博士(医学)今村道明 学位論文題名
虚血再灌流障害時における活性酸素消去剤の 血管内皮細胞に対する効果について
学位論文内容の要旨 I 結 言
心筋虚血再譲流障害時に産生される活性酸素とその消去剤の作用部位として血 管内皮細胞が注目されている。これまで血管内皮細胞の関与にっいては病理組織 学的検討からなされているが、血管内皮細胞の機能面からの検討は少ない。本研 究はsupport ratを 使用した血液湛流回路に接続したラヅト摘出心モデルを考案 して、superoxide dismutase(SOD),カタラーゼの虚血再灌流障害軽減効果ととも に 、 そ の 効 果 発 現 に お け る 血 管 内 皮 細 胞 の 関 与 に っ い て 検 討 し た 。
II. 材 料 と 方 法
体重450〜550gのWisterラ ッ卜をsupport ratと して、ポ ンプを 用いて大 腿動 脈から3 ml/minの一定速度で脱血し頸静脈ヘ返血する血液灌流回路を作製した。
体重270gのラヅト摘出心をLangendorff灌流し、350beats/minでぺーシングを行っ た。左室 に挿入 したパルーンで左室内圧を測定し、冠灌流圧を摘出心接続カニュ ラの側枝から持続的に測定した。実験モデルの安定性を検討する予備実験として、
90分間の摘出心湛流を行い左室収縮末期圧(LVESP),冠湛流圧を測定した(nー―8)。
本実験は15分間の 安定化の後、虚血前値の測定を行い大動脈カニューレを遮断し て37.5℃、20分問のglobal ischemiaとし、その後35分間の再湛流を行い、この時 点におけ る諸指 標を虚血 前値と比 較して 心機能回 復の評価を行った。実験詳を2 群(n=8/群)に分け、虚血前10分間と虚血後20分間SODとカタラーゼをそれぞれ毎 分1,OOOU灌流血液中に加えたものをSOD,カタラーゼ投与群(以下投与群)とし、
薬剤を用いなかったものを非投与おFとした。
収縮機能は、左室拡張末期圧(LVEDP)が10 mmHgでのLVESPを測定した。拡張機能 は、虚血前にLVESPがOmmllgからLVEDPがlOmmHgになるまでのvolumeをVl0とし、虚 血後にVl0を負荷したときのLVEDPの値を測定した。LVEDPがOmmllgからlOmmHgの間、
直線的に変化すると仮定しcomplian ceを求めた。冠湛流圧を測定し冠血管抵抗を 求めた。 血管内 皮細胞の 機能はア セチル コリンを 湛流血液中の濃度が1x 10‥、
lx10‥、lx10‥ 、lxio…、lx 10―10(M)となるように注入し、冠湛流圧の変化
を測定し変化率を求めた。同様にニトログリセリン(総量0.05mg)を湛流血液中に 注 入 、 し 冠 湛 流 圧 の 変 化 を 測 定し 変化 率を 求め た 。実 験終 了後 、心 筋のwet weightを測定し、100℃で24時間乾燥した後dry weightを測定し、 心筋組織水分 含量を求めた。
ni 結 果
予備実験では、灌流開始時に比し90分後のLVESPは14.8土3.9%低下し,冠血管抵 抗は20.6土6.1%上昇した。本実験では、虚血前の収縮機 能、拡張機能、冠血管抵 抗は いずれも2群間に有意差 はなかった。収縮機能の示標であるLVESP回復率は非 投与群で59土2X、投与を華で67土2%であり投与群で有意に高かった(P<0.05)。拡 張 機 能も 、虚 血後 のVl0にお けるLVEDPは非 投与 群で23.6土3.6mmHg,投 与群 で 12.3土0.2mmHgであり、非投与群で有意に高値を示した(P<0.05)。虚血後のconipl ianceは非投与群で1.28土0.12 /Lml/mmHg、投与群で1.61土0.11ヰml/mmHgであり、
投与群で有意に高値を示した。虚血後の冠血管抵抗は非投与群で29.3土4.3mmHg. min/ml、投与群で22.1土3.2mmng.min/mlであり、有意差は認めなかったが投与群 で冠 血管抵抗は低い傾向が認められた。血管内皮細胞機 能の評価では、冠灌流圧 の変化はアセチルコリンの灌流血液中濃度が1x 10―。からlx10ーio(M)までの範囲 では 非投与群の反応を除き濃度増加により反応も増大し た。アセチルコリン濃度 ixio―6において、虚血前には15.7土1.1X低下であったが、虚血後非投与群で5.9 土0.7%、投与群で10.0土0.6%の低下であり、虚血前に比ぺて両群において有意
(Pく0.05)に冠灌流圧反応の低下を示した。しかし、投与群では非投与群に比ベ有 意(Pく0.05)に冠湛流圧の反応は改善した。ニトログリセリンに対する反応は、虚 血前には19.4土2.5%、投与群で21.3土1.9%、非投与群で15.9土2.4%の低下であ り、 虚血前後いずれの群間でも有意差は認めなかった。 心筋組織水分含有量は、
非投与群で3.98土0.ll(ml/g.dry weight)、投与群で3.81土0.13 (ml/g.dry wei ght) で あ り 、 有 意 差 は 認 め な か っ た が 投 与 群 で 少 な い 傾 向 が認 めら れた 。
IV 考 察
虚血再湛流障害を軽減する上 で活性酸素消去剤投与の有効性が報告されている が、消去剤の効果に疑問の持た れる報告もみられる。本実験では収縮能、拡張能 の両面において消去剤投与の効 果が示された。SOD、カタラーゼは通常の投与方法 では心筋内に移行しないと考え られているが、投与により心筋壊死範囲が減少す
ること から、 消去剤の 効果発現は血管内皮細胞または自血球を介して作用するも のと推 測され てきた。 本実験では血液灌流モデルを用いて灌流圧の変化から血管 内皮細胞の機能を調ペ、SOD,力夕ラーゼが血管内皮細胞に作用していることを証 明した。また、support rat血液灌流回路モデルは系のそろった多数例にっいて実 験を施 行でき 、灌流に 血液を用いるため虚血再灌流に及ぼす血液成分の影響を心 機能の面から検索する上で有用である。
再灌 流障害に おける微 小循環障害にっいて血管閉塞を解除しても再灌流されな い領域 のみら ヵちこと はno reflow phenomenonと 呼ばれ 、発生機 序として 血管 内皮細 胞の障 害と好中 球による毛細血管塞栓が考えられている。本実験では投与 群で冠血管抵抗が低い傾向を示し、SOD,カタラーゼが自血球の活性酸素産生作用 を抑制 しno reflow phenomenonを軽減することが示唆された。組織水分含量の増 加に自 血球が 関与する ことが報告されている。本実験でも組織水分含量は投与群 で低値で浮腫の程度が軽度に止まり、SOD,カタラーゼが自血球の活性酸素産生を 抑え微小血管の透過性を抑制した可能性も示唆された。
血 管 内 皮 細 胞 の 機 能 の ー っ に 血 管 収縮 因 子 、血 管 内 皮細 胞 由 来弛 緩 因 子
(Endothelium―Derived Relaxing Factor:EDRF)などの血管拡張因子の産生による 血管壁 の緊張 度の調節 が知られている。本実験では血管内皮細胞障害の程度を、
EDRF産生 を介し血 管拡張 を起こすアセチルコリンに対する冠血管抵抗の変化を指 標とし て検討 した。ま た同時に、血管平滑筋依存でEDRF非依存性のニ卜ログリセ リンに対する反応も検討し、SOD,力夕ラーゼの投与でアセチルコリンによる血管 拡張反応が改善される結果から、SOD,力夕ラーゼが血管内皮細胞に対し障害軽減 作用を 持っこ とを証明 した。心筋虚血再湛流障害時には活性酸素が産生されると ともに 消去剤 が血管内 皮細胞を介して作用するものとみられ、血管内皮細胞の保 護が虚 血再灌 流障害に よる心筋細胞障害を軽減するために重要であることを示唆 している。
V結 語
血液灌流ラヅト摘出心における研究からSOD,カタラーゼの投与により心機能障 害、血管内皮細胞障害はともに回復が認められた。SOD,カタラーゼ投与の有効性 の機序として血管内皮細胞の障害を軽減することが示唆された。血液灌流ラット 摘出心モデルは心機能、血管内皮細胞機能の両面から虚血再灌流障害を検討する と と も に 、 血 液 成 分 の 関 与 を 研 究 す る 上 で 有 用 で あ る と 考 え ら れ た 。
200―
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
虚血 再灌 流障害時における活性酸素消去剤の 血 管 内 皮 細 胞 に 対 す る 効 果 に つ い て
心臓 外 科に おぃ て虚血再灌流による障害 が注目され、その対策が研究されて い る。 心 筋虚 血再 灌流障害時に産生される 活性酸素とその消去剤の作用部位と し てこ れ まで 血管 内皮細胞の関与について は病理組織学的検討からなされてい る が、 血 管内 皮細 胞の 機能 面か らの 検討 は少 なぃ。本研究はsupport ratを使 用 した 血 液濯 流回 路に 接続 した ラッ 卜摘 出心 モデ ルを 考案 して 、superoxide dismutase (SOD)、カタラーゼの 虚血再灌流障害軽減効果とともに、その効果発 現に おける血管内皮細胞の関与について検討した。
実験 はWisterラ ッ卜をsupport ratとして、ポンプを用いて大腿動脈 から3ml /minの 一 定速 度で 脱血し頚動脈へ返血する 血液灌流回路を作製した。体重270g の ラッ 卜 摘出 心をLangendorff灌流 し 、350beats/minでぺーシングを行った。
左 室に 挿 入し たバ ルーンで左室内圧を測定 し、冠灌流圧を摘出心接続カニュー ラ の側 枝 から 持続 的に測定した。実験モデ ルの安定性を検討する予備実験とし て 、90分 間の 摘出 心灌流を行い左室収縮末 期圧(LVESP)、冠灌流圧を測定した
(n:8) 。本 実験 は15分間の安定化の後、 虚血前値の測定を行い大動脈カニュ ー レを 遮 断し て37.5℃、20分間のglobal ischemiaとし、その後35分間の再灌 ―201一
三 従
顕
達 正
邊 舘
畠
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授 授
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教 教
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査 査
査
主 副
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流 を行 い 、こ の時 点に おけ る諸 指標 を虚 血前 値と 比較 して 心機能回復の評価を 行 った 。 実験 群を2群(n=8/群) に分け、虚血前10分間と虚血後20分間SODとカタ ラ ーゼ を それ ぞれ 毎分1,ooou溌流 血 液中 に加 えた もの をSOD、カタラーゼ投与 群 ( 以 下 投 与 群 ) と し 、 薬 剤 を 用 い な か っ た も の を 非 投 与 群 と し た 。 収縮 機能は、左室拡張末期圧(LVEDP)がlOmgHgでのしVESPを測定した。拡張機 能 は、 虚血前にLVESPがOmmHgからLVEDPがlOmmHgになるまでのvolumeをVl0とし、
虚 血後 にVl0を負 荷し たと きのLVEDPの値 を測 定し た。LVEDPかOmmHgからlOmmHg の 間、 直 線的 に変 化す ると 仮定 しcomplianceを求 めた 。冠 灌流圧を測定し冠血 管 抵抗 を 求め た。 血管 内皮 細胞 の機 能は アセ チル コリ ンを 溌流血液中の濃度か lXlo―6、1X 10‑7、lxlo−8、lXlo―9、lXlo―1゜(M)とな るように注入し、同 様 にニ トログリセリン(総量O.05mg)を灌流血液中に注入し、冠灌流圧の変化を 測 定 し 変 化 率を 求め た。 実験 終了 後、 心筋 のwet weightを 測定 し、100℃ で24 時 間 乾 燥 し た 後dry weightを 測 定 し 、 心 筋 組 織 水 分 含 量 を 求 め た 。 予備 実験では、灌流開始時に比し90分後のLVESPは14.8土3.9%低下し、冠血 管 抵抗 は20.6土6.1%上昇した。本実験では、収縮機能の指標 であるLVESP回復 率 は非 投 与群 で59士2%、 投与 群で67土2名で あり 投与 群で 有意に高かった(p〈 O.05)。拡張機能も、虚血後のVl0におけるLVEDPは非投与群 で23.6土3.6mmHg、 投与 群で12.3土O.2mmHgであり 、非投与群で有意に高値を示した(p〈O.05)。虚 血後 のcomplianceは非投与群で1.28土O.12 pml/mmHg、投与群で1.61土O.llpml/
mmHgで あ り、 投与 群で 有意 に高 値を 示し た。 虚血 後の 冠血 管抵抗は非授与群で 29.3土4.3mmHg ‑ min/ml、投与群で22.1土3.2mmHg ‑ min/mlであり、有意差は認め な かっ た か投 与群 で冠 血管 抵抗 は低 い傾 向が 認め られ た。 血管内皮細胞機能の 評 価 で は 、 冠灌 流圧 の変 化は アセ チル コリ ン の灌 流血 液中 濃度 が1X 10‥ 、1X 10一io (M)までの範囲では非投与群の反応を除き濃度増加により反応も増大した。
アセ チルコリン濃度1X10‑6におぃて、虚血前には15.7士1.1名低下であったか、
虚血 後非 授与 群で5.g土O.7$、投与群 で10.0土O.6gの低下であり 、虚血前に比 べて 両群 にお ぃて 有意(p<0.05)に冠 灌流 圧反応の低下を示した。 しかし、授与 群で は非 投与 群に 比べ有意(p<o.05)に冠灌流圧の反応は改善した 。ニ卜ログリ セリンに対する反応は、虚血前には19.4土2.5g、投与群で21.3土1.9錨、非投与 群で15.9土2.4名 の低下であり、虚血前後いずれの群間でも有意差 は認めなかっ た。心筋組織水分含有量は、非授与群で3.98土O.11 (ml/g゜dry ¥oeight)、投与 群で3.81土O.13 (ml/g.dry ¥oeight)であ り、有意差は認めなかったか投与群で 少ない傾向が認められた。
以 上 の 研 究 に お ぃ てS〇D.カ タ ラ ー ゼ の 投 与 に よ り 収 縮 機 能 、 拡 張 機 能は 改善 され 、ア セチ ルコ リン 投与 、 ニト ログ リセ リン 授与 によ る冠 灌流 圧の変化 の検 索か ら血 管内 皮細 胞に 作用 し てい るこ とが 証明 され 、心 機能 障害 、血管内 皮細 胞障 害は とも に回 復が 認め ら れた 。本 研究 で用 いた 血液 灌流 ラッ ト摘出心 モデ ルは 心機 能、 血管 内皮 細胞 機 能の 両面 から 虚血 再灌 流障 害を 検討 し、血液 成分の関与を研究する上で有用であると考え られた。
口 頭発 表に あた って 、北 畠教 授 から 収縮 機能 補助 の意 義、 ブラ ドキ ニなど他 の 薬 剤 の 検 討 、 古 舘教 授か ら自 血球 の関 与、 内因 性SODとの 関係 など につ いて 質問 があ った が、 申請者はおおむね妥当な回答を行った。また副査 の北畠教授、
古舘教授とは個別に審査を受け合格と判定さ れた。
心 筋 虚 血 再 灌 流 障害 につ いて ラッ ト摘 出心 モデ ル を考 案し 、SOD、 カタ ラー ゼの 効果 を心 機能 、血 管内 皮細 胞 の機 能面 から 検討 した 本研 究は 、学 術的意義 が大きく学位授与に値すると考える。