博 士 ( 農 学 ) 原 田 玄 輝
学 位 論 文 題 名
アズキ茎疫病に対するアズキの抵抗性機構に関する研究 学位論文内容の要旨
アズキ茎疫 病は、Phytophthora vignaef.sp. a比甜たf∞缸によっ て引き起こされる 土 壌 伝 染 性 病 害 で あ る 。 本 病 害 の 抑 制 に は 、 圃 場 の 排 水 対 策 を 基 本 と す る 栽 培 管 理 法 や 、 薬 剤 利 用 の 有 効 性 が 示 さ れ て は い る が 、 本 病 は 、 ア ズ キ の 幼 苗 期 か ら 成 熟 期 近 く ま で 長 期 に わ た っ て 発 生 す る 病 害 で あ る こ と か ら 、 薬 剤 散 布 等 に よ る 完 全 な 防 除 は 難 し く 、 抵 抗 性 品 種 の 利 用 が 重 要 と さ れ て い る 。 し か し な が ら 、 近 年 、 従 来 の レ ー ス に 対 し て 抵 抗 性 を 有 す る 品 種 が 育 成 さ れ る と 、 す ぐ に そ の 品 種 を 侵 す 新 レ ー ス の 出 現 が 起 き て お り 、 新 た な 防 除 戦 略 の 構 築 が 必 要 と さ れ て い る 。 本 病 に 対 す る ア ズ キ の 抵 抗 性 メ カ ニ ズ ム に つ い て は 、 こ れ ま で 詳 細 な 研 究 は 進 め ら れ て い な い が 、 宿 主 ― 病 原 の 相 互 作 用 や 抵 抗 性 メ カ ニ ズ ムの 理 解 は 、 効 果 的 な 防 除 戦 略 を 確 立 す る 上 で も 不 可 欠 の も の で あ る 。 以 上 の よ う な 状 況 か ら 、 本 研 究 は 、 本 病 に 対 す る ア ズ キ の 抵 抗 性 機 構 を 解 明 す る こ と を 目 的 としておこな った。
1
.アズキ切離葉およぴ胚軸を用いた接種 法の確立P
.y渚門口 ロf.sp.ロ庇MたfcDなに対 するアズキの抵抗性機構を検討するためには、土 を 介 さ ず 、 ア ズ キ の 罹 病 性 / 抵 抗 性 の 反 応 が 明 確 に 起 こ る 接 種 方 法 ・ 条 件 を 確 立 す る 必 要 が あ っ た 。 そ こ で 、 ア ズ キ 切 離 葉 お よ び 胚 軸 を 用 い た 接 種 法 の 検 討 を お こ な っ た 。 そ の 結 果 、 両 組 織 に お け る 典 型 的 な 罹 病 性 の 反 応 は 、 接 種 部 と そ の 周 囲 に 拡 大 し た 褐 色 ・ 水 浸 状 の 病 斑 の 形 成 、 抵 抗 性 の 反 応 は 、 暗 褐 色 ・ 点 状 の 変 化 ま た は 無 病 徴 と 特 徴 づ け ら れ た 。 従 来 用 い ら れ て い る
3
っ の 判 別 品 種 (「 エリ モシ ョウ ズ」 、 「寿 小豆 」、 「し ゅま り」 )の 齢の 異ぬ る組 織に、3
レー ス ( レ ー ス1
、3
、4
) を そ れ ぞ れ 接 種 し た と こ ろ 、 接 種 に 対 す る 反 応 は 齢 の 影 響 を 受 け る こ と が 明 ら か に な っ た 。 若 齢 の 組 織 で は 、 抵 抗 性 の 品 種 に お い て も 罹 病 性 型 の 反 応 を 示 す も の が あ り 、 齢 が 増 す に 伴 っ て 、 罹 病 性 品 種 で も 抵 抗 性 型 の 反 応 を 示 す 組 織 の 割 合 が 増 加 し た 。 最 も 明 確 に 罹 病 性 / 抵 抗 性 の 反 応 が 区 別 さ れ た の は 、 展 開 後10
日 の 初 生 葉 の 切 離 葉 、 お よ ぴ 発 芽 後6
日 の 胚 軸 を 用 い た と き で あ っ た 。 そ こ で 、 以 降 の 抵 抗 性 機 構 に 関 す る 試 験 に は 発 芽 後6
日 の 胚 軸への接種法 を用いることとした。2
.切離葉または胚軸接種に対する圃場抵 抗性選抜系統の反応圃 場 抵 抗 性 を 有 す る と さ れ る 選 抜 系 統 「
Acc282
」 、「Acc558
」 、「Acc1142
」 、「
Acc1398
」 を 用 い て 、 切 離 葉 へ の 遊 走 子 接 種 、 胚 軸 へ の 有 傷 接 種 を お こ ぬ い 、―1233→
そ の 反 応 を レ ー ス 特 異 的 抵 抗 性 韜 よ ぴ 罹 病 性 品 種 と 比 較 し た 。 切 離 葉 へ の 接 種 に 対 し 、 「Acc1398」 は 全 て の 切 離 葉 が 抵 抗 性 型 の 反 応 を 示 し 、 レ ー ス 特 異 的 抵 抗 性 品 種 「 し ゆ ま り 」 と同 様 の 反応 で あ った 。 「Acc558」 、 「Acc1142」 は、 罹 病 性 品 種 「 エ リ モ シ ョ ウ ズ 」 よ り 、 抵 抗 性 型 の 反 応 を 示 す 葉 の 割 合 が 高 か っ た 。 胚 軸 へ の 接 種 に 対 し て 、「Acc1398」 、 「Acc558」 は 、 罹病 性 品 種「 エ リ モシ ョ ウ ズ 」 よ り 有 意 に 低 い 病 斑形 成 程 度を 示 し たが 、 「Acc282」 、 「Acc1142」 の病 斑 形 成 は 「 エ リ モ シ ョ ウ ズ 」 と 同 程 度 で あ っ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 切 離 葉 、 胚 軸 を 用 い た 接 種 法 に よ り 、 完 全 で は な い も の の 圃 場 抵 抗 性 の 評 価 が で き る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 ま た 、 同 一 の 系 統 で も 、 遊 走 子 接 種 に 対 す る 切 離 葉 の 反 応 と 、 有 傷 接 種 に 対 す る 胚 軸 の 反 応 に 違 い が あ る も の が あ っ た こ と か ら 、 供 試 し た 系 統の圃場抵抗性には、異なる機構のものが存在すると考えられた。
3.アズキ茎疫病菌の接種に対し胚軸中に産生されるフラポノイド
本 病 菌 を 有 傷 接 種 し た ア ズ キ 胚 軸 中 よ り9種 の フ ラ ポ ノ イ ド 、coumestrol、 daidzein、dalbergioidin、genistein、2 ‑hydroxygenistein、kievitone、lupinalbinA、 naringenin、phaseolが 同 定さ れ た 。中 で も 、kievitoneとdalbergioidinは、発 芽後 6、11日 の 胚 軸 に お い て 、 罹 病 性 の 品 種 よ り 、 抵 抗 性 の 品 種 で 高 濃 度 に 蓄 積し て いた(kievitone: 1.8―3.6 mg/g dry weight,dalbergioidin: 0.6−1.6 mg/g(lryweight)。更 に 、 本 病 菌 被 の う 胞 子 の 発 芽 に 対 し て 、bevitoneは 強 い 抑 制 効 果 を 、 ま た dalbergioidinも わ ず か な 抑 制 効 果 を 有 す る こ と が 示 さ れ た 。 以 上 の こ と か ら 、 姑evitoneとdalbergioidinは 本 病菌 に 対 する ア ズ キの フ ァ イ トア レ キ シンで あると 結 論 づ け ら れ た 。 そ れ 以 外 の7種 の フ ラ ポ ノ イ ド は 、 フ ァ イ ト ア レ キ シ ン の 前 駆 体 と 考 え ら れ て い る も の で あ る が 、 そ の 蓄 積 量 は 胚 軸 の 罹 病 性 、 抵 抗 性 に 関 わらず僅かであった(く015mg/gdryweigり。
4.圃場抵抗性系統の胚軸に韜けるファイトアレキシン産生
圃 場 抵 抗 性 選 抜 系 統4系 統 を 用 い て 、 接 種 に 対 す る フ ァ イ ト ア レ キ シ ン 産 生 にっいて調査した。「Acc282」、「Acc558」、「AcC1142」では、接種に対するkievitone の 有 意 な 蓄 積 は 認 め ら れ ず 、 こ れ ら の 系 統 の 圃 場 抵 抗 性 へ は フ ァ イ ト ア レ キ シ ン は 関 与 し な い と 考 え ら れ た 。 一 方 で 、 「Acc1398」 は 、 胚 軸 有 傷 接 種 に 対 し 、 高 濃 度 のbevitoneを 蓄 積し た (1.6mg/gdびweight) 。 更に 「Acc1398」 と 「エ リ モ シ ョ ウ ズ 」 を 交 配 し て 得 ら れ た 後 代 のR系 統 の 、 胚 軸 接 種 に 対 す るkievitone 産 生 量 は 、 圃 場 試 験 に お け る 茎 疫 病 発 病 度 と 負 の 相 関 を 示 し た こ と か ら 、
「Acc1398」 の 圃 場 抵 抗 性 に は 、 供 試 し た 他 の 系 統 と は 異 な っ て 、 フ ァ イ ト ア レ キシンが何らかの形で関与しているものと示唆された。
5.罹病性/抵抗性反応時の胚軸における遺伝子発現の比較
本 病 菌 を 有 傷 接 種 し た 「 し ゅ ま り 」 の 胚 軸 に お け る 、 接 種24時 間 後 の 遺 伝 子 発 現 を 、long―SAGE(SerialAnalySiSOfGeneEXpreSSion) 法 によ り 比 較 した 。 そ の 結 果 、 計5480のSAGEタ グ (21bp) の 塩 基 配 列 情 報 が 得 ら れ た 。 そ の う ち で 、 罹 病 性 / 抵 抗 性 間 で 差 の あ る タ グ が43見 っ か り 、 デ ー タ ベ ー ス 検 索 の 結 果 、 そ れ ら の タ グ の 多 く は 、 マ メ 科 植 物 の 断 片 的 発 現 遺 伝 子 配 列 (EST) と 相 同 性を 示 す も の で あ っ た 。 抵 抗 性反 応 を 示し た 胚 軸か ら は 、Phenylalanineammonialyase、
Protein kinase
、Hypersensitive reaction‑like lesion inducerなどの抵抗性反応に関連 す る と 推 定 さ れ る タ グ が 、 罹 病 性 反 応 を 示 し た 胚 軸 か ら は 、Adenine
diphosphate
−ribosyltransferase
たどの感染時特異的と推定されるタグが高頻度で見 い だ さ れ 、 罹 病 性 / 抵 抗 性 反 応 に 特 異 的 な 遺 伝 子 発 現 が 確 認 さ れ た 。学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
アズキ茎疫病に対するアズキの抵抗性機構に関する研究
本論文 は図15,表
12
,図版2
を 含み,8章か らなる総 頁数126
の論 文であり ,別 に参考論文1
編が添えられている.アズキ茎疫病は.
Phytophthora vignaef
.sp. adzukicolaによって引き起こされる 土壌伝染性病害である,本病害の抑制に憾,圃場の排水対策を基本とする栽培管理法や,薬剤利用の有効性が示されてはいるが完全な防除は難しく,抵抗性品種の利用が重要と される,しかしながら,近年,従来のレースに対して抵抗性を有する品種が育成されて も,その品種を侵す新レースの出現が起きており,レ―ス特異的抵抗性に依存しない圃 場抵抗性品種の育成が求められている,本研究は,このような品種の育成,選抜に利用 が期待できる,宿主のアズキー病原のアズキ茎疫病菌の相互作用および抵抗性機構の解 明を目的として行われたものである.
1
.アズキ切離葉および胚軸を用いた接種法の確立P
. vignaef.sp. adzu航〇′aに対するアズキの抵抗性機構を検討するため,アズキ の罹病性/抵抗性の反応が明確に起こるよう切離葉およぴ胚軸を用いた接種方法・条 件を確立した.従来より用いられているアズキ判別品種の本病原菌の接種に対する反 応は,アズキの齢の影響を受けることが明らかになった.若齢の組織では,抵抗性の 品種においても罹病性型の反応を示すものがある反面,齢が増すに伴って,罹病性品 種でも抵抗性型の反応を示す組織の割合が増加した.最も明確に罹病性/抵抗性の反 応が区別されたのは,展開後10
日の初生葉の切離葉,および発芽後6日の胚軸を用い たときであった.2
.切離葉または胚軸接種による圃場抵抗性選抜系統の選抜圃場抵抗性を有するとされる各種選抜系統の切離葉への遊走子接種,同じく胚軸への 有傷接種を行い,その反応をレース特異的抵抗性品種および罹病性品種と比較した,切 離葉への接種に対しレ―ス特異的抵抗性品種と同等の高い抵抗性,あるいは胚軸への接 種に対して罹病性品種より有意に低い病斑形成程度を示す系統が見出された.すなわち,
切離葉,胚軸を用いた接種法により,圃場抵抗性の評価ができる可能性が示唆された,
また,同一の系統でも,遊走子接種に対する切離葉の反応と,有傷接種に対する胚軸の
−
1236
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反応が異なるものがあったこ とから,供試した系統の圃場抵抗性には,さらに異なる 機 構が関わっているものと考えられた.
3
. ア ズ キ 茎 疫 病 菌 の 接 種 に 対 し 胚 軸 中 に 産 生 さ れ る フ ラ ポ ノ イ ド本 病菌 を有 傷接 種し たア ズ キ胚 軸中 より
9
種 のフ ラポ ノ イド が同 定さ れ, その中 のKievitone
とDalbergioidin
は , 発 芽 後6
お よ ぴ11
日 の胚 軸に おい て, 罹病 性の 品種 より抵抗性の品種で高濃度に蓄積していた.さらに,本病菌被のう胞子の発芽に対して・Kievitone
は強 い抑 制効 果を ,ま たDalbergioidinも 抑制効果を有することが示され た こと から ,KievitoneとDalbergioidin
は本 病菌 に対 するアズキのフんイトアレキシ ン であ ると 結諭 づけ られ た, それ以外の7種のフラポノイドは,ファイトアレキシンの 前 駆体と考えられているもので あるが,その蓄積量は胚軸の罹病性,抵抗性に関わらず 僅 かであった.4
‐圃場抵抗性 系統の胚軸におけるフんイ卜アレキシン産生圃 場抵 抗性 選抜 系統 の中 に,本菌の胚軸有傷接種に対 し高濃度のKievitoneを蓄積 す る も の が 認 め ら れ た . この 系統 と罹 病性 品種 の交 配 後代 系統 の, 胚軸 接種 に対 する
Kievitone
産生 量は ,こ れら 後代の圃場試験における茎疫病発病度と負の相関を示し た ことから,この系統の圃場抵 抗性には,ファイトアレキシン産生能が関与しているこ と が示唆された.5
,罹病性/抵 抗性反応時の胚軸における遺伝子発現の比較接 種24時間 後の 罹病 性お よ び抵 抗性 反応 時の 胚軸 における遺伝子発現を比較し, 計
5480
の 塩 基 配 列 情 報 が 得ら れた ,そ のう ち, 罹病 性 およ び抵 抗性 間で 差の ある のは43
で あり ,デ ータ ベ― ス検 索 の結 果, それ らの 多く は,マメ科植物の断片的発現遺 伝 子配列と相同性を示すもので あった.抵抗性反応を示した胚軸からは,ファイ卜アレ キ シン 合成 に関 与す るPhenylalanine ammonia lyaseなど 抵 抗性 反応 関連 遺伝 子の塩 基 配列が見いだされるなど,罹病性および抵抗性反応に特異的な遺伝子発現が確認された,以上の成果は,アズキのア ズキ茎疫病菌に対する抵抗性にファイトアレキシンが関 与 することを明らかにし,この 抵抗性機構を指標とすることでアズキの病害抵抗性育種 へ の利 用可 能性 を示 すも ので あ り, 学術 上, 応用 上高 く評価できる,よって審査員一 同 は , 原 田 玄 輝 が 博 士 ( 農学 )の 学位 を受 ける に十 分 な資 格を 有す るも のと 認め た,
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