博 士 ( 歯 学 ) 古 谷 忠 典
学 位 論 文 題 名
連 続 切 片 を 用 い た 組 織 構 造 の 三 次 元 再 構 築 自 動 化 の 試 み 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
【緒言】連続切片から三次元再構築を行うにあたり、顕微鏡写真から得た組織像から任意 の構造を手作業によるトレースを行って抽出する場合が多い。しかし、この作業は主観の 関与や個人の技量の差によって再現性や精度の低下が起こりやすいという欠点があった。
これらを克服するためにコンピュータによるデジタル画像処理の応用が考えられる。これ により、形状や境界の判断基準の定量化による再現性の向上と、作業時間の短縮が可能に なると思われる。
現在、コンピューターを用いた画像処理が医学生物学の分野で広く行われているが、こ れらはデジタルX線写真やCT、MRエ等から得たモノクロ画像を基本としている。また組織 切片には、鍍銀染色やオスミウム染色、蛍光染色、マイクロラジオグラフイ等の特殊な可 視化処理を施した後に、モノクロの画像として画像処理を行っている。しかし、標本から 特定の構造を抽出する場合、日常使われるヘマトキシリン―工オジン染色では、構造の識 別は色の濃淡ではなく色合いの差に依存しており、従来から行なわれているグレースケー ルでの画像処理技術の応用が難しいと考えられる。したがって、カラー画像を用いた画像 処理の方法が必要となるが、組織切片から得たカラー画像を使って特定の構造を簡単に抽 出できるような手法 はまだ確立されていない。
筆者らは今までの研究において、任意の画像から特定の色を持つ構造を抽出する画像処 理の手法である最尤法を用いてヘマトキシリンーエオジン染色を施した組織切片上で歯と 骨を自動識別する方法を開発した。しかし、この方法は、抽出したい構造の色の特徴をも つ領域の一部(教師 領域)を1枚の切片の画像ごとに指定しなければならなかった。そこ で本研究では、この方法を複数枚におよぶ連続組織切片において構造抽出が行えるように 改良および発展させて、三次元再構築に不可欠なトレース作業を自動化する方法の開発を 目的とする。
【材料と方法】ヘマトキシリン.エオジン染色が施されたネコ歯周組織の連続切片標本の 画像を顕微鏡からデジタルカメラで入カした。これらの画像を、赤、緑、青ごとに階調度 の調整を行った後、教師領域を選定した。そして、この領域の色情報から求めた判別方程 式を全体画像に適用 し、最尤法により目的の構造を抽出した。この方法を、任意の1枚の 組織切片に応用し、得られた抽出結果の画像を基準画像とした。そして、この切片の基準 画像を用いて隣接した切片から構造の抽出を行った。その方法として、基準画像から構造 物の存在部位を黒、それ以外を白で表わしたマスク画像を作成した。このマスク画像を抽
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出したい構造ごとに作成し、これを型紙として階調度の調整を行った次の切片から教師領 域を切り抜いて、同様に目的構造の抽出を行った。この方法により隣接した切片からの構 造抽出を行った後に、さらにその抽出結果の画像を次の切片に利用するためのマスク画像 の作成に使用する。このような処理を隣接した切片の画像に繰り返して行うことにより、
1つの任意切片において手作業で教師領域の設定した後、連続した複数の切片の画像から 自動的に構造の抽出を行った。
このようにして得られた歯と骨の抽出結果の画像には、軟組織内に存在する歯や骨と同 じ色調をもつ部分も同時に含まれていた。これら対して領域拡張法による修正を行った後、
三次元再構築を行った。
また、抽出された構造の輪郭線の位置と、視覚によるトレース作業の結果とを比較する ために、最尤法により処理された抽出結果の画像から計算により求めた歯根膜腔の幅と、
十分に 訓練された10人の組織研究者によってノギスにより計測された歯根膜腔の幅との 比較を行った。
【結果】ネコ犬歯歯頭部に相当する切片を検索材料として使用した。1枚の切片から基準 画像を 得た後 、その切 片から歯 頚部側に連続する4枚、同様に歯根側に連続する11枚の 計16枚の 切片か ら自動抽 出を行 ったが。その内の1枚については構造の抽出が十分に行 な わ れ て い な か っ た た め に 、 抽 出 処 理 を 手 動 で 行 う 必 要 が あ っ た 。 自動的に抽出された結果の画像においては歯および骨は十分に抽出されていたが、歯や 骨と同じ色調の軟組織内の構造も同時に抽出されていた。これらの除去の為に、領域拡張 法を用いたが、必要な時間はわずかであった。
自動的に抽出されなかった切片の画像では、階調度の再調整と構造の抽出を2段階に分 けて行ったが、歯槽骨の一部が抽出されず、また歯や骨の一部として歯根膜が抽出されて おり、十分な抽出結果を得ることができなかった。
切片1枚当たりの作業時間としては、手作業によって約14分かかるトレースの作業が、
基準画 像の作成に約8分、そして連続処理された隣接する切片では約5分に短縮されてい た。
抽出結果の画像から作成された三次元再構築像より、歯槽骨表面の骨髄側と歯根膜腔側 の立体的観察を行った。また、歯槽骨の透視像を作成することによって、歯槽骨内部に存 在 す る 歯 根 膜 腔 と 髄 腔 と の 間 を 連 絡 す る 貫 通 管 の 走 行 を 観 察 で き た 。 歯根膜腔の幅の測定結果は、最尤法によって得られた画像から計算された値と、視覚に よって求められた幅の平均値が近似していた。
【考察】今回、画像処理を行う切片の画像の大きさは三次元再構築に適当な大きさになる ように決定した。他の組織画像へ応用する場合は、それに応じた解像度と画像の大きさを 扱うことができる内部記憶容量と、切片の数に応じた外部記憶容量、そして十分な演算速 度がコンピューターに必要であると思われる。
最尤法による構造の抽出において、切片の染色性について、1)抽出したい構造が近 似した色の特徴を持っていること、2)互いに異なった構造として抽出されるためには、
それぞれの持っ色調がある程度異なっていること、という条件が必要であった。その為、
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染色一分別の違いにより自動抽出が行えなかった切片が存在した。この様な切片に対して、
色空間グラフを用いた階調度の再調整や、構造の抽出を近似した色毎に2段階に分けて構 造抽出を行ったが十分な抽出結果を得ることができず、染色段階で組織切片の染色を適切 に行う必要性が示唆された。
本方法で連続的に自動処理を行うために切片作成時に必要とされる条件として、隣接す る切片に含まれる構造の形状や位置が大きく異ならない程度の切片の厚さで、均一の厚さ に薄切されており、切片は均一に分別、染色されており、切片の歪みができるだけないこ とが挙げられた。
また最尤法によって得られた歯と骨の抽出画像を三次元再構築に用いる場合、歯や骨の 同じ色調を持つ同時に抽出されてしまった軟組織の部分を取り除くような画像の修正が必 要であった。これらの軟組織中の歯や骨と同じ色調をもつ抽出対象外の構造は歯や骨組織 と 異なり 、小型で孤立しているため領域拡張法によって容易に取り除くことができた。
最尤法によって得られた構造の抽出結果が、手作業によるトレースの結果と差異がある かどうかを、歯根膜腔の幅を計測することによって比較した。その結果、教師領域を主観 によって選択した上で最尤法によって得られた組織の輪郭が、熟練した研究者が視覚によ って求められた組織の輪郭と非常に近いと考えられた。
今回開発した方法により、連続組織切片から手作業によるトレースを行う事なしに組織 構造の抽出が可能となり、三次元再構築における省力化と再現性および精度の向上するこ とができた。
学位論文審査の要旨 主 査 教授 脇田 稔 副 査 教授 中村進治 副 査 教授 吉田重光
学 位 論 文 題 名
連続切片を用いた組織構造の三次元再構築自動化の試み
審査は、主査、副査がそれぞ れ個別に学位申請者に対して、提出論文の内容と そ れに関連した学問分野につい て口頭試問により行われた。審査論文の概要は、
以 下の 通り であ る,
【緒言】
連続 切片 から 三次 元 再構築を行う場合、顕微鏡写 真から得た組織像を手作業でトレース を 行い 抽出 する 場合 が 多い しかし、この作業は主 観の関与や個人の技量の差によって再 現 性や 精度 の低 下が 起 こりやすいという欠点があっ た。これに対しコンピュータによるデ ジ タル 画像 処理 を応 用 することにより、形状や境界 の判断基準の定量化による再現性の向 上と、作業 時間の短縮が可能になると思われる,
現在 、コ ンピ ュー タ ーを用いた画像処理が医学生 物学の分野で広く行われているが、こ れ らは グレ ース ケー ル の画像を基本としているもの が多いュ標本から特定の構造を抽出す る 場合 、ヘ マト キシ リ ンーエオジン染色では、構造 の識別は色の濃淡ではなく色合いの差 に 依存 して おり 、従 来 から行なわれているグレース ケールでの画像処理技術の応用は難し く 、カ ラー 画像 を用 い た画像処理の方法が必要とな るが、このような手法はまだ確立され ていない,
筆者 らは 今ま での 研 究に、任意の画像から特定の 色を持つ構造を抽出する画像処理の手 法 であ る最 尤法 を用 い て組織切片上で歯と骨を自動 識別する方法を開発したっ本研究は、
こ の方 法を 複数 枚の 連 続組織切片でも構造抽出が行 えるように改良および発展させて、ト レース作業 を自動化する方法の開発を目的とする,
【材料と 方法】
ヘマ トキ シリ ン― 工 オジン染色されたネコ歯周組 織の連続切片標本の画像を顕微鏡から デ ジタ ルカ メラ で入 カ した,これらの画像を、階調 度の調整を行った後、教師領域を選定 し、この領 域の色情報から求めた半亅亅別方程式を全体画像に適用した後、最尤法により目的 の 構造 を抽 出し た; こ の方 法を 任意 の1枚の 組織 切 片に応用レ、得られた抽出結果の画像 を 基準 画像 とし た、 そ して、この基準画像を利用し て隣接した切片の画像を切り抜いて教 師 領域 を作 成レ 、こ れ を用いて隣接レた切片の画像 から構造の抽出を行った。この方法に よって得た 結果の画像を、さらに次の切片の教師領域として利用し、繰り返すことにより、
1つ の任 意叨 片に おい て手 作業 で教 師領 域の 設定 し た後に、連続した複数の叨片の画像で の 自動 的な 構造 の抽 出 が可能となる:これらの結果 の画像に対して領域拡張法による修正 を行った後 、三次元再構築を行った・
また、掃I|t:された構造の輪郭線の位置と、視覚によるトレース作業の結果とを比較する た めに 、最 尤法 によ り 処理された抽出結果の画像か ら計算により求めた歯根膜腔の幅と、
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十 分に 訓練 され たl0人の 組織 研究 者に よっ てノ ギ スにより計測さ れた歯根膜腔の幅との 比 較を 行っ た,
【 結果 】
ネ コ 犬 歯 歯 頚 部 に 相 当 す る 切 片 を 検 索 材 料 と し た。1枚 の切 片か ら 基準 画像 を得 た 後 、 そ の 切 片 に 連 続 す る 計16枚 の 切 片 か ら 自 動 抽 出を 行っ た。 その 内の1枚に つい て は 十 分 に 構 造 の 抽 出 が 行 な え ず 、 処 理 方 法 を 工 夫 す る 必 要 が あ っ た 。 切 片1枚 当 た り の 作 業 時 間 と し て は 、 手 作 業 に よ っ て 約14分 か か る ト レ ー ス の 作 業 が 、 基 準 画 像 の 作 成 に 約8分 、 そ し て 連 続 処 理 さ れ た 隣 接 す る 切 片 で は 約5分 に短 縮 さ れて いた 。
抽 出 結 果 の 画 像 か ら 作成 され た三 次元 再構 築像 より 、歯 槽骨 表面 の 骨髄 側と 歯根 膜 腔 側 の 立 体 的 観 察 を 行 った 。さ らに 歯槽 骨の 透視 像を 作成 する こと に よっ て、 歯槽 骨 内 部 に 存 在 す る 歯 根 膜 腔 と 骨 髄 腔 と の 間 を 連 絡 す る 貫 通 管 の 走 行 を 観 察 で き た 。 歯 根 膜 腔 の 幅 の 測 定 結果 は、 最尤 法に よっ て得 られ た画 像か ら計 算 され た値 と、 視 覚 によ って 求め られ た幅 の平 均値 が近 似し てい た 。
【 考察 】
今 回 、 画 像 処 理 を 行 う切 片の 画像 の大 きさ は三 次元 再構 築に 適当 な 大き さに なる よ う に 決 定 レ た ュ 他 の 組 織画 像ヘ 応用 する 場合 は、 最適 な性 能を 持つ コ ンピ ュ一 夕一 が 必 要で ある こと が考 えら れた 。
最 尤 法 に よ る 構 造 の 抽 出 に お い て 、 切 片 の 染 色 性に つい て、1) 抽 出し たい 構造 が 近 似 し た 色 の 特 徴 を 持 っ て い る こ と 、2) 互 い に 異な った 構造 とし て 抽出 され るた め に は 、 そ れ ぞ れ の 持 つ 色調 があ る程 度異 なっ てい るこ と、 とい う条 件 が必 要で ある こ と が 、 自 動 抽 出 が 行 え な か っ た 切 片 で の 抽 出 結 果 の 画 像 か ら 示 唆 さ れ た 。 ま た 最 尤 法 に よ っ て 得 ら れ た 歯 と 骨 の 抽 出 画 像 を 三 次 元 再 構 築 に 用 い る 場 合 、画 像 の 修 正 が 必 要 で あ っ た が、 小型 で孤 立し てい るた め領 域拡 張法 によ っ て容 易に 取り 除 く こと がで きた 。
歯 根 膜 の 幅 の 測 定 結 果 か ら 、 最 尤 法 に よ っ て 得 ら れ た 組 織 の 輪 郭 が 、 熟 練 し た研 究 者 が 視 覚 に よ っ て 求 め ら れ た 組 織 の 輪 郭 と 非 常 に 近 い と 考 え ら れ た 。 今 回 開 発 し た 方 法 に より 、連 続組 織切 片か ら手 作業 によ るト レー ス を行 う事 なし に 組 織 構 造 の 抽 出 が 可 能 とな り、 三次 元再 構築 にお ける 省力 化と 再現 性 およ び精 度の 向 上 する こと がで きた 。
本研究は、これからの歯科医学の発展に十分貢献するものであり、学位申請者は博 士(歯学)の学 位授与に十分値するものと認められた。
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