博 士 ( 歯 学 ) 大 井 一 浩
学 位 論 文 題 名
ポ リ リ ン 酸 に よ る 歯 周 組 織 再 生 医 療 の 試 み 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近 年, 失わ れた 組織 ・ 器官 を回 復す る再 生医 療に 注目 が集 まり ,歯 科・ 口腔 領 域に おい ても 、歯 周疾 患に より 咬 合機 能を 消失する患者への対策が考えられてきた.以前は一 度失わ れた 歯周 組織 の再 生は 困 難と 考え られ てき たが ,最 近, 成長 因子 や分 化誘 導因 子 など の生 理活 性物 質を 用い るこ と によ って 歯周 組織 が再 生で きる 可能 性が 示さ れた .そ の 一部 は臨 床に も応 用さ れて きた が ,現 在の とこ ろ, いず れの 物質 も生 体に 対す る安 全性 や コス ト,
効果 など の問 題が あり 実 用的 に臨 床応 用を され るま でに 至っ てお らず ,新 たな 歯 周組 織再 生治 療薬 の開 発が 望ま れ てい る.
ポ リリ ン酸 はり ン酸 が 直鎖 状に 重合 した 生体 高分 子で ,食 品添 加物 など とし て 古く から 使用 され 人体 への 安全 性 が確 立さ れて いる 物質 で, 化学 構造 は単 純で あり ,精 製 のた めの コス トも 低い .ポ リリ ン 酸は ほと んど すべ ての 生物 の組 織内 や細 胞内 に存 在し , 歯根 臓線 維芽 細胞 ,骨 芽細 胞に 多 量に 存在 して いる こと が報 告さ れて いる ,ポ リリ ン酸 は 原核 細胞 では エネ ルギ ー供 与体 や りン 酸リ ザー バー とし て機 能し てい るこ とが 明ら かに な って いる が, 真核 細胞 にお ける 役 割の 詳細 は不 明で ある .近 年, ポリ リン 酸が 線維 芽細 胞 増殖 因子 を安 定化 する こと ,マ ウ ス骨 芽細 胞の 石灰 化を 促進 する こと が報 告さ れ, ポリ リ ン酸 が線 維や 骨組 織の 分化 ・再 生 を促 進す る可 能性 が示 唆さ れた .し かし ,培 養細 胞系 以 外で のポ リリ ン酸 の効 果に っい て の検 索は ない .
そ こで 今回 ,ラ ット に 実験 的歯 周組 織欠 損モ デル を作 成し ,加 油′ 〇に おい て ポリ リン 酸が 歯周 組織 修復 ・再 生 にお よぼ す影 響に つい て検 索し た. さら に, 炎症 性サ イ トカ イン で あ るIL‑1ロ 遺 伝 子 発 現 と , 齲 蝕 ・ 歯 周 疾 患 の 原 因 と考 えら れて いる 口腔 内細 菌の 増殖 に対 する ポリ リン 酸の 影 響に っい て検 索し た.
平 均 鎖 長65の ポ リ リ ン 酸 ナ ト リ ウ ム に 鶏 ア テ ロ コ ラ ー ゲ ン を 加 え て ポ リ リ ン 酸 ゲ ル ( ポリ リン酸濃度100 mM,コラーゲン濃度1.64mg/ml pH7.O)を作成し、実験に供 した.
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6週齢のWistar系雄ラット84匹を2群に分け,ポリリン酸投与実験群42匹,対照群として 42匹を用いた.ラットをエーテル吸入全身麻酔下に上顎左側第一臼歯の頬側に水平性骨欠 損の歯周組織欠損モデルを作成し,実験群の欠損部にはポリリン酸ゲルを,対照群にはポ リ リ ン 酸 を 含 ま な い コ ラ ー グ ン ゲ ル を 塗 布 し, 術 後12時 間 後 ,1,3,5,7,14 日目に安楽死させ上顎骨を取り出し,通法に従い標本を作製しへマトキシリン・エオジン 染色を行い病理組織学的に検索した.同様の処置を行った各群3匹より歯周組織を採取し total RNAを抽出後,real time RT−PCR法を行い再生組織中のIL‑1ロmRNA発現を検索した.
また,P gingiva繦、s mf虚珊を嫌気培養し,培地中にポリリン酸ナトリウム水溶液くpH 7.O) を添 加 し , 細 菌 増 殖 活 性 に お よ ば す ポ リ リ ン 酸 の 影 響に っい て検 索し た.
その結果,術後12時間目,1日目に多数の菌塊と好中球の浸潤が対照群で認められた のに対し,実験群では実験初期に好中球の著しい浸潤がみられ,明らかな菌塊は認められ なかった.術後3日目の実験群では,好中球は減少しマクロファージやりンパ球を主体と した炎症性細胞浸潤を伴う幼若な血管結合細織の増生が認められたが,対照群では創部の 大部分は好中球を主体とした炎症性細胞浸潤と滲出物が残存していた.術後5日目になる と対照群でも炎症性細胞浸潤は減少し肉芽組織の増生がみられるようになってきたが,実 験群では基質化がより一層進行していた.術後7日目対照群では炎症性細胞が一部残存し 新生骨形成はごく僅かにみられる程度だったが,実験群欠損部は成熟した線維性結合組織 で修復され,歯槽頂部ヘ向かって活発に形成される梁状の新生骨が認められた.術後14日 目には,対照群でも既存骨から連続して歯冠側ヘ梁状に形成された幼若な新生歯槽骨がみ られたが,実験群では,部分的に層板構造を認める比較的緻密な骨からなる術前の形態に 近い状態まで再生された歯槽骨を認められた.新生骨の頬側には一列に配列する細胞成分 とその外側に存在する緻密な線維構造を呈する骨膜が認められ,歯根吸収や骨性癒着は認 められなかった.新生骨と根面の間には根面に対して垂直あるいは斜走に配列するコラー ゲン線維が認められた.
定量RTlPCRで再生組織でのIL―1ロ発現量を検索したところ,両群とも術後12時間から 術後1日目に著しい増加がみられたが,実験群は,術後12時間後で対照群の4倍,術後1 日で2.5倍の高発現を示した,その後,実験群では術後3日目以降,発現はほとんどみら れな くな った .対照 群で は術後7日目までIL11ロは2倍程度発現していたが、漸次減少 する傾向を認め,14日目までにほぼ術前の値に復位した,
加洳Dにおける未処置の菌体増殖率を100%とした時に,0.02%のポリリン酸処理に ←761−
よりP.gingivalisの菌体増殖率は2.5%に低下し,0.5%の濃度では増殖は完全に停止し た.S.mutansではO.06%のポリリン酸処理により,菌体増殖率は1.3%に低下し,O.5% の濃度では増殖は認められなかった.
今回の検索により,ラットに作成した実験的歯周組織欠損モデルにおいてポリリン酸は 組織の再生を積極的に誘導することが明らかになった.組織修復の初期において炎症反応 は重要な役割を演じている.IL‑1ロは炎症反応をコントロールするサイトカインのーっと して好中球の分化,誘導に働くことが知られている.今回の検索で,11‑1ロの発現は,
術後12時間,1日目に著しく亢進していた.この結果は,病理組織学的にみられたポリリ ン酸処理群における術後早期の著しい好中球浸潤と術後3日目以降の消退と一致しており,
ポリリン酸の投与によって導かれたIL‑1ロmRNAの発現亢進が,好中球の血管からの遊走と 活性化をコントロールしていることが示唆された.実験群で明らかな細菌塊が認められな かったことは,術後早期のIL11ロの発現亢進による好中球の浸潤により外来性細菌が貪食 されたことが一因であると思われるが,それに加えて,加vんりにおいても口腔内細菌の 増殖に対してポリリン酸が抑制的に働き,その相乗効果により感染が抑制されたものと思 われた.
歯周組織は歯肉・歯槽骨・歯根膜から構成され,歯周組織の再生に際しては,再生の場 へ集積する細胞の由来が重要となる.今回の実験で,歯槽骨の再生が実験群で顕著に認め られ,歯根吸収や骨´陸癒着を疑わせる像は1例もなかったことから,ポリリン酸が歯根膜 細胞由来の細胞分化に適切な活性化を促したものと思われた.実験群では対照群に比し早 期に肉芽組織の成熟〜骨新生の活性化が認められた.このような所見は細菌の侵入に伴う 組織のダメージがポリリン酸により軽減されたため修復機転が早期に進行したことに加え て,より積極的な線維芽細胞・骨芽細胞などの分化誘導がポリリン酸により生じたことを 示している.今回,術後3日目から障害部位に多数の線維芽細胞が出現し,術後5日目に はコラーゲン線維の活発な産生と成熟がみられたことは,ポリリン酸による線維芽細胞の 積極的な活性化を意味するものと思われた.実験群では,術後7日目から多数の骨芽細胞 の出現により歯冠側ヘ向かって活発に形成される骨新生像がみられ,術後14日目には成 熟した歯槽骨形成が認められ,培養骨芽細胞株でみられたポリリン酸の骨誘導機能亢進が 加m′〇でも生じていることが明らかになった.
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学位 論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
戸 塚 靖 則 向 後 隆 男 川 浪 雅 光 進 藤 正 信
学 位 論 文 題 名
ポ リリン酸 による 歯周組織再生医療の試み
審 査 は , 審 査 員 全 員 出 席 の 下 に , 申 請者 に 対 して 提 出 論文 と そ れに 関 連 し た学 科 目 に つ い て 口 頭 試 問 に よ り 行 っ た . 審 査 論 文 の 概 要 は , 以 下 の 通 り で あ る .
本 研 究 は , ポ リ リ ン 酸 の 歯 周 組 織 修 復 ・ 再 生 能 を 明 ら か に す る た め に , ラ ッ ト の 実 験 的 歯 周 組 織 欠 損 モ デ ル を 用 い て 病 理 組 織 学 的 に 検 索 し , 併 せ て ポ リ リ ン 酸 のIL−1 ロ 遺 伝 子 発 現 な ら び に 口 腔 内 細 菌 の 増 殖 に 対 す る 影 響 を 検 討 し た も の で あ る . 実 験 に 先 立 ち , 平 均 鎖 長65の ポ リ リ ン 酸 ナ ト リ ウ ム に 鶏 ア テ ロ コ ラ ー ゲ ン を 加 え て ポ リ リ ン 酸 ― ユ ラ ー ゲ ン ゲ ル (ボ リ リ ン 酸濃 度100 mM, コ ラ ーゲ ン 濃 度1.64mg/ml pH 7.0) を 作 成 し た .6週 齢 のWistar系 雄 ラ ッ ト の 上 顎 左 側 第 ― 臼 歯 部 歯 肉 粘 膜 を 骨 膜 下 で 剥 離 後 , ラ ウ ン ド バ ー を 用 い て歯 根 の 約2/3が 露出 す る 深さ ま で 頬側 歯 槽 骨を 削 除 し,
歯 根 膜 な ら び に セ メ ン ト 質 を 除 去 し た . 実 験 群 の 欠 損 部 に はポ リ リ ン酸 一 コ ラー ゲ ン グ ル を , 対 照 群 に は ポ リ リ ン 酸 を 含 ま な い コ ラ ー ゲ ン ゲ ル を 塗 布 し て 歯 槽 粘 膜 を 復 位 縫 合 し , そ の 後 も 週5日 , 同 一 薬 剤 を 歯 肉 溝 ・ 辺 縁 歯 肉 部 に 塗 布 し た . 術 後12時 間 後 , 1,3,5,7,14日目 に 安 楽死 さ せ 上顎 骨 を 取 り出 し , 通法 に 従 い標 本 を 作製 し て へ々 トキ シ リ ン ・ エ オ ジ ン 染 色 を 行 い , 病 理 組 織 学 的 に 検 索 し た . 同 様 の 処 置 を 行 っ た 各 群3 匹 よ り 歯 周 組 織 を 採 取 し ,total RNAを 抽 出 後 ,real time RT−PCR法 を 行 い 再 生 組 織 中 のIL−1ロmRNA発 現 量 を検 索 し た. ま た , 齲蝕 や 歯 周疾 患 の 原因 菌 と 考え ら れ てい るP. gingivalis,S.mutansを 嫌 気 培 養 し , 培 地 中 に ポ リ リ ン 酸ナ ト リ ウム 水 溶 液(pH7.O) を 添 加 し | 細 菌 増 殖 活 性 に 及 ぼ す ポ リ リ ン 酸 の 影 響 に つ い て 検 索 し た , 病 理 組 織 学 的 検 索 に お い て は , 実 験 群 で は , 術 後12時 間 で , 創 部 の 上 皮 下 及 び 既 存 骨 の 断 端 に , 好 中 球 を 主 体 と し た 炎 症 性 細 胞 浸 潤 が 対 照 群 に 比 べ て よ り 顕 著 で あ っ た が , 明 ら か な 菌 塊 は 認 め な か っ た , 術 後3日 目 に は 炎 症 性 細 胞 浸 潤 は 消 退 し , 術 後5 日 目 か ら 骨 芽 細 胞 が 増 殖 し , 術 後7日 目 に は 骨 断 端 か ら 歯 槽 頂 部 ヘ 向 か う 梁 状 の 新 生 骨 を 認 め , 術 後14日 目 に は 部 分 的 に 層 板 構 造 を 伴 う 歯 槽 骨 の 形 成 が 認 め ら れ た . 歯 根 吸 収 や 骨 性 癒 着 は み ら れ ず , 新 生 骨 と 根 面 の 問 に は 根 面 に 対 し て 垂 直 な い し 斜 め に 配 列