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博 士 ( 農 学 ) 栗 原 志 保

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 栗 原 志 保

学 位 論 文 題 名

低 温 環 境 に お け る コ ム ギ と イ ネ の ミ ト コ ン ド リ ア 遺伝 子 発 現 制御 機 構 の 解析

学 位 論 文 内 容 の要 旨

  低 温 は しば し ば 冷害 を もた らし、 作物の栽 培地域の 拡大を阻む 要因とな ってい る。そ のため低 温に対す る作物の 応答機構 を明らか にすることは、北方圏農業の発 展を図 る上で重 要な意義 をもつ。 低温下で の植物体 の反応は複雑を極めるが、本研 究 では 特 に ミト コ ンド リ ア に関連 する異常 を指摘す る研究事例 が多いこ とに注目 した。

  低温に 対する植 物ミトコ ンドリア の反応に 関しては、これまでに細胞学的あるい は生理 ・生化学 的研究が 行われ、 また呼吸 代謝にか かわる核ゲノムコードの遺伝子 の発現 解析も進 められて いる。し かし、ミ トコンド リアゲノムにコードされる遺伝 子の低 温応答に 関する研 究例は殆 んど無い 。本研究 では、コムギとイネのミトコン ドリア 遺伝子の 発現が低 温環境に より変化 すること をはじめて見出し、その機構の 解明を 試みた。

  1冫低温環境下でのcox2遺伝子の発現

  コム ギとイネ のミトコ ンドリア 遺伝子cox2( シトクロ ーム酸化酵素サブュニット n) は 共 に1個の グ ルー プnイ ン トロ ン を含 む 分 断遺 伝 子 であ る 。コ ムギにお いて は、O.5ー2℃の 低温に遭 遇すると、イントロンのスプライシングを経ていないcox2 前駆 体転写産 物の蓄積 量が、低 温処理日 数に応じ て増加する現象が認められた。一 方、 スプライ シングを 終了した 成熟転写 産物量に は変化はみられなかった。同様の 傾向 は12℃の低 温に遭遇 したイネ のcox2につい ても認め られ、前駆体転写産物の蓄 積 量 が増 加し、ス プライシ ングを終 了した転写 産物量は やや減少 した。た だ、COX uポ り ベプ チドの蓄 積量は低 温によっ て影響を受 けなかっ た。低温 と関連の 深いス ト レ スに 対する応 答を調べ るため、 乾燥、NaClおよ びABA処理を 試みたが 、いずれ も前駆体転写産物の増加を引き起こさなかった。

  次に 低温 環境下で のcox2のRNAエデ ィティン グを解析し た。その 結果、ス プライ シ ン グを 終 了 した 転 写産 物 で はほ ぼ 全ての部位 でエディ ティング が生じて いるこ とが 分かった 。一方、 前駆体転 写産物に ついては 低温により影響を受けるエディテ イ ン グ部 位がみっ かった。 特にグル ープnイント ロンのス プライシ ング反応 に重要 と考 えられるIBSl (Intron Binding Sitel)のエデ ィティングは、コムギにおいて はO.5丶一丶2℃の低温により著しく頻度が低下し、また、イネにおいては12℃の低温に より完全に阻害されていた。  ―65―

(2)

  2

) グ ル ー プ

H

イ ン ト ロ ン を 持 っ ミ ト コ ン ド リ ア 遺 伝 子 の 発 現

  

イ ネお よびコムギのミトコンドリアゲノムには、それぞれ合計して23 個、22 個の グル ープ

u

イン トロ ンが ある 。イ ネに つい ては 全イン トロ ンを 含む

9

遺伝子、コム ギで は計

10

個 のイ ントロ ンを 含む

5

遺 伝子に関して、ノーザン分析と個々のイント ロンのスプライシングに着目した定量的RT ーPCR にもとづく転写解析を行った。その 結果、低温処理(コムギでO .5 ー2 ℃、イネで12 ℃)によルイントロンを含む転写産 物の 蓄積 量が減少した事例はーっもなく、増加する場合(コムギ10 イントロンとイ ネ16 イン トロ ン) および 変化 しな い場 合(イネ7 イントロン)が認められた。従っ て、 低温 処理によルイントロンを含む転写産物の蓄積量が増えるのはかなり普遍的 な現 象と 考えられる。また、イントロンを含む転写産物の蓄積量が低温により増え るか 否か に関して、イントロンの一次構造や二次構造との関連は見出せなかった。

イン トロ ンを含む転写産物の蓄積が増加した遺伝子について、スプライシングを経 た転 写産 物の蓄積量を調べたところ、増加するタイプ、変化しないタイプ、およぴ 減少するタイプの3 種に分けられた。

  3

)スプライシング補助因子の探索

  

高 等植 物ミ トコ ンド リア のグ ルー プH イ ントロンには自己触媒能がないので、ス プラ イシ ング には 補助 因子 を要 し、 しか もこ の因子 は核 ゲノ ムコ ード と予想され る。 酵母 など では核ゲノムにコードされるスプライシング因子が同定されているも のの、高等植物では詳細な解析例は殆んど無い。

  

シ ロイ ヌナ ズナにおいては、酵母ミトコンドリアのスプライシング補助因子MRS2 のホモログa tmr s2‑1 が単離されている。イネのデータベースよりatmrs2 ーj 相同配列 を検索した結果、高い類似性を示す完全長cDNA クローンを発見し、osmr s2‑1 と命名 した。推定アミノ酸配列から、osmr s2‑1 翻訳産物はミトコンドリアあるいは葉緑体 の膜に存在する可能性が示された。低温処理(12 ℃14 日)により、osmr s2‑1 の発現 量は やや 減少 した。低温に伴ってスプライシング効率が低下するならば、前駆体転 写産 物の 蓄積 増と成熟転写産物の減少がもたらされるはずである。このような蓄積 の増 減パ ター ンを示す遺伝子として、本研究ではcox2 丶rps3 (リボソームタンパク 質S3) を はじ め7 種 のイ ネ遺 伝子 がみ っか った 。これ らの 遺伝 子の イン トロンスプ ラ イ シ ン グ に は

osmr s2‑1

の 翻 訳 産 物 が 関 わ っ て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。

  

一 方、 イネ の核ゲノム中には、スプライシング補助因子と推定される逆転写/成 熟化酵素のORFs がコードされている。それらのうちosn 〃at −j6 の完全長cDNA クロー ンがイネデータベースから見っかった。ただ、低温処理を施しても、〇釦朋rat ーj6 の 発現量に変化は観察されなかった。

  

今 後、 ミト コンドリアスプライシング制御因子の全容を明らかにし、各々の低温 処理に対する応答を調査する必要がある。

66−

(3)

学 位論文審査の要旨 主査   教授   三上哲夫 副査   教授   佐野芳雄 副査   准教授   久保友彦 副査   副研究主幹   半田裕一

     (独立行政法人農業生物資源研究所)

学 位 論 文 題 名

低温環境に おけるコムギとイネの

ミトコ ンドリア遺伝子発現制御機構の解析

  本 論 文 は141頁 か ら な る 和 文 論 文 で あ り 、 図51と 表16お よ び 付 表4を 含 む 。 別に 、参 考論 文4編 が添 えら れて いる 。

  今 日の 農業 技術 は低 温に 対し て必ずしも万全では なく、寒冷地域では年により著 しい 低温 障害 を被 る。 それ 故、 低温にさらされた作 物の応答を理解することは、北 方圏 農業 の発 展を 図る 上で 不可 欠と いえ る 。

  植 物の 低温 応答 の仕 方は 複雑 であるが、本研究で はミトコンドリアに関連する異 常を 指摘 する 研究 事例 が多 いこ とに着目した。これ までに、呼吸代謝にかかわる核 遺伝 子の 低温 下で の発 現に つい ては知見が集積して いるが、ミトコンドリアゲノム にコ ード され る遺 伝子 の低 温応 答に関する研究例は 殆んど無い。本研究では、コム ギと イネ のミ トコ ンド リア 遺伝 子の発現が低温環境 下で変わることをはじめて見出 し 、 そ の 機 溝 の 解 明 を 試 み た 。 得 ら れ た 結 果 は 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る 。

1.低 温環 境下 でのcox2遺伝 子の 発現

  コ ムギ とイ ネ のミ トコ ンドリア遺 伝子cox2(シトクローム酸化酵素サブュニット u)は 共に1個 の グル ーー プnイン トロ ンを 含 む分 断遺 伝子である。コムギcox2の転 写に おい ては 、 低温 に遭 遇するとイ ントロンのスプライシングを経ていない前駆体 転写 産物 の蓄 積 量が 増加 することが 判明した。一方、スプライシングを終了した成 熟転 写産 物量 に は変 化は みられなか った。同様の傾向はイネのcox2についても認め ら れ た 。 た だ 、cox皿 ポ り ペ プチ ドの 蔀責 量は 低温 によ って 影響 を受 け なか った     ‑ 67

(4)

  また、成 熟転写 産物ではほぼ全ての部位でエディティングが生じていたのに対し、

前駆体転 写産物に ついて は低温に より影 響を受け るエデ ィティン グ部位がみっかっ た 。 特 に グ ル ー プHイ ン ト ロ ン の ス プ ラ イ シ ン グ に 重 要 と 考 え ら れ るIntron Binding Site1の エ デ ィ テ ィ ン グ 頻 度 が 、 低 温 に よ り 著 し く 低 下 し た 。

2. グ ル ― プ IIイ ン ト ロ ン を 持 つ ミ 卜 コ ン ド リ ア 遺 伝 子 の 発 現   イ ネ にお い て は計23個の イ ン トロ ン を 含む9遺 伝 子、 コ ム ギで は 計10個の イン トロ ン を 含む5遺伝子の 転写を 調べた。 その結 果、低編 処理によ ルイン トロンを 含 む転写産 物の蓄積 量が増 える事例 が多数 を占め、 減少し た例は全 く見出されなかっ た。従っ て、低温 下で前 駆体転写 産物の 蓄積量が 増える のはかな り普遍的な現象と みてよい 。

3.スプライシング補助因子の探索

  高等植物 ミトコ ンドリア のグルー ープuイントロンには自己触媒能がないので、ス プライシ ングには 補助因子を要し、しかもこの因子は核ゲノムコードと予想される。

  イ ネ のデ ー タベー スより 酵母ミト コンドリ アのス プライシ ング補 助因子A4RS2の 相同 配 列 を検 索 し た結 果 、 類似 性 を 示す 完 全 長cDNAクロ ー ン を発 見 し、osmrsoj と命名し た。D硼恥e・!翻訳産物はミトコンドリアあるいは葉緑体の膜に存在する可 能性が高く、しかも低温処理により、〇.蜘n鉛―!の発現量は減少した。低温に伴って スプライ シング効 率が低 下するな らば、 前駆体転 写産物 の蓄積増 と成熟転写産物の 減少がも たらされ るはず である。 このよ うな蓄積 の増減 パターン を示す遺伝子とし て、本研 究ではJ弘お (リボソ ームタ ンパク質S3)遺伝 子をはじ め7種のイネ遺伝子 がみっか った。こ れらの 発現には 〇硼硲0rの翻訳産 物が関 わってい る可詣陛が考え られる。

  本 研究の成 果は低 温に対す る植物 ミトコン ドリアの 反応機 構の全容を解明する上 で 寄 与 す る と こ ろ が 大 き く 、 学 術 お よ び 応 用 の 両 面 で 高 く 評 価 で き る 。   よ って審査 員一同 は栗原志 保が博 士(農学 )の学位 を受け るのに十分な資格を有 す るものと 認めた 。

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参照

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