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日本内科学会雑誌第104巻第6号

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Academic year: 2021

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はじめに

 サルコイドーシスは原因不明の全身性肉芽種 疾患であるが,臓器病変の中でも心病変が致命 的になることが多く1~3),心病変を合併したサ ルコイドーシスは慎重な経過観察と治療が必要 である.心臓サルコイドーシスの治療はステロ イドが中心となるが,ステロイド投与中であっ ても経過中に再燃することも少なくない.再燃 時にはステロイドの再増量が基本となるが,ス テロイド不応症例やステロイド投与の副作用が 問題となり,治療困難となることがある.また, 心臓サルコイドーシスに対する非ステロイド治 療では,現在明確な治療指針はない.今回提示 する症例は,心臓サルコイドーシスで 5 mg/日 のステロイド維持投与中に心病変の再燃を認 め,メトトレキサートの併用を行い,有効に治 療できた.

心臓サルコイドーシス再燃に対して

メトトレキサートの併用が

有効であった1例

伊勢 孝之  高木 恵理  岩瀬 俊  楠瀬 賢也  山口 浩司   八木 秀介  山田 博胤  添木 武  若槻 哲三  佐田 政隆 要 旨  心臓サルコイドーシスの標準的治療はステロイドであるが,ステロイドを投与中であっても再燃を認めること も多く,またステロイドの多岐にわたる副作用も問題となることが多い.症例は 70 歳代,女性.心臓サルコイ ドーシスの診断でプレドニンを維持量 5 mg/日で加療されていた.定期検査で施行した心電図で陰性T波,前壁 心尖部に新規の左室壁運動異常を認めた.FDG-PET,Gaシンチグラフィーで壁運動異常部位に一致して集積を 認め,心臓サルコイドーシスの再燃と判断した.本症例では,ステロイドの副作用として糖尿病,肥満,白内障 などを認めており,ステロイド増量が躊躇され,メトトレキサートの併用を開始した.メトトレキサート開始 後,特に副作用を認めず,心電図ならびに左室壁運動異常の改善が認められた.ステロイド投与で再燃を認める 心臓サルコイドーシス症例にはメトトレキサート併用も考慮すべきであると考えられた. 〔日内会誌 104:1175~1179,2015〕 ポイント ・心臓サルコイドーシスの主たる治療はステロイドであるが,経過中に再燃することがある. ・ステロイドは副作用が多く,増量が困難となることも少なくない. ・心サルコイドーシスに対する非ステロイド治療では,現在明確な治療指針はない. Key words 心臓サルコイドーシス,再燃,ステロイド,メトトレキサート,副作用 〔第111回四国地方会(2014/11/30)推薦〕〔受稿2015/01/19,採用2015/03/03〕 徳島大学病院循環器内科 Case Report;Successful treatment with methotrexate and low-dose corticosteroids for recurrent cardiac sarcoidosis. Takayuki Ise, Eri Takagi, Takashi Iwase, Kenya Kusunose, Koji Yamaguchi, Shusuke Yagi, Hirotsugu Yamada, Takeshi Soeki, Tetsuzo Wakatsuki and  Masataka Sata:Department of Cardiovascular Medicine, Tokushima University Hospital, Japan.

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症例

 患者:70 歳代,女性.主訴:労作時息切れ. 現病歴:2012 年心室中隔基部の菲薄化および 壁運動異常,心室性期外収縮の多発があり,精 査施行し,心臓サルコイドーシスと診断した. プレドニゾロン 30 mg/日より開始し,5 mg/日 の維持量に漸減し,寛解状態が得られていた. ステロイドの副作用として糖尿病,高血圧,不 眠,白癬,中心性肥満,齲歯など多数認めた. 2014 年 5 月,心電図で陰性T波,心エコー検査 で心尖部の壁運動異常を認め,心臓サルコイ ドーシスの再燃が疑われ,入院した.既往歴: 高血圧,糖尿病.家族歴・生活歴:特記事項な し.身体所見:身長 155 cm,体重 65 kg.体温 36.7℃.脈拍 58/分,整.血圧 120/72 mmHg. 心音はS1・S2 正常,心雑音なし.心膜摩擦音 (-).呼吸音はnormal vesicular sound.下腿浮 腫なし.その他,特記事項なし.内服薬:pre- donine 5 mg/日,carvedilol 10 mg/日,candesar-tan  cilexetil  4 mg/日,rosuvastatin  calcium 

2.5 mg/日,alogliptin benzoate 25 mg/日.血液 検査所見:赤血球392万/μl, Hb 13 g/dl,白血球 8,900/μl, 血 小 板 27 万/μl,AST 17 IU/l,ALT  110 IU/l,LD 210 IU/l,CK 73 IU/l,BUN 13 mg/ dl,Cr 0.65 mg/dl,HbA1c 6.3%,CRP 0.05 mg/ dl,BNP 174 pg/ml. ステロイドの副作用として,糖尿病,高 血圧,不眠,白癬,中心性肥満,齲歯な ど多数認めた.  心 電 図 検 査 所 見(図 1): 入 院 時 の 心 電 図 (2014 年 5 月) は 2014 年 2 月の心電図と比較 し,I,II,aVL,aVF,V3~6 で陰性T波を認め る.胸部レントゲン写真:心胸郭比 54%.肺 うっ血なし,胸水なし.経胸壁心臓エコー検査 (図2左)ならびにFDG-PET検査所見(図2右): 経胸壁心臓エコー検査左室前壁中部から心尖部 にかけ,asynergy認める.また,エコーでの新 規asynergy部に一致してFDG-PET集積を認める. 冠動脈造影:左右冠動脈に有意狭窄なし. 一口メモ 図1 心電図検査所見 Ⅰ Ⅱ aVL aVR Ⅲ aVF V4 V5 V6 V3 V2 V1 Ⅰ Ⅱ aVL aVR Ⅲ aVF V4 V5 V6 V3 V2 V1 2014年5月 2014年2月

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臨床経過

 冠動脈支配領域に一致しない左室壁運動異常 と,壁運動異常部位に一致するFDG-PET集積亢 進を認め,心臓サルコイドーシスの再燃と診断 した.ステロイドは 5 mg/日の維持投与量を内 服していたが,ステロイドの副作用を多数合併 しており,ステロイドの増量が躊躇された.副 作用が比較的少なく,長期の投与を行いやすい メトトレキサートの併用を行う方針とした.メ 図3 臨床経過 画像所見 入院 10日 20日 30日 ECG (V6誘導) Therapy 病日 PSL 5 mg/day

UCG FDG-PET UCG

息切れ MTX 8 mg/week MTX 消失 6 mg/week FDG-PET 収縮期 拡張期 拡張期 収縮期 拡張期 収縮期 図2 心エコー/FDG-PET検査所見 PET-CT 収縮期 拡張期 左室前壁中部から心尖部に かけ局所壁運動低下認める してFDG-PET集積を認める局所壁運動低下の部位に一致

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トトレキサートを入院後 6 mg/週の内服投与か ら開始し,8 mg/週に増量した.メトトレキサー ト併用開始後,特に副作用を認めず,心電図で の陰性T波,心尖部の壁運動異常は改善し,FDG-PETでの心筋集積は消失した.退院後もステロ イド5 mg/日とメトトレキサート8 mgの併用を 行い,サルコイドーシスの再燃なく,良好な経 過が得られている(図 3). 本邦においてメトトレキサートはサル コイドーシスの場合 5~8 mg/週を維持 量としていることが多い.

考察

 全身性サルコイドーシスの治療の主体はステ ロイドであるが,効果が不十分な症例や再燃を 認めることがしばしばある.特に心臓サルコイ ドーシス病変は他の臓器病変に比べ,ステロイ ド不応症例が多く認められることが報告されて いる4)図4).ステロイド抵抗性やステロイドの 副作用が懸念される症例には非ステロイド治療 を考慮すべきであるが,現在のところ,非ステ ロイド治療の確立された治療プロトコールはな い.非ステロイド治療として,これまで種々の 免疫抑制薬や抗菌薬,抗ヒトTNFαモノクローナ ル抗体などが試みられてきた5~8).その中で免 疫抑制薬のメトトレキサートは,自己免疫疾患 での使用経験が多く,比較的安全に長期間投与 でき,また,心臓サルコイドーシスでプレドニ ンとの併用で有効であった報告もあり8),心臓 サルコイドーシスの非ステロイド治療として用 いられることが比較的多い. メトトレキサートの副作用として①骨 髄抑制,②間質性肺炎,③感染症,④肝 障害,⑤リンパ増殖性疾患,⑥粘膜障 害,⑦消化器症状などがあり,注意が必 要である.また,投与禁忌として妊婦・ 挙児希望(催奇形性),高度腎障害(Ccr <30 ml/分),活動性感染症などがある. 本症例ではステロイドの副作用として 糖尿病,肥満,白内障などを認めてお り,ステロイド増量が躊躇され,メトト レキサートの併用を開始した.メトトレ キサート開始後,特に副作用を認めず, 心機能の改善を認め,有効であった.ス テロイド抵抗性の心臓サルコイドーシ ス患者にはメトトレキサート併用が有 効である可能性があり,併用治療を検討 すべきである. 一口メモ 一口メモ 図4 ステロド治療の効果と限界 サルコイドーシス1328症例中ステロイド治療症例163症例(12%) 心臓55%,眼29%,肺12%がステロイド投与 0% 20% 40% 60% 80% 100% その他 肺病変 眼病変 心病変 消失 軽快 不変 増悪 (Tsuda T, et al:サルコイドーシス治療ガイドライン策定1999, 141より改変引用)

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最終診断

心臓サルコイドーシス再燃 心臓サルコイドーシスに対し,5 mg/日のステ ロイド維持療法中の女性患者で,冠動脈支配領 域に一致しない左室壁運動異常とFDG-PETで壁 運動異常部位に集積を認め,また,免疫抑制剤 投与により左室壁運動異常が改善したことよ り,総合的に診断した.

おわりに

 心臓サルコイドーシスは経過中再燃すること も珍しくなく,慎重に臨床経過を観察し,再燃 が疑われる症例はステロイド増量や免疫抑制剤 の使用を考慮する必要がある.ステロイドは副 作用も多く,メトトレキサートなどの免疫抑制 薬を併用することで,ステロイドの副作用を増 悪させることなく,心臓サルコイドーシスの病 勢コントロールに有用な場合がある. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし 文 献 1) Sharma OP, et al : Myocardial sarcoidosis. Chest 103 : 253―258, 1993. 2) Perry A, Vuitch F : Causes of death in patients with sarcoidosis. A morphologic study of 38 autopsies with clini-copathologic correlations. Arch Pathol Lab Med 119 : 167―172, 1995. 3) Ise T, et al : Extensive late gadolinium enhancement on cardiovascular magnetic resonance predicts adverse out-comes and lack of Improvement in LV function after steroid therapy in cardiac sarcoidosis. Heart 100 : 1165― 1172, 2014. 4) Tsuda T, et al : サルコイドーシス治療ガイドライン策定.1999,141. 5) Kouba DJ, et al : Mycophenolate mofetil may serve as a steroid-sparing agent for sarcoidosis. Br J Dermatol 148 :  147―148, 2003.

6) Judson  MA,  et  al : Efficacy  of  infliximab  in  extrapulmonary  sarcoidosis : results  from  a  randomised  trial.  Eur  Respir J 31 : 1189―1196, 2008. 7) Park DJ, et al : Minocycline for the treatment of ocular and ocular adnexal sarcoidosis. Arch Ophthalmol 125 :  705―709, 2007. 8) Nagai S, et al : Treatment with methotrexate and low-dose corticosteroids in sarcoidosis patients with cardiac  lesions. Intern Med 53 : 427―433, 2014.  

参照

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