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博士(農学) 岩谷一史 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)   岩谷一史 学位論文題名

潰瘍性大腸炎の病態発症と進展に関する因子の研究

学位論文内容の要旨

  特定疾患に認定されている炎症性腸疾患(IBD)の潰瘍性大腸炎とクローン病は再燃と 緩解を繰り返す発症原因不明の慢性腸疾患である。IBDと大腸がんりスクの関係性が指摘 されており、IBD症状の低減や予防は将来的な大腸がんりスクの減少にっながると期待さ れる。この発症機構を解明するために、数多くの実験動物モデルを用いて様々な病態発症 に関連する因子の解析が行われている。比較的よく用いられる大腸炎の実験系として、デ キストラン硫酸ナトリウム(DSS)を用いる方法が挙げられるが、この発症機構ですら解 明されていないのが現状である。DSS誘導性大腸炎の発症・悪化の機構解明を通して、潰 瘍性大腸炎の発症及び進展に関する因子の一端を明らかにするとともに、食品を介した予 防・治療の可能性を見出すために、大腸炎発症に関わる食餌因子について検証した。

(1)ラット系統間比較によるデキストラン硫酸ナトリウム誘導性大腸炎感受性関連因子 の解析

  消化管の管腔内には食品成分以外にも腸内細菌の構成成分やその代謝産物等多様な物 質が共存しており、これらが粘膜上皮層を超えて体内ヘ侵入することは炎症の引き金とな ることが推察される。本研究では、近交系ラットであるWKAHおよびDA系統にDSS誘導性 大腸炎を発症させるとその症状が系統間で著しく異なり、とくにDA系統では極めて重篤 な症状となる事を見出した。そこで、分離大腸粘膜組織を用い、管腔側から上皮細胞層を 介した物質透過性について、螢光物質をマーカーとして物質透過性を解析したところ、大 腸粘膜組織の物質透過性がDA系統では相対的に高いことを見出した。さらに、大腸粘膜 でのバリア形成に関与するタイトジャンクションタンパク質の発現構成を検討したとこ ろ、クローディン‑4発現とその局在が系統間で大きく異なることが明らかとなった。こ れらのことから、タイトジャンクションタンパク質構成の差異が消化管バリア機能を変動 させ、結果として腸炎症状の程度に影響すると考えられた。

(2)消 化管ホルモン不活化酵素ジペプチジルペプチダーゼIV (DPPIV)がDSS誘導性大 腸炎症状に及ぼす影響の解析

  腸炎症状の抑制に関わる消化管ホルモンがあることが知られているが、これらの消化管 ホルモンを特異的に分解する酵素としてDPPIVが知られている。実験的大腸炎における

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DPPIVの役割を明らかにするために、DPPIV欠損ラットにおけるDSS誘導性大腸炎の症状 を野生型のラットと比較した。その結果、DSSの投与濃度が比較的高い場合には、その腸 炎病態の発症初期にDPPIV欠損ラットでの症状の改善が見られたものの、症状の進行に伴 い腸炎症状の差異は消失した。一方、DSS投与濃度を減少させた場合には、試験期間全体 にわたりDPPIV欠損ラットにおいて腸炎症状の軽減が観察された。これらのことから、腸 炎病態期の発症初期あるいは軽度の炎症誘導時においては、DPPIV活性の抑制が症状緩和 に有効であることが示された。

(3)軽度亜鉛欠乏下におけるDSS腸炎の病態解析

  環境的要因である食習慣、特に亜鉛摂取が潰瘍性大腸炎に及ぼす影響を検討した。亜鉛 添加量を制限した食餌誘導性の軽度亜鉛欠乏モデルラットでは重度の亜鉛欠乏で観察さ れるような摂食量の低下や成長遅延などが見られない一方、血中亜鉛レベルは通常の1/3 程度まで減少することを確認した。この軽度亜鉛欠乏状態でDSSを投与した場合には大腸 炎症状が有意に悪化することを見出した。通常、動物細胞の培養系に用いられる培地成分 として亜鉛は考慮されていない。したがって、通常の血清中亜鉛濃度と同程度となるよう に亜鉛を添加した培地で分離腸間膜免疫系細胞を培養したところ、炎症性サイトカインの ーっであるTNFa及ぴその受容体であるTNFR1の発現がいずれも有意に増加することを見 出した。TNFR1は炎症の収束に関与することから、亜鉛が炎症症状の収束に寄与すること が推察された。これらの結果は、亜鉛摂取不足により生じる血中亜鉛濃度の低下が免疫反 応 を 攪 乱 し 、 結 果 と し て 腸 炎発 症 お よ び 悪 化 に 関 わ る 危険 性を示 唆し てい る。

(4)腸炎症状緩和を目的とした新規糖質の機能性評価

  難消化性糖類は、主に下部消化管での生理作用が知られているが、その種類により異な る生理作用をもつ。そこで、新規に合成された鎖長の異なるaー1,6―グルコシド型糖鎖を 持つ直鎖イソマルト糖がDSS誘導性大腸炎の発症に及ぼす作用を検討した。その結果、直 鎖イソマルト糖の重合度がその発症遅延に関与することが示され、その作用機序として大 腸内での有機酸発酵とそれにより誘導される消化管ホルモン分泌を介する可能性が推察 された。これらのことから、イソマルト糖の重合度が大腸内発酵や消化管ホルモン分泌に 影響し得ること、また大腸炎予防のために効果的な難消化性糖を設計するためには、構成 糖の重合度が重要であることが示唆された。

  これらの研究から、内因性因子としては消化管バリア機能の向上に関わるタイトジャン クション関連タンパク質やDPPIVの制御、外因性因子としては食事を介した血中亜鉛濃度 や大腸内発酵の制御により、大腸炎の発症及び増悪のりスクを低下させる可能性が示され た。

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学位論文審査の要旨 主査 副査

副査 副査

准教授 教 授 教 授 准教授

石塚 原 川端 園山

学 位 論 文 題 名

敏 博 潤

慶(生命科学院)

潰瘍性大腸炎の病態発症と進展に関する因子の研究

  本 論 文 は 、 和 文132頁 、図39、 表7、4章 から なり 、参 考論 文3編 が添 えら れて いる 。 特 定疾患に認定されでいる炎症性腸疾患(IBD)の潰瘍性 大腸炎とクローン病は再燃と緩解 を繰り返す発 症原因不明の慢性腸疾患である。IBDと大腸がんりスクの関係性が指摘されて おり、IBD症状の低減や予防は将来的な大 腸がんりスクの減少にっながると期待される。こ の発症機構を 解明するために、数多くの実験動物モデルを用いて様々な病態発症に関連する 因子の解析が 行われている。比較的よく用いられる大腸炎の実験系として、デキストラン硫 酸ナトリウム(DSS)を用いる方法が挙げら れるが、この発症機構ですら解明されていないの が現状である 。DSS誘導性大腸炎の発症・ 悪化の機構解明を通して、潰瘍性大腸炎の発症及 び進展に関す る因子の一端を明らかにするとともに、食品を介した予防・治療の可能性を見 出すために、 大腸炎発症に関わる食餌因子について検証した。

(1)ラット系統聞比較によるデキス卜ラン硫酸ナトリウム誘導性大腸炎感受性関連因子の解 析

  消化管の管腔内には食品 成分以外にも腸内細菌の構成成分やその代謝産物等多様な物質が 共存しており、これらが粘 膜上皮層を超えて体内ー侵入することは炎症の引き金となること が 推察 され る。 本研 究で は、 近交系ラットであるWKAHおよびDA系統にDSS誘導性大腸炎を 発症させるとその症状が系 統間で著しく異なり、とくにDA系統では極めて重篤な症状となる 事を見出した。そこで、分 離大腸粘膜組織を用い、管腔側から上皮細胞層を介した物質透過 性について、螢光物質をマ ーカーとして物質透過性を解析したところ、大腸粘膜組織の物質 透過性がDA系統では相対的 に高いことを見出した。さらに、大腸粘膜でのバリア形成に関与 するタイトジャンクション タンパク質の発現構成を検討したところ、クローディン‑4発現と その局在が系統間で大きく 異なることが明らかとなった。これらのことから、タイトジャン クションタンパク質構成の 差異が消化管バリア機能を変動させ、結果として腸炎症状の程度 に影響すると考えられた。

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(2)消 化 管 ホ ル モ ン 不 活 化 酵 素ジ ペプ チジ ルペ プチ ダー ゼIV (DPPIV)がDSS誘導 性大 腸 炎症状 に及ばす影響の解析

  腸炎 症状の抑制に関わる消化管ホルモンがあることが知られているが、これらの消化管ホ ル モン を特異的に分解する酵素としてDPPIVが知られている。実験的大腸炎にお けるDPPIV の役割 を明らかにするために、DPPエV欠損ラッ卜におけるDSS誘導性大腸炎の症状を野生型 のヲッ トと比較した。その結果、DSSの投与濃度が比較的高い場合には、その腸炎病態の発 症初期 にDPPIV欠損ラットでの症状 の改善が見られたものの、症状の進行に伴い腸炎症状の 差 異は 消失した。一方、DSS投与濃度を減少させた場合には、試験期間全体にわ たりDPPIV 欠損ラ ットにおいて腸炎症状の軽減が観察された。これらのことから、腸炎病態期の発症初 期ある いは軽度の炎症誘導時においては、DPPIV活性の抑制が症状緩和に有効であることが 示され た。

(3)軽度亜鉛欠乏下 におけるDSS腸炎の病態解析

  環境的要因である食習慣、特に亜鉛摂取が潰瘍性大腸炎に及ぼす影響を検討した。亜鉛添 加量を制限した食餌誘導性の軽度亜鉛欠乏モデルラッ卜では重度の亜鉛欠乏で観察されるよ うな摂食量の低下や成長遅延などが見られない 一方、血中亜鉛レベルは通常の1/3程度まで 減少することを確認した。この軽度亜鉛欠乏状 態でDSSを投与した場合には大腸炎症状が有 意に悪化することを見出した。通常、動物細胞の培養系に用いられる培地成分として亜鉛は 考慮されていない。したがって、通常の血清中亜鉛濃度と同程度となるように亜鉛を添加し た培 地で分離腸問膜免 疫系細胞を培養したところ、炎症性サイ卜カインのーっ であるTNFa 及ぴ その受容体であるTNFR1の発現がいずれも有意 に増加することを見出した。TNFR1は炎 症の収束に関与することから、亜鉛が炎症症状の収束に寄与することが推察された。これら の結果は、亜鉛摂取不足により生じる血中亜鉛濃度の低下が免疫反応を攪乱し、結果として 腸炎発症および悪化に関わる危険性を示唆して いる。

(4)腸炎症状緩和を目的とした新規糖質の機能性評価

  難消化性糖類は、主に下部消 化管での生理作用が知られているが、その種類により異なる 生理作用を示す。そこで、新規合成された鎖長の異なるn―1,6→グルコシド型糖鎖を持つ直 鎖イソマルト糖がDSS誘導性大腸炎の発症に及ぼす作用を検 討した。その結果、直鎖イソマ ルト糖の重合度がその発症遅延 に関与することが示され、その作用機序として大腸内での有 機酸発酵とそれにより誘導され る消化管ホルモン分泌を介する可能性が推察された。これら のことから、イソマル卜糖の重 合度が大腸内発酵や消化管ホルモン分泌に影響し得ること、

また大腸炎予防のために効果的 な難消化性糖を設計するためには、構成糖の重合度が重要で あることが示唆された。

  これらの研究から、内因性因子としては消 化管バリア機能の向上に関わるタイトジャンク ション関連タンパク質やDPPIVの制御、外因性因子としては食事を介した血中亜鉛濃度や大 腸内 発酵の制御により、大腸炎の 発症及び増悪のりスクを低下させる可能性が示された。

  よって、審査員一同は、岩谷一史が博士( 農学)の学位を受けるのに十分な資格を有する ものと認めた。

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参照

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