博 士 ( 農 学 ) 川 崎 公 誠
学 位 論 文 題 名
En と ero ろ acter aerogenes ト リ プ ト フ ァ ナ ー ゼに よる L ー ト リ プ ト フ ァ ン 生 産
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
トリプトフ んナーゼ を用いた インドール、ピルピン酸、アンモニアからのL.トリプ トフんン生 産は、基 質に対す る高い収 率ゆえ工 業的に最 も有望な方法とされてきた.し かしながら 原料であ るピルピ ン酸の安 価な供給 方法が確 立されていないこと、あるいは 実用に供す るに足る 優れた酵 素がなか ったこと などから 、現在にいたるまで実際に工業 的に実用化 された例 は無い. このような中、我々の研究室ではL.トリプトフんン生産性 に極めて優れたトリプトファナーゼを産するEnterobacter aerog『.enes SM‑18を見いだし ており、一 方大腸菌 を用いた ピルピン 酸生産法 も既に確 立している.っまり我々はトリ プトフんナ ーゼによ るL.トリ プトフん ン生産に おいて問 題となる2点について、これら を打開する のに有用 な知見を 持ってい た.しか し実用に 供するにはさらに解決されるべ き課 題 が残 さ れ てい た .す な わ ちカ タボラ イト抑制が トリプト フんナー ゼ発現を 制限 し、且っト リプトフ ァナーゼ 酵素量がL.トリプトフんン生産量の制限要因であったこと である.よ ってトリ プトフん ナーゼ大量発現系の確立がL.トリプトフんン生産量増大に 最も効果が あると判 断された .さらに トリプト フんナー ゼ生産とピルビン酸発酵とを同 時に行うこ とができ ればL・ト リプトフんン生産プロセスの大幅な簡略化になり、より実 用的になる ことが期 待できた .またE. aerogenes SM‑18のトリプトファナーゼ遺伝子に つい て の知 見 も 有用 な もの で あ ると 思われ たので、こ れらの主 旨のもと に研究を 進め た.
1. E. aerogenesト リ プ ト フ ん ナ ー ゼ 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 の 決 定 ・ トリプ トフんナ ーゼ活性 発現能を有する、E. aerogenes SM‑18染色体由来の5.8kbpの PstI断 片のうち2230 bpについて塩 基配列を 決定した .その結 果トリプ トフんナ ーゼ構 造遺伝 子tnaAと、そ れに付随 するtnaC,tnaB 及 びプロモ ーター配列と思われる部分を 特定し た.よっ てこの遺 伝子は大腸 菌と同様 のトリプ トフんナ ーゼオベロンとして存在 してい ることを 明らかに した.塩基 配列から 予想され るトリプ トフんナーゼのアミノ酸 配列は 、他の細 菌由来の トリプトフ んナーゼ やチロシ ンフェノ ールリアーゼのアミノ酸 配 列と 高 い相 同 性 を有 し て いて お り、大 腸菌トリ プトフん ナーゼと の相同性は59%で あった .
2.ト1Jプト フんナー ゼ高発現 プラスミ ドの構築 とL.トリプ トフんン生産への応用.
発 現 ベクターpTrc99Aのtacプロモ ーターの 下流にトリ プトフん ナーゼ構 造遺伝子
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tnaAを サブ クロ ーン 化し 、pKT901EAを 得た .tacプロ モー タは カタ ボラ イト非感受性 で 強 カ な 転 写 開 始 活 性を もっ プロ モー タで ある .実 際、 これで 形質 転換 した 大腸 菌 JM109 (JM109/pKT901EA)は、EIaerogenes SM‑18の約3.6倍のト リプ トフ ァナ ーゼ を 発 現 し 、 グ ル コ ー ス によ るカ タボ ライ ト抑 制を 受け なか った.JM109/pKT901EAを グ ル コー ス存 在下 で、IPTGによ る誘 導を 行い ながら培養したところ、単位培養液体積あ たりのトリプトフんナーゼ活性は、L.ト1Jプトファンで誘導したE. aerogenes SM‑18の 約8.0倍と なっ た.次にこのようなE.aerogenesトリプトフんナーゼを大量発現した大 腸 菌菌 体を 用い てL.トリプトフんン合成を行った.大量発現による比活性の増加によ り、E. aerogenes SM‑18と比ベL,トリプトフんンの収量は顕著に増加した(6時間の反 応 で は 約3.3倍 、 対 イ ン ドー ル 収 率 は74%、 対 ピ ルビ ン酸 収率 は43%) .さ らにE. aerogenesのト リプ トフん ナー ゼはE.coliのそれと比して迅速かつ高収率でインドー ル、ピルピン酸、アンモニアからL.ト1Jプトフんンを合成し、L‑トリプトファン合成の 目 的に 適し た優 れた 酵素 であ るこ とが 明ら かに なった (例 えば6時 間の 反応での収量 は約2.8倍).
3.E. aerogenes SM‑18の ト リ プ ト フ ん ナ ー ゼ の 精 製 お よ び 諸 性 質 の 検 討 ・ E. aerogenesトリプトファナーゼの優れたL・トリプトファン生産性の原因を明らか に する ため、 この 酵素 を精 製し 、諸 性質 の検討を行った.その結果、この酵素は大腸 菌 のト1Jプト フん ナー ゼと 比較 して 、熱 失活 温度 が約5℃高 く、 また37℃での長時間 の保温でも失活しにくいこと見いだした.この安定性がE. aerogenesトリプトフんナー ゼ がL トリ プト ファ ン生 産に おい て優秀 な成 績で あっ た理 由の ーつ であると思われ た .ま た、こ の酵 素は 同一 サブ ユニ ット から なる4量体 であ り、 分解 反応の至適pHは 8であることも明らかにした.
4.ピル ビン 酸生 産能 及びElaerogenesの トリ プト ファ ナー ゼ生 産能 を同 時に もつ組換 え大腸菌によるL.トリプトフんン生産.
ピ ル ピ ン 酸 生 産 菌E. coli W14851ip2をpKT901EAで 形 質転 換 し た 株W148 51ip2 /pKT901EAを用 いて 、一 つの 菌株で ピル ビン 産生 産と トリ プト ファ ナー ゼを 同時に生 産させ 、引 き続 きL.トリプトフんン合成を行う事を試みた.ピルピン酸発酵の培養途 中にIPTGと 同時 に種 々の 栄養 素を 補充 添加 する ことにより、培養開始から40時間後に は、70g/literのグルコースから28.6g/literのピルピン酸が培養液中に蓄積し、さらに菌 体内夕 ンパ クの 約30%を しめ るトリ プト フん ナー ゼが 誘導 され た. この 発酵 液に、イ ンドー ル、 アン モニ アを加え、L.トリプトフんン合成反応を行ったところ反応開始か ら36時間後には2 3.7g/literのLートリプトファンが合成された.っまりこれまでトリプ トフん ナー ゼ誘 導と ピル ピン 酸発 酵を 別々 に行 っていたものが一度の培養で済むよう になっ たこ とで 時間 が短 縮さ れ、 発酵 液を その まま酵素反応液とすることで生産プロ セスが 大幅 に簡 略化 され るこ とに なっ た. さら に、乳加工品製造の副生物で安価なバ イオマ スの ひと つで ある ラク トー スが 、グ ルコ ースに代わる炭素源として、またIPTG に代わるインデューサーとして利用できる事を実証した.
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以上 のように本研究では、まずE. aerogenes SM‑18のトリプトファナーゼ遺伝子の 塩基配列を明らかにし、その知見をもとに、E aerok.enes SM‑18のトリプトフんナーゼ の大量発現系を確立した.これにより従来のE. aerogenes野生株を用いる場合と比較し てL.トリプトフんン収量を大幅に増加させることができた.またEI aerogロesSM.18ト リ プト ファナーゼはL.トリプトフんン合成能に優れていることを実証し、それは酵素 の 安定 性に よる もので ある 可能 性を 示唆した.さらにトリプトフんナーゼの誘導とピ ル ピン 酸を同時に生産する方法を確立し、もってトリプトフんナーゼによるL.トリプ トフんン生産の簡略化に成功した.
学位論文審査の要旨
主査 教授 冨田房男 副査 教授 干葉誠哉 副査 助教授 横田 篤 学位論文題名
En とer 〇ろac とer aer 〇ge 凡es トリプトファナーゼによる L 一トリプトファン生産
本 論文 は 日本 語 本 文40頁、 図25、 表8、 引 用文 献56、 緒言 、総括、 英文総括 を含む 8章からなり、ほかに参考論文3編が付されている。
ト1Jプトファ ナーゼを用 いたイン ドール、 ピルピン 酸、アンモニアからのL‑トリプ ト フんン生 産は、基質 に対する 高い収率 ゆえ工業 的に最も有望な方法とされてきた.し かし原料であるピルビン酸の安価な供給方法が確立されていないこと.、あるいは実用に 供 するに足 る優れた酵 素がなか ったこと などから 、現在にいたるまで実際に工業的に実 用 化された 例は無い. 本研究ではトリプトファナーゼによるL.ト1Jプトファン生産を実 用 化可能な ものとする ために、 遺伝子操 作による りプトファナーゼ大量発現とそれによ るL‑トリプト フんン収量 の増大、 及びピル ビン酸生 産とトリプトファナーゼ誘導を同時
′ に 行 う こ と に よ る 生 産 プ ロ セ ス の 簡 略 化 に つ い て 述 ぺ ら れ て い る . 第2章で は 、E. aerogenesトリプトフ ァナーゼ 遺伝子の 塩基配列 を決定し 、構造遺 伝 子tnaAと、そ れに付随す るtnaC,tnaB 及 びプロモ ーター配列と思われる部分を特定 し た.よっ てこの遺伝 子は大腸 菌と同様 のトリプ トファナーゼオベロンとして存在して い ることを 明らかにし た.また このトリ プトフん ナーゼのアミノ酸配列は他の細菌由来 の トリプト ファナーゼ やチロシ ンフェノ ールリア ーゼのアミノ酸配列と高い相同性を有 していることを明らかにした.
第3章では、E. aerogenesトリプト ファナー ゼ構造遺伝子tnaAを発現ベクターにク ロ ーン化し 、大腸菌内 で発現さ せた.こ れにより 、E. aerogenes SM‑18の約3.6倍のト リ プトフん ナーゼを、 カタボラ イト抑制 を受ける ことなしに得ることに成功した.さら に このよう なE. aerogenesトリプトフんナーゼを大量発現した大腸菌菌体を用いること で、E. aero.genesSM.18と比ベ、L.トリプトファンの収量を顕著に増加させることに成 功 した.ま たE.aer0齶nesのト リプトフ んナーゼ はE.c釧のそれと比して迅速かつ高収
率でインドール、ピルピン酸、アンモニアからL.トリプトファンを合成し、L.トリプト フ ァ ン 合 成 の 目 的 に 適 し た 優 れ た 酵 素 で あ る こ と を 明 ら か に し た . 第4章 で はE. aero.genesト リプトフ ァナーゼ を精製し 、諸性質 の検討を行 ってい る, そ の 結果 こ の酵 素 は 大腸 菌 のト リ プ トフ ァ ナ ーゼ と 比較 し て く熱 失 活温 度 が約 5℃高く、 また37℃で の長時間の保温でも失活しにくいこと見いだした.E.aer〇ぴロes トリプト フんナー ゼがL.ト リプトフ ァン生産に おいて優 秀な成績 であった 理由が、こ の安 定 性 によ る もの であ る可能性 を指摘し た.また 、この酵素 は同一サ ブユニッ トか ら な る4量 体 で あ り 、 分 解 反 応 の 至 適pHは8.0で あ る こ と も 明 ら か に し た . 第5章 で は ピ ル ピ ン 酸 生 産 菌E.cDnW1485Jゆ2を 第3章 で 構 築 し た ト リ プ ト フ ァ ナー ゼ 高 発現 プ ラス ミド で形質転 換し、こ の菌でピ ルピン産生 産とトリ プトフん ナー ゼを同時 に生産さ せ、引き続きL.トリプトファン合成を行う事を試みている.ピ´レピ ン酸 発 酵 の培 養 途中 にIPTGと 同時に種 々の栄養 素を補充 添加するこ とにより 、培養開 始から40時間後には70g/literのグルコースから28.6g/1iterのピ レピン酸を得、さらに 菌体 内 タ ンパ ク の約30%を 占めるト リプトフ ァナーゼ を誘導させ た.この 発酵液に イ ンドール 、アンモ ニアを加 えること で、L.トリ プトフん ン合成反 応を行い 、反応開始 から36時間 後には23.7g/literのL.ト リプトフ ァンを得た.これにより従来トリプト フん ナ ー ゼ誘 導 とピ ルピ ン酸発酵 を別々に 行ってい たものを一 度の培養 で行うこ とが 可能 と な り、 も って 生産 プロセス の時間短 縮と簡略 化に成功し ている. さらに、 乳加 工品 製 造 の副 生 物で 安価 なバイオ マスのひ とつであ るラクトー スが、グ ルコース に代 わる 炭 素 源と し て、 ま たIPTGに代 わ るイ ン デ ュー サ ーと し て 利用 で き る事 を 実証し た.
以上のよ うに本研 究では、Enterobacter aerogenes由来のトリプトファナーゼとその 遺伝子に ついての 基礎的知 見を明ら かにし、 さらにこの酵素を用いたL.トリプトファ ン 生 産 の 効 率 化 、 実 用 化 に 必 要 な 技 術 的 課 題 の い く っ か を 解 決 し た . よって、 審査員一 同は別に 行った最 終試験の 結果と合わ せて、本 論文の提 出者川崎 公 誠 は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。