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日本内科学会雑誌第104巻第12号

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Academic year: 2021

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(1)

はじめに

 特 発 性 冠 動 脈 解 離(spontaneous coronary artery dissection:SCAD)は,非動脈硬化性心筋 梗塞の原因となる稀な循環器疾患である.冠動 脈造影症例における頻度は 0.1~1.1%程度と報 告され1),心筋梗塞症例で検討した単一施設の 後ろ向き観察研究では,50歳未満女性の心筋梗 塞の 24.2%がSCADだったという報告もある2) SCADの発症機序は明確に解明されているわけ ではないが,内膜の先天性異常や産褥期のホル モン異常などの影響が考えられている3).特徴 的な冠動脈造影所見として,解離による偽腔形 成,偽腔内血腫により真腔が圧排されることで 起こる多彩な狭窄像などが報告されている.ま た,通常の冠動脈造影では動脈硬化性病変との 鑑別が困難で,冠動脈血管内超音波(intravascu-lar ultrasound:IVUS) や 干 渉 断 層 法(optical coherence tomography:OCT)によりはじめて SCADと診断される症例もある4).今回特徴的な 冠動脈造影所見を呈したSCADの2症例を経験し たため報告する.

症例1

 患者:41 歳,女性.主訴:胸痛,頸部痛,左 前腕痛.現病歴:2014 年 5 月某日 13 時半,ス ポーツ観戦中に座っている状態で,突然,左前

特発性冠動脈解離と考えられた

若年女性の2 例

森 隆浩  足立 太一 田中 雅之 小林 正樹  千嶋 巌 駒ヶ嶺 順平  日比 朝子  矢吹 拓  加藤 徹 上原 慶太 要 旨  症例1は41歳,女性.非労作時に左前胸部と喉,左前腕に鈍痛を認め受診された.心電図変化は認めなかった が,硝酸剤点滴により症状が軽快し,急性冠症候群疑いで冠動脈造影を施行した.右冠動脈房室結節枝に90%狭 窄を認め,特徴的な病変形態から特発性冠動脈解離と診断した.症例2は38歳,女性.非労作時の前頸部絞扼感 を主訴に救急搬送された.心電図でST変化を認め,急性冠症候群の疑いで冠動脈造影を施行した.回旋枝後壁枝 に 75%狭窄を認め,病変形態から特発性冠動脈解離と診断した. 〔日内会誌 104:2563~2570,2015〕 ポイント ・特発性冠動脈解離は若年女性に多く発症する. ・動脈硬化機序によらない心筋梗塞の原因となる. ・特徴的な冠動脈造影所見がある.

Key words spontaneous coronary artery dissection,急性心筋梗塞,若年女性

〔第661回関東地方会(2014/12/13)推薦〕〔受稿2015/04/30,採用2015/07/14〕 独立行政法人国立病院機構栃木医療センター内科

Case Report;Two cases of a young woman with spontaneous coronary artery dissection.

Takahiro Mori, Taichi Adachi, Masashi Tanaka, Masaki Kobayashi, Iwao Chishima, Junpei Komagamine, Asako Hibi, Taku Yabuki, Toru Kato and Keita Uehara:Department of Internal Medicine, National Hospital Organization Tochigi Medical Center, Japan.

(2)

胸部から頸部にかけての痛みを自覚し,徐々に 左上腕に放散するため,独歩で当院に来院した. 主訴は急性冠症候群に準ずる胸痛を訴 えることが多い.  既往歴:偏頭痛,腰椎ヘルニア.内服薬:ス マトリプタン 50 mg錠 頭痛時屯用.家族歴: 祖母63歳 突然死.生活歴:喫煙歴6年前に禁 煙,それまでは 20 本/日×7 年,飲酒歴 機会 飲酒程度,1 年以内の出産歴なし(1 回経産). 周産期や4回以上の出産歴はSCADの原因 となるので要問診.  身 体 所 見: 身 長 167 cm, 体 重 72 kg. 体 温 36.2℃.脈拍 60/分,整.血圧 147/92 mmHg. 心音S1・S2正常,心雑音なし,呼吸音は清,そ の他特記すべき事項なし.検査所見:赤血球 455 万/μl,Hb 12.7 g/dl, 白血球 6,300/μl, 血 小板 17.8 万/μl,HbA1c 5.6%,トロポニンT陰 性,UA 3.7 mg/dl,総コレステロール 256 mg/ dl,HDLコレステロール 76 mg/dl,LDLコレス テロール 129 mg/dl,AST 21 IU/l,LD 183 IU/

l,CK 290 IU/l,CK-MB 9 IU.入院時心電図(図 1):心拍数 60/分,洞調律,正軸,ST-T変化認 めない.胸部X線撮影:心胸郭比 43%,肺うっ 血なし,その他特記すべき事項なし.経胸壁心 エコー検査:左室拡張末期/収縮径 43/28 mm, 左室駆出率 66%,壁運動異常は認めなかった.

臨床経過

 入院時に硝酸剤を投与したところ,胸痛が改 善したため,急性冠症候群(acute coronary syn-drome:ACS) を 疑 い, 冠 動 脈 造 影(coronary angiography:CAG)を施行した.右冠動脈房室 結節枝(#4PD)全長にわたり,びまん性の軽度 から高度の狭窄を認め(図2),硝酸イソソルビ ド冠動脈内投与でも狭窄が解除されないことか ら,特発性冠動脈解離と診断した.末梢病変で あり,IVUSやOCTは施行できず.経皮冠動脈形 成術(percutaneous coronary intervention:PCI) も施行しなかった.  第2病日にトロポニンT陽性,CK 730 IU/lと上 昇を認め,急性心筋梗塞と診断した.合併症な く経過し,第 4 病日に軽快退院された.来院時 より一貫して心電図変化は認められなかった.

症例2

 患者:38歳,女性.主訴:頸部絞扼感.現病 歴:2014 年 6 月某日 13 時半,昼食後安静時に 頸部の絞扼感を認め,15分ほどで軽快した.同 日 18 時に外出中,非労作時に 15 分ほど頸部絞 扼感が持続し,自然消失した.帰宅途中 3 回目 の絞扼感を認め,当院に救急搬送された.既往 歴:30 歳 胃潰瘍.家族歴:父 66 歳 心筋梗 塞.生活歴:喫煙歴 20 本×18 年/日,飲酒歴な し,1 年以内の出産歴なし(3 回経産).身体所 見:身長 169 cm,体重 51 kg.体温 36.7℃.脈 拍 73/分,整.血圧 133/71 mmHg.呼吸数 30/ 分.SpO2:100%(room air). 心 音S1・S2 正 常,心雑音なし,呼吸音は清,その他特記すべ き事項なし.内服薬:なし.検査所見:赤血球 601 万/μl,Hb 13.6 g/dl, 白血球 6,800/μl, 血 小板 22.4 万/μl,HbA1c 5.6%,トロポニンT陰 性,UA 3.7 mg/dl,総コレステロール 256 mg/ dl,HDLコレステロール 76 mg/dl,LDLコレス テロール 129 mg/dl,AST 18 IU/l,LD 217 IU/

一口メモ

一口メモ

(3)

l,CK 121 IU/l,CK-MB 7 IU/l. 入 院 時 心 電 図 (図3):心拍数73/分,II III aVFでST上昇,V2~ V6 でST低下が認められた.来院 30 分後には胸 痛は改善し,心電図上もST変化は消失した.胸 部X線撮影:心胸郭比 56%,肺うっ血なし,そ の他特記すべき事項なし.経胸壁心エコー検 査:左室拡張末期/収縮径43/30 mm,左室駆出 率 57%,下壁基部の低収縮を認めた. 図2 症例1 冠動脈造影所見 一言メモ:冠動脈解離による右冠動脈房室結節枝(#4PD)のびまん性狭窄を認める. 図3 症例2 入院時心電図 一言メモ:来院時にⅡⅢaVfにてST上昇,V2-6ST低下認めたが,30分後にST変化は消失し ている. 来院時 30分後 来院時 30分後

(4)

臨床経過

 ACSを疑いCAGを施行した.右冠動脈に狭窄は なく,回旋枝後壁枝(#14-2)にびまん性に軽 度から高度な狭窄病変を認め(図 4),症例 1 と 同様に硝酸イソソルビド冠動脈内投与でも狭窄 は解除されず特発性冠動脈解離と診断した.末 梢病変であったため,IVUSやOCTは施行できず. PCIは施行していない.  第2病日にトロポニンT陽性・CK上昇(416 IU/l) を認め,急性心筋梗塞と診断した.合併症なく 経過し,第 4 病日に軽快退院された.

考察

 SCADは,非動脈硬化性心筋梗塞の原因となる 稀な循環器疾患である.冠動脈造影症例におけ る頻度は0.1~1.1%程度と報告され1),心筋梗塞 症例で検討した単一施設の後ろ向き観察研究で は,50 歳未満女性の心筋梗塞の 24.2%がSCAD だったという報告もある2).Mayo Clinicにおけ る30年間の後ろ向き観察研究では,平均年齢は 43 歳,女性症例が 82%と多く,周産期に発症 したのが女性症例の 18%と報告している5)  発症機序に関しては,潜在的な素因として, 線維筋性異形成や産後のホルモンによる影響, Marfan症候群やEhlers-Danlos症候群のような結 合組織疾患などとの関連が報告されている6) 図4 症例2 冠動脈造影所見 一言メモ:左冠動脈優位である.冠動脈解離による回旋枝後壁枝(#14-2) のびまん性狭窄を認める.右冠動脈に狭窄病変は認めない.

(5)

潜在的な素因がある患者で,冠動脈内膜の栄養 血管に微小出血が起こることで解離が生じる. 解離による偽腔が形成され,内膜flapまたは血 腫により血流障害が生じることで虚血に至ると 考えられている.  症状は胸痛や放散痛,呼吸困難,発汗,嘔気 などで,臨床症状でのACSとの鑑別は困難であ る.心電図変化はST上昇を認めたものが 49% で,ST低下を認めていたものが 7%,ST変化を 認めなかったものが 44%と報告されている5)

症例 2 は左冠動脈優位であり,II III aVFのST上 昇は下後壁を灌流する#14-2 の閉塞による同領 域の貫壁性虚血と,その鏡面像としてのV2~V6 でST低下をみているものと考えられた.また, 来院から 30 分後に胸痛とST変化が消失してお り,CAGの際にもびまん性狭窄の状態で血流が 確認されていることから,自然再灌流したもの と考えられた.  SCADの診断は,冠動脈造影により 3 つのtype に分類される(表 1)4).  Type3 は一見動脈硬化病変のように描出され るため,見落とされる可能性があり,注意が必 要である.本症例は,解離腔が描出されなかっ たが,軽度から高度の多彩な狭窄像が認められ ることからType2 のSCADに分類されると考え られた.  治療については現時点で確立されたものはな い.急性期治療においては,進行中の虚血や血 行動態の悪化した症例,主幹部病変例ではPCIや 冠動脈バイパス術(coronary artery bypass graft-ing:CABG)などの血行再建術が施行されている のが現状である.今回我々が経験した症例は, 末梢病変の急性心筋梗塞合併例であり,どちら も保存的加療により軽快された.SCADの発症病 変部位と治療法について,2015年から過去5年 間の文献をもとに検討した(表 2)7,8) 表1 SCADのCAGでの造影像 Type 冠動脈腔内 特徴的構造 Type 1 解離腔が描出される 真腔・偽腔が認められる. Type 2 解離腔が描出されない びまん性に軽度から高度の多彩な狭窄像が認められる. Type 3 アテローム性動脈硬化様の造影所見を呈する.OCTやIVUSにより解離腔が描出される.

表2 発症部位別の治療方法の検討

Studies Number of case Initial treatment N Entry:N (initial treatment)re SCAD/death Conservative PCI CABG

Nievees R et al 19 13 LADd:7 LCXd:2 RCAd:1 LADp:1 LCXp:2 6 LADp:4, RCAp:1, LCXp:1 0 1 (PCI)/0 K. H. Mortensen et al 22 7 LADd:2 LADp:4 RCAp:1 13 LADp:12 RCAp:1 2 LMT:2 1 (PCI)/ 1 (CABG) Present study 2 2LCXd:1 RCAd:1 0 0 0

left main trunk:LMT, left anterior descending coronary artery:LAD, left circumflex coronary artery: LCX, right coronary artery:RCA, proximal:p, distal:d

(6)

 いずれの研究においても,冠動脈末梢病変に 対しては保存的治療で経過を見ており,予後も 良好だった.末梢病変では,障害された心筋組 織が小さく保存的に経過を見ることができると 考えられる.  また,長期的な保存的治療についても統一さ れた見解はないが,ACSと同様にアスピリンとβ 遮断薬が使用されている9).再発率は 17%程度 と報告されており5),現在,アンジオテンシン

変換酵素阻害薬(angiotensin converting enzyme inhibitor:ACE-i)とスタチンを用いた再発予防 を 目 的 と し た 臨 床 研 究(ClinicalTrials.gov: NCT02008786)が行われており,今後の治療法 の確立が期待されている.

最終診断

特発性冠動脈解離

おわりに

 動脈硬化性リスクのない若年女性の心筋梗塞 であり,特徴的な冠動脈造影所見から特発性冠 動脈解離と診断した. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし 文 献

1) Kamran M, et al : Spontaneous coronary artery dissection : case series and review. J Invasive cardiol 20 : 553― 559, 2008.

2) Saw J, et al : Non-atherosclerotic coronary artery disease in young women. J Am Coll Cardiol 58 : B113, 2011. 3) Saw J, et al : Spontaneous coronary artery dissection : association with predisposing arteriopathies and

precipi-tating stressors and cardiovascular outcomes. Circ Cardiovasc Interv 7(5):645―655, 2014.

4) Saw J : Coronary angiogram classification of spontaneous coronary artery dissection. Catheter Cardiovasc Interv 84 : 1115―1122, 2014.

5) Tweet MS, et al : Clinical features, management, and prognosis of spontaneous coronary artery dissection. Circu-lation 126 : 579―588, 2012.

6) Alfonso F, Bastante T : Spontaneous coronary artery dissection : novel diagnostic insights from large series of patients. Circ Cardiovasc Interv 7 : 638―641, 2014.

7) Romero-Rodríguez N, et al : Spontaneous coronary dissection and its long-term prognostic implications in a cohort of 19 cases. Rev Esp Cardiol 63 : 1088―1091, 2010.

8) Mortensen KH, et al : Spontaneous coronary artery dissection : a Western Denmark Heart Registry study. Cathe-ter Cardiovasc InCathe-terv 74 : 710―717, 2009.

9) Vrints CJ : Spontaneous coronary artery dissection. Heart 96 : 801―808, 2010.  

(7)

 中規模総合病院の内科部門を担当していま す.総合内科を中心として臓器別に偏らない内 科全般にわたる診療を行っています.豊富な症 例 数 と 多 彩 な カ ン フ ァ レ ン ス に よ る 適 切 な フィードバックを行い,常に成長し続けること ができる環境を提供しています. 【病棟】 内科病棟 2 病棟 102 床 (HCU4 床,感染症陰圧個室 6 床) 【内科医師数】 常勤 11 名 ( 総合内科医 7 名,消化器内科医 1 名, 循環器内科医 3 名) 【診療実績】  年 間 入 院 患 者 数 1,173 名, 年 間 外 来 患 者 数 23,116名,救急車件数2,543件/年,病床稼働率 80.4%,在院日数 15 日 【対象疾患】  内科全般の二次救急疾患までの診療を担当. 2013 年度の主要疾患は,肺炎・糖尿病・心不 全・脳梗塞・肝硬変. 【当院の特徴】 ①生涯学び続けることができる総合内科医  総合内科・総合診療を志す医師にとって,学 びが終わるということはない.日々新たに出会 う症例,主訴に対応する能力を学び,最新の臨 床情報にアンテナを張りながら,自ら学び続け 適切な医療を提供できるよう努力している. ②病歴・身体所見を重視し実践できる医師  検査重視の昨今,working diagnosisなどの概 念をもとに,病歴・身体所見を重視した診療を 提供すべく,カンファレンス・回診などを行っ ている.定期的に外来症例・入院症例をふり返 り,臨床診断における思考過程の検証と失敗の 共有を行っている. ③場を選ばず,どんな地域でも役に立つ医師  病院総合医を育てているが,希望に応じて, 他科研修や診療所研修も可能であり,どんな地 域・どんな場でも役に立つ医師を育てる.特に 地域との連携を重視し,看取り症例のデスカン ファレンスなどを通じて周囲の多職種との連携 カンファレンスも定期的に開催している. 【具体的な研修】  当院内科は,内科単科であり,内科の他科ロー テーションはない.循環器科・消化器科の専門 医が,内視鏡や消化器手技,心臓カテーテル検 査など,他院の総合内科では経験しないような 症例・手技の経験を日々積むことが可能である.  院内他科研修も可能で,過去には皮膚科や整 形外科の外来研修を行い,専門医からの指導を 症例掲載施設紹介

国立病院機構 栃木医療センター内科

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受けながら,総合診療医や家庭医としての臨床 経験を積むことができる.  近隣診療所との連携も進んでおり,病院総合 内科医として勤務しながら,近隣診療所での在 宅訪問診療を行うことも可能.病院医療と在宅 医療を同時並行で行うことで,相補的な学びが できる.  豊富なカンファレンスや各種横断チームの参 画も行っており,病院全体に関わる仕事への積 極的な参加も行っている.また,国内外の学会 発表や論文発表・臨床研究などにも積極的に参 加している. ホームページ  http://www.tochigi-mc.jp/hospital_department/ 1/1/ 文責:森 隆浩

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