博士(農学)小金澤孝昭 学位論文題名
牛乳流通の広域化と市場編成に関する研究
学位論文内容の要旨
本 論 文fま ,5章か らなり ,図表70,引 用・参 考文献86を含 む167頁の和 文論文 で,別 に参 考論 文16篇が 添えら れてい る。
日本の 酪農地 域は, 生産 過剰の 下で激 しい産 地間競 争と 低い乳 価とを 強いら れて いる。また牛 乳 流通 は現在 ,全国 の酪農 地域と 全国 の消費 地域の 間で広 域的 に展開 されて いる。 本研究 は,こ の 点に 注目し ,従来 十分に 研究さ れて いなか った牛 乳市場 の変 動にっ いて, 全国的 に広域 化しつ っ ある 流通実 態の詳 細な実 証的検 討を 行って ,市場 編成の 実態 とその 特徴を 明らか にしよ うとし た もの である 。
第1章 で は 研 究 の 課題 と 従 来 の 研究 動 向 を 概 観 し, 本 研 究 の 方法 と 論 文 構 成を 概 説 し た 。 第2章 では , 統 計 資 料を 用 い て , 戦後 の牛 乳市場 ・流通 の変化 を3っの時 期に区 分し ,その 特 徴 を以 下のよ うに整 理した 。
@1966年 に不足 払い制 度が実 施され る前 の時期 は,大 規模乳 業が 全国的 工場配 置網を 完成させ るとと もに, 生乳 生産段 階でも 生産者 を系 列組合 で組織 し,ま た牛乳 小売 段階で も系列の牛 乳専売 店を組 織し て,牛 乳市場 を管理 して いた。
◎1966年 以降は 不足払 い制度 が実施 され ,生産 者が販 売先を 白由 に選択 できる ように なったこ とや, 紙容器 への 転換, 専売店 流通か ら量 販店流通への転換などの牛乳流通の革新によって,
生産者 団体で ある 指定団 体が市 乳化率 を高 めるた めの産 地間競 争を激 しく 行うよ うになり,
牛乳流 通が広 域化 するに 至った 。 .
◎1979年 以降は ,生乳 の生産 過剰が 顕著 になり ,計画 生産が 行わ れた。 この時 期の産 地間競争 は,生 産過剰 が前 提とナ ょって いたた め生 産に有利に働かず,牛乳流通における量販店の影響 カと工 場配置 網を 再編成 した大 規模乳 業の 影響カ とが強 まった 。
第3章 では , こ う し た牛 乳 流 通 の 変化 に対 応して 牛乳市 場を構 成する3っ の流通 主体 ,指定 団 体 と乳 業,牛 乳小売 業の動 向にっ いて 独自に 発掘し た調査 資料 を詳細 に分析 し,以 下のこ とを実 証 した 。
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@指定団体は不足払い制度以降,高い手取り乳価を獲得するため市乳向け生乳販売を行い,産 地間競争は市乳化率をめぐって激しくなった。これは販売先をめぐる競争であり,最終的な 消費である牛乳小売市場をめぐる乳業間の販売競争を誘発していった。とくに計画生産が実 施されると乳価が低く抑えられたままの産地間競争となり,より市乳化率の高い乳業,安定 し た 販 路 を 持 つ 量 販 店 と 取 引 の あ る乳 業へ の取 引 を強 めて いく こと と なっ た。
◎乳業の動向にっいては,1970年代以降の牛乳流通の技術革新や流通経路の変化によって,系 列の牛乳専売店方式によって行われていたヰ乳小売流通が量販店中心の流通に変っていっ た。このため,大規模乳業によって占有されていた大消費市場が開放され,中小乳業や農協 系が市場参入して激しい乳業競争がくりひろげられた。生産過剰や季節別生産量の一層の不 安定化によって,乳業も需給調整を迫られるが,加工処理機能を持たない中小乳業や農協乳 .業は対応が不十分になる。他方,大規模乳業は全国的工場配置網を活用して独自の需給調整 を行うことができるため,乳業の中で相対的に優位となった。
◎量販店の動向としては,牛乳を集客商品として活用するため,低価格販売や特売を恒常的に 行い,牛乳流通に小売価格の低位固定化をもたらした。また,量販店は安定した販売量や チェ―ン店機能を持っているため,乳業も乳業間競争の下ではPBという形で量販店と契約 取引を行わざるを得ず,牛乳流通における量販店の影響カの拡大と牛乳価格の低位固定化が 一層進んだ。さらに,量販店の発注量tま,特売を月に何度も設定するため不安定なものにな り , こ れ が 乳 業 の 生 産 計 画 や 生 乳 生 産 の 計 画 を も 変 動 さ せ る こ と に な っ た 。 第4章では,牛乳市場を構成する流通主体の動向から,市場編成の実態と特徴を解明,考察し,
以下の点を明らかにした。
@牛乳の物流と商流における各流通主体間の取り引き関係の変化である。物流の面では技術革 新によって末端の小売段階から加工処理段階を経て生産段階に至るまでが短時間で結合し,
注文量に応じて生産量が変動する特徴をもった。また商流の面では特定の小売店と特定の加 工処理業,さらに特定の指定団体とが結合し,小売業の注文量や用途に応じた量や乳質の生 産が強いられるようになった。この結果,日別,季節別の消費量の変動が乳業や生産者の生 産のあり方に直接影響を与え,牛乳の計画的な生産が困難になっている。とくに生乳取引に おいて計画生産に不可欠な定時定量や定時定率の取引形態が滅少し,必要時必要量取引が増 加した。
◎乳価の低位固定化と乳価の地域格差の形成である。現在の流通の仕組みが小売段階である量 販店主導に編成されてきたために,乳価が低く固定されている。また,生乳の用途が多様化
してい るため 生乳 の価格 が多様 に設定 され ,この ことが プール 乳価を 一層引き下げる役割を 果して いる。 とく に「そ の他向 け乳価 」の 設定は ,飲用 向け乳 価と加 工原料向け乳価格とを 連動さ せるこ とに なり, 一層の 価格引 き下 げの条 件を拡 大した 。さら には,乳価の地域格差 が計 画 生 産 実 施 以降 で は , 産 地間 競 争 に よ って 縮 小 し な くな り ,固定 化され はじ めた。
◎ 産 地 間 競 争の 激 化 で ある。 産地間 競争は 不足 払い制 度以降 ,加工 原料 乳地帯 のプー ル乳価 を 上昇さ せ,乳 価の 地域格 差を縮 小して きた 。しか し,生 産過剰 と流通 構造での変化が進むと 産地間 競争が あっ ても乳 価の地域格差が固定化されるようにナょった。こうした中で,一層の 乳価上 昇を目 指し て格差 のある 産地か ら, 広域流 通を伴 う産地 間競争 を再び活発化する傾向 が生じ てきた 。
第5章 では , 以 上 で 明らか にした 牛乳流 通の 変化と ,市場 を構成 する3っの 流通主 体の 詳細な 動 向と 相互関 係と, その結 果生じ た牛 乳の市 場編成 の実態 と特 徴を総 括した上で,広域流通の下 で の牛 乳流通 の課題 を提起 した。
本研究 で解明 した最 大の 焦点は ,牛乳 の生産 者と乳 業, 小売業 が乳業 を中心にして編成された 市 場構 造から ,小売 業を頂 点にし て縦 に系列 的に編 成され る市 場構造 へと再編成されたことと,
な おか っ,再 編成さ れた市 場構造 が生 産者乳 価格を 引き下 げる 仕組み を持っことを実証したこと で ある 。した がって ,牛乳 流通の 課題 が,消 費量の 変動が 直接 的に生 産量に影響しない市場構造 を 各流 通主体 間の協 カによ って育 成す ること と,生 産者団 体に よる広 域的な需給調整,組織的な 流 通管 理体制 の確立 にある と結論 づけ た。
学 位 論 文 審 査の 要 旨 主 査
副 査 副 査 副 査
教 授 臼 井 教 授 七 戸 教授、太田原 助教授 三島
晋 長 生 高 昭 徳 三
本 論 文 は ,5章 か らなり ,図表70,引 用・参 考文献86を含 む167頁の和 文論文 で, 別に参 考論 文16篇が 添え られて いる。
今日の 牛乳 流通は 著しく 広域化 し,酪 農地 域は、 生産過 剰の下 で激 しい産地間競争と低乳価と
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を 強いら れて いる。 本研究 は,こ の点 に注目 し,牛 乳市場 の変動 にっ いて, 広域的な流通実態の 詳 細 な 検 討 を 行 っ て , 市 場 編 成 の 実 態 と そ の 特 徴 を 明 ら か に し よ う と し た も の で ある 。 第1章で は , 研 究 の 課題 と 従 来 の 研究 動 向 を 概観 し,本 研究 の方法 と論文 構成を 概説し た。
第2章で は , 統 計 資 料を 用い て,戦 後の牛 乳市 場・流 通の変 化を3っの 時期に 区分 し,そ の特 徴 を次の よう に整理 した。(D1966年に 不足 払い制 度が実 施され る前の 時期 は大規模乳業が全国的 工 場配置 網を 完成さ せ,市 場を管 理し ていた 。◎1966年以降 は不足 払い制 度が実施され,生産者 の 販路選 択が 自由に なった ことや ,紙容器への転換,流通経路の転換などの牛乳流通の革新によっ て ,産地 間競 争が激 しくな り牛乳 流通 が広域 化した 。◎1979年以降 は,生 乳の生産過剰に伴って 計 画生産 が行 われ, 牛乳流 通の上 で, 量販店 と,工 場配置 網を再 編成 した大 規模乳業の影響カと が 強まっ た。
弗3章 で は ,牛 乳 流 通 の 変化 に 対 応 し て, 牛 乳 市 場 を 構成 す る3っ の流 通主 体,生 産者団 体で あ る指定 団体 と,乳 業,牛 乳小売 業の 動向に っいて 詳細な 実態分 析を 行い, 次の点を明らかにし た 。@指 定団 体は不 足払い 制度以 降,高い乳価を獲得するため広域的な市乳向け生乳販売を行い,
産 地間競 争は 市乳化 率をめ く゛っ て激しくなり,最終的な消費である小売市場をめぐる乳業間の販 売 競争を 誘発 してい った。 ◎乳業 でtま,1970年代以 降の牛乳流通の革新によって,大規模乳業に 占 有され てい た大消 費市場 が開放 され ,中小 乳業や 農協系 乳業が 市場 参入し て激しい乳業間競争 が 進んだ 。◎ 量販店 では, 牛乳を 集客 商品と して活 用する ため, 低価 格販売 や特売を恒常的に行 い ,小売 価格 の低位 固定化 をもた らし た。ま た,量 販店は 安定し た販 売量や チェーン店機能を持 っ た め , 各 乳業 もPBと いう 形で量 販店 と契約 取引を 行わざ るを 得ず, 量販店 の影響 カが一 層進 ん だ。
第4章 では ,流通 主体の 動向か ら生み 出さ れる市 場編成の実態と特徴を解明し,考察を加えた。
@ 物流の 面で は技術 革新に よって 末端 の小売 段階か ら生産 段階ま でが 短縮さ れ,商流の面でも特 定 の小売 店と 特定の 加工処 理業, さら に特定 の指定 団体と が系列 的に 結合し ,消費量の変動が生 産 量に直 接的 に影響 を与え ,牛乳 の計 画的な 生産を 困難に してい るこ とを明 らかにした。◎現在 の 流通の 仕組 みが小 売段階 である 量販 店主導 に編成 された ために ,乳 価が低 位固定されているこ と ,さら に乳 価の地 域格差 も計画 生産 以降で は固定 化され たこと を明 らかに した。◎流通構造の 変 化で乳 価の 地域格 差が固 定化さ れる と,一 層の乳 価上昇 を目指 して 格差の ある産地から,広域 流 通を伴 う産 地間競 争が再 び活発 化す ること を明ら かにし た。
第5章 では, 各章の 分析結 果を総 括し ,現在 の牛乳 流通の 課題 を提起 した。 すなわ ち,本 研究 で 解明し た焦 点は, 牛乳の 生産者 と乳 業,小 売業が 乳業を 中心に して 編成さ れた市場構造から,
小 売業 を頂 点 にし て縦 に 系列的に編成 される市場構造へ と再編成されたこと と,そして,再編 成 された市場 構造か生産者乳価 をぅ「き下げる仕組みを持っことを実証したことである。したがって,
牛 乳流 通の 課 題は ,消 費 量の変動が直 接的に生産量に影 響しない市場構造を 各流通主体間の協 カ に よっ て育 成 する こと と ,生産者団体 による広域的な需 給調整,組織的な流 通管理体制の確立 に あると結論 づけた。
以上 のよ う に, 本研 究 では,牛乳流 通の広域化の実態 にっいて,独自の資 料発掘によって詳 細 な 解明 を行 い ,ま た, 流 通主体の取引 関係の検討によっ て,これまで十分に 明らかにされてい な か った 牛乳 市 場の 編成 に 関する独創的 新知見を提起した 。この点で学術的に 高く評価されると と もに,酪農 振興を図る上でも ,貴重な示唆を与 えている。
よっ て審 査 員一 同は , 別に行った学 力確認試験の結果 と合わせて,本論文 の提出者小金澤孝 昭 は , 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。
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