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博 士 ( 農 学 ) 楠 本 華 織

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 楠 本 華 織

A mechanism of density‑dependent population decline          during winter in the grey red‑backed vole     Myodes rztfocayzz.ts: Effects of low temperature,   photoperiod and food on humoralimmune function

(エゾヤチネズミにおける冬季の密度依存的な個体数減少のメカニズム:

    

体 液 性 免 疫 機 能 に 対 す る 低 温 、 日 長 お よ び 餌 の 効 果 )

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

野ネズミ類の個体数変動は, Rodent cyclぎと呼ばれ,多くの研究者を魅了してきた.日本では,エ ゾヤネズミを中心に研究が進められ,様々な個体数変動パターンが密度依存的なプロセスによって生 じることが明らかにされている.特にほとんどすべての個体群において,密度依存的な個体数減少が 冬季に確認され,季節的な密度依存陸要因の重要陸が指摘されてきたが,冬季の生態に関する情報が 十分でないことから,密度依存的な個体数減少のメカニズムはまだ解明されていない.冬季における 野外調査の困難性を補ううえで,飼育環境下において,低温下でのエゾヤチネズミの生理機能を調べ ることは,冬季の密度依存的な個体数減少のメカニズムを解明する糸口となると考えられる.そこで 本研究では,生命の維持に重要な役割を果たす免疫機能に着目し,エゾヤチネズミについて以下の4 項目に関して室内実験を行った.1)最適な免疫応答をもたらす温度条件および免疫応答期間(第2 章),2)免疫機能に対する低温ストレスの効果(第3章),3)低温下での免疫機能に対する日長 の効果(第4章),4)低温および短日下での免疫機能に対する餌の効果(第5章)である,また,

第6章では,冬季の密度依存的な減少メカニズムに関して議論した.

第2章では,最適な免疫応答をもたらす温度条件および免疫応答期間を検討した.免疫機能が温度や 日長などの環境条件の影響を受けることは実験動物であるマウスなどを使った先行研究で明らかにさ れており,実験に関するプロトコールはマウスを基盤に確立されている.例えば,抗原暴露から第一 次応答の抗体産生(IgM)のピークは,抗原暴露から4〜6日目であることが知られている.しかし,

抗体産生過程は動物種によって異なるとも考えられ,これまで用いられてきた実験プロトコールの有 効性をエゾヤチネズミにおいて確認する必要がある.そこで,飼育室生まれの個体を用いて,17℃,

20℃,23℃および26℃の温度条件で,体液陸免疫応答を調べた.実験個体は,それぞれ,各々の温度 下において,十分量の餌および水を与えられた. 10日問飼育後,病原陸のない抗原である羊赤血球 を腹腔内投与し,投与6日後に抗体産生量を赤血,球凝集反応法を用いて調べた.その結果,23℃で飼 育された個体の免疫反応が最も高く,代謝コストが最も低いことが示唆された.また,この最適温度 下にお ける抗体 産生の ピークに ついて ,飼育室生まれ侮源暴露後4日,6日,8日,10日)およ び野外捕獲(抗原暴露後6日,8日)の個体を用いて調べた,その結果,抗体産生は,抗原暴露後6

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8日 目に ピー クを 持っ こ とが 明ら かと なっ た .従 って,エゾヤチネズミ においては,体液陸免疫応 答 に対 する 最適 温 度は23℃ 前後 で あり ,そ の最 適温 度 条件 下に おい て, 第 一次応答の免疫能を測定 す るた めの 最適 期 間は68日で あ ると 考え られ ,エ ゾ ヤチ ネズ ミに おい て 免疫応答に関する実験プ ロ トコ ール を確 立 する こと がで き た.

第3章で は, 免 疫機 能に 刻す る低 温 スト レス の効 果を 検 討した.冬季におけ る低温ストレスは代謝コ スト を 増大 させ ると 考え ら れる .小型げつ歯類 の多くは,低温下において, エネルギー摂取量を増大 きせ , 体温 調節 およ び体 状 態の 維持のために, 代謝に多くのエネルギーを配 分し,体温調節などにか かわ る 器官 を肥 大さ せる こ とが 知られている. また,マウスにおいて,低温 ストレスによって免疫機 能が 低 下す るこ と, 免疫 機 能と 体温調節機能と の問にトレードオフがあるこ とが示唆されてきた.本 実験において,飼 育室生まれ及び野外捕獲のエ ゾヤチネズミを用いて,日長コントロール下(LD 12:12) での 免 疫機 能に 対す る低 温 の効 果を調べた.そ の結果,飼育室生まれ及び野 外捕獲個体ともに,低温

(5℃) に曝された個 体は,室温(23aC)に保たれ た個体よりも,餌摂取量が有 意に増加し,内蔵肥大が みら れ た. さら に, 低温 に 曝さ れた個体はより 劣った免疫反応を示した.こ のことから,マウスと同 様に,寒冷地域に 生,息するエゾヤチネズミに おいても,低温により代謝 コストの増大および免疫機能 の低下が生じ,体 温調節機能と免疫機能との間 にトレードオフが存在する ことが示唆された.従って,

低温 は エゾ ヤチ ネズ ミの 生 理機 能に負の影響を 与えるため,冬季の密度依存 的な個体数減少を導く要 因になりうること が示された,

4章 では ,低 温下 での 免 疫機 能に 対す る日 長 の効 果を 検討し た.厳寒及ぴ低資源である 冬季を生き 残 るた めに ,小 型 げっ 歯類 は生 理 機能などを適応させてきたと 考えられる.そのーっとし て,短日条 件 によ り, 免疫 機 能が 高め られ る ことが知られている.本実験 では,このような生理反応 の存在をエ ゾヤチネズ ミにおいても確認した.第3章において低温下(5℃)で 免疫機能が低下することが明らかに されてきた エゾヤチネズミにおいて,低温(5℃)日長コントロール下(LD 12:12)の個体と低温(5℃)短 日 下(LD 10:14)の個体の免疫応答 の比較を行った.その結果, 低温短日条件下の個体は, 低温日長コ ン トロ ール 下の個体に比べて,免疫 応答の値が有意に高く,室 温(23℃)日長コントロール 下の個体の 免疫応答と 同等の値を示した,

第5章で は, 低温 描 よび 短日 下で の 免疫 機能 に対 する 餌 の効 果を検証した.エゾヤチ ネズミを冬季の 環境(短日低温下;LD 10:14,5℃)で,餌コン トロール区,餌付加区,餌 制限区の3グループに分け,

実験 を 行っ た. 餌コ ント ロ ール 区の エゾヤチネズミには ,実験期間中,市販の固形資 料および水を自 由摂 取 させ ,餌付加区では, 実験開始日から抗原暴露まで の10日間は,十分量の固形 資料および水と3 gの ヒマ ワり の種 を 与え ,抗 原暴 露 後か ら6日 間 は, 十分 量の 固 形資 料お よび 水に 加 え,ヒマワりの 種 と 燕 麦 を そ れ ぞ れ3gず つ 与 え た . ま た, 餌制 限 区に おい てほ 実 験開 始か ら抗 原暴 露 まで の10日 間は , 十分 量の 固形 資料 お よび 水を 与え ,抗 原 暴露 後6日問 ,各々の個体が低温短日 下で摂取する餌 量の90%量 の固 形資 料お よ び十 分量 の水を与えた.その 結果,餌制限区のエゾヤチネ ズミは,餌コン トロ ー ル区 およ び餌 付加 区 のエ ゾヤ チネズミに比べ有意 に体重を減少させ,免疫反応 に関しては餌付 加区 の 個体 に比 べ有 意に 弱 い免 疫反 応を示した.また, 餌制限区のエゾヤチネズミの 肝臓,腎臓およ び´心臓は,餌コン トロール区および餌付加区 に比べ有意に肥大していた. これらの結果より,短日低 温下 に おけ る餌 制約 は, 体 温調 節お よび体状態の維持に 対して相対的に高いエネルギ ー配分を課し,

免疫反応の低下をも たらすと考えられた

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6章において本研究の結果を総括し,冬季環境下,すなわち,低温,短日,低資源下でのエゾヤチ ネズミの免疫機能に関して議論を行い,エゾヤチネズミにおける冬季の密度依存的な個体数減少のメ カ ニ ズ ム に つ い て 考 察 し た . ま た , 今 後 の 研 究 課 題 に つ い て も 述 べ た ,

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学位論文審査の要旨

    

 itL

論文題名

A mechanism of density‑dependent population decline         during winter in the grey red‑backed vole     Myodes rufocanus: Effects of low temperature,   photoperiod and food on humoralimmune function

(エゾヤチネズミにおける冬季の密度依存的な個体数減少のメカニズム:

    

体 液 性 免 疫 機 能 に 対 す る 低 温 、 日 長 お よ び 餌 の 効 果 )

本研究は91ぺージの英文論文で,引用文献104を含み,6章で構成 されている,他に参考論文3 編が添え られている.

我が国では,野ネズミ類の個体数変動の研究は,エゾヤネズミを中心に進められ,様々な個体数変動 パターンが密度依存的なプロセスによって生じることが明らかにされている,特に顕著な密度依存的 個体数減少が冬季に確認され,冬季の生態の重要陸が指摘されてきたが,野外調査の困難陸から,冬 季の密度依存的な個体数減少のメカニズムはまだ解明されていない,野外調査を補ううえから,飼育 環境下において,低温下での生理機能を調べることは,そのメカニズムを解明する糸口となると考え られる.そこで本研究では,生命の維持に重要な役割を果たす免疫機能に着目し,エゾヤチネズミを 用いて次の4項目の実験を行った.1)最適た免疫応答をもたらす温度条件および免疫応答期間(第 2章),2)免疫機能に対する低温ストレスの効果(第3章),3)低温下での免疫機能に対する日 長の効果 (第4章),4)低温短日下での免疫機能に対する餌の効果(第5章)である,また,第6 章では,冬季の密度依存的な減少メカニズムに関して議論した.

2章では,実験動物のマウスなどで確立されてきた実験プロトコールの有効性をエゾヤチネズミに おいて確認するため,免疫応答に関する最適な温度条件およ乙膠抜応答期間を検討した, 4つの温度 条件(17℃,20℃,23℃,26℃)で体液陸免疫応答を比べた結果,23℃で飼育された個体の免疫反応 が最も高く,代謝コストが最も低かった.また,この最適温度下における抗体産生は,抗原暴露後6

‑8日目にピークを持っことが明らかとなった.従って,エゾヤチネズミにおいては,体液陸免疫応

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隆 裕

一 郎

     

     

信 賀

  

齊 齋

秋 笹

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答 に 対する 最適温 度は23℃ 前後で あり, 免疫応 答能を 測定ナ るための 最適期 間は6〜8日であ ると考 え ら れ, エ ゾ ヤ チネ ズ ミ に おい て 免 疫 応答 に 関 す る実 験プ ロトコ ールを 確立す ること ができ た.

3章では ,免疫 機能に 対する 低温ス トレス の効果 を検討し た.小 型げっ 歯類の 多くは,低温下に茄 い てエネ ルギー 摂取量 を増大 させ, 体温維 持などに 多くの エネルギーを配分し,体温調節などにかか わ る器官 を肥大 させる ことが 知られ ている ,本実験 におい て,エゾヤチネズミを用いて,標準日長下 (12L:12D)での免疫機能に対する低温の効果を調べた結果,低温(5℃)に曝された個体は,室温(23℃)

に 保たれ た個体 よりも ,餌摂 取量が 有意に 増加し, 内蔵肥 大がみられた.さらに,低温に曝された個 体 はより 劣った 免疫反 応を示 した. このこ とから, 低温に より体温維持コストの増大および免疫機能 の 低下が 生じ,体温調節機能と免疫機能との間にトレードオフが存在することが示唆された.従って,

低 温はエ ゾヤチ ネズミ の生理 機能に 負の影 響を与え るため ,冬季の個体数減少を導く要因になりうる ことが示された.

4章では ,低温 下での 免疫機 能に対 する日 長の効 果を検討 した. 小型げ っ歯類では,厳寒及ぴ低資 源 である 冬季を生き抜くために,短日条件で免疫機能が高められることが知られている.本実験では,

エゾヤチネズミにおいて,低温(5℃)標準日長下(12L:12D)の個体と低温(5℃)短日下(10L:14D)の個体 の 免疫応 答を比 較した .その 結果, 低温短 日条件下 の個体は,低温標準日長下の個体に比べて,免疫 応 答の値 が有意 に高く ,室温 標準日 長下の 個体の免 疫応答と同等の値を示すことが明らかになった.

第5章 では, 低温短 日下での 免疫機 能に対 する餌の効果を検証した.エゾヤチネズミを冬季の環境(短 日低 温下;10L:14D,5℃)で,対照区,餌付加区,餌制限区の3グル‐プに分け,実験を行った.その 結果 ,餌制 限区のエ ゾヤチ ネズミ は,対 照区お よび餌 付加区 の個体 に比べ有意に体重を減少きせ,餌 付伽 区の個 体に比し て有意 に弱い 免疫反 応を示 した. また, 餌制限 区のエゾヤチネズミの肝臓,腎臓 およ び´湖 蔵は,対 照区および餌付加区に比べ有意に肥大していた.これらの結果より,低温短日下に おけ る餌制 約は,体 温調節 および 体状態 の維持 に対し て相対 的に高 いエネルギーを配分し,免疫反応 の低 下をも たらすも のと考 えられ た.

6章にお いて本 研究の 結果を 総括し ,冬季 環境下( 低温, 短日, 低資源 )でのエゾヤチネズミの免 疫 機能に 関して 議論を 行い, エゾヤ チネズミ におけ る冬季の密度依存的な個体数減少のメカニズムに つ いて考 察した ,

以上 のよう に本研 究は, 野ネズ ミ類の 冬季の 密度依存 的な個体数減少機障に関して新たな知見を提供 し, 個体数 変動の 解明に 貢献し た.得 られた 成果は学 術的に貴重なものであり,野生動物管理のため の資 料とし ても高 く評価 される .よっ て審査 員一同は ,楠本 華織が 博士0隻 学)の学位を受けるに充 分な 資格を 有する ものと 認めた .

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参照

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