Table 5.24 自尊感情度(W)の事前事後の得点の男女別階層別推移 実験学級B男子
@ N=25
実験学級B女子
@ N=26
実験学級C男子
@ N=23
実験学級C女子
@ N=23
という生徒の認知を肯定的な方向に変容させる効果が、証明されたといえよう。また、
その効果は、生徒間の不安の程度の高い学級集団への効果が、より期待できる可能性 があることや学級に対しての肯定的なイメージの高い学級集団への効果がさらに期待 できる可能性があることも明らかとなった。また、性差による効果の違いも認めれた。
それらは男子への効果の可能性が高い傾向が検証されたのである。
しかるに可能性と表現しているのは、この授業プログラムとその結果が、すぐさま 一般化できるまでには、幾つかの検証をふまえる必要があると考える。その一つは、
第1次の実験授業において「自尊:感情度(W)」に対する効果が、証明されなかったこ との分析、ならびに考察がさらに必要になろう。
第1次の実験授業時に統制学級であった学級への補償授業を行うために、この授業 プログラムの改善という観点で考察を進めたい。
5.3 第2次実験:授業への課題
まず、第1の課題である。「学校生活充実感調査」の中の「自尊感情」では、ポイント は上昇しているものの誤差の範囲であり、有意な差は認められなかった。実験室実験 とは違い、このような介入的アプローチによる実験研究の場合、完全に独立変数以外 の要因をコントロールすることは難しい。そのため、予想できうる限りの好条件下を 選択して実践するものである。
その難しさの1つめは、日常の学校生活で起こりうる影響によるものである。本実 験授業においても、本研究の授業プログラムの内容が特別活動であるため、対象校で 学校生活上で特に行事等の予定のない時期に行った。実験授業期間中に学級全体を揺 さぶるようなトラブルや出来事も報告されていない。これらの点においては交絡は防 げたと思える。しかし、学期末という時期であっため、テストや学業成績などへの関 心が高い時期であり、その影響がないとは言い切れない。学業に対する要因が自尊感 情に影響を及ぼすことは、容易に想像がつく。「学校生活充実感調査」の場面別不安を Table 5.4で示したが、それによると、 B組とC組の両実験学級で共通している変容 は、「生徒間の不安」の低減だけである。この意味で本実験授業の効果は感じられるが、
テストや学業面での影響は既に指摘したとおりであるが、統制学級A組の「テスト」
・「学業」・「進路」・「授業」の学業面の不安の程度の低減が、「自尊感情度(W)」の向 上に果たす効果は大きいといえよう。逆に、両実験学級との学業面の不安の低減の効 果は少ないといえる。さらに実験学級C組には「進路」と「対教師」において不安の 程度の増加の傾向が認められる。ここでいう教師とは、質問内容から、担任教師のこ
とをさしているのであるが、そこでの不安要素の発生とその影響が考えられる。それ ら要素と級友問における不安の要素が、まさに交声し「自尊感情度(W)」の得点に影響
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した可能性が考えられる。
また、もう1っの介入的アプローチの独立変数以外の要因をコントロールすること の難しさは、教師の無意識的な影響が考えられることである。本研究は同一校の同一 学年内での実験研究であるため、何ら変化を要請しない統制学級への教師の指導が、
いわゆるホーソン効果的な影響が起こった可能性を否定できない点である。ここでい う統制学級の教師のホーソン効果とは、実験事態において、実験操作自体ではなく、
特別に注目されて観察されているという意識から被験者の行動が変化することをホー ソン効果(Hawthome Effect)というが、同一の学年集団内に本研究プログラムが展開 されていることは学年の教師集団としては周知の事実であり、その影響が無意識的に 生徒への指導に表れていた可能性が否定できないという意味で、ホーソン効果的な影 響とした。
次に、第2次実験授業に向けての第2の課題である。それは、学級通信の表現手段 についての課題である。つまり、紙へ表現する前に、自分の文字の不得意さやイラス トの苦手意識を表す生徒がいたことである。生徒によっては今までの経験から、この ような紙への表現活動に対しての苦手意識を持っていたのである。また、紙への表現 は、決して目新しさがあるわけではない。もうマンネリ化さえ感じている生徒も認め られたこともある。このような動機的意識の弱さからも、より内発的動機を揺り起こ すことができなかったという課題意識を持った。さらには、「学級雰囲気度」の情緒的 な意味空間のイメージの有り様を図式化したFig.5.26〜Fig。5.31において、「活動性」
に今回の授業プログラムの課題があることは明確であったこともその根拠の一つであ る。生徒の活動がより活動的になるようになプログラムの改良が求められたのである。
この二つの課題をふまえて第1次の実験授業を改良し、第2次の実験授業の開発を 試みることにした。それは、表現方法を紙ではなく、コンピュータを利用してのデジ
タル学級通信を創るということである。第1次実験授業では、対象中学校のホームペ ージへに生徒が創った学級通信の匿名化を図ったものを掲載したが、現時点では、対 象校の生徒の家庭でのネット環境は、生徒によって、大きく偏った状況にあることも 確認した。また、対象となる生徒には、コンピュータの使用経験をほとんど持たない 生徒もいたが、生徒のコンピュータへの関心は高いのである。近い将来、生徒を取り 巻くコンピュータ環境が、一変することは時代の要請からしても間違いないであろう。
6「生徒が創るデジタル学級通信」の開発
6.1「生徒が創るデジタル学級通信」開発の目的
学級通信の表現手段についての課題を解決するために、表現する媒体を紙ではなく、
コンピュータを利用してのデジタル学級通信を創るということである。しかしながら 対象となる生徒は、コンピュータの経験をほとんど持たない生徒もいる。
そこで、バックワード・チェイニングの理論を応用し、まずは最小限の入力で完成 させることを第一義としたプログラムの作成を試みた。生徒の関心も高く、現代の教 育課題にも即し、色彩、写真、音声や動画など、より創造的表現活動の可能性をを広 げる要素の多いデジタル学級通信により、創造的活動への意欲を喚起できるのではな いかと考えた。また、一枚のデジタル学級通信を創るために、計画や分担さえできて いれば、各自が創ったパーツを一つにまとめることも容易であり、集団活動で「役割取 得」や「貢献感」などを得る取り組みになるのではないであろうか。
さらには、コンピュータを利用してのデジタル学級通信を創ることにより、生徒相 互のコミュニケーションが生徒たちの非言語的な交流まで表現できる可能性を広げる のではないかと期待するものである。そしてまたペンとは違う取材機器の導入や表現 の可能性は、敏腕な取材記者としてまた別角度の「鏡」となり「いいとこ発見」をし、
表現する。活動性の拡大の可能性を期待しているのである。
6.2第2次実験:授業の内容
6.2.1第2次実験授業の方法
このプログラム全体に流れる目的は変わらない。特に前半は、第1次の実験授業プ ログラムと目的も展開も全く同じである。
生徒4名ずつのチームを無作為性を得るために、くじ引きにより編成し、自らが級 友を映す「鏡」となって、対象のチームの構成メンバーの一人ひとりの「いいとこ発 見」に試みる。そして各チームごとに「いいとこ発見」というテーマで「生徒が創る 学級通信」として各自の「いいとこ発見」を吟味する。具体的に学級通信の制作には いるまでは、今回はコンピュータを使用することは告げない。前半の内容に集中した いがためである。チーム内の意見のすりあわせが終わったところで、今回は紙にでは なく、コンピュータを使ったデジタル学級通信であることを告げる。コンピュータを 使って学級通信を書き、印刷するのではない。コンピュータ自体に書き残すのである。
もちろんCD等に記録することは可能であり、その形で発信する。
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取り組みを通して「級友理解」・「級友受容」・「自己理解」・「自己受容」・「役割取得」
・「貢献感」そして、「自尊感情」の肯定的変容の効果を期待することも同じである。
ただし、コンピュータへの入力方法の理解や、入力に時間を必要とするであろうこ とが予想できるもの、第2信に取り組む時間が十分に確保できそうもない。第2信と は、デジタル学級通信を制作しての感想と、級友が書いた自分についての「いいとこ 発見」を読んでの感想、さらには保護者等の家族や先生方の感想も取材し、それらを まとめたものである。この活動はシェアリングとして、またそれを受けてのフィーッ ドバックの場として重要である。そこで、この第2次の実験授業では、この第2信の 制作活動のみ縮小し、第1信の制作の最終場面で、各チームのコンピュータを開放し、
生徒が自分について掲載されている「いいとこ発見」の内容を読んだり、他チームが 制作した画面を操作し視聴できる場面を設けることにした。そして、その感想を各生 徒は、感想文にして書き、提出する。その後、その内容を新たな感想のページとして 創り、生徒が創るデジタル学級通信の第1信にリンクさておくことにした。
なお最終的には、この「生徒が創ったデジタル学級通信」は、生徒に一枚ずつ、CD にして配布することになる。
6.2.2 第2次実験授業の検定方法
この第2次実験授業プログラムの対象となる学級は、第1次実験授業での統制学級 である。この第2次の実験授業プログラムは、第1次実践の補償授業を本研究の第2 次実践とする。そのような環境のため、心理尺度の質問紙による調査研究は、該当学 級のみとし、第1次授業実践から問がないため、統制学級のデータを求めないとした。
また、第2次実践で実施する質問紙も、第1次実践から間もないため、第1次実践と は違う質問紙を用意し実施するとした。
そこで第2次実践では、第1次実践で有意な差が認められなかった「自尊感情」に ついて「自分についての意識に関する調査」として、Rosenbergの自尊感情尺度(1965)
を用いて実施した。質問項目も10項目と少なく、生徒にかかる負担が小さくてすむ 点も、今回の状況下にはよいと判断した。
Rosenbergは、自尊感情を「一つの特殊な対象、すなわち、自己に対する肯定的ま たは、否定的態度」とし、自尊感情には「とてもよい」(vefy good)と感ずる場合と、
「これでよい」(good enough)と感ずる二つの異なる意味があるとしている。前者は、
他者との比較によって生ずる感覚であり、後者は、自分自身で設定した要求水準や理 想的な自己イメージに照ら合わせて生じた感覚である。Rosenbergは後者の自尊感情 の考えを採用している。65
65高旗正人・倉田侃司・太田佳光・相原次男編 2000 特別活動 ミネルヴァ書房 p,26.