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博士(農学)ヒサカ・エレーナ・マサオカ・マチダ

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Academic year: 2021

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博士(農学)ヒサカ・エレーナ・マサオカ・マチダ

学 位 論 文 題 名

パ ラ グ ア イ 畑 作 の 二 重 構 造 と 農 業 開 発 政 策 学 位 論 文 内 容 の 要旨

  本 論 文 は, 図28,表60,183ぺ ージ ,付 表6の 和文 で, 別に1編 の参 考 論文 が添 えら れて い る。

  本論文の研究目的は,長期間にわたる農地改革の実施にも関わらず,不法占拠農民が広範に存在する 現状をパラグアイ畑作農業の二重構造問題として捉え,これがどのようにして形成されたのか,今後ど のような発展が可能なのかを農業開発政策の視点から明らかにすることである。近代的農業経営ヘ発展 した中規模農家層(20〜1,OOOha規模)と貧困層を形成する自給自足的な小規模農家層(20ha以下規模

)を比較対照して,パラグアイの農業開発過程を分析した。また,小規模農家の「貧困化」問題を解決 するにはどのような農業政策が必要なのかを明らかにした。

  序章では,パラグアイ経済における農業部門の役割を,社会的人口移動の視点から明らかにした。近 年の都市人口の増加率は年率4.9%で,農村人口が1.7%であるから,農村から都市部への人口移動傾向 が顕著である。しかし,受け皿となる都市部では工業が発展せず,農村から都市への人口流出がインフ オーマルセクターの拡大,失業の増加に直結している。特に,農地の不法占拠農民が農地分譲→農地名 義未確定→不法古拠の悪循環に陥る問題の重要性を指摘した。

  1章では,1870年代以来,国有地の自国農民への分譲と外国人農業移民受入れのニつの手段によって 実施されてきた農地改革が農業開発の促進に主眼がおかれていたことを明らかにしている。1991年の農 牧業センサスによると,20ha未満の小規模農家が全農家戸数の83%を占めるが,農地面積では全体の6

%にすぎない。他方,ごく少数の1,OOOha以上の大規模農家が,全農地面積の77%を所有している。ま た,不法に農地を占拠する農家が約7万戸,全農家戸数の23%のシェアを占める。そのほとんどが20ha 未満の小規模畑作農家である。小規模農家は自家消費用のキャッサバ,トウモ口コシ,ポロト(豆),

そして唯一の換金作物である綿花を生産する「慣行的農業」を営む。ー方,中規模畑作農家は家族経営 を基本とした資本集約的な「近代的農業」ヘ移行している。パラグアイの重要な輸出作物である綿花と 大豆は,小規模農家と中規模農家によって生産されている。パラグアイ農業を分析するためには,これ までラテン諸国農業に適用されてきたラティフンディオ・ミニフンディオの「二極化論」では不充分で あり,小・中規模層に焦点をあてた畑作の「二重構造」の分析がより適切である。なお,「二重構造」

の定義は基本的にTodaroの定義による。

  2章では,マクロの為替政策がパラグアイの2大輸出作物である綿花と大豆の輸出にどのような影響 を与えたのかを,実効為替レート,実質保護率の推計によって分析した。パラグアイ通貨(グアラニ)

の為替制度は固定為替制度,2重為替制度(固定為替と変動為替相場との混合),変動相場為替制度と 大きく変化しており,加えて輸出業者は獲得外貨(ドル)の一定割合を中央銀行に売却する義務があっ     ‑ 959―

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た。大豆およぴ綿花輸出に使用する実効為替レー卜は1期(19 70〜1983)、3期(1989以降)のグアラ ニの過大評価によって,税率20‑‑)50%程度の輸出税の役割を果たしたことを明らかにした。また輸入農 業投入財価格への影響を考慮して推計した実効実質保護率も,同様の結果を得た。2期(1984〜1988)は グアラニが切り下げられ,過小評価に転じたために大豆生産者価格は約2倍に上昇し,輸出を促進し,

中規模農家層の規模拡大,農業機械化に大きく寄与した。

  3章では,労働集約的農業から資本集約的農業への移行過程を大豆生産を中心に,日系移住地及びド イツ系移住地の実態調査,『移住地農家経済調査(国際協力事業団)』により分析した。パラグアイの 大豆は,1960年に日系移住地で初めて輸出用に契約栽培され,1973年の世界的な大豆価格の高騰を契機 にパラグアイ全土で急速に普及した。雇用労賃の高騰によって機械使用的,労働節約的な技術が普及 し,さらに収穫期間の短縮化によって小麦を裏作とした大豆宀小麦の2毛作経営が確立した。機械化の 過程では実質利子率が急速に低下しており,投入財の相対価格,特に資本利子の労賃に対する相対価格 の低下によって機械化投資が誘発されたことを明らかにした。この際,日系移住地内に規模拡大の余地 があったこと,日系農家の離農地を積極的に日系人に引き継がせようとした国際協力事業団の「負債肩 代わり」制度や長期融資が大きく貢献した。中規模農家層は土壌保全対策として不耕起栽培を積極的に 導入する傾向にあるが.気象条件に左右される農業では大豆・小麦のニ毛作に集中することは危険であ りっドイツ系移住農家のようにひまわりやトウモロコシを取り入れることによってりスクを分散し,輪 作による地力維持を考えることが必要としている。

  4章では,パラグアイ農牧省が実施した『1997年小規模農家調査』 1998年綿花生産農家調査』の個 票データを用いて,小規模農家の土地利用と経営構造,綿作生産の実態を明らかにした。まず土地保有 は,確定,臨時名義,および占拠地が混在し不安定な構造にある。小規模農家は唯一の換金作物である 綿花を除けば,自給自足のための短年性作物を主体に放牧地を組み合わせた「慣行的農業」を営み,資 本装備も小農具がほとんどで,畜カプラウすらない農家も多く,綿花収穫時には雇用労働に依存してい る。肥料投入水準を共変数とする綿花単収の地域別,連作年別の分散分析の結果は,とりわけ11年以上 の連作によって著しい収量低下(250kg/ha)があることを明らかにした。しかも11年以上連作する農家 数は4割以上もあり,これは経営面積の零細性とも関連しており,技術対策が早急に必要であることを 示唆する。パラグアイの綿花輸出は激減しており,その生産を担う小農にとって,綿花の収益性は急速 に悪化している。彼らが離農し,都市ヘ流出,一時的な現金収入を得るために農地を販売し,そして再 び不法占拠農になるといった悪循環の実態を明らかにしている。

  終章では,農業開発政策の課題を明らかにしている。まず,パラグアイ畑作の国際競争力強化のため には,生産費の低減が大きな課題である。特に投入財をすぺて輸入に依存しているために,ドイツ系移 住地のように投入財の購入予約量を農協内でまとめ,流通コストを削減する方法が考えられる。小規模 農家対策としては,自給向けに生産されているキャッサバやポロトの流通・貯蔵方法を改善して,換金 作物に転換させることが重要である。綿花の連作障害の問題を解決するためにも早急に検討されるぺき 課題である。さらに不法占拠農家には,農地改革による農地分配のみではなく,作物の販売・流通及び 普及員による技術指導等を組み合わせたパッケージとして提供する政策が必要であると結論している。

960 ‑

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

パラグアイ畑作の二重構造と農業開発政策

  本 論 文 は , 図28, 表60,183ぺ ー ジ , 付 表6の 和 文 で , 別 に1編 の 参 考 論 文 が 添 え ら れ て い る 。

  本 論 文 の 研 究 目 的 は , 長 期 間 に わ た る 農 地 改 革 の 実 施 に も 関 わ ら ず , 不 法 占 拠 農 民 が 広 範 に 存 在 す る 現 状 を パ ラ グ ア イ 畑作 農 業の 二重 構造 問題 とし て捉 え, これ カミ どの よう に し て 形 成 さ れ た の か , 今 後 ど の よ う な 発 展 が 可 能 な の か を 農 業 開 発 政 策 の 視 点 か ら 明 ら か に す る こ と で あ る 。 中 規 模 畑 作 経 営 ヘ 発 展 し た 農 家 層 (20〜1000ha規 模 ) と パ ラ グ ア イ の 貧 困 層 を 形 成 す る 自 給 自 足 的 な 小 規 模 農 家 層 (20ha以 下 規 模 ) を 比 較 対 照 し て , パ ラ グ ア イ の 農 業 開 発 過 程 を 分 析 し た 。 ま た , 小 規 模 農 家 の 「 貧 困 化 」 の 悪 循 環 ( 不 法 占 拠 → 農 地 分 譲 → 農 地 名 義 未 確 定 → 不 法 占 拠 ) か ら の 脱 出 に は ど の よ う な 農 業 政 策 が 必 要 な の か を 明 ら か に し た 。

  序 章 で は , パ ラ グ ア イ 経 済 に お け る 農 業 部 門 の 役 割 を , 社 会 的 人 口 移 動 の 視 点 か ら 位 置 付 け た 。 近 年 の 農 村 か ら 都 市 へ の 人 口 流 出 が イ ン フ オ ー マ ル セ ク タ ー の 拡 大 , 失 業 の 増 加 に 直 結 し て お り , 農 村 の 貧 困 層 の 減 少 が 経 済 全 体 に と っ て も っ と も 重 要 で あ る と の 認 識 を 示 し て い る 。

  1章 で は ,1870年 代 以 来 , 国 有 地 の 自 国 農 民 へ の 分 譲 と 外 国 人 農 業 移 民 受 入 れ の ニ つ の 手 段 に よ っ て 実 施 さ れ て き た 農 地 改 革 が , 一 貫 し て 農 業 開 発 の 促 進 に 主 眼 が お か れ て い た こ と を 明 ら か に し て い る 。 こ の 結 果 , 自 給 自 足 的 な 「 慣 行 的 農 業 」 と , 資 本 集 約 的 な 中 規 模 畑 作 農 家 に よ る 「 近 代 的 農 業 」 と の 畑 作 の2重 構 造 が 形 成 さ れ た 。 ラ テ ン ア メ リ カ の 典 型 的 な 農 業 二 極 化 論 で 見 過 ご さ れ て き た 畑 作 の 二 重 構 造 の 分 析 枠 組 み を 提 示 し て い る 。 こ こ で 「 二 重 構 造 」 の 用 語 使 用 は 基 本 的 にTodaroの 定 義 に よ っ て い る 。   2章 で は , マ ク ロ の 為 替 政 策 が パ ラ グ ア イ の2大 輸 出 作 物 で あ る 綿 花 と 大 豆 の 輸 出 に

男 彦

史 克

南 村

長 出

授 授

教 教

査 査

主 副

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どのような影響を与えたのかを,実効為替レート,実質保護率の推計によって分析し た。大豆および綿花輸出に使用する実効為替レートは 1 期(1970 ‑1983 ),3 期(1989 以降)のグアラニの過大評価によって,20t‑ 50 %程度の輸出税の役割を果たしたことを 明らかにした。 2 期(1984 〜1988 )はグアラニの切り下げにより大豆生産者価格は約2 倍 に上昇し,輸出を促進し,中規模農家層の経営規模拡大,農業機械化に大きく寄与し た。

  3 章では,労働集約的農業から資本集約的農業ーの移行過程を,日系移住地及びドイ ツ系移住地の現地実態調査の知見と『移住地農家経済調査』の時系列データを使用して 分析した。日系移住地では1973 年の大豆の世界価格の高騰を契機として,雇用労賃が高 騰し,機械使用的・労働節約的な技術の採用が促進され,小麦を裏作とした大豆―小麦 の2 毛作経営が確立した。資本利子の労賃に対する相対価格の低下によって機械化投資 が誘発されたことを明らかにした。また中規模経営の将来的な課題として,ドイツ系移 住農家に範を求め,畑作目を多様化することによってりスク分散し,輪作による地力維 持を考える必要があると結論している。

  4 章では,パラグアイ農牧省が1997 年っ1998 年に実施した『農家調査』個票データを用 いて,小規模農家の土地利用と経営構造,綿作生産の実態を明らかにした。小規模農家 の土地保有は,確定,臨時名義,および占拠地が混在し不安定な構造にある。輸出農産 物の綿花を除けば,自給自足のための短年性作物を主体に放牧地を組み合わせた「慣行 的農業」の範疇にある。唯一の換金作物である綿花の収益性は悪化し続けており,離 農,都市ーの流出,一時的な現金収入を得るための農地販売,そして再び不法占拠農に なるといった悪循環の原因となっている。綿花単収の分散分析の結果は,特に10 年以上 の 連 作 に よ る 著し い 収量 低 下に つ いて の 対 策が 不 可欠 で ある こ とを 示 した 。    終章では,農業開発政策の課題を明らかにしている。特に小農対策としては,農協に よる輸入投入財の購入予約,自給向けに生産されているキャッサバやポロトの商品化の ための流通・貯蔵方法の改善など,農地分配のみではなく,販売・流通および技術指導 等を組み合わせた農業政策が必要であると結諭している。

   以上,農家経済データを使用して長期的分析をしたパラグアイ農業の研究は海外はも

とより,日本でも皆無である。本論文は,これまでのラティフンディオ・ミニフンディ

オの2 極化論から畑作の二重構造論へと分析を絞込み,小・中規模層に焦点をあてた開

発政策課題を明らかにしており,パラグアイ農業はもとより,他のラテンアメリカ諸国

の農業開発政策に示唆するところも多い。よって審査員一同は,Hisaka Elena Masaoka

Machida が 博士 ( 農学 ) の学 位 を受 け るに 十 分 な資 格 を有するも のと認めた 。

     ―962 ―

参照

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