はじめに
肺炎は死亡率,発症率ともに高い重要な疾患 である.つまり,肺炎の診療には,専門医だけ でなく非専門医も携わる機会が多く,日本の肺 炎診療の質を向上させるためには優れた肺炎診 療ガイドラインが不可欠である.しかし,ガイ ドラインというものは,エビデンスが揃わなけ れば掲載できないことから,そもそも未完成で ある.さらに診療そのものが社会性を帯びてい ることから,時代とともに流動する性質を排除 することはできない.診療のガイドラインは絶 対的な基準ととらえられがちであるが,実は相 対的な基準であって,絶対的な基準を目指すた めの改訂作業の途上にある.つまり,ガイドラ インは常に発展途上であることがまず前提であ る.そのうえで,本項ではこれまでの肺炎診療 ガイドライン作成の経緯と今後への展望につい て述べていきたい.1.日本における肺炎の重要性
肺炎は現在,日本人の死因の第 3 位の疾患で ある.これまでの日本人の死因における肺炎の 推移を振り返ってみると,明治時代の終わりか ら昭和初期にかけて肺炎,結核,胃腸炎といっ た感染症が死因の上位にあり,特にスペイン風 邪が流行した1918年前後は肺炎が死因の第1位肺炎診療ガイドライン:
日本における総括と今後への展望
今村 圭文1) 河野 茂2) 要 旨 肺炎は死亡率,発症率ともに高い重要な疾患である.つまり,肺炎の診療には専門医だけでなく非専門医も携 わる機会が多く,日本の肺炎診療の質を向上させるためには優れた肺炎診療ガイドラインが不可欠である.エビ デンスがまだ十分ではなかった時代に初版の市中肺炎診療ガイドライン,院内肺炎診療ガイドラインが作成さ れ,その後,よりエビデンスに裏づけられ,かつシンプルで実用性の高いガイドラインとしてそれぞれが改訂さ れた.また,超高齢社会の日本では市中肺炎と院内肺炎のいずれにも分類しがたい中間的な肺炎症例も多く,医 療・介護関連肺炎として新たに定義され,診療ガイドラインが作成された.今後は,便宜性も考慮し,これらの ガイドラインを 1 つにまとめた肺炎統一診療ガイドラインの作成が進められている.EBM(evidence-based medicine)の重要な要素はエビデンスだけではない.医療者の経験・技量,患者の背景・意向・価値観も考え合 わされたガイドラインが今後も作成されることが望まれる. 〔日内会誌 104:2228~2236,2015〕Key words 肺炎,診療ガイドライン,EBM
1)長崎大学病院第二内科,2)長崎大学
The Cutting-edge of Medicine;Guidelines for pneumonia:Overview of guidelines for pneumonia in Japan and prospects for the future. Yoshifumi Imamura1) and Shigeru Kohno2):1)Second Department of Internal Medicine, Nagasaki University Hospital, Japan and 2)Nagasaki
となっていた(図 1).背景にあるのは,感染症 は常に社会の変化に影響されるという事実であ る.感染症に社会の構造変化を介さずに初めて 影響を与えたのは,1942年頃から実用化された ペニシリンによる感染症治療といってよい.日 本でも社会の変化に加えて,ペニシリンをはじ めとした種々の抗菌薬が使用されるようにな り,肺炎を含めた感染症による死亡者は大幅に 減少した.しかし,1980年代より肺炎による死 亡は減少から増加に転じ,現在は死因の第 3 位 となるに至っている.肺炎の年齢階級別死亡者 数のデータからは肺炎死亡者の 96%以上が 65 歳以上の高齢者であり,超高齢社会という社会 構造そのものが肺炎死亡者増加の主因であると 考えられる(図2).世紀をまたいだ肺炎診療ガ イドラインの熟成過程においても,常に社会が 変化していることが実感できる. 現在の日本における高齢者の割合は 25%と すでに極めて高い状態であるが,今後40年間で さらに40%まで増加すると推測されている.感 染症の治療においては,新規抗菌薬の開発は 滞っており,既存の抗菌薬や他の補助的薬剤 を,さらには薬剤以外のあらゆる手段をも十二 分に活用しなければならない.複雑に絡み合う 多様な事象を読み解き,誰もが再現性のある, 質の高い医療を実施するためにも,ガイドライ ンにかけられる期待と重圧は極めて大きい.
2. 日本における肺炎診療ガイドラインの
歴史
肺炎は,呼吸器専門医や感染症専門医のみな らず,全ての臨床医が診療に携わる機会が多い common diseaseの 1 つである.しかし,感染症 以外の疾患(例えば高血圧症や糖尿病,悪性腫 瘍といった疾患)と異なり,複数の宿主が共通 の病原菌にさらされることから,単に高い治療 効果を追求するだけでなく,耐性菌の蔓延を防 ぐことも考慮しなければならない.肺炎の病態 や原因菌は多種多様であり,治療薬となる抗菌 薬の種類も多いために,目の前の患者の治療効 果だけでなく,耐性菌問題にも配慮した最適な 治療薬を選択することは,専門医にとっても時 として難題であり,ましてや非専門医には極め て難しい作業である.そのような問題を解決す る手段の 1 つとして診療ガイドラインが登場 し,専門医だけでなく非専門医も含めた肺炎診 療の標準化と質向上を目的として,日本呼吸器 図1 日本人の死因の推移(厚生労働省による人口動態統計より作成) 350 300 250 200 150 100 50 0 死亡数(人口 10 万対) 結核 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 年 肺炎 胃腸炎 脳血管疾患 悪性新生物 心疾患学会からまず 2000 年に市中肺炎診療ガイドラ インが,次いで 2002 年に院内肺炎診療ガイド ラインが作成された1,2). 初期の肺炎診療ガイドラインでは,それまで 個々の経験や医療施設の方針によって異なって いた重症度の判定が統一化された.しかし残念 ながら,重症度判定を設定するための十分なエ ビデンスに乏しく,日本化学療法学会が1997年 に作成した「呼吸器感染症における新規抗微生 物薬の臨床評価法」に準拠した重症度判定法が 採用された.重症度を判定する因子として,胸 部X線での陰影の拡がり,体温,脈拍,呼吸数, 脱水,白血球,CRP,PaO2が設定されたが,こ れらは炎症の強さや患者のバイタルサインから 重症度を評価したものであり,必ずしも予後を 予測する因子ではなかった. そこで,市中肺炎,院内肺炎診療ガイドライ ンの第二版では,それまでに蓄積されたデータ をもとに予後予測因子が解析され,市中肺炎で は年齢,脱水,呼吸不全,意識障害,血圧低下 の 5 項目(A-DROP,図 3)3),院内肺炎では免疫 不全,呼吸不全,意識障害,年齢,脱水・乏尿 の 5 項目(I-ROAD,図 4)4)が重症度分類の項目 として設定された.これらの方法は簡便に患者 の予後を予測でき,特に市中肺炎では治療の場 を決める目安として現在の臨床の現場で頻用さ れている.この改訂作業には,ガイドラインがエ ビデンスなしには作成できないことと,新しい エビデンスを創出する方向性を示すこと,常に 次の改訂の準備段階にあることが示されている. 日本のガイドラインが欧米のガイドラインと 大きく異なるのは,原因菌の推測に基づいて治 療薬を推奨している点である.市中肺炎は肺炎 球菌性肺炎に代表される細菌性肺炎と,マイコ プラズマ肺炎に代表される非定型肺炎の 2 つに 大別できる.欧米のガイドラインでは市中肺炎 の治療薬はこの両者をカバーする薬剤,すなわ ちレスピラトリーキノロンや,β―ラクタム系薬 とマクロライド系薬の併用が推奨されている. 一方,日本のガイドラインでは軽症,中等症で は細菌性肺炎と非定型肺炎を鑑別し,前者では ペニシリン系薬,後者ではマクロライド系薬を 図2 肺炎の年齢階級別死亡率(厚生労働省による平成23年の人口動態統計より作成) 2.2 0 ~ 10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~ 70~ 80~ 90~ 100歳~ 0.5 0.2 0.4 0.5 0.7 0.8 1.2 1.7 3.2 5.5 11.2 20.5 43.4 93.7228.7 555.8 1176.2 2325.4 3977.5 6291.5 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 人口 10 万対(人)
第一選択薬とすることを推奨している.そし て,重症では初期治療の失敗が致命的となりや すいことを考慮し,細菌性肺炎をカバーする広 域β―ラクタム系薬と,非定型肺炎をカバーする マクロライド系薬,ニューキノロン系薬,テト ラサイクリン系薬のいずれかとの併用を推奨し ている. 細菌性肺炎と非定型肺炎を鑑別するという日 本の戦略は,ニューキノロン系薬をはじめとす る有用性の高い抗菌薬の感受性を維持するため に取られた手段である.しかし,細菌性肺炎と 非定型肺炎の鑑別法が確立されていなければ, この戦略は絵に描いた餅になりかねない.初版 の市中肺炎診療ガイドラインでは細菌性肺炎と 非定型肺炎の鑑別を,60歳未満,基礎疾患がな い,家族内・集団内流行,頑固な咳,比較的徐 脈,胸部聴診所見に乏しい,WBC正常,スリガ ラス状陰影・skip lesion,グラム染色で原因菌な しの 9 個の項目で判断することが推奨された が,これらは十分なエビデンスに基づいて設定 されたものではなかった.そこで,第二版のガ イドラインではこれをよりエビデンスに基づい たものへと見直し,感度や特異度の劣る項目が 削除され,60歳未満,基礎疾患がない,頑固な 図4 院内肺炎重症度分類(I-ROADシステム) CRP ≧20 mg/dl 胸部X線写真陰影の拡がりが一側肺の 2/3 以上 Immunodeficiency 悪性腫瘍または免疫不全状態 Respiration SpO2 90% 以下(PaO2 60 Torr 以下)
Orientation 意識障害あり Age 男性 70 歳以上,女性 75 歳以上 Dehydration 乏尿または脱水 軽症群 3 項目以上 2 項目以下 (-) (+) 中等症群 重症群 図3 市中肺炎重症度分類(A-DROPシステム) Age 男性 70 歳以上,女性 75 歳以上 Dehydration BUN 21 mg/ml 以上または脱水あり Respiration SpO2 90% 以下(PaO2 60 Torr 以下)
Orientation 意識障害あり Pressure 血圧(収縮期)90 mmHg 以下 0 1 or 2 項目該当 3 項目該当 4 or 5 項目該当 *ショックがあれば 1 項目のみでも超重症とする 軽症 外来治療 中等症 外来または入院 重症 入院治療 超重症 ICU 入院
咳,胸部聴診所見に乏しい,喀痰が少ない・グラ ム染色で原因菌なし,WBC正常の 6 項目が設定 された(表 1).非定型肺炎の診断は特に病初期 は困難であるが,Watanabeらの報告ではマイコ プラズマ肺炎の診断において感度 80.4%,特異 度74.5%と有用であったことが報告されている5). このように市中肺炎,院内肺炎の両ガイドラ インは初版から第二版に改訂される過程でエビ デンスにできるだけ基づいた内容で,簡便かつ 明確な方針を示し,臨床の場で広く活用される ようになった. しかしながら,これらの市中か院内かという 単純な分け方では対応できない症例が増加して いることが近年では問題となっていた.例え ば,高齢者で誤嚥性肺炎により入退院を繰り返 す症例や,介護施設や病院の療養病床で発症し た肺炎,通院で血液透析を受けている患者に発 症した肺炎は,従来想定されていた市中肺炎, 院内肺炎とは異なる臨床像を呈することが多い (図 5).このような市中肺炎と院内肺炎の中間 的な肺炎が新たに医療・介護関連肺炎として定 義され(表 2),2011 年には診療ガイドライン として世に出た6). 医療・介護関連肺炎は米国で作成された医療 ケア関連肺炎も参考として作成されているが, 日本と米国では医療環境や医療制度が大きく異 なる.前述の通り,日本では肺炎は死因の第 3 位であり,肺炎死亡者全体の 96%以上が 65 歳 以上の高齢者である(図2).85歳以上の高齢者 の肺炎による死亡率は性別にかかわらず,若年 成人の 1,000 倍以上であり,90 歳以上の男性に 限れば死因の第 1 位である.これに対し,米国 における肺炎は死因の 8 位に過ぎず(図 6),日 本と同様に 65 歳以上での死亡者が大半を占め るものの,その絶対数は少ない.85歳以上の疾 患別死亡率では第 6 位で,第 1 位の心疾患の約 10分の1程度の死亡率である(図7).このよう に,同じ先進国であっても,米国と日本では肺 炎,特に高齢者肺炎が社会に与えているインパ 表1 細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別3) 1.年齢60歳未満 2.基礎疾患がない,あるいは軽微 3.頑固な咳嗽がある 4.胸部聴診上所見が乏しい 5.喀痰がない,あるいは迅速診断で原因菌らしきもの がない 6.末梢白血球が10,000/μl未満である 1~5のうち3項目以上, ➡非定型肺炎疑い または1~6項目のうち4項目以上陽性 図5 市中肺炎,院内肺炎,医療・介護関連肺炎の分類 市中肺炎 (CAP) 院内肺炎(HAP) 高齢者を中心として,単純な CAP や HAP ではない症例が多く含まれる → 医療・介護関連肺炎(NHCAP) 健常者 軽度基礎疾患 通院血管内治療 最近の入院歴 在宅介護 介護施設 一般病床 (急性期) 一般病床 (亜急性期) 療養病床 (医療保険型) 療養病床 (介護保険型)
クトは大きく異なる.肺炎に限らず日本の医療 は欧米の影響を受けやすい傾向があるが,日本 の実際の医療環境や社会環境を考慮した診療ガ イドラインの作成が重要であり,特に肺炎につ いてはそのことが当てはまる.高齢者肺炎の影 響が限られている米国では,肺炎診療で重視さ れるのは耐性菌か否かであり,その観点から耐 性菌の関与が少ない市中肺炎と,耐性菌の関与 が多い院内肺炎/医療ケア関連肺炎に二分され ている(図 8).一方,日本では耐性菌だけでな く,繰り返す誤嚥性肺炎に代表される終末期の 肺炎の要素も重要であり,院内肺炎と医療・介 護関連肺炎を分けた分類としている(図 9). また,米国との医療制度の違いから,日本で 表2 医療・介護関連肺炎(NHCAP)の定義6) 1.長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している 2.90日以内に病院を退院した 3.介護*を必要とする高齢者,身体障害者 4.通院にて継続的に血管内治療(透析,抗菌薬,化学 療法,免疫抑制薬等)を受けている *介護の基準 PS3:限られた自分の身の回りのことしかできない,日中の 50%以上をベッドか椅子で過ごす,以上を目安とする 1.には精神病床も含む 図6 米国人の死因TOP10(2011年米国CDC報告より) 0 人 60 人 120 人 180 人 240 人 心疾患 悪性新生物 COPD 事故 脳血管疾患 アルツハイマー 糖尿病 肺炎 腎不全 自殺 人口 10 万対 人口 10 万対 図7 米国における85歳以上の疾患別死亡率
(Centers for Disease Control and Prevention. National Center for Health Statistics. National Vital Statistics Report)
16.9 自殺 腎疾患 肺炎 糖尿病 アル ツハ イマー 事故 脳血管疾患慢性呼吸器疾患悪性新生物心疾患 292.1 430.9 289.5 967.1 333.8 943.7 697.9 1676.2 4111.6 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 人口 10 万対(人)
は自宅で寝たきりの患者や療養病床の患者と いった介護を取り込む必要がある(図 10).こ ういった両国の違いを勘案し,日本では医療・ 介護関連肺炎として独自のガイドラインを作成 するに至った. 医療・介護関連肺炎は患者背景が不均一であ り,予後を示唆するための適切な重症度分類の 設定が困難であったことから,重症度により治 療薬を選択するのではなく,代わりに個別の症 例ごとに必要と考えられる治療方針を示した 「治療区分」が採用された(図11).具体的には 外来治療のA群,入院治療で耐性菌を考慮しな いB群,入院治療で耐性菌を考慮したC群,重症 で人工呼吸器や集中治療室管理が必要な患者に 対して広域かつ強力な治療を行うD群の 4 群に 分類し,それぞれの群に推奨される抗菌薬を示 している.ここで特筆すべきなのは,人工呼吸 器管理や集中治療室管理を行うD群に入れる判 断を,医学的な重症度のみで行わないよう明言 していることである.重症度だけでなく,患者 の社会的背景や本人・家族の意志を考慮し,主 治医が総合的に必要と思われる治療区分を判断 することを本ガイドラインでは推奨している. 高齢者の予後不良な終末期の肺炎をめぐる様々 図10 米国と日本の肺炎患者背景の違い 市中肺炎
(CAP) 従来の CAP 医療ケア関連肺炎(HCAP) 院内肺炎(HAP)
市中肺炎
(CAP) 従来の CAP 医療・介護関連肺炎(NHCAP) 院内肺炎(HAP)
健常者 軽度基礎疾患 通院血管内治療 最近の入院歴 在宅介護 介護施設 一般 急性期病床 長期療養型病床 健常者 軽度基礎疾患 維持透析 最近の入院歴 在宅治療 ナーシングホーム 長期療養施設 亜急性期療養施設 集中治療室 一般 急性期病床 集中治療室 米国 日本 図8 米国の肺炎治療の考え方 院内肺炎 医療ケア関連肺炎(HCAP) 市中肺炎 感受性菌 耐性菌 肺炎 図9 日本の肺炎治療の考え方 院内肺炎 市中肺炎 感受性菌 耐性菌 医療・介護関連肺炎 (NHCAP) 耐性菌 誤嚥性肺炎 肺炎
な倫理的問題を考慮に入れたものであり,他国 に先駆けて超高齢社会となった日本だからこそ できた先進的なガイドラインであるといえる.
3.今後の展望
現在の肺炎診療ガイドラインは前述のように 市中肺炎診療ガイドライン(第二版,2007年), 院内肺炎診療ガイドライン(第二版,2008年), 医療・介護関連肺炎診療ガイドライン(初版, 2011 年)の 3 つが存在している. ガイドラインに求められる要素として,エビ デンスに裏づけられた高い臨床効果,実地医療 に即した内容,簡便性,教育性などがあるが, いずれのガイドラインもこれらの点に配慮され 作成されている.また,病態ごとに 3 つに分け られていることで細やかな対応が可能となって いる. しかし,肺炎という 1 つの疾患のガイドライ ンが 3 つに分けられていることで,特に非専門 医にはわかりにくいという欠点がある.肺炎の 治療は,最終的には数パターンに集約されるた め,利便性や統一性を考慮すると,3 つのガイ ドラインを 1 つにまとめた新しい診療ガイドラ インが望ましいと考え,現在,呼吸器学会では この新しい肺炎統一診療ガイドラインを作成中 である.今回のガイドラインの要点としては, より単純・明瞭化し,使いやすいガイドライン であること,Mindsに準拠し,適切なクリニカ ルクエスチョンが設定され,エビデンスと実地 医療に則した推奨が記載されていること,日本 の肺炎診療で問題となっている高齢者の終末期 肺炎に対する対応がなされていることなどが挙 げられる. 今日の肺炎診療において,ガイドラインはな くてはならない存在となっている.しかし,ガ イドラインは決して医師個人の経験や裁量を無 視して,診療を強制するものではない.そもそ も,EBMで重要な要素とは,①エビデンス,② 医療者の経験・技量,③患者の背景・意向・価 図11 治療区分 NHCAP と診断され, ①人工呼吸器管理を必要とする ②ICU 等での集中管理を必要とする No Yes 入院管理を必要とする 耐性菌のリスク因子* D 群 No A 群 Yes あり C 群 なし B 群 *耐性菌のリスク因子 •過去 90 日以内に抗菌薬の投与 がなく,経管栄養も施行されて いない場合は,耐性菌のリスク なし群と判断. •ただし,以前に MRSA が分離さ れた既往がある場合は,MRSA の リスクありと判断.値観と多岐にわたっており,これらを考え合わ せて最善と考えられる医療を行わなければなら ない.その意味でも,医療・介護関連肺炎診療 ガイドラインで示された治療区分におけるD群 の判断基準は理にかなったものであり,今後の ガイドライン作成においても同様の配慮が重要 となるであろう. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし 文 献 1) 日本呼吸器学会成人市中肺炎診療ガイドライン作成委員会編:成人市中肺炎診療の基本的考え方.日本呼吸器学会, 東京,2000. 2) 日本呼吸器学会成人院内肺炎診療ガイドライン作成委員会編:成人院内肺炎診療の基本的考え方.日本呼吸器学会, 東京,2002. 3) 日本呼吸器学会 呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会:成人市中肺炎診療ガイドライン.日本呼吸器学 会,東京,2007. 4) 日本呼吸器学会 呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会編:成人院内肺炎診療ガイドライン.日本呼吸器 学会,東京,2008.
5) Watanabe A, et al : Nationwide survey on the 2005 Guidelines for the Management of Community-Acquired Adult Pneumonia : Validation of differentiation between bacterial pneumonia and atypical pneumonia. Respir Investig 50 : 23―32, 2012.
6) 日本呼吸器学会医療介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会編:医療・介護関連肺炎診療ガイドライ ン.日本呼吸器学会,2011.