博 士 ( 理 学 ) 市 原 健 介
学位論文題名
Taxonomy ,phylogeny , and adaptation in Ulva li7nnetica sp .nov . (Ulvales ,Ulvophyceae) ,arare freshwater re 、preSentatiVeof aC0mmongreenSeaWeedgenuS
(緑色海藻類アオサ属の稀有な淡水産種Ulva limnetica sp. nov.
( ア オ サ 藻 綱 ア オ サ 目 ) の 分 類 、 系 統 お よ び 適 応 ) 学 位論 文内容の要 ,旨
緑 藻 植 物門 ア オ サ藻 綱 ア オサ 目 に 含ま れ る アオ サ 属 藻類 (Ulva)は 、世界 中の沿岸 域に生 育する最 も一 般 的 な 緑色 海 藻 類で 、 一 部の 種 は 汽水 域 に も生 育 し てい る 。 藻 体は2層膜 状(Ulva型 )または 一 層中 空(Enteromorpha型)で 、「グ リーンタ イド」 と呼ばれ る大量 繁殖を引 き起こす 種や、 「青のり 」 とし て 食 用 利用 さ れ る種 が 含 まれ る 。 現在 、 世 界で96種が 分 類 学 的に 認 め られ て お り、 日 本 では19 種が確認されている。
生 物 の 多様 性 を 生み 出 す 原動 カ と して 、 新しい 環境へ の適応は 非常に 興味深い 現象で ある。そ の例 のー っ に 海 産生 物 の 淡水 適 応 が挙 げ ら れる 。本 研究で は、沖縄 県石垣 島の淡水 湧水池お よび与 那国島 の河 川 中 流 域か ら 発 見し た 本 属で は 珍 しい 淡水 産のア オサ属藻 類を研 究対象と した。こ の淡水 産アオ サ属 藻 類 に は近 縁 な 海産 種 や 汽水 産 種 が存 在す ること から、近 縁種と の生理的 ・遺伝的 な比較 により 海産植物の淡水適応のメカニズムや進化過程を明らかにできると期待される。
そ こ で 本研 究 では 、1) 形態観 察およぴ 分子系統 解析か ら沖繩県 で発見 した淡水 産アオ サ属藻類 の独 立性 お よ び アオ サ 日内での 系統的 位置を明 らかにす ること 、2) この淡 水産アオ サ属藻類 と海産 および 汽水 産 ア オ サ属 藻 類 の低 塩 濃 度耐 性 を 比較 し、 アオサ 属藻類に おける 生育地と 低塩濃度 耐性の 相関を 明ら か に す るこ と 、さらに 、3) 淡水条 件で発現 が上昇 する遺伝 子群の 単離と発 現解析か ら、海 産植物 の淡水適応に関わる分子進化を明らかにすることを目的とした。
第1章 では 、 沖 縄で 発 見 した 淡 水 産ア オ サ 属藻 類 の 野外 藻 体 お よび 培 養藻体を 用いた 形態観察 と分 子系 統 解 析 によ り 、 種と し て の独 立 性 を調 査し 、アオ サ日内で の系統 的位置を 推定した 。外部 形態は 全長 が 最 大80cm、直 径 は2cmに まで 達 し 、藻 体 は 一層 中 空(Enteromorpha型) で 、 もろ く 、 表面 に シ ワが 目 立 ち 、所 々 に 分枝 を 生 じて い た 。ま た顕 微鏡観 察から葉 緑体は 細胞表面 を覆うよ うに位 置し、
ピレ ノ イ ド を1〜3個含 む こ とが 明 ら かに 栓 った。 以上の 形態形質 の組み 合わせに より本 種は既知 の類 似種 か ら 区 別さ れ た 。さ ら に 、藻 体 基 部に 存在 する根 様細胞は 、多く のアオサ 属藻類で 細胞層 の内側 に伸 長 す る が、 本 種 では 細 胞 層の 外 側 に伸 長し ていた 。この形 態的特 徴はアオ サ属ではUlva型のUlva sublittoralisで のみ確 認されて おり、Enteromorpha型とし ては本種 が初めての例となる。さらに、核コ ード18S rRNA遺伝子(18S ribosomal RNA gene)、ITS2領域(internal transcribed spacer region2)およ び葉緑体コードrbcL遺伝子(large subunit of the ribulose‑bisphosphate carboxylase/oxygenase gene)を用 いた 分 子 系 統解 析 か らも 、 本 種は 既 知 のア オサ 属藻類 とは異な る独立 種である ことが支 持され た。以
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上の形 態観察 および分 子系統解 析の結果から、本種をアオサ属藻類の新種Ulva limnetica sp. nov.として 記載し た。ま た、分子 系統解析 の結果 からは本 種が1)アオ サ属内で 最も初 期に派生 した種であること、
2〕ア オ サ 日内 の 海 産種 に 挟 まれ る よ う に位 置 し 、海 産 種 から 派 生 した 種 で ある こ と も示 唆 された 。 第2章 で は 、 異 な る 水 環 境に 生 育 する ア オ サ属 藻 類 を用 い て 、そ れ ぞ れ の種 の 低 塩濃 度 耐 性をFDA (Fluorescein diacetate)生体染色法によって比較した。実験には、海産種(潮下帯:Ulva sp.2、潮間帯:
Ulva pertusa、Ulva linza)、汽水産種(Ulva prolifera)および淡水産種(ひlimnetica)の培養株を用いた。
その結 果、潮 下帯に生 育するUlva sp.2は、5PSU (practical salinity unit)で 一日培養すると全ての細 胞が死 滅し、 低塩濃度 に対する 耐性が 最も低い ことが 明らかに なった 。また、 潮問帯に 生育するひlinza で は淡 水 で7日 間 培 養す る と 細胞 の 生 存 率が20%ま で 減 少す る のに 対し、 汽水産種 ひproliferaでは生 存 率が100% に 保 たれ て い た。 こ の こ とか ら 、 以前 の 研 究で 非 常 に近 縁 で ある こ と が示 さ れ ているひ linzaとひproliferaで は 低塩 濃 度 への 耐 性 が大 き く 異な る こ とが 明らか になった 。さら に、淡水 産種 ひlimneticaは 現 在 まで の 野 外 調査 で は海域 では見っ かって いないが 、30 PSUの環 境でも 高い生存 率を 維持できることが明らかになった。
第3章 では 、 びlimneticaを淡 水 条 件で 培 養 した 際 に 発現 が 上 昇する タンパク 質を検出 するた めに、
そ れ ぞ れ 淡 水 条 件 お よ ぴ 海 水 条 件 で 培 養 し た 藻 体 か ら タ ン パ ク 質 を 抽 出 し 、SDS‑PAGE(sodium dodecylsulfateーpolyacrylamidegelelectrophoresis)による比較を行った。その結果、淡水培養藻体で蓄積 量 が増 加 し てい る 約19kDaの タ ン パ ク質 の 存 在が 明 ら かに な っ た。こ のタン パク質の .N末 端配列 をア ミノ酸シーケンサーによって解析したと,ころ、Ala‐Asp‐Cys‐Asn‐ThrーAsp・SeトAla―Phe‐Gln‐Leu‐Leuとい う 配 列 を 得 た 。 こ の 配列 を 基 に縮 重 プ ライ マ ー を作 成 し 、こ の タ ンパ ク 質 を コー ド し てい るcDNAを RACE(rapidampliflcationofcDNAends)法に よって 単離した 。単離 されたcDNAは 全長1272bp、5 ―UTR (untranslatedregion)が198bp、ORF(openreadingframe) が840bp、3 _UTRが234bpで あった。 ア ミ ノ 酸 シ ー ケ ン サ ー で得 ら れ たN末 の アミ ノ 酸 配列 は 開 始コ ド ン から90番 目〜101番 目 に 存在 し て い た 。得 ら れ たア ミ ノ 酸配 列 でBLAST検索 を ね こな っ た とこ ろ ひpe′fH聞 由 来 のレ ク チ ン と最 も高い 相 同性を 示した ことから 、この遺 伝子を馴Z(ひvロ′加門efをalectin)と名付けた。また、海水培養藻体船 よぴ淡 水培養 藻体を用 いたNorthemhybridizationカゝらぴZ工 は淡水培 養藻体で より高 い発現を示してい ることも明らかになり、転写レベルで調節を受けていることが示唆された。
第4章 では 、 よ り網 羅 的 な淡 水 条 件 で発 現 が 上昇 す る 遺伝 子 の単 離を目 餉とし、cDNAsubtraction法 を 利用 し たEST(Expressedsequencetag) 解析を おこなぃ 、さらに 得られ た遺伝子 群の発 現解析を おこ な っ た 。 配 列 解 析 し た263個の ク ロ ーン 配 列 には 、27個 の コ ンテ ィ グ 配 列と192個 シ ン グル ト ン 配列 が 含ま れ 、 合計219個 の 淡 水条 件 で 発 現上 昇 が 期待 さ れ る遺 伝 子の 部分配 列を得た 。この内 、120個の 遺 伝子 をRT−PCRによ り、淡水 での発 現上昇を 検証した ところ 、39個(32.5% )の遺伝 子が実 際に発現 上 昇し て い るこ と が 確認 で き た。 次 に 、 この39個の 遺 伝 子に つ いて、 海水培 養藻体を 淡水に 移してか ら1h後 、4h後 、24h後 、3日 後 、7日 後 の 発 現 量 の変 化 を 調べ た 。 そ の結 果 、 遺伝 子 発 現の ピ ー クの 多 くは 淡 水 移行 直 後 の短 い 期 間(1〜4h後 ) に みら れ る こと 、 ま たこ れ ら の遺 伝 子 群に は 発 現パター ン が 異 な る3グ ル ー プが 存 在 する こ と が明 ら か にな っ た 。グ ル ー プ1で は 淡 水移 行 後 に見 ら れ た発 現 の 上 昇 が7日 後 ま で 維 持 さ れ た 。 グ ル ー プ2で は 淡 水 移 行直 後 の 短い 期 間 (1〜4h後) に の み発 現 が 上 昇 し 、24h後 に は 海 水 条 件 と 同 程 度 の 発 現 量 ま で 減 少し た 。 グル ー プ3では グ ル ープ1の 遺伝 子 群 と 似た 発 現 パタ ー ン を示 し た が発 現 量 の ピー ク は3日 後 、7日 後 の実験 期間の 後半に見 られた 。グルー プ1に は り ボソ ー ム 遺伝 子 、 活性 酸 素 除去酵 素(アス コルビ ン酸ペル オキシ ダーゼ) 、適合溶 質関連 酵 素 、 分 子 シ ャ ペ ロ ン 等 が 、 グ ル ー プ2、 グ ル ー プ3に は 主 に 機 能 未 知 遺 伝 子 が 含 ま れ て い た 。 以上、 本研究 では淡水 産アオ サ属藻類 であるMyロff所門efたロの新種記載を行い、その淡水環境への適
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応機構について分子生物学的な手法を用いることによって、多くの適応候補遺伝子群の同定、またそ の発現様式を明らかにした。アオサ藻綱においては、このような淡水適応との関連が期待される遺伝 子の同定はこれまでにおこなわれておらず、同生物群における淡水及ぴ汽水域への適応進化学的研究 に新しい知見をもたらすことができた。
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学位論文審査の要旨
主査 教授 堀口健雄 副査 教授 片倉晴雄
副査 教授 Matthew H.DICK
副 査 教 授 山 本 興 太 朗 ( 生 命 科 学 院 ) 副 査 准 教 授 藤 田 知 道 ( 生 命 科 学 院 ) 副査 准教授 嶌田 智(お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科)
学位論文題名
Taxonomy ,phylogeny ,and adaptation in Utva li7nnetica sp .nov ・ (Ulvales ,Ulvophyceae) , arare freshwater representative of a common green seaweed genus
( 緑 色 海 藻 類 ア オ サ 属 の 稀 有 な 淡 水 産 種Ulva limnetica sp. nov.
( ア オ サ 藻 綱 ア オ サ 目 ) の 分 類 、 系 統 お よ び 適 応 )
生物 の多様性を生み出す原動カとして、新しい環境へ の適応は非常に興味深い現象である。その ー っに 海産生物の淡水適応が挙げられる。本研究では、 沖縄県石垣島の淡水湧水池および与那国島 の 河川 中流域から発見した緑藻植物門アオサ藻綱アオサ 目アオサ属(めロ)に含まれる珍しい淡水 産 アオ サ属藻類を研究対象とした。アオサ属藻類は、世 界中の沿岸域に生育する最も一般的な緑色 の海藻類で、一部の種は 汽水域にも生育している。今回発見゛した稀有な淡水産アオサ属藻類には近 縁 な海 産種や汽水産種が存在することから、近縁種との 生理的・遺伝的な比較により海産植物の淡 水 適応 のメ カニ ズム や進 化過 程を 明らかにできると期待される。以上の背景から本 研究は、1)沖 縄 県で 発見 した 淡水 産ア オサ 属藻 類の 種と して の 独立 性お よびアオサ目内での系統的位置を明ら かにすること、2).本種と海産および汽水産アオサ 属藻類の低塩濃度耐性を比較し、生育地と低塩 濃度耐性との相関を明ら カゝにすること、さらに3) 淡水条件で発現が上昇する遺伝子群の単離と発 現 解析 から、海産植物の淡水適応に関わる分子進化を明 らかにすることを目的としたものである。
第1章 で は 、 ま ず 、本 種の 詳細 な形 態観 察を 行な った 。全 長が 最 大80cm、 直径 は2cmに まで 達 し 、藻 体は一層中空で、もろく、表面にシワが目立ち、 所々に分枝を生じていた。葉緑体は細胞表 面 を覆 うように位置し、ピレノイドを1〜3個含んでいた 。以上の形態形質の組み合わせにより本種 は 既知 の類似種から区別された。さらに、藻体基部に存 在する根様細胞は、多くのアオサ属藻類で 細 胞層 の内側に伸長するが、本種では細胞層の外側に伸 長していた。この形態的特徴はアオサ属で はめロ型のひsublittoralisでのみ確認されており、Enteromorpha型としては本種が初めての例とな る 。 さ ら に 、 核 コ ード18S rRNA遺伝 予 、ITS2領 域お よび 葉緑 体コ ードrbcL遺伝 子を 用い た分 子 系 統解 析からも、本種は既知のアオサ属藻類とは異なる 独立種であることが支持された。以上の形 態観察および分子系統解 析の結果から、本種をアオサ属藻類の新種Ulva limnetica sp. nov.として記 載 した 。また、分子系統解析の結果、本種はアオサ目内 の海産種に挾まれるように位置し、本種が 海産種から派生した種で あることが示唆された。
第2章では、海産種(潮下帯:Ulva sp.2、潮間帯:ひpertusa、ひlinza)、汽水産種(ひprolifera) −1256―
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