はじめに
Cushing症候群(Cushing’s syndrome:CS)は,
慢性的なグルココルチコイド過剰状態により,
特異的症候,糖・脂質・骨代謝異常,高血圧等 の非特異的症候を呈する全身疾患である.この グルココルチコイド過剰状態は,内因性グルコ コルチコイド過剰(コルチゾール過剰)及び外 因性グルココルチコイド過剰(医原性プレドニ ゾロン,デキサメタゾン等の合成ステロイド)
により生じる.また,内因性グルココルチコイ ド過剰は,ACTH(adrenocorticotropic hormone)
の関与の有無によってACTH依存性Cushing症候
群とACTH 非依存性Cushing症候群に分類され る.ACTH依存性Cushing症候群は,ACTH過剰産 生の結果としてコルチゾール過剰を来たす疾患 で あ り,ACTH産 生 下 垂 体 腫 瘍 が 原 因 で あ る Cushing病,異所性ACTH症候群,稀ではあるが,
異所性CRH(corticotropin-releasing hormone)症 候群が存在する.また,ACTH非依存性Cushing 症候群は,副腎性Cushing症候群であり,副腎の 腺腫,癌,過形成等が原因として挙げられる(表 1).また,ACTHまたはコルチゾールの自律分泌 を認めながら,特徴的な身体症候を認めないも のをそれぞれsubclinical Cushing病,副腎性sub- clinical Cushing症候群(SCS)と呼ぶ.本稿では,
Cushing症候群・副腎性
subclinical Cushing症候群の 診断と治療
要 旨
大月 道夫 Cushing症候群(Cushing’s syndrome:CS)は,慢性的なグルココル
チコイド過剰状態により,特異的症候,糖・脂質・骨代謝異常,高血圧等 の非特異的症候を呈する全身疾患である.まず,医原性Cushing症候群を 除外し,次にACTH(adrenocorticotropic hormone)自律分泌の有無を チェックすることが重要である.また,副腎性subclinical Cushing症候群 の新診断基準が作成された.治療抵抗性の合併症(高血圧,全身性肥満,
耐糖能異常,骨密度低下,脂質異常症等)を有する場合は副腎腫瘍摘出を 考慮する.
〔日内会誌 107:674~680,2018〕
Key words Cushing症候群,Cushing病,副腎性subclinical Cushing症候群,副腎偶発腫
大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科
Endocrine hypertension: pearl and pitfall in daily clinical practice. Topics:III. Diagnosis and management of Cushing syndrome and subclinical Cushing syndrome.
Michio Otsuki:Department of Metabolic Medicine, Osaka University Graduate School of Medicine, Japan.
Cushing症候群の診断・治療及び副腎性SCSの新 診断基準について述べる.
1.Cushing症候群の病態・診断
1)病態,症候と検査所見
グルココルチコイドは,ステロイドホルモン 受容体スーパーファミリーに属するグルココル チコイド受容体を介して作用する.この受容体 は全身に分布しており,グルココルチコイド過 剰状態であるCushing症候群は,全身に影響を及 ぼす.
Cushing症候群の特異的症候として満月様顔 貌,中心性肥満または水牛様脂肪沈着,皮膚の 幅1 cm以上の赤紫色伸展性皮膚線条,皮膚の菲 薄化及び皮下溢血,近位筋萎縮による筋力低 下,小児における肥満を伴った成長遅延,非特 異的症候として高血圧,月経異常,痤瘡(にき び),多毛,浮腫,耐糖能異常,骨粗鬆症,精神 異常が認められる1). これらの症候はコルチ ゾール過剰による脂肪合成促進,急速な脂肪沈 着による皮下組織断裂,皮膚の菲薄化・脆弱化,
蛋白合成抑制と異化亢進,脂肪合成及び糖新生 の促進,コルチゾールのミネラロコルチコイド 作用(腎でのNa(ナトリウム)再吸収,K(カ リウム)排泄亢進),腸管からのカルシウム吸収 低下,骨形成低下・吸収亢進により生じる.ま た,ACTH依 存 性Cushing症 候 群 に お い て は,
ACTH上昇による皮膚のメラノコルチン受容体 活性化により色素沈着を生じる.
一般検査所見では,末梢血において,リンパ 球及び好酸球減少,好中球増加,生化学検査で は,低K血症,血糖値上昇,LDL-C(low density lipoprotein-cholesterol)・中性脂肪上昇,HDL-C
(high density lipoprotein-cholesterol)低下,凝 固能亢進,免疫グロブリン低下を認めるが,い ずれも特異的ではない.
2)診断のアルゴリズム
合成ステロイドは,炎症性疾患,自己免疫疾 患,悪性腫瘍等さまざまな病態の治療で使用さ れている.従って,臨床症候よりCushing症候群 が疑われる場合には,まず病歴,特に服薬歴を 詳細に聴取し,外因性グルココルチコイド過剰 による医原性Cushing症候群を鑑別する必要が ある.内分泌学的には,血中ACTHと血中コルチ ゾールが共に低下することから診断できるが,
ヒドロコルチゾン,プレドニゾロンが投与され ている場合には,コルチゾール測定系に影響す るため,血中コルチゾールでの評価が困難とな る.もしヒドロコルチゾン,プレドニゾロンの 服薬中止が困難な場合には,コルチゾール測定 系への影響の少ないデキサメタゾンに変更し,
血中コルチゾールの評価を行う.医原性Cushing 症候群を除外後,血中ACTH,コルチゾール,尿 中遊離コルチゾールの評価を行う.血中コルチ ゾール,尿中遊離コルチゾールが正常~高値で あり,さらに血中ACTHが正常~高値の場合には ACTH自律分泌を考え,ACTH依存性Cushing症候 群のスクリーニング検査を行う.一方,血中コ ルチゾール正常~高値,尿中遊離コルチゾール 表 1 Cushing 症候群の分類
ACTH 依存性 Cushing 病 異所性 ACTH 症候群 異所性 CRH 症候群 ACTH 非依存性
副腎腺腫 副腎癌
ACTH 非依存性大結節性副腎皮質過形成
(AIMAH または BMAH)
原発性色素沈着結節性副腎皮質病
(PPNAD)
McCune-Albright 症候群
(薬理量のプレドニゾロン,デキサメサゾン等の投与)医原性 AIMAH:ACTH independent macronodular adrenocortical hyperplasia
BMAH:bilateral macronodular adrenal hyperplasia PPNAD:primary pigmented nodular adrenocortical disease
高値であるが,血中ACTHが抑制されている場合 には,ACTH非依存性Cushing症候群の診断検査 を行う(図).
(1)ACTH依存性Cushing症候群の診断(図)
ACTH依存性Cushing症候群では,スクリーニ ング感度を上げる目的で0.5 mgデキサメタゾン 抑 制 試 験(dexamethasone suppression test:
DST)が採用されている2).従って,ACTH依存 性Cushing症候群では,一晩少量(0.5 mg)DST の翌朝血中コルチゾールは抑制を認めず(5
μ
g/dl以上),日内変動は消失(深夜血中コルチゾー ル値 5
μ
g/dl以上),DDAVP(desmopressin)試 験においてDDAVP(4μ
g)静注後の血中ACTH値 は前値の 1.5 倍以上を示す(DDAVPは検査薬と 図 Cushing 症候群の診断アルゴリズムCushing症候群の疑い
医原性Cushing症候群(外因性グルココルチコイド過剰)の除外 血中ACTH,血中コルチゾール,尿中遊離コルチゾール測定 血中ACTH 正常~高値
血中コルチゾール 正常~高値 尿中遊離コルチゾール 正常~高値
血中ACTH 抑制 血中コルチゾール 正常~高値
尿中遊離コルチゾール 高値
ACTH依存性Cushing症候群 ACTH非依存性Cushing症候群 一晩少量(0.5 mg)デキサメタゾン抑制試験
翌朝血中コルチゾール ≧5 μg/dl 一晩少量(1 mg)デキサメタゾン抑制試験 翌朝血中コルチゾール ≧5 μg/dl
腹部CTまたはMRI
副腎腺腫 DDAVP試験(4μg)血中ACTH 前値の1.5倍以上
日内変動 深夜睡眠時血中コルチゾール
≧5 μg/dl
深夜唾液コルチゾール 施設平均の1.5倍以上
CRH試験 血中ACTH 前値の1.5倍以上 一晩大量(8 mg)デキサメタゾン抑制試験 翌朝血中コルチゾール値 前値の半分以下
下垂体MRI(下垂体腫瘍の存在)
Cushing病 異所性ACTH症候群 海綿または下錐体 静脈洞サンプリング
あり なし
副腎皮質過形成 (AIMAHまたは BMAH,PPNAD) 副腎癌
血中ACTH値の 中枢側・末梢側比が2以上
(CRH刺激後は3以上)
日内変動 深夜血中コルチゾール
≧7.5 μg/dl
して保険適用外).DST施行時にデキサメタゾン 代謝を促進する薬物(CYP3A4誘導薬薬:リファ ンピシン,カルバマゼピン,フェニトイン,ピ オグリタゾン等)を服用している場合,偽陽性 となりやすいため,注意が必要である.異所性 ACTH症候群との鑑別を目的とした確定診断検 査では,Cushing病は,CRH試験において血中 ACTHが 1.5 倍以上に増加し,一晩大量(8 mg)
DSTにおいて翌朝血中コルチゾールは抑制され る(前値の半分以下).しかし,著明な高コルチ ゾール血症の場合には,血中コルチゾールが抑 制されないこともある.下垂体MRI(magnetic resonance imaging)では下垂体腫瘍の存在を証 明する.腫瘍の存在が証明できれば,Cushing病 の診断はほぼ確定できるが,下垂体腫瘍の検出 率は60~70%である.海綿または下錐体静脈洞 サンプリングは,明らかなACTH依存性Cushing 症候群にもかかわらず,下垂体MRIによって下 垂体に腫瘍を認めない場合に施行する.血中 ACTH値 の 中 枢 側・ 末 梢 側(C/P) 比 が 2 以 上
(CRH刺激後は 3 以上)であればCushing病と考 える1).
(2)ACTH非依存性Cushing症候群の診断(図)
血中ACTH抑制,血中コルチゾール正常~高 値,尿中遊離コルチゾール高値に加え,一晩少 量(1 mg)DSTにおいて翌朝血中コルチゾール の抑制なく(5
μ
g/dl以上),日内変動の消失(深 夜血中コルチゾール値 7.5μ
g/dl以上)を認めた 場 合,ACTH非 依 存 性Cushing症 候 群 と 診 断 す る3).次に副腎病変精査目的で腹部画像検査を 行う.副腎腺腫は脂肪成分が多く,典型例では 単純CT(computed tomography)にてCT値10 HU 未満の低吸収値を呈する.また,脂肪成分が多 いとchemical shift MRIにおいて,T1強調画像の out of phaseで脾臓と比べてシグナル低下を示 す.ACTH非 依 存 性 大 結 節 性 副 腎 皮 質 過 形 成(ACTH-independent macronodular adrenal hyperplasia:AIMAH,またはbilateral macronod- ular adrenal hyperplasia:BMAH)では,粗大な
結節が多発して認められる特徴を有する一方,
原発性色素沈着性結節性副腎皮質病変(primary pigmented nodular adrenocortical disease:
PPNAD)の場合は,副腎の腫大を認めないこと が多い.
2.Cushing症候群の治療
Cushing症候群の治療目標は,グルココルチコ イド過剰による感染症,高血圧,糖・脂質代謝 異常,骨粗鬆症,精神病等の合併症の進行をコ ントロールし,主な死因となる感染症,心血管 障害及び静脈血栓症を予防することである.手 術療法による原発巣の摘出が第一選択である が,病状によっては,放射線療法や薬物療法が 優先されることもある.
1)Cushing病
(1)手術療法
経蝶形骨洞下垂体腺腫摘出術(transsphenoi- dal surgery:TSS)が第一選択である.下垂体に 腫瘍を認める場合には問題はないが,画像上,
下垂体に腫瘍を認めないが,海綿または下錐体 静脈洞サンプリングにおいてCushing病である ことが強く疑われる場合には,疑わしい側の片 側下垂体切除を行うこともある.いずれもTSS に熟達した脳神経外科医に依頼することが必要 である.寛解基準は,術後 7 日以内の朝血中コ ルチゾール5
μ
g/dl未満,または尿中遊離コルチ ゾール 10~20μ
g/日未満である4).また術後,抑制されていた視床下部―下垂体―副腎(hypo- thalamic-pituitary-adrenal:HPA)系が視床下部,
下垂体,副腎の順に回復する.従って,その間 はヒドロコルチゾンの補充療法が必要である.
(2)放射線療法
放射線療法は,TSSが不十分,または再発の 場合に考慮される.最近では,通常分割照射に 代わり,定位手術的照射(stereotactic radiosur- gery:SRS)であるガンマナイフ,定位放射線治
療(stereotactic radiotherapy:SRT)であるサイ バーナイフのような定位放射線照射が行われ る.しかし,放射線療法の効果発現までには時 間がかかるため,放射線療法施行前に薬物療法 によるグルココルチコイド過剰のコントロール が可能かどうかを確認することが必要である4).
(3)薬物療法
Cushing病に対する薬物療法は,原因がACTH の過剰産生であることから,治療標的は,ACTH 産生抑制とコルチゾール産生抑制となる.ACTH 産生抑制薬としては,ほとんどのACTH産生腺腫 にドパミンD2受容体発現を認めることから,ド パミン作動薬であるカベルゴリンが使用され る.30~40%のCushing病患者に効果を認め,
2~3 年尿中遊離コルチゾールの正常化が持続 したとの報告がある4).また,ACTH産生腺腫に おいて,5 型ソマトスタチン受容体の高発現を 認めることから,1,2,3 及び 5 型ソマトスタ チン受容体に親和性のあるパシレオチドが開発 され,第III相臨床試験が終了し,現在,Cushing 病の適応追加申請中である.注意すべき点とし てはインクレチン抑制に伴う耐糖能障害があ り,定期的な血糖のチェックが必要である.コ ルチゾール産生抑制に関しては,後述する副腎 性Cushing症候群に対する薬物療法を参照され たい.
2)副腎性Cushing症候群
(1)手術療法
第一選択は一側性副腎腺腫,副腎癌では腹腔 鏡下副腎摘除術である.両側性の場合には,両 側副腎摘除や,一側副腎摘除+コルチゾール合 成阻害薬等が個々の病態に応じて選択される.
術後であるが,朝血中コルチゾール1.8
μ
g/dl未 満となり4),Cushing病と同様,HPA系が回復する までヒドロコルチゾン投与が必要である,両側 副腎摘除の場合には,グルココルチコイドとミ ネラロコルチコイドの永続的投与が必要となる.(2)薬物療法
薬物療法は,コルチゾール産生を抑制するこ とが目的であり,メチラポン,ミトタン,トリ ロスタンが用いられる.メチラポンは,11
β
―水 酸化酵素を特異的に阻害することでコルチゾー ルの合成・分泌を阻害する.作用は可逆性であ り,速やかにコルチゾールを低下させることが できる.ミトタンは,細胞毒性による副腎皮質 細胞変性とステロイド合成酵素阻害作用を有 し,作用は非可逆性であり,副腎癌及び手術適 応のないCushing症候群に対して使用される.ト リロスタンは,3β
―ヒドロキシステロイド脱水 素酵素を特異的に阻害する.作用は可逆的であ る.また,副腎アンドロゲンが増加するため,多毛症となることがある.
3. 副腎性SCSの疫学,新診断基準作成と そのマネジメント
1)疫学
我々は,大阪大学医学部附属病院を中心に大 阪府,兵庫県の13病院と共同で2005~2013年 で副腎偶発腫と診断された 150 例を解析した.
その結果,非機能性副腎腫瘍は110例(73.3%),
機能性副腎腫瘍は40例(26.7%)であり,機能 性副腎腫瘍の内訳は,原発性アルドステロン症 14 例(9.3%),副腎性SCS 10 例(6.7%),副腎 性Cushing症候群 7 例(4.7%),褐色細胞腫 7 例
(4.7%),副腎性SCS+原発性アルドステロン症 2 例(1.3%)であった.つまり,副腎性SCSは,
副腎偶発腫全体の 8%,また機能性副腎腫瘍の 14%を占めることが明らかとなった5). 2)新診断基準作成の経緯とそのポイント 副腎性SCSの診断基準は,1996 年に厚生省特 定疾患「副腎ホルモン産生異常に関する調査研 究班により作成された.以後,副腎性SCSに関 しては,病態として肥満,糖尿病,高血圧等の
生活習慣病や心血管疾患の発症リスクとなって いること,骨量・骨質の低下を認めることが報 告されている.また,血中コルチゾール測定系 の 変 化(RIA(radioimmunoassay) か ら EIA
(enzyme immunoassay))による一晩少量(1 mg)
DST施行時の低濃度域血中コルチゾール測定値
の再現性の問題,米国内分泌学会より提唱され たCushing症候群のスクリーニング基準(一晩少 量(1 mg)DST血中コルチゾール値 1.8
μ
g/dl以 上)3)との整合性等種々の問題点が指摘される ようになってきた.以上より,日本内分泌学会 臨床重要課題として,現在の診断基準の見直し 表 2 副腎性 subclinical Cushing 症候群新診断基準(文献 6 より)1.副腎腫瘍の存在(副腎偶発腫)
2.臨床症状:Cushing 症候群の特徴的な身体徴候の欠如(注 1)
3.検査所見
1)血中コルチゾールの基礎値(早朝時)が正常範囲内(注 2)
2)コルチゾール分泌の自律性(注 3,注 4,注 5)
3)ACTH 分泌の抑制(注 6)
4)日内リズムの消失(注 7)
5)副腎シンチグラフィーでの健側の抑制と患側の集積(注 8)
6)血中 DHEA-S 値の低値(注 9)
7)副腎腫瘍摘出後,一過性の副腎不全症状があった場合,あるいは付着皮質組織の萎縮を認めた場合(注 10)
診断
1,2,および 3-1)は必須で,さらに下記(1)(2)(3)の何れかの基準を満たす場合を確定診断とする.
(1)3-2)の 1 mgDST 後の血中コルチゾール値が 5 μg/dl 以上の場合
(2) 3-2)の 1 mgDST 後の血中コルチゾール値が 3 μg/dl 以上で,かつ 3 の 3)-6)の 1 つ以上を認めた場合,も しくは 7)を認めた場合
(3) 3-2)の 1 mgDST 後の血中コルチゾール値が 1.8 μg/dl 以上で,かつ 3 の 3)4)を認めた場合,もしくは 7)
を認めた場合
注 1: 身体徴候としての高血圧,全身性肥満や病態としての耐糖能異常,骨密度低下,脂質異常症は Cushing 症 候群に特徴的所見とは見なさない.
注 2: 安静,絶食の条件下で早朝に 2 回以上の測定が望ましく,常に高値の例は本症と見なさない.正常値につい ては,各測定キットの設定に従う.
注 3: 一晩少量(1 mg)デキサメサゾン抑制試験(DST)を施行する.スクリーニング検査を含め,1 mgDST 後 の血中コルチゾール値 1.8 μg/dl 以上の場合,非健常と考えられ,何らかの臨床的意義を有する機能性副腎 腫瘍あるいは非機能性副腎腫瘍の可能性を考慮する.
注 4: 確定診断のための高用量(4-8 mg)DST は必ずしも必要としないが,病型診断のために必要な場合には行う.
注 5: 低濃度域の血中コルチゾール値は 10% 前後の測定のばらつき(3 μg/dl 前後の血中コルチゾール値は,0.3 μg/dl 程度のばらつき)が生じ得ることを考慮し,陽性所見の項目数も勘案して,総合的に診断を行う.
注 6: 早朝の血中 ACTH 基礎値が 10 pg/ml 未満(2 回以上の測定が望ましい)あるいは ACTH 分泌刺激試験の低 反応(基礎値の 1.5 倍未満).なお,ACTH 分泌不全症でも生物活性の低い大分子型 ACTH が分泌されている 場合には,測定キットによって必ずしも血中 ACTH が低値とならない場合があり,注意を要する.
注 7:21-24 時の血中コルチゾール 5 μg/dl 以上
注 8:健側の集積抑制がコルチゾール産生能と相関するため,定量的評価が望ましい.
注 9:年齢および性別を考慮した基準値以下の場合,低値と判断する.
注 10:手術施行に際しては,非機能性腫瘍である可能性を含めて十分な説明と同意を必要とする.
[副腎性 SCS 新取り扱いめやす]
本症と診断され,診断(1)の場合(1 mgDST 後の血中コルチゾール値が 5 μg/dl 以上),治療抵抗性の合併症(高 血圧,全身性肥満,耐糖能異常,骨密度低下,脂質異常症等)を有する例は副腎腫瘍の摘出を考慮する.その他 の場合も,陽性項目数や合併症の有無を参考に手術もしくは慎重なる経過観察を行う.
付帯事項
1) 腫瘍径が 3 cm 以上の場合や 3 cm 未満でも増大傾向のあるものは,画像所見も参考に副腎癌の可能性が否定で きない場合には副腎摘出術を行う.
2)SCS の副腎腫瘍摘出後,糖質コルチコイド補充を必要とする例があるので注意を要する.
及び新基準の作成がなされた.ワーキンググ ループが 2012 年より立ち上がり,ワーキング グループでの多施設共同研究の結果をもとに新 診断基準を作成した(表 2)6).新診断基準のポ イントとしては,一晩少量(1 mg)DST施行時 の血中コルチゾール値を 1.8,3,5
μ
g/dlと 3 つ に層別化している点である.多施設共同研究の 結果より,1.8μ
g/dl以上は高血圧,耐糖能異常,脂質異常症のいずれかの合併症を有することが 示唆され,非健康と判断するカットオフ値とし て採用した.前述の米国も含め,欧州のガイド ラインもこの基準をスクリーニング基準として 採用していることも考慮した.一方で,新診断 基準作成に伴う国内の混乱を避けるため,現行 の 3
μ
g/dl以上の診断基準はそのまま残すこと とした.5μ
g/dlに関しては,欧米のガイドライ ンが自律性の強さの観点より,5μ
g/dlを採用し ていることを考慮している6).3)診断後のマネジメント
これまでの副腎性SCSの術後予後調査におい ては,副腎腫瘍摘出により血圧や耐糖能が悪化 した成績はなく,改善または不変の成績が報告 されている.また,厚生労働省の全国調査の結
果でも,肥満,耐糖能異常,高血圧に関して,
副腎腫瘍摘出後の悪化は 4%のみであり,改善 または不変がほとんどである.以上を踏まえ,
今回の診断基準では新取り扱い目安として,腫 瘍からのコルチゾール自律分泌能が高いと考え られる一晩少量(1 mg)DST後の血中コルチゾー ル値が5
μ
g/dl以上で,治療抵抗性の合併症(高 血圧,全身性肥満,耐糖能異常,骨密度低下,脂質異常症等)を有する例は副腎腫瘍の摘出を 考慮するとした.それ以外の場合も,検査所見 の陽性項目数や合併症の有無に注意し,慎重な 経過観察が必要である6).
おわりに
Cushing症候群ばかりでなく,SCSも高血圧,
全身性肥満,耐糖能異常,骨密度低下,脂質異 常症等の合併症の原因となっていることが明ら かとなってきている.治療抵抗性の生活習慣 病,骨粗鬆症の診療を行う際にSCSの存在を念 頭に置いて診療を行うことが重要である.
著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし
文 献
1) クッシング病の診断の手引き(平成 21 年度改定).厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 間脳下垂 体機能障害に関する調査研究班(主任研究者:大磯ユタカ)平成 21 年度総括・分担研究報告書,2010, 158―159.
2) Oki Y, et al : Development and validation of a 0.5 mg dexamethasone suppression test as an initial screening test for the diagnosis of ACTH-dependent Cushing’s syndrome. Endocr J 56 : 897―904, 2009.
3) Nieman LK, et al : The diagnosis of Cushing’s syndrome : An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab 93 : 1526―1540, 2008.
4) Nieman LK, et al : Treatment of Cushing’s syndrome : An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab 100 : 2807―2831, 2015.
5) Tabuchi Y, et al : Clinical and endocrinological characteristics of adrenal incidentaloma in Osaka region, Japan.
Endocr J 63 : 29―35, 2016.
6) 日本内分泌学会,他:日本内分泌学会臨床重要課題「潜在性クッシング症候群(下垂体性と副腎)の診断基準の作 成」:「副腎性サブクリニカルクッシング症候群 新診断基準」の作成と解説.日内分泌会誌 93(Suppl), 2017.