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早稲田大学大学院日本語教育研究科

博 博 博

博 士 士 士 士 論 論 論 論 文 文 文 文 概 概 概 概 要 要 要 要

論 論 論

論 文 文 文 文 題 題 題 題 目 目 目 目

遠隔 遠隔 遠隔

遠隔 チュートリアル チュートリアル チュートリアル チュートリアル の の の の 接触場面

接触場面 接触場面

接触場面 に に に 関 に 関 関 関 する する する 実証的研究 する 実証的研究 実証的研究 実証的研究

申 請 者

尹 尹 尹

尹 智鉉 智鉉 智鉉 智鉉

20072007

20072007 年年年年 3333 月月月月

(2)

遠隔 遠隔 遠隔

遠隔チュートリアルチュートリアルチュートリアルのチュートリアルののの接触場面接触場面接触場面に接触場面にに関に関関関するするするする実証的研究実証的研究実証的研究 実証的研究

早稲田大学大学院 日本語教育研究科 博士後期課程 尹智鉉

第 第 第

第1111章章章章 序序序序 論論論 論

日本語教育においても接触場面の研究(ファン 1998、2000; Miyazaki 1999、宮崎1999、

2002b;榊原2001;鎌田2003等)が活発になってきた。接触場面における多様化の問題は

充分に考慮されていなかったが、様々な角度や観点から接触場面が解明されつつある。そ の中の一つが遠隔接触場面を対象にしたものである。一方で、日本語学習者の増加と多様 化への支援策として、日本語教育においても情報通信技術(Information Technology;以 下 IT)を活用しようとする動きが活発になってきている。本稿は、日本語教育の現状と IT導入の現状を踏まえた上で、遠隔の日本語教育を含むITの導入が日本語教育の問題解 決および質的改善のためにどのような点を考慮すべきであるのかを示すための研究である。

具体的には以下の3つの研究課題を明らかにすることを本稿の目的とする。

(1) テレビ会議システムを介した遠隔のチュートリアル・セッションでは、遠隔接触場 面のインターアクション問題がミクロとマクロのレベルでどのように調整されて いるのか。

(2) 遠隔のチュートリアルに参加する日本語母語話者(Native Speaker;以下、NS)と 学習者(Non-native Speaker;以下、NNS)は、チュートリアル・セッションに対 してどのような評価を行い、それに伴う事前・事中・事後の調整をどのように行っ ているのか。

(3) 遠隔のチュートリアル・セッションでは言語習得と結びつくどのようなインターア クション行動が見られるのか。そして参加者はそのインターアクション行動の内面 にどのような認識を持っていたのか。

(3)

第第

第第2222章章章章 先行研究先行研究先行研究先行研究

本稿では、遠隔チュートリアルの接触場面におけるインターアクション問題がどのよう に調整されていたのかを検証する。調整と関連した概念としては、修復(repair)や訂正

(correction)などが挙げられ、日本語教育でもこれらの言語行動を題材にした研究は数

多く行われてきた。本稿における「調整」とは、遠隔接触場面のインターアクションにお いてNSとNNSの参加者が行う言語行動の双方向性を重視した概念である。そして具体 的な談話形式と個々の言語行動として明示的に観察可能なものの分析にとどまらず、遠隔 接触場面に参加しているNSとNNS の意識についても考察を行う。本稿における調整と は、単にNNS の言語能力による問題に対してNSが行う問題解決の試みを意味するので はなく、むしろ異なる母語と文化の背景を持つNS とNNSの参加者が目標言語の能力を 含めて双方が持っているギャップを埋めながら、協同的に創り出していくプロセスとして の意味合いに注目するものである。

またネウストプニー(1995b)は、母語話者同士のインターアクション場面である「内 的場面」に対する概念として、母語話者と非母語話者間のインターアクション場面を「接 触場面」と称した。接触場面研究のフレームワークである「言語管理理論(Language

Management Theory)」では、ネウストプニー(1999)でも述べられているように、接触

場面の研究において、実際の具体的な場面で、参加者はどのようなインターアクション行 動をしているのか、どのような認識をもっていたのかを検証することは非常に有意味かつ 大事な研究のアプローチである。また遠隔接触場面に関する研究としては宮崎(2001、2002、 2004)等がその先駆として位置づけられる。

第 第 第

第3333章章章章 研究研究研究研究ののの方法の方法方法 方法

本研究では、日本在住のNSであるチューターと韓国在住の韓国語母語話者であるNNS をインターネット回線でつなげ、テレビ会議システムを使った遠隔のチュートリアル・セ ッションを実施した。実際の遠隔チュートリアル・セッションから談話データを収集し、

その内容を文字化した 1 次データと質問紙調査およびフォローアップ・インタビュー

(Follow-up Interview;以下、FUI)を実施した2次データの結果から、実際のチュート リアルにおけるインターアクション行動と参加者の意識を検証した。特に遠隔接触場面を

(4)

検証する本研究では、FUI実施に伴う特殊な条件と限界を認識した更なる工夫が必要であ った。具体的には、海外にいる日本語学習者である参加者にどのような方法で毎回のFUI を実施できるかという問題である。そこで本稿では、簡易な型で即時に行うFUIを「イン スタント・フォローアップ・インタビュー(Instant Follow-up Interview;以下、IFUI) と名づけ、遠隔接触場面の研究における新たな方法論の一つとしてその有効性を試みた。

第 第 第

第4444章章章章 マクロレベルマクロレベルマクロレベルマクロレベルののの分析結果の分析結果分析結果分析結果とととと考察考察考察考察:::社会文化的調整:社会文化的調整社会文化的調整社会文化的調整

文法行動や社会言語行動に比べて、社会文化行動を分析する普遍的なフレームワークを 構築することは容易ではなく、体系的に検証することは困難である。しかし昨今の日本語 教育・第二言語習得の潮流においてインターアクションの社会文化行動は大変重要な側面 であり、遠隔接触場面を検証するにあたっても社会と文化の側面を見逃すことができない。

また、社会文化的側面から遠隔チュートリアルの接触場面の概念を考えると以下のように 定義することができる。

「遠隔(チュートリアル)の接触場面とは、異なる母語と文化の背景を持つ参加者同士が、

各自の価値観や経験に基づいてことば(=目標言語)のやり取りを行い、仮想空間(virtual space)上に共有の場を創っていくことばの共同体(speech community)である。」

そして、チュートリアルの遠隔接触場面が母語話者同士のインターアクション、すなわ ち内的場面と最も異なる点は、内的場面では当然である「言語コードの共有」が大きな前 提となることにある。また、ことばの共同体を創造していくためには、もう一つ、「参加者 の双方向コミュニケーション」がその前提とされる。本章ではこのような遠隔接触場面の 社会文化的側面がチュートリアルのインターアクションにおいて具体的にどのような働き と働きかけをしていたのか、社会文化的調整の機能と役割に注目し、参加者の動機付けと いう観点からその詳細を検証した。その結果は以下の通りである。

1.動機付けの環境をつくるための社会文化行動 1)心理的ノイズを軽減するための調整

1 微笑みかける。笑いを伴う発話。

2 服装や新しい髪形など、外見的変化に気がつく。

3 学習者の母文化と母語に興味を示す。

2)支持的な雰囲気を形成するための調整

(5)

4 学習過程が共構築の協同的過程であることを伝える。

5 間違いを恐れずにすることを勧める。

6 前に話したことに再度触れる。

7 調整手段としての人的・物的リソースを認識させる。

3)ラポールを形成するための調整

8 あいさつを交わし、名前を覚える。

9 相手の日常生活や趣味などに興味を示し、尋ねる。

2.動機付けを喚起する(arouse)ための社会文化行動 1)参加態度を鼓舞する話題を展開する調整

10興味をそそる要素を用いる。

11目新しい要素を活かす。

12個人的な要素を用いる。

2)学習過程への成功期待感を高めるための調整

13言語コードを共有するための規範を緩和する。

14双方向のやり取りを重視して意思決定を行う。

3.動機付けを管理する(manage)ための社会文化行動 1)フィードバックで動機付けを鼓舞するための調整

15目に見える成果を与える。

16学習者が心理的に萎縮するようなフィードバックを避ける。

2)学習過程に対する参加態度を鼓舞するための調整

17学習者の関与を増やす。

18学習過程が単調なものにならないようにする。

4.動機付けを追想し(retrospect)、展開する(develop)ための社会文化行動 1)学習者の自立性と自尊的感情を培養するための調整

19学習者の注意を自身の長所と能力に向けさせる。

20学習者自身による「振り返り」と「自己評価の言語化」の機会を与える。

2)対人・非対人の学習環境を強化するための調整

21接続可能性を維持する。

以上のように、遠隔チュートリアルには独自の社会文化が存在するということが言える。

(6)

それは、NSとNNSの参加者が異なる母語と文化の背景を持ち、各自の価値観と経験に基 づいて創り出す仮想空間上の社会文化である。それは、参加意欲を高めるための社会文化 であり、日本語学習者の特徴を認識し、配慮した習得過程を支援するための社会文化であ る。

第 第 第

第5555章章章章 言語的調整言語的調整言語的調整言語的調整

第5章では、遠隔チュートリアルの接触場面を言語的調整の観点から分析し、考察を行 った。その検証結果の中で特に注目すべき内容は以下のようにまとめられる。

第一に、接触場面の調整行動は調整回数を基準として「単純調整」と「複合調整」に区 分されてきたが、調整回数と共に調整の対象となるインターアクション問題の所在も視野 にいれた、新たな見方が必要である。

接触場面におけるインターアクションの問題は、一回だけの調整により解決されない場 合があり、その結果、連続した調整行動が起きるようになる。宮崎(2002)は、Schegloff et

al.(1977)が、調整が連続的に行われながら発展している調整行動とそうでない調整を区分

していることを述べ、一回だけの調整に基づく発話交換を「単純調整」、連続した調整行動 の連鎖を「複合調整」とし、調整の回数による調整フレームを分けて記述している。しか し本章で検証を行った結果、宮崎(2002)の単純調整と複合調整の枠組みだけでは説明で きない、複雑な調整の連鎖が確認された。この結果を踏まえて、調査者は調整の回数およ び調整の対象となるインターアクション問題の所在を考慮し、調整の遂行パターンを次の ような三つに区分することを提案する。

(1)単純調整(single adjustment)

:調整の対象となる単一項目に一回のみの調整が遂行され side-sequenceが形成される 場合。

side-sequence

main main

sequence sequence

(7)

(2)重複調整(multiple adjustment)

:調整の対象となる単一項目に複数回の調整が遂行され side-sequenceが形成される場 合。

side-sequence

main main

Sequence sequence

(3)複合調整(complexed adjustment)

:調整の対象となる複数の項目が複雑な連鎖として現れ side-sequence に付属する side-sequenceが形成される場合。

side-sequenceに付属するside-sequence

main side-sequence

main

sequence sequence

単純調整と複合調整は調整を行った回数によって区分したものであり、単純調整が失敗 し、インターアクション問題が解決されなかった場合は複合調整に移行するか、調整が放 棄または回避されるかを参加者が決めることとなる。重複調整は言葉通り、ある調整の対 象となっている項目に対して重なって調整が行われるパターンであり、複合調整の場合は、

ある逸脱に対する留意①から調整が始まるが、そのside-sequenceの理解と産出に関わる 逸脱と留意②が現れ、結局side-sequenceに付属するside-sequenceが形成される調整の パターンである。

第二に、NS と NNS のインターアクションにおける産出と理解の調整には、参加者の言語 的能力による優越性(priority)の他にも情報的優越性が関連している。

従来の意味交渉やコミュニケーション・ストラテジー研究では、NS の理解と産出の問 題に焦点をあてて分析、検証している。しかし今回の調査では、遠隔接触場面に参加する

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NS のほうにも理解と産出の問題が発生し、自己調整によって解決される場合とともに、

NNS とのインターアクションによって調整が行われ、問題が解決されるケースも複数確 認されている。システムを介して遠隔地の相手とのインターアクションに参加するという 遠隔接触場面特有の要因も働いているが、その他にも接触場面であるが故に、異なる母語 と文化的背景を持つ参加者同士が異文化間コミュニケーションに参加しているという点も 影響していることが明らかになった。遠隔接触場面特有の調整パターンとして、NS が自 己と他者の理解、主に音声情報の聞き取り状況に対して確認を求める調整のパターンが数 多く現れていることが挙げられる。第5章では言語的調整のプロセスに焦点をあて、その ようなNSとNNSの双方向性を考察したため、やはり言語的優越性を持っているNS、す なわち言語ホストのほうでより強い調整の遂行と言語管理の意識を持っていることが明ら かになった。しかし主に談話のトピックと内容によっては、NNSのほうでもNS同様、言 語的調整の遂行と管理の意識を働かせていたことを確認できた点は見逃せない。

第三に、遠隔接触場面ではコミュニケーションの正確さ(accuracy)より流暢さ

(frequency)を重要視する傾向があり、その結果、調整回避・放棄の談話を多数確認でき る。しかし、参加者によっては教育的効果を強く望み、チュートリアル活動を具体的な日 本語の習得と結びつけようとする学習意識および参加動機があることも見逃してはいけな い。

尹(2003a、2004b)でも明らかになったように、遠隔接触場面の特徴の一つとして正

確さより流暢さを好み、明確な逸脱に対しても寛大に処理してしまう傾向がある。しかし 単なる自由会話と異なり、教育的効果が期待されるチュートリアルのセッションではこの ような遠隔接触場面の特徴を認識しつつも、正確さへの考慮を忘れてはいけない。無論、

一概にチュートリアルといっても共通のテキストを用いていわゆる個人授業を行ったわけ ではないため、参加者同士の選択と意識によって話題やインターアクションの性質は様々 である。参加者の共通認識として、正確さを追及するためにside-sequenceが頻繁に形成 されるより調整遂行に値しない逸脱に関しては寛大に処理をし、main sequenceを維持し、

話題を展開していくことに重点を置きたい場合もあろう。大事なことは各チュートリアル の参加者の間で共通認識を持つこと、到達目標に対して合意点を見出しながらのセッショ ンであるべきだという点である。

(9)

第第

第第6666章章章章 社会言語的調整社会言語的調整社会言語的調整社会言語的調整

第6章では遠隔チュートリアルの社会言語的な側面に焦点を当てて検証を行った。具体 的にはネウストプニー(1982、1995b)の社会言語行動モデルを援用しながら、チュート リアル・セッションにおける調整を分析した。特に、本章では事前調整と事後調整を様々 な角度から考察してきた。その結果、検証された内容は以下のようにまとめられる。

第一に、沈黙と発話重複の問題処理を中心に turn-taking と話題の調整を検証した結果、

学習者の言語レベルによって提供されるべきチュートリアルの内容とチューターのインタ ーアクション管理が異なるということが明らかになった。

無論、その他にも学習者の参加動機や到達目標、参加者の学習観等様々な要因から総合 的に判断してNNS に合わせて個別化されたチュートリアル・セッションを提示すること が望ましいのは言うまでも無い。ここで取り上げたのは対照的な二つの例であった。しか し、今回の調査結果を踏まえてチュートリアルの在り方を考えてみると【図6-21】の ようなパラダイムを提案できる。

language-oriented contents-oriented

interactive

ペア14

learner-centered

ペア4 ペア11

ペア8

non-interactive ペア11 ペア7

tutor-centered

elementary-level advanced-level

【図6-21】チュートリアルを考えるパラダイム

第二に、テレビ会議システムの多様な機能を利用すると音声情報と映像情報をインター アクションに用いることができる。音声情報の送受信が基本となるチュートリアル・セッ

(10)

ションにおいて補助的な視覚情報を利用する調整が数多く観察された。その使用目的とし ては、次の四つが挙げられる。

① 言語的逸脱を調整し、理解と産出を援助するため

② 目標言語の使用負担を減らす回避のストラテジーとして

③ 会話にはずみをもたらしインターアクションの単調さを打開するため

④ 事前に準備したリソースを視覚的に提示し、積極的な参加態度を示すため

また本文の中では、実際に使用されたテレビ会議システムの各機能別にその利用法を分 析した。その結果は以下の通りである。なお、心理的負担によって主なコミュニケーショ ン・チャンネルである音声情報の送受信だけに頼り、視覚情報の機能を使用しない場合も 観察された。

1.チャットの使用

1)ノイズが生じた際、音声情報の送受信問題を解決する。

2)固有名詞(地名・人名)を正確に伝える。

3)語彙の説明を行う。(漢字表記、読み方、意味)

4)メールアドレスやWebアドレスを伝える。

2.ホワイト・ボードの使用

1)地図や写真等のファイルをアップロードし、理解を促進する。

2)キーボードの文字入力の問題を解決する。

3)NNSに語彙や漢字の書き順を導入し、確認をする。

4)言語調整の調整手段として使用する。

5)ホワイト・ボードを使って、話題を展開する。

3.カメラ映像の使用

1)非言語による肯定的・否定的シグナルを送る。

2)言語使用と話題の制約を克服するために実物を映写する。

3)言語的調整の手段として非言語的行動による伝達を行う。

4)カメラの映像情報から会話の話題を引き出す。

4.インターネットの使用

1)言語調整の調整手段として使用する。

2)検察ツールを使って、関連情報を探す。

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3)インターネット・サイトの文章を使って読解の練習をする。

4)自分のホームページを紹介し、一緒に閲覧する。

特に、1次データを補足し、参加者の認識を探るために収集された2次データからは言 語管理の過程に心理的ノイズが働き、コミュニケーション・チャンネルの調整を放棄、ま たは回避する場合も確認することができた。これは、言語的コミュニケーションの問題が 生じた場合の調整行動として視覚情報を用いるためにテレビ会議システムの各機能を使用 する場合とは反対の結果である。不自然な沈黙と話題の途切れといったコミュニケーショ ン問題に遭遇し、その影響で心理的ノイズが発生した。その結果、留意、否定的な評価を したインターアクション問題に対して適切な調整の手段を選び、それを実行するに至るプ ロセスを妨げる働きをしていたのである。

第 第 第

第7777章章章章 参加者参加者参加者参加者ののの評価の評価評価評価ととと調整と調整調整調整

遠隔接触場面のインターアクションに対する評価およびそれに伴う参加者の調整を検 証した。調整行動は具体的に、①遠隔接触場面のインターアクションが開始される前の参 加者の予想や計画に基づいて行われる「事前調整」、②実際にチュートリアルの遠隔接触場 面が開始された後、参加者が直面するインターアクションの問題とその処理に関する「事 中調整」、③インターアクションが終了した後の参加者の意識とそれに伴う行動としての

「事後調整」に区分することができる。第7章では、参加者の評価に基づく調整として、

事前調整と事後調整に焦点をあて検証を行った。その結果、明らかになった内容は以下の ようにまとめられる。

第一に、参加者の評価に基づいた、接続環境と物的リソースの調整が確認された。

実際には、目標言語の不十分なコミュニケーション能力を補うための調整が確認された。

NS並みの目標言語の駆使能力を持っていないNNSの場合、遠隔コミュニケーションとい う不慣れな会話の形に参加する緊張感と共に、自分の言語能力についての不安や予想を持 っている。特に自分のコミュニケーション能力について自信が持てない中級前半の学習者 や日本人母語話者と接した経験が乏しい学習者の場合に、このような事前調整の意識と行 動が多く確認された。また、コンピューターのVersion Up によって新しく登場した接続 問題の事前調整も現れた。

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第二に、参加者の評価に基づいた、ネットワークの形成と人的リソースの調整が確認さ れた。

遠隔チュートリアル・セッションを効果的に行うためには、チューターと学習者間のイ ンターアクションといった直接的なチュートリアル活動の他に、プログラムの運営者、シ ステムの管理者、システム・エンジニア等、様々な人力による協力体制が欠かせない。今 回のチュートリアルを実施するにあたっても人的リソースと関連して三種類の事前調整が 行われた。①プログラムの「設計」と「開発」の段階で行われる必須的な事前調整、②「実 施」を準備する段階で「必要に応じた改善」のために行われる調整、③予想される NNS のコミュニケーション問題と人的リソースの事前調整である。

第三に、参加者の談話の内容からチュートリアルに対する評価を確認することができた。

セッション中の談話資料には参加者のどのような評価が現れているのかを検証した。

通常、遠隔接触場面の特徴として「正確さ」より「流暢さ」を重視すると多くの先行研究 で述べている。しかし、参加者間の教育的目的が共通認識として位置づけされている場合、

必ずしも遠隔接触場面が流暢性のほうを重視するとは限らない点が明らかになった。

第四に、チューターの内省報告からチュートリアルの、①遠隔会話、②映像、③セッシ ョンの雰囲気、④参加者間の役割、⑤話題に対する評価と調整の意識を確認することがで きた。その詳細は以下の通りである。

1)遠隔会話について

遠隔会話に関する評価は、セッションの回数を重ねることによる一定の傾向は示さなか った。むしろこれらの項目は当日のシステム状況や安定性によって参加者に認識されるも のであることが報告された。最も大きな問題は①音声情報を送受信する際のタイムラグ、

②エコーと音質の問題であった。

2)映像について

テレビ会議の映像については比較的高い評価をしていることが分かる。実際には、カメ ラの位置とその映写角度が原因となって遠隔地の相手とアイコンタクトが取れないという 問題点は存在していたが、チューターは遠隔接触場面における映像の役割および映像情報 の質に対して比較的肯定的な評価をしていた。

3)セッションの雰囲気について

(13)

初回セッション終了後のインタビューでは、主に遠隔会話の特徴に関するコメント内容 が多かった。これに対して、2 回目以後、特に最終回のセッション終了後はテレビ会議シ ステムを介したチュートリアルの映像に関する意見は数多く報告された。また、チュート リアル・セッションのインターアクションを管理するという意識の働きから、話題を展開、

継続するための自己の役割を強く認識していたことが明らかになった。

4)参加者間の役割について

NSかNNSかによる「言語的優越性(priority of language)」の他にも特定の話題に関 する「情報的優越性(priority of information and message)」によって参加者間の役割が 形成されるということが窺える内省報告が確認された。

5)話題について

参加者に共通して、話題に関するコメント内容が数多く、セッションの前に話題を決め、

事前調整できた場合、NNS には準備をする段階で自立学習の機会を得られると共に NS の参加者の心理的負担を軽減できる利点があることが確認された。

第五に、今回の調査で NNS に対しては二つの方法で 2 次データを収集し、日本語学習者 の内省報告を受けることができた。そこから確認された評価と調整の意識は以下のように まとめられる(複数回答可)。

1)遠隔チュートリアルの参加動機について

この質問に対しては25の回答があった。具体的には、大学教員の勧めから(6名)が最 も多く、次には、日本語の能力、特に会話能力の向上を図るため(5 名)という回答が多 かった。

2)チュートリアルに参加して最も良かった点について

延べ27の回答があった。ネイティブと自由に会話できたことを挙げたNNSが最も多く

(7名)、ネイティブと日本語で話すことの恐怖心がなくなり、自信がついたという意見(5 名)も数多く確認された。

3)チュートリアルに参加した際に最も大変だった点について

チュートリアル・セッションの参加においてNNS に障害となった点として、自分の日 本語能力(会話能力)が足りなかったから(6 名)と振り返る参加者が多く、続いてはパ ソコンやシステムが急にトラブルを起こした場合が挙げられた(4名)。また遠隔会話の特 徴として、対面会話よりゆっくり話すのでもどかしかったという意見(1 名)や初回セッ

(14)

ションで遠隔地の相手との心理的距離感を感じ、非常に大変だったという意見(1 名)も あった。

4)システムの改善に関連しての提案や意見

システムの改善と関連しては、音声情報の送受信を円滑に行うためには、雑音が消去さ れるべきであるという指摘が最も多かった(4名)。

5)チューターに対する提案や意見

自由会話に参加したことを「楽しかった」と評価している参加者がいる(1 名)反面、

自分の学習機会として活かすためには、事前にテーマを決めて、内容の議論を深めてほし いという意見も多かった(5名)。

6)プログラムの運営や進行に関する提案や意見

この質問に対しては、延べ6つの回答があった。テレビ会議システムを使用できる時間 帯が限られていた点を不満に思った参加者(2名)、チュートリアルのセッションが 1 回 30分であるため、時間が足りず十分なインターアクションができなかったという意見(2 名)もあった。またチュートリアルの内容に関して、一方的に日本語を教えてもらうので はなく、日本人の韓国語学習者を相手にセッションの約半分ずつを言語交換(Language

Exchange)したいという提案もあった(2名)。

第 第 第

第8888章章章章 総合的考察総合的考察総合的考察総合的考察

NSとNNSの参加者がシステムを介してインターアクションを行い、ことばの共同体を 形成するというのは具体的にどのようなプロセスであるのか。【図8-6】は、今回の調査 結果をもとに、遠隔接触場面のインターアクションを図形化したものである。目標言語の やり取りに基づき、参加者同士は「個体間インターアクション」を行っている。この個体 間インターアクションは言語的、また非言語的側面で明示的に確認できる部分も多く、一 般的に「インターアクション」という概念は参加者と参加者の間で行われる場合を指して いる。しかし、個体間インターアクションに参加することによって活性化される参加者の 内面におけるインターアクションとして「個体内インターアクション」が存在すると筆者 は考えている。

個体間インターアクションと個体内インターアクションの概念についてもう少し述べる ことにする。個体間インターアクションの参加者は「共有化」と「個人化」の言語行動を

(15)

行うのではないだろうか。筆者が、通常の「産出」ではなく「共有化」の言語行動として 称したのは、個体間インターアクションに参加し、ことばの共同体を創りだしていくため の産出であり、そのために調整され、適合化された言語行動を意味しているためである。

同じく、「理解」ではなく「個人化」としたのは、意味と情報の内容が理解された場合でも 個体の認知と意識に定着しないことがあり、情意的理由などからその受容が拒否される場 合もある点を考慮したからだ。

個体間インターアクションに参加するためには、絶えず共有化と個人化の言語行動を行 うこととなる。これらの言語行動を行うことによって、自己が持っている既存の認識と知 識が改められたり、変容したりする。個体内インターアクションというのは、新しい経験 をする際に、過去の経験に基づいてつくられた心理的な枠組みや認知的な構えの総称とし てのスキーマが再構築されるプロセスともいえる。個体間インターアクション自体が習得 プロセスではなく、習得のための題材であり、個体内インターアクションを活性化させる 触発材であると考えている。そのため、遠隔接触場面を含む実際使用場面に参加しインタ ーアクションを行うだけで習得プロセスが自然と起こるわけではない。その個体(=イン ターアクション参加者)がどのような「共有化」と「個人化」の言語行動を行うのかが大 事であり、そのプロセスには本人の背景知識や参加態度など内的要因が影響を与えている。

同時に、相手の個体が適切で活発な個体間インターアクションを共に創りだす共同体の一 員として、どのような言語行動を行うのかが個体内インターアクションにおいて重要な外 的要因となる。これらの内的要因と外的要因が最も適した形で個体間インターアクション に提供されると、NNS の個体内インターアクションが活性化され、習得プロセスが進展 すると思われる。

そして、共有化と個人化の方法(know-how)や方略(strategy)が個体において確立 され、内的要素を肯定的な方向に働かせることができれば、対人学習環境からの触発が弱 くても、または働きかけが無い場合でも、外的要素に左右されず、個体内インターアクシ ョンを活発化させることができるのではないだろうか。このような状態が「学習者中心の 言語学習(Learner-centered language learning)」または「自律学習(Learner autonomy)」

といえよう。そして、実際のチュートリアルにおいては、前述したような日本語学習者の インターアクション能力の習得をめざして、支援者(facilitator)としてのチューターが 行う言語行動とチューターの担う役割は以下の3つが挙げられる。

(16)

1.教授者(instructor)

:一方的に教え込む存在としての教師ではなく、学習者に必要な知識や情報を適時に提 供することで学習者の習得を妨げる障害物を取り除き、または学習者自身が克服でき るように一定の足場がけとしての支援者である。

2.訓練者(trainer)

:インターアクションの内容であり、素材としての言語的、社会言語的、社会文化的知 識および情報を状況的文脈に合わせて実際に運用できるようにするために、学習者にモ デルを提示したり、適切なフィードバックを与える等の方法で、日本語学習者が方略的 能力(strategic competence)を身につけられるように支援する。

3.助言者(advisor、または mentor)

:チュートリアルにおける助言者とは、成功への期待感や肯定的なフィードバックを与 え、動機付けし、学習意欲を鼓舞する等の方法で、主に NNS の心理的・情意的側面に 対して働きかける役割を指す。直接学習内容には関連性の乏しい事項に対しても、広い 意味での学習プロセスや習得の進捗状況と関連していると判断すれば適切な支援を行 うことも有り得る。

遠隔チュートリアルの場合、教育機関の正規コースとして単位認定や成績などの外的動 機付けは弱い場合が多い。そのため、むしろ学習者が実際に解決しなければならない問題 や課題を取り上げ、個別または少人数制でチューターが対応することで、内的動機付けを 強化する方向に適している。何を学ぶのか、どのように学ぶのか、そしてその学びは何の ために必要であるのかを明確に認識できることは、参加態度やインターアクションの成果 にも結びつく極めて重要な要因である。言い換えると、学習活動をより大きな枠組みの中 できちんと位置づけし、認識するとともに、学習活動における学習目標を明確にすること、

そして具体的な課題を分析できることが参加者の満足度を高め、参加者の成長と学びとい ったチュートリアル・セッションの成果に非常に大事なことである。

チュートリアルが参加者相互において学びと成長の機会となることは大きな意義を持つ が、あくまでも根本の目的は、日本語学習者の習得を支援し、促進し、そのプロセスにチ ューターが貢献することである。そして、言うまでもなくチュートリアル・セッションの 主体は、学習者であるべきであり、チューターはこれらの教授者、訓練者、助言者として の役割を総合して、学習者の日本語習得のための支援者(facilitator)としての役割を果

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たしていく。要するに、チューターの役割は、学習者自身に課題を見つけさせ、それに取 り組ませるために多角度から直接的・間接的支援を行うことである。チューターの支援の もとで、このような学習者中心の学習プロセスを経験した日本語学習者は、認知的に、そ して情意的にもより学習者中心で、主体的な学習に取り組む過程に移行できると思われる。

そしてチューターが習得過程を支援する方法は、教授者、訓練者、助言者として日本語学 習者とことば(目標言語)のやり取りを行い、共有の場を創っていくことである。遠隔チ ュートリアルの接触場面では、学習者の習得過程と密接に関連している個体内インターア クションを触発できる個体間インターアクションが不可欠であり、これらの個体間インタ ーアクションによって個人化と共有化が促されることが期待される。しかし実際には、学 習者と学習環境の諸要因によって遠隔チュートリアルの成果は大きく異なるであろう。

本稿では、実際使用場面として遠隔チュートリアルを検証し、個体間インターアクショ ンと固体内インターアクションの存在を述べてきた。外的要素を整え、個体間インターア クションに学習者を参加させたとしても、共有化と個人化の言語行動を行い、固体内イン ターアクションが触発されないと習得過程は起こり難い。チューターといっても、結局、

学習者を成長させるのでもなく、伸ばすのでもない。あくまでも主役は学習者自身である。

しかし、学習主体の言語学習過程を個別化されたインターアクションで支援し、促進し ていくことにチュートリアルの意義がある。NNS の参加者に合わせて調整されたインタ ーアクションを提供し、学習過程と学習結果から学習者を動機付けしていくことが重要で ある。自己の学びと成長に対する実感を得た経験は、自律学習への意欲と新たな動機につ ながる。ことばの共同体の中で、話し合い、何かを一緒に達成できた経験と実感を与えら れる点で、一斉授業に比べて少人数の参加者によるチュートリアルは適していると思われ る。

参照

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