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博士 (地 球 環境 科学 ) 棄原 慎子

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Academic year: 2021

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博士 (地 球 環境 科学 ) 棄原 慎子

学 位 論 文 題 名

冬小麦におけるアブシジン酸誘導性 病原菌関連夕ンパク質の機能解析

学位論文内容の要旨

  越冬 性植物は 、秋から 冬にかけ ての低温 馴化過程 において凍結耐性(耐凍性)などの寒 冷環 境適応機 能を高め ることが 知られて いる。こ の耐凍性の獲得には、植物ホルモンであ る ア プ シ ジ ン 酸(ABA)濃 度 の 上 昇 が 伴 う 。 ま た 、ABA処 理 し た 植物 は 常 温で も 耐凍 性 が 誘 導さ れ る こと か ら、ABAが 耐凍 性 の獲 得 に 重要 な 役割を はたすもの と考えら れてい る 。 これ ま で に環 境 スト レ ス に関 連 する 様 々 なABA誘 導性遺 伝子が解析 されてい るが、

その 翻訳産物 の多くが 細胞内に 局在する ものであ った。

  植物 のアポプ ラス卜は 、組織の 凍結時に おける氷 晶成長の開始部位であることや病原菌 の感 染を最初 に受ける 部位であ ることか らもわか るように、環境ストレスに対する防御応 答 を 最初 に 行 う場 と みな されて いる。そ こで、A13A処 理によっ て耐凍性が 上昇する 冬小 麦 培 養細 胞 のABA誘 導 性分 泌 夕 ンバ ク 質が 、 低 温馴 化 におい てアポプラ ストに誘 導され るタ ンバク質 に相当す ると仮定 し、これ らのタン パク質が寒冷環境適応機構にどのような 役 割 を 果 た し て い る か を 解 明 す る こ と を 目 的 と し て 研 究 を 進 め た 。   冬 小 麦 培 養 細 胞 (Triticum aestivumL.cv. Chihokukomugi)を 常 温 でABA処 理 す る と 、低 温 馴 化し た 実生 と 同 様に 耐 凍性 が 上 昇す る(Koike et al. 1997)。こ れに並行 して 、培地中 に分泌さ れる細胞 外夕ンバ ク質の蓄 積量が増加し、そのタンバク質組成も変 動 す る こ と が 判 明 し た 。 そ こ で 、ABA誘 導 性 分 泌 夕 ン バ ク 質 群(WAS夕 ン バ ク 質 : Wheat ABAーinduced Secretory proteins)のな か で顕 著 に 誘導 さ れ てい た25kD夕ン バ ク質WAS―2およびWAS−3につい て、アミ ノ酸配歹I亅の分析 およびcDNAク口 ーニングをお こな った。

  WAS‑2c DNAは 、N末 端 ア ミ ノ 酸 配 列 を も と に 作 成 し たPCRプ 口 ー ブ を 用 い て 、ABA 処 理 し た 冬 小 麦 培 養 細 胞 由 来 のcDNAラ イ ブ ラ リ ー か ら 単 離し た 。 その 結 果 、WAS―2 は 、 小麦 を 病 原菌 抵 抗性 を 誘 導す る 薬剤 で 処 理し た 時に 誘導されるWCI‑5遺伝子の 翻訳 産 物 やタ バ コ の病 原 菌関 連 夕 ンバ ク 質NtPRp27と 相 同性 を持って いた。また 、培養細 胞 に お け るWAS‑2の 転 写 産 物 な ら び に 翻 訳 産 物 は と も に 、ABAや 口一 グ ル カン 、 キト サ ン 、 病原 菌 の 細胞 壁 画分 で処理 すること によって 誘導され た。また、 小麦実生 において WAS−2は 低温 馴 化 によ って 誘導され 、アポプ ラストに 蓄積する ことが明ら かになっ た。

こ れ らの 結 果 から 、WAS−2は 、ABAや低 温 誘導 性 で ある と共に病 原菌抵抗性 に関与す る こ と が示 唆 さ れた 。 また 、 推 定さ れ るア ミ ノ 酸配 列 をも とにPSI‑BLASTによる モチーフ

(2)

検 索をお こな った 結果 、WAS―2には 動物 や微 生物 で同 定さ れてい るアミノペプチダーゼ MのZn結合領域が存在することが明らかになった。

  一 方 、WAS―3夕 ン パ ク 質 は 、N末 端 ア ミノ 酸配 列の解 析の 結果 、オ オム ギのprotein R、エ ン バ ク のpermatin、冬 ライ 麦の タウ マチ ン様 不凍 夕ン バク 質と 高い 相同 性を持 っ て お り 、 夕 ウ マ チ ン 様 夕 ン バ ク質(TLP)に属 する ものと 考え られ た。TLPは病 原菌関 連 夕 ン バ ク 質(PR proteins)の 中の 一群 を成 す抗 菌性 夕ン バク 質と して 知ら れて いるも の の 、その 詳し い作 用機 作に つい てfま 不明な点が残されているため、WAS−3の機能解析を 試 み た 。ABA処 理 し た 冬 小 麦 培 養 細 胞 のcDNAライ ブラリ ーか ら、 オオ ムギ の抗protein R抗体 を 用 い てイ ムノ スクリ ーニ ング を行 い、WAS―3を コー ドす る三 種類 のcDNAク口 ー ン を 得 た 。こ れら のcDNAの 塩基 配列 から 予想 され る一次 構造 にはTLPモチ ーフ が含ま れ て おり、 推定 され る分 子量 や等 電点 は、三種類とも約21kDでpI 7.46と同一であった。培 養 細 胞 を 用い たノ ザン 解析 の結 果、WAS―3の 転写 産物は 、ABAの 他、 ロ― グル カンや キ ト サン、 病原 菌の 細胞 壁画 分な どの エリ シタ ー処 理に よっ て誘導 されることが明らかに な った。 また 、オ オム ギ抗proteinR抗体 を用 いた イム ノブ 口ット 解析の結果でも、培養 細 胞 に お いて 、WASー3は、ABAや ェリ シタ ー処 理で 誘導 され るこ とが わか った 。また 冬 小 麦 実 生 で は 、WAS−3は 低 温 馴化 な ら び にABA処 理 に よ っ てア ポ プ ラ ス 卜に 誘導さ れ た 。 次 に 、WASー3の 活 性 を 明 らか に す る た め に 、 三 種 類 のWAS‑3 cDNAsのな かのー つ で あ るWAS‑3a cDNAを 用 い て 、 石 川 農 業 短 期 大 学 農 業 資 源 研究 所 の 島 田 多喜 子博士 の 協 カ の も と 、 春 小 麦 ( 丁aestivumL.cv. Haruyutaka)由 来 のHY―1細 胞 にパ ーティ ク ル ガンに よっ て遺 伝子 を導 入し 、WASー3aの産 生を 試み た。 これ により、組み換えWAS― 3a夕 ン バ ク 質(rWAS−3a)を 分 泌 す る 形質 転 換 体tgHY‑lを 創 出 で き た た め 、 こ の 培 地 中 から高 度に 精製 したrWAS―3a画分 を用 いて 不凍 活性 と抗 菌活性 について検証した。不 凍 活性の 検定 は低 温顕 微鏡 を用 いて おこ なっ たが 、rWAS−3aによ る氷晶成長の阻害活性 は 検出さ れな かっ た。 また 、異 なる 分類群に属する六種類の植物病原菌を用いてrWAS―3 の 菌 糸 の 成 長 阻 害 活 性 の 検 定 を 行 っ た と こ ろ 、rWAS―3aは 糸 状 菌 (Fusarium

〇 め′sDor um、Alternaria brassicicola、Microdochium nivale)に対して抗菌活性を示 し たが、 鞭毛 菌Pythium inーeguぬre、担 子菌 乃′pカuぬspp.、 子のう菌Scぬr〇ロnね b〇′ea仏に対しては抗菌活性を示さなかった。これらの病原菌は異なる細胞壁成分を持つ こ とから 、菌 から 調製 した 細胞 壁画 分とrWAS−3aの親和性を調べたところ、朋嶮S−3aに 最 も 感 受 性で あっ たF.〇褐 ′Sp〇rumの 細胞 壁画 分に最 もよ く結 合し た。 さら に、F・ 巛;ysp〇rumの細胞壁の主成分がロ―1,3−グルカンであることから、グルコースがロ―1,3一 結 合した ポリ マー であ るカ ード ラン を用 いて 結合 活性 を調 べたと ころ、nVAS―3aとの親 和 性が認 めら れた 。こ の結 果は 、WAS−3aの抗菌作用に糸状菌の細胞壁との結合が関与す る こ と を 示唆 して いる 。ま た、M.nん甜eは低 温下 にお いてrWAS−3aに感 受性 であっ た こ とから 、WAS―3aは 、常 温下 での糸 状菌による感染防御機構に関与するのみならず、越 冬中における雪腐れ病菌抵抗性にも関与することが示唆された。

  以 上 の 結果 から 、冬 小麦 のWAS−2およ びWAS―3はABA誘導 性病 原菌 関連 夕ン バク質 で あ り、低 温馴化過程でアポプラストに蓄積することによって越冬期間中の病原菌抵抗性に 関与することが明らかになった。

(3)

学位論文審査の要旨

主 査    教 授    田 中    歩

副 査    教 授    藤 川 清 三 ( 大 学院 農 学 研 究 科 ) 副 査    教 授    山 本 興 太 朗

学 位 論 文 題 名

冬小麦におけるアブシジン酸誘導性 病原菌関連夕ンパク質の機能解析

   越冬性草本植物は、冬季に凍結や乾燥などの様々な寒冷環境ストレスを受けるが、特に 多雪地帯に於いては雪腐れ病菌の感染を受けやすくなる。病原菌の感染や凍結ストレス は、まず初めに、細胞壁などのアポプラストに於いて防御応答が行われることから、非常 に重要な場所であることが考えられるが、アポブラストに局在する物質が寒冷環境ストレ ス耐性にどのような役割を果たしているかという点についてはあまりよく知られていな い。植物の寒冷環境ストレス耐性は、低温馴化過程に獲得されると考えられている。低温 馴化過程では、内在性のアプシジン酸(ABA) 含量が増加するため、低温馴化に伴う細 胞の形態的、生理的変化には、ABA が関与している可能性が示唆されている。これまで に、寒冷環境ストレスに関与するABA 誘導性遺伝子が多数単離されているが、その翻訳 産物の多くが細胞内に局在するものであった。そこで、申請者は、ABA 処理によって耐 凍 性が上 昇する冬小麦培養細胞( Triticum aestivumLcv. Chihokukomugi) を用い、

細胞外に分泌されるABA 誘導性夕ンバク質の解析を通して、アポプラストタンパク質が 寒冷環境適応機構にどのような役割を果たしているかを解明することを目的として研究を 行った。

  ABA 処理した冬小麦培養細胞では、未処理の細胞に比べて分泌夕ンバク質の蓄積量が

増加し、そのタンバク質組成も変動することが判明した。そこで、ABA 誘導性分泌夕ン

バ ク質群 (WAS 夕ンバク質:Wheat ABA ― induced Secretory proteins) のなかで顕著

に誘導されていた25kD 夕ンパク質WAS 一2 およびWAS − 3 について、アミノ酸配列の解析

および cDNA ク口ーニングを行った。ABA 処理した冬小麦培養細胞のcDNA ライプラリー

から単離したWAS‑2c DNA は、小麦を病原菌抵抗性を誘導する薬剤で処理した時に誘導

されるWCI‑5 遺伝子と相同性を持っていた。また、培養細胞におけるWAS − 2 の転写産物

ならびに翻訳産物はともに、ABA の他、エリシターであるローグルカン、キトサン、病原

菌の細胞壁画分で処理することによって誘導された。また、小麦実生ではWAS −2 は低温

馴化によって誘導され、アポプラストに蓄積することが明らかになった。これらの結果か

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ら 、WAS―2は 、ABAや 低 温誘 導 性 であ る と 共に 病 原菌 抵 抗性 に関与す ることが示 唆され た 。ま た 、 推定 さ れ るア ミ ノ酸 配 列 をも と にPSI‑BLASTによる モチーフ 検索をおこ なっ た 結果 、WAS−2には 動 物や 微 生 物で 同 定 され て いる ア ミ ノペプチ ダーゼMのZn結 合領域 が存在することが明らかになった。

  一方 、WAS―3夕 ン バ ク質 は 、N末端 ア ミ ノ酸 配 列の 解 析 の結 果 、オ オ ム ギのprotein R、 工 ンバ ク のpermatin、冬 ライ麦の25 kD不凍夕ン バク質と 高い相同 性を持っ ており、

夕 ウマ チ ン 様夕 ン バ ク質(TLP)に 属 する も のと 考 え られ た 。TLPは 病 原菌 関 連 夕ン バ ク 質(PR proteins)の 中の 一 群を 成 す 抗菌 性 夕 ンバ ク 質と し て知られ ているも のの、抗菌 活 性に お け る詳 し い 作用 機 作に つ い ては 不 明な 点 が 残さ れて いる。その ため、ABA処 理 し た 冬 小 麦 培 養 細 胞 のcDNAラ イ ブ ラ リ ー か ら 、WASー3を コ ー ド す る三 種 類 のcDNAク 口 ーン を 得 た。 こ れ らのcDNAの 塩基 配 列 から 予 想さ れ る 一次構造 にはTLPモチー フが含 まれ ており、推 定される 分子量と 等電点は いずれも21kDならびにpI 7.46であり、三 種類 と も同 一 で あっ た 。 培養 細 胞を 用 い たノ ザ ン解 析 の 結果 、WAS‑3の 転写産物は 、AI3Aの 他、 ローグルカ ン、キト サン、病 原菌の細 胞壁画分 などのェリシター処理によって誘導さ れ るこ と が 明ら か に なっ た 。また、 オオムギ 抗proteinR抗体を 用いたイ ムノプ口ッ ト解 析 の結 果 で も、WASー3は、 培 養 細胞 に お いて 、ABAや ェ リシ ター処理 で誘導され ること が わか っ た 。ま た 冬 小麦 実 生で は 、WAS―3は 低 温馴 化 な らびにABA処 理によって アポプ ラ ス ト に 誘 導 さ れ た 。WAS―3の 機 能 解析 の ため に 、 三種 類 のWAS―3cDNAsの な か のー つ で あ るWAS―3ac DNAを 、 春 小 麦 の 高 効率 発 現系 に 導 入し 、 組み 換 えWASー3a夕ン バ ク 質(rWAS―3a)の 産 生を 試 みた 。 こ れに よ り、rWAS−3aを 分 泌 する 形 質転 換 体 を創 出 で きた た め 、こ の 培 地中 か ら高度に 精製したrWAS―3a画分を 用いて不 凍活性と抗 菌活性 に つい て 検 証し た 。 不凍 活 性の検定 は低温顕 微鏡を用 いておこ なったが、rWAS一3aによ る氷 晶成長阻害 活性は検 出されな かった。 また、異 なる分類群に属する六種類の植物病原 菌 を 用 い てrWAS―3の 菌 糸 の 成 長阻 害 活 性の 検 定を 行 っ たと こ ろ、rWAS―3aは 糸 状菌   (Fusarium oxysDorum、Alternaria brassicicoぬ、MC・r〇d〇曲jumd旧 た)に対 して 抗 菌 活 性 を 示 し た が 、 鞭 毛 菌FソH矼umm℃guぬre、 担子 菌D′pカuぬspp. 、 子 のう 菌 S〔ぬr〇Hnねb〇・rea仏に対しては抗菌活性を示さなかった。これらの病原菌は異なる細胞 壁 成分 を 持 つこ と か ら、 菌 から 調 製 した 細 胞壁 画 分 とrWASー3aの 親 和 性を 調 べ たと こ ろ、rWAS−3aに最も感 受性であ ったF.〇 め′Sp〇rumの 細胞壁画分に最もよく結合するこ とがわかった。さらに、F.の(y.Sp〇rumの細胞壁の主成分がロー1,3ーグルカンであること から、グルコースがロ−1,3一結合したポリマーであるカードランを用いて結合活性を調べ た とこ ろ 、rWASー3aと の親 和 性が 認 め られ た 。こ の 結 果は 、WASー3aの抗 菌作用に糸 状 菌 の細 胞 壁 との 結 合 が関 与 すること を示唆し ている。 また、A4njv甜eは低温下に おいて m′AS―3aに感 受 性 であ っ たこと から、WASー3aは、常温 下での糸 状菌によ る感染防御 機 構に 関与するの みならず 、越冬中 における 雪腐れ病 菌抵抗性にも関与することが示唆され た。

  以上 の 結果 は 、 冬小 麦 のWASー2お よ びWAS−3がABA誘 導 性の病原 菌関連夕 ンパク質で ある ことを示す とともに 、低温馴 化過程で アポプラ ストに蓄積することによって越冬期間 中の病原菌抵抗性に関与する可能性を示唆した。

(5)

   審査員一同は、これらの成果を高く評価し、また、研究者として誠実かつ熱心であり、

大学院過程における研鑽や単位取得なども併せ申請者が博士(地球環境科学)の学位を受

けるのに十分な資格を有するものと判定した。

参照

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