博 士 ( 農 学 ) 久 保 堅 司
。 学 位 論 文 題 名
The genetic variation in root penetration ability into the hard soil layer in wheat
(コムギ における 硬盤土壌 層への根 貫通カの 遺伝変異)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
21世紀は人口爆発およ び生活水準の向上に伴って食糧の消費量が増加すると予測されているた め,子実穀物における収量性の向上は今後の世界的な重要課題である,コムギ(Triticum spp.)では 半わい性遺伝子(Rht‑Bl6,Rht‑Dl6)の導入によって, 緑の革命 と呼ばれる劇的な収量性の向上 が実現した.しかし,それは十分に養水分を供給できる環境においてのみであり,乾燥地におけるコム ギ収量は依然低く,降雨量による変動が大きい.また,今後の地球温暖化によって,世界各地で乾燥 地面積が増加すると予測されていることから,乾燥抵抗性に関する様々な形質の遺伝的改良がコムギ 生産における安定化の鍵を握ると考えられる.特に,乾燥,大型機械の走行や有機物の減少等によっ て土壌が締め固められた硬盤土壌では,コムギの根の伸長が物理的に抑制され,乾燥害を受けやす くなるので,硬盤土壌への根貫通カの遺伝的改良が重要な一形質として挙げられる,しかし,これまで にコムギの根貫通カに関する遺伝的な知見はほとんど得られていない,そこで本研究では,マカロニ コムギ(T. turgidumL.var. durum)およびパンコムギ(T. aestivum L.)における根貫通カを遺伝的に 改良するための基礎的知見を得ることを目的として,根貫通カに関する簡易評価法の確立,国内・外 品 種 に お け る 遺 伝 変 異 の 評 価 お よ び 量 的 形 質 遺 伝 子 座(QTLs)の 同 定 を 行 っ た .
コムギにおける根貫通力評価法の確立および遺伝変異の評価
根 貫 通カ の遺 伝変 異 を調 査す るた めに は効率的な評価 法が必要とされる.このた め,ロウ (paraffin)とワセ リン(Vaseline)を一定割合で混合して作成した厚さ3mmの円盤(PV層)を硬盤層 のモデルとして挿入した塩ビ製ポット(直径Scm,深さ10〜30cm)を考案した.硬盤土壌条件に適応 したエチオピア在来品種および好適土壌条件で育成された国際トウモロコシ・コムギ研究センター (CIMMYT)の 品種 からなるマカ ロニコムギ24品種を供試し て,播種後8週日にPV層を貫 通した根 数(貫通根数)を根貫通カの指標として評価したところ,エチオピア在来品種はCIMMYT品種よりも 貫通カが高かった .さらに,ポットにおいて 貫通カが高かったエチオピア在来2品種と低かった CIMMYT2品種,お よび北海道における主要春播 品種の ハルユタカ を硬盤層の存在する圃場で 栽培して,根系分布を比較したところ,エチオピア在来品種はCIMMYT品種およびハルユタカよりも 硬盤層下部の根量が多かった.これらのことから,本ポットで評価した根貫通カは硬盤層が存在する 圃場における根系分布と関連する要因のひとっであり,本ポットを用いて根貫通カの遺伝変異を簡易 的に評価できるものと推察した,
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コムギ 遺伝資 源にお ける 根貫通 カの遺 伝変異
日 本各地 で育成 された パン コムギ81品種の 根貫 通カを ,ポッ ト評価 法を用 いて 調査し たとこ ろ,有 意な 品種 問差異 が認め られ, マカロ ニコ ムギの エチオ ピア在 来品 種より も貫通 カが高 い品種 も認 めら れた , ま た , 貫通 根 数 と 種 子 根お よ び 冠 根 の合 計発 根数( 全根 数)お よび貫 通指数 (全根 数に 対す る貫 通根 数の割 合)と の関係 を解析 した ところ ,全根 数およ び貫 通指数 は貫通 根数と いずれ も有 意な 正の 相 関 関 係 を示 し た が(r=0.477お よび卩0.81l),根 数と貫 通指数 の相 関関係 は有意 ではな かった
(F0.190).さ ら に, 全 根 数は茎 数,葉 身乾 物重,PV層上部 の根 乾物重 および 秋播性 と有 意な正 の相 関関係 を示し たが, 貫通 指数と 有意な 相関関 係を 示す形 質は認められなかった.これらのことから,国 内コ ム ギ 品 種 の根 貫 通 カ に は 大き な 変 異 が 存在 し, その構 成要 素であ る全根 数と貫 通指数 は異 なる 遺伝的 要因に 制御さ れて いるも のと推 察した .さ らに, 貫通指数を高めることによって,草型等の地上 部形質 を変え ること なく 貫通カ を改良 できる こと が示唆 された .
コ ム ギ の 稈 長 等 を 制 御 す るRht‑Blbお よ びRht‑D lb遺 伝 子 が 根 貫 通 カ に 及 ぼ す 影 響 ポ ット評 価法を 用い て,マ カロニ コムギ および パン コムギ の長稈親(Rht‑Blaかっ/またはRht‑Dlロ)
と そ れ ら のRht‑Blbお よ びRht‑Dlb遺 伝 子 に 関 す る 準 同 質 遺 伝 子 系 統 群(NILs)3系 統 の 根 貫通 カ を ポット 評価法 で比較 したと ころ ,長稈 親とNILsの貫通 カに有 意な差異は認められなかった.さらに,
マ カロニ コムギ の長稈 モロッコ在来種 Jennah Khetifa (JK,Rht‑Bla) ,国際乾燥地域農業研究センタ ー(ICARDA)育 成 半 わ ぃ 性 品 種 Chaml (Cl,Rht‑Blb) およ び そ れ ら から 由 来 し た 組換 え 自 殖 系 統 群(RILs) 110系 統 の 根 貫通 カ を 調 査 した と こ ろ ,JKがClの約2倍 の 貫 通根 数 を 示 し た .RILsに お け る 稈 長 と 貫 通 根 数 と の 相 関 関 係 は 有 意 で な く , 貫通 根 数 がJK並 み で 稈 長 がCl並 み のRILsも 認 め られ た,こ れらの ことか ら,Rht‑Bl6お よびRht‑Dlb遺 伝子 が根貫 通カに 及ぼす 影響は 小さ いと推 察 さ れた ,これ までの 調査で は, 半わい 性品種 に根貫 通カの 劣る ものが 多かっ たが, 本結 果から ,根 貫 通カに 優れる 半わぃ 性品種 の育 成が可 能であ ると考 えら れた,
根貫 通カと 関連す る量 的形質 遺伝子 座(QTLs)の 同定
RILsの 表現 型 値 と 遺 伝地 図 を 用 い てQTL解 析 を行 っ た と こ ろ,6A′ 染 色体 の長腕 に根貫 通カと 関 連 す る3つ のQTLsが 検 出 さ れ, 根 貫 通 カ の変 異 の そ れ ぞれ13.7,18.0およ び14.7%が説 明され た.
こ れ らQTLsに は貫 通 指 数 も 有意 に 関 連 し てお り , 変異 のそれ ぞれ16.1,14.8お よび14.6%が説 明さ れ た .ま た , 根 乾 物 重, 草 丈 お よ び茎 数 に 関 す るQTLsも検 出 さ れ た が ,そ れ ぞ れlB,4Bお よび1A 染 色 体 に 位 置 し , 根 貫 通 カ に関 す るQTLの 位 置 と は 異な っ た . な お, い ず れ のQTLsもJK由 来 の 対 立遺 伝子が これら 表現 型値を 増加さ せる効 果を 有して いた. これらのことから,JKは近代コムギ品種に おけ る根貫 通カの 遺伝 的改良 を行う 上で有 望な 遺伝資 源とな りうることが示唆された.また,同定され たQTLsに よ り ,貫 通 指 数 の 他形 質 か ら の 独立 性 が 確認 された .これ らは 根貫通 カの遺 伝機構 を解 明 する ための 有用な 知見 のひと っにな ると考 えら れた,
以 上 の こと か ら , 本 研究 で 開発し たIPV層を 用いた ポット での根 貫通力 評価 法はコ ムギの 乾燥抵 抗 性 を改 良する ための 新たな 育種 選抜手 法とし て利用 できる もの と考えられる,また,コムギの根貫通カ に 幅 広 い遺伝 変異が 存在す ること が明 らかと なり, これに 関連 するQTLsも 検出 された ,よっ て,従 来 困 難と されて きた根 系育種 を促 進でき る端緒 が得ら れたも のと 考えられ,乾燥地におけるコムギの収量 性 向上 および 安定に 貢献で きる ものと 期待さ れる.
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学位論文審査の要旨
主.査 教授 岩間和人 副査 教授 佐野芳雄 副査 助教授 寺内方克 副査 室長 小柳敦史
((独)農業技術研究機構東北農業研究センター 畑地利用部作付体系研究室)
学 位 論文 題 名
The genetic variation in root penetration ability into the hard soil layerlnWheat
( コ ムギ に お け る 硬 盤 土 壌 層 へ の根 貫 通 カ の遺 伝変異 )
本論文 は図 25 ,表 18 を含み, 5 章からなる総頁数 118 の欧文論文であり,別に参考 論文2 編が添えられている.
21 世紀は地球温暖化によって,世界各地で乾燥地面積が増加すると予測されているた め,作物における様々な乾燥抵抗性関連形質の遺伝的改良が,食糧生産・安定供給の鍵を 握ると考えられる.特に,乾燥,大型機械の走行や有機物の減少等によって土壌カ¥v め固 められた硬盤土壌では,作物の根の伸長が物理的に抑制され乾燥害を受けやすくなるの で,硬盤土壌への根貫通カが重要である.コムギは世界的な主作物であるが,その根貫通 カに関する知見は,これまでほとんど得られていない.そこで本研究では,コムギにおけ る根貫通カを遺伝的に改良するための基礎的知見を得ることを目的として,根貫通カに関 す る 簡 易 評 価 法 の 確 立 , 遺 伝 変 異 の 同 定 お よ て曜 推 撤 封冓 の 解析 を 行 った .
コムギにおける根貫通力評価法の確立および遺伝変異の評価
根貫通カの遺伝変異を調査するために,口ウとワセリンを混合して作成した厚さ3 mm の円盤(PV 層)を硬盤層のモデルとして挿入した塩ピ製ポットを考案した.コムギ24 品種を供試して,PV 層を貫通した根数(貫通根数)を根貫通カの指標として評価したと ころ,貫通根数に幅広い変異が認められた.さらに,貫通根数の多かったエチオビア在来 2 品種 と少なか った CIMMYF (国際トウモ口コシ・コムギ改良センター)育成 2 品種,
および北海道春播品種ハルユ夕カの根系分布を硬盤土壌圃場で比較したところ,エチオピ
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