博士(理学) 嶋田大輔 学位論文題名
Taxonomic Study of Free‑living Marine Nematodes in Order Enoplida (Nematoda: Enoplea) from Hokkaido , Japan (北海道におけるエノプルス目(線形動物:工ノプルス綱)
海産自由生活性線虫の分類学的研究)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
線 虫 は 線 形 動 物 門 を 構 成 す る 蠕 虫 様 の 小 動 物 で あ る . こ れ ら は ほ と ん ど す べ て の 環 境 に 生 息 し て お り , 土 壌 や 水 域 か ら は 自 由 生 活 性 種 が , 動 植 物 の 体 内 か ら は 寄 生 性 種 が 豊 富 に 出 現 す る . 特 に , 海 洋 の 底 生 環 境 中 に 生 息 す る 海 産 自 由 生 活 性 線 虫 ( 以 下 , 海 産 線 虫 ) は , 種 数 ・ 個 体 数 . バ イ オ マ ス の い ず れ に お い て も 他 の 動 物 を 圧 倒 し て い る . 現 在 ま で に 記 載 さ れ て い る 海 産 線 虫 は 約5000種 で あ る が , 未 記 載 種 は 少 な く と も10万 種 以 上 と 推 定 さ れ て お り , 記 載 分 類 の 遅 れ が 顕 著 で あ る , 本 研 究 で は , こ れ ら の 海 産 線 虫 の 多 く が 含 ま れ る 主 要 な3つ の 分 類 群 , エ ノ プ ル ス 日 , ク ロ マ ド ラ 目 , モ ン ヒ ス テ ラ 目 の う ち , 最 も 大 型 で 採 集 が 容 易 な エ ノ プ ル ス 目 の 線 虫 に 着 目 し た . エ ノ プ ル ス 目 は 世 界 か ら16科150‑200属 の 約1600種 が 記 載 さ れ て い る , 一 方 , 我 が 国 沿 岸 で は , 過 去 に 報 告 さ れ て い る 海 産 線 虫 は 71属101種 , そ の う ち エ ノ プ ル ス 目 は15属22種 の み で あ っ た . こ の 数 字 は , 海 岸 線 の 延 長 が 我 が 国 の40% 程 度 で あ り な が ら33属 約100種 の エ ノ プ ル ス 目 線 虫 が 得 ら れ て い る 英 国 で の 先 行 研 究 に 比 べ て 非 常 に 少 な く , 多 く の 未 記 載 種 ・ 未 報 告 種 が 残 さ れ て い る と 推 測 さ れ て い た .
本 論 文 は , 過 去 に2属2種 の エ ノ プ ル ス 目 線 虫 し か 報 告 さ れ て い な か っ た 北 海 道 を フ イ ー ル ド と し て 採 集 調 査 を 行 い , 形 態 形 質 に 基 づ く 分 類 学 的 研 究 を 行 っ た5年 間 の 成 果 を 纏 め た も の で あ る .
申 請 者 の 研 究 に よ っ て , 北 海 道 か ら 少 な く と も11科23属60種 の エ ノ プ ル ス 目 線 虫 が 確 認 さ れ , う ち7属 は 日 本 か ら 初 の 報 告 と な っ た . こ れ ら60種 の う ち , 成 熟 し た 雄 個 体 が 得 ら れ , な お か つ 標 本 の 状 態 の 良 か っ た5科7属21種 に つ い て さ ら に 詳 細 な 観 察 を 行 い ,13 新 種 と8既 知 種 に 同 定 し て 新 種 記 載 お よ び 再 記 載 を 行 っ た .
Thoracostomopsis科 の2属2種 ,E″ 印 め ぬ 励 淞 め 愕 な 甜6P朋 c甜´ .mお よび 跏c弸 め め門 gHロ み 施c瓣 を 新 種 記 載 し た . 前 者 は2本 の 軸 が 横 棒 で 接 続 さ れ た ク チ ク ラ 質 の 顎 を 持 つ こ と でD, 叩 め ぬ 棚 瓣 属 に 同 定 さ れ , 同 属 内 で 際 立 っ て 長 い 導 帯 ( 雄 性 生 殖 器 の 付 属 物 ) を 持 つ 点 と ,32本 の 副 頭 部 毛 を 持 つ 点 で 既 知 種 と 区 別 さ れ た , 後 者 は2本 の 軸 が1枚 の 板 状 構 造 で 接 続 さ れ た 顎 を 持 つ こ と でE叩c弸 所 め 門 属 に 同 定 さ れ , 短 い 交 接 刺 ( 雄 性 生 殖 器 ) の 先 端 に4枚 の 円 盤 状 構 造 を 持 つ 点 , 大 き なH字 型 の 導 帯 を 持 ち 補 助 突 起 を 欠 く 点 ,24本 の 副 頭 部 毛 と6束 の 頸 部 剛 毛 を 持 つ 点 で 既 知 種 と 区 別 さ れ た ,
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Phanodermatidae科 のMicoletzkyia mawatiriiを 新 種 記 載 し た . 同 種 は 眼 点 を 欠 く点 , 頭 部 の 付 け 根 が く び れ る 点 , 補 助 突 起 を 持 つ 点 でMicoletzkyia属 に 同 定 さ れ , 体 サ イ ズ が 際 立 っ て 大 き い 点 , 頭 部 剛 毛 が 長 い 点 , 生 殖 器 の 形 態 お よ び 尾 の 長 さ に よ っ て 既 知 種 と 区 別 さ れ た ,
Ironidae科 のTrissonchulus benepapillosusを 再 記 載 した . 本 種fま汎 世 界 的 に 分 布す る 種 で あ る が , 日 本 か ら は 初 の 報 告 と な っ た .
Leptosomatides科 のLeptosomatides marinaeを 再 記 載 し た . 本 種 は 北 海 道 に 生 息 す る こ と が 先 行 研 究 で 明 ら か に さ れ て い た が , 本 研 究 で は 新 た な 生 息 地 を 報 告 し た . Oncholaimus科Adoncholaimus属 のAdaikokuensisを 新 種 記 載 し ,Afervidusを 再 記 載 し た . 両 種 は3本 の 発 達 し た 歯 を 持 ち , 右 側 面 の1本 が 他 よ り 大 き い 点 , 雄 の 交 接 刺 が 長 い 点 , 雌 がDemanian system( 精 子 貯 蔵 器 官 ) と2個 の 卵 巣 を 持 つ 点 でAdoncholaimus属 に 同 定 さ れ , 前 者 は 体 サ イ ズ が 大 き い 点 , 導 帯 を 欠 く 点 , お よ びDemanian systemの 形 態 に よ っ て 既 知 種 と 区 別 さ れ た . 後 者 は ロ シ ア の 日 本 海 沿 岸 か ら 記 載 さ れ た 種 で , 北 海 道 に も 生 息 す る こ と が 新 た に 確 認 さ れ た .
同 じ くOncholaimus科 のOncholaimus属9種 を 新 種 記 載 し ,5種 を 再 記 載 し た . こ れ ら 14種 は3本 の 発 達 し た 歯 を 持 ち , 左 側 面 の1本 が 他 よ り 大 き い 点 , 雄 の 交 接 刺 が 短 く 導 帯 を 欠 く 点 に よ っ てOncholaimus属 に 同 定 さ れ た , 〇 .akkeshiensisは 主 に 長 い 尾 部 お よ び11 対 の 総 排 泄 孔 剛 毛 と2個 の 尾 部 乳 頭 状 突 起 を 持 つ 点 で 既 知 種 と 区 別 さ れ た . 〇 . kiritappuは 主 に 後 半 が 細 長 く 伸 び る 尾 部 の 形 状 と ,4対 の 尾 部 乳 頭 状 突 起 を 持 つ 点 で 既 知 種 と 区 別 さ れ た . 〇l ryuuguuは 主 に 後 半 が 短 い 尾 部 の 形 状 と , 尾 部 に2対 の 短 い 剛 毛 を 持 つ 点 に よ っ て 既 知 種 と 区 別 さ れ た , 〇 .secundicollisは 主 に , 雄 の 総 排 泄 孔 の 前 後 に 大 き な 肉質 の 乳 頭 状 突 起 を2個 持 つ 点 で 既 知 種 と 区 別 さ れ た . 〇 . paraskewensisは 主 に 小 さ な 体 サイ ズ と 細 長 い 尾 部 , お よ び2個 の 尾 部 乳 頭 状 突 起 を 持 つ 点 で 既 知 種 と 区 別 さ れ た , 〇 , hamanakaensis は 主 に 短 い 尾 部 と ,8対 の 総 排 泄 孔 剛 毛 と1個 の 尾 部 乳 頭 状 突 起 を 持 つ 点 で 既 知 種 と 区 別 さ れ た . 〇 .rar恥 は 主 に 短 い 尾 部 と , 尾 部 に 対 し て 長 い 交 接 刺 , お よ1個 の 総 排 泄 孔 前 乳 頭 状 突 起 を 持 つ 点 で 既 知 種 と 区 別 さ れ た , 〇I igaiは 主 に 先 端 に1個 の 乳 頭 状 突 起 を 持 つ 尾 部 の 形 状 に よ っ て 既 知 種 と 区 別 さ れ た , 〇 , pararyuuguuは 〇 ,ryuuguuに 似 る が , 主 によ り 長 い 尾 部 の 形 状 と 少 な い 総 排 泄 剛 毛 の 数 に よ っ て 区 別 さ れ た . 〇 .brachycerctts, 〇 . camD′locercoides, 〇 .oxyurisは い ず れも ユ ー ラ シ ア から ア メ リ カ の広 い 範 囲 に 分布 す る 種 ,
〇.qingdaoensis, 〇 .vesicariusは 東 ア ジ ア か ら 報 告 の あ る 種 で あり ,5種 全 てが 日 本 か ら 初 の 報 告 と な っ た .
本 論 文 で は 以 上 の 通 り ,13種 の エ ノ プ ル ス 目 線 虫 を 新 種 と し て 記 載 し ,8既 知 種 ( う ち 7種 は 日 本 初 報 告 種 ) を 再 記 載 し た . こ れ に よ り , 日 本 沿 岸 か ら 報 告 さ れ た エ ノ プ ル ス 目 線 虫 は こ れ ま で の22種 か ら42種 に ほ ぼ 倍 増 し た . ま た , そ れ 以 外 に 未 同 定 の エ ノ プ ル ス 目 線 虫 が39種 確 認 さ れ た .
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨
主査 教授 Matthew H. DICK 副 査 特 任 教授 片 倉 晴雄 副 査 准 教 授 柁 原 宏
学 位 論 文 題 名
Taxonomic Study of Free‑living IvIarine Nematodes in Order Enoplida (Nematoda: Enoplea) from Hokkaido , Japan (北海道におけるエノプルス目(線形動物:エノプルス綱)
海産自由生活性線虫の分類学的研究)
博士学位論文審査等の結果にっいて(報告)
海産 自由生活性線虫は 海洋メイオベントス (小型底生動物相 )の80〜 90%の個体数、50〜 90%のバイオマ ス を占 め 、海 洋生 態 系に おい て 重要 な役 割 を果 たし ている動物 群である。ある推 定によれば10万〜1億種も の 線虫 が 海洋底に生息して いるとされるが、 これまでに知られて いる20,000種の線形動物の うち海産自由生 活 性種 は4,000〜5,000種 に過ぎなぃ。本研 究で扱われたエノプ ルス目は海産自由 生活性線虫の代表 的な3つ の 分類 群 の1っ であ り、 他 の2つ、ク ロマドラ日やモン ヒステラ目のもの よりも比較的大型の 種を多く含む。
わ が国 に おい ては こ れま でに73属IOI種の 海産 自 由生 活性線虫が報告さ れていたが、エノプ ルス類はそのう ち19種 、 北海 道か ら はわ ずか2種が 知 られ てい た のみ であり、この分類 群について十分な調 査がなされてい る とは 言 い難 い状 況 であ った 。著者 は北海道の延べ97地点から採集した エノプルス目の海産 自由生活性線虫 を 材料 に 分類 学的 研 究を 行い 、 本論 文に ま とめ た。 論 文中 では 、 新種13種 、 日本 初記 録7種 を 含む5科7属 21種が記載されている。
著者 はThoracostomopsidae科の2属2種の新種を記載した。そのうちの1種Enoplolロimus longigむ6ピrn口culum は 、導 帯 (雄 性生 殖 器の 一部 )が際 立って長く特異な 形状を示す点と、32本の副頭部毛を有 する点で既知種 から明 瞭に区別される。 もう1種のEpacanthi。″quロdridi,ゴcusは交接刺(雄性生殖器の本体)が短い点、交接 刺 の先 端 に4枚 の円 盤状 構 造を 有す る 点、H字型 の大 き な導 帯を 有 する 点、 補助突起を欠く 点、および24本 の副頭部毛と頭部剛毛の東を有する点によって既知種と明瞭に区別される。
Phonodermatidae科に関しては1属I種の新種が記載 された。Micoletzkyia mawatariiは体サイズが大きい点、
際 立 っ て 長 い 頭 部 剛 毛 を 有 す る 点 、 生 殖 器 の 形 態 お よ び 尾 の 長 さ に よ っ て 既 知 種 と 区 別 さ れ る 。 Ironidae科 お よ びLeptosomatidae科 か らは 、そ れ ぞれ1属1種 の既 知種 が 記載 され た 。Trissonchulus benepapillosusは汎世界 的に分布する種で、 初めて日本近海から報告された。Leptosomatides marinaeは日本か らロシアにかけて分布する種で、国内における新たな生息地が報告された。
Oncholaimidae科 から はAdoncholaimus属の新種と既 知種が各1種、Oncholロimus属の新種9種および既知種 5種が記載された。Adoncholロim s daikokue門sisは体サイズが大きい点、導帯を欠く点、およびDemanian system
(雌の 貯精器官)の形態 によって既知種と区 別された。A fervidusはロシアの日 本海沿岸から原記載された種 で、日本からは初めて報告された。〇′zcholaimus akkeshiensisは主に尾部の長さ、総排泄孔剛毛の配置および乳 頭状突 起の配置によって 既知種と区別された 。〇.kiritappuは主に後半 が細長く伸びる尾 部の形状と、4対の 尾 部乳 頭 状突 起を 持 つ点 で既 知 種と 区別 さ れた 。D ryuuguuは尾部の形 状および尾部の剛毛 によって既知種 と 区別 さ れた。D secundicollisは主 に総排泄孔の前後 に大きな肉質の乳 頭状突起を持つ点で 既知種と区別さ れ た。D paraskewensbは 小さ な 体サ イズ と 尾部 の形 状 、お よび 乳 頭状 突起 の数によって既 知種と区別され た。Dカロ…ロa壷旨eぬ団活は主に 尾部の長さと、総排泄孔剛毛および乳頭状突起の数と配置によって既知種と区 別され た。〇,ぬn播は主に尾部の 長さと交接刺の長 さ、および乳頭状突 起の数によって既知種と区別された。
〇.j.加jは主に尾部の形状と乳頭状突起の数によって既知種と区別された。〇.pa朋びUE 馳uは〇.ザuHぎ・ Hに 似 るが 、 尾部 がよ り 長い 点お よ び総 排泄 孔 剛毛 が少 な ぃ点 によ っ て区 別さ れ た。 〇ぬc轟 珊 陀us丶〇.
凹皿緲わ飽聞凵ぬs、〇,虹yur』活はいずれもユーラシアからアメリカの広い範囲に分布する種、〇・馳ロ劇2ロ凹sお、
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ひvesicari usは 東 ア ジ ア 地 域 か ら 報 告 の あ る 種 で あ っ たが 、い ず れも 日本 か ら初 めて 報 告さ れた 。 こ れ ら の 種 の う ち4属8種 に つ い て は 、 記 載 の 付 加 情 報 と し て 摂 食 に 関 す る 知 見 も 報 告 さ れ た 。 Oncholaimidae科のAdoncholaimus daikokuens紅伽む出血恥a丘わ出嵒ロ 鹸〇.丘Zrぬpp〃 〇.′arHs, ひ 開cu口 出 めZぬ お よ び ひ 開 由 ぬ ガusで は 有 機 堆 積 物 食 を示 唆す る 痕跡 を、Thoracostom叩sidae科 の 局簡田 ロめ血ロgHa出尅嵒ロU8では 捕食行動を確認し、共に先行研究で観察された近縁種の食性と矛盾しない観 察 結果 が 得ら れた 。 また 、同じくThoracostomopsidae科のぬ印 ′ロ´aむ ぬusん瑠脅H6…acHんmでは、腐肉 食 を示唆すろ行動 が確認された。本 科の線虫による腐 肉食の例はこれまで 知られておらず、 今回が初の報告 であっ た。
本論 文 によ って 、 わが 国か ら 報告 され た エノ プル ス 類は これ ま での15属22種か ら18属42種にほぼ倍増 し 、特にこれまで 殆ど情報の無かっ た北海道における エノプルス相の知見 が飛躍的に増大し た。加えて、世 界 的にも研究例の 少ない海産自由生 活性線虫の食性に 関する貴重なデータ が報告された.こ れらにより、著 者 は海産自由生活 性線虫相の多様性 の解明に大きく貢 献した。よって著者 は、北海道大学博 士(理学)の学 位を授 与される資格のある ものと認める。
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