博 士 論 文 概 要
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(2) 蛍光タンパク質は生命科学の分野において幅広く使われる,欠かすことのできない重要な道具の 1 つである.生きた細胞におけるタンパク質の動的観察や,Ca2+イオンや pH,ハライド,ATP 濃度など の様々なシグナルの可視化など,蛍光プローブは生化学や細胞生物学の様々な場面で登場する. Aqueoria Victoria 由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)が報告されて以来,遺伝子改変によりその波長特 性を変えたり,あるいは Obelia,Renilla,Discosoma といった他の刺胞動物やサンゴ類から様々な GFP 様タンパク質が発見・単離されたりしたことで,カラーバリエーションが増え,蛍光タンパク質は生 命科学における動的現象の可視化ツールとして進化していった.加えて,近年報告された低分子依存 性蛍光タンパク質(LIFP)によって,さらに適用の幅が広がることとなった.例えば,共有結合によ って担持されたビリベルジンを蛍光発色団として利用した IFP1.4 の発見によって,GFP 様蛍光タンパ ク質では達成できなかった近赤外領域まで蛍光の幅を広げることができるようになり,近年では細胞 深部における蛍光イメージングすら可能となった.また,非共有結合によって担持されたフラビンモ ノヌクレオチドを蛍光発色団として利用した iLOV は,GFP と同じ緑色蛍光を発するものの,GFP 様 蛍光タンパク質の弱点である蛍光発色団の形成に時間と酸素が必要であるという課題をクリアしてい るという点において注目を集めている.このように蛍光タンパク質は,生体分子の動的挙動をリアル タイムで可視化するための「分子スパイ」として,現在も開発と改良が進められている. 脂肪酸結合タンパク質(FABP)の 1 種である UnaG は近年報告された緑色蛍光を発する LIFP であ り,脊椎動物由来の蛍光タンパク質としては本タンパク質が初めての報告となる.アポ状態の UnaG (apoUnaG)は自身の-バレルの内部において,ビリルビン(BR)と特異的かつ瞬時に結合し UnaG-BR 複合体(holoUnaG)を形成することが知られている.BR そのものは非蛍光性であるものの,holoUnaG は最も輝度の高い GFP 変異体の 1 つである EGFP と同程度の量子収率(~50%)を有している. BR と の高い特異性と蛍光性を併せ持つ UnaG は,現在,血清中における BR の濃度測定ツールとしての実用 化されている.加えて,LIFP である UnaG は蛍光発色団の形成という概念が存在せず,かつ酸素非依 存的な緑色蛍光を発することができる,量子収率の高い蛍光タンパク質であるため,EGFP に代わる新 たな蛍光プローブとしても期待できる.というのも,蛍光発色団の形成時に酸素を必要とする GFP 様 の蛍光タンパク質は低酸素領域ではその効力を発揮できない上,通常,蛍光発色団が成熟するまでは 数時間単位の長い時間を要するという弱点を有しているためである.実際,これらの利点に注目する ことで,UnaG は蛍光性タンパク質-タンパク質相互作用インジケーターや細胞内の低酸素領域におけ る蛍光性センサー,細胞内の BR 分布領域レポーターといった多く利用法が研究されている. 本研究では,UnaG の蛍光特性を様々な側面から測定・解析することで,holoUnaG が異なる 2 種類 の輝度分子の混合物であるという,他の蛍光タンパク質に類を見ないユニークな特性を有しているこ とを明らかにした.また,Ca2+感受的に自身の立体構造を変化させることが知られているカルモジュリ ンと UnaG を遺伝子レベルで融合させることで,Ca2+濃度依存的に BR との親和性を意図的に変化させ ることができる新規創製タンパク質を開発し,UnaG が蛍光プローブのみならず,BR のモジュレータ ーとしても有用であることを示した. 本論文は 4 章により構成される. 第 1 章は,本論文の背景と目的を示した序章である. 第 2 章は,UnaG の分子特性を様々な分析手法を用いて明らかにした研究について述べる.UnaG は 1.
(3) 蛍光プローブとして非常に有能であるが, UnaG とそのリガンドである BR との間の結合/解離速度定 数は算出されていなかった.また,UnaG をラベルタンパク質として利用するための UnaG 自身の水溶 液中での分散性に関する情報も明らかにされていなかった.例えば,UnaG と BR との間における結合 速度定数や解離速度定数を知ることで,蛍光褪色を回避するための糸口を掴むことができる.解離速 度定数が無視できないほど早いのならば,リガンドを速やかに交換することで解決することが可能と なる.後者の問題点に関する例として,Discosoma 由来の赤色蛍光タンパク質 DsRed は,その強い自 己凝集性という性質により,ラベリングされたタンパク質の細胞内での本来の機能を阻害するという 問題点があった.そのため、蛍光プローブとして利用可能となるまでに長い年月を経た様々な改良を 余儀なくされた. このような背景のもと,UnaG の分子特性を明らかにすることを試みたが,その過程において, holoUnaG が明らかに異なる 2 つの蛍光状態を示すことが分かった.具体的には,BR を添加した後の UnaG の蛍光強度経時変化を計測した際の輝度経時変化は,BR を加えた直後に観察されるような早い 段階の後に,遅い段階が追随していた.早い段階の輝度上昇は,apoUnaG と BR との結合に起因する 輝度上昇だと考えられる.一方で,遅い段階の輝度上昇が単純な一次指数関数でフィットできたこと, および分析超遠心の結果から apoUnaG も holoUnaG も水溶液中では単量体で存在することが明らかに なった.従って,この輝度上昇は分子内反応による holoUnaG 分子自身の変化に起因していることが示 唆された.そこで,上記仮説を証明するために,蛍光強度分布解析(FIDA)という手法を用いた分析 を行った.本解析は光子計数法の 1 種であり,2 種類以上の輝度を有する分子の混合溶液に存在する, それぞれの輝度の比率,および存在比率を見積もることができる.本解析の結果,holoUnaG は輝度比 率が 1:4 である 2 種類の分子が,60:40 の確率で混在していることが明らかになった.これらの結果か ら,apoUnaG は BR と結合することで瞬時に暗い holoUnaG(holoUnaG1)に変化した後,可逆的な分子 内反応によって明るい holoUnaG(holoUnaG2)へと変化し,最終的には 2 つの輝度の分子の平衡状態 に達することが明らかとなった.holoUnaG の CD スペクトルや吸収スペクトルなどといった分光学的 な知見から,holoUnaG1 と holoUnaG2 の分子内変化の過程において,BR そのものは化学的な変化や構 造的な変化が起きていないこと,また新たな UnaG と BR の結合も起こっていないことが示唆された. これらの結果から,UnaG と BR の新しい反応スキームを確立し,各反応における結合/解離速度定数を 算出した.また,高塩強度条件下でも同様の実験を行った結果,速度定数は塩強度に大きく左右され ることが明らかになった.加えて,分析超遠心の結果から,apoUnaG,holoUnaG ともに水溶液中にお いて単量体で存在していることが示唆された. 上述の結果をもとに,2 状態間の変換メカニズムに関する考察を行った.UnaG の分光学的な知見か ら考えると,holoUnaG の可逆的な分子内反応は UnaG 自身もリガンドである BR も化学的・構造的な 変化も伴わないことが示唆された.一方で,速度定数が塩強度に大きく影響されていることから, holoUnaG1 から holoUnaG2 へと変化するために必要な,活性化エネルギーなどに代表される両者のエネ ルギー障壁が,塩強度を高くすることで低下したためだと考えられた.加えて,57 番目のアスパラギ ン残基をアラニンに置換した N57A 変異体は,WT で確認できるような遅い輝度上昇が存在しないこと が明らかになった.これらの知見から,BR 周辺に存在する 57 番目のアスパラギン残基のような極性 アミノ酸残基の配向性によって holoUnaG1 と holoUnaG2 の変換が引き起こされるのではないかという 2.
(4) 仮説が,これまでの全ての実験事実を理論的に説明しうる 1 つの仮説であると考えられた. 第 3 章は,UnaG をベースとした新規創製タンパク質の研究について述べる.UnaG の蛍光発色団で ある BR は,2 つのジピリノン環(endo-ジピリノン環および exo-ジピリノン環)とそれぞれの環に付 帯しているプロピオン酸残基を有しており,UnaG とは水素結合により強固に結合しているため,他の FABP と異なり基質との高い親和性(Kd = 98 pM)を有している.例えば,Arg132 や Tyr134 残基は endoジピリノン環に付帯しているプロピオン酸残基と水素結合を介して結合しているし,Ser80 や Asp81 残 基は exo-ジピリノン環に付帯しているプロピオン酸残基と水分子を介した水素結合により結合してい る.前者の水素結合は他の FABP にも幅広く見受けられるものの,後者の水素結合は holoUnaG に特徴 的なものであり,本結合が UnaG の BR との高い親和性を生み出しているのではないかと考えられてい る.また,BR そのものも古くから研究対象になっている.過剰な BR の蓄積は新生児黄疸や高ビリル ビン血症の原因となると考えられており,臨床医学において BR は古くから重要な病理診断の指標にな っている.一方で,共役二重結合や反応性に富む水素原子を有している BR は,有能な抗酸化物質とし ても知られており,生体組織,特に生体膜における活性酸素種を除去しているとも考えられている. 従って,生体組織において BR の濃度の最適な制御ができたら,BR の過剰蓄積によって引き起こされ る病気のリスクを回避しつつ,エイジングに応用できるかもしれない. このような背景のもと,2 つのリガンドを認識する創製タンパク質を作り,BR(リガンドの 1 つ) に対する親和性が Ca2+(もう一方のリガンド)濃度依存的に変わる新しい融合タンパク質の創製を試 みた.方法として,UnaG の BR binding pocket の周囲である 84/85 部位に CaM を挿入することで,Ca2+ 依存的に UnaG と BR の親和性を制御できる新しいタンパク質,BReleaCa(BR を release する者,とい う意味)を創製することができるのではないかと考えた.遊離の BR は 450 nm 付近に極大吸収をもち, holoUnaG は 500 nm 付近に極大吸収をもつことが知られていたため,スペクトルの変化を見ることで 簡単に BR の結合・解離状態を理解することができた.結果,Ca2+によって BReleaCa に結合していた BR が解離しており,BReleaCa から Ca2+を取り除くことで BReleaCa の立体構造が元に戻り,結果とし て BR が再び BReleaCa と結合可能であることが示唆された.また,UnaG の蛍光タンパク質としての 特性を生かし,BR の結合や解離を蛍光強度の変化で検出することで,Ca2+非存在下と Ca2+存在下にお ける BR の解離定数や結合・解離速度定数を算出した.その結果,BReleaCa と BR の Kd は Ca2+の有無 によっておよそ 1000 倍変化すること,その変化は主に結合速度定数の変化に起因することが明らかと なった.加えて,本創製タンパク質は細胞内でも機能することが明らかとなり,BReleaCa の,BR 濃 度の局所的制御ツールとしての応用への期待を示すことができた. UnaG および BReleaCa と BR の結合・解離速度定数の違い,および Ca2+の有無による BReleaCa と BR の結合・解離定数の違いから,キネティクスの変化を以下のように考えた.まず,UnaG への CaM の挿入そのものが UnaG の BR binding cavity 周辺の構造的変化を引き起こし,結果として BR に対する koff が上がった.続いて,Ca2+依存的な構造的変化が UnaG の binding pocket よりも“portal region”に影響 を与えて,結果として BR に対する kon が大きく変わったのではないかと考えられた.これらのキネテ ィクスの変化と結晶構造から,UnaG の“portal region”は binging cavity と反対側,例えば UnaG の N 末 や C 末の付近であると考えられた. 第 4 章は,本論文の総括とし,本研究で得られた結果のまとめと,今後の展望をまとめる. 3.
(5) No.1. 早稲田大学. 博士(理学). 学位申請. 研究業績書. (List of research achievements for application of doctorate (Dr. of Yoh Shitashima), Waseda University). 氏 名. 下島 洋. 印 (2018 年 2 月 現在). 種 類 別 論文. 題名、. 発表・発行掲載誌名、. 発表・発行年月、. 連名者(申請者含む). ○ 1. Yoh Shitashima, Togo Shimozawa, Toru Asahi, and Atsushi Miyawaki, “A dual-ligand-modulable fluorescent protein based on UnaG and calmodulin”, Biochem. Biophys Res. Commun., 496, 872-879 (2017). ○ 2. Yoh Shitashima, Togo Shimozawa, Akiko Kumagai, Atsushi Miyawaki, and Toru Asahi, “Two distinct fluorescence states of the ligand-induced green fluorescent protein UnaG”, Biophys. J., 113, 2805-2814 (2017). 3. Toshiki Furuya, Yoh Shitashima, and Kuniki Kino, “Alteration of the substrate specificity of cytochrome P450 CYP199A2 by site-directed mutagenesis”, J. Biosci. Bioeng., 119, 47-51 (2015).. 講演. (国際、ポスター) 1. Yoh Shitashima, Togo Shimozawa, and Toru Asahi, “Equilibrium of Two Fluorescence States in The UnaG-Bilirubin Complex”, Biophysical Society 61st Annual Meeting, 2877-Pos B484, Ernest N. Morial Convention Center, New Orleans, February 2017. 2. Yoh Shitashima, Togo Shimozawa, Miyabi Ishida, and Toru Asahi, "Chiroptical Properties of the Bilirubin Compounded with Fluorescent Protein UnaG in vitro ", Pacifichem2015, 07BIOL-133, Hawaii Convention Center, Honolulu, December 2015.. 講演. (国内、口頭) 1. 下島洋、下澤東吾, 石田みやび, 朝日透, “蛍光特性を用いたビリルビン依存型蛍光 タンパク質 UnaG の自己二量化の解析”, 日本化学会第 96 春季年会, 2C4-05B, 同志 社大学, 2016 年 3 月. 2. 下島洋, 古屋俊樹, 木野邦器, “酵素-基質間の静電的相互作用に着目したシトクロ ム P450 酸化酵素 CYP199A2 の基質特異性改変”,日本化学会第 94 春季年会, 3G5-09A, 名古屋大学, 2014 年 3 月..
(6) No.2. 早稲田大学. 博士(理学). 学位申請. 研究業績書. (List of research achievements for application of doctorate (Dr. of Yoh Shitashima), Waseda University). 種 類 別 講演. 題名、. 発表・発行掲載誌名、. 発表・発行年月、. 連名者(申請者含む). (国内、ポスター) 1. 下島洋, 下澤東吾, 石田みやび, 朝日透, “Billirubin 依存型蛍光タンパク質 UnaG のキ ラル特性解析”, Symposium on Molecular Chirality 2015, P-056, 早稲田大学, 2015 年 6 月. 2. 下島洋, 古屋俊樹, 木野邦器, “基質-酵素間相互作用を担う官能基の交換による P450 モノオキシゲナーゼ CYP199A2 の基質特異性改変”, 第 17 回生体触媒化学シンポジ ウム, 1P-05, 岡山理科大学, 2013 年 12 月. 3. 下島洋, 古屋俊樹, 木野邦器, “シトクロム P450 酸化酵素 CYP199A2 の立体構造に基 づいた基質特異性の改変”, 第 3 回 CSJ 化学フェスタ 2013, P5-92, タワーホール船堀, 2013 年 10 月.. その他. (受賞) 1. 第 24 回生物工学論文賞, Toshiki Furuya, Yoh Shitashima, and Kuniki Kino, “Alteration of the substrate specificity of cytochrome P450 CYP199A2 by site-directed mutagenesis”, J. Biosci. Bioeng., 119, 47-51 (2015) , 2016 年 5 月. 2. Gold Award, 下島洋, 辻理絵子, 橋香奈, 水口佳紀, 安田翔也, “OYAKonnect~保育園に 通う子どもの興味・友達関係が分かるシステム~”, EDGE INNOVATION CHARENGE COMPETITION 2015, 東京, 2015 年 2 月. 3. 優秀ポスター発表賞, 下島洋, 古屋俊樹, 木野邦器, “シトクロム P450 酸化酵素 CYP199A2 の立体構造に基づいた基質特異性の改変”, 第 3 回 CSJ 化学フェスタ 2013, P5-92, タワーホール船堀, 2013 年 10 月. (その他著作) 1. 古 屋 俊 樹 , 下 島 洋 , 木 野 邦 器 , “ 部 位 特 異 的 変 異 導 入 に よ る シ ト ク ロ ム P450 CYP199A2 の基質特異性改変”, 生物工学会誌, 第 95 巻, 第 2 号, 71 (2017).. (研究費) 1. 2015 年度三菱マテリアル-理工学術院研究助成金(30 万円), 下島洋,. 2015 年 7 月..
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