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博 士 ( 理 学 ) 池 上 浩 司

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 池 上 浩 司

     学  ttL 論 文 題 名

       Studies on the rvIechanisms of Membrane         Depolarization‑Mediated Cell Survival and Microtubule Disruption‑Induced Neurite Degeneration       in Cultured Sympathetic Neurons

(培養交感神経細胞における膜脱分極による細胞生存機構、

およ び微小管崩壊による神経突起変性機構に関する研究)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

    神 経系の 発達過 程にお,`て,分化した神経細胞の約半数が細胞死を起こす,  神経細胞か ら 伸びる 神経突起 もまた ,発生過程において突起変性により失われる.  これらの現象は「死」

あ るいは 「変性」 という 否定的 な単語 で表現 されて いるに も関わ らず,正確な神経ネットワー ク の形成 にとって 必要不 可欠な 現象で ある,  神経系 の発達 は,非 常に高度に制御された「死 と生」,「変性と維持」のノくランスにより成し遂げられる,  このバランスがどちらに傾いても,

正 常な発 達は妨げ られる .  これ は発達 後の神 経系に おいて も同様 であり,これらのバランス が 「死」 や「変性 」側に 傾くこ とは, 様々な 神経変 性疾患 の原因 となる.  このような観点よ り ,神経 細胞死や 突起変 性のメ カニズ ムに関 する研 究は, 生理学 的,病理学的に極めて有意義 な ものと 言える.  本研 究は,げ っ歯類 の培養 交感神 経細胞 を用い ,細胞膜脱分極による栄養 因 子非依 存的な生 存機構 ,およ び微小 管崩壊 による 神経突 起変性 機構の解明を目的とし行なわ れた,  以下に本研究の要旨を示す,

    神 経 細 胞の 生 存 機構 には, 神経栄 養因子に 依存す るもの と依存 しない ものが 存在す る.

後者 の例と して, 細胞膜 の脱分極 など神 経細胞 の電気 的活動 による生存が挙げられる,  栄養 因子 による 細胞生 存機構 が詳しく 解明さ れる一 方,脱 分極に よる生存機構については,細胞内 Ca2゛濃 度上昇 の重要 性が知 られて いる以 外,不明な点が多い.  第一章では,ラット上頚神経 節(SCG)よ り 単 離し た 培 養 交感 神 経 細 胞を 用 い ,脱分 極によ る生存 機構の 解析を 行った .栄 養 因 子に よ る 生 存に 重 要 な ホス フ ァ チ ジル イ ノ シトー ル3キナ ーゼ(PI3K)の 下流に 存在す る Aktは ,脱 分 極 刺 激に よ ルリン 酸化され た.  しかし,PI3Kの阻 害剤は ,Aktのり ン酸化 を阻 害す る濃度 では十 分な生 存阻害効 果を示 さなか った,  そこで ,PI3K以外の酵素の関与を想定 し,Ca2゛に応答するCa2゛/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII (CaMKII)に着目した.

PI3K,CaMKIIを同 時 に 阻害し た結果, 阻害剤 の副作 用を受 けるこ となく ,脱分 極の生 存促進 効 果 は顕 著 に 抑 制さ れ た.  本 研究に より,PI3K及びCaMKIIが同時 かつ独 立に働 き,神 経細 胞の 生存を 補償的 に制御 している 可能性 が見出 された .  複数 の経路による補償的な細胞生存 制御 機構を 明らか にした 本研究は ,脱分 極によ る神経 生存の 分野にとどまらず,様々な分野の カ ス ケ ー ド 研 究 に 見 ら れ る 多 く の 矛 盾 を 解 決 す る 糸 口 に な る と 思 わ れ る .     神経 系の発 達にお いて, 細胞死 による 過剰な 神経細 胞の淘汰と同様に重要な現象として,

神経 突起の 変性に よる不 必要な投 射繊維 の淘汰 が挙げ られる .  現在まで,神経細胞死に関す

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る多くの研究がなされてきたが,その大部分が神経細胞全体での変化に着目したものであり,

神経突起の変性に着目したものは非常に少ない.  第二章では,神経細胞死における神経突起 変性に着目し,神経細胞死と神経突起変性が区別可能な現象であるかにっいて検討した.  本 研究では,ウォーラーの変性が異常に遅延する突然変異型マウス(Wlds)および野生型マウス より単離したSCG細胞を用い,微小管重合阻害剤による細胞体および神経突起の変化を別々に 調べた.  突然変異型のSCG細胞は,微小管重合阻害剤により,野生体と同様,アポトーシス 様の細胞死を引き起こすが,突起変性に対し顕著な耐性を示した.  この結果は,細胞死と突 起変性が独立した現象であり,それぞれ独立した変性カスケードにより支配されていることを 示唆している.  ミトコンドリア膜電位感受性色素を用い,突起変性とミ卜コンドリア機能と の関係を調べた結果,野生型SCG細胞では突起変性に先立ち突起内のミトコンドリア膜電位が 消失し,突起内のATP量が著しく減少した.  これに対し,突然変異型の細胞では双方とも長 時間維持されていた,  突然変異型の突起変性に対する耐性は,ミトコンドリア機能の阻害剤 により容易に消失した.  これらの結果は,突起変性がエネルギー枯渇によるネクローシス様 の現象であることを示唆している.  一方,突起内のATPが枯渇した状態にも関わらず,細胞 体のATPレベルは維持されていた,  以上の結果より,同一の細胞において,細胞体と突起,

異なる区画の変性がそれぞれ独立に,かつ異なる機構により制御されていることが示唆された     第三章では,突起変性時に見られるATP量の減少に焦点を絞り,ATP減少と突起変性の分 子基盤の解析を試みた.  本研究では,第二章で述べた個体,細胞種,薬剤を引き続き用い研 究を行なった.  微小管重合阻害剤処理により,野生型SCG細胞では急速に突起内のATP量 が減少した.ATPの減少と平行し,突起上にブレッビングが現れた,  興味深いことに,こ のATP減少はミトコンドリアの膜電位消失を伴わなかった.  この結果は,ATPの減少がミト コンドリアの機能障害による単なる結果ではないことを示唆している.  卜リプシン様プロテ アー ゼの 阻 害剤(TLCK)処理 により,ATPの減少,突起変 性が顕著に抑制された.  TLCK 処理は,いくっかの点において,突然変異型の表現型を再現していた,  類似点として,ATP の減少を阻止すること,微小管重合阻害剤による形態学的変化を抑制すること,さらには突起 切断による変性を劇的に抑制することが挙げられる.  これらの結果は,突起変性早期の形態 変化やATP減少におけるTLCK感受性プロテアーゼの関与を示唆して.  また,Wlds突然変 異 が そ れ ら の プ ロ テ ア ー ゼ の 活 性 化 を 阻 害 し て い る 可 能 性 も 示 唆 さ れ る ´     本研究により示された結果は,以下の二点において有意義であると考えられる.  すなわ ち,細胞内カスケードの研究において複数経路の関与を検討する必要性を提示した点,細胞を より詳細な区画,部域に分割する必要性を提示した点である.  これらは,今後,細胞生物学 分野の新たな発展に必要な留意点になると考えられる.

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学位論文審査の要旨

       Studies on the Mechanisms of Membrane          Depolarization‑Mediated Cell Survival and Microtubule Disruption‑Induced Neurite Degeneration       in Cultured Sympathetic Neurons

(培養交感神経細胞における膜脱分極による細胞生存機構、

および微小管崩壊による神経突起変性機構に関する研究)

    神経系 の発達過程において;分化し た神経細胞の約半数が細胞 死を起こす.  神経細胞か ら伸びる神 経突起もまた,発生過程にお いて突起変性により失われる.  これらの現象は「死」

あるいは「 変性」という否定的な単語で 表現されているにも関わら ず,正確な神経ネットワー クの形成に とって必要不可欠な現象であ る.  神経系の発達は,非 常に高度に制御された「死 と生J,「変性と維持」のノミランスにより成し遂げられる.  このノミランスがどちらに傾いても,

正常な発達 は妨げられる.  これは発達 後の神経系においても同様 であり,これらのバランス が「死」や 「変性」側に傾くことは,様 々な神経変性疾患の原因と なる.本論文はこのような 観点より,r生存」と「変性」のそれぞ れの分子メカニズムを研究したものである。  具体的に は,げっ歯 類の培養交感神経細胞を用い ,細胞膜脱分極による栄養 因子非依存的な生存機構,

および微小管崩壊による神経突起変性機構の解明を試みている.

    第一 章 では ,ラ ット 上 頚神 経節(SCG)よ り単 離し た 培養 交感 神経細胞を用い ,脱分極に よる生存機構の解析 を行った.神経細胞の生存機 構には,神経栄養因子に依 存するものと依存 しないものが存在す る.  後者の例として,細胞 膜の脱分極など神経細胞の 電気的活動による 生存が挙げられる.  栄養因子による細胞生存機 構が詳しく解明される一方 ,脱分極による生 存機構にっいては, 細胞内Ca2゛濃度上昇の重要 性が知られている以外,不明な点が多い,  栄 養因 子に よ る生 存に 重要 な ホス ファ チジ ルイ ノ シト ール3キ ナー ゼ(PI3K)の下流 に存在する Aktは, 脱分 極刺 激 によ ルリ ン酸 化さ れ た,  しかし ,PI3Kの阻害剤は,Aktのり ン酸化を阻 害す る濃 度 では 十分 な生 存 阻害 効果 を示 さなかった ,そこで,P13K以外の酵素の 関与を想定 し,Ca2゛に応答するCa2゛/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)に着目した.

PI3K, CaMKIIを 同時 に阻 害 した 結果 ,阻 害剤の副作 用を受けることなく,脱分極 の生存促進 効果 は顕 著 に抑 制さ れた .  本 論文 によ り,PI3K及 びCaMKIIが同時かつ独立に働 き,神経細

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郎 央

達 明

池 野

小 浦

授 授

   

   

教 教

査 査

主 副

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胞の生存を補償的に制御している可能性が見出された.  複数の経路による補償的な細胞生存 制御機構を明らかにした本研究は,脱分極による神経生存の分野にとどまらず,様々な分野の カ ス ケ ー ド 研 究 に 見 ら れ る 多 く の 矛 盾 を 解 決 す る 糸 口 に な る と 思 わ れ る .     第二章では,神経細胞死における神経突起変性に着目し,神経細胞死と神経突起変性が区 別可能な現象であるかにっいて検討した.  現在まで,神経細胞死に関する多くの研究がなさ れてきたが,その大部分が神経細胞全体での変化に着目したものであり,神経突起の変性に着 目したものは非常に少ない.  本論文では,ウォーラーの変性が異常に遅延する突然変異型マ ウス(Wlds)および野生型マウスより単離したSCG細胞を用い,微小管重合阻害剤による細 胞体および神経突起の変化を別々に調べた,突然変異型のSCG細胞は,微小管重合阻害剤に より,野生体と同様,アポトーシス様の細胞死を引き起こすが,突起変性に対し顕著な耐性を 示した.  この結果は,細胞死と突起変性が独立した現象であり,それぞれ独立した変性カス ケードにより支配されていることを示唆している,ミトコンドリア膜電位感受性色素を用い,

突起変性とミトコンドリア機能との関係を調べた結果,野生型SCG細胞では突起変性に先立ち 突起内のミトコンドリア膜電位が消失し,突起内のATP量が著しく減少した,  これに対し,

突然変異型の細胞では双方とも長時間維持されていた.  突然変異型の突起変性に対する耐性 は,ミトコンドリア機能の阻害剤により容易に消失した.  これらの結果は,突起変性がエネ ルギー枯渇によるネクローシス様の現象であることを示唆している,  ー方,突起内のATPが 枯渇した状態にも関わらず,細胞体のATPレベルは維持されていた.  以上の結果より,同一 の細胞において,細胞体と突起,異なる区画の変性がそれぞれ独立に,かつ異なる機構により 制御されていることが示唆された.

    第三章では,突起変性時に見られるATP量の減少に焦点を絞り,ATP減少と突起変性の分 子基盤の解析を試みた.微小管重合阻害剤処理により,野生型SCG細胞では急速に突起内の ATP量が減少した.  ATPの減少と平行し,突起上にブレッビングが現れた,  このATP減少 はミトコンドリアの膜電位消失を伴うことなく起こり,ATPの減少がミトコンドリアの機能障 害による単なる結果ではないことを示唆している.  トリプシン様プロテアーゼの阻害剤 (TLCK)処理により,ATPの減少,突起変性が顕著に抑制された.  TLCK処理は,いくっか の点において,突然変異型の表現型を再現していた.  類似点として,ATPの減少を阻止する こと,微小管重合阻害剤による形態学的変化を抑制すること,さらには突起切断による変性を 劇的に抑制することが挙げられる.  これらの結果は,突起変性早期の形態変化やATP減少に おけるTLCK感受性プロテアーゼの関与を,Wlds突然変異がそれらの活性化を阻害している可 能性が示唆された.

    本論文により示された結果は,以下の二点において有意義であると考えられる,  す なわち.細胞内カスケードの研究において複数経路の関与を検討する必要性を提示した点,

細胞をより詳細な区画,部域に分割する必要性を提示した点である.審査員―同は本論文 が神経生物学領域の発展に重要な寄与をなすものと考えた。よって著者は、北海道大学博 士(理学)の学位を授与される資格があるものと認める。

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参照

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