博 士 ( 農 学 ) 野 原 正 人
学 位 論 文 題 名
低 温 域 に お け る 木 材 の 乾 燥 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
木材を乾燥するには、温度、湿度および室内空気の循環などが人為的に 制御できる人工乾燥がー般的である。
木材の乾燥速度は温度が高いほど大きくなるため、高温乾燥による乾 燥時間の短縮効果は大きい。しかし、高温を用いるために乾燥経費が高 くなるとともに,乾燥による損傷が発生する危険も大きくなる。これに対 して、天然乾燥の場合は低温で乾燥するため、乾燥による損傷も少なく、
また、自然の条件で乾燥することにより乾燥経費も非常に少なくなる。
したがって、乾燥初期の高含水率域のみを天然乾燥にゆだね、乾燥速度 が低下する含水率30%前後から人工乾燥に移行する方法が多く用いられ ている。
しかし、天然乾燥の場合は乾燥時間が長くなると同時に、気象条件に より乾燥速度が異なり計画的な乾燥材の供給ができない、あるいは目的 と す る 含水率 まで乾 燥す ること ができ ないな どの 問題点 も多い 。 本研究は、こうした天然乾燥における乾燥時間に主眼を置き、適正な 天然乾燥時間の決定と、天然乾燥に人為的な手段を加えた促進方法につ いて検討したものである。さらに、近年針葉樹材の乾燥に用いられるこ とが多い除湿式乾燥装置について、その装置の特性や、.利用適性につい ても検討している。
第1章は緒言である。
第2章は、天然乾燥の歴史的な考察と既往の研究の概要、および除湿 乾 燥 の 導入経 過やそ の問 題点と 研究の 概要に つい て述べ ている 。 第3章は、天然乾燥に大きな影響を及ぼす、生材含水率あるいは立木 含 水 率 の 樹 幹 内 変 動 や 季 節 変 化 等 に 検 討 を 加 え て い る 。 ごくおおまかにみて丸太の生材含水率はスギで200%、ヒノキで150%、
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プナ・ナラで80%である。
第4章では、広葉樹板材の天然乾燥所要時間を知るために、裏日本気 候区といえる高山市と表日本気候区である美濃市において、棧積みをし ない一枚板の状態での月別乾燥日数を求めた。また、一枚板と桟積みし たときの乾燥時間の比を求めた。
ブナ材の場合、天然乾燥による仕上げ含水率1ま、裏日本側では40〜25
%、表日本側では25〜20%とすることができる。こうした含水率までの 乾燥所要時間は、桟積み状態で裏日本側の場合40mm板で夏は2ケ月、春
・秋は3ケ月、冬゛は5ケ月が必要であり、20nm板では夏1ケ月、春・秋 は2ケ月、冬tま3ケ月が必要である。表日本側では、40mm板が春・夏・
秋で1ケ月、冬が2ケ月、20 mm板で漣年間を通じて1ケ月が適正な天 然乾燥日数である。
第5章では、主として建築用針葉樹材の天然乾燥について検討し、葉 枯 ら し あ る い は 丸 太 材 や 製 材 品 の 乾 燥 速 度 を 求 め た 。 針葉樹の場合は、生材含水率が高く、しかも辺心材の含水率に大きな 差があるが、葉枯らしにより大幅に含水率を下げるとともに、辺心材の 含水率差を少なくすることができる。
ヒノキのように、心材の含水率が低く比較的乾燥の容易な樹種はあま り葉枯らしも必要ではないが、スギの黒心材のように辺・心材とも含水 率の高い材は、たとえ短時間であっても葉枯らしを実施することが望ま しい。葉枯らしの実施期間は3ケ月程度が妥当であり、スギでは含水率 80% 程 度 ( 重 量 減 少 40% ) に 落 と す こ と が で き る 。 丸太材の場合は、皮付きのままではほとんど乾燥しない。皮を剥ぐこ とにより製材品に近い乾燥速度を期待することができるため、工場土場 に 椪 積 み す る 場 合 は 可 能 な 限 り 、 剥 皮 す る こ と か 望 ま し い 。 第6章では、天然乾燥の促進方法について種々検討し、送風の効果、
簡易加熱の効果および太陽熱の利用にっいて、その乾燥時間あるいは経 済効果について述べている。
例えぱ、天然乾燥の桟積みに強制的に送風することにより乾燥時間を 2/3以下に短縮することができる。この方法は最も簡易で促進効果が 大きい。桟積みの側面に送風機を設置して強制的に風を送るだけの簡易 な方法であるが、乾燥むらが少なくなるために乾燥時間が短縮されると と も に 、 仕 上 げ 含 水 率 を も 若 干 低 く す る こ と が で き る 。
天然乾燥の桟積みに電熱線を配置して加熱する方法は、棧積み中央部 の乾燥が速く、乾燥むらが少なくなる効果が大きい。太陽熱利用乾燥と 併 用 す る こ と に よ り 小 規 模 の 仕 上 げ 乾 燥 に も 利 用 で き る 。 太陽熱利用乾燥は、太陽熱の利用のみでは効果が小さいが、送風・加 熱等の方法と組み合わせることにより大きな利用効果を期待することが できる。しかし、あまり設備投資を大きくすれば通常の人工乾燥装置と 変わらないことになる。
第7章では、除湿式乾燥装置の性能やその利用適性についてまとめて いる。
除湿乾燥は、ヒートポンプの利用により省エネルギー効果の大きい乾 燥方法であると同時に、低温のためヒノキ柱材の乾燥には適した方法で ある。広葉樹の乾燥は乾燥末期の加熱、排気操作を組み込めば可能であ るが断熱効果を高くしなけれぱならない。
第8章は、総合考察である。広葉樹の場合は生材から製材、天然乾燥、
人工乾燥という段階を踏むぺきであり、また天然乾燥も人為的な促進方 法により乾燥時間を短縮すべきである。針葉樹はスギとヒノキにわけて 考えることが必要であり、スギは伐倒後葉枯らしにより初期含水率をさ げてから製材し、柱材は蒸気式加熱乾燥で、板材は送風による天然乾燥 あるいは太陽熱利用乾燥でも仕上げ乾燥が可能である。ヒノキは生材の まま製材し、柱材、板材とも除湿乾燥あるいは太陽熱利用乾燥で仕上げ ることが望しい。
以上、本研究は天然乾燥を主とするいわゆる低温域における木材の乾 燥 に つ い て 、 そ の 乾 燥 速 度 の 面 か ら 検 討 し た も の で あ る 。 こうした、低温域における木材の乾燥は、いままで断片的な研究はあ ってもこのように系統だった研究はほとんどなく、しかも、天然乾燥の 促進方法と樹種あるいは材種との組み合わせや、天然乾燥から人工乾燥 に 移行す る時期 を経 済的に 検討し たのは 本研究 が初 めてである。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
低温域に おける 木材の乾燥に関する研究
本 論 文 は 図 131、 表 33、 引 用 文 献 104、 総 ぺ ー ジ 数 277、 8章 か ら 成 る 和 文 論 文 で 、 他 に 参 考 論 文 31編 が 提 出 さ れ て い る 。 木 材 を 乾 燥 す る に は 、 温 度 、 湿 度 、 及 び 室 内 空 気 の 循 環 な ど が 人 為 的 に 制 御 で き る 人 工 乾 燥 が 一 般 的 で あ る 。 木 材 の 乾 燥 速 度 は 、 温 度 が 高 い ほ ど 大 き く な る た め 高 温 乾 燥 に よ る 乾 燥 時 間 の 短 縮 効 果 は 大 き い が 、 高 温 を 用 い る た め に 乾 燥 経 費 が 高 く な る と と も に 乾 燥 に よ る 損 傷 が 発 生 す る 危 険 も 大 き く な る 。 こ れ に 対 して 、 天然 乾 燥 の場 合 | ま低 温 で乾 燥 す るた め に、 乾 燥 によ る 損 傷 も 少な く 、ま た 自 然の 条 件で 乾燥す るために 乾燥経費 も・非常 に少なく なる。
そ の た め 乾 燥 初 期 の 高 含 水 率 域 の み を 天 然 乾 燥 に ゆ だ ね 、 乾 燥 速 度 が 低 下 す る 含 水 率30% 前 後 か ら 人 工 乾 燥 に 移 行 す る 方 法 が 多 く 用 い ら れ て い る 。 し か し 天 然 乾 燥 の 場 合 は 、 乾 燥 時 間 が 長 く な る と 同 時 に 、 気 象 条 件 に よ り 乾 燥 速 度 が 異 な る た め 計 画 的 な 乾 燥 材 の 供 給 が で き な い と か 、 あ る い は 目 的 と す る 含 水 率 ま で 乾 燥 す る こ と が で き な い な ど の 問 題 点 も 多 い 。 本 論 文 は 、 こ う し た 天 然 乾 燥 に お け る 乾 燥 時 間 に 主 眼 を お き 、 適 切 な 乾 燥 時 間 の 決 定 と 、 天 然 乾 燥 に 人 為 的 な 手 段 を 加 え た 促 進 方 法 に つ い て 検 討 し た も の で あ る 。 さ ら に 近 年 針 葉 樹 材 の 乾 燥 に 用 い ら れ る こ と が 多 い 除 湿 乾 燥 装 置 に つ い て 、 そ の 装 置 の 特 性 や 、 利 用 適 性 に っ い て も 検 討 し て い る 。 研 究 成 果 の 主な 内 容は 次 の とお り であ る 。
広 藁 樹 材 の 天 然 乾 燥 所 要 時 間 を 知 る た め 、 裏 日 本 気 候 の 高 山 市 と 、 表 日 本 気 候 の 美 濃 市 に お い て 、 桟 積 み を し な い 一 枚 板 の 状 憩 で の 月 別 乾 燥 日 数 を 求 め た 。 ま た 一 枚 板 と 桟 積 み し た と き の 乾 燥 時 間 の 比 を 求 め 、 桟 積 み 材 は 一 枚 板 の1.6倍乾 燥 時 間が 必 要 であ る こと を 示 した 。
ブ ナ 材 の 場 合 、 裏 日 本 側 で は 天 然 乾 燥 に よ る 仕 上 げ 含 水 率 は40〜25% 、 表 日 本 側 で は25〜20% と す る こ と が で き る 。 こ う し た 含 水 率 ま で の 乾 燥 所 要 時 間 ( 桟 積 み ) は 、 裏 日 本 側 の 場 合 、40mm板 で 夏 は2ケ 月 、 春 ・ 秋 は 3ケ 月 、 冬 は5ケ 月 が 必 要 で あ り 、20 mm板 で は 夏 は1ケ 月 、 春 ・ 秋 は ・2ケ
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月、 冬 は3ケ 月 が 必 要 で あ る 。表 日 本 側 で は、40皿m板が 春・ 夏・ 秋で1ケ 月、 冬 が2ケ月 、20 mrn板 では 年間 を通じ て1ケ月 が天 然乾 燥日 数であ るこ とを示した。
生材 含水 率が 高く、辺・心材の含水率差の大きぃ針葉樹では、伐倒後ある 期間放 置す る葉 枯らしにより、大幅に含水率を下げるとともに、辺・心材の 含水率 差を 少な くする こと を明 らか にした 。藁 枯らしの期間は3ケ月程度が 妥当 で あ り 、 ス ギ で は 含 水 率80% ( 重 量 減 少40% ) に 落 とす こ と が で き る。
林内 土場 にお ける丸太材の桟積みの場合、皮付きではほとんど乾燥しない が、剥 皮で は直 線的に減少すること、また工場土堝での皮付き・剥皮材の乾 燥速度 を比 較し 、剥皮丸太の乾燥速度は非常に大きく、仕上がり含水率も低 くなることを示した。また針葉樹製材品の季節男|J乾燥速度を検討し、適正な 乾燥日数を明らかにしている。
人為 的手 段に よる天然乾燥の促進については、強制送風、簡易加熱、太陽 熱利用 につ いて 検討している。桟積み材に強制的に送風することにより、乾 燥む ら の 減少 、仕 上が り含水 率の 均一 化を もたら し、 乾燥 時間 を1/3に短 縮する こと が出 来ることを示した。電熱線による簡易加熱は、桟積み中央部 による 乾燥 が早 く、加熱効果は気温が低く、風が少なく、高含水率のときが 高い 。 こ の状 態で 乾燥 時間を1/4に短 縮す ること が出 来る 。ま た太陽 熱利 用乾燥jま、太陽熱の利用のみでは効果が小さいが、送風・加熱等と組み合わ せ る こ と に よ り 大 き な 効 果 を 期 待 す る こ と が 出 来 る こ と を 示 し た 。 除湿 乾燥 はヒ ートポンプを用いているため、消費エネルギーは少ない省エ ネル ギ ― 型 で あ る か 、 乾 燥 時間 は 加 熱 乾 燥 の1.45倍 で あ り、 乾 燥 速 度 は 1/2以 下に 落ち ることを示した。生材含水率か小さく、低温のため乾燥によ る 変 色 が 少 な く な る ヒ ノ キ 材 で 適 す る こ と を 示 す し た 。 以上 のよ うに いわゆる低温域における乾燥について、主としてその乾燥速 度から検討したか、広葉樹と針藁樹、また針葉樹でもスギとヒノキにわけて、
それぞれ考えるべきであると、結諭している。
低温 域に おけ る木材の乾燥についての系統だった研究絃殆どなく、しかも 天然乾燥の促進方法と樹種あるいjま材種との組み合わせや、天然乾燥から人 工乾燥 に移 行す る時期を経済的に検討したのは、本研究が初めてであり、実 用面に貢献するところ大で、高く評価される。
よっ て審 査員 一同は、別に行った学力確認試験の結果と合わせて、本論文 の提出者野原正人は博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格があるlもの と認定した。