早稲田大学大学院国際情報通信研究科
博 士 論 文 概 要
論 文 題 目
セルラ移動体通信システムにおける 高効率無線チャネル割当制御方式に関する研究 Study on Highly Efficient Radio Resource Allocation
for Cellular Mobile Communication Systems
申 請 者
大西 健太
Kenta Onishi
国際情報通信学専攻 ワイヤレスシステム研究Ⅱ
2013 年 1 月
概 要
近年,携帯電話機器に占めるスマートフォンやタブレット端末の割合が急激に増 加している.スマートフォンやタブレット端末は,あらかじめ機能が構成され,ユ ーザが追加できるアプリケーションなども機能が制限されているベーシックフォン と比べて,携帯電話機と比べて画面の大きさ,画面解像度,操作性等,ユーザイン タフェースの性能が向上している.また,アプリケーションの作成やインストール が容易で,パーソナルコンピュータ(PC)のような自由な操作が可能である.また,
クラウドサービスの出現により,ユーザデータを自分の端末ではなくインターネッ ト上に保存して活用する利用形態が広がりを見せている.クラウドではインターネ ットを通じて動画のようなリッチコンテンツが端末プラットフォームに依存するこ となく扱われることから,これまではパーソナルコンピュータを用いて実現されて いた機能が,モバイル通信においても使われるようになった.例えば,Googleの提 供するWebメールサービスであるGmailやウェブアルバムのPicasaやEvernote が提供している情報蓄積サービスについても,スマートフォン向けのアプリが用意 され,多くのユーザが存在する.このようにモバイル通信で利用するコンテンツの リッチ化により通信トラヒック量は増加の一途をたどっており,高速で大容量な通 信を可能にするモバイルネットワークが求められる.
モバイルネットワークの高速化に向けては,LTE(Long Term Evolution)のサービ スが2010年に開始され,第4世代と呼ばれる新しい無線通信技術の開発が行われて いる.加えて,大容量化に向けては,周波数再編による800MHz帯などにみられる モバイルの周波数帯域の増加,Wi-Fiへのトラヒックオフロード,小型セルの活用等 が行われている.しかし,トラヒック量の爆発的な増加に対して,多くのユーザで 限りある周波数資源を効率的に利用するには,ユーザの利用用途によってネットワ ークの通信品質(QoS: Quality of Service)を制御することで,より多くのユーザが 快適にモバイル通信を行うことが必要である.たとえば,Skype等によるビデオ通
話やUSTREAM等のリアルタイムなストリーミングを行っているユーザの通信品
質が低下した場合,遅延に伴う映像や音声の劣化や途切れにより快適な利用が阻害 される可能性があるため品質を保証した通信が必要である.端末がサービスを正常 に利用するために必要な最小スループットを満たさない場合は,通信をしてもユー ザはサービスを利用できずメリットはない.また,そのような通信を行うモバイル ネットワークとしても周波数資源や電力の浪費となりメリットはない.そこで,そ のリソースを他の端末に割当てることで,通信品質が保証されてサービスを利用で きる端末の増加とシステム効率の増加という効果が期待できる.一方,Webブラウ ジングやメール,ユーザが意識せずにアプリがバックグラウンドで定期的に行う通 信では遅延が許容されるため, 品質が悪化してスループットが保証されない通信で もユーザの利便性はあまり損なわれない.
現在のモバイル通信システムは,周波数利用効率の観点からセルラ方式を採用し ている.広い地域をセルのように細かく分割し各セルに基地局を設置することで,
セル当たりの収容端末数を限定し,高速,大容量の通信が可能になる.しかし,セ ルラ方式では,近傍の基地局間で同じ周波数チャネルを用いて伝送する場合,ある 基地局から送信される信号が近傍の基地局と通信をしている端末に干渉が生じ,通 信品質が悪くなる.特にセル端と呼ばれるセルの境界付近では干渉が大きくなる.
そこで,このような基地局間の干渉を防ぎ,端末の通信品質を向上させる必要があ る.
上記に述べてきたように,セルラ方式によるモバイルネットワークにおいて,ス マートフォンやタブレット端末,クラウドによって提供されたサービスに応じてス ループットを提供することで,より多くのユーザに快適にモバイル通信を提供する ことが必要である.そこで,本研究では,そのようなモバイル通信を実現するため に,LTEやWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)のように高速,
大容量通信として利用が拡大している直交周波数分割多重化(OFDM: Orthogonal Frequency Division Multiplexing)において,複数の基地局を考慮したセルラシス テムにおける周波数チャネル割当方式を提案し,計算機シミュレーションを用いて 提案方式の有効性を明らかにした.提案する周波数チャネル割当方式では,個々の ユーザが快適にサービスを利用可能とするために,各端末に対してサービスに必要 なチャネル数やスループットを保証した通信を提供する.ある端末がサービスに必 要なスループットが得られない場合,その端末を使用しているユーザにとってその 通信は不要である.さらに,その端末の通信は他の端末へ干渉を与えたり,周波数 チャネルの無駄な消費をしたりするため,提案方式ではそのような端末に通信は行 わせず他の端末に周波数チャネルを割当てる
本研究は,このような観点から,OFDMを用いるモバイル通信のマルチセル環境 において,各端末に対してサービスに必要なチャネル数やスループットを保証した 通信を提供するための周波数チャネル割当方式に関する研究を行ったものである.
以下,各章の内容について述べる.
第1章は「緒言」であり,本研究の背景,目的,並びに論文の概要について述べ る.特に,近年のモバイルサービス環境に対する通信品質の重要性について述べる.
第2章は,「セル間の信号干渉の対策」と題して,本研究の前提となっている従来 のセル間干渉対策について述べる.近傍のセルで同一周波数を使用すること信号干 渉が発生し,干渉を低減する周波数チャネル割当方式として,各基地局で近傍の基 地局とは異なる周波数帯域を固定的に使用する静的チャネル割当(FCA: Fixed Channel Allocation)と,各基地局で使える周波数帯域を固定せずに,端末の通信状 況に従って臨機応変に各端末で使用する周波数帯域を決定する動的チャネル割当 (DCA: Dynamic Channel Allocation)があることを述べる.動的チャネル割当はシス テムのいずれの周波数帯域でもトラヒックや無線品質の状況に応じて動的に割当て ることができるため,セルラシステム全体の周波数帯域を有効に活用することがで きる.
第3章は,「排他制御によるチャネル割当方式」と題して,各時刻で端末が一定の チャネル数を割当てられている条件の下で,近傍の基地局から送信される信号が互 いに干渉する可能性がある場合,それらの信号を排他的に利用可能とする方式を提 案する.従来の研究において,チャネル数を保証する周波数チャネル割当が提案さ れている.この方式では,多くの端末が通信を要求する高トラヒックな状況になる につれ,干渉が増加し,システム全体のスループットも小さくなる.いずれかの端 末の通信を抑止することにより,ある端末のSINR(Signal to Interference plus
Noise Ratio:信号対干渉雑音比)特性が改善することでスループットが増加し,結
果的に通信端末のスループットの改善,システム全体のスループットの改善が期待 できる.計算機シミュレーションにより,排他制御によるチャネル割当方式の有効 性を検証する.
第4章は,「帯域保証チャネル割当方式」と題して,基地局間干渉条件下において,
各端末のチャネル数のみでなく各端末のスループットを保証する基地局間チャネル 割当制御方式について提案する.第3章で述べた方式の排他制御が近傍の個々の基 地局からの干渉電力の大きさのみしか考慮してなく,個々の端末のスループットを 保証できない課題があることを述べる.そこで,通信品質が悪い端末の通信を行わ ず,個々の端末のスループットを保証することができるアルゴリズムを提案し,そ の手順について示す.計算機シミュレーションにより,提案アルゴリズムによって 通信端末のスループットが保証できることを示す.また,保証すべきスループット の大きさに対する個々の端末のSINR特性やシステムスループットを評価する.さ らに,第3章で示す方式や従来提案されている方式と比較し,本方式の有効性を示 す.
第5章は,「基地局間MIMOにおける帯域保証リソース割当方式」と題して,複 数基地局間連携MIMO(Multiple Input Multiple Output)によるJoint Processing を用いた伝送において,個々の端末のスループットを保証するリソース割当方式を 提案する.従来の研究では,チャネル品質が悪くスループットが得られにくい端末 に対して大きな電力を割当てており,システム全体として非効率的な周波数チャネ ル割当方式となっていた.また,ユーザが要求しているスループットを必ずしも保 証できない課題があった.本研究では通信品質が悪い端末の通信を行わないことで,
個々の端末のスループットを保証するためのアルゴリズム手順について示す.計算 機シミュレーションにより,提案アルゴリズムによって通信端末のスループットが 保証できることを示す.また,保証すべきスループットの大きさに対する個々の端 末の平均スループットやシステムスループットを評価する.さらに,従来提案され ている方式と比較し,本方式の有効性を示す.
第6章は,「結言」であり,本論文で得られた成果についてまとめて考察する.