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(1)

博 士 ( 薬 学 ) 佐 野 良 威       r

     学位論文題名

Analyses on physiologic roles of Xll‑like/Mint2 in vivo      (中枢神経系におけるXll‑Iike/Mint2 の生理機能解析)

学位論 文内容の要旨

  Xll‑Iike/Mint2 (XllL)は 、 ア ミ ロ イ ド 前 駆 体 タ ン パ ク 質(APP)に 結 合 す る タ ン パ ク 質 と し て 当 研 究 室 に よ り 単 離 ・ 同 定 さ れ た 。XllLXll/MintlX11L2/Mint3と 遺 伝 子 フ ァ ミ リ ー を 構 成 し 、 こ れ ら はC末 側 に 非 常 に 高 い 相 同 性 を 持 つ 。APPの 代 謝 異 常 に よ り 過 剰 産 生 さ れ る 神 経 毒 性 を 持 っ ア ミ ロ イ ド ロ(Aロ ) はAlzheimer(AD)症 状 の 主 な 起 因 因 子 と 考 え ら れ る 。 培 養 細 胞 を 用 い た 解 析 か ら 、XllLAロ の 過 剰 産 生 を 抑 制 す る こ と が 示 唆 さ れ て い る 。 ま た 、XllL は シ ナ プ ス 可 塑 性 を 制 御 す る 分 子 群 と も 結 合 す る 。 さ ら にADの 特 徴 的 な 病 理 所 見 で あ る 老 人 斑 に お い てXllLの 集 積 が 観 察 さ れ て い る 。 こ れ ら の 成 績 は 、XllLが 加vivoに お い てAPP 謝 お よ び 神 経 可 塑 性 を 調 節 す る 可 能 性 を 示 唆 す る が 、 こ れ ま で に 、 所vivoに お け る 機 能 は 明 ら か に さ れ て い な い 。 本 研 究 は 、 「XllLの 機 能 不 全 がAPP代 謝 調 節 お よ び 神 経 可 塑 性 制 御 機 構 の 破 綻 に 繋 が り 、ADに お け る 認 知 障 害 、 精 神 病 様 症 状 、 ス ト レ ス に 対 す る 過 感 受 性 等 の 症 状 の 一 端 を 担 う 」 と の 仮 説 を 立 て 、 こ れ ら を 検 証 す る 手 段 と し てXllL遺 伝 子 欠 損 変 異 マ ウ ス を 作 製 し 、 vivoに お け る XllLの 生 理 機 能 を 明 ら か に し よ う と す る も の で あ る 。

<XllLの 脳 内 局 在 の 解 析 )XllLXllは 構 造 的 に も 、 ま た 加vitroの 機 能 解 析 か ら も 非 常 に 良 く 似 た 性 質 を 持 つ 。XllLXllは 脳 全 域 に わ た り 分 布 す る が 、 細 胞 レ ベ ル で の 局 在 は 異 な っ て い た 。 記 憶 学 習 の 責 任 領 域 と さ れ る 海 馬 に お い て 、XllLCA3の 錐 体 細 胞 に 高 レ ベ ル に 局 在 が 観 察 さ れ た の に 対 し 、Xllは 主 に 抑 制 性 神 経 細 胞 に 局 在 が 観 察 さ れ た 。 ま た 、 情 動 機 構 に 関 わ る 扁 桃 体 ( 基 底 ) 外 側 核 、 海 馬 へ の 情 報 の 出 入 力 経 路 に あ た る 海 馬 台 、 成 体 に お い て も 神 経 新 生 が 起 き て い る 歯 状 回 顆 粒 細 胞 の 最 内 層 に お い てXllLXllよ り も 強 い 局 在 を 示 し た 。 こ れ ら フ ァ ミ リ ー 分 子 間 の 局 在 パ タ ー ン の 違 い は 加vivoに お い て 、 こ れ ら が 独 立 し た 生 理 機 能 を 有 し て い る こ と を 示 唆 す る 。

<XllL遺 伝 子 変 異 欠 損 マ ウ ス の 作 製 )XllL遺 伝 子 欠 損 変 異 マ ウ ス ( 以 後 、 変 異 マ ウ ス と 呼 ぶ ) は 、 翻 訳 開 始 点 を 含 む 領 域 を 相 同 組 み 換 え で 欠 失 さ せ る こ と に よ り 作 製 し た 。 変 異 マ ウ ス は 外 見 上 の 異 常 を 示 さ ず 、 繁 殖 行 動 も 正 常 で あ っ た 。

<APP代 謝 解 析 ) 変 異 マ ウ ス に お け るAPP代 謝 過 程 を 解 析 す る た め に 、APPの 各 代 謝 産 物 量 に つ い て 野 生 型 マ ウ ス と 比 較 し た 。 そ の 結 果 、 代 謝 を 受 け る 前 の 全 長APP量 、 代 謝 後 のN末 端 側 の 分 泌 型APP量 、C末 端 側 のAPP量 の 全 て に お い て 、 変 異 マ ウ ス と 野 生 型 マ ウ ス 間 に 差 異 を 検 出 し な か っ た 。 ま た 、ADに お け る 特 徴 的 な 病 理 所 見 で あ る 神 経 変 性 に 伴 う 神 経 細 胞 死 、 シ ナ プ ス 損 失 、 お よ び 反 応 性 神 経 膠 症 も 変 異 マ ウ ス で は 観 察 さ れ な か っ た 。     816

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(シナプス分子の解析)シナプス分画を調整し、XllLにより機能調節を受けていると考えられ る各タンパク質を定量した。その結果、野生型マウスと変異マウスの間で量的差異を検出でき た分子は無かった。

(行動学的解析)飼育環境下での基本的活動量と概日リズム、新規探索性、不安、うつ病様行 動については、変異マウスと野生型マウスとの間に差異を検出しなかった。また、空間記憶、

作 業記憶 、連合記 憶にお いても変 異マウス と野生 型マウス との間 に差異を認めなかった。

(ストレス感受性に関する解析)同一ケージ内に変異マウスと野生型マウスを集団飼育した条 件で、通常摂食時体重の4%の餌で体重制限を行ったところ、変異マウスで有意に大きな体重の 減少を観察した。また、4匹当たりに1個の固形飼料として給餌した場合の餌摂取量は、変異マ ウスで有意に低かった。ー方、1匹飼育において、摂食量および体重増加率に野生型マウスとの 間に差異は検出されなかった。これらの結果から、食餌制限ストレスにより変異マウスの食欲 が低下しているのではなく、野生型マウスとの間の競争環境下で地位が低下している可能性が 考えられた。社会的優位性と遺伝子型の関係を評価するために、野生型マウスと変異マウスを 混ぜたケージ(混合遺伝子型飼育ケージ)、もしくは片方の遺伝型だけのケージで食餌制限を行 った。その結果、混合遺伝子型飼育においてのみ野生型マウスに比べて、変異マウスにおいて 有意に大きな体重減少を示した。これらの結果は、変異マウスが社会的劣位になり、摂食競争 に敗れ、身体的、精神的ストレスが恒常的に負荷された結果として体重が減少したことを示唆 している。繰返される社会的敗北による精神的ストレスにより、うつ病様症状を示すことが知 られている。事実、食餌制限による競争環境下で飼育した後、オープンフイールドで測定した 活動量は変異マウスで有意に低下していた。この活動量の低下は競争環境を解除することによ り回復した。これらの結果は、変異マウスが精神的ストレスに対して感受性が高く脆弱である 事を示唆している。

  

次に身体的ストレスに対する応答に関して以下の解析を行った。異なる強さの電気ショック を与え、直後のすくみ反応を解析したところ、弱い刺激に対して変異マウスは野生型マウスよ りも有意に高頻度のすくみ反応を示した。また、慢性ストレスに曝された変異マウスは、野生 型マウスより有意に低いオープンフイールド活動性を示した。これらの結果は、変異マウスが 身体的ストレスに対しても、より高い感受性を持つことを示唆している。変異マウスにおける ストレスに対する感受性の亢進は、不安反応を増大し、さらに競争環境下で社会的地位の低下 となり、さらなるストレスを生んでいると考えられる。

  

ストレス反応は、視床下部‐脳下垂体.副腎皮質からなる

HPA axis

により制御されている。身 体的、精神的ストレスによるHPA axisは辺縁系による調節を受けている。また、

HPA

システム により放出されたストレスホルモンは中枢(主に海馬)に情報をフイードバックし様々な生体 反応を引き起こす。ストレスホルモンにより海馬では、CA3錐体細胞の尖端樹状突起の萎縮、

そして歯状回最内層における成体神経新生の低下が起きる。XllLはこれらの領域で強い局在が 観察され、Xllと発現の重複性が低いことから、変異マウスでの異常は海馬の機能異常を反映 している可能性が高い。

  

本 研究に よりXllLの 欠損は

ApP

あ代謝 調節、

AD

と関連した病理異常、そして記憶学習機構 に大きな影響を与えない事が明らかとなった。しかし、これらの結果はXllLがこれらの機構に

817

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関与していないということではなく、構造的、機能的に非常に良く似たXllの機能代償が十分 に働いている可能性が高い。この点に関しては、XllLとXllの二重変異マウスの解析が待たれ る。また、

XllL

はストレスに対する適応機構において主要な役割を果たす事が明らかとなった。

XllL

欠損マウスは、ストレスと精神疾患の関連、および機構を解明する上で有用なモデル動物 になると考える。

818

(4)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 助教授 助教授

鈴木利治 野村靖幸 大熊康修 松岡一郎

     学位論文題名

Analyses on physiologic roles of Xll‑like/IVIint2 in vivo      (中枢神経系における Xll‑Iike/Mint2 の生理機能解析)

  

本 研 究 は 、 神 経 特 異 的 ア ダ プ タ ー 分 子

XllL

の 生 体 内 機 能 を 遺 伝 子 欠 失 マ ウ ス の 作 成 と 解 析 に よ り 行 っ た 成 果 で あ る 。

XllL

は 当 研 究 室 で ア ル ツ ハ イ マ ー 病 の 発 症 に 強 く 関 わ る ア ミ ロ イ ド ロ ‐ タ ン パ ク 質

(AB

) の 前 駆 体

APP

に 結 合 す る 因 子 と し て 単 離 さ れ た 。 ま た 、 他 の 研 究 室 よ ル シ ナ プ ス 機 能 に 関 わ る 因 子 と し て も 報 告 さ れ て い る 。 細 胞 を 用い たin vitroの 機能 解析 は報 告 さ れ て い る が 、

m vivo

に お け る 機 能 解 析 は な さ れ て い な か っ た 。 本 研 究 は 、

XllL

遺 伝 子 欠 失 マ ウ ス を 作 成 し 、 そ の 解 析 を 行 っ た 点 で

XllL

の 加

vivo

に お け る 機 能 解 析 を 行 っ た 初 め て の 報 告 で あ る 。 特 に 、 世 界 的 に も 報 告 例 の 少 な い コ ン ジ ェ ニ ッ ク 系 統 と し て 遺 伝 子 欠 失 マ ウ ス の 作 成 に 成 功 し た 点 は 、 遺 伝 的 背 景 を 均 質 に し た 質 の 高 い 詳 細 な 行 動 解 析 を 可 能 と し た 。 こ の 点 は 高 く 評 価 さ れ た 。

  

生 化 学 的 ・ 免 疫 組 織 化 学 的 な 詳 細 な 解 析 か ら 、

XllL

遺 伝 子 欠 失 マ ウ ス の 脳 で

APP

の 代 謝 変 動 に お け る 顕 著 な 影 響 は 観 察 で き な か っ た 。

XllL

は 細 胞 に 過 剰 発 現 し た 際 、

APP

の 代 謝 を 安 定 化 す る 効 果 が あ る の で 、

XllL

遺 伝 子 欠 失 マ ウ ス で は

APP

代 謝 が 不 安 定 化 す る 可 能 性 が 指 摘 さ れ た 。 こ の 点 は 、 博 士 論 文 で も 解 析 し て い る よ う に 、 フ ァ ミ リ ー 分 子

Xll

XllL

と 共 に 神 経 細 胞 に 広 く 発 現 し て い る た め 、 補 償 効 果 か ら 生 化 学 的 な 解 析 で は 検 出 が 困 難 で あ る の が 事 実 で あ ろ う 。

AB

量 の 変 動 に 関 し て は 、 予 備 的 な 測 定 結 果 が あ る が 、 例 数 の 問 題 な ど で 博 士 論 文 に は 含 め て い な い 。 フ ァ ミ リ ー 分 子

Xll

と の 二 重 変 異 マ ウ ス の 解 析 を 進 め る べ き で あ る と の 審 査 も 頂い た 。 す で に 二 重 変 位 マ ウ ス は 誕 生 し て い る が 、 成 果 は 予 備 的 で あ る た め 博

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士論文には含めていない。

    f   .

   本研究で、明らかになった最も意味のある事実は、XllL 遺伝子欠失マウ スがストレスに対する感受性が極めて高い点である。特に個体間に競争的 条件がある時に、この感受性が高まる発見は、ストレス反応の分子機構を 解明する上で重要な知見を与えたと評価された。このような特定の条件下 における行動様式の差を表現型として確かに検出できたのはコンジェニツ ク系統のマウスを作成した成果であるとともによく練られた緻密な行動解 析研究の成果と評価された。現代社会で問題となっている精神的ストレス とその結果としての社会的地位の低下を科学的に解明するために有効な疾 患モデルマウスになる可能性も論議された。ファミリー分子であるXll の 遺伝子欠失マウスはコンジェニック系統ではないため、このような表現型 は報告されていない。本研究からXllL とXll が同じ機能を持ちつっも局 所的に異なる機能を発現していることが加vivo で解明された点も評価でき る。

   本研究論文では、XllL が若齢マウスの海馬歯状回顆粒細胞の最内層で特 に強い発現を示している点を報告した。神経新生との関連性で解析を進め ると興味深いという審査結果も頂いた。本人はこの発見の解析にも取り組 んでいたが、博士論文としては、まとまりを考えて行動解析を主体にして まとめた。

   博士論文は、しっかりと書かれており、本人が論理的思考によく訓練さ れており、博士としての識見を身にっけていることを表している。また、

口頭試問にも的確に応答した。また、本論文にまとめた以外にも、前述の 神経新生の問題など興味深い予備的成果を得ており、今後の発展も期待で きる。一連の研究を通して本人が問題を発掘し解析し解明する研究者とし ての素質を持っていることが明らかになった。

   以上の審査結果から、論文が博士(薬学)号の授与に値し、また佐野良

威が 、博 士と して 十分な 学問 的素 養と能 カを 持っ ていると認める。

参照

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