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『宇治拾遺物語』における「夢」の分類

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『宇治拾遺物語』における「夢」の分類

著者 趙 智英

雑誌名 同志社国文学

号 85

ページ 38‑53

発行年 2016‑12‑20

権利 同志社大学国文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016840

(2)

﹃ 宇 治 拾 遺 物 語 ﹄ に お け る

﹁ 夢

﹂ の 分 類

智 英

はじ めに 古典 文学 にお ける

﹁夢

﹂と いえ ば︑ 柳田 國男 氏①

や西 郷信 綱氏②

をは じめ

︑多 くの 研究 者に より 論じ られ てき た︒ 特に 古典 文学 にお ける 夢を 論じ る際 には

︑夢 占い や夢 解き

︑夢 違え③

など の問 題に つい て︑ 古川 哲史 氏④

︑樋 口清 之氏⑤

︑佐 々木 孝二 氏⑥

︑井 本英 一氏⑦

︑酒 井紀 美氏⑧

︑ 会田 実氏⑨

など に多 くの 研究 の蓄 積が ある こと は周 知の 通り であ る︒ これ らの 先行 研究 は︑

﹁夢

﹂と いう 大き なテ ーマ につ いて

︑そ の 事例 を紹 介し たり 考察 した りす るた めに

﹁文 学作 品﹂ を用 いる こと で︑ 神や 仏な ど超 越的 な存 在と の交 感︑ 交信 の媒 体と なる もの とし て夢 が持 つ力

︑夢 への 信仰 がい かに 強か った かを 明ら かに する こと が多 かっ た︒ 一方

︑﹁ 文学 作品

﹂に おい て﹁ 夢﹂ とい う素 材を 見出 す手 法と し

ては

︑池 田利 夫氏 や河 東仁 氏な どの 成果 が挙 げら れる

︒ 例え ば︑ 池田 利夫 氏は 王朝 文学 の諸 作品 を対 象に

︑夢 とい う語 が これ らの 作品 にお いて どれ ほど の頻 度で 登場 して いる のか を数 値化 する こと で分 析さ れて いる⑩

︒ま た︑ 河東 仁氏 は物 語を 中心 とし て⑪

︑ また 森田 兼吉⑫

氏は 女流 日記 文学 にお ける 夢に 関し て考 察さ れて いる

︒ いず れの 先行 研究 も︑ 各々 手法 や取 り組 み方 は異 なる が︑ 夢が 持 つ力

︑当 時の 夢へ の信 仰を 裏付 ける とい う方 向性 は共 通し てい る︒ この よう に夢 の研 究は

︑ジ ャン ルに おい ても 日記

︑物 語︑ 説話 な どと 多岐 にわ って いる が︑

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ に関 して は事 例の 一環 とし て取 り上 げら れる 場合 はあ るも のの

︑逆 に﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄そ のも のを 研究 対象 とし て捉 え︑ 夢を

︵説 話構 成の

︶素 材の 一環 とし て取 り上 げる 研究 は山 手節 子氏⑬

や山 口康 子氏⑭

の論 考以 来︑ あま りな され てい ない

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

三八

(3)

成立 時期 につ いて は鎌 倉初 期と され る﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄は

︑世 俗 的な 信仰 のあ り方 が語 られ る仏 教説 話か ら︑ 素朴 な民 間伝 承を 素材 とす る説 話︑ 艶笑 譚に 至る まで 一九 七話 の説 話か ら成 る︒ 編者 が未 詳で ある だけ でな く︑ 説話 収載 や配 列の 基準 も不 分明 で︑ 出典 が未 だ明 らか でな い説 話も あり

︑何 を伝 えよ うと して いる のか 些か 悩ま しい 場合 もあ る︒ しか し︑ その よう な説 話集 にお いて 夢が どの よう な方 法の もと に描 かれ

︑説 話の 中に どの よう に組 み込 まれ てい るの かを 追究 する こと は︑ 編者 の編 集意 識や 叙述 傾向 を探 る手 掛か りに なる ので はな いか と考 える

︒ 本稿 では

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ を対 象と し︑ 一つ の研 究視 点と して 夢 に着 目し

︑従 来の

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける 夢に 関す る研 究動 向を 概観 する とと もに

︑夢 が登 場す る説 話に おけ る︑ 夢の はた らき や作 用に つい ての 分析 を試 みた い︒ 一

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける 夢に 関す る研 究の 現状

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける 夢に 関す る先 行研 究の 代表 例と して

︑ 山手 節子 氏は

︑全 一九 七話 の説 話の うち

︑夢 の出 現す る一 五話 を取 り出 し︑ (

)夢 で見 る出 世︑ (

)夢 で行 動す る人 間︑ (

)夢 でみ る 信仰

︑(

) 夢に 出現 する 死人

︑(

) 無常 の刹 鬼︑ (

)夢 の話 に分 け る︒ 中で も﹁ 夢で 行動 する 人間

﹂に 重点 を絞 り︑

﹁連 想の 糸⑮

﹂を 頼

りに 夢の 位置 とそ れが 意味 する こと を考 察さ れて いる

︒山 手氏 は益 田勝 実氏⑯

の説 を受 け﹁

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ の説 話の 世界 は︑

﹁連 想の 糸﹂ で縫 われ てい るよ うで ある⑰

﹂と いう 見解 を示 しつ つ︑

﹁夢 は一 九七 話中 ほぼ 均等 に出 現し てい るこ とに なる

︒そ れも 各巻 のほ ぼ中 心に 位置 して いる

︒こ れは

︑編 者が 夢に 重点 を置 いて いる こと を物 語っ てい るの では ある まい か⑱

﹂と 推察 され てい る︒ しか し︑

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ は﹃ 今昔 物語 集﹄ のよ うに

︑編 者に よ って はじ めか ら徹 底し た編 集が 行き 届い てい たわ けで はな いと 考え られ

︑そ もそ も﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄諸 本の 巻序 は二 冊本

︑四 冊本

︑五 冊本

︑八 冊本

︑一 五冊 本な どさ まざ まで あり

︑こ のよ うに 区切 られ た巻 々の どれ にも 編集 の上 での 中心 点は 認め られ ず︑ 分量 の上 で適 宜に 区切 った もの とし か見 られ ない⑲

し︑

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ の巻 の立 てか たは いず れも 便宜 的な もの であ って

︑組 織化 され たも のと は言 い難 い⑳

とい わな けれ ばな らな い︒ こう いっ た見 解を 踏ま える と︑ 各巻 の中 心部 分に 夢の 出現 する 説 話が 収載 され てい るこ とが 編者 の意 図と 直結 する のか どう か︑ 断言 し難 い︒ よっ て︑ 山手 氏の 見解 は今 一度 検討 し直 され る必 要が ある と思 われ る︒ 山口 康子 氏は

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお いて 夢の 引用 の持 つ意 味を 検 討さ れて いる

︒山 口氏 は夢 はど のよ うな 働き を持 って いる かを 考察

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

三九

(4)

する ため

︑夢 の内 容を

﹁ 現実 の事 象﹂ の予 告・ 説明

・解 釈︵ 一 実現 した 事態 の予 告の 夢︑ 二 不思 議な 現実 の説 明の 夢︶

﹁現 実の 幸福

﹂に かか わる 夢︵ 一 致富 をも たら す夢

︑二

病気 平癒 を もた らす 夢︶

﹁前 世の 因縁

﹂を 解明 する 夢︵ 一 前生 の解 明︑ 二 後生 の解 明︶ に分 類し

︑夢 に出 現す るも のを 神仏

︑死 者︑ その 他に 整理 され た㉑

︒そ して

﹁通 覧す ると

︑夢 は︑ 神仏 の世 界︑ 死後 の 世界

︑更 にま だ存 在し てい ない 未来 の世 界と 交流 する 手だ てと 思わ れて くる

︒す なわ ち︑ この 世な らぬ 世界

・異 界の 存在 を知 り︑ そこ に居 るも のた ちと 交渉 を持 つこ とが でき るの は︑ 夢と いう 方法 だけ であ るよ うに 思え る㉒

﹂と 述べ てお られ る︒ もち ろん

︑夢 は古 くか ら神 意を うか がう こと ので きる 神霊 的な 場 とし て︑ 記紀 等に 記さ れる もの であ った㉓

が︑ この 世な らぬ 世界

・異 界の 存在 を知 り︑ そこ に居 るも のた ちと 交渉 を持 つ手 段は

︑別 に夢 だけ とい うわ けで はな く︑ 陰陽 師に よる 占い や加 持祈 祷︑ 和歌 など を通 じる こと でも 可能 だっ たと 考え られ る︒ 他の 手段 は︑

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ 第一

〇八 話﹁ 越前 敦賀 女観 音助 給 事﹂ とほ ぼ同 一の 内容 を持 つ﹃ 日本 霊異 記﹄ 中巻 三四 話﹁ 孤嬢 女 憑

敬観 音銅 像

奇表

現 報

縁﹂ の記 事か ら辿 るこ とが でき る︒ これ は︑ 貧し い女 性が 観音 菩薩 の利 益を 得る 説話 で︑ 父母 を亡 くし 独り にな った 娘が 悲し み︑

﹁聞

観 音菩 薩者 所

願能 与

︑其 銅像 手繋

縄牽 之︑ 共

花香 灯

︑用 願

福分

日㉔

﹂と

︑観 音菩 薩に 夜と なく 昼と なく 泣き 訴え る︒ 木村 紀子 氏㉕

はこ の記 事に つい て﹁ 霊異 記中 第34 にお いて

︑女 が観 音に 切実 な願 いご とを する にあ たっ ては

︑﹁ 像に 繋け たる 縄を 引き

﹂ なが らし たと いう 記述 がみ られ た﹂ と述 べる

︒す なわ ち︑

﹁像 に縄 をか けて それ を引 き︑ 仏像 に意 を通 じよ うと する 行為 は︑ 霊異 記で は︑

﹁神 主︵ 執金 剛︶ の間 に縄 を繋 げて 引き

﹂︵ 中第 21︶

﹁︵ 柏瀬

︶観 音 菩薩 の手 に縄 を繋 へ引 きて 白し て言 はく

⁝⁝ 我に 銭を 施せ

﹂︵ 下第 三︶ など と他 にも みら れ︑ 初期 造仏 時代 独特 の意 思伝 達を はか る作 法だ った よう であ る﹂ とい う︒ また

﹁今 昔巻 16︱ 第

の相 当部 分は

﹁観 音ニ 懸奉 レル 糸ヲ 引テ

﹂と なっ てお り︑ これ は︑ 臨終 に阿 弥陀 仏の 手に 五色 の糸 を懸 けて 引く

︵今 昔巻 15︱ 第12

・第 40な ど︶ 作法 を連 想す る﹂ と指 摘し てお り︑ それ に代 わる 方法 が﹁ 夢の 中で お告 げを 得る とい うの では なか った かと 思わ れる㉖

﹂と 続け てお られ る︒ この よう に︑ 神仏

︑死 後の 世界

︑未 知の 世界 と交 流す る術 があ る 中で

︑﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄の 編者 が色 々な 交信 手段 の中 でも

︑夢 とい う方 法を 重視 して いる こと は興 味深 い︒ 二 孤立 話に おけ る夢 江口 孝夫 氏㉗

は﹁

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ 一九 七話 のう ち︑ 夢を 扱っ てい

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

四〇

(5)

る説 話を 抜き 出す と︑ 二四 話が ある

﹂と いい

︑次 のよ うに 分類 され てい る︒ 大系 本に より

﹁出 典が ある とみ られ るも の﹂ を拾 うと

﹃古 事談

﹄四

︑六 三︑ 六四

︑六 七

﹃今 昔物 語集

﹄九 二︑ 九六

︑一

〇二

︑一

〇八

︑一 一二

︑一 一八

︑ 一二 一︑ 一六 七︑ 一六 八

﹃古 本説 話集

﹄八 八︑ 八九

︑一

〇一

︑一 三一

︑一 九一

︑ その 他 四六

︑八 二 を挙 げる とい う︒ そし て江 口氏 は﹁

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ だけ にあ るも のは

︑二

︑五 七︑ 七〇

︑一 六五 話︵ 数字 は説 話番 号︶ の四 話で ある

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ は夢 はと くに 関心 を持 った とは いえ ない よう であ る㉘

﹂と 述べ てお られ る︒ 江口 氏が

﹁﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄だ けに ある

﹂も のと して 分類 した 二︑ 五七

︑七

〇︑ 一六 五話 は現 段階 で同 文話 の指 摘が なく

︑固 有の 説話 と考 えら れて いる 説話 群㉙

のう ちの 四話 であ る︒ この

﹁﹃ 宇治 拾遺 物 語﹄ だけ にあ る﹂ 説話 を︑ 今︑ 仮に

﹁孤 立話㉚

﹂と 称す ると すれ ば︑

﹁こ のよ うな 孤立 話は

︑﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄だ けに 存在 する とい うこ と にお いて

︑ま さに

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ の独 自性 を体 現す るも ので あり

︑ 孤立 話の うち に﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄の 特質 は集 約さ れて いる ので はな いか㉛

﹂と 必要 性を 唱え る説 があ る︒ それ では

︑﹁

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ だけ にあ るも の﹂ とし て江 口氏 が挙

げた 四話 のう ち︑ 現時 点で は同 文的 同話 が見 当た らず

︑孤 立話 とさ れる 第五 七話

﹁石 橋下 蛇事

﹂に おけ る夢 のは たら きを 検討 して みよ う︒ 本話 は︑ 小林 智昭 氏が

﹁菩 提講 の滅 罪生 善の 功徳 とか

︑畜 生道 や 人間 に生 まれ 変わ ると いう 転生 思想 など が色 濃く から みつ いて

︑時 代信 仰の 特色 を現 わし てい る㉜

﹂と 批評 され てい るよ うに

︑雲 林院 の 菩提 講の 功徳 や転 生思 想︑ 夢告

︑蛇 身を 受け た者 の報 恩譚 など を組 み合 わせ た説 話と して 読め るが

︑最 終的 には

︑身 分相 応の 幸福 を得 ると いう

︑極 めて 庶民 的な 結末 にた どり 着く

︒様 々な 主題 とモ ティ ーフ が用 いら れて いる 複雑 とも いえ る説 話で ある

︒ 五七 話の 冒頭 に︑ 雲林 院の 菩提 講に 参詣 する 女性 が登 場す る︒ そ こに 通り かか った 二︑ 三〇 歳ば かり の女 房が

︑石 橋を 踏み 返す と︑ 下か ら一 匹の 蛇が 出て きて

︑そ の女 房の 後を つい て行 く︒ 女房 をつ いて 行く 蛇を

︑菩 提講 に参 詣し た女 性が 尾行 する こと から

︑徐 々に 話が 進ん で行 く︒ はじ めて 本話 を読 むと

︑事 件の 目撃 者︑ 第三 者に 見え る女 性が 中心 とな り語 られ ると いう 展開 方式 は︑ 読者 の予 想を 裏切 り︑ 想像 力を 掻き 立て る︒ そし て後 半で

︑女 房の 夢に 腰か ら上 は人 で下 は蛇 の清 らか な女 が出 てく る︒ 女房 は︑ 目撃 者で ある 女性 に︑ 夢で 見た 事柄 を話 す︒ とこ ろで

︑会 田実 氏は

﹁夢 は他 人に 告げ るこ とで 力を 発揮 する 事

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

四一

(6)

例は 多く

︑夢 で見 たこ とが ら・ 象徴 的イ メー ジが 秘め る意 味を 正確 に言 語化 しな けれ ばそ の夢 は叶 わな い㉝

﹂と いう

︒ま た︑ 山口 康子 氏 は﹁ 語ら れる こと によ って しか 夢は

﹁こ の世 なら ぬ世 界﹂ との 境界 域と して の存 在を 主張 する こと がで きな い︒ 夢が どこ から 生じ 来た るも のに せよ

︑人 の言 葉を 通し てし か姿 をあ らわ し得 ない

︒そ うい う夢 の性 格を

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ の夢 は明 らか にし てい る㉞

﹂と

︑夢 で 見た 事柄 を言 葉で 発す るこ との 重要 性に つい て強 調し てい る︒ そう であ れば

︑女 房と 蛇を ずっ と観 察し てい た女 性は

︑女 房が 夢で 見た 事柄 を語 る相 手と して

︑重 要な 任務 を果 たし てい ると 見る こと がで きる 女 ︒ 房の 後を つい て行 く蛇 と︑ 彼ら を尾 行し 観察 する 女性 を巡 る︑ 謎に 包ま れた 状況 が︑ 説話 の後 半︑ 夢告 げに より 一挙 に蛇 の正 体が 明か され

︑報 恩の 意思 が伝 わり

︑現 実に その 利益 が実 現す る︒ 夢の 中で 蛇の 正体 が明 かさ れ物 語が 急展 開を 迎え るこ とで

︑夢 告げ は謎 解き の役 割を して おり

︑す なわ ち︑ 五七 話は 夢が 謎解 きの はた らき をす る装 置と して 用い られ てい るの であ る︒ 五七 話と 同様

︑第 一六 五話

﹁夢 買人 事﹂ は︑ 同文 的同 話は 見当 た らな いが

︑周 知の よう に夢 を売 買す るモ ティ ーフ を持 つ説 話で ある

︒ 夢の 売買 とい えば

︑新 潟県 を中 心に 日本 各地 に分 布し てい る民 話

﹁夢 買長 者﹂ がよ く知 られ てお り︑ 文献 資料 にお いて も﹃ 曽我 物語

﹁太 山寺 本﹂ 巻二 には

︑﹁ 時政 が女 の事

﹂の 段か ら﹁ 橘の 事﹂ の段 に かけ て︑ 北条 政子 の夢 を売 買す る事 例が 知ら れて いる

︒ さら に︑ 夢を 売買 する モテ ィー フは

︑日 本の みな らず 韓国 の文 献 にも 見る こと がで きる

︒高 麗の 建国 神話

﹃高 麗史

﹄﹁ 高麗 世系

﹂や

︑ 一三 世紀

︑朝 鮮の 高麗 王朝 の時 代に 書か れた

﹃三 国遺 事﹄

﹁太 宗 春秋 公﹂ にも

︑姉 妹が 夢を 売買 する 記事 が見 える

︒日 本の 夢を 売買 する 説話 と︑ 韓国 の夢 を売 買す る説 話と が互 いに 影響 を及 ぼし あっ たも のか どう かと いう 問題 は今 後の 検討 にゆ だね る他 ない が︑ 夢を 買う 側を 中心 に語 られ

︑代 価を 払っ て夢 を買 い取 る行 為は 正当 とみ なさ れ︑ 判断 力や 決断 力に 富ん だ先 見の 明が ある 者の 行動 とし て評 価さ れる 点で 共通 して いる

︒と 同時 に︑ 次の よう な一 六五 話の 特質 が明 らか にな る︒ まず

︑一 六五 話は 夢の 売買 を重 要モ ティ ーフ にし てい るも のの

︑ 他の 事例 とは 異な り︑ 夢の 内容 につ いて の記 述が 見当 たら ない

︒ また

︑﹃ 曽我 物語

﹄︑

﹃三 国遺 事﹄

︑﹃ 高麗 史﹄ の事 例は

︑い ずれ も 血縁 関係 の間 柄で 夢の 売買 が行 われ

︑吉 夢が 力を 発揮 し︑ 貴姓 との 結縁

︑偉 大な 人物 の出 生を 得る

︒ なお

︑夢 の売 買と いう のは

﹁夢 を売 る人 と夢 を買 う人 の間 に売 ろ うと する 気持 ちと 買お うと する 気持 ちが 共有 され

︑合 意さ れる 地点 にい ると き成 り立 つこ とが でき る㉟

﹂と いう 意見 もあ るよ うに

︑三 つ

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

四二

(7)

の事 例は 夢を 売買 する 二人 の間 に︑ 信頼㊱

が根 底に ある

︒そ して

︑そ こに 嫉妬

︑欲 望と いう 心理 が加 わっ てい る︒ しか し︑ 同じ く夢 の売 買が 行わ れて いて も特 に留 意す べき こと は︑ 一六 五話 は売 買行 為に 介入 者の

﹁夢 解の 女﹂ が登 場す るこ とで ある

︒ 夢の 売買 が成 り立 つ際 に︑ 不可 欠の 要素 す︱ なわ ち信 頼︑ 嫉妬 や欲 望と いう 感情 の方 向性 が別 々に 分れ て用 いら れる こと で︑ 夢の 売買 が﹁ 商売

﹂の 一種 に転 換さ れて いる

︒ 一六 五話 では

︑夢 解き の専 門家 であ る第 三者

﹁夢 解の 女﹂ が︑ 夢 の所 有者 を決 める 決定 権を 握っ てお り︑ その 第三 者の 指南 のも とに 夢が 取ら れ︑ 夢を 取っ た者 は謝 礼を 夢を 見た 人で はな く第 三者 に与 えて いる

︒こ こで

︑気 持ち の共 有や 互い の合 意は

﹁夢 を見 た人

 

夢を 買う 人﹂ の構 図で はな く︑

﹁夢 を見 た人

↓夢 解き の女

↑夢 を買 う人

﹂と いう 方向 性に 変わ って いる ので ある

︒ 伊東 玉美 氏に よる と︑ もと もと 夢解 の女 は﹁ 古代 以来

︑見 た夢 が どの よう なメ ッセ ージ なの か解 読す る﹁ 夢解 き﹂

﹁夢 合わ せ﹂ とい う職 業﹂ だっ たら しく

︑﹁ いい 夢を 見る こと も大 事だ が︑ それ をど う扱 うか はそ れ以 上に 重要 なの であ る㊲

﹂と いう

︒ま さに 一六 五話 は 物語 全体 にか けて それ を示 唆し てい る︒ 夢の 内容 は一 切記 され ず︑ 夢そ のも のが 貴重 な宝 物の よう に買 い売 りさ れ︑

﹁さ れば

︑夢 を人 に聞 かす まじ き也 とい ひ伝 へた り﹂ と締 めく くる 話末 評語 が︑

﹃宇

治拾 遺物 語﹄ の編 者に おけ る夢 の捉 え方 を象 徴し てい るよ うに うか がえ る︒ この 二話 を検 討し てみ ると

︑﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄独 自の 説話 に夢 が 登場 する 場合 は︑ 夢に 対す る﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄独 自の 思想 が表 れて いる ので はな いか とい う可 能性 が浮 かび 上が る︒ では

︑﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄全 体に おけ る夢 が登 場す る場 合は

︑ど のよ うな 様相 を見 せる だろ うか

︒ 三 夢か ら見 る説 話の 分類 本稿 では

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお いて

﹁夢

﹂が 出て くる 説話

︵計 二 七話

︶を

︑ス トー リー 展開 にお ける 夢の あり 方を 基準 に︑ 次の よう に分 類し たい

. 夢合 せ・ 夢解 き 型

第四 話﹁ 伴大 納言 事﹂

第一 六五 話﹁ 夢買 人事

. 予言

・神 仏が 出現 型

第六 三話

﹁後 朱雀 院︑ 丈六 仏奉

作 給事

第七

〇話

﹁四 宮河 原地 蔵事

第八 八話

﹁自

賀 茂社

御 幣紙 米等 給事

第八 九話

﹁信 濃国 筑摩 湯ニ 観音 沐浴 事﹂

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

四三

(8)

「夢」が出てくる説話一覧

複数の人物が 同じ夢を見る

c.出来事の 発端型

「夢ともなく,

うつゝともな く」

神が出現し,

出来事の発端 を明かす

夢告げ物語

高僧の魚食 二話と共通す るモティーフ

d.出来事の真 実型

a.夢占い・夢 解き型

その他

d.出来事の真 実型

d.出来事の真 実型

b.予言・神仏 が出現型

d.出来事の真 実型

d.出来事の真 実型

b.予言・神仏 が出現型

d.出来事の真 実型

b.予言・神仏 が出現型

b.予言・神仏 が出現型

c.出来事の発 端型 話 末 評 語

されば,いかにもいかにも,平茸 は食はざらんに,事かくまじき物 とぞ。

然る間,善男,縁につきて,京上 して,大納言にいたる。されども,

猶,罪をかぶる。郡司がことばに たがはず。

×

人の悪心はよしなき事なりと。

さて,この女,よに物よく成て,

この比は,なにとは知らず,大殿 の下家司のいみじく徳あるが妻に 成て,よろづ事叶てぞ有ける。尋 ばかくれあらじかしとぞ。

×

×

僧都,此よしを聞て,かづけ物一 重,たびてぞかへされける。

×

「いまにおはします。二尺五寸斗 の程にこそ」と人は語りし。これ,

語りける人,拝みたてまつりける とぞ。

猶,心長く,物詣ではすべきなり。

×

×

翌年,平茸が全く見あたらなかっ

善男は上京し大納言まで昇るが,

罪を受ける

葬儀の礼を執り行なって京へ出る 途中,聖の後を餓鬼,畜生,虎,

狼,犬,烏,数万の鳥獣が続いて 歩いてきて四条の北の小路で糞を たれたことから,糞の小路ではあ まりに汚いので錦の小路と呼ぶよ うになった

大宮司は国司により湯船に閉じ込 められ処罰されたままだった

さる御大臣に仕える富裕な家司の 妻となる

丈六の仏を造り,その仏像は比叡 山の護仏院に安置した

×

村の家々は流行病にかかって大勢 死んで,一軒だけ助かった

地蔵を納めて置きっ放しにしてい たことを思い出し,急いで開眼供 養を営んだ

塔の下に立っている地蔵の足が本 当に焼けていた

長櫃に詰められた紙や米が減るこ とがなかったので,たいへん裕福 な法師になった

夢に見えたのと同じ格好の男が現 れ,この男は法師になりその名を 馬頭観音と呼んだ

鹿は助かり,その後は,天下は安 泰,国土も豊かであり続けたとい

夢合わせ・夢解き

×

×

×

×

×

×

×

×

×

×

×

×

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

四四

(9)

〈表〉『宇治拾遺物語』において 夢を語る相手

妻や子など

妻,きはめた る相人

×

×

明快座主

×

僧都

×

×

×

人々

大王 夢を語る場面

×

×

×

×

×

×

① ②髪の毛が伸びた法師が二,三十人ほど 現れ,長い間宮仕えをしていたこの里からよ そへ行くことになったと告げる

西大寺と東大寺を跨いで立つ

年前に亡くなった母が現れ,私はもう仏に なったと告げた

熱田の神が現れ,かつて法華経を千部読んで 我を供養しようと百余部を読み奉った僧を,

おまえが追い払ってしまい,その僧が今国司 となって生まれ変わったことを告げる 腰から上は人で下が蛇になった美しい女が現 れ,「私は人を恨めしいと思っていたばかり に蛇の姿にされ石橋の下で長い年月を過ごし ていたが,昨日あなたのおかげで助けられた。

そのお礼として,よい男に巡り合い,幸せに なるようにしてさしあげます」と言う 御堂入道殿が現れ「一丈六尺の仏像を造った 人の子々孫々は決して三悪道に落ちることは ない。私は多くの丈六の像をお造り申した。

だからあなたは必ず成仏なさる」と言った 賀茂の大明神が「また実重が来た」と言って 嘆いていた。ある夜,実重が下の社に参籠し た晩,上社に参詣する途中,中賀茂のあたり で天皇の行幸にお会いした。見ると,鳳輦の 中に金泥で書かれた経文が一巻あり,そこに は「一称南無仏,皆已成仏道」という表題が 書かれていた

恐ろしそうな者どもが,その近辺の民家にし るしをつけて歩いていたが,自分の家には,

永超僧都に魚をさしあげた所であるからとし るしをつけなかった

大路を通る者が「地蔵さん,明日,帝釈天が 地蔵会をなさるのにはおいでになりません か」と声高に聞くと,家の奥から「まだ目が 開かないので,参れそうにもない」と言うや り取りが聞こえた

ある僧が「賀能知院が塔の下を通る際,時々 拝んで通ったので賀能が無間地獄に落ちたそ の日,この地蔵菩薩はすぐに助けようとして 一緒に地獄においでになった」と言った

①清水へ参れ②賀茂神社に参って申せ③おま えがこうして参るのが気の毒だから,御幣紙 や打徹の散米などを必ず授けようと言われた 明日の正午に観音様が御入浴にみえるという 夢を見る。その姿は,三十ばかりの鬚の黒い 男が,綾藺笠をかぶって,節ぐろの胡籙に皮 を巻いた弓を持って,紺の狩衣を着て,鹿の 夏毛の行縢を履き,葦毛の馬に乗って来ると いう

体毛は五色で角は白い,大きな鹿がいた 夢を見る者

(夢見手)

①里の長

②里の住民たち

善男

清徳聖

大宮司

石橋を踏み返した

後朱雀院

魚を供した者

下種(下賤の者)

僧都

信濃国の筑摩の湯 の近くに住む人

国の后 標 題

丹波国篠村平 茸生事

伴大納言事

清徳聖,奇特

伏見修理大夫 俊綱事

石橋下蛇事

後朱雀院,丈 六仏奉作給

式部大夫実重,

賀茂御正體拝 見事

永超僧都魚食

四宮河原地蔵

山横川賀能地 蔵事 賀 茂 社 御幣紙米等給

信濃国筑摩湯 ニ観音沐浴事

五色鹿事 巻と話順

巻・第話

巻・第話

巻・第話

巻・第14話

巻・第話

巻・第11話

巻・第12話

巻・第15話

巻・第話

巻・第13話

巻・第話

巻・第話

巻・第話 説話番号

19

46

57

63

64

67

70

82

88

89

92

10

11

12

13

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

四五

(10)

複数の人物が 同じ夢を見る

「夢」語 を 使 った比喩表現

故人が出現

故人が出現

同じ人物が何 度も夢を見る

「夢」語 を 使 った比喩表現

夢の内容記述 ナシ

故人が出現

故人が出現

に拠る。

b.予言・神仏 が出現型

b.予言・神仏 が出現型

d.出来事の真 実型

b.予言・神仏 が出現型

その他

d.出来事の真 実型

b.予言・神仏 が出現型

e.出来事の結 果型

b.予言・神仏 が出現型

その他

a.夢占い・夢 解き型

d.出来事の真 実型

d.出来事の真 実型

d.出来事の真 実型

×

×

×

この男女,たがひに七八十に成ま で栄へて,男子,女子,産みなど して,死の別にぞ別ける。

×

×

×

×

されば,夢を人に聞かすまじき也 といひ伝へたり。

×

×

されば,人の祈りは僧の浄不浄に はよらぬ事也。只,心に入たるが 験あるもの也。「母の尼して祈り をばすべし」と,昔よりいひ伝へ たるも,この心なり。

一本の藁しべからたちまち富裕な 長者になった

醍醐天皇は回復し,聖は長い年月 修行をし,姉の尼君も本国に帰ら ずそこで修行をしていたという 書写供養をしてやると,その後ま た二人の夢に心地よさそうになっ た敏行が現れた

男と娘はねんごろに観音にお仕え し,二人は長命し,子を産み,幸 せに暮らした

寺の物を勝手に食べているのだと 思うと疎ましく嫌な気持ちになっ て物も食べずに退出し,その後は 別当のところへ通わなくなった その夢を見てから六日目という朝 の十時頃に大仕事をしてきたよう な様子で牛が帰ってきた

故人が夢に現れ礼を言う 御帳の布地を着物に仕立てて着る と何もかも上手くいき,立派な夫 にも愛されて裕福に暮した。その 着物をしまっておいて,必ず一大 事と思うような時に取り出して着 ると,必ず願いが叶うのであった

①が夢解きの女に代価を払い②の 夢を取り,①は大臣にまで昇進し

②は官職もないまま終ってしまっ

主人(父親)はただの羊だと思い 殺し,調理するが,皆何も食べず 帰った。後に人々にわけを聞いて 悲しみ嘆くうちに病気になって死 んだ

魚を食べて大きな骨が喉に刺さり,

苦しみながら死んでしまい,妻は その後鯰を一切口にしなかった

無名だった僧がことのほか美々し い姿で退出することになった

×

×

×

×

×

×

×

×

×

×

×

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

四六

(11)

×

×

×

×

×

明記ナシ。本 文「「かゝ る 夢をこそ見つ れ」といいて 過ぬ。」

×

×

夢解きの女

×

家族(明記ナ シ)本文「「かゝ る夢をこそ見 つれ」と語れ ば,「い か な る事にか」と いひて,日暮 れぬ。」

×

※ 夢を見る者が複数である場合,本文に記述されている夢を見た順番に従い番号を付けた。

※ 複数の夢が登場する場合,本文に記述されている順番に従い番号を付けた。

※ 本文の引用は全て『新日本古典文学大系 宇治拾遺物語』(三木紀人・浅見和彦校注,岩波書店,一九九〇年)

×

×

×

×

×

×

×

×

× 御帳から人が現れ「前世の罪の報いを知らず に観音に愚痴を言うのはけしからぬことだが,

少し助けてやろう。すぐにここを出て,手に 触れた物をつかみ捨てずに持っておくこと だ」という

①聖の言った剣の護法②仏が「これより南西 の方にある山の雲のたなびく所へ行って僧を 尋ねるがよい」と告げる

恐ろしく忌まわしい感じの敏行が現れ,「四 巻経を書きあげず死んでしまった罪により譬 えようもない苦を受けているので,三井寺の 僧に頼んで書写供養させてほしい」と言った 裏の堂から僧が出て来て「明日,男がここに 着くのでその者の言うことに従うがよい」と 言う

あるとき昼寝をしていると舅の僧や妻の尼君 をはじめ,あらゆる人が煮え湯を自ら泣く泣 く飲んでおり,自分にも侍女が土器を台に据 えて持って来た

海に落ちて死んだと聞いていた佐大夫が現れ,

「この東北の隅で日に一度,樋爪の橋のもと に行って苦しみを受けている。あと五日を経 て,六日となる巳の刻頃には牛を返す」とい

故人の貞孝(高)が生前の姿で涙を流しなが ら現れ,私の死の恥をお隠しくださったこと は,いつまでも忘れません」と喜ぶ

①観音が現れ御帳の布地をよく畳んで前にお 置きになった②犬防ぎの中に差し入れて置い た御帳をまた頂く

×

亡くなった娘が青い着物を着て,白い布切れ で頭を包み,髪に玉のかんざしを一揃いさし て現れ「親に断らず勝手なことをした罪で羊 の身を受けた私の命を助けてください」と言 った

たいへん老いた父が杖をついて現れ,「明後 日未の刻に大風が吹き,この寺が倒れる。そ の時私はこの寺の瓦の下で三尺ほどの鯰にな り,子供に叩き殺されそうになるので賀茂川 に放してくれ」と言う

恐ろしげな鬼どもが現れ,みずらを結った童 子が鬼どもを打ち払った

身寄りのない若い

①帝②聖の姉

①紀友則②三井寺 の僧

夢にとびしたらん ここちし

蔵人なりける人

河内前司

頭中将

清水寺へ熱心に参 詣する貧しい女

夢見るここちして

①ひきのまき人② 国守の御子の長男 の君

上覚

堀川太政大臣 長谷寺参籠男,

利生

信濃国聖事

敏行朝臣事

越前敦賀女観 音助給事

クウスケガ仏 供養事

大安寺別当女 ニ嫁スル男夢 見事

播磨守子サダ ユフガ事

蔵人頓死事

清水寺,御帳 給女事

或上達部,中 将之時逢

夢買人事

或唐人,女ノ 羊 ニ 生 タ ル 知シテ殺

上出雲寺別当,

父ノ鯰ニ成タ ルヲ知ナガラ 殺テ食事

極 楽 寺 僧,

仁 王 経 巻・第話

巻・第話

巻・第話

巻・第話

巻・第話

巻・第話

巻10・第話

巻10・第話

巻11・第話

巻12・第21話

巻13・第話

巻13・第話

巻13・第話

巻15・第話 96

101

102

108

109

112

118

121

131

157

165

167

168

191 14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

四七

(12)

第九 六話

﹁長 谷寺 参籠 男︑ 預

利生

第一

〇一 話﹁ 信濃 国聖 事﹂

第一

〇八 話﹁ 越前 敦賀 女観 音助 給事

第一 一八 話﹁ 播磨 守子 サダ ユフ ガ事

第一 三一 話﹁ 清水 寺︑ 御帳 給女 事﹂

. 出来 事の 発端 型

第九 二話

﹁五 色鹿 事﹂

. 出来 事の 真実 型

第二 話﹁ 丹波 国篠 村平 茸生 事﹂

第四 六話

﹁伏 見修 理大 夫俊 綱事

第五 七話

﹁石 橋下 蛇事

第六 四話

﹁式 部大 夫実 重︑ 賀茂 御正 體拝 見事

第六 七話

﹁永 超僧 都魚 食事

第八 二話

﹁山 横川 賀能 地蔵 事﹂

第一

〇二 話﹁ 敏行 朝臣 事﹂

第一 一二 話﹁ 大安 寺別 当女 ニ嫁 スル 男夢 見事

第一 六七 話﹁ 或唐 人︑ 女ノ 羊ニ 生タ ル不

知 シテ 殺事

10 第一 六八 話﹁ 上出 雲寺 別当

︑父 ノ鯰 ニ成 タル ヲ知 ナガ ラ 殺テ 食事

11 第一 九一 話﹁ 極楽 寺僧

︑施

仁 王経 験

事﹂

. 出来 事の 結果 型

第一 二一 話﹁ 蔵人 頓死 事﹂ その

* 第一 九話

﹁清 徳聖

︑奇 特事㊳

﹂ 喩

第一

〇九 話﹁ クウ スケ ガ仏 供養 事﹂ 喩

第一 五七 話﹁ 或上 達部

︑中 将之 時逢

召 人

事﹂ さら に︑ この よう に分 類し た各 説話 にお いて

︑夢 を見 る者

︑夢 を 語る 相手

︑夢 の内 容︑ 夢を 見た 結果 など の項 目を 作成 し︿ 表

﹀に まと めた

︒す ると

︑喩 詞と して の﹁ 夢﹂ の用 例を 含む

﹁そ の他

﹂を 除い て︑ 夢の 登場 する 説話 は計 二四 話に なる

︒ これ らの 分類 につ いて 説明 を加 える と︑ 次の よう であ る︒

. 夢合 せ・ 夢解 き 型︵ 二話

︶夢 合せ や夢 の解 釈が 説話 の展 開に 大い に影 響す る説 話群 であ る︒ この 類型 に該 当す る二 話は

︑夢 を語 る相 手を 間違 えた り︑ 夢を 語り 夢解 きを 間違 える など

︑夢 を見 た後 の行 動を 誤っ て失 敗す る人 物が 登場 する

︒第 四話

﹁伴 大納 言事

﹂は

︑ 応天 門の 炎上 事件 でも 知ら れる 伴善 男の 出世 と失 脚が 夢合 せと 結び つけ られ

︑﹁ 高相 の夢 を見 たの によ しな き者 にそ れを 語り

︑幸 運を つか みそ こね た話㊴

﹂と され る︒ 第一 六五 話﹁ 夢買 人事

﹂に は︑ 夢解 き女 を訪 ねて 来た 二人 の男 が登 場す る︒ 吉夢 を買 い取 って 成功 した

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

四八

(13)

備中 国の 郡司 の子

﹁ひ きの まき 人﹂ は出 世し

︑夢 を取 られ た国 守の 若君 は官 職も なく 一生 を終 える 説話 であ る︒

. 予言

・神 仏が 出現 型︵ 九話

︶夢 を介 して 予言 を受 けた り︑ 夢 に神 や仏

︑観 音の 化身 など が現 れる 説話 群で ある

︒例 えば

︑第 八九 話﹁ 信濃 国筑 摩湯 ニ観 音沐 浴事

﹂は

︑あ る人 が夢 で聞 いた 予言 通り

︑ 東国 武士 が聖 視さ れ︑ 偶さ か出 家す る説 話で あり

︑第 九六 話﹁ 長谷 寺参 籠男

︑預

利 生

事﹂ では

︑長 谷寺 に参 籠し た若 侍が

︑夢 での お 告げ を信 じ︑ 藁一 本か ら富 裕な 長者 にな る︒ 第一

〇八 話﹁ 越前 敦賀 女観 音助 給事

﹂で は︑ 貧し い娘 が夢 告げ によ って 願望 が成 就す ると いう 確信 を得 る契 機と なり

︑夢 が幸 福獲 得の 実現 のた めの 装置 とし て用 いら れて いる

. 出来 事の 発端 型︵ 一話

︶起 承転 結の 起に あた る︒ 夢で 見た 事 柄が きっ かけ とな り︑ 事件 が起 こる

︒こ の類 型に 該当 する 第九 二話

﹁五 色鹿 事﹂ では

︑国 の后 が夢 に五 色に 輝く 大き な鹿 を見 たこ とを きっ かけ に︑ 大王 は五 色の 鹿を 探す よう に命 令を 下す

. 出来 事の 真実 型︵ 一一 話︶ 起承 転結 の転 にあ たる

︒伏 線が 回 収さ れる 過程 に夢 を用 いて いる 場合 や︑ 不可 思議 な出 来事 が起 こっ た訳 が︑ 夢に よっ て分 かる 説話 群で ある

︒第 五七 話﹁ 石橋 下蛇 事﹂ や第 一六 七話

﹁或 唐人

︑女 ノ羊 ニ生 タル 不

知シ テ殺 事﹂

︑第 一六 八 話﹁ 上出 雲寺 別当

︑父 ノ鯰 ニ成 タル ヲ知 ナガ ラ殺 テ食 事﹂ など は︑

所謂 畜生 転生 譚・ 異類 転生 譚と 見做 すこ とが 出来 るが

︑い ずれ も夢 告げ によ りそ の事 実が 知ら され る︒ 夢が 出来 事の 真実 を明 かす 装置 とな って いる

. 出来 事の 結果 型︵ 一話

︶起 承転 結の 結に あた る︒ ある 出来 事 の後 に︑ 結果 とし て夢 を見 る︑ 夢を 見る こと によ って 物語 が締 め括 られ るケ ース であ る︒ この 類型 に該 当す る第 一二 一話

﹁蔵 人頓 死 事﹂ では

︑頭 中将 の夢 に故 人の 貞孝 が生 前の 姿で 涙を 流し なが ら現 れ︑ 私の 死の 恥を お隠 しく ださ った こと は︑ いつ まで も忘 れま せ ん﹂ と喜 び︑ 故人 が夢 に現 れ礼 を言 って 説話 は終 わる

︒ その 他︵ 三話

︶に 分類 した 第一

〇九 話﹁ クウ スケ ガ仏 供養 事﹂ と第 一五 七話

﹁或 上達 部︑ 中将 之時 逢

召人

﹂は

︑﹁ 夢に とび した ら んこ こち して

﹂︑

﹁夢 見る ここ ちし て﹂ など

﹁夢

﹂と いう 語彙 を比 喩 表現 に用 いた 説話 であ る︒ この 中で

︑そ の他 に分 類し た第 一九 話﹁ 清徳 聖︑ 奇特 事﹂ は︑ 夢 が出 現す る場 面が 少し ばか り難 解で ある

︒一 九話 は︑ 清徳 聖の 亡く なっ た母 の追 善・ 転生 の孝 養話 から 聖の 大食 い話

︑師 輔の 霊眼 力の 話へ と展 開し

︑錦 小路 の地 名起 源譚 とし て結 ばれ る︒ 清徳 が亡 くな った 母を 棺に 入れ

︑愛 宕山 に運 び︑ 飲ま ず食 わず

︑ 寝る こと もせ ず︑ 声を とぎ らせ るこ とも なく 千手 陀羅 尼を 休む こと なく 唱え なが ら︑ この 棺の まわ りを めぐ り続 けて 三年 にな った

︒そ

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

四九

(14)

の年 の春

︑清 徳は

﹁夢 とも なく

︑う つゝ とも なく

︑ほ のか に母 の声 にて

﹂仏 にな った と告 げら れる

︒ 笠森 勇氏 は本 話を

﹁苦 行を 重ね るう ちに 懐か しい 母が 夢に 現れ て くる

︵中 略︶ 母を 弔っ た聖 が︑ その 結果 仏に 生ま れ変 わっ て︑ 餓え る獣 たち に食 を施 して ゆく とい うあ りが たい 話㊵

﹂と 評価 して いる

︒ しか し︑ 夢の 中で 母の 声が 聞こ えた のだ ろう と安 易に 解釈 して は︑ 編者 が折 角﹁ うつ ゝと もな く﹂ と記 した 意図 が台 無し にな って しま うの では ない かと 愚考 する 次第 であ る︒ 小林 保治 氏は 本話 につ いて

︑次 のよ うに 評し てい る︒ 神仏 や冥 界に ある 者は 夢を 通し てこ の世 の者 と交 信す るの が 古来 から の例 であ るが

︑眠 りを とら ない 清徳 は母 がほ のか に次 のよ うに 告げ るを 聞い たと いう のだ

︒ 此陀 羅尼 をか く夜 昼誦 し給 へば

︑我 はは やく 男子 とな り て天 に生 れに しか ども 同じ くは 仏に なり て告 げ申 さん とて 今ま では 告げ 申さ ざり つる ぞ︒ 今は 仏に なり て告 げ申 也︒ 息子 が不 飲不 食︑ 不眠 不休 で誦 呪を 続け てい ると いう のに

︑ いい 気な 亡者 もあ った もの であ る︒ とも あれ

︑清 徳に はそ れが

﹁夢 とな くう つゝ とも なく

﹂き こえ た︑ とし たの は伝 承者 の苦 心の 才覚 で︑ さす がに 巧み な処 理と いう べき であ る︒ その 瞬間 に清 徳の 勤行 は終 わる のだ が︑ その 母が

︑男 子変 生・ 天界 転生

を経 て成 仏す るこ とを

︑じ つは 彼は 予想 して いた のだ

︑と 伝承 者は 語り 続け る㊶

︒ 睡眠 もせ ず何 も口 にせ ず千 手陀 羅尼 を唱 える 清徳 は︑ 勤行 を終 え るま で欲 に耐 える

︒こ こで

︑最 後に 眠り につ くの では なく 清徳 の行 動は よう やく

︑禁 欲し てき たこ とか ら大 食と いう ふう に逆 転し た形 で現 れる

︒小 林保 治氏 のい う﹁ 伝承 者の 苦心 の才 覚で

︑さ すが に巧 みな 処理

﹂と いう 評価 は相 応し い︒ 夢と もな く現 とも なく とい う表 現は

﹃平 家物 語﹄ 第六 巻の 慈心 房 の段 や︑

﹃保 元物 語﹄ 上・ 下巻 にも 見る こと がで き︑

﹃狭 衣物 語﹄ 第 四巻 には

﹁夢 現と も思 し分 かれ ず﹂ とい う記 述が ある

︒こ の表 現に つい て﹁ 夢な のか 現実 なの か判 然と しな いこ と㊷

﹂と 注釈 され てい る︒ この よう に︑ 他文 献に おい ても 夢と もな く現 とも なく とい う表 現 は一 般に 用い られ るの で︑ とり わけ 珍し い表 現で はな いが

︑﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄に おい ては 一九 話以 外の 収載 話に は見 られ ない 表現 であ る︒ 眠り をと らず 勤め る聖 に母 の声 を伝 える 手段 とし て﹁ 夢と なく うつ ゝと もな く﹂ とい う表 現を 用い るこ とに より

︑そ の中 に組 み込 まれ た巧 妙な 編者 の叙 述力 が垣 間見 える 説話 だと いえ よう

︒ まと めに かえ て 本稿 では

︑﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄に おけ る夢 のは たら きや 作用 につ い

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

五〇

(15)

て検 討す るた めに

︑夢 が登 場す る説 話を 類型 に分 類す るこ とを 試み た︒ 全一 九七 話の 説話 から

︑ス トー リー 展開 にお ける 夢の あり 方を 基準 に計 二四 話の 説話 を﹁

. 夢合 せ・ 夢解 き﹂ 型︵ 二話

︶︑

. 予言

・神 仏が 出現

﹂型

︵九 話︶

︑﹁

. 出来 事の 発端

﹂型

︵一 話︶

.出 来事 の真 実﹂ 型︵ 一一 話︶

︑﹁

. 出来 事の 結果

﹂型

︵一 話︶ に分 類し た︒ その 結果

︑﹁ 出来 事の 真実

﹂型 が一 一話 と最 も多 く︑ 夢を 通し て何 かが 知ら され るた めの 装置 とし て夢 が用 いら れる 傾向 が見 て取 れる

︒次 に︑

﹁予 言・ 神仏 が出 現﹂ 型が 九話 ある が︑ この 類型 にお いて 神仏 の夢 告げ は︑ 仏教 信仰 の効 験を 公然 と記 して いる わけ では なく

︑観 音菩 薩や 仏が 夢に 現れ たか らと いっ て一 概に 信仰 や仏 教思 想を 窺え ると は言 えず

︑世 俗化 され てい るこ とに 注意 すべ きで ある

︒ 纏め ると

︑﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄に おけ る夢 の出 現す る二 四話 は︑ 大 きく 次の よう な側 面で 描か れて いる

夢が

︑説 話全 体の 展開 に︑ どの よう に︑ どれ ほど 影響 して いる のか とい う観 点か ら︑ 夢が これ か の出 来事 の説 明や 案 内に なっ てい るか

︑夢 がこ れま の不 可解 な出 来事 の種 明か しに なっ てい るか

︑夢 その もの が解 釈が 必要 な謎 めい たも の で︑ その 謎解 き自 体が 説話 全体 にか けて 展開 の軸 にな って い るか

夢に 出現 する もの が何 かと いう 観点 から

︑死 者︵ 故人

︶か

︑ 神や 仏な どの 超越 的な 力を 有す る人 格的 存在 か︑ また はそ の よう な人 格的 存在 が出 現し ない か︒ 紙幅 の都 合上 この 検討 につ いて は別 稿に 譲り たい が︑ その 他に も︑ 一つ の説 話の 中で 夢を 見た 人物 が複 数の 場合

︵二 話︑ 一〇 一話

︑一

〇二 話︑ 一六 五話

︶や

︑一 人の 人物 が複 数の 夢を 見る 場合

︵一 三一 話︶

︑夢 を他 人に 語る 場合

︵二 話︑ 四話

︑五 七話

︑六 三話

︑六 七話

︑ 八九 話︑ 九二 話︑ 一一 八話

︑一 六五 話︑ 一六 八話 の計 一〇 話︶ と︑ 語ら ない 場合

︵四 六話

︑六 四話

︑七

〇話

︑八 二話

︑八 八話

︑九 六話

︑ 一〇 一話

︑一

〇二 話︑ 一〇 八話

︑一 一二 話︑ 一二 一話

︑一 三一 話︑ 一六 七話

︑一 九一 話の 計一 四話

︶が ある とい う点 は︑ 検討 の必 要が ある と思 われ る︒ 今回 の作 業は

︑﹃ 宇治 拾遺 物語

﹄に おい てど のよ うに 夢は 素材 と して 用い られ てい るか とい う問 題を 明ら かに する ため の重 要な 基礎 作業 とな ると 考え る︒ 今後 は各 類型 の説 話の 中か らい くつ かを 取り 上げ

︑夢 がど のよ う に説 話の 方法 とし て用 いら れて いる のか 明ら かに して 行き たい

︒ 注

① 柳田 國男

﹁夢 と文 藝﹂

﹃定 本 柳田 國男 全集

﹄六 巻︑ 筑摩 書房

︑一 九

﹃宇 治拾 遺物 語﹄ にお ける

﹁夢

﹂の 分類

五一

参照