博 士 ( 医 学 ) ワ タ ナ オ ー ワ ニ ッ ト
学位論文題名
Epidemiological Studies of Human Immunodeficiency Virus Type1 SubtypeEin Heterosexually InfeCted IndividualsinThailand
( 夕 イ に お い て 異 性 間 接 触 感 染 者 に 蔓 延 し て い る ヒ ト 免 疫 不 全 ウ イ ル ス1型 ― サ ブ タ イ プEの 疫 学 的 研 究 )
学位論文内容の要旨
【背景と目的]
1980年 代 初 期 、 北 米 、 西 ヨ ー ロ ッ バ お よ び ア フ リ カ で 後 天 性 免 疫 不 全 症 候 群(acquired immunodeficiency syndrome,AIDS)の流 行が 拡大 して いる ころ、夕イでは ヒト免疫不全ウイル ス1型(human immunodeficiency virus typel,HIV‑1)の 感染 およ びAIDSの ケー ス は稀 であ っ た 。しかし、バンコクの薬物濫用者(injecting drug users,IDUs)の間では、'87年に検出されな か っ た 抗 体 保 有 率 が 、 |88年 に は43% と 爆 発 的 な 上 昇 が 見 ら れ 突 然 の 流 行 が 始 ま っ た 。 HIV‑1は、エンベ口―プ(enめの遺伝子配列の多型性から、AからJのサプタ イプに分類される。
夕 イ で 流 行 し て い るHIV‑1の サ ブ タ イ プ はE型 とB型 で あ る が 、 夕 イ のE型 はA型 と 未 同 定 の E型 親株 のキ メラ 構造 であ り、 夕 イのB型 は、 北米 やヨ 一口 ッ パのB型 とは 系統 樹解 析上 で異な る ク ラス夕一を形成 するB.型として知られてい る。このように、HIV‑1は容 易に遺伝子変異がお き る ため、地域的、 経時的にウイルスの特徴および疾病の発症経過に違いが 認められる。遺伝子 変 異 の動向やハイリ スク集団内のウイルスの特徴の把握は、拡大予防やワク チン開発に重要な意 義 を持つ。
本 研究 では 、.91年 から6年 間 にわたるタイの各県のハイリスクグループ における血清疫学、
分 子 疫 学 調 査 を 行 な い 、E型 のenv領域 のV3ルー プの 相同 性の 検討 、ス 口一 ウイ ル スと して 潜 伏 状 態に ある と考 えら れ、 精神 疾患 と関 連性 が示 唆さ れて いるボルナ病ウ イルス(BDV)のHIV‑1 感 染 者に おけ る抗 体保 有率 の検 討、 またE型2株の プロ ウイ ルスの全塩基配 列を決め、その遺伝 子 解析からタイE型HIVの特徴を検討した。
[材料と方法]
1) 血 液 検 体 と そ の ス ク リ ー ニ ン グ 法 :'91年 か ら .97年 に タイ13県 にお ける 、性 感染 症 (sexually transmitted diseases,STD)患者、IDUs、売春婦(prostitutes,PROs)、妊婦(pre gnant women,PREs)、 献血 者、 無症 候性 キャ リア(asymptomatic carriers,ACs)、AIDS患者の各集団 の 延べ72,0359名より採 取した血液もしくは血漿を用いた。抗HIV‑1抗体のスクリ―ニングは、
ELISA法も しく はゲ ル粒子凝集反応法を用いた。陽性 検体はウェスタンブ口ット法もしくは螢光 抗体法により確認した。
2) ELISAに よ るHIV‑1血 清 型 判 定 :E、B| 、B各 型 のgp120領域 の主 要中 和ド メイ ンの 合
成ベプチドを抗原としたELISAを用いた。
3) HIV‑1遺 伝 子 型 の 同 定 と 解 析 : 感 染 者 末 梢 血 単 核 球DNAから 、e且y遺 伝子 内のV3領 域 をポリメラーゼチェインリアクション(Polymerase Chain Reaction,PCR)法により増幅後、塩基 配列を決定し、系統樹解析と相同性の検討を行なっ た。
4) 抗BDV‑p24抗 体 検 索 :BDV p24‑GST融 合 蛋 白 を 抗 原 と し たELISAを 用 い た 。 5) プ ロ ウ イ ル スDNAの 全 塩 基 配 列 の 決 定 と 解 析 :STDのACsか ら 分 離 さ れ たE型2株 (95TNIH22,95TNIH47)の 感 染 末 梢 血 単 核 球DNAか らLong‑PCR法 に よ り 全 プ ロ ウ イ ル ス 遺 伝 子 を 増 幅 し 、 ク 口 ― 二 ン グ 後 、 塩 基配 列を 決定 した 。解 析はGenetyx7.0お よびPHYLIP3.572 パッケージのソフトウェアーを用いた。
[結果]
1) .91年 か ら .93年 の タ イ に お け るHIV‑1抗 体 保 有 率 お よ び 遺 伝 子 型 : 夕 イ の4県 に お けるハイリスク集団5,041検体および献血者66,778検体のHIV‑1抗体保有率はSTD患者;14.8%、
PROs:38.6%、IDUs;35、2% 、献 血者 集団 ;2.1%で あった。そのうち63検体のV3領域の塩基 配 列の 解析 から 、E型 とB.型 の2型 に分 類さ れ、 その 系統 樹解 析よ り、 夕イE型は アフリカE型 と 同じ クラ ス夕 一内 であ るが 、独 自の 集団 を形 成 する こと が判 明し た。29名 のSTD患者の86% はE型 、4% はB型 で あ っ た 。29名 のIDUsで は 、24% がE型 、76% がBt型 で あ っ た 。E型 は 性 的接触感染者に、B|型はIDUs感染者に多く見られた 。
2) 夕 イ HIV‑1感 染 者 に お け るBDV抗 体 保 有 率 :ACs60名 の 抗BDV‑p24抗 体 保 有 率 は 15% 、AIDS患 者67名 で は17.9% で あ っ た 。 リ スク 集団 内で は、STD患 者21名で38% と高 率で あ っ た 。PROs12名 で は8.3% 、 し か し 、PREs17名、IDUsl0名 では 抗体 保有 者は 認め られ なか っ た 。Mann‑WhitneyU検 定 か らSTD集 団 は 、PROsお よ びIDUs集 団 に 比 ぺ 有 意 に 高 いBDV 抗 体 保 有 率 で あ っ た 。BDV‑p24抗 体 保 有 者 のHIV‑1の血 清型 は、STD患 者で は95.2% 、PROsで 83.3%、PREsで88.2%がE型であった。
3) .95年 か ら .97年 のHIV‑1遺 伝 子 型 と そ の 相 同 性 :STD患 者79名 、IDUs14名 のV3領 域 の塩 基配 列の 相同 性検 索、 系統 樹解 析を 行な っ た。STD集団のE型は、株間の差 異が高度であ るのに対し、IDUsの集団 では比較的小さなものであった。
4) 夕 イHIV‑1分 離2株 の 全 塩 基 配 列 解 析 :V3領 域 の ア ミ ノ 酸 配 列 は 、 |91年 のタ イE株と 大 き な 差 異 が み ら れ 、 特 に 、 こ の2株 のtetrameric tipのGPAR、GPGKはこ れま での 報告 にな い もの であ った 。プ 口ウ イル ス全 遺伝 子配 列解 析 から 、gag. pol領 域はA型 に 近縁 であるが、
L7R、env領 域 はE型 独 自 の ク ラ ス 夕 一 を 形 成 し た 。L7R領 域 は 、NF‑kBサ イ ト がB型 に 比 べ 1ケ 所 と 少 な く 、TATAAモ チ ー フ もTAAAAと 不 完 全 な 配 列 で あ り 、HIV‑1の 転 写 に 重 要 なTar 配列も1塩基欠落のため不安定な構造をとることが予 想された。
[考察]
本 研 究 よ り 、E型 は性 的接 触感 染 者に 多く 、B型はIDUsに多 い 特徴 が見 いだ され た。 これ は E型が 性的 接触 によ っ て伝 播し易いウイルス学的特性を示唆し、粘 膜免疫誘導の重要性が考えら れ る。 全塩 基配 列の 結果 から も、LTRの 転写 効率 に重 要な 領域 がB型 と異 なる ことは、E型に特 徴 的 な 臨 床 経 過 が推 測さ れ、E型 はB型 よりAIDSの進 行が 遠い と され る報 告と の関 連が 興味 深 い 。 同 様 にE型 感染 は、 より 強い 免 疫抑 制を 宿主 に誘 導し 潜伏 状態BDVの 再活 性化 を促 すこ と で抗BDV抗体の上昇の結果がみられた。
V3領域は 中和抗体誘導部位として知られ、ワクチン開発では大き く注目されている。.95年か ら |97年の 結果 からE型のV3領 域の 差異 の拡 大度 は、B型のそれよ り大きく、tetrameric tipは 報告のない配列が出現し ていた。このことは、現時点も差異の幅が拡大している可能性を示唆し、
今 後 、 幅 広 い ワ ク チ ン の 設 計 と 継 続 的 な 蔓 延 株 の 解 析 が 必 要 と 考 え ら れ る 。
[結語]
こ れま での 研究 によ り明 らかに され たB 型と は異 なるタイのHICV 感染状況であった。
夕イE 型感染は性的接触感染者に多かった。STD 患者のHIV 感染者は、PROs およびIDUs 集
団に比ベBDV 抗体保有率は有意に高かった。|95 年から.97 年のHIVE 型のV3 領域の変異度は
高度であった。夕イE 型のL7R 領域は、B 型と異なっていた。これらの結果は、感染拡大予防
やワクチン開発に向けて的確な指針になるものと考える。
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Epidemiological Studies of Human Immunodeficiency Virus Type1 SubtypeEin Heterosexually Infected Individuals in Thailand
( 夕 イ に お い て 異 性 間 接 触 感 染 者 に 蔓 延 し て い る ヒ ト 免疫 不 全 ウイ ル ス1型― サ ブ タイ プEの 疫学 的研究 )
1980年代 初期、北 米、西ヨー 口ッバお よびアフ リカでAIDSの 流行が拡大しているころ、
夕イ ではヒト 免疫不全ウ イルス1型(HIV‑1)の感染お よびAIDSのケ ー・スは稀であった。し かし、バンコクの薬物濫用者(IDUs)の間では、 87年に検出されなかった抗体保有率が、 88 年には43%と爆発的な上昇が見られ、突然の流行が始まった。
HIV‑1は、 エ ン ベ口 ― プ(env)の遺 伝 子配列の 多型性か ら、AからJのサブタイ プに分類 さ れ る 。 夕 イ で 流 行 し て い るHIV‑1の サ ブ タ イ プ はE型とB型 で ある が 、 夕イ のE型 はA 型 と 未同 定 のE型親 株 の キメ ラ 構造 で あ り、 夕 イのB型 は 、 北米 や ヨ一口 ッパのB型 とは 系統樹解析上で異なるクラス夕―を形成するB 型として知られている。このように、HIV−1 は容 易に遺伝 子変異が起 きるため 、地域的 、経時的 にウイル スの特徴および疾病の発症経 過に違いが認められる。
本研 究では、 91年から6年 間にわた るタイの各県のハイリスクグループにおける血清疫 学 、 分子 疫 学調 査 を 行な い 、E型のenv領域のV3ル ープの相 同性の検討 、ス口― ウイルス とし て潜伏状 態にあると 考えられ 、精神疾 患と関連 性が示唆 されているボルナ病ウイルス (BDV)のHIV−1感染 者 に おけ る 抗体 保 有 率の 検 討、 ま たE型2株 のプ 口ウイ ルスの全 塩基 配列を決め、その遺伝子解析からタイE型HIVの特徴を検討した。
91〜 93年のタイにおけるHIV‑1抗体保有率および遺伝子型の検討よりタイの4県におけ る ハ イリ ス ク集 団5,041検体 お よび 献 血 者66,778検 体 のHIV―1抗 体保有率 は性感染 症 (STD)患者;14. 8uit、売春婦(PROs);38.60h、IDUs;35.2U/o、献血者集団;2.1%であった。
そ の う ち63検 体 のV3領 域 の 塩 基 配 列 の 解 析 か ら、STD患 者で はE型 、IDUsで はB 型が