博 士 ( 農 学 ) 久 保 友 彦
学 位 論 文 題 名
テン サ イ 雄 性不 稔 細 胞 質に お け る
ミ ト コ ン ドリ ア ゲ ノ ム再 編 成 に 関す る 研 究
学 位 論文 内 容 の 要旨
テンサイの一代雑種採種に広く用いられている雄性不稔株は,すべて自然発見による S型細胞質を有する.しかし細胞質雄性不稔性(C‑MS)と深い関係を有するミトコンド リアゲノムの分子構造に関する知見はなお不十分である,そこで本研究では,正常(N) 型 とS型雄性 不稔系統 からミト コンドリ ア(mt)DNAを抽 出してそ れらの構造解析を 行い,変異域の特定や遺伝子発現を調べた.
1.正常(N)型ミトコンドリアゲノムの構造解析
N型mt DNAの 物理地図 ならびに クローン バンクを作成し,ゲノムマッピングを行っ た . ゲノ ム ウォ ー キ ング に よっ て 明 らか に な ったN型 ゲ ノム の マ スタ ー 染色 体 は 358kbで あ っ た. ゲ ノム 全 領域を クローン 化して,物 理地図上 に21種のミ トコンド リア 遺伝子を マッピン グした.そのうちnad9は高等植物で初めて見い出された遺伝子 で あ る .c DNAの 解 析 に よ れ ば テ ン サ イnad9のmRNAは5箇 所 の エ デ ィ テ ィ ン グ 部位 を有する .このほ かにN型ゲ ノムについ て以下のような特徴が明らかになった。
i)N型ゲノム中には多様な反復配列が含まれていることがハイブリダイゼーション実験 に よ り判 っ た. 最 長 の反 復 配列 は4. 7kbでrrn26を 含 み, マ ス ター 染 色体 当 た り で3コピー存在した.この反復配列により分子内組換えを生じることがコスミドクローン の 解 析か ら 示さ れ た .ま た 遺 伝子 コ ード 域 の 一部 や 転写 調節域の 配列から 成る,
0. 5kbに満たなぃ短い配列のファミリーも見い出された.
11)mt DNA中 に は 葉 緑 体 (cp)DNAと の 相 同 配 列 が 含 ま れ て い た . ハイ ブ リダ イゼ ーション 実験から ,6領域に おけるcpDNA配列 の存在が 明らかに なった. この様 なc pDNAとの相同配列の中で,trnP,trnW,及び
petGについて構造解析を行った.cpD‑NAとの塩基配列比較から
trnP, trnW, petGは697bpの 転 移 配 列 中 に 含 ま れ る こ と が 判 っ た . こ れ ら3種 の 遺 伝 子 はc pDNAと 同 様 に ク ラス タ ー を形 成 し, コ ー ド域 のcpDNAと の相 ー644―
同性 は93%以上 で,非コ ード域で は68〜78%で あった.遺 伝子の発 現を調べ たとこ ろ.trnWのみが転写されていた.
テンサイの近縁種であるBeta trigynaとB.webbianaのmtDNAにも相同配列が存在し,
petG配 列 に お い て 重 複 や 欠 失 変 異 が み ら れ た . 塩 基 配 列 の 相 同 性 は 96% 以 上 で , 塩 基 置 換 率 はcp DNAの1/5〜l/4で あ った . ま た塩 基 配 列の 比 較 解 析 に よ り , 植 物 種 を 越 え て 共 通 す る60bpの 配 列 がtrn P7t rnW遺 伝子 間 領域 に 見 い 出 さ れ た . こ の こ と は 高 等 植 物 のmtDNAに お け るtrnP,trnWの 相 同 配 列 がc pDNAよ り 転 移 し た の は か な り 古 い 時 代 で あ っ た 可 能 性 を 示 唆 す る .
2.S型雄性不稔ミトコンドリアゲノムの構造変異
S型mtDNAの 物 理 地 図 を 作 成 し てN型 の 場 合 と 比較 し た .N型 ク ロ ーン を 用 いた RFLP分 析 に よ りS型を ,N型 と同 じ 構 造を 有 する15領域 ( リン ケ ー ジ群 ) とS型固 有の 変異域とに 分けた. 続いて変 異域をク ローン化 してS型の 物理地図(376kb)を 作 成 し た . マ ッ ピ ン グ に よ れ ばS型 はN型 と 異 な る 反 復 配 列 を 含 ん で い た . 2種の物理地図を比較すると,15種のりンケージ群の順序や方向の異なることが明ら か に な っ た . さ ら に 詳 細 なRFLP分 析 に よ れ ば 両 ゲ ノ ム に 共 通 な 配 列 は 約250kb で , 全 体 の 25〜 28% は N型 と S型 の そ れ ぞ れ に 固 有 の 配 列 で あ っ た . 変異域におけるミトコンドリア遺伝子の発現について調査した.N型ゲノムの転写地図 を作成し たところ23種 の転写領 域が明ら かになり ,そのうち15領域はS型ゲノムの構 造変異域と一致した.しかもこの15領域のうち5領域に含まれる遺伝子ほ未同定であっ た.このことは既知の遺伝子プローブに頼った解析では全変異域の調査であったとは言え なぃことを意味する.そこで変異域を全て網羅するN型及びS型ゲノミッククローンを選 び出し,それらをプローブに用いてノーザンハイブリダイゼーションを行った.その結 果,17種の変異域のうち,5領域で転写産物の違いを検出した.転写産物に差異を生じ た 遺 伝 子 と し て はc〇xII,at pA, atp6, 及 び rps13で あ っ た が , 残 る 1領域の遺伝子は不明であった.
テ ンサ イ で 未だ 解 析 され て いな いrps13につい てN型とS型 間での比 較を行った , その結果 ,遺伝子コ ード域の 上流56bpより 両者の塩 基配列が大きく異なっており,S 型 に 固 有 の オ ー プ ン リ ー デ ィ ン グ フ レ ー ム ( 〇rf3〇 〇 ) が 発 見 さ れ た .
〇rf3〇 〇は 他 の 植物 種 のCMS関 連配列 と同様に キメラ構 造を有し ており、S型 ゲノ ム中で転写されていた.
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
テンサイ雄性不稔細胞質における
ミトコンドリアゲノム再編成に関する研究
テンサイの細胞質・核遺伝子型雄性不稔はミトコンドリアゲノム(mt DNA)の分子 構造と深い関係を有することが明らかになっている。そこで本研究では、正常(N)型と S型 雄性 不稔 系統 から ミト コン ドリ ア(mt)DNAを 抽出 して それ らの 構造 解析 を行 い、変異域の特定や遺伝子発現を調べた。
本論文は5章より成り、130頁で表3と図43を含むふ
1.正常(N)型ミトコンドリアゲノムの構造解析
ゲ ノ ム ウ ォ ー キ ン グ に よ っ て 明 ら かに さ れ たN型 ゲ ノ ム の マ ス ター 染 色 体 は 358kbで 、物 理地 図上 に21種の ミトコ ンド リア 遺伝 子を マッピングした。そのうち のnad9は 高 等 植 物 で 初 め て 見 い 出 さ れ た 遺 伝 子 で あ り 、nad9のmRNAは5箇 所 のエディティング部位を有していた。N型ゲノム中には多様な反復配列が含まれ、最長の 反 復 配 列 は4. 7kbでrrn26を 含 み 、 マ ス タ ー 染 色 体 当 た り で3コ ピー 存在 して い た。この反復配列により分子内組換えを生じることがコスミドクローンの解析からも示さ れた。
2.S型雄性不稔ミトコンドリアゲノムの構造変異
N型 ク 口 ー ン を 用 い てRFLP分 析 に よ りS型mt DNAの 物 理 地 図 (376kb) を 作 成した。S型ゲノムはN型と同じ構造を有する15領域(リンケージ群)とS型固有の 変異域とに分けられた。
2種の物理地図を比較するとS型はN型と異なる反復配列を含み、15種のりンケージ 群 の 順 序 や 方向 の異 なるこ とが 明ら かに なっ た。 さら に両 ゲノ ムに 共通 な配 列は 約250kbで 、 全 体 の25〜28% はN型 とS型 の そ れ ぞ れ に 固 有 の 配 列 で あ っ た 。 変異域におけるミトコンドリア遺伝子の発現をみるため、N型ゲノムの転写地図を作成
郎 也 夫 俊 義 哲 下本 上 木島 三 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
した とこ ろ23種の転写領域が明らかになり、そのうち15領域はS型ゲノムの構造変異 域と一致した。しかもこの15領域のうち5領域に含まれる遺伝子は未同定であった。そ こで変異域を全て網羅するN型及びS型ゲノミッククローンを選び出し,それらをプロー ブに用いてノーザンハイブリダイゼーションを行った。その結果,17種の変異域のう ち、5領域 で転 写産 物の 違い を検 出し た。 転写 産物に 差異 を生 じた 遺伝子とレては c〇xII、atpA、atp6、及びrps13であったが、残る
1領 域 の 遺 伝 子fま 不 明 で あ っ た 。rps13に っ い てN型とS型間 での 比較 を行 った 結 果、 遺伝 子コード域の上流56bpより両者の塩基配列が大きく異なっており、S型固有 の オ ー プ ンリ ー デ ィ ン グ フ レ ー ム が 発 見 さ れ.S型 ゲ ノ ム 中 で 転 写 され て い た 。
3. ミ ト コ ン ド リ ア ゲ ノ ム 中 に 見 い 出 さ れ た 葉 緑 体 由 来 の 遺 伝 子 ク ラ ス タ ー mtDNA中 に は 葉 緑 体 (cp)DNAと の 相 同 配 列 が 含 ま れ て い た 。 ハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン 実 験 か ら 、6領 域 に お け るc pDNA配 列 の 存 在 が 明 ら か に な っ た 。 cp DNAと の 塩 基 配 列 比 較 か ら trn尸 , frn W,pefGは697bpの 転 移 配 列 中 に 含 ま れ 、cp DNAの 場 合 と 同 様 に ク ラ ス タ ーを 形成 し、 コー ド域 のcpDNAと の 相 同 性 は93% 以 上 で 、 非 コ ー ド域 で は68〜78% で あ っ た 。 ,3遺 伝 子 の 内 、 rr門Wiのみが転写されていた.
テンサイの近縁種であるBeta trigynaとB.webbianaのmt DNAにも相同配列が存在し、
petG配 列 に お い て 重 複 や 欠 失 変 異 が み ら れ た 。 塩 基 配 列 の 相 同 性 は 96% 以 上 で 、 塩 基 置換 率 はcp DNAの1/5〜1/4で あ っ た 。 ま た 塩 基 配 列 の 比較 解 析 に よ り 、 植 物 種 を 越 え て 共 通 す る60bpの 配 列 がtrnP/rrnW遺 伝 子 間 領 域 に 見 い 出 さ れ た 。 こ の こ と は 高 等植 物 のmt DNAに お い てtrnP、trnげ の 相 同 配 列 が c pDNAよ り 転 移 し た の は か な り 古 い 時 代 で あ っ た こ と を 示 唆 す る .
本研究は雄性不稔性と関連の深いミトコンドリアゲノムの分子構造を明らかにしたこと によルテンサイの分子遺伝学への貢献が大きい。よって審査員一同は最終試験の結果と合 わせて本論文の提出者久保友彦は博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格があるもの と認定した。
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