博 士 ( 理 学 ) 鷲 尾 健 司
学 位 論 文 題 名
Organ‑specific and hormone‑dependent expression of the genes for serine carboxypeptidases during germination of rice seeds.
(イネ ・種 子発 芽時 にお ける セリ ンカ ルボ キシ ペプ チダ ーゼ遺 伝子 族の ・ 組 織 特 異 的 、 ホ ル モ ン 依 存 的 発 現 )
学 位 論 文 内 容の 要 旨
イネ、 コムギ、 トウモロコシなどのデンプン性穀物植物の種子はその栄養価の高さ から、我々人類の主要食物として広く栽培が行われている。 このデンプン性穀物種子 の持っ高い栄養価は、種子内の内胚乳組織に含まれる多糖類やタンパク質などからな る豊富な貯蔵物質に由来しており、本来これらの栄養分は植物体が発芽、成長する際 のェネルギ一源や細胞構成物質として使われるものである。多糖類や高分子性のタン パク質として胚乳組織に貯えられてる貯蔵物質は、吸水後、植物体からの積極的な分 解・利用作用を受けるが、急速な成長を行う実生に対してこれらの生成物が効果的に 利用されるためには貯蔵物質の分解・利用が時間的、空間的に厳密に制御されて行わ れる必要がある。本研究では貯蔵タンパク質の分解・利用系に着目してこれらを担う タンパク質分解酵素にっいての研究を行った。単純タンパク質の分解は、 ポリペプチ ド分子内部のぺプチド結合を切断するエンドプロテアーゼと、末端のぺプチド結合に 作用するエクソペプチダ―ゼの共役的な作用によって効果的に進行してゆくことが知 られているが、 この内タンパク質のカルボキシ末端のぺプチド結合に作用して順次ア ミノ 酸を 遊離 して ゆく もの はカルボキシペプチダーゼ(CBP)と呼ばれ、 デンプン 性 穀 物 の 発 芽 種 子 にお い て は 酵 素 学的 性質 の異 なる5種類 のCBPが存 在す るこ とが 知られている。 これらの酵素群は基質特異性などにおいて類似した性質を持っており 酵 素学 的解 析だ けで は各CBPク ラス の発 芽時 期に おけ る特 異的 な役割 を推 定す るこ とは 困難 であ った 。 そこ でこれらのCBPクラスの発芽種子における発現特性を調べ る た め 、 イ ネ 種 子を 材 料 に 用 い て 、CBPを コ ―ド す るcDNAク ロー ンの 単離 を試 み た 。 同 定 さ れ た いく っ か のmRNA種 は 最 終 的 に3っ の ク ラ ス に 分類 され た。 ひと
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っ は 2量 体 型 のCBPと し て 知 ら れ て い るI型 CBPで あ り 、 も う ひ と っ は 単 量 体 の CBPと し て 報 告 さ れ て い たm型CBPを コ ー ド し て い た 。 残 り の も の に っ い て は 、
そ の1次 構 造がm型CBPに似 た もの で あっ た ので 、 新規 なm型 様CBPとして扱 う ことにした。 いずれのCBPも推定されるアミノ酸配列内には、酵母CBPで同定さ れたいくっかの活性部位に相当する配列が同様に見いだされ、イネ植物体内で機能し
て い る CBPで あ る こ と が 推 定 さ れ た 。 こ れ ら 同 定 さ れ た CBPク ラ ス のmRNAの 種 子 発 芽 時 に お け る 動 向 を 調 べ る た め ノ ー ザ ン 法 や 種 子 切 片 を 用 い
dization法による解析を行った。 いずれのクラスのmRNAも時間経過においては種 子成熟、発芽過程において同様の発現状況を示したが、発芽後期における種子内各組 織でのmRNAの蓄 積の度合い を詳細に調 べたところ、 各CBPクラス間に組織特異 的 なmRNAの 蓄 積状 況 が見 受 けら れ た。 皿型 様CBPは発 芽 胚全 体 で そのmRNA が確 認 され 胚 盤に お いて 若干の高 いレベルが 見られたo I型CBPのmRNAは同 様 に発芽胚に存在していたが、その発現は胚盤上皮細胞と茎葉組織に限定されていた。
m型CBPにっいて は他の2者とは異な り、胚乳組織、特に糊粉層細胞における発現 が顕著であ った。 これ らのCBPのmRNAの蓄積が主に確認された胚盤上皮細胞と 糊粉層細胞は、種子発芽時における貯蔵物質の分解・利用に関与する多くの細胞外分 泌性加水分解酵素の供給源であることが知られているため、同定された3種のCBP クラスはともに種子発芽における貯蔵タンパク質利用系に深く関与していることが推 定されたが、各クラスの類似した酵素活性を考慮すると、空間的に異な.る発現が各々 のクラスに特異的な機能を与えていると推察される。 そこで次に、 これらのCBPの 遺伝子の構造解析と発現制御に関する研究を行った。遺伝子解析を行うに当たってfま 酵素タンパク質としての特性がはっきりとしており、なおかっ発現様式に顕著に違い があるもの としてI型とm型CBPに焦 点を絞って研究を進めた。サザーン法におい てイ,ネ・ゲノム内において両CBP遺伝子ともにユニ―クに存在していることが推定 されたので これらの遺 伝子領域を 含むDNA断片をクローニングした。 I型CBP遺 伝子はそのタンパク質読みとり領域が13個のイントロンで分断されており、 I型C BPの持つ特徴的なドメイン構造(A鎖、 リンカ―ペプチド、 B鎖)は各々、異なる エクソンに分かれて存在していた。 この遺伝子に由来するmRNAは、 S1マ. ピン グ法を用いた分析において胚盤と茎葉に特異的なバンドを与えたので確かに発芽種子
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で 発 現 し て く るI型CBPを コ ー ド す る 遺 伝 子 で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。 m型CBP 遺 伝 子 は9個の ェク ソン より なっ てお り、 I型CBP遺 伝子 と同 様の 実験 によ り発 芽 時期において糊粉層で発現量を上昇させてくる遺伝子であることが確認された。 この 両 者 の 遺 伝子 構造の 比較 にお ぃて 、CBPの 活性部 位を コ― ドす る領 域以 外に 顕著 な 共通 性憾見い出されず、イントロンの挿入部位におぃても一致性を見いだすことはで き な か っ た 。 こ の 両 者 のCBPは 、 酵 素 の 作 用形 式 に お い て も2量 体 (I型CBP) と 単 量 体 (m型CBP) と い う 異 な る 形 態 で 作用す るこ とが 知ら れて いる ので 異な る 遺 伝 子 進 化の 過程を 経て 来た もの と推 定さ れた 。CBPはセ リン 残基 を含 むペ ンタ ペ プ チ ド (GESYA) を 活 性 部 位 の 中 心 に 配 して い る こ と が 知 ら れ て お り 、同 様の 配 列を活性部位に持ちながら異なる酵素活性を示すものがエステラーゼやりパーゼ.に知 られている。 これらを総称してゼ/ロハイド口ラ―ゼと呼んでいるが、 I型とm型C BPは この 加水 分解 酵素 群に属 しな がら 偶然 同じ 触媒 活性 を持 っているのだと解釈さ れ た 。 I型とm型CBPの 示し た胚 盤上 皮細 胞と糊 粉層 細胞 に別 れた 異な った 発現 は 各々 の遺伝子の持っ発現特性が反映されているのだと思われたので、遺伝子の発現特 性、 特にその転写活性に影響を与えると思われるプロモータ一領域にっいての比較を 行っ た。 ロI型CBP遺伝子のプロモー夕一領域において植物ホルモンであるジベレリ ン酸 (GA)に 呼応 して エンハ ンサ ー様 の活 性を 示す モテ ―フ がぃくっか見いだされ 皿 型CBPの 糊 粉 層 細 胞 に お け る 発 現 はGAによ っ て 制 御 さ れ て い る こ と が示 唆さ れ た 。 実 際、 m型CBP遺 伝子 のプ ロモ ー夕 ―領 域をGUSレ ポー ター 遺伝 子に 連結 し てGA応 答 性 のオ ー ト 麦 糊 粉 層 プ ロ ト プ ラ ストに 導入 する とGAに呼 応し た一 過性 の GUS活 性 の 上 昇 が 検 出 さ れ た の でm型C
いると確認された。 このデンプン性穀物種 発現誘導は貯蔵物質の分解・利用に関与す
BPは GAに よ る 遺 伝 子 発 現 誘 導 を 受 け て 子 ・ 糊 粉 層 細 胞 に お け る GAに よ る 遺 伝 子 る い く っ か の 加 水 分 解 酵 素 の 遺 伝 子 に も 見
ら れ る 現 象 な の で 、m型CBP遺伝 子の示 した 糊粉 層特 異的 発現 は発 芽種 子に おぃ て 機 能 し て い る 複 雑 な メ カ ニ ズ ム の 一 端 を 担 っ て い る と 推 定 さ れ た 。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 主査 副査
教授 教授 教授 教授
学 位 論 文 題 名
Organ‑specific and hormone‑dependent expression of the genes for serlne carboxypeptidases during germination of rice seeds.
( イ ネ・ 種 子 発芽 時 に おけ る セリ ン カ ルボキシ ペプチダー ゼ遺伝子 族の 組 織特異的 、ホルモ ン依存的発 現)
イネ やコム ギなどの 穀物種・ 子の発 芽時にお ける貯 蔵タンパ ク質の 分解は、 ポりペブ チド内部のペブチド結台を切断するエンドペプチダーゼと、 末端のペプチド結台に作 用 する エ ク ソペ ブ チ ダー ゼ の 共 役的 な 作 用に よ り 分解 さ れ るものと 考えら れている 。 カル ボキシ ペブチダ ーゼは、 タンパ ゥ賢のカ ルポキ シ末端か ら順冫 欠アミノ 酸を遊離し て 行 〈 酵素 で 、 こ れ まで に 発 芽 穀物 種 子 には 酵 素 学的 性 質 から5種 類存 在する ことが 知られている。
本論文では、 イネ種子からカルポキシペブチダ―ゼのcDNAをク口一ニングし、
最終 的 に3種 類 に 分類し た。 即ち 、 2量体型と して知ら れてい るI型 、 単量 体として 報告され ている 川型、 1次構 造がIlI型と似て いるIII型‑likeである。 いずれのカルボキ
シ ペ ブ チ ダ ー ゼ も 推 定 さ れ る ア ミ ノ 酸 配 列 中 に は 、 酵 母 の カ ル ポ キ シ ペ ブ チ ダ ― ゼ で 報 告 され て い る活 性 部 位に 相 当 する 配 列 が 見られ た。 種子 の成熟 期およぴ 発芽期 にお け る 各 種 カ ル ポ キ シ ペ ブ チ ダ ー ゼmRNAの 蓄 積 は ほ ぼ 同 様 の 変 動 を 示 し た 。 発 芽 後
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鑛 行
廣 夫
茂
静
川 藤
合 田
石
谷
落
吉
期 の 種 子 内 各 組 織 に お け るmRNAの 蓄 積 を ノ ― ザ ン 法 とin situ hybridization法 で 弱 ぺ る と 、 組 織 特 異 性 が み ら れ 、 I型 は 胚 盤 上 皮 組 織 と 茎 葉 組 繊 に 、III型 は 糊 粉 層 で 顕 著 、 IlI型‑likeは 胚 盤 と 葉 ・ 根 で 兎 ら れ た 。 そ の 上 、III型 は 植 物 ホ ル モン のジ ペレ リ ン に よ り そ の 発 現 が 綉 導 さ れ 、 同 じ く 植 物 ホ ル モ ン の ア ブ シ ジ ン 酸 に よ り 打 ち 消 さ ノ
れ る こ と が 明 ら か に な っ た 。
次 い 、 で 、 | 型 とIII型 の カ ル ポ キ シ ペ プ チ ダ ー ゼ の ゲ ノミ ック クロ ー ンを 分離 した 。 型 は14個 の エ ク ソ ン か ら 成 り 、 そ の 特 徴 的 な ド メ イ ン 構 造 (A鎖 ― リ ン カ 一 ―8 鋭 ) は 各 々 数 の 違 っ た エ ク ソ ン か ら 成 っ て い た 。 こ の 遺 伝 子 に 由 来 す るmRNAは 、 Slマ ッ ピ ン グ 法 を 用 い た 分 析 で は 胚 盤 と 蓋 葉 に 特 徴 的 な パ ン ド を 与 え た の で 確 か に 発 芽 種 子 で 発 現 し て い る 遺 伝 子 で あ る こ と が 確 韶 さ れ た 。IIl型 は9個 の エ ウ ソ ン よ り 戚 り 、 | 型 同 様 の 分 析 に よ り 発 芽 種 子 の 糊 粉 層 で 発 現 し て い る 遺 伝 子 で あ る こ と が 確 斑 さ れ た 。 ま た 、 I型 お よ びIII型 共 に イ ネ ・ ゲ ノ ム に お い て ユ ニ ー ク に 存 在 し て い る こ と が 推 定 さ れ た 。 更 に 、 川 型 カ ル ポ キ シ ペ プ チ ダ ― ゼ 遺 伝 子 の プ ロ モ ー タ 一 領 域 に は ジ ベ レ リ ン に 反 応 し て エ ン ハ ン サ ― 様 の 活 性 を 示 す モ チ ー フ が い 〈 っ か 見 い だ さ れ て 居 り 、 こ の ブ ロ モ ― タ ― 領 域 にGUSレ ポ ー タ ー 遺 伝 子 を 接 続 し て 、 エ ン パ ク 種 子 糊 粉 層 の プ ロ ト ブ ラ ス 卜 に 導 入 し て ジ ペ レ リ ン に 対 す る 反 応 性 を 調 ぺ た 。 そ の 結 果 、 ジ ペ レ リ ン に 反 応 し て ― 過 性 のGUS活 性 の 上 昇 が み ら れ 、 プ ロ モ ー タ ー を 部 分 的 に 削 除 す る とGUS活 性 の 上 昇 が 兎 ら れ な く な る こ と か ら 、 ジ ペ レ リ ン に よ る 遺 伝 子 発 現 綴 導 を 受 け て い る こ と が 確 斑 さ れ た 。
以 上 の よ う に 、 穀 物 種 子 の 発 芽 に さ い し 、 各 種 カ ル ポ キ シ ペ ブ チ ダ ー ゼ 遺 伝 子 が組 織 特 異 的 に 発 現 し 、 そ の う ち の 一 種 は 植 物 ホ ル モ ン | ご よ り 発 現 誘 導 さ れ る こ と を 明 ら か に し た 。
本 研 究 は 、 植 物 に お け る 遺 伝 子 発 現 の 制 御 の い メ カ ニ ズ ム を 解 明 し て 行 く 上 で 極 め てI要 な 知 兄 で あ り 、 最 終 試 験 の 結 果 も 十 分 に 満 足 す ぺ き も の で あ っ た 。 審 査 員 は 全 員 が 、 申 請 者 が 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 受 け る 資 格 が あ る も の と 綛 め た 。
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