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日本内科学会雑誌第107巻第5号

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Academic year: 2021

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はじめに

 近年,がん薬物治療の進歩により,がん患者 の生存率が改善するとともに,抗がん薬による 有害事象も複雑化している.急性腎障害は,抗 がん薬による有害事象として代表的なものであ る.抗がん薬による急性腎障害は,抗菌薬や非 ス テ ロ イ ド 性 抗 炎 症 薬(non-steroidal anti-in-flammatory drugs:NSAIDs)に次いで頻度が高 いため,投与時から適切な対応が必要な場合も 多い.このような経緯から,2016年には,がん 薬物治療と腎障害に関わる 16 の臨床上の疑問 (クリニカルクエスチョン(clinical question: CQ))とそれに対する推奨を作成した「がん薬 物療法時の腎障害診療ガイドライン 2016」(日 本腎臓学会・他)が出版された1).本稿では, がん薬物治療に伴う急性腎障害を,尿細管障 害・血管障害・糸球体障害・結晶性腎障害・急 性尿細管間質性腎炎に分類し,代表的な薬物に よる腎障害のメカニズムを概説するとともに, 前述のガイドラインの内容を紹介する(表 1). さらに,最近注目されている免疫チェックポイ ント阻害薬による急性間質性腎炎についても言 及したい.

1.抗がん薬による腎障害の分類(

表2

 抗がん薬による腎障害も,腎前性,腎実質性, 腎後性に分類される.腎前性腎障害の例として は,テセロイキンやセルモロイキンといったIL (interleukin)-2 製 剤 に よ っ て 生 じ るcapillary leak syndromeで,腎後性腎障害の例としては, シクロホスファミド投与後の出血性膀胱炎から 膀胱内血栓を来たし,尿路閉塞に至ったという 症例報告が存在する.しかしながら,ほとんど の薬剤は腎実質性腎障害に分類される.代表的

抗がん薬と急性腎障害

要 旨 松原 雄 柳田 素子  抗がん薬に伴う急性腎障害は,薬剤性腎障害のなかで抗菌薬や非ステロ

イド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)に 次いで頻度が高く,白金製剤を中心とした尿細管障害,血管新生阻害薬や ゲムシタビンに代表される血栓性微小血管症,メトトレキサートによる結 晶性腎障害等がある.さらに,免疫チェックポイント阻害薬による間質性 腎炎も注目されている.特異的な治療は存在しないため,薬剤以外の腎障 害危険因子を排除しつつ,腎機能を適切にモニターし,早期に介入するこ とが肝要である. 〔日内会誌 107:865~871,2018〕

Key words Fanconi症候群,血栓性微小血管症,免疫チェックポイント阻害薬

京都大学大学院医学研究科腎臓内科学

Medication Control in Nephrology Field: Remarkable Points. Topics:II. Detailed exposition;5. Nephrotoxicity of chemotherapy Agents. Takeshi Matsubara and Motoko Yanagita:Department of Nephrology, Kyoto University Graduate School of Medicine, Japan.

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な薬剤と腎障害の関連を表2に示す1)が,本稿で は,抗がん薬に伴う腎実質性腎障害を,尿細管 障害,血管障害,糸球体障害,結晶誘発性腎症, 急性尿細管間質性腎炎に分けて概説する.

2.尿細管障害

 抗がん薬のなかには,尿細管細胞を直接障害 し,急性尿細管壊死(acute tubular necrosis: ATN)を引き起こすものが存在する.尿所見で は脱落した尿細管上皮や上皮円柱が目立つ.時 に,障害が著しい場合には,乏尿性の腎障害を 表 1 がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン 2016 クリニカル・クエスチョン(CQ 1~16)と推奨レベル CQ1 抗がん薬投与における用量調節のための腎機能評価に eGFR は推奨されるか? 行うことを弱く推奨する(提案する) CQ2 抗がん薬による AKI の早期診断に,バイオマーカーによる評価は推奨されるか? 行うことを弱く推奨する(提案する) CQ3 腎機能の低下した患者に対して毒性を軽減するために抗がん薬投与量減量は推奨されるか? 行うことを弱く推奨する(提案する) CQ4 シスプラチンによる AKI を予測するために,リスク因子による評価は推奨されるか? 行うことを弱く推奨する(提案する) CQ5 シスプラチン分割投与は腎障害の予防に推奨されるか? 行わないことを強く推奨する(提案する) CQ6 シスプラチン投与時の補液(3 L/日以上)は腎障害を軽減するために推奨されるか? 行うことを強く推奨する CQ7 シスプラチン投与時の short hydration は推奨されるか? 行わないことを弱く推奨する(提案する) CQ8 利尿薬投与はシスプラチンによる腎障害の予防に推奨されるか? 行わないことを弱く推奨する(提案する) CQ9 マグネシウム投与はシスプラチンによる腎障害の予防に推奨されるか? 行うことを弱く推奨する(提案する) CQ10 腎機能に基づくカルボプラチン投与量設定は推奨されるか? 行うことを強く推奨する CQ11 大量メトトレキサート療法に対するホリナート救援療法時の腎障害予防には尿のアルカリ化が推奨されるか? 行うことを強く推奨する CQ12 血管新生阻害薬投与時にタンパク尿を認めたときは休薬・減量が推奨されるか? 行うことを強く推奨する CQ13 ビスホスホネート製剤,抗 RANKL 抗体は腎機能が低下した患者に対しては減量が推奨されるか? 行うことを強く推奨する CQ14 維持透析患者に対してシスプラチン投与後に薬物除去目的に透析療法を行うことは推奨されるか? 行わないことを弱く推奨する(提案する) CQ15 腫瘍崩壊症候群の予防にラスブリカーゼは推奨されるか? 行うことを強く推奨する CQ16 抗がん薬による TMA に対して血漿交換は推奨されるか? 行わないことを弱く推奨する(提案する)

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来たし,腎代替療法が必要になることもある. 1)シスプラチン  シスプラチンは,がん治療に用いる白金製剤 のなかで最も使用されている薬剤の 1 つである が,ATNを来たす代表的な抗がん薬でもある2) シスプラチンによるATNの頻度は 20~30%程 度で,用量依存的とされている.シスプラチン は,近位尿細管の基底膜側に存在する有機カチ オ ン ト ラ ン ス ポ ー タ ー(OCT(organic cation transporter)2)を介して,能動的に細胞内に取 り込まれた結果,細胞障害を来たす.近位尿細 管壊死が最も一般的ではあるが,Fanconi症候群 (近位尿細管細胞の機能障害により,アミノ酸 尿,腎性尿糖,近位尿細管性アシドーシス,低リ ン血症,低尿酸血症等の酸塩基平衡異常や電解 質異常を呈する病態)となるケースも存在する.  シスプラチンと比較すると,他の白金製剤で は腎障害の危険性は少ない.カルボプラチンや オキサリプラチンはOCT2 への親和性が弱く, 水酸化ラジカルの原因となるCl基も有さないた めである.しかし,他にATNの危険因子を有し ている患者や用量蓄積のある患者では危険性は 増すとされているため,注意が必要である.ま た,腎機能低下による薬剤の過量投与を防ぐた めにも,カルボプラチンではCalvert式を用いた 投与量設定が強く推奨されている.  シスプラチンによる腎障害は予防が最も重要 である.通常,生理食塩水を中心とした補液を 十分(ガイドライン上は3 l/日以上:表1・CQ6) を行うことが推奨されているが1),それ以外に も他の腎毒性薬剤を極力避けることが重要であ る.利尿剤も長年に亘り広く投与されており, 安全性も確立されているが,腎障害予防という 観点では,明確に有効性を示すランダム化比較 試験がないため,ガイドライン上は「行うこと を弱く推奨する(提案する)」(表 1・CQ8)と なっている1) 表 2 主な抗がん薬による急性腎障害の機序と薬剤例 1.腎前性 ・毛細血管漏出症候群 インターロイキン 2 2.腎実質性 1)尿細管病変 ・急性尿細管壊死 白金製剤,ゾレドロン酸,インターフェロン,ペントスタチン, イマチニブ,パミドロン酸 ・尿細管炎(Fanconi 症候群) シスプラチン,イホスファミド,アザシチジン,イマチニブ,パミドロン酸 ・マグネシウム喪失 シスプラチン,セツキシマブ ・腎性尿崩症 シスプラチン,イホスファミド,ペメトレキセド 2)血管性 ・血栓性微小血管症 ベバシツマブ,ゲムシタビン,シスプラチン,マイトマイシン C, インターフェロン 3)糸球体病変 ・微小変化群 インターフェロン,ペメトレキセド ・巣状糸球体硬化症 インターフェロン,ペメトレキセド,ゾレドロン酸 4)尿細管閉塞性腎障害 ・結晶性腎障害 メトトレキサート 5)急性間質性腎炎 ニボルマブ,イピリムマブ,ソラフェニブ,スニチニブ 3.腎後性 ・出血性膀胱炎(尿路閉塞) シクロホスファミド

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2)イホスファミド  シスプラチンと同様,イホスファミド及びそ の代謝物も近位尿細管細胞に対する直接障害作 用を有することが知られている.イホスファミ ドはアルキル化剤であり,多くの固形がん及び リンパ腫や胚細胞性腫瘍の治療に使用されてい る.腎障害の頻度は約 30%と報告されている が3),シスプラチンと異なり,ATNよりもFanconi 症候群を来たす方が一般的である.  イホスファミドも,シスプラチンと同様,血 管側に発現するOCT2 を介して尿細管細胞に能 動的に取り込まれる.イホスファミドの蓄積量 が 60~80 g/m2に達すると腎毒性が生じやすい とされているが,これ以下の量でも生じ得る. 特に,シスプラチンの事前使用はイホスファミ ドによる尿細管障害発症の独立した危険因子で あることも指摘されている. 3)ペメトレキセド  メトトレキサートの構造的アナログであるペ メトレキセドは,プリン及びピリミジン代謝酵 素 を 抑 制 し,DNA(deoxyribonucleic acid) や RNA(ribonucleic acid)の合成を阻害する.ペ メトレキセドがよく使われるがん種は悪性胸膜 中皮腫や非小細胞肺癌等である.近位尿細管で は,管腔側に存在する葉酸受容体や基底側の葉 酸キャリアにより取り込まれる.細胞内に入る と,グルタチオン化により細胞外への輸送が阻 害され,細胞内濃度が上昇した結果,葉酸代謝 が阻害され,腎細胞障害に至る.このように, ペメトレキセドが有する腎毒性は,葉酸代謝拮 抗と結び付いている.ペメトレキセドによる腎 障害としては,近位尿細管障害だけでなく,集 合管が障害された結果起こる腎性尿崩症も報告 されている.

4) mTOR(mammalian target of rapamycin) 阻害薬  mTOR阻害薬使用時の急性腎障害の症例報告 も存在する.その 4 例の腎生検の結果は,急性 尿細管壊死であった4).mTOR阻害薬による腎障 害の機序は正確にはわかっていない.しかし, mTORキナーゼによって形成されるmTORCとい うタンパク複合体は,オートファジーの阻害に 関与していることがわかっているため,mTOR 阻害薬によるオートファジーの誘導が尿細管の 機能障害に関与しているのではないかと推定さ れている.mTOR阻害薬は臓器移植後にも用い られるが,この場合には腎障害が認められない にもかかわらず,がん治療時には出現する理由 として,がん治療ではより多量のmTOR阻害薬が 使 用 さ れ る( エ ベ ロ リ ム ス は,移 植 時 に は 1.5 mg/日,腎がん治療時には10 mg/日を使用す る)ことが原因の1つであると考えられている. 5) ADT(アンドロゲン除去療法)による 急性腎障害  近年,前立腺癌の治療を受けている患者にお いて,ADTが急性腎障害の頻度上昇に関連する ことが報告された.10,250人の前立腺がん患者 を平均 4.1 年フォローし,年齢等をマッチさせ た対照群と比較した結果,ADTは急性腎障害発 症の調整オッズ比が 2.48 であった5).ADTによ る急性腎障害の機序は明らかになっていない が,障害の主たる部位は尿細管と考えられてお り,ADTによりテストステロンやエストラジ オールが低値になると,テストステロンが有す る腎血管拡張作用と同時に,エストロゲンの尿 細管保護作用が障害されることで,発生につな がると予想されている.

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3.腎血管及び内皮細胞障害

1)血管新生阻害薬  本薬剤はさまざまながんで使用されており, 主 に 血 管 内 皮 増 殖 因 子(vascular endothelial growth factor:VEGF)シグナル伝達経路の抑制 によって腫瘍に関わる血管新生を阻害するが, 高血圧とタンパク尿が有害事象として報告され るようになった.  VEGFシグナルの阻害によるこれらの有害事 象の機序は,血管内皮細胞障害と考えられてい る.すなわち,血管内皮細胞の障害によりNO (nitric oxide)やプロスタサイクリン等の血管拡 張に関わる因子の産生が阻害されると高血圧と なり,腎糸球体の内皮細胞が障害されると,血 栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)を呈してタンパク尿が出現する.マウス の糸球体の足細胞特異的にVEGFを欠損させる と,糸球体の内皮細胞が障害された結果TMAが 出現することから,VEGFの局所的な産生が糸球 体血管内皮細胞の恒常性維持に必須であること が示唆されている.  抗VEGF抗体であるベバシズマブの成績によ れば,治療を要する高血圧の頻度は,低用量群 で8.7%,高用量群では16.0%という結果であっ た.一方,TMAの正確な発生頻度は不明である が,タンパク尿の頻度はベバシツマブ投与患者 の5~13%であり,3.5 g/日以上のタンパク尿は 2.2%と報告されている6)  血管新生阻害薬では,高血圧の発症が抗腫瘍 効果の指標となるという報告が大腸がんや腎細 胞がんで示されていることから,同薬剤を使用 中に高血圧を来たした場合は,降圧薬を用い, 血圧が管理される限り血管新生阻害薬を継続す ることが提唱されている.一方,タンパク尿に 対してはこのようなエビデンスに乏しく,ガイ ドライン上は「グレード2(1 g/日以上)のタン パク尿が出た場合は一時休薬や減量を行うこと を強く推奨」(表 1・CQ12)1)とされている. 2)ゲムシタビン  ゲムシタビンはDNA合成阻害作用のある核酸 アナログであり,多くの固形がんで使用されて いるが,この薬剤でも腎のTMAによる急性腎障 害の報告がある.ゲムシタビンによるTMAの頻 度は投与患者の0.015~1.4%程度と評価されて いる.  どのような薬剤でTMAが生じようと,腎機能 低下が重篤あるいは進行性の場合は,薬剤中止 が原則である.高血圧は治療すべきである.し かしながら,選択的にレニン・アンジオテンシ ン阻害薬を使用すべきかどうかは研究されてい ない.ステロイドや血漿交換に関しては,小さ な非ランダム化比較試験によれば,有益性は証 明されなかった.ガイドラインでも,抗がん薬 によるTMAへの血漿交換は「行わないことを弱 く推奨する」とされている(表 1・CQ16)1)

4.糸球体病変

 TMAでは内皮細胞障害によりタンパク尿が 生じるが,タンパク尿は糸球体足細胞障害や基 底膜の障害でも生じる.障害が重篤な場合,ネ フローゼ症候群に至る.抗がん薬では,インター フェロン治療が最もネフローゼ症候群と関連が 深い.

5.結晶誘発性腎症

 ある種の薬剤もしくはその代謝物は凝集して 尿中に結晶分子を形成し,腎障害を来たすこと が知られている.このタイプの薬剤性障害を起 こし得る抗がん薬として知られているのがメト トレキサート(methotrexate:MTX)である.  MTXの主たる代謝物は近位尿細管で分泌さ れるが,この代謝物はMTXと比較すると 6~10 倍溶解度が低いため,尿が濃縮される遠位尿細

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管から集合管において結晶が析出し得る.MTX による腎障害の頻度は,骨肉腫の患者であれば 1.8%程度と推定されている.MTXは腎排泄型の 薬剤であるため,このような腎障害により腎機 能が低下すると血中濃度も上昇し,MTXが有す るその他の毒性,例えば,骨髄抑制や神経毒性, 肝炎,粘膜障害の危険性も増加することになる.  MTXによる腎障害を防ぐには,積極的に輸液 負荷をかけて尿量を保つことである.これによ り,尿細管における結晶化も防げる可能があ る.また,尿のpHが 6.0 から 7.0 に上がると, MTXとその代謝物の溶解性は 5~8 倍上昇する とされており,ガイドライン上も結晶化予防の ための尿のアルカリ化が強く推奨されている (表 1・CQ11)1)

6. 間 質 性 腎 炎( 免 疫 チ ェ ッ ク ポ イ ン ト

阻害薬による腎障害を中心に)

 間質性腎炎とは,尿細管とその周囲組織であ る間質主体に炎症を伴う疾患である.間質性腎 炎の原因として薬剤性のものは多いが,抗がん 薬の有害事象としては比較的稀である.しか し,近年注目されているのは,CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4)やPD-1(pro-grammed cell death 1)を標的とする免疫チェッ クポイント阻害薬に関連した急性間質性腎炎で ある.この薬剤は抗腫瘍性をもったT細胞の免 疫を変化させる機能を有するとされており,メ ラノーマや非小細胞肺癌をはじめ,さまざまな がんに効果的であることがわかってきた.興味 深いことに,この種の薬剤治療に関連して,さ まざまな臓器で炎症性疾患が起こることが報告 されている.例えば,甲状腺炎,肝炎,腸炎等 である.恐らく,これらの有害事象は自己抗原 に対するT細胞の免疫寛容が破綻したことを反 映していると考えられる.  腎に関しては,免疫チェックポイント阻害薬 を使用した患者 3,695 名の調査によると,急性 腎障害の発生割合は全体で2.2%,薬剤毎ではニ ボルマブ 1.9%,ペンブロリツマブで 1.4%,イ ピリムマブ 2.0%という結果であった7)  発症機序には大きく 2 つの仮説がある.1 つ は,腎の内因性抗原に対する免疫寛容の破綻で あり,もう 1 つは,併用薬剤に対する免疫寛容 の破綻である.後者の仮説は,免疫チェックポ イント阻害薬を使用中に間質性腎炎を来たした 19 名中 14 名において,プロトンポンプ阻害薬 (proton pump inhibitor:PPI)やNSAIDs等,薬 剤性間質性腎炎の被疑薬を併用していたという 報告を背景としている7)  同薬剤による間質性腎炎では,好酸球増加や 皮疹や発熱といった通常の薬剤性間質性腎炎の 典型的な所見は見られないことが多い.また, 通常の薬剤性間質性腎炎では,80%が被疑薬投 与から 3 週間程度で発症するといわれているの に対し,免疫チェックポイント阻害薬による間 質性腎炎では3~35週(中央値は13週)という 報告や,40~60週という報告があり,一定して いない.腎以外の免疫関連有害事象の出現も特 徴的である.  確定診断には腎生検が必要である.組織学的 には,尿細管炎と間質の炎症からなり,間質の 炎症は活性化リンパ球主体で,非乾酪性肉芽腫 を伴う症例も存在する.免疫染色ではグロブリ ンや補体の沈着は認めない.  確立された治療方法は存在しないが,クレア チニンが基礎値の 1.5~2.0 倍以内の上昇の場合 は慎重に経過観察し,それ以上に対しては,治 療は中断してステロイドが開始される.現時点 では,最適なステロイド使用量や治療期間に関 する統一的見解はないが,可及的に提唱されて いるのは 1 mg/kg/日のプレドニゾロンを開始 して 1~2 カ月で漸減するという方法である8) 間質性腎炎を起こし得る併用薬も中止する.  専門家の推奨レベルでは,グレード3・4の有 害事象,すなわち,Creが基礎値の3倍以上,Cre >4.0 mg/dl,腎代替療法の開始の場合が発生し

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た場合には同薬剤の中止が望ましいとされてい る.一方で,免疫関連の有害事象がみられた患 者の26%で抗腫瘍効果があったのに対し,有害 事象のみられなかった患者では 2%であったと いう報告から,「免疫関連の有害事象のあった患 者では抗腫瘍効果が上昇する」ことが予想され ている.従って,「間質性腎炎が適切に治療さ れ,他の腎障害被疑薬が中止されている場合に 限っての再投与は合理的である」という意見も あるが,確立されたものではない.

おわりに

 薬剤性腎障害において,疾患特異的な治療は 現時点で存在しない.従って,腎障害を来たし 得る薬剤を使用する際に求められるのは,使用 前の腎機能を正確に把握して投与量を最適化す ること,薬剤以外の腎障害を引き起こす危険因 子を極力排除すること,腎障害を軽減する方法 が提案されている薬剤については個々の患者へ の適応を考慮しつつ併用することが重要であ る.また,使用後の腎機能の適切なモニタリン グを行い,腎障害が起きた際には早期に介入す ることが肝要である. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:柳田素子;講演 料(協和発酵キリン,中外製薬),研究費・助成金(協 和発酵キリン,田辺三菱製薬,日本ベーリンガーインゲ ルハイム),寄附金(アステラス製薬,協和発酵キリン, 武田薬品工業,田辺三菱製薬,中外製薬,バクスター, 扶桑薬品工業),寄附講座(田辺三菱製薬) 文 献 1) 日本腎臓学会,他編:がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン 2016.ライフサイエンス出版,東京,2016. 2) Arany I, Safirstein RL : Cisplatin nephrotoxicity. Semin Nephrol 23 : 460―464, 2003.

3) Skinner R, et al : Ifosfamide, mesna, and nephrotoxicity in children. J Clin Oncol 11 : 173―190, 1993.

4) Izzedine H, et al : Acute tubular necrosis associated with mTOR inhibitor therapy : a real entity biopsy-proven. Ann Oncol 24 : 2421―2425, 2013.

5) Lapi F, et al : Androgen deprivation therapy and risk of acute kidney injury in patients with prostate cancer. JAMA 310 : 289―296, 2013.

6) Zhu X, et al : Risks of proteinuria and hypertension with bevacizumab, an antibody against vascular endothelial growth factor : systematic review and meta-analysis. Am J Kidney Dis 49 : 186―193, 2007.

7) Cortazar FB, et al : Clinicopathological features of acute kidney injury associated with immune checkpoint inhib-itors. Kidney Int 90 : 638―647, 2016.

8) Wanchoo R, et al : Adverse Renal Effects of Immune Checkpoint Inhibitors : A Narrative Review. Am J Nephrol 45 : 160―169, 2017.

参照

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