博 士 ( 農 学 ) 山 本 康 貴
学 位 論 文 題 名
酪 農 に お け る 生 産 性 お よ び 生 産 費 に 関 す る 計 量 経 済 学 的 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
北海 道の 酪農は 国内的 にみる と,規 模拡 大や専 業化が 進展し たに もかか わらず ,国際的にみる と生 産費格 差が存 在し ており ,今後 の国際 化に 対応し た酪農 政策を 考える 前提 として,生産性お よび 生産費 を実証 的に 比較分 析する ことが 重要 な課題 となっ ている 。
本論 文は ,酪農 におけ る生産 性およ び生 産費の 比較分 析に関 する 従来の 計量経 済学的研究にお い て 不十 分 であっ た4っの問 題点を 解決 する分 析方法 を提示 し, 北海道 酪農を 取り上 げて, 提示 され た分析 方法の 一般 性と特 質を実 証的に 明ら かにし たもの である 。
まず 第1章では ,課題 の背 景と概 念,従 来の酪 農にお ける 生産性 および 生産費 の比 較分析 の成 果 を 整理 し , 従 来 の 研究 に お いて4っ の問題 点が 存在す ること を指摘 して いる。 第1に,牛 乳生 産に おける 生産性 の国 内比較 におい て,サ ンプ ル数が 十分得 られ, 生産関 数や 費用関数の推定が 行え る場合 でも, 一般 に推定 される パラメ ータ は,時 点間や 地域間 におい て一 定と仮定される。
し た がっ て ,計測 された1本 の生産 関数 あるい は費用 関数に よっ て,サ ンプル 平均の 生産性 をと らえ ること ができ るが ,必ず しも規 模別の 時点 間およ び地域 間の生 産性の 差異 を十分にとらえら れ な いと い う問題 点を指 摘し ている 。第2に, 牛乳生 産にお ける 生産費 の国際 比較に おいて ,サ ンプ ル数が 少なく ,生 産関数 や費用 関数な どの 計量経 済学的 な推定 を行え ない 場合がある。この ため ,従来 の研究 では ,費用 指数を 用いて ,平 均費用 格差を 要素価 格格差 と総 合生産性格差に要 因分 解して いる。 しか し,費 用指数 において,同一規模による平均費用の比較を行っているため,
規模 の経済 性によ る生 産性格 差が明 らかに され ていな い,現 実の為 替レー トに よる共通貨幣単位 への 換算を 行って いる ため, 国別の 物価水準の差異を無視しており,実質的ナょ要素価格の格差が 明 ら かに さ れてい ないと いう 問題点 を指摘 してい る。 第3に ,牛 乳生産 におけ る費用 効率の 農家 間比 較にお いて, 費用 フロン ティア を用い て費 用効率 を分析 した研 究例を 見い だすことができな かっ たのは ,農家 レベ ルで要 素価格 デ―夕 の入 手が困 難なた めと考 えられ る。 また,効率か非効 率か 二者択 一の判 定を 行う研 究例が あるが ,農 家別に 費用効 率の水 準その もの は示されないとい う 問 題点 を 指摘し ている 。第4に, 粗飼 料生産 におけ る技術 効率 の農家 間比較 におい て,北 海道
におけ る粗飼 料生 産の場 合,天 候の不 確実性 ,機 械設備 の固定 性,草 地更 新の遅 れによる不適切 な施肥 等によ って ,生産 要素の 過剰投 入が発 生し ている 可能性 がある。この点の解明にfま,混雑 効率( 限界生 産物 が負と なるよ うな過 剰投入 の効 率)を 分析す る必要 があ る。し かし,関数型を コブ・ ダクラ ス型 に特定 化した 生産フ ロンテ ィア では, 混雑効 率の分 析は できな いという問題点 を指摘 してい る。
そ こ で 第2章 で は , 第1の 問 題 点 を解決 するた めに, 牛乳生 産に おける 生産性 の国内 比較 に関 して, 生産性 指数 を計測 して, 国内比 較にお ける 生産性 向上と 地域間 生産 性格差 を規模別に明ら かにし ている 。従 来の研 究では ,必ず しも規 模別 の時点 間およ び地域 間の 生産性 の差異を十分に とらえ ていな い点 を,本 論文で は,生 産量基 準生 産性指 数と要 素投入 量基 準生産 性指数を規模別 に分析 してい る。 実証分 析の対 象は, 北海道 と部 府県で ある。 分析の 結果 、北海 道の酪農は、都 府県を 基準に 考え るなら ば,こ れを上 回る規 模拡 大と技 術進歩 が進展 し, 生産性 を向上させてき たこと を明ら かに した。
第3章 で は, 第2の 問 題点 を 解 決 するた めに, 牛乳生 産にお ける 生産費 の国際 比較に 関し て,
費用指 数を計 測し て,国 際比較 におけ る平均 費用 格差を ,実質 要素価 格格 差,為 替レート評価,
規模格 差,技 術格 差に要 因分解 して明 らかに して いる。 従来の 研究で は, 実質要 素価格格差と為 替レー ト評価 が名 目要素 価格格 差,規 模格差 と技 術格差 が総合 生産性 格差 として 一括して分析さ れてい たもの を, 本論文 ではさ らに要 因分解 して 拡張し ている 。実証 分析 の対象 は,北海道とイ ギリス である 。分 析の結 果,北 海道の 酪農は,イギリスを基準に考えるならば,生産性に大きナょ 格差が 存在し ,そ の格差 は,北 海道酪 農の現 状に おける 技術体 系,制 度の ままに 規模を拡大して も解消 が困難 であ ること を明ら かにし た。ま た, イギリ スとの 平均費 用格 差とし てみるならば,
北海道 の要素 価格 が高い ことに よって ,平均 費用 格差は ,生産 性格差 より もさら に拡大するが,
名目要 素価格 格差 は両国 の実質 要素価 格格差 より も為替 レート が円高 に評 価され ている要因の方 が大き いこと を明 らかに した。
第4章 で は, 第3の 問 題点 を 解 決 するた めに, 牛乳生 産にお ける 費用効 率の農 家問比 較に 関し て,費 用フ口 ンテ ィアを 用いて 費用効 率を計 測し ,農家 間の生 産費格 差を 明らか にしている。従 来の研 究では ,農 家レベ ルでの 要素価 格デー タの 入手が 困難な ため, 費用 フロン ティアを用いて 費用効 率が計 測さ れてい ない点 ,農家 別に費 用効 率の水 準は示 されな い点 を,本 論文では,要素 価格デ ータを 用い ずに費 用フロ ンティ アから 費用 効率を 計測で きる方 法に よって ,農家別に費用 効率を 分析し てい る。実 証分析 の対象 は,北 海道 内の農 家間で ある。 分析 の結果 ,北海道の農家 間を比 較する と, 牛乳生 産にお いては ,規模 拡大 よりも 現状の 規模に おけ る非効 率を改善する方
が,生 産費 低滅に は効果 が大き いこと を明 らかに した。
第5章 で は, 第4の 問 題点 を解 決する ために ,粗飼 料生 産にお ける技 術効率 の農家 間比 較に関 して, 生産 フ口ン ティア から技 術効率 を計 測して ,農家 間の生 産性 格差を 明らかにしている。従 来の研 究で は,天 候の不 確実性 ,機械設備の固定性,草地更新の遅れによる不適切な施肥等によっ て,生 産要 素の過 剰投入 が発生 してい る可 能性が あるが ,混雑 効率 (限界 生産物が負となるよう な過剰 投入 の効率 )が分 析され ていない点を,本論文では,混雑効率が分析できる生産フロンティ アから 技術 効率を 計測し て分析 してい る。 実証分 析の対 象は, 北海 道内の 農家間である。分析の 結果, 北海 道の農 家間を 比較す ると, 粗飼 料生産 におい ては, 土地 生産性 の停滞,生産要素の過 剰投入 等に よる非 効率が 存在し ,規模 拡大 が必ず しも効 率向上 に結 びっい ていないことを明らか にした 。
ま た, 第6章では 以上の 分析結 果を 要約し ,今後 の北海 道酪農 にお ける生 産性向 上と生 産費 低 減に関 する 政策的 合意を 明らか にして いる 。
以上 のよう に本論 文の分 析方 法は, 酪農に 限らず ,日本 農業 の生産 性およ び生産費の比較分析 に関す る従 来の計 量経済 学的な 研究に はみ られな い,方 法論上 の利 点を有 しており,他の農畜産 物の生 産性 および 生産費 の比較 分析に おい ても適 用可能 である 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査 副査
教授 教授 教授 教授 助教授
黒 柳 天 間 七 戸 太 田 原 出 村
俊 雄 征 長 生 高 昭 克 彦
本 論 文は , 総 頁 数250頁 ,図41,表51を 含む邦 文論 文であ る。別 に参考 論文6編が 添え られて い る。
本 論文 は,酪 農にお ける生 産性 および 生産費 の比較 分析に 関す る従来 の計量経済学的研究にお い て不十 分で あった4っ の問題 点を解 決する 分析方 法を 提示し ,北海 道酪農 を取 り上げ て,提 示 さ れた分 析方 法の一 般性と 特質を 実証的 に明 らかに したも のであ る。
第1章でfま,課題の背景と概念,従来の酪農における生産性および生産費の比較分析の成果を 整理し,従来の研究において4っの問題点が存在することを指摘している。具体的には,牛乳生 産における国内比較,国際比較,農家間比較,および粗飼料生産における農家間比較に関する問 題点である。
第2章では,第1の問題点を解決するために,牛乳生産における生産性の国内比較に関して,
生産性指数を計測して,国内比較における生産性向上と地域間生産性格差を規模別に明らかにし ている。従来の研究では,必ずしも規模別の時点間および地域間の生産性の差異を十分にとらえ ていない点を,本論文では,生産量基準生産性指数と要素投入量基準生産性指数を規模別に分析 している。実証分析の対象は,北海道と部府県である。分析の結果,北海道の酪農は,都府県を 基準に考えるならば,これを上回る規模拡大と技術進歩が進展し,生産性を向上させてきたこと を明らかにした。
第3章では,第2の問題点を解決するために,牛乳生産における生産費の国際比較に関して,
費用指数を計測して,国際比較における平均費用格差を,実質要素価格格差,為替レート評価,
規模格差,技術格差に要因分解して明らかにしている。従来の研究では,実質要素価格格差と為 替レ―ト評価が名目要素価格格差,規模格差と技術格差が総合生産性格差として一括して分析さ れていたものを,本論文ではさらに要因分解して拡張している。実証分析の対象は,北海道とイ ギリスである。分析の結果,北海道の酪農は,イギリスを基準に考えるならば,生産性に大きな 格差が存在することを明らかにした。また,イギリスとの平均費用格差としてみるならば,北海 道の要素価格が高いことによって,平均費用格差は,生産性格差よりもさらに拡大するが,名目 要素価格格差は両国の実質要素価格格差よりも為替レートが円高に評価されている要因の方が大 きいことを明らかにした。
第4章では,第3の問題点を解決するために,牛乳生産における費用効率の農家間比較に関し てI費用フ口ンティアを用いて費用効率を計測し,農家間の生産費格差を明らかにしている。従 来の研究では,要素価格データの入手が困難なため,費用フロンティアを用いて費用効率が計測 されていない点,農家別に費用効率の水準は示されない点を,本論文では,要素価格データを用 いずに費用フ口ンティアから費用効率を計測できる方法によって,農家別に費用効率を分析して いる。実証分析の対象は北海道内の農家間である。分析の結果,北海道の農家間を比較すると,
牛乳生産においては,規模拡大よりも現状の規模における非効率を改善する方が,生産費低減に は効果が大きいことを明らかにした。
第5章では,第4の問題点を解決するために,粗飼料生産における技術効率の農家間比較に関
して, 生産フ ロンテ ィアか ら技 術効率 を計測 して, 農家 間の生 産性格 差を明 らかにしている。従 来の研 究では ,混雑 効率( 限界 生産物 が負と なるよ うな 過剰投 入の効 率)が 分析されていない点 を,本 論文で は,混 雑効率 が分 析できる生産フ口ンティアから技術効率を計測して分析している。
実証分 析の対 象は北 海道内 の農 家間で ある。 分析の 結果 ,北海 道の農 家間を 比較すると,粗飼料 生産に おいて は,土 地生産 性の 停滞, 生産要 素の過 剰投 入等に よる非 効率が 存在し,規模拡大が 必ずし も効率 向上に 結びっ いて いない ことを 明らか にし た。
また ,第6章で は以 上の分 析結果 を要約 し, 今後の 北海道 酪農に おける 生産 性向上 と生産 費低 減に関 する政 策的含 意を明 らか にして いる。
以上の ように 本論 文の分 析方法 は,酪 農の生 産性 および 生産費 の比較 分析に関する従来の計量 経済学 的な研 究には みられ ない ,方法 論上の 利点を 有し ており ,他の 農畜産 物の生産性および生 産費の 比較分 析にお いても 有用 である と認め られる 。
よって 審査員 一同 は別に 行った 学力確 認試験 の結 果と合 わせて ,本論 文の提出者山本康貴は,
博士( 農学) の学位 を受け るの に十分 な資格 がある もの と認定 した。