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日本内科学会雑誌第109巻第4号

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(1)

はじめに

 低カリウム(K)血症は,内分泌疾患に随伴 することが多い電解質異常である.低カリウム 血症の臨床症状はさまざまで,筋力低下,尿濃 縮障害による多尿及び脱水ならびに耐糖能異常 といった多臓器への影響がある.重篤な場合 は,呼吸筋障害による呼吸不全,横紋筋融解症 による腎不全ならびにQT延長症候群による心 室細動の発症等,生命の危機に陥る可能性があ り,適切な診断と治療が必要となる.本稿では,

低カリウム血症を来たし得る内分泌疾患の診断 と治療について述べる.低カリウム血症を来た す疾患の診断アルゴリズムを図1に示す.また,

比較的頻度の高い疾患について以下に述べる.

1.原発性アルドステロン症(PA)

1)概要

 原発性アルドステロン症(primary aldostero- nism:PA)は,副腎でアルドステロンが過剰に 産生されている病態である.高血圧患者のう ち,5~15%程度がPAである可能性も指摘され ており,内分泌性高血圧としては非常に多い疾 患である.本態性高血圧と比較すると,脳心血 管イベントや不整脈合併のリスクが高いと報告 されている.近年,本邦で行われたPA患者に対 する多施設共同の後ろ向き研究(Japan Primary Aldosteronism Study:JPAS)において,PAは心 血管疾患9.4%,脳卒中7.4%,不整脈4.0%と高 率 に 合 併 症 を 発 症 し て い る こ と が 確 認 さ れ た1).これは,PAが血圧を上昇させるのみなら ず,アルドステロンが心筋細胞,血管内皮細胞,

低カリウム血症と内分泌疾患

要 旨

吉田 雄一 柴田 洋孝  低カリウム血症を来たす疾患として,原発性アルドステロン症,腎血管

性高血圧ならびにCushing症候群・サブクリニカルCushing症候群といっ た内分泌疾患や,経口摂取による影響を受けることで発症するBasedow 病による周期性四肢麻痺や低マグネシウム血症がある.それぞれの疾患の 概要,低カリウム血症の発症機序,スクリーニング方法,診断ならびに治 療について記載する.

〔日内会誌 109:718~726,2020〕

Key words 低カリウム血症,原発性アルドステロン症,腎血管性高血圧,Cushing症候群,

低マグネシウム血症

大分大学内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座

Endocrine Diseases and Electrolyte Disorders. Topics:III. Hypokalemia and endocrine disorders.

Yuichi Yoshida and Hirotaka Shibata:Department of Endocrinology, Metabolism, Rheumatology and Nephrology, Faculty of Medicine, Oita Uni- versity, Japan.

(2)

血管平滑筋,マクロファージならびに線維芽細 胞等に作用することで,直接心血管系に障害を 来たすことが考えられている2).現在,本邦で 最も新しいPAのガイドラインは,「高血圧治療 ガイドライン 2019」(日本高血圧学会,2019 年;JSH(Japanese Society of Hypertension)

2019)に示されている.診断アルゴリズムを図 2に示す3)

2)低カリウム血症の発生機序

 アルドステロンは,腎臓の皮質集合管細胞に おいて,尿細管腔側に発現する上皮性ナトリウ ムチャネル(epithelial sodium channel:ENaC)

を活性化させ,尿中ナトリウムの再吸収が亢進 し,血管側ではNa+-K+ATPaseが活性化され ることで血液内にNaが取り込まれると同時に,

上皮細胞にKが排泄される.さらに,上皮細胞

尿 細 管 腔 側 のROMK(renal outer medullary potassium channel)を通じて尿中にカリウムが 排泄され,低カリウム血症を来たす.カリウム 排泄と同時に血中にNaが取り込まれることか ら,血圧が上昇することとなる.

3)スクリーニング

 低カリウム血症合併高血圧,若年発症の高血 圧,II度以上の高血圧,治療抵抗性高血圧,副 腎偶発腫瘍を伴う高血圧,若年の脳血管障害合 併ならびに睡眠時無呼吸を伴う高血圧を満たす 症例はPAを疑う.次に,血漿アルドステロン濃 度(plasma aldosterone concentration:PAC),

血漿レニン活性(plasma renin activity:PRA)ま たは活性型レニン濃度(active renin concentra- tion:ARC)を測定し,アルドステロン/レニン 比(aldosterone-renin ratio:ARR)を計算する.

図1 低カリウム血症の診断アルゴリズム

AME:apparent mineralocorticoid excess,DOC:deoxycorticosterone 先天性副腎過形成

Cushing症候群 Liddle症候群

AME症候群 DOC産生腫瘍 先天性副腎過形成

Cushing症候群 Liddle症候群

AME症候群 DOC産生腫瘍 腎血管性高血圧

レニン産生 腫瘍 腎血管性高血圧 レニン産生

腫瘍

レニン・アルドステロン レニン・アルドステロン

上昇

共に上昇 共に低下 アシドーシス アルカローシス アルドステロン↑

レニン↓

正常 20 mEq/l≦

<20 mEq/l

酸・塩基平衡 酸・塩基平衡 血圧上昇

血圧上昇 尿中カリウム排泄

尿中カリウム排泄

遠位尿細管アシ ドーシスⅠ・Ⅱ型 ケトアシドーシス糖尿病 アルコール過剰 遠位尿細管アシ ドーシスⅠ・Ⅱ型 ケトアシドーシス糖尿病 アルコール過剰

利尿薬使用嘔吐 Bartter症候群 Gitelman症候群

利尿薬使用嘔吐 Bartter症候群 Gitelman症候群 原発性アルド

ステロン症 原発性アルド

ステロン症 カリウム摂取不足

腸管排泄下痢 甲状腺機能亢進症 家族性周期性四肢麻痺

カリウム摂取不足 腸管排泄下痢 甲状腺機能亢進症 家族性周期性四肢麻痺

(3)

PACは単位がpg/mlのものとng/dlのものがある ため注意する.ここでは,PACの単位がpg/mlで あるものとして述べる(pg/ml=10×ng/dl).

ARR(PRA)>200,ARR(ARC)>40~50の場合 にPA陽性と診断されるが,ARRの計算はレニン 値によって大きく変化するため,PAC>120 で あるかを考慮するとよい.スクリーニング実施 の 際,ARB(angiotensin II receptor blocker),

ACE(angiotensin-converting enzyme)阻害薬,

β

遮断薬,利尿薬ならびにMR(mineralocorticoid

receptor)拮抗薬はホルモン値に影響を与える ため,ARRの判断は慎重に行う必要がある.

4)診断

 スクリーニングで陽性となった後,機能確認 検査でPA診断を行う.機能確認検査には,生理 食塩水負荷試験,カプトプリル試験,経口食塩 負荷試験ならびにフロセミド立位試験があり,

1 つでも陽性であった場合にPAと診断される.

フロセミド立位試験は,迷走神経反射による転 図2 原発性アルドステロン症診療の手順(文献3より)

*1特にPA有病率の高い高血圧群を対象とする.

*2ARRがカットオフ境界域のときは,降圧薬をCa拮抗薬,α遮断薬などに変更し2週間後に再検する.

*3日本高血圧学会,日本内分泌学会専門医に紹介

*4文献3の表13-5の試験のうち少なくとも1種類の陽性を確認

*5悪性腫瘍が疑われる大きな腫瘍を認める場合は手術を検討する.造影剤が使用可能な症例では,Thin sliceCTにて副腎腫瘍の存在と両側副腎静脈の描出が有用である.

*6スクリーニング陽性で,精査希望がないときは,MR拮抗薬投与を検討する.

*7副腎摘出術後も高血圧が持続するときは降圧薬を投与する.

対象

スクリーニング

機能確認検査

陽性

精査希望なし*6

あり

なし 陽性*4

治療

サブタイプ診断 副腎摘出術の希望副腎摘出術の希望

手術(降圧薬*7

手術(降圧薬*7 MR拮抗薬 ほかMR拮抗薬 ほか 副腎静脈サンプリング

副腎静脈サンプリング 機能確認検査 機能確認検査

ARR[PAC(pg/mL)/PRA(ng/mL/時)]>200 PAC(pg/mL)/ARC(pg/mL)>40-50または *2

かつ PAC>120 pg/mL

ARR[PAC(pg/mL)/PRA(ng/mL/時)]>200 PAC(pg/mL)/ARC(pg/mL)>40-50または *2

かつ PAC>120 pg/mL

副腎CT*5 副腎CT*5

一側性

一側性 両側性両側性

高血圧患者*1 高血圧患者*1

専門医*3 専門医*3

(4)

倒も多く,低レニン血症では偽陽性となること から,実施には注意を要する.

 PAと診断された後,局在診断を実施するか検 討する.もし患者が手術を希望しない,または 手術適応でない全身状態等の場合は,MR拮抗薬 で治療を行うことになるため,そもそも局在診 断を必要としない.局在診断は副腎静脈サンプ リング(adrenal venous sampling:AVS)を行っ て サ ブ タ イ プ 診 断 を 行 う.PAの 場 合 は,CT

(computed tomography)等の画像検査で確認さ れた副腎腫瘍側と実際の病側が一致しないこと が多々あり,局在診断にはAVSが必要である.

PAは,片側性のアルドステロン産生腺腫(aldo- sterone-producing adenoma:APA)及び両側性 で あ る 特 発 性 ア ル ド ス テ ロ ン 症(idiopathic hyperaldosteronism:IHA)に分類される.

5)治療

 AVSの結果,APAと診断された場合は,原則と して,病側副腎摘出術が第一選択となる.IHA の場合や手術を行わない場合も,MR拮抗薬使用 を検討する.MR拮抗薬は,現在,3 剤が上市さ れている.最も長く使われているスピロノラク トンは安価で,重症心不全にエビデンスがあ り,重症低カリウム血症の症例に対してカリウ ム製剤が併用可能であること,重度腎機能障害 患者にも使用が可能であることが長所である.

最新のエサキセレノンは,ステロイド骨格を持 たないことから,MRへの選択性が高く,性ホル モン関連の副作用がみられないこと,また,降 圧効果が強いことが長所である.

2.腎血管性高血圧(RVHT)

1)概要

 腎血管性高血圧(renovascular hypertension:

RVHT)は,腎動脈の狭窄や閉塞により,腎血流 量が低下することによって,腎の傍糸球体細胞

からレニンが多量に分泌され,副腎からアルド ステロンが過剰分泌される病態である.全高血 圧患者の約 1%にみられると考えられている.

若年者では線維筋性異形成が,中・高年者では 粥状動脈硬化が主な成因となる.粥状動脈硬化 性RVHTは,冠動脈疾患や動脈硬化性末梢動脈閉 塞症等他の血管病変を合併することが多い.診 療の手順はJSH2019に記載されている(図3)3). 2)低カリウム血症の発生機序

 PAと同様に,アルドステロンの増加が低カリ ウム血症を来たす原因となる.

3)スクリーニング

 若年発症の高血圧,治療抵抗性高血圧,RA

(renin-angiotensin)系阻害薬開始後の腎機能の 増悪,説明のつかない腎機能障害・腎萎縮,説 明のつかない突然発症型肺水腫,脳心血管病の 合併,腹部の血管雑音,夜間多尿ならびに低カ リウム血症がある場合にRVHTを疑う.次の検査

図3 腎血管性高血圧の診療の手順(文献3より)

CTA:computed tomography angiography,

PTRA:percutaneous transluminal renal angioplasty 薬物療法 血行再建術(PTRA)

薬物療法 腎血管性高血圧疑い患者

腎動脈超音波*1

腎動脈造影 狭窄が明らかで,PTRAの適応*2 狭窄所見なし

該当 非該当

MRA(腎機能障害では非造影MRA)

CTA(腎機能障害では造影剤量に注意)

*1施行が困難な場合はMRAもしくはCTAを優先する

*2 血行動態的に有意な腎動脈狭窄症を有し,かつ,1)線 維筋性異形成,2)治療抵抗性高血圧,3)増悪する高血 圧・悪性高血圧,4)原因不明または繰り返す肺水腫・心 不全,5)両側性または片腎での腎動脈狭窄

(5)

としてPACとARCまたはPRAを測定し,いずれも 高値であれば本疾患の可能性が高いこととなる.

4)診断

 腎動脈の狭窄や閉塞が確認できれば診断とな る.腎動脈の確認方法として,最も負担が少な い腎動脈エコー(ドプラ法)を検討する.エコー の実施が困難な場合は,MRアンジオグラフィ

(magnetic resonance angiography:MRA)で腎 血管の評価を行う.CT血管造影は,エコーや MRAと比較すると感度・特異度共に優れてい る4)と言われるが,RVHTは既に腎機能が低下し ている症例も多いことから,可能であれば,造 影検査は避けた方がよい.

5)治療

 血行動態的に有意な腎動脈狭窄症窄がある場 合は血行再建術を,血行再建術で不十分な場合 や狭窄所見を認めない場合は薬物療法を行うこ ととなる.血行再建術については,線維筋性異 形成性RVHTは約 85%の高い治癒率とされてい るが,粥状動脈硬化性RVHTに対する血行再建術 は内服単独療法と比較して死亡率に差がなかっ た5).内服薬は,ACE阻害薬やARBを使用する が,急激な血圧低下や腎機能悪化の可能性があ るため,少量から開始する.両側狭窄や単腎に 対しては,これら薬剤を用いない.降圧が不十 分であれば,Ca拮抗薬を併用する.利尿薬は,

循環血漿量低下によるレニン上昇,腎血流低下 の可能性があることから使用しない.

3. Cushing症候群(CS)/

サブクリニカルCushing症候群(SCS)

1)概要

 Cushing症候群(Cushing’s syndrome:CS)は,

副腎からコルチゾールが過剰分泌されることに よって中心性肥満や満月様顔貌,野牛肩,赤色

皮膚線状,皮下出血,皮膚菲薄化といった特徴 的な身体的変化(Cushing徴候)に加えて,高血 圧,低カリウム血症ならびに糖・脂質・骨代謝 異常を来たす疾患である.CSは副腎皮質腺腫や 副 腎 癌 か ら コ ル チ ゾ ー ル が 過 剰 分 泌 さ れ る ACTH(adrenocorticotropic hormone)非依存性 CSと, 下 垂 体 か ら 過 剰 にACTHが 分 泌 さ れ る Cushing病 や 肺 小 細 胞 癌 に 代 表 さ れ る 異 所 性 ACTH産生細胞によるACTH依存性CSに分けら れる.

 また,CSと同様に,コルチゾールの過剰分泌 を来たすものの,特徴的な身体所見を示さない サ ブ ク リ ニ カ ルCushing症 候 群(subclinical Cushing’s syndrome:SCS)がある.SCSはCSと 比較してコルチゾール分泌量が少なく,比較的 軽症であることが多いが,高血圧,低カリウム 血症ならびに糖・脂質・骨代謝異常等の合併症 は起こし得る.SCSはCSに進展しないと考えら れている.

2)低カリウム血症の発生機序

 CSでは,肝におけるangiotensinogenの合成が 亢進し,血中angiotensin II濃度が増加する.コ ルチゾールは,本来標的細胞において,グルコ コルチコイド受容体とMRの両方に結合が可能 であるが,11

β

-HSD2という酵素によって非活性 型のコルチゾンに代謝され,MRに結合しにくい 状態となっている.コルチゾールが過剰になっ た場合,相対的な 11

β

-HSD2 低下が起こり,コ ルチゾールがMRと結合可能となる6).これら機 序によって,コルチゾール過剰状態は,PAと同 様に,尿中カリウム排泄が亢進することで低カ リウム血症を来たす.

3)スクリーニング

 CSはCushing徴候を認める場合に疑って検査 を始める.まず,医原性CSを除外する.ステロ イドは,内服以外にも関節注射,吸入ならびに 外用薬の使用でも同様のことが起こり得るため

(6)

注意する.SCSは特徴的な所見がないため,臨 床症状からの判断はできない.SCSの前提は,

副腎腫瘍があること,CSの臨床徴候がないこ と,血中コルチゾール基礎値が正常であること である.副腎腫瘍が偶然見つかった(副腎偶発 腫瘍)症例においては,必ずSCSを疑う必要が ある.

 CS/SCSを疑う場合に,コルチゾール,ACTH の基礎値を測定する.コルチゾールは正常~高 値であり,基礎値が高値でないからと言って否 定はできない.

4)診断

(1)Cushing症候群

 CSの診断アルゴリズムを図47)に示す.診断確 定のために,尿中遊離コルチゾール(urinary free cortisol:UFC)測定,デキサメタゾン1 mg 抑制試験(1 mg DST(dexamethasone suppres- sion test))ならびに夜間血清コルチゾールの測 定を行う.局在診断には,下垂体MRI(magnetic resonance imaging) や 8 mg DST,CRH(corti- cotropin-releasing hormone)試験等で鑑別を行 い,悩ましい結果が 1 つでもあれば,下錐体静 脈洞サンプリングを行う.

図4 クッシング症候群の診断アルゴリズム(文献7より)

AIMAH:ACTH-independent macronodular adrenal hyperplasia,

PPNAD:primary pigmented nodular adrenocortical disease

臨床症状(クッシング徴候,メタボリックシンドローム)

臨床症状(クッシング徴候,メタボリックシンドローム)

血漿ACTH濃度測定 血漿ACTH濃度測定

副腎CT 副腎CT

副腎腺腫

副腎腺腫 副腎癌腫副腎癌腫 両側副腎過形成

(AIMAH,PPNAD)両側副腎過形成

(AIMAH,PPNAD)

問診(外因性糖質コルチコイドの確認):医原性クッシング症候群 問診(外因性糖質コルチコイドの確認):医原性クッシング症候群

クッシング病 クッシング病 1.尿中遊離コルチゾール(UFC)高値

2.デキサメタゾン1 mg抑制試験:am8:00血清コルチゾール濃度>5μg/dL 3.夜間血清コルチゾール濃度>5.0μg/dL

1.尿中遊離コルチゾール(UFC)高値

2.デキサメタゾン1 mg抑制試験:am8:00血清コルチゾール濃度>5μg/dL 3.夜間血清コルチゾール濃度>5.0μg/dL

下垂体MRI:径6 mm以上の腫瘍

Overnight Dex 8 mg抑制試験:am8:00血清コルチゾール濃度<前値の50%

CRH試験:ピークの血漿ACTH濃度>前値の1.5倍 下垂体MRI:径6 mm以上の腫瘍

Overnight Dex 8 mg抑制試験:am8:00血清コルチゾール濃度<前値の50%

CRH試験:ピークの血漿ACTH濃度>前値の1.5倍

異所性ACTH症候群 異所性ACTH症候群 両側下錐体静脈洞サンプリング 両側下錐体静脈洞サンプリング クッシング症候群の診断確定

疑わしいときは,反復検査など デキサメタゾン―CRH試験(オプション)

<5 pg/mL(抑制あり) ≧5 pg/mL(抑制なし)

どれか欠けるとき すべて陽性 c/p≧2(基礎値)

c/p≧3(CRH) c/p<2(基礎値)

c/p<3(CRH)

(7)

(2)サブクリニカルCushing症候群

SCSの診断基準は 2017 年に改訂された.診断 アルゴリズムを図58)に示す.診断において1 mg DSTを行うが,改訂後,1 mg DSTの判断基準値 が低値となっており,診断される機会が増えて いることが予想される.

5)治療

 病側副腎摘出または腫瘍核出術が第一選択と なる.PAと異なり,CS/SCSは腫瘍側が病側であ ることが一般的である.CSの場合,病側の過剰 なコルチゾール分泌により,健常側は長期に 亘って抑制がかかっていたため,術後すぐにホ ルモン分泌を再開できず,ステロイド補充が必 要となる.補充するステロイドは,ミネラルコ ルチコイド作用を含むヒドロコルチゾンを選択 する.ステロイド補充量は漸減し,最終的には

ステロイド補充は終了できる.手術困難な場合 や手術を拒否される場合は,コルチゾール合成 酵素を抑制するメチラポンや高血圧・低カリウ ム血症に対してACE阻害薬・ARBやMR拮抗薬を 検討するが,手術療法と比較すると,その効果 は不十分である.

4. 食事・飲酒と内分泌の関連に伴う 低カリウム血症

 食事・飲酒は内分泌と関連することがあり,

これにより,低カリウム血症を起こし得る.炭 水化物やアルコールの過剰摂取は,下記のよう に,低カリウム血症を増悪させる可能性がある ため注意する.

図5 サブクリニカルクッシング症候群の診断アルゴリズム(文献8より)

CS:クッシング症候群

DST:1 mg dexamethasone抑制試験,数字は血中コルチゾール値(μg/dl)

ACTH分泌抑制:血中ACTH<10 pg/mlまたはCRH負荷に対する低反応(<1.5倍)

日中リズム消失:21-24時血中コルチゾール≧5 μg/dl DHEA-S:dehydroepiandrosterone sulfate

・副腎腫瘍の存在

・CSの臨床兆候なし(副腎偶発腫)

・血中コルチゾール基礎値正常

・副腎腫瘍の存在

・CSの臨床兆候なし(副腎偶発腫)

・血中コルチゾール基礎値正常

副腎性サブクリニカルクッシング症候群(SCS)

副腎性サブクリニカルクッシング症候群(SCS)

3≦DST<5 3≦DST<5 DST<1.8

DST<1.8 1.8≦DST<31.8≦DST<3

・ACTH分泌抑制

・日内リズム消失かつ

・ACTH分泌抑制

・日内リズム消失かつ

非機能性腺腫 非機能性腺腫

・ACTH分泌抑制

・日内リズム消失

・副腎シンチ健常側抑制

・血中DHEA-S低値 以上のいずれか一つ以上

・ACTH分泌抑制

・日内リズム消失

・副腎シンチ健常側抑制

・血中DHEA-S低値 以上のいずれか一つ以上 術後一過性副腎不全症

または健常部副腎萎縮(病理)

術後一過性副腎不全症 または健常部副腎萎縮(病理)

DST≧5 DST≧5

非該当

(8)

1)低カリウム血性周期性四肢麻痺

 Basedow病に伴う低カリウム血症である.甲 状腺ホルモンはサイロキシン(T4)とトリヨー ドサイロニン(T3)がある.T4は 100%が甲状 腺でつくられ,T3は20%が甲状腺で,残り80%

は標的細胞でT4から生成される.T3が細胞核内 にある甲状腺ホルモン受容体に結合することで ホルモン作用を発揮する.甲状腺ホルモン作用 により,交感神経

β

刺激に対する組織の反応性 が亢進し,骨格筋膜におけるNa+-K+APTase が活性化すると考えられている7).これにより,

血中カリウムが細胞内に移行し,血中カリウム が低下する.炭水化物摂取量が多い場合,多量 に分泌されたインスリンによってNa+-K+

APTaseがさらに活性化し,低カリウム性ミオパ チーを呈することもある.このことから,Base- dow病患者で甲状腺ホルモンのコントロールが 不十分な場合は,低カリウム血症の増悪を来た す可能性があるため,炭水化物の摂取量に気を 付ける必要がある.

2)慢性アルコール摂取に伴う低カリウム血症  アルコール摂取による内分泌異常と,それに 伴う低カリウム血症である.アルコールの過剰 摂取は,電解質の摂取不足と尿細管障害に伴う 電解質排泄の亢進を来たすことで低カリウム血 症を来たす.また,同様の機序で低マグネシウ ム血症も併発する9).マグネシウムは,腎臓の 皮質集合管細胞において,尿細管腔側に発現す るROMKの細胞側に結合し,カリウムの排泄を

防いでいるが,低マグネシウム血症によってカ リウム排泄がより亢進することとなる.ROMK は,アルドステロン作用時にカリウム排泄が行 われるチャネルでもあることから,低マグネシ ウム血症や脱水・肥満症の合併といったRA系の 亢進症例,PAやRVHTのようなアルドステロン が増加した症例においては,より尿中カリウム 排泄が亢進することとなる10).さらに,アル コール過剰摂取による代謝性アシドーシスの補 正を契機に,アドレナリン作用の亢進と呼吸性 アルカローシスによる細胞内シフトが起こるこ とで,ますます低カリウム血症が進む.アルコー ル過剰摂取の低カリウム血症例については,カ リウムを補正する際にマグネシウムを評価し,

必要に応じて,マグネシウムの補正が重要であ ること,また,アルコールによる代謝性アシドー シスの治療を行う際は,低カリウム血症が亢進 する可能性に注意する.

おわりに

 低カリウム血症は,無症状の場合は精査され ないことが多いが,前述のような疾患が隠れて いる可能性がある.また,アルコール過剰摂取 の場合の低カリウム血症のように,治療を開始 することでより低カリウム血症を招いてしまう 可能性もある.正しく病態を捉え,適切な治療 を行うことが重要である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし

(9)

文 献

1) Ohno Y, et al : Prevalence of cardiovascular disease and its risk factors in primary aldosteronism : a multicenter study in Japan. Hypertension 71 : 530―537, 2018.

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2019.

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8) 柳瀬敏彦:日本内分泌学会臨床重要課題「潜在性クッシング症候群(下垂体性と副腎)の診断基準の作成」副腎性 サブクリニカルクッシング症候群 新診断基準の作成と解説.日内分泌会誌 93 : 1―18, 2017.

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参照

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