博士 (地 球 環境 科学 ) 下神 耕造
学 位 論 文 題 名
クラウン型包接化合物と組み合わせた金属錯体結晶の 作製とその構造―物性相関に関する研究
学位論文内容の要旨
現 在 、 エ レ ク ト 口 二 ク ス デ バ イ ス の 分 野 で は 、 無 機 物 半 導 体 が 多 く の 恩 恵 を も た ら し て い る 。 そ の 一 方 で 、 巨 大 な 設 備 投 資 、 希 少 金 属 や 砒 素 な ど の 有 害 物 質 を 用 い る と い う 、 デ ヌ リ ッ ト を 併 せ も つ 。 有 機 電 子 材 料 は 大 き な 設 備 投 資 を 必 要 と せ ず 、 希 少 金 属 な ど を 用 い な い 点 で 、 低 環 境 負 荷 に 貢 献 で き る こ と か ら 近 年 注 目 を 集 め て い る 。 ま た 環 境 モ 二 夕 リ ン グ の 観 点 に 限 っ て み て も 、 物 質 包 接 能 を も つ 機 能 性 物 質 が 、 セ ン シ ン グ に 応 用 で き る な ど 環 境 技 術 の 側 面 か ら 有 機 分 子 を 用 い た ェ レ ク ト 口 こ ク スヘ の 期待 は大 きい 。し かし なが ら、
有 機 分 子 に 基 づ く エ レ ク ト 口 こ ク ス 、 特 に 分 子 エ レ ク ト 口 二 ク ス 等 の 分 野 は 、 ま だ 発 展 途 上 に あ り 、 環 境 科 学/環 境 技 術 へ の 応 用 研 究 は ま だ 緒 に つ い た ば か り で あ る 。 そ こ で 、 応 用 技 術 開 発 の 基 盤 と な る 基 礎 研 究 が 重 要 と な っ て く る 。
本 論 文 に お い て は 、 環 境 モ 二 夕 リ ン グ 応 用 に 向 け 、 超 分 子 化 学 的 な ア プ 口 ー チ か ら 分 子 性 物 質 の 導 電 性 、 磁 性 を 制 御 す る 可 能 性 に つ い て 検 討 を 行 っ た 。 具 体 的 に は 、 イ オ ン 包 接 に 連 動 し た 電 気 伝 導 制 御 、 分 子 の 動 的 挙 動 に 基 づ く ス イ ッ チ ン グ 、 弱 い 相 互 作 用 に 基 づ く 結 晶 内 の 分 子 配 列 制 御 に つ い て 研 究 を 進 め た 。 ア ル カ リ 金 属 イ オ ン と18‑crown‑6誘 導 体 か ら な る 超 分 子 カ チ オ ン(SC゛ ) と[M(dmit)2]を 組 み 合 わ せ た 錯 体 を 研 究 材 料 と し 、 結晶 構造 と 、 電 気 的 な ら び に 磁 気 的 物 性 の 相 関 の 詳 細 を 明 ら か に し た 。
本 論 文 は8章 か ら な り 、 第1章 で 本 研 究 の 目 的 、 研 究 の 背 景 を 述 べ た の ち 、 第2章 で は 有 機 伝 導 体 の 電 子 物 性 に お け る 、 対 イ オ ン の 役 割 を 明 ら か に す る た め に 、 Csx(18‑crown‑6)[Ni(dmit)2]2結 晶に おけ る電 子物 性に 関す る 議論 を展 開し た。 詳細 に電 子構 造 を 検 討 し 、 結 晶 内 で のCs+の 不 規 則 な 配 列 が パ イ エ ル ス 転 移 に よ る 絶 縁 化 を 緩 和 さ せ る こ と を 見 出 し た 。 ま た 、 イ オ ン 包 接 に 伴 う 電 気 伝 導 変 化 を 目 指 し 、 チ ャ ン ネ ル 構 造内 のCs+
数 の 制 御 に よ る バ ン ド フ ィ リ ン グ 制 御 を 行 っ た 。
第3章 で はCs2(18‑crown‑6)3[Ni(dmit)2]2結 晶 の 構 造 と 磁 性 に つ い て 述 べ た 。Cs゛ と 18‑crown‑6分 子 か ら な る 、 運 動 状 態 に あ るSC+構 造 を 構 築 し 、 さ ら にS=l/2の ス ピ ン を 持 つ[Ni(dmit)2]'と 組 み 合 わ せ 、 分 子 の 動 的 過 程 に よ る 磁性 制 御を 目指 した 。錯 体の 磁化 率に は 、SC゛ 構 造 の 動 的 な 振 る 舞 い が 反 映 さ れ て お り 、[Ni(dmit)2]'=量 体内 のト ラン スフ ァ ーf は 磁 化 率 と 良 く 対 応 し た 。 さ ら に 、195K以 下 でSC゛ 構 造 の 回 転 運 動 が 停 止 し す る こ と が 判 明 し 、 磁 化 率 の 挙 動 と 連 動 し て い た 。 以 上 の 結 果 、 分 子 の 回 転 運 動 に 伴 う 磁 気 相 転 移 を 初 め て 見 出 し 、 磁 気 物 性 制 御 の た め に 分 子 の 動 的 効 果 を 取 り 入 れ る こ と の 有 効 性 を 示 し た 。
第
4
章 では 、3
章 の 結果 に 基づ き 、 分子 運動の 自由度を 減らすため に、分子 点群が低 く 嵩高い、Benzo‑18‑crown‑6
およびDibenzo‑18‑crown‑6分子を、【Ni(dmit)2]'
と組み合わせて錯 体結晶を 得た。予 想通りそれ らの結晶 構造と磁 性には分 子の動的 な振る舞いは見られず、分子の低い対称性と嵩高さが分子構造の乱れを抑えることを示した。
第
5
および6章では、Na
+,K
十,Rb
゛をDibenzo‑18‑crown‑6分子中心に包接させたSC
゛構造 に、[M(dmit)2]'分子(M: Ni,Pd,Pt,Au)を組み合わせ、SC゛構造間のCH‑7t及び兀‐兀、さらに中 性配位子 問の双極 子一双極子 相互作用 による超 分子構造 の構築と 、アニオン配列制御を行 った。K(Dibenzo‑18‑crown‑6)[M(dmit)2](CH3CN)2
錯体結晶内では溶媒分子間の双極子―双極 子相互作 用とフェニレン同士のCH‑Jr
相互作用により、SC+間のネットワーク形成が見られ、物性制御 を考える 上で非共有 結合の重 要性が見出された。電子構造の異なる
[M(dmit)2]'
を 用いたにも関わらず同形結晶が得られ、嵩高いSC
゛構造が【M(dmit)2]'の電子構造の特性を抑 制することを示した。第
7
章 では 、5
、6
章 で 論じ た 双極 子 ― 双極 子 相互 作 用 の一 般 性 を検 証した 。溶媒と し てアセト ニトリル よりも極性 の低いア セトンを 用いても 、溶媒分 子間の双極子一双極子相 互作用が 確認され 、結晶溶媒 が超分子 構造形成 のための 有用なピ ルディングブ口ックとな ることを示した。第8章では、本研究で得られた主要な成果をまとめて結論とした。
以上のよ うに、本 研究は超分 子化学的 なアプ口 ーチによ り、分子 性物質の導電性、磁性 を制御す る新しい 方法論を提 出し、そ の可能性 を実証し たもので ある。これらの知見をも と に 、 新 た な 環 境 モ 二 夕 リ ン グ セ ン サ ー 等 の 設 計 が 可 能 に な る と 期 待 で き る 。
審査員一 同は、こ れらの成果 を高く評 価し、ま た研究者 として誠 実かつ熱心であり、大 学院課程 における 研鑚や取得 単位など も併せ、 申請者が 博士(地 球環境科学)の学位を受 けるのに十分な資格を有するものと判定した。
学位論文審査の要旨 主査 教授 中村貴義 副査 教授 田中俊逸
副 査 教 授 中 村 博
副 査 教 授 稲 辺 保 ( 北 海 道 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 )
学 位 論 文 題 名
クラウン型包接化合物と組み合わせた金属錯体結晶の 作製とその構造―物性相関に関する研究
現在、エレクト口二クスデバイスの 分野において実用に供されている物質は、無機物半導体の 独壇場であり、多くの恩恵をもたらし ている。その一方で、巨大な設備投資、レアメタルや砒素 などの有害物質を用いるという、デメ リットを併せもつ。有機物に基づくエレクトロニクスは大 きな設備投資を必要とせず、レアメタ ルなどを用いない点で、低環境負荷に貢献できることから 近年注目を集めている。また環境モ二 夕リングの観点に限ってみても、物質包接能をもつ機能性 物質が、センシングに応用できるなど 環境技術の側面から有機分子を用いたェレクトロニクスヘ の期待は大きい。しかしながら、有機 分子に基づくエレクトロニクス、特に分子エレクト口二ク ス等 の分 野は 、ま だ 発展途上にあり、環境科学/環境技術への応用研究はまだ緒についたばかり で あ る 。 そ こ で 、 応 用 技 術 開 発 の 基 礎 と な る 基 礎 研 究 が 重 要 と な っ て く る 。 本論 文に おい ては 、 環境 モ二 夕リ ング 応用 に向 け、その基盤となる基礎科学的な知見を得るた めに、イオン包接に連動した電子伝導 制御、分子の動的挙動に基づくスイッチング、弱い相互作 用を利用した結晶内の分子配列制御に ついて研究を行った。18‑crown‑6誘導体、[M(dmit)2]から なる錯体を研究材料とし、結晶構造と 、電気的ならびに磁気的物性の相関に関する研究を行った。
特に以下の5点に注目し、超分子カチオン(SC゛)のアプ口ーチによる、[M(dmit)2]分子が発現す る電子および磁気的機能の制御を目指 した。
1.錯体 単結晶の作製
2.錯体 結晶の電気的物性と2kF電荷 密度波状態の相関の解明
3. 動 的 状 態 に あ る SC+構 造 作 製 と 磁 性 に お け る 分 子 の 動 的 効 果 の 解 明 4. 非 共 有 結 合 に よ るSC゛ の ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 作 製 と 結 晶 内 に お け る 分 子 配 列 制 御 5. 結 晶 内 に 働 く 弱 い 相 互 作 用 ( 双 極 子 ー 双 極 子 、CH‑7r、 兀 ・ 兀 ) の 解 明 本 論 文 は 全8章 か ら な り 、 各 章 で 取 り 上 げ た 内 容 は 以 下 の と お り で あ る 。 第1章で は、本研究の目的、研究の背景を述べた。
第2章 で は 有 機 伝 導 体 の 電 子 物 性 に お け る 、 対 イ オ ン の 役 割 を 明 ら か に す る た め に 、
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Csエ(18‑crown‑6)[Ni(dmit)2]2錯体結晶における電子物性に関する議論を、2kF電荷密度波状態によ る構 造相転 移を中心 に展開 した。結 晶の電子 構造の 詳細を検 討し、チャンネル構造内でのCs゛の 不規 則な配 列がバイ エルス 転移によ る絶縁化 を緩和 させるこ とを見出した。また、イオン認識に 伴う 電気伝 導変化を 発現す る系の構 築を目指 し、チ ャンネル 構造内 のCs+数 の制御 によるバンド フィリング制御を行った。
第3章では、Cs2(18‑crown‑6)3[Ni(dmit)2]2錯体の結晶構造と磁性について述べた。[Ni(dmit)2]'モ ノバレン卜塩は電気的に絶縁体であるが、[Ni(dmit)2]'がS= 1/2のスピンを有するために、分子磁 性体 として 振舞う。18‑crowon‑6分 子(空孔半径1.25 A)とCs゛(イオン半径1.67 A)を用い、Cs+ とク ラウン 酸素間の相互作用が弱く、動的状態にあるSC゛構造を構築し、[Ni(dmit)2l'と組み合わ せ る こ と に よ り 、 分 子 の 動 的 過 程 に よ る 磁 性 制 御 を 目 指 し た 。 錯 体 の 磁 化 率 に は 、 Cs+2(18‑crown‑6)3 SC゛構造の動的な振る舞いが反映されていた。錯体の低温結晶構造を詳細に検 討し 、磁気 相転移温度でSC゛構造の回転に基づく秩序‐無秩序化が起こることを示した。分子軌道 計算 に基づ く[Ni(dmit)2]'分子間の相互作用解析も、磁化率をうまく説明した。以上の結果、分子 の回 転相転 移に伴う 磁気相 転移を初 めて見出 し、磁 気物性制 御のために分子の動的効果を取り入 れることの有効性を示した。
第4章 で は、3章 の 結果に 基づき、 クラウ ンエーテ ル分子 の運動の 自由度を 減らす ため、ク ラ ウ ン エー テ ル とし て 、 分 子点 群 が 低く 嵩 高 い、 フ ェ ニレ ン 置 換し たBenzo‑18‑crown‑6および Dibenzo‑18‑crown‑6分子を用い、【Ni(dmit)2]'と組み合わせ錯体結晶を作製した。錯体の組成は、
Cs2(Benzo‑18‑crown‑6)3[Ni(dmit)2]2およびCs(Dibenzo‑18‑crown−6)2[Ni(dmit)2]であり、それらの結 晶構造は、Cs2(18‑crown‑6)3[Ni(dmit)2]2錯体と比して大きく変化し、予想したように、クラウンエ ーテ ルに動 的な振る 舞いは 見られず 、対称性 の低い 分子を用 いることにより分子構造の乱れが抑 えられることを示した。
第5およ び6章 では、Na+,K十,Rb゛をDibenzo‑18‑crown‑6分子中心に包接させたSC゛構造に、
【M(dmit)2]'分子(M: Ni,Pd,Pt,Au)を組み合わせ、SC゛構造間にCH‑Jr及び兀‐兀、さらに中性配位子間 の双 極子一 双極子相互作用によるネットワーク構造の作製を目指し、アニオン配列制御を行った。
K(Dibenzo‑18‑crown‑6)[M(dmit)2](CH3CN)2錯体結晶内では結晶溶媒分子間の双極子ー双極子相互 作用 とフェ ニレン同 士のCH‑n相 互作用に より、SC゛間のネ ットワーク形成が見られ、物性制御を 考え る上で 非共有結 合の重 要性が見 出された。電子構造の異なる[M(dmit)2]'錯体を組み合わせて も同 形構造 が得られ、嵩高いカチオン構造がアニオンの電子構造の特性を抑制することを示した。
クラ ウンェ ーテルの6酸素 原子か らなる平 面の重 心と、ア ルカリ 金属イオ ン間の距 離には 、明確 なイ オン半 径依存性 が見ら れ、イオ ン半径が 大きく なるほど その距 離は増大 した。4章で 示した よう に、Cs゛ を用いる と結晶 構造は大 きく変 化し、イ オンとク ラウンエーテル間の距離が結晶構 造を形成する際の重要なバラメータのーつであることを示した。
第7章で は、5および6章で 得られたK(Dibenzo‑18‑crown−6)[M(dmit)Z](CH3CN)2錯体に 見られ た、 双極子 一双極子同士の相互作用様式に、一般性があることを検証するため、結晶成長溶媒を、
アセトニトリルよりも極性の低いアセトンを用いた。錯体の組成は
K(Dibenzo‑18‑crown‑6) [Ni(dmit)2](CH3)2COであり、結晶内で溶媒のカルボニル基同士の双極子ー 双極 子相互 作用が確 認され 、従来医 薬品製造 などで は不要な ものと見なされてきた結晶溶媒が、
超分 子構造 形成のた めの有 用なピル ディング ブ口ッ クとなる ことを示した。また、クラウンエー テル間にはface‑to‑faceの兀‑兀相互作用が見られ、非共有結合相互作用が結晶構造の安定化に寄与
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することを示した。
第8章では、本研究で得られた主要な成果をまとめて結論とした。
以上、本学位論文において超分子カチオンのアプ口ーチが、【M(dmit)2]分子が発現する電子お よび磁気的機能の制御に有効であることを示した。
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