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博 士 ( 医 学 ) 平 田 健 司

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 医 学 ) 平 田 健 司

学 位 論 文 題 名

虚血性脳血管障害の診断および治療を目指した病態解析 学位論文内容の要旨

  

虚血性脳血管障害は、脳卒中を発症すると致命率が高いだけではなく救命できた場合で も重度の神経後遺症が生活の質を大きく低下させる疾患である。虚血・陸脳血管障害におけ る診断、治療を目指した病態評価を目的として、ポジトロン断層撮影(PET)の臨床データ解 析 お よ び モ デ ル 動 物 に よ る 遺 伝 子 ・ 蛋 白 発 現 に 関 す る 研 究 を 行 っ た 。

1

.診断を目指したPETの臨床データ解析に関する研究

【背景と目的】

PET

で得られる脳血流(CBF)の情報は脳血管障害の治療方針決定に重要であ る 。

PET

に よるCBF測定は、単一組織コンパートメント・モ デル(STCM)上で水の脳血流分 配係数(以下、分配係数)を一定値と仮定して行われるが、虚血脳において分配係数が真に 一定であるかは未だ示さ れてなぃ。実際と異なる分配係数の使用は

CBF

誤推定にっながる ため、より正確な診断法 の確立を目指して虚血脳の分配係数測定を試みた。また分配係数 を一定値としたときのCBF誤差を検討した。

【対象と方法】

22

人の片 側性の虚血´陸脳血管障害患者に対して

150

標識ガス

PET

を用いた

CBF

検 査を 行った。C150zを

1

5GBq/

分の速度で90秒間経鼻 投与しながら6分間のPET撮影 と

16

点 動脈 採血を同時に行った。STCMと非線形最小二乗法 から速度定数Kiとk2を独立に 推定し、梗塞部、虚血部(非梗塞部)での分配係数(=K・/k:)の変化を評価する検討Aと、

分 配係 数を 健常 者7人 から 得た 値で 固定 した 上で

CBF

を 推定 し分 配係数可変で推定した

CBF

との誤差を評価する検討Bを行った。

【結果】検討Aでは、分配係数(ml/g)は梗塞部

0

.55土0.07、虚血部O.67土0.06、対側皮質

0

. 68土O.05と梗塞部のみが有意(Pく0.001)に低値であった。検討Bでは、分配係数可変で 求めた

CBF (ml/100g/min)

は、梗塞部21.3土

7

0

、虚血部33.2土8.O、対側皮質39.5土

8.1

で あ っ た が 、 分 配 係 数 を 健 常 者 か ら 得 ら れ た

O

 70m1/g

に 固 定す ると

CBF

は 梗塞 部

18.7

土7.5、虚血部33.0土9.2、対側皮質39.5土9.7となり、分配係数固定により梗塞部で は

12%

の過小評価

(P<O. 001)

となったが虚血部と対側皮質では有意差がなかった。2つの

CBF

は強く相関した(r=0. 95、

P<O. 001)

【考察】分配係数は平衡状態に達したときの脳組織と血液のHz150濃度比であり、梗塞部で は細胞成分が減少するた めに分配係数が低下していたと推察される。従って分配係数を固 定 した 場合 に梗塞部の

CBF

を過 小評価すると考えられたが、検討Bの結果はこの理論に合 致した。しかし梗塞部の

CBF

は著明低値であるためそ の誤差も小さく、全体の相関に影響 を与えることはなかった。

2

.治療を目指した遺伝子・蛋白発現に関する研究

【背景と目 的】脳卒中後遺症を持っ患者に広く行われているりハビリテーションが神経機 能を回復させるメカニズムには不明な点が多い。より効果の高いりハビリ医療を目指して、

404

(2)

リ ハビ り の 動 物モ デ ル と して 確 立 し てい る 充 実 環境 飼 育 と 分子 生 物 学 的手 法 を 用 いて 回復 メ カ ニ ズ ム を 解 明 し よ う と 試 み た 。 過 去 に4週 間 の 充 実 環 境 飼 育 で のbrain derived neurotrophic factor (BDNF)遺 伝 子・ 蛋白 の発現 低下が 報告さ れている 。より 深い病 態理解 のため2週間の充実環境飼育でのBDNF測定を行った。

【 対 象 と 方 法 】60分 問 の 中 大 脳 動 脈 閉 塞 術 に て 脳 梗 塞 を 作成 し たSDラ ッ ト を ラン ダ ム に 充 実環 境 (E群 )もし くは標 準環境(S群)で 飼育し た。E群 は多数 の遊具 を配置 した大 きなケ ー ジ で 群 飼 育 し 、S群 は 遊 具 を 配 置 し な い 小 さ な ケ ー ジで 単 独 飼 育し た 。 各 環境 下 で2週 間 飼育 し た 後 に脳 組 織 を 摘出 し 、 リ アル タ イ ムRT−PCRに てBDNF mm弧 を 、 ウ ェス タ ン ・ブ ロ ッ テ ィ ン グ (wB) に てproBDNF蛋 白 、matureBDNF蛋 白 を 、 免 疫 染 色 に よ っ てMAP−2、 Synaptophysin、matureBDNF蛋 白 を そ れ ぞ れ 測 定 し 、2群 間 で 比較 検 討 し た。 神 経 機 能評 価 と し てneurologicalseverityscores(NSS) を2群 に 分 け る 直 前 (dayO) と2週 間 後

(day14)に記録した。

【 結果 】NSSd卿 は8.00土1.02vs7.55土O.74(E群vsS群 、 以 下同 じ ) と 有意 差 が な かっ たが、NSSd8y14は4.92土1.32vs5.73土1.03(Pく0.05)とE群で良好な神経機能回復を認めた。

一方、MAP−2染 色で求め た梗塞 面積対側比(%)は56,82土7.31vs55.44土11.50くNS)とE群 に梗塞 面積減 少はな かった 。BDNFmRNAは 梗塞周 辺皮質でO.75土0.21vs1.00土O.35(NS)、

対 側皮 質 で1.45土O.63vsl.54土O.72(Ns)で あった 。wBによ るproBDNFは 、梗塞 周辺皮 質 で0.95土O.35vs1.00土O.42(NS)、対側皮質で0.78土O.29vs1.oo土O.42(NS)、matureBDNF は 梗塞 周 辺 皮 質でO.59土0.55vs1.00土O.84くNS) 、 対 側皮 質で0.97土0.23vs1.oo土 O.43(NS) であ っ た 。matureBDNF染 色面 積(% )は梗 塞周辺 皮質で2.54士1.06vs3.02土 1.00くNS)、対 側皮質 で3.59土O.83vs3.65土0.86(NS)であった。Synaptophysin染色面積

(%) は梗塞 周辺皮 質で2.57土O.28vs2.07土O.23(P<O.001)とE群で有意に大きかった。

【 考 察 】E群 の 神 経 機 能 は 有意 に 改 善 しシ ナ プ ス 密度 の 増 加 も認 め ら れ たが 、 梗 塞 面積 の 減 少 は 認 め ら れ な か っ た 。 神 経 機 能 回 復 に も 関 わら ず 、 神 経栄 養 因 子 であ るBDNFがmRNA レ ベル .matureBDNF蛋 白レ ベ ル で 増加 し な か った こ と は 、過 去 の 報 告に 一 致 す る。 ま た、

ア ポ ト ー シ ス 誘 導 因 子proBDNFの 減 少 が 神 経 機 能 に プ ラ スに 働 く 可 能性 を 考 え てproBDNF を 測 定 し た が 、 有 意 差 は 認 め ら れ ずproBDNFが 関 与 し て い る と は 言 え な か っ た 。

【 結 論 】 第1の 研 究 で は 、 臨床 上 最 も 重要 な 情 報 であ る 虚 血 部の 血 流 を 正確 に 測 定 でき る とい う 意 味 で分 配 係 数 を固 定 す る 方法 の 正 当 性を 示 し た 。今 回 の 研 究成 果 に よ り、 分 配係 数固 定 に よ って 導 か れ た過 去 の 多 くの 臨 床 エ ビデ ン ス が サポ ー ト さ れ、 そ し て 今後 行 われ るPETで のCBF測 定 の 正 確 性 が 保 証 さ れ る 。 第2の 研 究 で は 、 充 実 環 境 に よ る 神 経 機 能 回 復 がBDNF増 加 あ る い はproBDNF低 下 によ る も の では な い こ とを 示 し た 。神 経 機 能 回復 の 核 心に な っ て いる 遺 伝 子 ・蛋 白 を 同 定す る こ と はで き な か った が 、 今 後は 他 の 神 経栄 養 因子 や炎 症 関 連 因子 の 検 討 、遺 伝 子 ・ 蛋白 の 網 羅 的解 析 が 有 用な 情 報 を 与え る と 考 えら れ る。

‑ 405

(3)

学位 論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 教授 准教授 教授 教授

森本 武藏 飛騨 玉木 佐々木

学 位 論 文 題 名

裕二

    

学 一利 長良 秀直

虚 血性脳血 管障害 の診断お よび治 療を目指 した病態解析

  

論文の 前半では 、診断 を目指し たPETの臨床データ解析に関する研究を行い、脳血流測 定法で 用いる水の脳血流分配係数を病的脳組織において測定し、梗塞部では低下するが、

虚血部 と対側皮質には有意差がなく、分配係数を固定化して算出した脳血流は分配係数可 変の場 合と良好に相関することを示した。分配係数固定によって導かれた過去の多くの臨 床エビ デンスが サポー トされ、 今後行わ れるPETでのCBF測定の正確性が保証されること を述べ た。論文の後半では、治療を目指した遺伝子・蛋白発現に関する研究を行い、脳虚 血モデ ルラット を充実 環境で飼 育し、BDNF遺伝子・蛋白の測定を行った。2週間の充実環 境飼育 によって神経機能が改善しシナプス新生が促進されたが、BDNF遺伝子・蛋白の有意 な変化 は認められなかった。メカニズムを特定するには至らなかったが、BDNFの関与の程 度について重要な情報が得ることができたと報告した。

  

武蔵教授から、充実環境での運動量および質についての質問があり、広いケージ内を往 来しrunning wheelなど の遊具を 用いて運動するので、運動量が多く、運動の質にも差が あると考えられるが、今回の検討では運動量の定量的評価は行わなかったことを回答した。

また、

BDNF

のtime courseとサンプ リング 点にっい ての質 問があり 、BDNFが虚 血刺激の

24

時間後から数日後をピークとして上昇することがわかっており、2ー4週間後はピークを 過ぎて いること、また早期には充実環境による神経機能改善がまだ現れていなぃので今回 は神経 機能改善 が見ら れる2週間という時期を選択したが、早期にも遺伝子・蛋白の変化 が生じている可能性があり今後の課題にしたいと回答した。

  

飛騨准 教授から 、分配 係数自体 の診断的価値を問われ、分配係数の変化は

FLAIR

画像で 脳梗塞 となっている部位に限局するため、MRI以上の価値はなぃと回答した。OEF等のパラ メータ との相関について質問され、今後の検討課題にすると回答した。神経膠腫や多発性 硬化症 などの病態での分配係数について質問があり、脳血管疾患以外では経験がなぃが今 後機会 があれば測定してみたいと回答した。BDNF測定値に有意差がでなかったことについ て、皮 質よりも海馬のほうがBDNFの機能が解明されているので海馬についても見る必要が あると いう指摘があり、今回は運動機能と相関させることが目的であったため皮質を優先 したと回答した。

  

佐々木 教授から 、APQ4仮説 はAPQ4を画 像化しな ければ 仮説を実証できないという指摘

‑ 406

(4)

があ り、APQ4を考慮しないモデルを用いて算出された結果か らAPQ4のことを推測するの は問題があることを認め、今後はAPQ4を加味したモデル(コンパートメントの個数を増や すなど)を検討していきたぃと回答した。また、脳虚血後の機能回復メカニズムを解明す る上で特定の分子にターゲットをしばった研究手法の妥当性について質問があり、今回は 十分な結果が出ていないので報告できないが遺伝子群としての網羅的解析が進行中である ことを説明した。また、ウィリス動脈輪の発達していないスナネズミを使うと虚血性変化 が 強 く 現 れ る の で 異 な る 結 果 が 出 る 可 能 性 に つ い て 指 摘 さ れ た 。

  

森本教授から、今回のCBF測定値が理論値よりも低い理由を問われ、多施設研究で北大 のCBFは他施設と同水準であった ことを説明した。PETによる 脳血流測定が今後占める臨 床的位置を問われ、本検査が登場して30年になるが依然として普及が進まず、サイクロト ロン とPETカメラが隣接した大規 模な設備が必要であるため、本検査が今後普及するPET を基準として簡便な脳血流測定法の開発が進むだろうと回答した。シナプトフィジン発現 に影響する他遺伝子の変動について質問があり、先行研究の網羅的解析では神経栄養因子 で変動したのはBDNFのみであることから、現時点の知見では他に有カな候補は見っかって いないと回答した。

  

玉木教授から、基礎実験に今後追加する検討項目を問われ、組織を採取するタイムポイ ントを増やすことと、網羅的解析で遺伝子群として群間比較をすることが必要であること を回 答した。PET定量値が過小評 価となる原因を問われ、平滑化フイルターとROIの使用 が 部 分 容 積 効 果 を 介 し て 過 小 評 価 を 引 き 起 こ し て い る 可 能 性 が あ る と 回 答 し た 。

  

本 論 文 の 前 半 は

Nuclear Medicine Communications

誌 に て高 く評 価さ れ、 後半 は

Neuroscience Letters

誌にて査読中であるが、虚血性脳血管障害の診断・治療に寄与する ことが期待される。

  

審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併せ 申請 者が 博士 (医 学) の学 位 を受 ける のに 充分 な資格 を有するものと判定した。

‑ 407

参照

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