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IEEE 802.11e

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(1)

2007 年度 修士論文

IEEE 802.11e 無線 LAN における

VoIP の品質評価と特性分析

提出日: 2008 年 2 月 4 日

指導:後藤滋樹教授

早稲田大学 大学院理工学研究科 情報・ネットワーク専攻 学籍番号: 3606U075-2

夏目 祐輔

(2)

目次

1 序論 5

1.1 研究の背景 . . . 5

1.2 研究の目的 . . . 5

1.3 本論文の構成. . . 6

2 IEEE 802.11e 無線LAN 7 2.1 無線LANの概要 . . . 7

2.1.1 IEEE802.11 . . . 7

2.1.2 ISMバンド . . . 7

2.1.3 CSMA/CA (Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance) . 8 2.1.4 Dynamic TDMA (Time Division Multiple Access) . . . 9

2.2 IEEE 802.11e . . . 9

2.2.1 IEEE 802.11e . . . 9

2.2.2 QoS (Quality of Service) . . . 9

2.2.3 EDCA (Enhanced Distributed Channel Access) . . . 10

2.2.4 HCCA (Hybrid Coordination Function Controlled Channel Access) . . 11

2.2.5 WMM (Wi-Fi Multimedia) . . . 11

2.2.6 TOS(Type Of Service)フィールド . . . 11

3 VoIPの概要 12 3.1 登場の背景 . . . 12

3.2 VoIPが抱える問題点 . . . 12

3.3 基本的な原理. . . 12

3.4 CODEC . . . 13

3.5 通話品質低下の代表的要因 . . . 14

3.5.1 ジッタ . . . 14

3.5.2 パケットロス . . . 15

(3)

目次

3.6 VoIPにおける音声品質評価法 . . . 15

3.6.1 MOS . . . 15

3.6.2 PSQM . . . 16

3.6.3 PESQ . . . 16

3.6.4 R値 . . . 17

4 アクセスカテゴリとVoIP通信品質の関係 19 4.1 概要 . . . 19

4.2 実験の環境 . . . 19

4.2.1 ネットワークの構成 . . . 19

4.2.2 アクセスカテゴリと音声品質 . . . 21

4.3 実験1:各アクセスカテゴリによる音声品質への影響 . . . 21

4.3.1 実験の目的 . . . 21

4.3.2 測定の方法 . . . 21

4.3.3 測定の結果 . . . 22

4.4 実験2: Best Effortトラフィックによる音声品質への影響 . . . 22

4.4.1 実験の目的・方法 . . . 22

4.4.2 測定の結果 . . . 23

4.5 実験3: 3つのアクセスカテゴリを使用した際の音声品質評価 . . . 23

4.5.1 実験の目的・方法 . . . 23

4.5.2 測定の結果 . . . 24

4.6 実験1〜3における結論と課題 . . . 24

4.6.1 結論 . . . 24

4.6.2 課題 . . . 24

4.7 実験4: Best Effortカテゴリにおける各パラメータが及ぼす音声品質への影響 . . 25

4.7.1 実験の概要 . . . 25

4.7.2 測定の結果 . . . 26

5 結論 29 5.1 まとめ . . . 29

5.2 今後の課題 . . . 29

(4)

図一覧

2.1 CSMA/CA . . . 8

4.1 実験環境 . . . 20

4.2 実験3の結果 . . . 24

4.3 CW . . . 26

4.4 AIFS . . . 26

4.5 TXOP . . . 27

4.6 デフォルトと提案パラメータのR値の比較 . . . 27

4.7 デフォルト・提案パラメータ・優先度を上げたパラメータのR値 . . . 28

(5)

表一覧

3.1 各音声圧縮規格の詳細 . . . 14

3.2 ITU-T G.114 の音声遅延ガイドライン . . . 14

3.3 MOSのスコア . . . 16

3.4 IP電話のクラス分け . . . 17

4.1 実験用計算機の構成 . . . 20

4.2 実験1 トラフィックパターン(単位はMbps) . . . 21

4.3 実験1 結果(R値以外、単位はMbps) . . . 22

4.4 実験2 トラフィックパターン(単位はMbps) . . . 22

4.5 実験2 結果(R値以外、単位はMbps) . . . 23

4.6 実験3-1 トラフィックパターン(単位はMbps) . . . 23

4.7 実験3-2 トラフィックパターン(単位はMbps) . . . 23

4.8 デフォルトのEDCAパラメータ . . . 25

4.9 実験4 Best Effort 測定パラメータ . . . 25

4.10 実験4 トラフィック環境(R値以外、単位はMbps) . . . 26

4.11 実験4 提案パラメータとデフォルト設定との比較 . . . 27

(6)

第 1 章 序論

1.1 研究の背景

インターネットの普及が進み、かつブロードバンド化が進んできた事により、様々なコンテン ツがインターネットを通じて利用されるようになってきた。例えば、サイト閲覧から、メールの 送受信、IP電話、映像のストリーミング配信など様々な物が挙げられる。この多種多様なコン テンツを利用する上で、ネットワーク上では、どのパケットを優先的に通すべきかが問題になっ てくる。しかし、現在のインターネットは、最善努力型(Best Effort)と呼ばれる転送方式を主 に用いている。この配送系は処理の際の負荷が軽く、簡単にネットワークを構築できるという利 点がある。しかし、最善努力型では、音声や動画のリアルタイム配信(ラジオ・テレビ型のサー ビス)やテレビ電話など、通信の遅延や停止が許されないアプリケーションも、多少の遅延なら ば許容されるメールの送受信やサイト閲覧と同様に扱われてしまう。このようにすべてのトラ フィックを平等に扱っていたのでは、高トラフィック時には同時に遅延やパケット損失が起きて しまい、各種アプリケーションの通信品質が落ちてしまう。また、ネットワークが輻輳状態に陥っ た場合には大きく品質の低下が起きてしまう。そこで優先度順にトラフィックを制御することに より、それぞれのサービスに適したQoS (Quality of Service) を保証することが必要となってい る。

1.2 研究の目的

現在QoSが実装されたIEEE 802.11e 無線LANの製品が出始め、今後このQoS環境下での VoIP製品が多数出回る事が予想される。このQoSは様々なパラメータを用いて設定されるが、

それはパケットの観点からのパラメータ設定となっており、VoIPにおいて必ずしも最適な音声 品質になるとは限らない。これを考慮に入れた上で、様々なトラフィック・パラメータを実機で 測定し、音声品質の観点から、既存のパラメータ設定の欠点を探り出し、VoIP環境に適したQoS

(7)

第 1 章 序論

実装法を提案する。

1.3 本論文の構成

本論文は以下の章により構成される。

第1章 序論

本研究の概要について述べる。

第2章 IEEE 802.11e

IEEE 802.11eの概要とその特徴を述べる。

第3章 VoIP (Voice over Internet Protocol) VoIPの概要とその特徴を述べる。

第4章 VoIP測定実験と新しいEDCA実装提案

IEEE 802.11e環境で様々なVoIP評価実験を行い、その結果を踏まえて新しいEDCA (QoS) の実装を提案する。

第5章 結論

本論文のまとめと今後の課題を述べる。

(8)

第 2 章

IEEE 802.11e 無線 LAN

2.1 無線 LAN の概要

2.1.1 IEEE802.11

無線LAN 規格の標準化を行う機関であるIEEE(Institute of Electrical Electronics Engi- neers:米国電気電子技術者協会)が1990年の総会で設立の承認を得たのがIEEE 802.11 Wire- less LAN WGである。1997年には初めての無線LAN規格であるIEEE 802.11がまとめられて いる。後述するように、IEEE 802.11ではISMバンドを利用し、アクセス方式としては直接拡 散方式のスペクトラム拡散と周波数ホッピング方式のスペクトラム拡散、及び赤外線の3種類の 方式があり、各方式に対して伝送速度として1Mbpsと2Mbpsの2種類ずつが用意された。その 後、1999 年には次世代規格としてIEEE 802.11b が制定された。IEEE 802.11b は直接拡散方 式のスペクトラム拡散を用いており、伝送速度は最大11Mbps という高速通信が可能になった。

この後も、より高速な通信が可能な規格(最大54Mbpsの伝送速度)としてIEEE 802.11bの上 位互換規格、IEEE 802.11gが制定された。またIEEE 802.11b とは異なる5GHz 帯を利用する

規格のIEEE 802.11aがまとめられ、現在この3種類の規格が製品化されている。

近年、セキュリティ機能を強化したIEEE 802.11i、QoSを実装したIEEE 802.11eが標準化 され、実用化に向けて動いており、高速化したIEEE 802.11nは現在標準化に向けて動いている。

2.1.2 ISMバンド

ISMとは(industrial Scientific Medical) の略で、周波数帯としては

900MHz 帯(902-928MHz)

2.4GHz 帯(2400-2500MHz)

5.7GHz 帯(5725-5859MHz) の3つがある。

(9)

第 2 章 IEEE 802.11E 無線LAN

特に2.4GHz帯は、無線LANをはじめ家庭内で使用する電子レンジや病院で使用する医療用

機器など、数多く適用されている周波数である。ISMバンドはもともと通信以外に利用されて いたので、他の周波数帯に比べて運用規制が緩やかで、この周波数帯を使用する際には、免許が 不要である。

2.1.3 CSMA/CA (Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance) 有線リンクでは、複数のフレームが衝突するとケーブル上の直流成分が増加するので、これを 検出することで自動的な衝突検出が可能となる。これが、CSMA/CD (Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection) 方式である。しかし、無線リンクでは、受信のレベルは無線特 有のフェージング(無線局の移動や時間経過に伴って、電波の受信レベルが変動すること)によ り、激しく変化するため、信号の衝突を検出できない。従って、無線リンクではアクセス制御に CSMA/CA (Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance) 方式を用いる。

このCSMA/CA 方式では、各クライアントは通信路が一定時間以上継続して空いていること

を確認してからデータを送信する。待ち時間は最小限の時間(IFS = Inter Frame Space)にラ ンダムな長さの待ち時間(バックオフ)を加えたもので、直前の通信があってから一定時間後に 複数のクライアントが一斉に送信する事態を避ける。実際にデータが正しく送信されたかどうか は受信側からのACK が到着するかどうかで判定し、ACK がなければ通信障害があったとみな してデータの再送信を行なう。CSMA/CD 方式に比べると効率が落ちる。特に衝突が発生した 場合にはすべてのデータを送信してから応答を待ち再送するという手順のため、通信性能が著し く低下してしまうという欠点がある。

図 2.1: CSMA/CA

(10)

第 2 章 IEEE 802.11E 無線LAN 2.1.4 Dynamic TDMA (Time Division Multiple Access)

TDMA (Time Division Multiple Access)とは携帯電話などの無線通信に使われる方式の一つ で、1つの周波数を短時間ずつ交代で複数の発信者で共有する方式である。第2世代の携帯電話 方式であるPDCやGSMなどはTDMAを用いた技術である。

Dynamic TDMAは、TDMAをさらに進化させたものである。ノード同士が互いの制御情報

を交換し、どの時間に帯域を割り当てるかを動的に更新する。そしてデータの種類ごとに優先度 を設けて、その時間は確実にデータが流せることで効率的な通信帯域を確保できる。

2.2 IEEE 802.11e

2.2.1 IEEE 802.11e

前述(2.1.1)した通り、IEEE 802.11eとは、IEEE(米国電気電子学会)でLAN技術の標準 を策定している802委員会が定めた規格の一つである。既に定められているIEEE 802.11aやIEEE

802.11bが基準となっており、包括的な汎用無線通信規格となることを目指している。そのため

に追加された機能は、ユーザ認証やアクセス制限の手段を提供するセキュリティ機能や、サービ ス品質制御技術のQoS機能などがある。

アクセス制御はQoSの実装方式によって異なり、QoSにEDCAを実装した場合には、従来 の無線方式と同じCSMA/CA方式が、QoSにHCCAを実装した場合はDynamic TDMA方式 が採用されている。

また伝送技術の基本的な部分はIEEE 802.11aとIEEE 802.11bの仕様を流用するため、新た に開発されるIEEE 802.11e対応の機器は2.4GHz帯を使うものと5.2GHz帯を使うものの2通 りに分かれる。

2.2.2 QoS (Quality of Service)

QoSとはネットワーク上で、ある特定の通信のための帯域を予約し、一定の通信品質を保証 する技術の事である。以前からATMには実装されており、音声や動画のリアルタイム配信(ラ ジオ・テレビ型のサービス)やテレビ電話など、通信の遅延や停止が許されないサービスにとっ て、QoSは重要な技術である。

QoSは大きく分けて、自律分散制御に基づき優先制御を行うEDCA(Enhanced Distributed

Channel Access)と、アクセスポイントによるポーリングを用いた集中制御で品質を保証する

HCCA(Hybrid Coordination Function Controlled Channel Access)の2つの方式を規定し

ており、IEEE 802.11eでもこのどちらかのQoSが実装される事になっている。

(11)

第 2 章 IEEE 802.11E 無線LAN 2.2.3 EDCA (Enhanced Distributed Channel Access)

EDCAは無線LANのアクセス制御方式であるCSMA/CAを拡張したものである。前述(2.1.3)

の通り、CSMA/CAでは通信開始時に他の端末が通信していることを検知すると、ランダムな

時間待ってから通信を再開する。EDCAではこの待ち時間を端末に設定された優先度に応じて 変化させる。例えば、優先度を低く設定した端末はアクセスする際に長時間待つが、優先度の高 い端末は短い待ち時間で通信を再開する。EDCAでは、送信するフレームを4種類のアクセス・

カテゴリ(AC:Access Category)、すなわち送信データの種類ごとに分類し、カテゴリごとに 提供するサービス品質に差を付けることで、優先制御を実現する。この制御により、音声や映像 などの通信品質を従来のベストエフォート型通信に対して向上させることができる。

アクセス・カテゴリとしては、次の4つが規定されている。

AC-BK(バックグランドトラフィック用)

AC-BE(ベストエフォート用)

AC-VI(ビデオ伝送用)

AC-VO(音声用)

各アクセス・カテゴリには、アクセス制御に使用するパラメータがカテゴリの優先度に応じて 設定されており、それに従ってCSMA/CA手順を実行する。これにより、フレームが送信され る頻度に差が付いて、より優先度の高いアクセス・カテゴリのデータに、より多くの送信機会を 与えることが可能となる。

また優先制御のために使用されるパラメータは次の3種類となっている。

AIFS(Arbitration IFS、フレーム送信間隔)

CW(Contention Window、コンテンション・ウィンドウ)

TXOP(Transmission Oppotunity、排他的なチャネルの利用)

これらのパラメータは、いずれも送信頻度の決定に影響を与えるもので、アクセス・カテゴリ ごとに異なるパラメータを用いることで、統計的な優先制御を実現する。

AIFS (Arbitration IFS)

フレーム送信間隔を表すパラメータがAIFSである。フレーム送信間隔が短い程、優先的 にパケットが送れるため、優先度の高いアクセス・カテゴリほど、AIFS時間の値は短く 設定されている。単位はms。

CW (Contention Window)

送信待ち時間を決める際に用いる乱数パラメータがCW (Contention Window)である。

この待ち時間は乱数の値に一定時間を掛けることで決められる。

(12)

第 2 章 IEEE 802.11E 無線LAN

待ち時間 = 乱数値 × 一定時間 乱数値は0〜CWの範囲から生成されるランダムな整数である。

CWの値は、最小値CWminと最大値CWmaxの範囲の値で、

CWmin ≦ CW≦ CWmax となっている。

CWの値は、フレームが衝突し再送を行うたびに、2倍づつ増加していき、CWmaxに達 した後は一定の値となる。

TXOP (Transmission Opportunity)

アクセスポイントまたは端末が、競合制御によりチャネルのアクセス権を取得した後、そ のチャネルを排他的に使用できる時間を示すパラメータがTXOPである。TXOPが0の 場合は、アクセス権を獲得後に送信できるフレーム数は1つだけとなる。単位はms。 その他、設定項目として次の2項目が挙げられる。

AckPolicy(受信側の端末がフレーム毎にAckを送るかの設定)

ACM(Admission Control Mandatory、キューに対する送信フレーム割り当て制限の設 定)

2.2.4 HCCA (Hybrid Coordination Function Controlled Channel Access)

HCCAは従来のPCF(Point Coordination Function)に相当し、端末の優先度を考慮したス ケジューリングを行い、送信を許可した端末に許可するチャネル使用時間が書かれたポーリング フレームを送信する。送信を許可された端末が送信中は、他の端末はアクセスを抑制され、QoS が保証される。

2.2.5 WMM (Wi-Fi Multimedia)

Wi-Fi Allianceが認定した、EDCA方式によるQoSの事である。今後IEEE 802.11eに対応 した多くの製品がQoSにWMMを採用する事が予想される。

2.2.6 TOS(Type Of Service)フィールド

EDCAはアクセスカテゴリを分類する際、パケットヘッダ内にあるTOSフィールドを見て判 別する。TOSフィールドは8ビットから成り、後半6ビットの範囲をDSCP(Differentiated Ser- vices Code Point)と呼ぶ。これはDiffservにも使われる。

(13)

第 3 章

VoIP の概要

3.1 登場の背景

VoIP はVoice over Internet Protocol の略で、音声をIP パケットに変換し、ネットワーク上 で送受信する技術の事である。VoIP はインターネットの急速的な普及を背景に、データ通信網 で音声を扱おうとするニーズの元に開発された。電話網のインフラをデータネットワークと統合 することで、回線の稼働率を上げ、通信コストを下げるのが本来の目的である。従来の電話シス テムと異なり、キャリアが通常のインターネットと同じくIPネットワーク網であるため、距離 非依存の固定料金制を採用することができる。これに加えて、従来の電話ではできなかったよう な、例えば相手が無人でも監視目的で遠方の場所の物音を聞いたり、IPパケットを受けとるこ とから発信元の認証が容易にできたりするような応用技術も最近では注目されつつある。

3.2 VoIP が抱える問題点

現在のIPネットワークは、一般的にはベストエフォート型でQoS (Quality of Service) 保証 はない。このQoS保証の実現が最大の問題点と言われている。これを克服して、いかに通話品 質を確保していくかが課題となっている。

従来の電話網による音声通話が、ほぼ均一な条件下での利用であるのに比べて、VoIPでは、

ネットワークの規模、回線の品質、使用する製品により、その音声品質が大きく左右される。こ のように複数の条件を加味しながら、既存の電話に比べて音質面でほぼ遜色ない通話品質を維持 するために、現在も様々な検討がなされている。

3.3 基本的な原理

VoIP システムでは、まず送信側で音声情報をデジタル化し圧縮符号化する。その後、各々の

音声圧縮 (CODEC)に従ったパケット長に分割し、IP ヘッダを付加して送信する。受信側では

(14)

第 3章 VOIPの概要

受信した音声パケットを順次復号化して再生する。

3.4 CODEC

音声圧縮には様々な種類があり、それぞれ特徴がある。多くはビットレートごとに圧縮の形式 を変え、それぞれのビットレートで最も音質が良くなるよう、企画されている。

形式はビットレートなどから大きく次の3つの方式に分類する事ができる。

波形符号化方式

入力信号の波形そのものの復元を目的とした方式。主に15〜64Kbit/sの範囲のビットレー トで用いられる。入力信号を人間の声に限定しないので音楽や雑音などでも良好な品質が 得られるが、他の方式と比べて高いビットレートが必要。またビットレートを低くすると 極端に品質が劣化するという欠点がある。

ボコーダ方式

有声音と無声音の区別、振動、音声の性質などから音声を圧縮する方式。主に1〜7Kbit/s の範囲のビットレートで用いられる。低ビットレートでも音声が再生出来るという利点は あるが、音声合成特有の不自然な音になりやすい。また人間の声以外の信号では極端に品 質が悪くなり、周囲雑音の影響を受けやすいという欠点もある。

ハイブリッド方式

波形符号化方式とボコーダ方式の長所を合わせた方式。主に4〜30Kbit/sの範囲のビット レートで用いられる。ボコーダ方式と同様に人間の発声構造をベースにしながら、入力信 号の波形を出来るだけそのまま復元するための工夫が施されており、低ビットレートでも 波形符号化方式と同等な品質が得られる。欠点はボコーダ方式と同様に人間の声以外の信 号では品質が悪くなる傾向があり、また処理が非常に複雑になるという点がある。

次の表3.1に様々な規格の詳細を示す。

(15)

第 3章 VOIPの概要

表 3.1: 各音声圧縮規格の詳細

G.711 G.723.1 G.729A

符号化形式 波形符号化 ハイブリッド ハイブリッド

帯域 64Kbit/s 5.3/6.3Kbit/s 8Kbit/s

音声パケット長 160byte 20/24byte 20byte

ヘッダ長 (IP,UDP,RTP) 40byte 40byte 40byte

パケット化間隔 20ms 30ms 20ms ネットワークビットレート 80Kbit/s 15.9〜16.8Kbit/s 24Kbit/s

3.5 通話品質低下の代表的要因

3.5.1 ジッタ

ジッタとは、パケットの到着時間の偏差のことである。等時性通信が前提の音声通信ではジッ タは大きな問題となる。音声を滞りなく再生するためには、受信時も送信時と全く同じタイミン グでパケットを受信側ノードに到着させるのが理想的だからである。そのためVoIPシステムを 構築する際には、ジッタを極力小さくする工夫が必要である。

現在、End-to-End の遅延は理想的には150ms 以下、条件付きで400ms 以下であることが

ITU-T (International Telecommunication Union Telecommunication sector:国際電気通信連 合電気通信標準化部門)からG.114 として勧告されている。

表 3.2: ITU-T G.114の音声遅延ガイドライン

片道方向遅延 (ms) 説明

0〜 150 多くのアプリケーションで利用可能

送信時間がユーザーアプリケーションの送信品質に影響することを 150 〜 400 承知していれば利用可能

(ユーザーが承知している事が前提であり、推奨はできない)

400以上 一般的に利用不可能

遅延の代表的な要因を次に挙げる。

CODECによる遅延

CODECにより起こる遅延の事で、アルゴリズム遅延と処理遅延から生じる。アルゴリズ

(16)

第 3章 VOIPの概要

ム遅延とは、一定時間(1フレーム)分の音声データを一括して圧縮するために生じる遅 延であり、その音声圧縮を利用する以上不可避なものである。一方、処理遅延とは、圧縮・

伸張処理自体に要する時間であり、具体的な実装方法次第でその時間を短くすることが可 能である。

パケット化による遅延

コーデックにより圧縮された音声データは、RTP/UDP/IPヘッダを付加することでIPパ ケット化される。伝送レート低減の観点から、数フレーム分の音声データをまとめて1つ のIPパケットとするのが通常の形式であり、この際に生じる遅延がパケット化による遅延 である。1つのパケットに組み込む音声データのフレーム数は、通話遅延の観点からは小 さい方がよく、伝送レートの観点からは大きい方が有利である。一概にどのサイズが良い とは言えず、ネットワークに最適化するのが好ましいと言える。

ネットワークによる遅延

IPパケットがネットワーク上を通過する際に発生する遅延の事である。対策としてはネッ トワーク速度の他にも、一般的に通過するルータの数(ホップ数)が少なくなるよう、ネッ トワークを構成することで、遅延を低減させる事ができる。

3.5.2 パケットロス

受話音声の音欠けにつながるのが、データ伝送中に生じるパケットロスである。対策としては、

一般的に、受話側で音欠けを補正する技術が使われている。音声信号は、数十ms程度の短い時 間間隔でみると定常的な信号として扱うことができ、この同じような波形が続く性質を利用し て、音欠け直前の受話音声から音欠けの部分を補完する事ができる。

3.6 VoIP における音声品質評価法

3.6.1 MOS

ITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)勧告 P.800 で定義され ている主観的評価法であり、その評点をMOS (Mean Opinion Score)と呼ぶ。評価方法は音声を 多くの聞き手に聞かせ、5段階の評点をつけさせる。これを統計的に処理した平均の評点がMOS である。一番信頼性の置ける評価法であるが、多数の被験者と機器、時間が必要であるため、現 在では客観的な測定データからMOSを推定する方法が多くとられている。

(17)

第 3章 VOIPの概要

表 3.3: MOSのスコア

スコア 品質

5 非常に良い (Excellent)

4 良い (Good)

3 良くも悪くもない (Fair) 2 悪い (Poor)

1 非常に悪い (Bad)

3.6.2 PSQM

ITU-Tが1996年に勧告した音声の客観的評価方式がPSQM (Perceptual Speech Quality Mea-

sure)である。客観的評価方式として国際的機関で最初に標準化された。評価方法は、テストに

用いる音声のサンプルと、ネットワークを経由して届いた受信側の音声を比較し、サンプルに対 する受信側音声の劣化具合を数値化する。評価結果は0〜6.5の範囲で数値化し、値が小さいほ ど音声品質が高いことを意味する。数値が高いほど音声品質の高い主観的評価のMOSと、品質 と評価数値の関連性が逆である。PSQMの登場により、MOSの主観的評価方式より手間をか けずに音声品質を評価できるようになったが、PSQMはIP電話の音質評価に使うには、不十分 な点がある。具体的には、パケットの揺らぎやパケットの損失があると評価結果が著しく悪化す るという点である。

PSQMは、もともと音声圧縮(CODEC)の客観的評価を目的に開発され、回線交換網の評価 に使われてきた。このため、音声圧縮の際は起こりにくいが、ネットワークを通すIP電話で多々 発生してしまう「パケットの揺らぎと損失」などを想定していなかった。よって、測定の際、パ ケットの揺らぎや損失などが発生すると、算出した評価値が極端に悪くなるという結果が出てし まい、主観的評価のMOSよりも明らかに値が悪くなっていた。これより、PSQMはIP電話の 音質評価には適切ではなかった。

3.6.3 PESQ

2001年にITU-Tが勧告した、PSQMの改良版がPESQ (Perceptual Evaluation of Speech

Quality)である。これはIP電話特有の音質劣化にも対応して音声を測定できるという特徴を持っ

ている。PESQの測定原理はPSQMと同様で、元の音声とIPネットワークを通過した音声を 比較し、劣化の具合を数値化する。ここでPSQMと大きく異なるのは、PSQMの欠点であった

「パケットの揺らぎと損失」を、評価値に的確に反映できるという点である。

パケット損失は音声復元時、音切れとして影響を及ぼす。ノイズに関して、PESQでは、加

(18)

第 3章 VOIPの概要

算的ノイズの方が人間的には耳障りに聞こえるという考えから、減算的ノイズ(音切れ)より加 算的ノイズに重点を置いている。このため、パケット損失が発生しても、評価はMOS値とあま り変わらない。

PESQの数値は0.5〜4.5の範囲となり、MOSと同様に数値が大きいほど音声品質が高い事 を示し、PSQMとは逆となる。しかしこのPESQにも問題がある。

評価時に時間同期を行うので、伝送遅延は評価されない。この遅延(ジッタ)に関して、

的確な評価値を計算式に加えていない。

評価時に音声のレベル合わせを行うので、伝送による増幅減衰は評価されない。

この遅延と増幅減衰まで加味してあるのが、次に説明するR値である。

その評価方法は基本的にPESQとは異なるため、現在、IP電話の品質評価では、主に「R値 を測定する方法」、もしくは、「遅延を別に測定し、その上でPESQを測定する方法」の二通 りが取られている。

3.6.4 R値

ITU-Tが勧告しているG.107(G.113に改定版)で定義している音声品質指標がR値である。

E-modelと呼ばれるアルゴリズム(計算式)に、音声品質に関係する回線の雑音や音量、エコー

や遅延など、20個のパラメータ(計算要素)を入れて求める。なお日本国内のTTC標準では 音声の符号化によるひずみ、エコー、遅延以外の17個のパラメータはデフォルト値を使う。R 値は0〜100までの数値で示し、数値が大きい方が高品質を意味する。

2002年には総務省がIP電話専用の電話番号を割り当てる基準として採用しており、事業者が 050番号を取得するにはクラスC以上の品質基準をクリアする必要がある。

表 3.4: IP電話のクラス分け クラス R値 遅延

A 80超 100ms未満 B 70超 150ms未満 C 50超 400ms未満

他の測定基準と比べ、R値の利点は2つある。

1. 客観的評価であるR値と主観的評価であるMOSは相関関係がある。ITU-T G.107、およ びTTC (The Telecommunication Technology Committee:社団法人 情報通信技術委員

(19)

第 3章 VOIPの概要

会)標準JJ-201.01ではR値とMOSを対応させたグラフが掲載されており、これを使えば

R値をMOS評価値へ変換する事ができる。(MOS値はアメリカと日本で評価が異なるた め、二つの規格が存在する。)

2. IPネットワーク内で発生するパケットの遅延を評価に反映できる。

ITU-T G.107で規定していた項目では、R値は遅延を考慮できるとはいえ、もともと回線交

換用に策定されたものであり、IPネットワークで音声品質が劣化する要因の一つであるパケッ ト損失を十分に考慮していない。そのためパケット損失のパラメータをデフォルトで設定し、計 算式に入れていたが、その後、ITU-T G.113で改定があり、パケット損失を考慮した計算式が 提案された。

次にR値の計算式を示す。

R値=Ro−Is−Id−Ie+A

Ro:雑音の影響を考慮した信号の大きさ

Is:音量、側音(送話口から受話口へ伝わる音)による劣化 Id:エコー、遅延による劣化

Ie:音質の劣化 A:利便性

(20)

第 4 章

アクセスカテゴリと VoIP 通信品質の関係

4.1 概要

まず、パケット損失・輻輳が起こるネットワーク下で音声トラフィックを流す。その際、音声 トラフィックの周りを流れる外部トラフィックを様々なアクセスカテゴリに分け、音声品質にど のような影響がでるのかを調べる。

4.2 実験の環境

4.2.1 ネットワークの構成

本研究では、ネットワークを用いて実験を行うために、次のような環境を構築した。ネットワー クの構成を図4.1に、計算機構成を表4.1に表す。

中央の無線アクセスポイントを中心に、ネットワークが構成されており、無線アクセスポイン トとトラフィックサーバW〜Zと端末Fは有線で繋ぎ、その他の端末A〜Eは無線で繋がって いる。IEEE 802.11bの無線環境で、アクセスポイントにEDCAのQoSを実装する事でIEEE 802.11eの無線環境を構築した。

パケット送信アプリケーションはiperfプログラムを使用した。パケットのプロトコルはUDP とし、パケットヘッダのTOS値はIP Tablesを用いて変更した。

(21)

第 4 章 アクセスカテゴリとVOIP通信品質の関係

図 4.1: 実験環境

表 4.1: 実験用計算機の構成

端末A 端末B 端末C

CPU Core 2 Duo U7500 Core 2 Duo T7250 Pentium M 2.0GHz

メモリ 2.0GB 2.0GB 1.0GB

OS Windows XP Professional Windows XP Professional Windows XP Professional

端末D 端末E・F CPU Core 2 Duo T7250 Pentium M 1.8GHz

メモリ 2.0GB 512MB

OS Windows XP Professional Windows XP Professional

トラフィックサーバW トラフィックサーバX トラフィックサーバY・Z CPU Core 2 Duo U7500 Core 2 Duo T7250 Pentium 3 800MHz

メモリ 2.0GB 2.0GB 384MB

OS Windows XP Professional Windows XP Professional Windows XP Professional

(22)

第 4 章 アクセスカテゴリとVOIP通信品質の関係 4.2.2 アクセスカテゴリと音声品質

測定にはAstec Eyes for VoIPアナライザ(Version 4.200)を使用した。

CODECには現在一般的にVoIP環境で用いられるG.723.1を使用し、測定基準にはR値を用

いた。

R値測定は、CIAJ(Communications and Information network Association of Japan:情報 通信ネットワーク産業協会)が制定した電話機通話品質標準規格 IP電話端末(CES-Q003-1)を 基に、音声を5分間ネットワークに流し、その平均R値を測定する。さらにこれを5回行い、

平均をとった。

4.3 実験 1: 各アクセスカテゴリによる音声品質への影響

4.3.1 実験の目的

IEEE802.11e環境下でEDCAを効かせた際、VoIPを使ったネットワークで総トラフィック

が同じ場合、優先度が高いトラフィックが多いほど音声品質に及ぼす影響が大きいのではないか と予測できる。

これを確認するため、パケット損失が起こるネットワーク内で、全アクセスカテゴリのトラフィッ クを流して、音声品質を測定する。

4.3.2 測定の方法

表4.2のように4通りの方法でトラフィックを流す。(VoiceはR値測定用として、約60Kbps のトラフィックを流しておく。)

全通りにおいて、表の値に従って、端末FからEへVoiceトラフィックを、サーバWから端 末A・サーバXから端末BへBack Groundトラフィックを、サーバYから端末CへBest Ef- fortトラフィックを、サーバGから端末DへVideoトラフィックを送り、音声品質を測定する。

表 4.2: 実験1 トラフィックパターン(単位はMbps)

Video 5 10

Best Effort 10 5 Back Ground 60 50 50 50

総トラフィックを60Mbpsで固定する事により、ネットワーク内ではパケット損失、及び輻輳 が起こり、またアクセスカテゴリごとにトラフィックを変える事で、各アクセスカテゴリが及ぼ す音声品質への影響を探る事ができる。

(23)

第 4 章 アクセスカテゴリとVOIP通信品質の関係

トラフィックの配分は、より実際の環境に近づけるため、Back Groundに比重をおいた。

4.3.3 測定の結果

測定の結果を表4.3で示す。

表 4.3: 実験1 結果(R値以外、単位はMbps)

Video 5 10

Best Effort 10 5

Back Ground 60 50 50 50

R値 78.0 32.8 34.3 49.3

先程述べた「優先度が高いトラフィックが多いほど音声品質に及ぼす影響が大きいのではない か」という予測が成り立つとすると、表の左側から右側にかけて音声品質が悪化していくはずで ある。

しかし実験結果は表4.3のようになり、Best Effortのトラフィックが多いほど音声品質に影 響を及ぼしている。

これより実験2ではBest Effortに視点を当て実験を試みた。

4.4 実験 2: Best Effort トラフィックによる音声品質への影響

4.4.1 実験の目的・方法

この実験では表4.4のように、Videoトラフィックを5Mbps、Back Groundトラフィックを

55Mbpsに固定し、Best Effortトラフィックを増やしていった時の音声品質変化を探る。また

実験1と同様に、VoiceはR値測定用として、約60Kbpsのトラフィックを流しておく。

表 4.4: 実験2 トラフィックパターン(単位はMbps)

Video 5 5 5 5

Best Effort 0 1 2 3 Back Ground 55 55 55 55

(24)

第 4 章 アクセスカテゴリとVOIP通信品質の関係 4.4.2 測定の結果

測定の結果を表4.5で示す。

表 4.5: 実験2 結果(R値以外、単位はMbps)

Video 5 5 5 5

Best Effort 0 1 2 3

Back Ground 55 55 55 55

R値 71.4 49.5 43.7 32.2

これより、Best Effortトラフィックが音声品質に多大な影響を及ぼしている事が判明した。

4.5 実験 3: 3 つのアクセスカテゴリを使用した際の音声品質評価

4.5.1 実験の目的・方法

実験2よりBest Effortトラフィックが音声品質に影響を及ぼしている事がわかった。しかし4

つのカテゴリすべてを使用したがために音声品質が悪化したとも考えられる。これはIEEE802.11e では、アクセスカテゴリ数が増えるほどアクセスポイントにかかる負荷が増えるため、音声品質 の低下が起きるためである。

実験3では3つのアクセスカテゴリで実験を行い、さらに次の2つのパターンでトラフィック を流す事により、VideoトラフィックとBest Effortトラフィックにおける音声品質への影響の 差を測る。

1. Voice・Video・Back Ground

表 4.6: 実験3-1 トラフィックパターン(単位はMbps)

Video 0 1 2 3 4 5

Back Ground 60 60 60 60 60 60

2. Voice・Best Effort・Back Ground

表 4.7: 実験3-2 トラフィックパターン(単位はMbps)

Best Effort 0 1 2 3 4 5

Back Ground 60 60 60 60 60 60

(25)

第 4 章 アクセスカテゴリとVOIP通信品質の関係

また各パターンにおいて測定する際、R値測定用としてVoiceに60Kbpsのトラフィックを流 しておく。

4.5.2 測定の結果

測定の結果を図4.2で示す。

図 4.2: 実験3の結果

図4.2よりVideoトラフィックよりBest Effortトラフィックを流した方がR値の降下が大き い事がわかる。この結果から3つのカテゴリにおいてもBest Effortが音声品質に影響を及ぼす 事がわかった。

4.6 実験 1 〜 3 における結論と課題

4.6.1 結論

実験1〜3により、IEEE802.11e EDCA設定がデフォルトであるネットワーク環境化におい

て、Best Effortトラフィックが音声品質に多大な影響を及ぼす事がわかった。

4.6.2 課題

音声品質の観点から見ると、結論よりVoIP環境下においてBest Effortトラフィックは流さ ない方が良い。しかしこのBest EffortトラフィックはWeb閲覧などで使われるカテゴリであ り、通常最もトラフィックが多いカテゴリである。

これより、Best Effortトラフィックを無視したネットワークの構築は困難であり、Best Ef- fortトラフィックを流しながらも音声品質を確保したネットワーク構築が求められる。

今回、本論文では音声品質を確保したままBest Effortの優先度を保つ、EDCA最適パラメー タを探り、また各EDCA設定パラメータが及ぼす音声品質への影響を探る。

(26)

第 4 章 アクセスカテゴリとVOIP通信品質の関係

4.7 実験 4: Best Effort カテゴリにおける各パラメータが及ぼす音声品質へ の影響

4.7.1 実験の概要

本実験ではBest Effortの優先度を保ちつつ、音声品質を高めるパラメータを探る。この際、

Best Effortの優先度は全カテゴリ中3番目となるよう注意する。

まず、EDCAデフォルトパラメータを次の表4.8に示す。

表 4.8: デフォルトのEDCAパラメータ CWmin CWmax AIFS TXOP

Voice 3 7 1 1504

Video 7 15 1 3008

Best Effort 15 63 3 0

Back Ground 15 1023 7 0

本実験でBest Effortは優先度2番のVideoと優先度4番のBack Groundの間となるようなパ ラメータを取らなければならない。よって、この2つの間のパラメータとして次の表4.9の範囲 で実験を行う。

表 4.9: 実験4 Best Effort 測定パラメータ

CWmin CWmax AIFS TXOP

Best Effort 7〜15 15〜1023 1〜7 0〜3008

またトラフィック環境としては実験1と同様に総トラフィックを60Mbpsとし、R値の降下 が著しかった次のパターンで行う。表4.10のR値はEDCAをデフォルトパラメータとした際の 測定値である。このR値43.5という値は、前述3.6.4の総務省が規定している基準より、IP電 話として050番号を付与する事ができない。

本実験ではBest Effortのパラメータを変えながら、R値を再測定し、VoIP環境に適したパ ラメータを提案する。

(27)

第 4 章 アクセスカテゴリとVOIP通信品質の関係

表 4.10: 実験4トラフィック環境(R値以外、単位はMbps)

Video 2.5

Best Effort 2.5 Back Ground 55

R値 43.5

4.7.2 測定の結果

測定結果を図4.3、4.4、4.5で示す。

図 4.3: CW

図 4.4: AIFS

(28)

第 4 章 アクセスカテゴリとVOIP通信品質の関係

図 4.5: TXOP

結果をパラメータ別で見ると、各項目とも目立った規則性は見られない様に思える。

しかしCWに関してはCW min = 15の時、AIFSは増加とともに、TXOPは減少とともに R値が改善しているとも読み取れる。

このすべてに当てはまる法則として「トラフィックの優先度を下げる」行為である事に気づく。

ここから、できるだけBest Effortの優先度を下げたパラメータに設定し、R値を再測定した。

この提案パラメータを表4.11に、結果を図4.6に示す。

表 4.11: 実験4 提案パラメータとデフォルト設定との比較

CWmin CWmax AIFS TXOP

Best Effort 15 63→ 1023 3 → 7 0

図 4.6: デフォルトと提案パラメータのR値の比較

これより、新しく提案したパラメータの方がデフォルトの設定よりR値が良くなり、またIP 電話のクラス分けではクラスCの基準を満たす事となった。

(29)

第 4 章 アクセスカテゴリとVOIP通信品質の関係

しかし、一概に優先度を下げれば音声品質が良くなるのではない。逆に優先度をできるだけ上 げて音声品質を測定したところ、次のような結果となった。

図 4.7: デフォルト・提案パラメータ・優先度を上げたパラメータのR値

これより提案パラメータはやはりR値が高いものの、優先度だけでR値は決まらない事を示 している。今後IEEE802.11eを扱うネットワーク管理者は、このようなEDCAの特性に注意し ネットワークの構築を行うべきである。

(30)

第 5 章 結論

5.1 まとめ

本論文では、IEEE 802.11e環境でのVoIP評価実験を行い、VoIP環境を考慮した新たなEDCA 実装法を提案した。

まず最初に各アクセスカテゴリによる音声品質への影響を確認した後、Best Effortトラフィッ クに着目し音声品質測定を行い、その後提案したEDCA設定での品質評価を行った。

現在、IP電話の普及や、skypeなどのアプリケーションによりVoIPの利用が増えてきてい る。今後は携帯電話もVoIP化されると思われる。この背景からIEEE 802.11eや他のQoSが実 装された環境も今後増えてくると予想されるが、音声をパケットの観点からしか考慮していない 各QoSの設定はVoIP環境に最適であるとは言い難い。ネットワーク管理者はこの点に注意しな がら、今後ネットワークの構築を行うべきであろう。

またIEEE802.11e EDCAを使うネットワークの場合は、今回提案したEDCAのパラメータ

設定が音声品質において有効な手段となる。

5.2 今後の課題

今後の課題点を次に挙げる。

今回構築したネットワークはどの端末もパケットを送信するだけという非常に制約された ネットワークであり、今後は大規模で、様々なアプリケーションを同時に実行する複雑な ネットワーク下での品質評価をする必要がある。

本格的に音声品質の向上を望むのであれば、各カテゴリにおけるすべてのパラメータを変 更した上で測定を行う必要がある。

何故Best Effortトラフィックが音声トラフィックに多大な影響力を及ぼすのか、数式を用

いて証明する必要がある。

(31)

第 5 章 結論

トラフィック生成ではUDPでパケットを送信したが、TCPとUDPが複合されたネット ワークを考える必要がある。

音声圧縮の際、CODECにG.721.1を使用したが、他のCODECにも同様の測定をする必 要がある。

QoSにEDCAを使ったが、HCCAにおいても同様の実験をする必要がある。

(32)

謝辞

本学士論文の作成にあたり日頃より御指導を頂いた早稲田大学大学院理工学研究科 後藤滋樹 教授に深く感謝致します。また、実験環境構築の際、貴重な御指導を頂いた株式会社NTTドコ モの北原亮氏に深く感謝致します。

そして、研究を進める上で貴重なアドバイスを頂きました後藤研究室の時光潤氏、土居幸一朗 氏、鈴木幹也氏、伊沢信太郎氏、閻多一氏に深く感謝致します。

特に時光潤氏とは日々励ましあい、僕の支えとなってくれました。ありがとうございます。長 期間のアメリカ研修、頑張ってください。

また土居幸一朗氏、ご結婚おめでとうございます。式には出れませんが、カナダの寒空の中、

お幸せをお祈りしてます。可愛い奥さんと共に幸せな生活を歩んでいってください。

さらに、一緒に研究を共にした11e班の森田慎吾氏、栢沼圭輔氏、日々研究室で励ましあった

TEAM GOTO LOVEの板倉弘明氏、岸本和之氏、下田晃弘氏、魏元氏、石原寛之氏、片桐友之

助氏、小山田浩起氏に感謝致します。

特に栢沼圭輔君とは長期間寝食を共にし、また多くの実験に対し、お手伝いをして頂きました。

彼の助力無しに僕の論文はありません。深く感謝致します。今後働きながら恩返ししていきたい と思いますので、是非期待していてください。

また森田慎吾氏も実験の際、大変お世話になりました。就職活動で忙しい中、時間を割いて実 験や様々な企画に参加してくれてありがとう。ご検討を祈っています。

また僕の我儘で突拍子も無い数多くの企画に付いてきてくれた後輩諸君、ありがとう。君達の おかげで楽しい研究室生活が送れました。最高の後輩と過ごせた時間、僕は一生忘れません。深 く感謝致します。

また早稲田大学商学部6年の福島大浩氏には、日々夜食を共にし、論文の手助けをして頂きま した。ありがとうございます。これからも長い付き合いになるとは思いますが、宜しくお願い致 します。

最後に多大なる御協力を頂きました後藤研究室の諸氏に感謝致します。

(33)

参考文献

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[2] ITU-T Recommendation G.113, ”Transmission impairments due to speech processing”, February 2001.

[3] ITU-T Recommendation G.114, ”One-way transmission time”, March 2005.

[4] ITU-T Recommendation G.723.1, ”Dual rate speech coder for multimedia communications transmitting at 5.3 and 6.3 kbit/s”, February 2002.

[5] ITU-T Recommendation P.800, ”Methods for subjective determination of transmission quality”, August 1996.

[6] ITU-T Recommendation P.861, ”Objective quality measurement of telephone-band (300- 3400 Hz) speech codecs”, February 1998.

[7] ITU-T Recommendation P.862, ”Perceptual evaluation of speech quality (PESQ), an ob- jective method for end-to-end speech quality assessment of narrowband telephone net- works and speech codecs”, February 2001.

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[9] 竹中隆史,荒井透,苅田幸雄,『マスタリングTCP/IP (入門編)』,オーム社, 1994.

[10] 戸田巌,『ネットワークQoS技術』,オーム社, 2001.

[11] 森田慎吾,『IEEE802.11eにおけるVoIPの通信品質評価』,早稲田大学2006年度卒業論文, 2007.

[12] 飯村智也,『IEEE802.11eにおける負荷トラヒックを考慮したVoIPネットワークの構築』, 早稲田大学2006年度卒業論文, 2007.

(34)

参考文献

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[14] 中 村 篤 史,『DiffServのAFク ラ ス に よ る 品 質 保 証 法』,早 稲 田 大 学2003年 度 卒 業 論 文, 2004.

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[16] 橋口怜司,『無線リンクにおけるUDPの最適パケットサイズ』,早稲田大学2003年度卒業 論文, 2004.

[17] 佐々木洋美,『DiffServの環境におけるVoIPの品質評価』,早稲田大学2002年度卒業論文, 2003.

参照

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