はじめに
水・ナトリウム(Na)代謝異常は,異常が病 態として認識されていなかったり,あるいは看 過されたりする場合もある.医原性の場合も少 なくなく,中には致命的なものがあるため,全 人的治療の一環として真剣に対応する姿勢が求 められる.異常値あるいは見かけ上正常を示す 異常値に注意を傾け,解析すること,病態生理 を理解して鑑別診断と治療を行うことが重要で ある1).本稿では,水・Na代謝異常において知っ ておかなければならない基礎と実践的アプロー チについて概説する.1.体液の組成と分布
体液は体重の約 60%を占め,その 2/3(体重 の約 40%)は細胞内に,1/3(体重の約 20%) は細胞外に存在する.さらに,細胞外液の 3/4 (体重の約15%)は間質に,残りの1/4(体重の 約 5%)が血管内に分布している(図 1).体液 量と体水分量は厳密には異なるが,ほぼ同義に 扱われている. 体内に占める水分量の割合は,成人男性で約 60%,成人女性で約50%,高齢男性で約50%, 高齢女性で約45%とされる.性別,年齢,筋肉 脂肪量,細胞内外の分布,脱水や溢水により影 響を受けるので,体内水分比率を 0.45~0.6 の 範囲で計算しても大きな誤差とならない.代謝 性アシドーシスにおけるHCO3-の補充推定式 で,分布容積を体重の約50%とするのは,細胞 外よりも細胞内の濃度がやや低めだからであ る. 補正後HCO3-濃度=(体重×0.5×実測HCO3-濃 度+補充HCO3-量)/体重×0.5 血液は血球と血漿に分けられ,血漿は血清と水・ナトリウム代謝異常
要 旨 太田 樹 内田 俊也 水電解質異常は,高齢化,薬剤の増加,原疾患と合併症および治療法の 多様化とともに,日常臨床において遭遇する機会が増加している.中で も,水・ナトリウム(Na)代謝異常は頻度が高く,様々な疾患や病態に 関連し,患者の生活の質や予後に直接影響する.脱水,低Na血症,高Na 血症のいずれについても必要とされる基礎知識を再確認し,病態生理を理 解して適切かつ迅速に診断と治療を行わなければならない. 〔日内会誌 104:906~916,2015〕Key words 水電解質異常,脱水,低Na血症,高Na血症
帝京大学内科
Kidney Diseases and Metabolic Disorders―Basics and Applications Required for General Physicians. Topics:I. Disorders of water balance and sodium metabolism.
それ以外の凝固因子および固形成分に分けられ る(図 1).血漿量,血清量,血管内水分量は厳 密には異なるが,ほぼ同等に扱われる.血液量 を体重の1/13とするのは,体重の7.7%,77 ml/ kgとするのと同じである. 血液量を体重の7~8%(70~80 ml/kg)とし た場合,ヘマトクリット(Ht)を30~40%とし て血漿量=血液量×(1-Ht)であるので,血漿 量は体重の4~5%(40~50 ml/kg)として計算 される. Naは細胞膜を自由に通過できないが,血管壁 についてはほぼ自由に通過できるので,細胞外 液である血液と間質液のNa濃度は等しく,また 水分量は1:3の割合で分布する.赤血球は血管 内にのみ存在すると考えてよいので,出血の際 に必要な細胞外液輸液量は喪失血液量の約 4 倍 ということになる.逆に等張の細胞外液を輸液 した場合には,輸液量の 1/4 だけ血管内水分量 が増加することになる.
2.血液希釈と血液濃縮
Htあるいはヘモグロビン(Hb)濃度の変化か ら輸液による血液希釈や脱水による血液濃縮の 変化をある程度推定できる. 輸液前血液量×輸液前Ht=輸液後血液量×輸 液後Ht 輸液後血液量-輸液前血液量=(輸液前Ht/輸液 後Ht-1)×輸液前血液量 輸液前Ht 36%,輸液後Ht 30%の場合(前Ht/ 後Ht=1.2),体重50 kg,輸液前血液量を体重の 7%として,輸液による血液量増加は(1.2-1) ×50 ×0.07×=700 mlと推定できる.これは 2,800 mlの細胞外液が 1/4 だけ血管内に分布し たときの希釈にほぼ等しい. 血液希釈あるいは血液濃縮の推定は,血清総 蛋白(TP)濃度の変化による血漿量変化の推定 をしてもほぼ同様である. 輸液後血漿量-輸液前血漿量=(輸液前TP/輸液 後TP-1)×輸液前血漿量 輸液による希釈でのHt(またはHb)の変化が TPの変化よりも大きい場合は出血を疑う.透析 による除水では血漿量減少,血液濃縮のため透 析 後 の 血 清TP濃 度 が 上 昇 す る.PWI(plasma water index)は,透析前後での血漿量変化率を 体重変化率で割ったもので,PWI<2では体液量 過剰,PWI>4では体液量過少としてドライウェ イトの調整に用いられる. 図1 体液の分布 総水分量 体重の 60% 体重×0.6 細胞外液 体重の 20% 体重×0.2 細胞内液 体重の 40% 体重×0.4 血管外 (間質液) 体重の 15% 体重×0.15 血管内 (血漿) 体重の 5% 体重×0.05 30 l l l l l l l l 20 10 2.5 7.5 血液量 体重の 8%(80 ml/kg) 体重×0.08 血漿量 血液量×(1-Ht) Ht40%=0.4 として 体重×0.08×0.6 体重の 5%(50 ml/kg) 血球量 血液量×Ht 4 2.5 1.5 (体重 50 kg として)透析前血漿量-透析後血漿量=(1-透析前TP/ 透析後TP)×透析前血漿量 PWI=(1-前TP/後TP)/(1-後体重/前体重)
3.浸透圧と張度
浸透圧とは溶液中の全溶質の濃度を意味する が,細胞内外の水の移動を規定するのは有効浸 透圧物質の濃度,すなわち張度である.細胞外 では主にNaが,細胞内では主にKが有効浸透圧 物質である.ブドウ糖も有効浸透圧物質である が,代謝速度が速く,また高濃度でなければ張 度に占める割合は大きくない.血中尿素窒素 (BUN)は,溶質としては浸透圧物質であるが, 細胞膜を比較的自由に通過できるので張度に関 係しない.例えば腎不全における低Na血症で は,BUNの上昇により血漿浸透圧は上昇するが, 有効浸透圧物質であるNaの濃度は低下してい るため,張度は低下している. 細胞外液の有効浸透圧物質はほぼNaとそれ に伴う等量の陰イオンであるので,細胞外液の 張度は血清Na濃度の約 2 倍と近似される.細胞 外液と細胞内液の張度は等しいので,体内総 (Na+K)量を体内総水分量で割ったものが張度 の 1/2,すなわち血清Na濃度に等しいことにな る. 血清Na濃度=体内総(Na+K)量/体内総水分量4.水・Naバランスの調節
水バランスはイン(腸管吸収+輸液+代謝水) とアウト(尿量+不感蒸泄+便や汗)の差によ り規定される.代謝水は栄養素の代謝により生 じるH2Oで,約 5 ml/kg/日である.不感蒸泄は 呼気や皮膚からの蒸発であり,通常約15 ml/kg/ 日で電解質は含まない.発汗は異常排泄とみな す.不感蒸泄-代謝水=約10 ml/kg/日であるの で,経口摂取や経腸投与がなく,消化管液や発 汗からの排泄量を考慮せずに輸液のみを考慮し た場合には,輸液量=尿量+10 ml/kg/日とな る. 血清Na濃度は,腎尿細管でのNaおよび自由水 の再吸収と排泄によって調節される.主な調節 因子はアルドステロン,Na利尿ペプチド,抗利 尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)であ り,その作用とフィードバックを関連づけて理 解する(図2).体液量減少では,Na再吸収のた めにアルドステロンは上昇し,水再吸収のため にADHが上昇する.逆に体液量増加では,Na排 泄のためにアルドステロンは低下し,Na利尿ペ プチドは上昇し,水排泄のためにADHは低下す る.ADHの過剰あるいは抑制不全では水分貯留 図2 水・Naバランスの調節 口渇 循環血漿量↓(↑) 血漿張度↑(↓) 飲水 水欠乏(過剰) 尿中自由水↓(↑) ADH↑(↓) 尿中 Na↓(↑) RAA 系↑(↓) アルドステロン↑(↓) ノルエピネフリン↑(↓) Na 利尿ペプチド↓(↑)による体液量増加によりアルドステロンは抑制 され,Na利尿ペプチドは促進され,尿中Na排泄 量が増加する.血漿張度の上昇は,口渇とADH 分泌を促進して水摂取の促進と尿中水排泄の抑 制を起こし,血漿張度の低下はADH分泌を通常 完全に抑制する.体液量減少時に張度よりも体 液量の保持が優先されると,血漿が低張にもか かわらずADH分泌が抑制されずに低Na血症が 悪化する.
5.尿検査
一般的に腎外性Na喪失時には尿中Na濃度< 20 mEq/l, 腎 性Na喪 失 で は 尿 中Na濃 度 > 40 mEq/lとされるが,尿の濃縮あるいは希釈に 影響される.尿中Na濃度が低い場合,Na再吸収 が亢進している場合と,心因性多飲や尿崩症に より尿が希釈されている場合がある.1 日尿中 Na排泄量は,濃度が低くても尿量が多ければ 1 日排泄量は減少しない. 蓄尿検査による 1 日尿中Na排泄量測定が正確 であるが,スポット尿でのグラムクレアチニン 補正も同一患者での短期間の比較では誤差が少 ない.グラムクレアチニン補正は,尿中クレア チニン(Cr)排泄量を 1 g/日と仮定しての尿中 Cr濃度による 1 日尿中Na排泄量の推定である (mEq/gCr).女性や高齢者などで筋肉量が少な い場合には過大評価となるが,蓄尿による 1 日 尿中Cr排泄量が定量されていれば,それを用い て補正できる. 尿排泄率(fractional excretion:FE)は,糸球 体濾過量のうち尿細管で再吸収されずに排泄さ れた尿中排泄量の割合である.一般にFENa<0.5 ~1%がNa再吸収亢進の指標とされるが,FEは 糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR) によって影響されるため,解釈に注意する. FENa=尿中排泄量/糸球体濾過量=尿中Na濃度 ×尿量/(血清Na濃度×GFR)血清Na濃度 140 mEq/lで 1 日尿中Na排泄量を
100 mEq/gCrと し た 場 合,GFR 100 ml/分(約 150 l/日 ) で は 濾 過 量 140 mEq/l×150 l= 21,000 mEqであるので,FE=100/21,000=約 0.5%となり,GFR 20 ml/分(約 30 l/日)では 濾過量140 mEq/l×30 l=4,200 mEqであるので, FE=100/4,200= 約 2.5% と な る.GFR 100 ml/ 分では尿中Na 20 mEq/日でFEが約 0.1%,GFR 20 ml/分では尿中Na 40 mEq/日でFEが約 1%と なる.
6.脱水
“脱水”という用語は,水の喪失が主体である dehydrationと,Na喪 失 が 優 位 で あ るvolume depletionが混合している.高張性脱水とは,水 の喪失が優位な場合で通常高Na血症を来たす. 血漿張度が上昇するため口渇が強く表れるが, 細胞内から細胞外への水の移動により細胞外液 量が比較的保たれるため,循環不全症状は出に くい.飲水が制限される乳幼児,高齢者,意識 障害患者,口渇中枢障害患者などで起こりやす い.等張性脱水は,細胞外液と等張性にNaと水 が失われる場合で,血清Na濃度は変わらない. 細胞内から細胞外への水の移動は起こらず,細 胞外液量は減少するので循環不全症状が出る. 出血,コレラによる等張性の下痢,熱傷などで みられる.低張性脱水は,Naの喪失が水の喪失 よりも優位な場合であり,血漿張度が低下して 通常低Na血症を来たす.Naと水の欠乏に加えて 細胞外から細胞内に水が移動するため,細胞外 液量がさらに減少して循環不全症状が起こりや すいが,細胞内溢水となっているため口渇は強 くない.嘔吐,下痢,利尿薬,副腎不全などで みられる. 脱水あるいは体液量減少において,細胞外液 のうち間質液の減少を示唆する所見としては, 皮膚turgorの低下,口腔粘膜の乾燥,舌の乾燥 (縦皺),腋窩の乾燥,眼球陥没などがある.循 環血液量減少を示唆する所見としては,起立性頻脈(脈拍増加>30/分),起立性低血圧(収縮 期血圧低下>20 mmHg),爪の毛細管再充満時 間延長(基準:成人2~3秒以内,高齢者4秒以 内)などがある.バイタルサイン,身体所見と 合わせて体重,尿量,血液検査,尿電解質,心 胸郭比,下大静脈径,生体電気インピーダンス 法,中心静脈圧など多角的に体液量を評価する ことが必須である.
7.高Na血症
高Na血症は,相対的な水欠乏と相対的なNa過 剰であり,純粋な水欠乏,低張体液の喪失,高 張液の投与の場合に分けられる.入院患者の約 2%に起こるとされ,低Na血症より発症頻度は 低い2).これは口渇により水分補給が促進され ること,水分を伴わずにNaのみが補給される環 境は医原性が多いこと,尿濃縮により体内水分 量が保持されることが理由として考えられる. 逆に,口渇があっても水分摂取が制限される乳 幼児や高齢者,意識障害患者,人工呼吸器管理 患者,鎮静薬投与中の患者などでは発症しやす い. Na過剰による高Na血症は,重炭酸Naや高張食 塩液の輸液などの医原性によるものである.水 喪失の場合,その経路は腎外性と腎性に分けら れる.腎外性としては,不感蒸泄増加(発熱や 呼吸器感染症),熱傷,発汗過多,消化管からの 喪失(下痢,嘔吐,胃管留置)などがある.高 Na血症を起こす下痢は,便中の(Na+K)濃度 が等張以下のはずである.腎性の水喪失の原因 としては,血糖,グリセオール,マンニトール, 尿素などによる浸透圧利尿,中枢性尿崩症,腎 性尿崩症,ループ利尿薬などがある.腎性尿崩 症には,遺伝性(V2受容体異常やアクアポリン 2異常),高カルシウム(Ca)血症,低カリウム (K)血症,薬剤としてリチウム,デメクロサイ クリン,アムホテリシンB,V2 受容体拮抗薬な どがある.高Na血症の鑑別について図3に示す. 高Na血症では血漿張度が上昇して細胞内脱 水となるため口渇が強い.脳細胞萎縮により, 混乱,せん妄,痙攣,昏睡などの意識障害を呈 する.急性の脳細胞萎縮では,脳容積の減少と 血管の破綻が起こり,脳出血,くも膜下出血, 硬膜下血腫などを来たす.水とNaの欠乏により 循環血液量が減少した場合は,血圧低下,頻脈, 図3 高Na血症の鑑別 尿中Na排泄は尿中Na濃度,FE,mEq/gCr,1日尿中Na排泄量と病態から総合的に判断する 水欠乏 Na↓~→ 水↓↓ 高 Na 血症 Na 負荷 Na↑ 水↓~→ 医原性 重炭酸 Na 液 高張食塩液 低張性体液喪失 Na↓~→ 水↓ 中枢性尿崩症 腎性尿崩症 V2 受容体拮抗薬 高 Ca 血症 低 K 血症 高齢者 不感蒸泄増加 発熱 呼吸器感染症 人工呼吸器 飲水制限 口渇中枢障害 腎性水喪失 腎外性水喪失 下痢 嘔吐 胃液吸引 発汗過多 熱傷 外傷 腎性水喪失 腎外性水喪失 浸透圧利尿 ループ利尿薬 薬剤 高 Ca 血症 低 K 血症 高齢者過呼吸,筋痙攣や,循環不全による横紋筋融解, 肝障害,腎障害,心不全・心筋梗塞,脳梗塞な どを起こす.
8.低Na血症
低Na血症は外来患者の 4~8%,入院患者の 20~35%に認められるとされ,日常診療で遭遇 する頻度が高い.無症候性で軽度の低Na血症で あっても,転倒・骨折,認知機能障害,骨粗鬆 症,心不全などに関連し,患者の生活の質と予 後に直接影響する.低Na血症は相対的なNa欠乏 と相対的な水過剰を意味するが,Naと水の絶対 量はそれぞれ減少も正常も増加もとり得る.鑑 別にはまず高張性および等張性の低Na血症を 除外する.低張性低Na血症は体液量について減 少か,正常か,増加かに分けて考える(図 4). 高張性低Na血症は,糖尿病による高血糖や, マンニトール,グリセロールの輸液が原因とな る.血漿張度の上昇により細胞内から細胞外へ 水が移動することで相対的水過剰となる.細胞 内脱水により口渇が出るが,細胞内から細胞外 への水の移動により細胞外液量が保たれると循 環不全症状は出にくい. 等張性低Na血症は,高度の脂質異常症による 血漿脂質の増加や多発性骨髄腫,マクログロブ リン血症などの血漿異常蛋白の増加で生じる. 血漿固形成分の増加により測定される全血漿量 が増加するために,見かけ上の血清Na濃度が低 下する.血漿中のNa量および水分量に変化はな く,実際の血清Na濃度,血漿張度は正常なので 偽性低Na血症と呼ばれる. 低張性低Na血症は,血漿張度の低下により水 が細胞内に移動して細胞外液量がさらに減少す るために循環不全が起こりやすく,細胞内は溢 水となるため脳浮腫が起こる.食思不振,倦怠 感,頭痛,嘔気・嘔吐,意識障害,傾眠,昏睡, 痙攣などがみられる.2 日以内に進行した場合 を急性とするが,慢性に進行した場合には血清 Na濃度が 110 mEq/l以下でも症状に乏しい場合 がある. 細胞外液量減少型は,Na喪失が水欠乏よりも 図4 低Na血症の鑑別 尿中Na排泄は尿中Na濃度,FE,mEq/gCr,1日尿中Na排泄量と病態から総合的に判断する 体液量減少 Na↓↓ 水↓ 低張性低 Na 血症 腎不全 体液量増加 Na↑ 水↑↑ 心不全 肝硬変 ネフローゼ 体液量ほぼ正常 Na↓~→ 水↑ 嘔吐・下痢 胃液吸引 熱傷 膵炎 横紋筋融解 利尿薬 RAA 系阻害薬 浸透圧利尿 副腎不全 SIADH MRHE CSW 下垂体機能低下 甲状腺機能低下 心因性多飲 溶質不足 低 Na 血症 高張性低 Na 血症 高血糖 マンニトール・グリセオール 等張性低 Na 血症 高脂血症 パラプロテイン血症優位な場合で,総体液,細胞内液,細胞外液, 有効循環血液が全て減少する.脱水の項で述べ たように,間質液および循環血液量の減少によ る症状と所見がみられる.利尿薬,副腎不全な ど腎性のNa喪失と嘔吐,下痢,熱傷など腎外性 のNa喪失がある. 細胞外液量正常型は,細胞外液量の増加ある いは減少が正常の10%以内とされる.細胞外液 量を体重の約20%とすると,ここでいう正常の 10%以内とは体重の±0.2%(体重50 kgで細胞 外液量を 10 lとして±1 l)となる.ほぼ正常と いう中で,さらにやや増加とやや減少に分けて 考える(図5).SIADH(syndrome of inappropriate antidiuretic hormone)では,一次性のADH上昇 による水貯留のために細胞外液量は正常よりや や増加し,二次性にアルドステロンの抑制とNa 利尿ペプチドの促進が起こるため,尿中Na排泄 が増加する.一方で,レニン・アンジオテンシ ン・アルドステロン(renin-angiotensin-aldoste-rone:RAA)系の低下と尿細管機能低下による MRHE(mineral corticoid responsive hyponatre-mia elderly)では,アルドステロンの作用低下
により,一次性に尿中Na排泄が増加することで 体液量がやや減少し,二次性にADHが上昇す る.CSW(cerebral salt wasting)は,中枢神経 系疾患,特にくも膜下出血に多くみられる.脳 性Na利尿ペプチド(BNP)の分泌と交感神経系 の亢進による圧利尿により,一次性にNa利尿が 起こって細胞外液量がやや減少することで代償 性にADHが上昇する.SIADH,MRHE,CSWの鑑 別 は 容 易 で な い が, 治 療 後 の 血 中 尿 酸 値 が SIADHでは上昇することや輸液や水制限に対す る反応性,レニン活性,アルドステロン,ADH の変化が参考となる.下垂体副腎機能不全で は,糖質コルチコイド不足が優位な場合には ADH抑制不全による水貯留で細胞外液量が増加 傾向となり,鉱質コルチコイド不足が優位な場 合には腎性Na喪失で細胞外液量が低下傾向と なるが,病態が潜在的複合的な場合には診断に 苦慮する3). 細胞外液量増加型には,うっ血性心不全,肝 硬変,ネフローゼ症候群,腎不全があり,浮腫 性疾患として血管外の間質液と体内総Na量が 増加している.うっ血性心不全と肝硬変では, 図5 低張性低Na血症の細胞外液量 嘔吐・下痢 熱傷 膵炎 利尿薬 浸透圧利尿 副腎不全 Na 水 Na 水 水 細胞外液量 SIADH MRHE CSW 下垂体機能不全 甲状腺機能低下 水中毒 薬剤 心不全 肝硬変 ネフローゼ 腎不全 やや減少 やや増加 Na 水 Na Na 水 正常 減少 ほぼ正常 増加
血管内の有効循環血液量が低下するため,再吸 収亢進により尿中Na排泄は低下する.ネフロー ゼ症候群と腎不全では有効循環血液量が増加し ているが,ネフローゼ症候群では一次性に腎で の水・Na再吸収亢進(overfilling)により尿中 Na排泄が低下している.腎不全ではGFR低下, 尿量減少による水・Na排泄障害があり,尿希釈 障害により相対的水過剰となる.
SIAD(syndrome of inappropriate antidiuresis) は水利尿不全により体内水分貯留を生じるため に,低張性低Na血症を呈する病態の総称であ り,SIADHよりも広い疾患概念である4).タイプ Aは 血 清Na濃 度 と 無 秩 序 にADHが 変 動 す る も の,タイプBは血清Na濃度上昇に影響されず, 一定のADHが分泌されるもの,タイプCは浸透 圧制御が左方に偏位しているもので,この 3 タ イプはSIADHの 30%程度にみられ,悪性腫瘍に よるSIADHも含まれる.タイプDは,高張Na液 の投与ではADHが抑制され,血清Na濃度が正常 になるにつれてADHが上昇し始めるタイプであ り,低Na血症にもかかわらず低張尿が出ない病 態で,SIADの 5~10%にみられる.タイプDの SIADと考えられた小児2例においてV2受容体の 活 性 型 変 異(R137C/L) が 報 告 さ れ,NSIAD (nephrogenic syndrome of inappropriate antidi-uretics)と命名された.同一部位の変異(R137H) によりSIADとは逆の病態である腎性尿崩症が 起こることが報告されており,興味深い.
9.利尿薬との関連
ヘンレループ上行脚は水の透過性が低く,こ の部位でのNaClの再吸収が腎髄質の高張性と 尿濃縮に重要である.フロセミドなどのループ 利尿薬がこれを阻害すると,腎髄質の張度勾配 が減少し,集合管でのADHの作用が減弱する. フロセミド投与により尿中Na濃度は 77 mEq/l 程度となるとされるが,尿中Na濃度がこれより 高張であればフロセミドにより,低Na血症は改 善に向かい,これより低張な場合には低Na血症 は悪化する. サイアザイド系利尿薬による低Na血症発症 の頻度は高く,その10~30%にみられるとされ る.サイアザイドは腎皮質にある遠位尿細管の NaCl共輸送体に作用してNaClの再吸収を阻害 するが,ループ利尿薬と異なり腎髄質の張度勾 配に影響しない.一方で,RAA系と交感神経系 を亢進させることにより,近位尿細管における 水とNaの再吸収を増加させて集合管に到達す る水分量を減少させることから,尿崩症による 高Na血症の治療として用いられる. ADHV2 受容体拮抗薬は髄質内層の集合管に 作用し,アクアポリンチャネルの発現と局在を 調節して水の再吸収を阻害する.日本では2010 年 12 月からトルバプタンがうっ血性心不全に 対して適応となり,その後肝硬変に対しても適 応となった.髄質外層にある太いヘンレループ 上行脚は酸素を消費して電解質輸送を行うた め,虚血と低酸素に弱いが,ループ利尿薬によ り,この部位が障害されて利尿薬抵抗性となっ た場合でも,髄質集合管が保たれていれば,ト ルバプタンによる水利尿効果が期待できる.ト ルバプタンは蛋白結合率が低いため,低蛋白血 症や蛋白尿の影響を受けにくく,また集合管主 細胞の血管側にあるV2 受容体に作用するため, ループ利尿薬のようにGFRや尿量の影響も受け にくい.トルバプタンに関して腎保護作用と腎 不全に対する有効性を示唆する報告がされてい るが,自験例でもフロセミドに反応不良なス テージ 3b~5 の慢性腎不全を合併した心不全に おいて,トルバプタンの投与が利尿効果と低Na 血症の改善をもたらし,腎機能の悪化を来たさ なかった.今後のさらなる検討と適応拡大を期 待したい.10.治療
低Na血症と高Na血症の治療のアルゴリズムをそれぞれ図 6と図 7に示す.低Na血症におい ても高Na血症においても症候性の場合には脳 細胞の障害を意味し,急性であれ慢性であれ, 早急な治療が必要である.また,2 日以内に進 行した急性のNa濃度異常では脳細胞の代償機 構が十分に働いておらず,低Na血症では脳浮腫 が,高Na血症では脳萎縮が強く現れるため,早 急な治療が必要である.症候性や急性の場合に は初期に血清Na濃度1~2 mEq/時での補正が許 容されるが,血清Na濃度と症候の改善をみて補 図6 低Na血症の治療 尿中(Na+K)濃度>154 mEq/lでは高張食塩液が必要 尿中(Na+K)濃度<20~50 mEq/lで血清Na上昇が早ければ生理食塩液や低張液へ調整 3% 食塩液 または 生理食塩液 フロセミド 低 Na 血症 慢性 慢性 水制限 塩分補充 蛋白補充 フロセミド V2 受容体拮抗薬 急性 急性 無症候性 症候性 3% 食塩液 または 生理食塩液 フロセミド 生理食塩液 フロセミド または 3% 食塩液 Na 補正 <1 ~ 2 mEq/時 <12 mEq/日 Na 補正 <1 ~ 2 mEq/時 <8 mEq/日 Na 補正 <0.5 ~ 1 mEq/時 <8 ~ 12 mEq/日 Na 補正 <0.5 mEq/時 <8 mEq/日 図7 高Na血症の治療 尿中(Na+K)濃度<30 mEq/lでは5%ブドウ糖液が必要 Na欠乏,循環不全,尿中(Na+K)濃度,血清Naによって低張液,等張液へ調整 5% ブドウ糖液 (フロセミド) 高 Na 血症 慢性 慢性 飲水 塩分・蛋白制限 5% ブドウ糖液 サイアザイド dDAVP 急性 急性 無症候性 症候性 5% ブドウ糖液 (フロセミド) 5% ブドウ糖液飲水 Na 補正 <1 ~ 2 mEq/時 <12 mEq/日 Na 補正 <1 ~ 2 mEq/時 <8 mEq/日 Na 補正 <0.5 ~ 1 mEq/時 <8 ~ 12 mEq/日 Na 補正 <0.5 mEq/時 <8 mEq/日
正速度を緩めなければならない.急性か慢性か の判断が難しい場合には慢性として治療する. 慢性の低Na血症では血漿張度の低下に対し て脳細胞がミオイノシトール,グルタミン酸, タウリンなどの有機浸透圧物質を細胞外に放出 することで細胞内張度を低下させる代償機構を 働かせるが,この反応には通常約 2 日を要する とされる.治療により急激に血漿張度を上昇さ せると,脳細胞内の水が細胞外に移動して脳細 胞萎縮が起こり,いわゆる浸透圧性脱髄症候群 (osmotic demyelination syndrome:ODS)を来た す.病理学的には橋の中心部分で起こることが 多く, その場合, 橋中心脱髄症候群(central pontine myelinolysis:CPM)と呼ばれ,MRIの T2強調画像では高輝度を呈する.同様に,慢性 の高Na血症では血漿張度の上昇に対して,脳細 胞が有機浸透圧物質を細胞内に増加させ,細胞 内水分量を保つように代償機構を働かせるが, 輸液により急激に血清張度を低下させると,細 胞外から脳細胞内に水分が移動して脳浮腫を引 き起こす.これらを踏まえて,慢性のNa濃度異 常における血清Na濃度の補正速度は,最大で 0.5 mEq/時(12 mEq/日)以下,通常6~10 mEq/ 日以下とする.Kが有効浸透圧物質であり,Na 濃度に影響することに注意が必要である.状態 に応じて 1~3 時間,6 時間,12 時間,24 時間 の間隔で血清Na濃度,尿中(Na+K)濃度,尿 量をみて補正速度を調節する.補正量,補正速 度の予測に尿中(Na+K)濃度が重要である. 尿中(Na+K)濃度>輸液(Na+K)濃度→血清 Na濃度低下 尿中(Na+K)濃度<輸液(Na+K)濃度→血清 Na濃度上昇 低Na血 症 に お い て 尿 中(Na+K) 濃 度 > 154 mEq/lの場合には,生理食塩液でも相対的 に低張となるため,高張食塩液の投与が必要と なる.仮に尿中(Na+K)濃度が308 mEq/lと高 張 な 場 合, 生 理 食 塩 液(Na 154 mEq/l) は 308 mEq/l液 0.5 lと自由水 0.5 lの混合であるの で生理食塩液では血清Na濃度が低下してしま う.逆に,尿中(Na+K)濃度が 30 mEq/lと低 張な場合,尿 1 l中に 150 mEq/l液 0.2 lと自由水 0.8 lと考えてよいので,維持液輸液でも血清Na 濃度は上昇する.高Na血症において仮に尿中 (Na+K)濃度<30 mEq/lの場合には,維持液で ある3号液(Na 35 mEq/l+K 20 mEq/l)では相 対的に高張となって血清Na濃度が上昇するた め,5%ブドウ糖液による補正が必要となる. Adrogue-Madias式 は 輸 液 1 l投 与 後 の 変 化 の 予測式である5)6). 血清Na濃度=体内総(Na+K)量/体水分量 ΔNa濃度={輸液中(Na+K)濃度-血清Na濃 度}/(体水分量+1) 尿量,不感蒸泄,代謝水,尿中(Na+K)排 泄量を考慮しないで式を改変すると, 補正Na濃度=(血清Na濃度×体水分量+輸液中 (Na+K)量)/(体水分量+補充水分量) 低Na血症の場合で補充水分量を 0 とすれば輸 液中(Na+K)量だけを推定できる. 輸液中(Na+K)量=(補正Na濃度-血清Na濃 度)×体水分量 高Na血症の場合で輸液中(Na+K)量を 0 と すれば補充水分量だけを推定できる. 補充水分量=(血清Na濃度/補正Na濃度-1)× 体水分量 血清Na濃度 110 mEq/l,体重 50 kgの患者で血 清Na濃度を120 mEq/lに上昇させたい場合,補充 (Na+K)量=(120-110)×50×0.6=300 mEq となり,10 mEq/24時間で補正する場合,生理食 塩液(Na154 mEq/l)では300/154=1,948 ml/24 時間(81 ml/時),3%食塩液(Na 513 mEq/l)で は300/513=588 ml/24時間(25 ml/時)となる. 3%食塩液は生理食塩液400 mlに10%食塩液 120 mlを加えることで作成できる. 血清Na濃度170 mEq/l,体重50 kgの患者で血 清Na濃度を 160 mEq/lに低下させたい場合,補 充水分量=(170/160-1)×50×0.6=1,875 ml となるので,5%ブドウ糖液1,875 ml/24時間=
78 ml/時で投与となる. 細胞外液量増加ではNaと水の制限および利 尿による排泄が基本である.利尿薬としては ループ利尿薬を用いるが,自由水排泄の効果は 尿中(Na+K)濃度による.ループ利尿薬抵抗 性ではV2 受容体拮抗薬の追加が必要である. 細胞外液量減少があれば,循環不全の改善の ために生理食塩液やリンゲル液などの細胞外液 でNaと水を補給する.尿中(Na+K)濃度が低 張で血清Na濃度の上昇速度が早い場合には, 0.45%食塩液や低張液への変更が必要な場合が ある. 細胞外液量が正常からやや増加している疾患 では水制限を行い,尿中Na排泄量に見合ったNa 量を補充する.多飲による心因性多尿の場合で 尿中自由水排泄が多い場合は水制限のみで血清 Na濃度が上昇する.1 日尿中溶質排泄量は体重 (kg)×10(mOsm)とされ,それを排泄するた め の 最 小 限 の 水 分 量 と し て 体 重(kg)×10 (mOsm)/尿浸透圧(mOsm/kg)が水制限の目安 となる.MRHEやCSW,下垂体副腎機能低下な どで細胞外液が正常からやや減少している場合 には水制限に注意が必要である. SIADHでは水制限とNa補充が基本であり,ま た尿中溶質排泄による浸透圧利尿を目的として 蛋白摂取が勧められる.1 日尿中溶質排泄量が 500 mOsmの場合で尿浸透圧 500 mOsm/kgH2O の場合の自由水排泄量は 1 l/日であるが,溶質 排泄量が 250 mOmでの自由水排泄能は 0.5 l/日 に減少する.利尿薬としてのループ利尿薬の効 果については上述した. 高Na血症では 5%ブドウ糖液による自由水補 充を行うが,循環不全症状,血清Na濃度および 尿中(Na+K)濃度の変化をみて低張あるいは 等張液に変更する(図 7).中枢性尿崩症では dDAVPの投与が必要である.腎性尿崩症にサイ アザイド系利尿薬が用いられる理由については 上述した.非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroi-dal anti-inflammatory drug:NSAID)やカルバマ ゼピンはADHの作用を促進するが,高Na血症に 対する治療としての効果や適応は限定的であ る.
おわりに
水・Na代謝異常は,病態生理を理解し,検査 値を解析して鑑別診断と治療を行うことが重要 である.治療においては必ず補正変化を予測し て輸液組成と補正速度を判断しなければならな い.診断と治療が患者の生活の質,合併症の発 症,生命に影響することを忘れてならない. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし 文 献 1) 内田俊也:水電解質異常.日腎会誌 44 : 18―28,2002.2) Combs S, et al : Dysnatremia in patients with kidney disease. Am J Kidney Dis 63 : 294―303, 2014.
3) 酒井浩之,他:診断に苦慮し治療に難渋した低Na血症高齢者低の 1 例.Medical Practice 31 : 822―829,2014. 4) 天野慶子,他:低Na血症と体液の評価方法―臨床的情報を含めて,Annual Review腎臓2014.中外医学社,2014. 5) Adrogué HJ, Madias NE : Hyponatremia. N Engl J Med 342 : 1581―1589, 2000.
6) Adrogué HJ, Madias NE : Hypernatremia. N Engl J Med 342 : 1493―1499, 2000.