博士(農学)半谷一晴 学位論文題名
低 空 1 プ モ ート セ ンシ ン グ によ る 小麦生育のモニタリングに関する研究
学位論文内容の要旨
1 .はじめに
北海道をはじめとする大規模な耕作地帯を中心に,生産性や作業性向上と品質管理を 目的とした作物生育のモニタリングに関する研究が盛んに行われている。その代表例と して,人工衛星で撮影した画像を用いた小麦生育のモニタリングがあり,生育マップを 作成して施肥・防除・収穫など作業決定の支援を行っている。しかし,衛星画像の撮影 は天候による影響が大きく,時期によづては画像が入手できない場合がある。また,こ の手法には画像ごとに多数の実測データを校正値として使用しなければならず,得られ る情報の分解能や精度は必ずしも高いとはいえない。そこで,本研究は産業用無人ヘリ コプタをプラットフオームとした低空リモートセンシングにより,小麦生育のモニタリ ングを行うシステムの開発を行った。小麦の穂水分やタンパク含有率などの生育量推定 に有用な波長域を特定し,これをもとにマルチスペクトル画像を用いた生育推定を行っ た。さらに,このシステムと衛星リモートセンシングを併用することで,前述の衛星画 像 を 用 い た モ ニ タ リ ン グ の 問 題 点 を 克 服 す る 方 法 論 の 確 立 を 狙 っ た 。 2 .産業用無人ヘリコプタと供試センサ
プラットフオームに採用した産業用無人ヘリコプタは農薬散布用として市販されてい るものであるが,これらの散布機材を取り外し,飛行位置を計測できるようにRTK‑GPS を装備して,小麦生育のモニタリングを行うためのプラットフオーム環境に整えた。
これをべースに,2 種類のセンシングシステムを開発した。まず,波長分解能が高く,
350 〜2500nm の波長域で分光反射率が計測できる分光放射計(ASD 社,FieldSpec3) を 搭載し,小麦の分光計測を行うことができるシステムを開発した。供試分光放射計で計 測される分光反射率は,日射量の変化の影響をうけることから,日射センサにより日射 量 変 化 を 計 測 し , 補 正 式 を 介 す る こ と で そ の 影 響 の 除 去 を 図 っ た 。 分光計測システムは波長分解能が高い反面,面的にデータを計測することが難しい。
そこで,マルチスペクトルカメラ(MSIS) と環境光量センサ(AI センサ)を産業用無人ヘ
リコプタに搭載し,撮影画像から分光反射率を得ることができるシステムの開発を行っ
た。MSIS は緑,赤,近赤外波長域の情報が取得でき,RS232 通信を介してバンド毎に露
逝時間,ゲイン,オフセットを制御できる。AI センサは画像撮影時の環境光量を上記の
波長域ごとに計測可能である。
3.分光 計測器 を用 いた 小麦 生育 のモ ニタ リン グ
分光 計測シ ステ ムを 用い て, 小麦 穂水 分やタンパク含有率と関わりのある推定パラメ ー タを ,重回 帰分 析, 主成 分分 析,PLS回 帰分 析な ど多 変量 解析 を用 いることにより明 ら かに した。 穂水 分は レッ ドエ ッジ 波長 ,950nm付近,13 50nm付近の波長域の分光反射 率 と 深 い 関 わ り が あ り , こ れ ら の波 長 域 の 分 光 反射 率やND阿 を用 いる こと で1.2%の RMS誤差 で 穂 水 分 を 推 定 で き た 。 タ ン パ ク 含 有 率の推 定に は750nm〜950nmの 近赤 外領 域 と1400nm付 近の 中間 赤外 領域 の情 報が 有用であることがわかり,0.58%の誤差で推定 で きた 。穂水 分は 小麦 の早 晩の 判定 と収 穫順位の決定材料となり,またタンパク含有率 は 品質 を評価 する1つ の指 標と をる 。これ らの 推定 を精 度よ く行 うた めに有用な波長域 を 特定 できた 。
4.マ ル チ ス ペ ク トル カ メ ラ を 用 い た 分 光 反 射 率 計 測 シ ス テ ム の 制 御 法 と デー タ 計 測 MSISを 用い た分 光反 射率 計測 システ ムに っい て,制御法と有用性の評価を目的に静的 試験 を行 った 。あ らか じめ 設定 したCCDゲ イン のも と, 広範 囲の環 境光 量の もとで赤お よび 近赤 外領 域の 分光 反射 率を 計測し たが ,個 々の分光反射率について評価を行うこと はで きな かっ た。 そこ で, これ らをパ ラメ ータ として,前章の結果からも小麦生育量の 推定 に有 用で ある こと がわ かっ たへり コプ タ画 像から計測される正規化植生指数NDワ砺 にっいて調査した。その結果,赤領域の環境光量が 45 [I.Lrliol/rI12s]以下である暗い状態で 撮影 した 画像 から 算出 したND VIHは, 他の 環境 光量の状態と比較して値が小さくなる傾 向を 示し た。 よっ て, 環境 光量 に下限 値を 設定 した 。ま た, 赤お よび 近赤 外のCCDゲイ ンの 比Yを 定義 し, この値を0.31となるよう制御することで再現性のあるデータが取得で きる こと がわ かっ た。MSISを用 いた分 光反 射率 計測システムによルモニタリングを行う ための環境光量の条件とカメラパラメータ制御法を明らかにした。
5.マ ルチ スペ クト ルカ メラ によ る小麦 生育 のモ ニタ リン グ
2004年 度よ り3年 間, 小麦 登熟 後期 にり モー トセ ンシン グ試 験を 行い ,そ こで 得た へ り コ プ タ 画 像 と 地上 実 測 デ ー タ か ら 穂 水 分,SPAD値,子 実収 量, タン パク 含有 率の 推 定 モ デ ル を作 成し た。 第3章 で推 定に 有用 であ るこ とがわ かっ た波 長域 の情 報を 用い て 解析 を行 った 。穂 水分 は2% ほど の誤 差で 推定 を行 うこ とが できた 。登熟後期は1日あた り1.5%程 度の 割合 で穂 水分 は低 下し ていくことから,本システムでは精度よく穂水分推 定 を 行 う こと がで きる と判断 した 。ま た,ND VIHを パラ メー タと した3年間 の穂 水分 推 定モ デル は類 似し てお り, 分布 や傾向 をと らえ るこ とが 充分 に可 能であった。同様の試 験を 反復 し, また 地上 実測 デー タを最 大・ 最小 値付 近か らサ ンプ リングすることで穂水 分推 定モ デルが修正できることから推定精度の高いモデルに進化することも期待される。
さら に, 反射 率を もと に作 成し た穂水 分推 定モ デル は, 情報 の蓄 積により年次を越えて 使 用 で き 得 る 可 能性 が 見 出 せ た 。SPAD値 ,子 実収 量,タ ンパ ク含 有率 にっ いて は穂 水 分推 定モ デル のよ うな 傾向 は確 認でき なか った が, 精度 のよ い推 定を行うことが可能だ った 。
6.ヘ リ コ プ タ セ ン シ ン グ と 衛 星 画 像 を 併 用 し た 小 麦 生 育 モ ニ タ リ ン グ 衛 星画 像は 広域 情報を 取得 する こと に長 けて いる が, 多数 の地 上実 測デ ータを 必要と し ,反 射率 への 変換に は統計学的手法を用いる必要がある。そこで,同期撮影したへり
コプタ画像を利用して,衛星画像の分光放射輝度を精度の良い分光反射率へ変換するこ
とを試みた。その結果,レイリー散乱の影響が小さい赤およぴ近赤外領域で分光反射率
との高い相関が認められ,これらをパラメータとするNDVI についても相関が認められ
た。っまり,2 つのプラットフオーム間の情報の関係を導くことで,衛星画像の情報が
分光反射率べースの情報に変換できることが示された。また,変換した衛星画像の情報
とへりコプタセンシングにより作成した穂水分推定モデルを用いることにより,地上実
測データのサンプル数を最小限に抑えっつ穂水分マップを作成することができた。
学位論文審査の要旨 主査 教授 野口 伸 副査 教授 柴田洋一 副査 准教 授 谷 宏 副査 准教授 石井一暢 副査 准教授 海津 裕
学 位 論 文 題 名
低 空 リ モ ー ト セ ン シ ン グ に よ る 小麦生育のモニ夕1J ングに関する研究
本論 文は , 全6章からをる総頁数102ぺージの和文論文である。論文には図36,表36, 引用文 献42が含まれ,別に参考論文4編が添えられている。
北海 道をはじめとする大規模な耕作地帯を中心に,土地生産性と品質管理を目的とした 人工衛星を活用した作物生育のモニタリングに関する研究が盛んに行われている。しかし,
衛星画像の撮影は天候による影響が大きく,時期によっては画像が入手できない場合カミあ る。ま た画像ごとに多数の実測データを較正値として使用しなければならず,得られる情 報の分 解能や精度は必ずしも高いとはいえない。そこで,本研究は産業用無人ヘリコプタ をプラ ットフオームとした低空リモートセンシングにより,小麦生育のモニタリングを行 うシス テム開発を行った。小麦の穂水分やタンパク含有量などの生育量推定に有用な光波 長域を 特定し,これをもとにしたマルチスベクトル画像を用いた小麦生育推定を行った。
さらに ,この低空リモートセンシングと衛星リモートセンシングを併用することで,前述 の 衛 星 画 像 を 用 い た モ ニ タ リ ン グ 法 の 欠 点 を 克 服 で き る 方 法 論 の 確 立 を 狙 っ た 。 産業 用無人ヘリコプタにRTK―GPSを装備して,小麦生育のモニタリングを行うためのプ ラット フオーム環境を整え,2種類 のりモートセンシングシステムを開発した。まず,波 長分解 能が高く,350〜 2500nmの 波長域で分光反射率が計測できる分光放射計(ASD社,
FieldSpec3)をへりコプタに搭載し て,小麦の分光反射率計測を行うことカSできるシステ ムを開 発した。分光放射計で計測される分光反射率は,日射量変化の影響をうけることか ら,セ ンサにより日射量変化を計測し,補正式を介することでその影響の除去を図った。
もうー っはマルチスペクトルカメラ(MSIS)と環境光量センサ(AIセンサ)によって撮影画 像から 分光反射率を得ることができるシステム開発も行った。MSISは緑,赤,近赤外波長 域の情 報を取得できる。AIセンサは画像撮影時の環境光量を上記の波長域ごとに計測し,
こ れ ら 2情 報 か ら 対 象 と な る 小 麦 の 分 光 反 射 率 を 算 出 す る こ と が で き る 。 分光 放射計を用いて,小麦穂水分やタンパク含有量と関わりのある推定パラメータを,
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重回帰分析,主成分分析,PLS回帰分析など多変量解析によって明らかにした。穂水分はレ ッ ドエッジ 波長,950nm付近 ,1350nm付近の波長域の分光反射率と関連があり,これらの 波長域の分光反射率やADVIを用いることで1.2%のRMS誤差で穂水分を推定できた。タンパ ク 含有量の 推定に は750nmr. 950nmの近赤外領域と1400nm付近の中間赤外領域の情報が有 用であることが判明し,0. 58%の誤差で推定できた。穂水分は小麦の早晩の判定と収穫順位 の 決 定 材 料 と な り , ま た タ ン パ ク 含 有 量 は 品 質 を 評 価 す る 指 標 と な る 。 MSISを 用いた分光反射率計測システムについては小麦生育量とへりコプタ画像から計測 される正規化植生指数NDVIHの関係について調査した。その結果,光環境が大きく変化する 自 然環境下 でMSISによる小麦穂水分やタンパク含有量の推定精度を維持するためには,赤 と 近 赤外 のCCDゲ イン比 を0.31となる ようにMSISのCCDグ インを制 御する 必要があ るこ と を明らか にした。この知見に基づぃてMSISの環境光量に基づぃたカメラパラメータ制御 法を考案した。
2004年 度より3ケ年 ,小麦登 熟後期 にりモートセンシング試験を行い,そこで得たへり コ プタによ るMSIS画像と地上実測データから穂水分,SPAD値,子実収量,タンパク含有量 の推定モデルを作成した。穂水分は1.5%以下の誤差で推定を行うことができた。登熟後期 は1日あたり1.5%程度の割合で穂水分は低下していくことから,本システムでは精度よく 穂 水分推定 を行うことができると判断した。また,NDVIHをパラメータとした3年間の穂水 分 推定モデ ルは類似していることから,地上実測データを2,3点サンプリングするだけで 穂 水分推定 モデルが作成される可能性も認められた。さらに,分光反射率をもとに作成し た 穂水分推 定モデルは,情報の蓄積により年次を越えて使用でき得る可能性が見出せた。
SPAD値 ,子実収 量,タンパク含有量については穂水分推定モデルのような傾向は確認でき なかったが,精度のよい推定を行うことが可能で,タンパク含有量は1%未満の誤差で推定 で きた。さ らにへりコプタによる低空センシング情報を衛星画像と融合して広域化できる 方 法論を考 案した。衛星画像とへりコプタ画像は相互変換が可能であり,衛星画像の情報 と へりコプ タセンシングにより作成した穂水分推定モデルを用いることにより,地上実測 デ ータのサ ンプル 数を最小 限に抑え っつ広 域の穂水 分マッ プを作成することができた。
本 研究は産 業用無人ヘリコプタをプラットフオームとした低空リモートセンシングを用 い て小麦の 穂水分,タンパク含量などのモニタリングシステムの開発を行った。小麦の分 光特性を統計的に精査してマルチスペクトル画像を用いた生育推定法を考案するとともに,
こ の低空リ モートセンシングシステムと衛星リモートセンシングを併用することで,衛星 リ モートセ ンシングの欠点を補完できる新しい融合型リモートセンシングの方法論を構築 し た。以上 のように本研究は農地のりモートセンシング研究として高いオリジナリティと とともに実際問題とも深くかかわる内容である。よって審査員一同は,半谷ー晴が博士(農 学)の学位を受けるに十分な資格を有するものと認めた。
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