間関係 島田一男監修 1988 講座人間関係 の心理3学校の人間関係 ブレーン出版,pp.75−91 43.野田俊作 1994 アドラー心理学トーキングセミナー 星雲社.. 44.野田俊作 萩昌子 1989 クラスはよみがえる 創元社 45.小川一夫編 1980 学級経営の心理学 北大路書房. 46.小川一夫監修 1995改訂版社会心理学用語辞典 北大路書房. 47.大石勝男 森部英生編著1991特別活動の研究亜紀書房 48.Pitcher,G.D.&Poland,S.1992α∫3’3 Zη’θrv6η∫∫oη’η疏83chooZ乱The Guilford Press,. 上地安昭 中野真寿美訳 2000 学校の危機介入 金剛出版. 49.齋藤;勇編 1983人間関係の心理学 誠信書房 50.齋藤i勇編 1987 対人社会心理学重要研究集3 対人コミュニケーションの心. 理 誠信書房 51.齋藤勇 菅原健介編 1998対人社会心理学重要研究集6 人間関係の中の自 己 誠信書房 52.坂本昇一 1994 生徒指導の機能と方法 文教書院. 12一.
(21) 53.Shaver,K.G. 1975 、4ηZ彫ro4配6”oπ’o∠4πr∫わ漉。ηprooθ∬6∫.. 稲松信雄 生熊譲二訳 1981帰属理論入門一対人行動の理解と予測 誠信書房. 54.島田一男監修 1988講座人間関係の心理3 学校の人間関係 ブレーン出版 55.末永俊郎編 1987社会心理学研究入門 東京大学出版法 56.田口則良編著 2000 自分理解の心理学 北大路書房 57.対人行動学研究会 1986 対人行動の心理学 誠信書房. 58.高橋超 石井眞治 熊谷信順編 2002 生徒指導・進路指導 ミネルヴァ書房 59.高橋哲夫 原口盛次 井上裕吉編 2000 特別活動研究 教育出版 60.高橋哲夫 仙崎武 藤原正光 西君子編 2000 生徒指導の研究∼生徒指導・. 教育相談・進路指導・ホームルーム経営∼ 教育出版 61.高旗正人編著1995 どの子にも居場所がある学級づくり 明治図書 62.高旗正人 倉田侃司編著 1994 特別活動 ミネルヴァ書房. 63.高旗正人編 2000 学級経営重要用語300の基礎知識 明治図書 64.滝沢武久 1992 ピアジェ理論の展開一現代教育への視座一 国土社. 65.田中節雄 1999学校は子どもの個性を尊重するところである田中智志編〈教 育〉の解読 世織書房. 66.鎗幹八郎 1998恥と意地日本人の心理構造 講談社現代新書 1387. 67.主幹八郎 一丸藤太郎 鈴木康之編集 1999 教育相談重要用語300の基礎知. 識 明治図書 68.宇留田敬一 1984 人間の生き方を学ぶ特別活動特別活動研究全書1 明治図書 69.渡邉満 八並光俊 2000 中学校における「いじめ」・「不登校」に関する実践的指. 導の開発研究 マツダ財団研究報告書(青少年健全育成関係)13 財団法人マツダ 財団 PP.11−20.. 70.山田邦男編 1999 フランクルを学ぶ人のために 世界思想社 71.山中寛 富永良喜 2000 ストレスマネジメント教育基礎編北大路書房 72.八並光俊 1986 ラベリング論と集団指導 片岡徳雄監修 高旗正人 山崎博敏. 編 個を生かす集団指導実践体系2全員参加の授業をめざして一理論と実際 教育出版センター pp.31−51.. 73.図幅光俊 1988 学ぶ力・生きる力 片岡徳雄 斎藤i清三共編 心とからだの体. 験一今、地域は第二の学校一第一法規出版pp.175−205 74.幽幽光俊 1990 子ども(児童・生徒)の生活と教師の指導 片岡徳雄編著 教師. と子どもの間3子どもを伸ばす教師 ぎょうせい pp.141−164 75.山並光俊 1995 特別活動の実際一学級指導と学校行事の実際一麻生誠 松本. 良夫 秦政春編著 教科書外指導の課題一子どもの豊かな自己実現をめざして 一 学文社 pp.113−129. 76.羽並光俊 1997 望ましい人間の在り方を求める学年・学級経営の工夫 福村出 版PP.111−141. 13一.
(22) 2 学校での人間関係の実態 それでは、今ある中学生の学校や学級においての人間関係はどのようになっている のであろうか。その実態に迫るべく、様々な先行調査・研究のデータを総合的にみて、 児童生徒の思いの実態を探りたい。. 2.1学校での心のやすらぐ場所 児童生徒が学校の中で今、「心のやすらぐ場所」があると感じているのであろうか。 また、あるとするならそれはどこなのであろうか。 滋賀県総合教育センター(1999)による滋賀県内の小学校の4−6年生延べ657名、. 中学校1−3年生延べ712名に対して行われた調査の結果では、「あなたにとって学校 の中でホッとできる時間や場所はありますか」という問いに対して「ある」と答えて いる児童生徒が、74.5%いる。続いての「学校の中でホッとできるのはどんなときで すか」(複数選択)という問いに対して、「友だちと話したり遊んだりしているとき」を. 選択した児童生徒は、69.8%であった。ついで、「休み時間に自分の好きなことをし ているとき」が55.7%、「自分の好きなことを思いつきりしているとき」が42.8%で. あった。 また、「学校の中で一番ホッとできる場所はどこですか」という問いに対し て、「教室」と答えている子どもが39.7%いる。ついで、図書室の15.7%、廊下の11.1%、. 保健室の8.0%、運動場の7.1%、体育館の5.1%、と続いている。それでは「一番ホッ. とできる場所として選んだ理由はどれですか」の問いに対して、一番多い答えが「友 だちがいるから」の43%であった。次に多いのは、「なぜかよくわからない」の20% である。「そこに好きなものがある」や「自分の得意なことが十分できる」「思いつき り遊べる」を選択した児童生徒は、5−7%であった。. 以上のことから学校の中では教室に「心の居場所」を見いだしている子どもが多い ことを示しているといえよう。そして、学級での生徒相互の人間関係が、やはり児童. 生徒の「心の居場所」感に大きく影響していることことが推測される。逆にこの調査 から見えてくる課題としては、約25.5%の子どもが「学校には心のやすらぎがない」. と答えていることや、10%の子どもが「一人でいられるからホッとできる」と答えて いることである。つまり、学校では「心の居場所」がどこにもないと感じていたり、 集団で過ごすことに抵抗がある子どもが少なからずいることを示している。26. 26滋賀県総合教育センター 1999研究紀要41pp.19−36.. 14一.
(23) 2.2 学級での人間関係 それでは、級友としての人間関係は、どうなっているのであろうか。 ベネッセ教育研究所(2001)が、東京・神奈川・埼玉・群馬の公立中学校1∼3年生. に対して2度(1回目6月:延べ2,167名、2回目11.月:延べ2,210名)にわたって 行った調査である「まわりの人との関係はうまくいっていますか」のという大乱中の 「学級の友だちとの関係」に対して、「とてもうまくいっている」と答えた児童生徒は 6月は30.9%であり、11,月は27.4%であった。また、「わりとうまくいっている」と. 答えた児童生徒の6月は45.8%であり、11,月は46.7%であった。6,月と11月の変化. はあまりなく比較的安定しているといえよう。27 永井(2001)は、この調査の「学級での友だちとの関係がとてもうまくいっている」. +「わりとうまくいっている」と「学校の楽しさが、とても楽しい」+「わりと楽し い」というデータをクロス集計した。その結果「楽しい→楽しくないに変化群」の間 では84.9%>66.3%、「楽しくない→楽しいに変化群」の間では、68.9%>83.5%の変. 化を見いだした。つまり「学級の友だち関係がうまくいっていて、学校が楽しくない と感じる生徒は減少し、学級の友だち関係がうまくいっていて、学校が楽しく感じる 生徒が増加したということは、学級内の肯定的な人間関係は「居心地」感への効果を. 示しているのではないだろうか」と指摘しているのである。28 ただし、この調査には疑問点がある。それはこの調査の質問紙上の「友だち」とは、 級友全員を対象として、つまり、フォーマルな二丁関係について答えさせているのか、. 学級の中の一部の仲のよい友だち、つまりインフォーマルな人間関係に限定して問う ているのかが曖昧である。. では、一括りにいう「学級の友だち」とは、どのような位置関係の友だちとして認 知されているのであろうか。またその割合は、どうなっているのであろうか。 ベネッセ教育研究所(2001)29が、小学生を対象にした調査ではあるが、「あなたの. 学級の中にどんな友だちがいますか」という調査をしている。その問いに対して学級 の中の友達を以下の4つのタイプの割合で表している。「仲良しグループの友達」と 答えた児童が20.5%、「普通の友だち」と答えた児童が38.5%、それらを合わせると. 約60%を占めるものの、「あまり関係のない人」と答えた児童が26。3%、「何となく気 が合わない人」と答えた児童が、14.7%であった。学級の中の友だちで「あまり関係. のない人」と「何となく気の合わない人」が40%以上いるのである。つまり、この ことは学級での友だち関係が特定化している現状も示しているのではないだろうか。. また、自己概念の代表的な研究手法であるWAI(Who Am I?)技法30による分析. 27ベネッセ教育研究所 2001モノグラフ・中学校の世界69居場所としての学校 p.14. 28永井聖二 2001モノグラフ・中学校の世界69居場所としての学校 ベネッセ教育研究所 p.65. 29ベネッセ教育研究所 1998モノグラフ・小学生ナウ118(2)友だち関係 p.19. 30WAI(Who Am I?)技法とは、「私は誰でしょう?」という問いに20通りの回答を自由に記述するもの で、20答法ともよばれる。. 15一.
(24) を行った岩熊・棋田(1988)によれば、「子どもの自己概念は、幼児期から青年期にか. けて、持ち物や習慣、身体的特徴などといった外面的な特徴の記述から、対人関係の 在り方、性格や価値観などの内面的な特徴を中心とした多様な記述内容へと変化して いく」ことが明らかにされている。31 学校や学級における「居心地」感に影響する 対人関係の在り方が、表面的な要因から内面的な要因によるつながりへと深化してい くこと、そして、自己概念を決定する要因にもなっていることが示されたといえよう。. 2.3 学校での不安と気遣い 次に児童生徒の学級での「心の居場所」感に対するネガティブな面に目を向けたい。 つまり、学校や学級での生活における不安についての調査を見ることにする。. 八二(1997)は、1986年に実施された指定都市の小4、小6、中3の各学年4,000名 弱の延べ11,953名に対して行われた『子どもの学校観』調査32を考察している。 その調査では、「友だちと仲良くつきあっている」と答えた児童生徒が、小学校4 年生男子で40.6%、学校4年生女子で40.7%、小学校6年生男子で36.5%、小学校6 年生女子で33.2%、中学校3年生男子で32.6%、中学校3年生女子で27.5%と、成長. とともに男女を問わず減少しており、学年が上がるにつれて、友だちとのつきあい方 に不具合を感じている傾向があらわれていた。また、自分は友だちに「どのように見 られているのか分からない」と答えた児童生徒が、小学校4年生男子で47.6%、学校4 年生女子で465%、小学校6年生男子で、54.8%、小学校6年生女子で55.4%、中学 校3年生男子で58.5%、中学校3年生女子で66.2%、であった。男女を問わず学年が 上がるにつれて分からなさは増加している。八三はこのようなデータから、「学年が 上がるにつれてお互いの共通理解が乏しくなる傾向を読みとり、級友との連帯性の希. 薄さを危惧している。つまり、この様な状況では個性は認めあえず、信頼関係や規範 意識は育ちにくい」ことを指摘している。33 さらに八二・村岡(2001)は、「人間関係は、自然発生的な時間の経過とともに信頼. 的になるのではなく、理解と共感的な関わりを通して形成されるものであり、いわば 今日の児童生徒の対人関係の課題は、教師と児童生徒、または児童生徒同士の関係の. 機能不全ととらえることが妥当であろう」と指摘している。34 これらは、自他の多面性を他者との関わりの中で相互に発見していく力を育てるこ との必要を訴えているのであり、本研究もこの観点に立ち研究を進めるものである。. 31岩熊史朗 織田仁 1991セルフ・イメージの発達的変化.社会心理学研究 6pp.155−164. 32指定都市教育研究所連盟編 1986 子どもの学校観 東洋館 p.11. 33八並光俊 1997 望ましい人間の在り方を求める学年・学級経営の工夫 福村出版 pp.112−113.. 34八並光俊 村岡正典 2001小学校の教科担任制による学習援助システムに関する研究 兵庫教育大 学生徒指導研究会編 生徒指導研究12 pp.35−44. 16一.
(25) ベネッセ教育研究所(1998)の東京都の中学生1∼3年生、延べ1,235名を対象にした「学. 校での不安と気遣い」についての調査では、「友達関係がこわれないか不安」「自分の. 悪口を言っているか気になる」と感じている児童生徒が多くいることが明らかとなっ た。その具体的な割合は、「友達関係がこわれないか不安」という問いに対して、「と てもそう思う」が15.1%、「わりとそう思う」が24.9%であった。また、「自分の悪口. を言っているか気になる」という問いに対して、「とてもそう思う」が13.3%、「わり とそう思う」が26.0%であった。その他の項目では、「仲良しでも悩みは話せない」 という問いに対して、「とてもそう思う」が12.1%、「わりとそう思う」が22.4%であ. った。また「友だちからバカにされていると思う」という問いに対して、「とてもそう 思う」が9.3%、「わりとそう思う」が18.8%であった。また「いじめにあうのではな いか不安」という問いに対して、「とてもそう思う」が6.4%、「わりとそう思う」が10.2%. であった。これらの調査結果は、自分に自信が持てない否定的な自己像が友達関係、 級友関係での不安の根底にあることを示しているといえるのではないだろうか。35 しかしながら中学生は思春期の心理的な特徴が顕著に見られる時期である。第二次 成長に伴う不安感や自己の目覚めによる自他の否定や批判、反抗などの心理特性から、 誰もが潜在的な不安や不満を持つ一面も考慮しなければならないであろう。 また、高田(1993)は、日米両国の大学生を対象とした調査ではあるが、「日本人学 生の方が、類似他者(ここでは同年齢の他者)との比較を行いやすい。そしてまた、自. 己認知の様々な側面についても、全般的に類似他者を比較対象にする」ことを明らか にしている。日本人の学生は、この高田の開発した質問紙の相互依存的自己理解の項 目の例の言葉を借りると、他者の視線が気になったり、他者の評価を気にする傾向が 強いことを示唆している。日本の大学生が、他者からの評価を強く気にする傾向が、 大学生になってもまだ続いていることが読みとれる。36. 2.4 学級での「心の居場所」感の意識差 このような各種の調査から、中学生に学級のおける「心の居場所」感に学級の人間 関係が大きく影響している実態は明らかになってきた。しかしながら、今まで見てき た調査のほとんどが、学級集団や学年集団を一括りにした調査研究であった。学級の 生徒の人間関係の実態を探る上で、明らかにしなければならない生徒の認知の差によ る検討をする必要がある。. 滋賀県総合教育センター(2001)は、滋賀県内の小学校の4∼6年生延べ380名、中. 学校1∼3年生延べ431名に対して、「友だち関係」を問う質問紙調査を行い、その 回答の「友だち関係の肯定感」の得点の上位群をH群(児童生徒の割合18.0%)とし、. 35ベネッセ教育研究所 1998モノグラフ・中学校の世界 61 キレる・ムカつく p40. 36高田利武 1993 青年の自己概念形成と社会的比較 教育心理学研究41 pp.339−348.. 一17一.
(26) 以下順にRH群(260%)、M群(18.2%)、血忌(18.9%)、 L群(18,7%)の5つの群に分. けて、その実態を明らかにしている。つまり、「友だち関係の肯定感」群別に、「あな たは学級にいるとホッとしますか」・「あなたは学級で役に立っていると思いますか」・ 「あなたは友だちのがんばりに気がついていますか」・「あなたの気持ちを友だちは分. かっていてくれますか」という学級の居場所感についてとの検討がなされているので ある。それらの全ての質問に対して、友だち関係の肯定度の高いH群の児童生徒は、. 肯定的な解答を示していた。それに対し、L群の児童生徒は、否定的な解答を示す傾 向が顕著に現れていた。それぞれの具体的な割合を示すと、「学級にいてホッとする」. と「少しする」と回答した児童生徒はH群で79.5%、RH群で76.4%、 M群で72.3% であるに対し、RL群で63.4%、 L群で44.1%と急激に減少している。 L群の半数以上. の児童生徒が居心地が良くないと答えていることは注目すべきである。つまり、友だ ちとうまく関係をとれない児童生徒(L群)ほど、安心感を持って学級にいない傾向が. あることを示している。滋賀県総合教育センターの分析によると、小学校よりも中学 校の方がその傾向が強いことも指摘している。この分析結果は、先の八並(1997)の分 析とも一致している。. 次に、高旗(2000)の言葉を借りれば「役割付与」になるが、「自分が役に立ってい るか」という問いに対して、否定的な回答の割合は、RL群で37.8%、 L群で60.4%. であった。友だちとの関係をうまくとれないし群の児童生徒は、「役割付与」の面か ら見ても自信のなさが明らかとなった。続いて、「友だちが自分と違うめあてで頑張っ ていることに気づくか」という他者理解の面である。L群の否定的な回答(48.0%)は、H. 群(11。1%)の4倍以上になる。ここにおいても友だちとの関係をうまくとれないし 群の児童生徒のネガティブな傾向を顕著に示す結果となった。最後に、「あなたの気持. ちを友だちは分かっていてくれますか」という他者受容の面の問いに対して、L群は 68.8%が否定的な回答をしているのに対して、H群は85.6%が肯定的な回答をしてお. り、二極化を最大に示していた。友だちとの関係をうまくとれないし群の児童生徒 は、自分は理解されていないと強く感じているのである。37. 以上の意識調査から、生徒の学級での人間関係と「心の居場所」感の課題が再確認 されたといえよう。このことは取りも直さず、人間関係の形成や向上のためのキーワ ードである。第一には、級友の変化や心の動きに気づき、級友の思いや行動を認めあ えるかである。第二には、学級において自らを活かして活動できる場面があり、それ が級友に認められたという実感が得られるかである。第三には、自分を肯定的にとら えられるかである。. 37滋賀県総合教育センター 2001研究紀要43pp.19−36.. 18一.
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