• 検索結果がありません。

日本内科学会雑誌第105巻第4号

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "日本内科学会雑誌第105巻第4号"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

はじめに

 急性副腎不全症(副腎クリーゼ)は,急激な 糖質コルチコイド(glucocorticoid:GC)の絶対 的または相対的な欠乏により,循環障害を来た す致死的病態であり,内分泌性クリーゼの代表 的疾患である.症状が非特異的であるため,救 急初診対応において病歴聴取が困難な場合に は,専門医でも診断に難渋する場合も少なくな い.多くは慢性副腎不全症患者において感染症 などの身体的ストレス時に発症する.本稿で は,最近,日本内分泌学会から発刊された副腎 不全症の診療指針1)に準じ,内分泌学的診断と 治療を簡単に紹介したうえで,急性副腎不全症 の病態について詳述する.なお,特殊な病態と して,敗血症性ショックのときにしばしば認め られる相対的副腎不全症についても紹介する.

1.慢性副腎不全症の診断と治療の要点

 慢性副腎不全症はコルチゾールの慢性的な低 下によってもたらされる病態で,原因は原発性 (副腎原発)と続発性(視床下部―下垂体性)に 分類されるが,詳細な成因は指針1)などの他成 書を参考にしていただきたい.副腎不全症は, 全身倦怠感,食欲低下,消化器症状(嘔吐,腹 痛,便秘など),体重減少,低血圧,発熱,関節 痛など,自他覚症状や所見の特異性に比較的乏 しい.そのため,初診患者では,疑わなければ 診断に至らない場合も少なくない.種々の不定 愁訴の原因精査の結果,該当疾患が見当たらな い場合には,甲状腺機能異常症と並んで,一度

急性副腎不全(副腎クリーゼ)

要 旨 柳瀬 敏彦  急性副腎不全症(副腎クリーゼ)は,急激に糖質コルチコイド(gluco-corticoid:GC)の絶対的または相対的な欠乏が生じ,致命的状況に陥る 病態である.既知・未知の慢性副腎不全症患者に種々のストレス(感染, 外傷など)が加わり,ステロイド需要量が増加した場合と治療目的で長期 服用中のステロイド薬が不適切に減量・中止が行われた場合の発症が多 い.症状は非特異的であり,消化器症状や発熱が前面に出る場合があり, 急性腹症などと誤診される場合もある.副腎クリーゼが疑われる場合は, ACTH(adrenocorticotropic hormone),コルチゾールの測定用検体を 採取後,躊躇なく治療を開始する.治療は生理食塩水,ブドウ糖液とヒド ロコルチゾンの静脈内投与を基本治療とする. 〔日内会誌 105:640~646,2016〕 Key words 急性副腎不全,コルチゾール,糖質コルチコイド,ACTH試験

福岡大学内分泌・糖尿病内科

Endocrine and Metabolic Emergencies;Points of Initial Management. Topics:I. Acute adrenal insufficiency(Adrenal crisis). Toshihiko Yanase:Department of Endocrinology and Diabetes Mellitus, Faculty of Medicine, Fukuoka University, Japan.

(2)

はその可能性を疑うべき内分泌疾患の代表とい える.全身の色素沈着が明らかな症例では,原 発性副腎不全症の可能性を考慮する.色素沈着 の診断特異性は高い.また,慢性副腎不全症患 者ではやせが多いことも参考にする.一方,一 般検査所見では低血糖,低Na(ナトリウム)血 症,高K(カリウム)血症,低コレステロール 血症,正球性正色素性貧血,末梢血の相対的リ ンパ球増多,好酸球増多などを認める場合に は,慢性副腎不全症の可能性を疑う.  副腎不全症患者はステロイドの補充下であっ たり,基礎疾患(膠原病,自己免疫疾患)の治 療のため,薬理量のステロイドを服用していた りする場合が多く,基礎疾患とステロイド服用 歴の聴取が重要である.該当患者では,ステロ イド離脱症候群あるいはシックデイにおける相 対的なステロイド服用不足の可能性を想起す る.また,薬理量のステロイド(多くはprednis-olone)の長期服用者では,Cushing兆候を認める にもかかわらず,内因性の下垂体―副腎機能に抑 制により,血中ACTH(adrenocorticotropic hor-mone),コルチゾールの低値や末梢血での好中球 増加,好酸球減少などの所見を認める場合があ り,参考となる.生化学検査では,低ナトリウ ム血症を85~90%に認める.低ナトリウム血症 の機序としては,コルチゾールやアルドステロ ンの低下に加えて,コルチゾールによるADH (antidiuretic hormone)の分泌抑制作用が低コル チゾール血症で解除され,SIADH(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone, 不適切ADH分泌症候群)の病態を呈することも 関与する.また,原発性副腎不全症では,アル ドステロン欠乏により高カリウム血症(60~ 65%)を認めるが,続発性では認めない.低血 糖は成人の場合,感染,発熱,アルコール摂取, 飢餓に伴ってしばしば顕在化するが,小児では より出現頻度が高い.他,代謝性アシドーシス や高カルシウム血症を呈する場合がある.  内分泌学的には,本症を疑った時点で,治療 開始前のコルチゾールとACTHを測定すること が重要である.コルチゾールとACTHの血中基礎 値の測定により,定型例であれば,部位診断ま で含めて,ある程度診断可能である.原発性で は,血中コルチゾール基礎値の低値と血中ACTH 高値を認め,多くの場合,副腎球状層由来の血 中アルドステロン値,および網状層由来の血中 DHEA-S(dehydroepiandrosterone sulfate)値の 低下も認める.一方,続発性では,コルチゾー ルの基礎値は低値で,ACTHは正常―低値を呈す る.ACTH基礎値が必ずしも低値でない場合に は,CRH(corticotropin-releasing hormone) 負 荷試験やインスリン低血糖試験によるACTH分 泌予備能の低下の確認が望ましい.迅速250 μg ACTH試験にてコルチゾール分泌予備能の低下 を確認できれば,原発性副腎不全症の診断はほ ぼ確定できる.ただし,続発性で病歴が長い症 例では,迅速ACTH負荷試験に対する反応性が必 ずしも良好でなく,軽症のAddison病との鑑別が 必ずしも容易でない場合がある.そのような場 合には,ACTH-Z連続負荷試験による副腎皮質予 備能の確認やCRH負荷試験によるACTHの反応 性の確認を要する場合がある.一方,早朝血中 コルチゾール基礎値の値からみたスクリーニン グ基準としては,複数の臨床研究の結果から, 18 μg/dl以上であれば,原発性および続発性副 腎皮質機能低下症はほぼ否定的であり,4 μg/dl 未満であればその可能性は極めて高い.4 μg/dl 以上,18 μg/dl未満はグレーゾーンとして,各 種負荷試験により鑑別診断を行っていく1)  迅速ACTH負荷試験(合成 1-24 ACTH 250 μg を静注)の複数の臨床研究の結果を勘案する と,30 分ないし 60 分の値が 18 μg/dl以上であ れば,副腎不全症は否定的,18 μg/dl未満の場 合は,原発性,続発性を含めて副腎不全症が疑 われる.また,迅速ACTH負荷試験において,血 中コルチゾール頂値が 15 μg/dl未満の場合は, 不全型を含め,原発性副腎不全症の可能性が高 い.日本人健常者(n=120)における検討で

(3)

は,迅速ACTH負荷試験後,血中コルチゾール頂 値の平均は22.7±7.7 μg/dl(mean±SD)まで上 昇しており1),-SD(standard deviation)値を 考慮すると,上記カットオフ値にある程度の妥 当性を与える.ACTH負荷試験は,副腎不全症の 診断に有用な検査であるが,これによって原発 性,続発性の鑑別診断が完全に可能であるわけ ではない.血中コルチゾールやACTHの基礎値, 他の負荷試験の結果や画像診断を参考に,総合 的に責任病変の部位診断を行う.診断アルゴリ ズムを図に示すが,全てを施行する必要はな く,症例に応じて必要な検査を選択して行う.

2.慢性副腎不全症における補充療法

 GCの過剰投与の弊害として,相対的な死亡率 の上昇,易感染性,健康観の障害,種々の代謝 異常症,骨密度の低下などが報告されており, 現在の補充療法の考え方は,副腎クリーゼのリ スクには配慮しつつも,できるだけ必要最少量 を継続補充していくという考え方が一般的であ り,生理的コルチゾールの分泌量と日内変動に 近い至適補充療法が望まれている1). コルチ ゾールの1日あたりの産生量は5~10 mg/m2/日 程 度 と す る 報 告 が あ り, ヒ ド ロ コ ル チ ゾ ン (hydrocortisone:HC)( コ ー ト リ ルⓇ)10~ 20 mg/日 のHCの 生 理 的 補 充 量 の 設 定 目 安 と なっている.本邦では食塩摂取量が多いことも あり,コートリルⓇ10~20 mg/日のみの補充で 通常十分であり,2~3回に分割服用する.朝と 夕の2回に分割する場合は,およそ朝2:夕1に する1).一般的には,続発性副腎不全症の方が 原発性副腎不全症よりも相対的に軽症であるこ とが多く,コートリルⓇ投与量は少なくてすむ 図 副腎不全症の診断フローチャート(案) ITT:insulin tolerance test

*血 中ACTH基 礎 値 も 同 時に参考にする. ACTH正常―高値:原発性 ACTH低―正常:続発性 の可能性を想定しながら, 診断を進める.血中ACTH 高値を伴い,色素沈着を 認める場合は原発性副腎 不全症の可能性が高い. 副腎皮質機能低下症を疑う臨床症状,検査所見 (全身倦怠感,低血圧,体重減少,低血糖,低Na血症,好酸球増多等) 早朝コルチゾール基礎値* <4 μg/dl(可能性高い) 4以上かつ18未満μg/dl ≧18 μg/dl 迅速ACTH 負荷試験(250 μg) コルチゾール頂値 副腎機能正常 副腎機能正常 <18 μg/dl** CRH負荷試験 コルチゾール頂値 副腎不全症(疑) 下垂体性否定 ITT コルチゾール頂値 <18 μg/dl 下垂体性 or 視床下部性(疑) No Yes 視床下部性 副腎機能正常 (症例によって迅速 ACTH負荷試験再検) 症例によっては潜在性副腎 不全症の除外のため, 低容量ACTH負荷(1μg)を施行. コルチゾール頂値<20 μg/dl であれば疑いあり. CRH負荷試験に進む. ACTH増加2倍未満 ACTH増加2倍以上 原発性 必要に応じて連続ACTH負荷 尿中遊離コルチゾール増加 No Yes ≧18 μg/dl ≧18 μg/dl <18 μg/dl **<15 μg/dlでは 原発性副腎不全症の 可能性が高い. ITT 視床下部性(疑) 症例によって選択 ACTH増加2倍未満 コルチゾール頂値 <18 μg/dl 視床下部性 症例によって選択

(4)

場合が多い.処方例を以下に示す. 1)2分割投与の場合  コートリルⓇ  10 mg/日の場合  朝 7.5 mg  夕 2.5 mg  15 mg/日の場合  朝 10 mg  夕 5 mg  20 mg/日の場合  朝 15 mg  夕 5 mg 2)3分割投与の場合  0.12 mg×体重(kg)で朝の投与量を決め, 朝:昼:夕を 3:2:1 の比率で 3 分割投与する と,血中コルチゾール値がより生理的変動に近 似する2).感染などいわゆるシックデイ時には, 副腎クリーゼの予防のため,通常の2~3倍の補 充を行う.

3.急性副腎不全症(副腎クリーゼ)の病態

 急性副腎不全症(副腎クリーゼ)とは,急激 にGCの絶対的または相対的な欠乏が生じ,放置 すると致命的な状況に陥る病態を指す.原因 は,1)既知・未知の慢性副腎不全症患者に種々 のストレス(感染,外傷など)が加わり,ステ ロイド需要が増加した場合と,2)治療目的で 長期服用中のステロイド薬の減量・中止が不適 切に行われた場合の発症が多い.また,感染, 特に胃腸炎が発症の誘因と考えられる症例が多 い1).その他,稀ではあるが,原発性では副腎 出血(髄膜炎菌感染,ワーファリン治療,外傷 など)や抗リン脂質抗体症候群による副腎梗塞 など,また続発性では,Sheehan症候群,下垂 体出血,頭部外傷などが成因として挙げられ る.急性副腎不全症の病態は循環不全であり, GC欠 乏 だ け で な く, ミ ネ ラ ル コ ル チ コ イ ド (mineralocorticoid:MC)欠乏によるナトリウム の喪失と体液量の減少,カテコラミンの合成と 作用の低下,クリーゼ発症誘発の契機となった 疾患による循環動態障害などがそれぞれ病態に 関与する.慢性副腎不全症患者における副腎ク リーゼの発症頻度に関しては,GC補償中の既知 副腎不全症患者の44%が少なくとも1回は副腎 クリーゼを経験し,その頻度は 6.3 件/100 人・ 年を推算とした報告1)がある.また,加療を要 した副腎クリーゼの頻度はAddison病の 8%程 度との疫学調査もある1).我が国の疫学調査の 結果3)によると副腎クリーゼの誘発要因は,感 染症が 63%,手術 6%,外傷 6%であり,イン フルエンザなどの感染症時における対応に関す る患者指導は極めて重要である.

4.副腎クリーゼの主要症候と一般検査所見

 悪心,嘔吐,軽度腹痛,体重減少,筋・関節 痛,倦怠感,発熱,血圧低下,意識障害など, 多様かつ非特異的である.これら症状を複数認 めた際に本症の可能性を疑う.身体所見では, 色素沈着(原発性副腎不全症のみ),恥毛,腋毛 の減少・脱落,耳介軟骨の石灰化(長期副腎不 全症例)の診断的価値が高い.発症基盤として の慢性副腎不全症の存在を疑わせる.ステロイ ド薬の長期連用例についてはCushing徴候を認 める一方で,副腎不全症状を訴える.なお,乳 幼児期には嘔吐,哺乳力低下,脱水,脱力が主 症状であり,年長になると腹痛,脱力,疲労, 精 神 障 害 な ど を 認 め る. ど の 小 児 年 代 に も ショックや低血糖発作は起こり得る.  一般検査所見として,低ナトリウム血症,高 カリウム血症,低血糖,貧血,好酸球増多など を認める.表 1に副腎クリーゼを疑う症候と検 査所見の一覧を示す.

5.副腎クリーゼの診断と治療

 本症が疑われれば,ACTH,コルチゾールの測 定用検体を採取後,躊躇なく治療を開始する. ストレス下の随時血中コルチゾール値を用いた 副腎クリーゼの判定の目安として,3~5 μg/dl 未満なら副腎不全症を強く疑う1)

(5)

 成人の場合には,投与するGCはHCの静脈内投 与が推奨される.表 2に副腎クリーゼ発症時の 代表的な治療法を示す3).HCを生理食塩水,ブ ドウ糖液とともに投与するが,200 mg/日を超 えるHC投与は意味がないとする意見もある5)  小児の場合の処置例を以下に示す.1)最初 の 1 時間に 450 ml/m2または 20 ml/kgの 5%グ ルコース含有の生理食塩水を点滴,その後は24 時間かけて 3,200 ml/m2または 60 ml/kgの速度 で点滴を続行.2)(1)を開始後,50~75 mg/ m2のHCを急速静注.3)静脈ルートを確保でき ないときは,迷わずHCコハク酸エステルの筋肉 内注射を行う(日本ではHCリン酸エステルは静 注適応のみ).4)以後は50~75 mg/m2/日のHC を持続投与もしくは 4 分割し,ショック症状が 改善するまで6時間ごとに投与.5)症状改善後 は経口薬に切り替え,1~4週間程度かけて維持 量まで漸減する.  なお,原発性副腎不全症患者(1,675 名)の 平均 6.5 年間の後ろ向き追跡調査によれば,副 腎クリーゼによる死亡は 26 名(1.5%)であっ たとする報告がある1). 既知の副腎不全症で あっても,副腎クリーゼによる死亡はあり得る ため,患者教育は重要である.一方で,副腎ク リーゼの発症は患者教育の程度と関連がなく, GC自己注射の教育・実施がその対策として重要 とする意見がある1)が,我が国ではGC自己注射 は認可されていない.

6.副腎クリーゼの予防のための患者指導

 副腎クリーゼ予防のための患者指導内容(成 人向け)の要点を以下に示す.1)自己判断で ステロイドの内服を中断しない.2)いつもと 違うストレス時,例えばインフルエンザ,発熱, 抜歯,強めの運動(長時間のウォークラリーな ど)などの際には,ふつうの状態よりもストレ ス対応ホルモンであるコルチゾールの量を多く 必要とする.そのような際には,コートリルⓇ を通常服用量の 1.5~3 倍服用する.3)万が一 のときに備え,緊急時用のカード(病名,処置, 連絡先を記載)を携帯しておく(主治医にカー ド作成を依頼する).

7. 特殊な病態:敗血症性ショックにおける

相対的副腎不全症

 重症ウイルス感染症や敗血症性ショックなど の患者において,重症の炎症反応を制御するに は不十分な副腎機能の状態,すなわち侵襲の大 きさに見合わないコルチゾール分泌状態を指し て,「相対的副腎不全症」という病態が提唱され ている.重篤な炎症状態に伴い,上昇している 様々な炎症性メディエーターやサイトカインが 副腎機能の抑制をもたらすため,血中コルチ ゾールの基礎値は通常の正常範囲内の値であっ ても,病態に見合わない値と解釈されている4) 元来,敗血症性ショック患者における血中コル 表1 副腎クリーゼを疑う症候と検査所見 1.脱水,低血圧,原因不明のショック 2.食欲低下,体重減少,嘔気,嘔吐,下痢 3.原因不明の腹痛・急性腹症 4.原因不明の発熱,関節痛 5.予期せぬ低血糖 6.低ナトリウム,高カリウム血症 7.貧血,好酸球増多 8.高カルシウム血症,BUN上昇 9.色素沈着,白斑 BUN:尿素窒素 表2 副腎クリーゼ発症時の治療法 1.心機能監視下に1000ml/時の速度で生理食塩水を点 滴静注 2.ヒドロコルチゾン(HC)100mg静注後,5%ブドウ 糖液中に100-200mgのHC混注した溶液を24時間で 点滴静注(あるいは25-50mgのHCを6時間毎に静注) 生理食塩水の投与量については,年齢や病態を考慮して判断 (文献3より引用)

(6)

チゾール基礎値は疾患重症度を反映し,高値の ものは生命予後が不良で,その閾値は 45 μg/dl 以上とする報告も認められる5).一方で,侵襲 の大きさに見合わない血中コルチゾール基礎 値,およそ血中コルチゾール基礎値 20 μg/dl未 満の患者群は,相対的副腎不全症として,やは り生命予後不良の病態として認識されるように なり4,5),予後改善のための 200~300 mgのHC 投与の是非が論じられるようになった.ACTH負 荷により相対的副腎不全症を診断する試みもあ り,種々の臨床研究では 250 μg ACTH負荷にお ける血中コルチゾールの頂値が,負荷前値より 9 μg/dl以上上昇したときを正常反応,それ未満 を「相対的副腎不全症」と診断する方法も提唱 されている6).しかしながら,「相対的副腎不全 症」の定義そのものがそれほど明確でなく,内 分泌学的診断法として確立したものはないのが 現状である.1 μg ACTH負荷試験の方が 250 μg ACTH負荷試験よりも,血中コルチゾール基礎値 20 μg/dl未満の相対的副腎不全症患者のスク リーニングにはより有用とする報告もある5)  ステロイド治療の有効性に関しては,以下の ような報告がある.フランスの 19 のintensive care unitsが参加した二重盲検試験(300症例の 敗血症性ショックが対象)では,250 μg ACTH 負荷後の判定(同上)に基づく「相対的副腎不 全」群は,299例中229例(77%)と高率であっ た.この「相対的副腎不全」群では,プラセボ 投与群に比し,HC 200 mg/日(50 mgを 6 時間 ごと,静注),7 日間投与群(taperingなし)に より,28日死亡率や入院死亡率の改善が示され た.一方,副腎機能正常群では,このような差 異は認められていない6).その後のメタアナリ シスでも上記成績の概要は支持されたが7,8)

2008 年 にNEJM(The New England Journal of Medicine)に発表された多施設RCT(randomized controlled trial)研究(499名の敗血症性ショッ ク患者が対象)では,その効果が否定されてい る.同研究では,250 μg ACTH負荷後の判定に 基づく「相対的副腎不全」群は 499 例中 233 例 (47%)に認めた.しかし,敗血症性ショック に対するHC 200 mg/日(50 mgを 6 時間ごと, 静注)の5日間投与(taperingあり)は,プラセ ボ投与群に比し 28 日死亡率を改善せず,「相対 的副腎不全」群と「正常副腎機能」群それぞれ に分けて同様の検討を行っても,プラセボ投与 群に対するHCの効果は認められなかった.ただ し,ショック離脱例は,HC投与群の方がプラセ ボ投与群に比して有意に高かったことが報告さ れている9).これら2つの臨床研究における結果 の違いに関しては,対象患者の重症度の違いや プロトコールの違いを考慮する必要があるが, 現時点では敗血症性ショックの「相対的副腎不 全症」に対するHC投薬による予後改善効果は限 定的と思われる.ステロイドの使用は,既存感 染症のさらなる重症化や日和見感染による新規 感染症の発症リスクを併せ持つことも考慮に入 れるべきである.現時点では,個々の症例によっ てステロイド治療の適応を慎重に見極めたうえ で使用されるべきと考えられる.

おわりに

 副腎クリーゼは,かかりつけ医療機関におけ る対応はそれほど困難ではないと思われるが, 全くの初診対応では,その診断は必ずしも容易 ではないことは銘記すべきである.高リスクの 患者では,万が一のときに備えて,緊急時用の カード(病名,処置,連絡先を記載)を作成し, 常時携帯させておくことが重要である. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:柳瀬敏彦;寄附 金(アステラス製薬,MSD,田辺三菱製薬,日本イーラ イリリー),寄附講座(MSD)

(7)

文 献

1) 柳瀬敏彦,他:副腎クリーゼを含む副腎皮質機能低下症の診断と治療に関する指針.日本内分泌学会雑誌 91 : 1― 78, 2015.

2) Mah PM, et al : Weight-related dosing, timing and monitoring hydrocortisone replacement therapy in patients with adrenal insufficiency. Clin Endocrinol(Oxf)61 : 367―375, 2004.

3) Jung C, Inder WJ : Management of adrenal insufficiency during the stress of medical illness and surgery. Med J Aust 188 : 409―413, 2008.

4) Copper MS, Steward PM : Adrenal insufficiency in critical illness. J Intensive Care Med 22 : 348―362, 2007. 5) Marik P, Zaloga G : Prognostic value of cortisol response in septic shock. JAMA 284 : 308―309, 2000.

6) Annane D, et al : Effect of treatment with low doses of hydrocortisone and fludrocortisone on mortality in patients with septic shock. JAMA 288 : 862―871, 2002.

7) Marik PE, Zaloga GP : Adrenal insufficiency during septic shock. Crit Care Med 31 : 141―145, 2003.

8) Siraux V, et al : Relative adrenal insufficiency in patients with septic shock : comparison of low-dose and conven-tional corticotropin tests. Crit Care Med 33 : 2479―2486, 2005.

9) Sprung CL, et al : Hydrocortisone therapy for patients with septic shock. N Engl J Med 358 : 111―124, 2008.  

参照

関連したドキュメント

4) American Diabetes Association : Diabetes Care 43(Suppl. 1):

10) Takaya Y, et al : Impact of cardiac rehabilitation on renal function in patients with and without chronic kidney disease after acute myocardial infarction. Circ J 78 :

38) Comi G, et al : European/Canadian multicenter, double-blind, randomized, placebo-controlled study of the effects of glatiramer acetate on magnetic resonance imaging-measured

 単一の検査項目では血清CK値と血清乳酸値に

 第一の方法は、不安の原因を特定した上で、それを制御しようとするもので

健康人の基本的条件として,快食,快眠ならび に快便の三原則が必須と言われている.しかし

 我が国における肝硬変の原因としては,C型 やB型といった肝炎ウイルスによるものが最も 多い(図

いメタボリックシンドロームや 2 型糖尿病への 有用性も期待される.ペマフィブラートは他の