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博士(農学)平野 繁 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)平野   繁 学位論文題名

寒 地型イ ネ科牧草 の定着過程における個体群動態に      関す る生態遺 伝学的 研究

学位論文内容の要旨

  

草地個体群において大きなサイズを確保した個体が草地の生産に大きく 寄与する。この個体の定着過程における生態遺伝学的な特性を解明するこ とは、牧草の育種、ならびに、刈取り管理、混播設計などの栽培管理にお いて、草地の生産性に関する基礎的な情報を与えるものと考えられる。

  

本研究は、寒地型牧草の草地造成初期の定着過程における個体の生存な らびにサイズ確保に関わる特性を検討し、個体群の遺伝的構成の変化の方 向性を明らかにし、草地の生産性の向上に資することを目的に、イネ科草 種の単播実験個体群において、同一個体の継続的調査をもとに、個体の生 死ならびにサイズヒエラルキーの変化を考究した。結果は、以下のように 要約される。

1

)ベレニアルライグラス秋播個体群において、刈取りとその後の再生を 繰り返す中で、牧草個体群のサイズヒェラルキーの変化が、イ)利用1年目 の出穂期の1番草刈取り後と、ロ)最終刈取りから翌年1番草の問の、

2

つ の時期に認められた。この時期は、生殖生長への移行刈とその後の刈取り 時期であり、イ)生殖茎割合の高い個体の刈取り後の再生不良と、ロ)栄養 生長から生殖生長ヘ早く移行する個体のサイズ確保が、サイズヒエラル キーの変化の要因と推察した。

2

)ベレニアルライグラス個体群の中から、サイズヒエラルキー上位の個 体を採集し、個体植えした競争のなぃ環境下で比較した結果、1番草刈取 り時期に個体間変異が認められる出穂始日と生殖茎割合から、早一生夕イプ と晩生タイプ、および、多穂夕イプと少穂夕イプに要約できた。さらに、

1

番草刈取り時期に、個体重の大きい早生多穂夕イプ個体と個体重が小さ い晩生少穂夕イプ個体は、

1

番草刈取り後、各々の個体重においてサイズ ヒエラルキーが逆転し、生殖生長への移行程度と刈取り後の栄養生長との 間にトレードオフが観察された。晩生少穂夕イプ個体は生殖生長期の刈取 り後の再生が良好であり、早生多穂夕イプ個体は刈取り後に再生不良が発 生し、その程度は初回利用時のバイオマスの大小、刈取り管理の相違、な らぴに、時間の経過に伴う個体群密度の低下、による個体間競争の大小に よって変化した。

3

)播種してから翌年初回利用するまでの期間で、地上部重の増加に伴う 個体間競争において、早生多穂夕イプ個体のサイズ確保と刈取り後の再生 との関係を刈取り時期と施肥量の異なるべレニアルライグラスの高密度個 体群で検討した。地上部重が大きい(強競争)ときは、早生多穂タイブ個

(2)

体は長日条件下の生殖生長によって地上部重を確保し、晩生少穂夕イプ個 体の生育を抑制し、個体間競争において有利であった。さらに、初回利用 後、晩生少穂夕イプ個体の再生が抑制されることから、刈取り後の再生不 良の程度は、地上部重が小さい(弱競争)ときと比較して小さくなった。

4

)異なる刈取り管理(採草と放牧)を想定したベレニアルライグラス草 地において、サイズヒエラルキーの変化を2年間にわたって検討した。そ の結果、個体間競争の小さい放牧管理を想定した多回刈り区では、利用1 年目の1番草刈取り後に生じた早生多穂夕イプ個体の再生不良程度が個体 間競争の大きい採草管理を想定した少回刈り区に比較して大きくなった。

多回刈り区では、翌年の生殖茎発生によるサイズ確保ができなかったこと から、利用

1

年目で発生した早生多穂夕イプの生産性低下(生殖生長によ るコスト)は2年目まで継続した。

5

)ベ レぅアルライグラス草地の1番草刈取り時の個体群密度と個体の再 生を比較した結果、早生多穂タイプ個体の1番草刈取り後の再生不良程度 は個体群密度の低下によって変化した。高密度個体群では、生殖生長への 移行に伴って早生多穂タイプ個体のサイズが大きくなるが、相互遮蔽が強 いことから、早生多穂タイプ個体の栄養茎の生育が抑制され、刈取り後の 再生が抑制された。個体群密度が低下すると、早生多穂夕イプ個体の栄養 茎割合の増加と遮蔽による晩生少穂夕イプ個体の生育抑制によって、早生 多穂夕イプ個体の刈取り後の生産性が増大した。さらに、個体群密度が低 下すると、早生多穂夕イプ個体の周辺個体への遮蔽効果が小さくなること から、晩生少穂タイプ個体は抑制される程度が小さく、早生多穂夕イブ個 体 は 、 生 殖 茎 が 多 く 発 生 し 、 刈 取 り 後 の 再 生 が 不 良 で あ っ た 。

6

)寒地型イ ネ科牧草

4

草種( トールフェス ク、メドウフ ェスク、オー チャードグラスおよびチモシー)について、生殖茎割合の個体問変異と個 体生産性の関係を検討した。その結果、ベレニアルライグラスと同様に、

個体群のサイズヒエラルキーの変化が、イ)利用1年目の出穂期の1番草刈 取り後と、ロ)最終刈取りから翌年1番草の間の、2つの時期に認められ、

生殖生長への移行程度に起因するサイズヒエラルキーの変化は、寒地型イ ネ科牧草に普遍的な現象であった。特に、生殖茎数割合が大きく、栄養茎 重に対して生殖茎重が大きい草種ほどサイズヒエラルキー変化の程度は大 きく、草種問に顕著な差異が認められた。

7

)以上の結果をもとに、寒地型イネ科牧草個体群に生じる遺伝的構成の 変化の過程について、早生多穂夕イプと晩生少穂タイプの遺伝子型におけ る個体問競争と撹乱(刈取り)耐性のトレードオフの観点から考察した。

放牧利用条件下では晩生少穂夕イプがサイズ確保に有利となり、採草利用 条件下では早生多穂夕イプが有利となることから、草地管理によって個体 群の遺伝的構成は変化すると考えられた。さらに、生殖生長期における刈 取り時期や個体群密度の相違による個体問競争の大小によって、2つのタ イプの遺伝子型の有利性が変化する。このことは、牧草個体の空間分布や 採食圧に変異がある草地において、生殖生長への移行程度の異なる遺伝子 型が共存する可能性を示唆しており、草地における遺伝的多様性の維持機 構のーつであると考えられた。採草利用において、生殖生長への移行程度 の異なる遺伝子型の共存は、生殖生長期における利用後の早生多穂タイプ の再生不良を晩生少穂タイプが補填することから、個体群の遺伝的多様性 を維持することが安定した生産性の草地を維持するために必要と考えられ た。

(3)

学 位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

寒 地 型 イ ネ 科 牧 草 の 定 着 過 程 に お け る 個 体 群 動 態 に     1

    関 す る 生 態 遺 伝 学 的 研 究

  本 論 文 は 、 図 33、 表14お よ ぴ 引 用 文 献122を 含 み 、8章 か ら な る 総 頁 数 145の 和 文 論 文 で あ る 。 別 に 、 参 考 論 文 10編 が 添 え ら れ て い る 。   草 地 個体 群 におい て、牧草個 体の定着 過程にお ける個体 群動態を 生態遺伝 学的 観点 か ら 解明 する ことは、草 地の生産 性を向上 させる牧 草の育種 をらびに 草地管 理に 有 益 な情 報 を提 供 す る。

  本 研 究は 、 寒地型 牧草の実験 個体群の 定着過程 における 個体の生 存、サイ ズ確 保に 関 わ る特 性な らびにサイ ズヒエラ ルキーの 変化を検 討し、個 体群の遺 伝的構 成の 変 化 を考 究 した 。 結 果は 次 の よう に 要約 さ れ る。

1) ベレ ニ ア ルラ イ グラ ス 個 体群 に おい て 、刈 取りとそ の後の再 生を繰り 返す中 で、 牧 草 個体 群の サイズヒエ ラルキー (個体の 大きさの 順位)の 変化が、 利月1i 年 目 の 出 穂 期 の1番 草 刈 取 り 後と 秋 の 最終 刈 取り か ら 翌春1番 草 の間 の 、2つ の 時期 に 認 めら れた 。前者は生 殖茎割合 の高い個 体の刈取 り後の再 生不良が 、後者 は栄 養 生 長か ら 生殖 生 長 ヘ早 く 移 行す る 個体 の サ イズ 確 保が 、 サ イズ ヒ エラル キー の 変 化の 要 因と 推 察 した 。

2) ベ レ ニ ア ル ラ イ グ ラ ス 実 験個 体 群 の中 か らサ イ ズ ヒエ ラ ルキ ー の 上位 個 体 を、 そ の 個体 植 えし た 結 果を も と に、 出 穂開 始 日 によ り 早生 夕 イ プと 晩 生夕イ プ、 お よ び、 生 殖茎 割 合 によ り . 多穂 夕 イプ と少穂夕 イプに分 類した。1番草刈 取り 時 期 に、 個体 重の大きい 早生多穂 タイプ個 体と個体 重が小さ い晩生少 穂タイ プ個 体 は 、1番草 刈 取り 後 、 サイ ズ ヒエ ラ ルキ ーが逆転 し、生殖 生長への 移行程 度と 刈 取 り後 の栄 養生長との 間にトレ ードオフ が観察さ れた。晩 生少穂夕 イプ個 体は 刈 取 り後 の再 生が良好で あり、早 生多穂夕 イプ個体 は刈取り 後に再生 不良が 発 生 し た が 、 そ の 程 度 は 個 体 間 競 争 の 大 小 に よ っ て 変 化 し た 。 3) 播種 し て から 翌 春初 回 利 用す る まで の 期間 で、地上 部重が大 きい(強 い競争 条件 ) と きは 、早 生多穂夕イ プ個体は 長日条件 下の生殖 生長によ って地上 部重を 確保 し 、 晩生 少 穂夕 イ プ 個体 の 生 育を 抑 制し 、 個 体間 競 争に お い て有 利 であっ

義 公

   

   

(4)

た。さらに、初回利用後、晩生少穂夕イプ個体の再生が抑制されることから、刈 取り後の苒生不良の程度は、地上部重が小さい(弱い競争条件)ときと比較して 小さくなった。

4)個体 問競争の小 さい放牧管理を想定した多回刈り区では、利用1年目の1 草刈取り後に生じた早生多穂夕イプ個体の再生不良程度が個体間競争の大きい採 草管理を想定した少回刈り区に比較して大きくなった。また、多回刈り区では、

翌年の生殖茎発生によるサイズ確保ができなかったことから、利用1年日で発生 し た 早 生 多 穂 夕 イ プ の 生 産 性 低 下 は 利 用 2年 日 ま で 継 続 し た 。 5)高密度個体群において、早生多穂夕イプ個体は、生殖生長への移行に伴って サイズが大きくなるが、相互遮蔽が強いことから、栄養茎の生育が抑制され、刈 取り後の再生が抑制された。個体群密度が低下すると、早生多穂夕イプ個体は、

栄養茎割合の増加と遮蔽による晩生少穂夕イプ個体の生育抑制によって、刈取り 後の生産性が増大した。さらに、個体群密度が低下すると、早生多穂夕イプ個体 は、生殖茎が多く発生し、刈取り後の再生が不良となり、周辺個体への遮蔽効果 が小さくなることから、晩生少穂夕イプ個体は抑制される程度が小さくなった。

6)寒地型イネ科牧草4草種(トールフェスク、メドウフェスク、オーチャード グラスおよびチモシー)の個体群のサイズヒェラルキーの変化がべレニアルライ グラスと同様の2つの時期に認められた。サイズヒエラルキー変化の程度は、草 種問に顕著な差興が認められ、生殖茎数割合が大きく、栄養茎重に対して′ヒ殖茎 重が大きい草種ほど大きかった。

7)以上の結果をもとに、寒地型イネ科牧草個体群に生じる遺伝的構成の変化の 過程について、早生多穂夕イプと晩生少穂タイプの個体問競争と撹乱(刈取り)

耐性のトレードオフの観点から考察し、牧草個体群の遺伝的多様性を維持するこ と が 安 定 し た 生 産 性 の 草 地 を 維 持 す る た め に 必 要 で あ る と 結 論 し た 。   本論文は、草地個体群の定着過程における寒地型イネ科牧草個体群の遺伝的構 成の変化を明らかにし、それらと草地の生産性との関わりを考察した。以上の成 果は、学会においても高く評価され、また、寒地型イネ科牧草からなる草地の生 産性向上に寄与するところ大である。

  よって審査員一同は、別に行った学力確認試験の結果と併せて、本論文の提出 者平野繁は博士(農学)の学位を受けるに十分な資格があるものと認定した。

参照

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