微分積分学および演習Ⅰ 参考資料 1
2018年度前期
工学部・未来科学部
1年 担当
:原 隆
(未来科学部数学系列・助教
)■
テイラー
-マクローリンの近似定理
定理
(テイラー
-マクローリンの近似定理
, [石原・浅野
] p.p. 70–71定理
15.1,定理
15.2)関数
f(x)が
(定義域
Dfに含まれる
)点
aを含む区間で
(n+ 1)階微分可能ならば、その 区間内の各実数
xに対して
f(x) =f(a) + f′(a)
1! (x−a) +f′′(a)
2! (x−a)2+f(3)
3! (x−a)3+. . . . . . . .+f(n)(a)
n! (x−a)n+f(n+1)(c)
(n+ 1)! (x−a)n+1
を満たすような実数
cが
aと
xの間に少なくとも
1つ存在する。
※
a= 0のときの主張を特に マクローリンの定理 と呼ぶ。
定義 テイラー
-マクローリンの定理で登場する多項式
Pf,n(a)(x) =f(a) + f′(a)
1! (x−a) +f′′(a)
2! (x−a)2+ f(3)(a)
3! (x−a)3+. . .+f(n)(a)
n! (x−a)n
を
n次テイラー多項式
Taylor polynomial of degree nと呼ぶ。
babababababababababababababababababab
テイラー
-マクローリンの近似定理は、関数
f(x)の値を テイラー多項式
Pf,n(a)(x)で近似したときの誤差
R(a)f,n(x) = f(x)−Pf,n(a)(x) (剰余項
remainderと呼ばれる
)を
Rf,n(a)(x) = f(n+1)(c)
(n+ 1)! (x−a)n+1
という形で
“明確に
”表せることを主張する定理で ある。この形で
R(a)f,n(x)を表したものを ラグランジュの剰余項
Lagrange form of remainderと呼ぶ。
注意 「剰余項が
“明確に
”表せる」とは言っても、
(証明からも分かるように
)ラグランジュの 剰余項に現れる数
cは ロルの定理 に由来する 存在することは保障されているけれど良く分からな い数 なので、
(x−a)n+1の係数
f(n+1)(c)(n+ 1)!
がどのような数なのかを具体的な形で完全に書き下すこ
とは ほぼ不可能である
!!しかし剰余項が
(何らかの定数
)×(x−a)n+1という形で書ける ことが
分かれば、その大きさを 評価すること は可能となる。実際、テイラー展開やマクローリン展開の収
束性は 剰余項の大きさを調べる
(評価する
)ことで調べられるのである。
■
テイラー展開、マクローリン展開
定義
(テイラー展開、マクローリン展開
, [石原・浅野
] p. 74 (16.1), (16.2)式
)f(x)
を 無限階微分可能 な関数とする。
(定義域内の
)点
aの近くの実数
xに対して、無限 級数
∑∞ n=0
f(n)(x)
n! (x−a)n =f(a) +f′(a)
1! (x−a) + f′′(a)
2! (x−a)2+. . .+f(n)(a)
n! (x−a)n+. . . .
が
f(x)に収束するとき
(即ち
limn→∞Pf,n(a)(x) =f(x)
が成り立つとき
)、
f(x)は
x=aで テイ ラー展開可能
(または 解析的
analytic)であるといい、
f(x) =f(a) +f′(a)
1! (x−a) +f′′(a)
2! (x−a)2+. . .+f(n)(a)
n! (x−a)n+. . . .
を
f(x)の
x =aのまわりでの テイラー展開
Taylor expansionと呼ぶ。特に
x= 0のまわ りでの テイラー展開を マクローリン展開
Maclaurin expansionと呼ぶ。
ブルック・テイラー*1 コリン・マクローリン*2 ジョセフ=ルイ・ラグランジュ*3
注意
講義でも強調したように、テイラー展開のような 無限和
(級数
)を考える場合には その無限和が きちんと収束すること を確認しなければ意味がない
*4。テイラー多項式の列
{Pf,n(a)(x)}∞n=0が
f(x)に収束するということは、
Rf,n(a)(x) =f(x)−Pf,n(a)が
0に収束すること と同義である。ところがテ イラー
-マクローリンの定理によると
R(a)f,n(x) = f(n+1)(c)(n+ 1)! (x−a)n+1
と具体的に書き表すことが 出来たのだから、 テイラー展開が収束することを確認するためには、
R(a)f,n(x)が
0に収束することを 示せば良い ことになる
*5。以下、ラグランジュの剰余項
R(0)f,n(x)を調べることによって、基本的な 関数
ex,sinx,cosx,log(1 +x),(1 +x)αに対してその
マクローリン展開の収束性 を調べることに しよう。
*1Brook Taylor (1685–1731)
*2Colin Maclaurin (1698–1746)
*3Joseph-Louis Lagrange (1736–1813)
*4講義で紹介したS= 1−1 + 1−1 + 1−1 + 1−1 +. . . . のパラドックスを思い出そう。
*5他にも羃級数の収束半径の理論 を用いてテイラー展開の収束性を調べる方法もあるが、本講義の範疇を完全に逸脱す るのでこれ以上深入りしない。
■
発展
:基本的な関数のマクローリン展開の収束性について
以下の内容は学期末試験の範囲からは除外します
!!1.
ex= 1 +x+ 12!x2+. . .+ 1
n!xn+. . . . (
指数関数
)f(x) =ex
とおくと
f(n)(x) =exである。マクローリンの近似定理により、或る
0と
xの間の 数
cが存在して
Rn+1(x) =ex− (
1 +x+ 1
2!x2+. . .+ 1 n!xn
)
= ec
(n+ 1)!xn+1
と表される。指数関数の単調性 より
ecは
x >0のときは
exより小さく、
x <0のときは
e0 = 1より小さい値となる。そこで
M = max{ex,1}とおくと、不等式
Rn+1(x) ≤M xn+1(n+ 1)!
が成り立 つ
(Mは
nによらない定数
)。ここで次の命題を用いる
;命題 任意の実数
xに対して
limn→∞
xn
n! = 0 (“
階乗の方が指数関数より速く大きくなる
”)【証明】
N−1≤ |x|< Nとなるような自然数
Nを考えると、
n > Nに対して
1 n < 1N
より不等
式
0<x n<x N
が成り立つ。したがって
n > Nに対して
0≤xn n!
=x 1
·x 2
· · · · · x
N −1 · x
N ·
x
N + 1
· · · ·x n
<x 1
·x 2
· · · · · x
N −1 · x
N ·x
N
· · · · x N
=Cx N
n−N+1
が成り立つ
(但し
C =x1 ·x
2
· · · · · x
N −1
とおいた
)。ここで
Nを
|x|< Nとなるような自然 数として選んだことから
xN
<1
が成り立つので、上記の不等式の右辺は
n→ ∞とすると
0に 収束する。したがって挟み撃ちの原理により
limn→∞
xn
n! = 0
が従う。
□命題 により
xn+1 (n+ 1)!n→∞
−−−−→0
である。したがって不等式
0 ≤ |Rn+1(x)| ≤ M xn+1(n+ 1)!
に於い て、右辺は
n→0とすると
0に収束するので、挟み撃ちの原理により
limn→∞Rn+1(x) = 0
が従う。
以上より 指数関数
exのマクローリン展開は すべての
xに対して 収束する。
2.
sinx=x− 13!x3+ 1
5!x5−. . .+ (−1)m
(2m+ 1)!x2m+1+. . . . (
三角関数
)f(x) = sinx
とおくと、マクローリンの近似定理により、或る
0と
xの間の数
cが存在して
Rn+1(x) = sinx−( x− 1
3!x3+ 1
5!x5−. . .+ f(n)(0) n! xn
)
= f(n+1)(c) (n+ 1)! xn+1
と 表 さ れ る 。但 し
f(n+1)(c)は
±sinc, ±coscの い ず れ か で あ る 。そ の ど の 場 合 に 於 い て も
|f(n+1)(c)| ≤1
となるので、結局不等式
Rn+1(x)≤ xn+1(n+ 1)!
が成り立つ。
したがって上記の 命題 により、不等式
0≤ |Rn+1(x)| ≤ xn+1(n+ 1)!
に於いて、右辺は
n→0とす ると
0に収束するので、挟み撃ちの原理により
limn→∞Rn+1(x) = 0
が従う。以上より 三角関数
sinxのマクローリン展開は すべての
xに対して 収束する。
3.
cosx= 1− 12!x2+ 1
4!x4−. . .+ (−1)m
(2m)!x2m+. . . . (
三角関数
)このときは 2.
(sinxの場合
)と全く同様の議論によって、三角関数
cosxのマクローリン展開も すべての
xに対して 収束する ことが分かる
(興味のある人は各自確認してみよう
!!)。
4.
log(1 +x) =x−1 2x2+13x3−1
4x4+. . .+(−1)n−1
n xn+. . . . (
対数関数
)f(x) = log(1+x)
とおくと
f(n)(x) = (−1)(−2)· · ·(−n+1)(1+x)−n = (−1)n−1(n−1)!(1+x)−nである。したがってマクローリンの近似定理により、或る
0と
xの間の数
cが存在して
Rn+1(x) = log(1 +x)− (
x−1 2x2+1
3x3−. . .+ (−1)n−1 n xn
)
= (−1)n
(n+ 1)· 1
(1 +c)n+1xn+1
と表される。
(
ア
) 0≤x≤1のとき このときは
cは
0< c < x(≤1)を満たす数なので、
x <1 +cが成り立つ。
したがって
x1 +c <1
より
( x1 +c )n+1
n→∞
−−−−→0
となるので、
limn→∞Rn+1= 0
が従う。
(
イ
)∗ −1< x≤0のとき このときは ラグランジュによる剰余項の表示を用いてしまうと、剰余項
が
0に収束することを証明するのは難しい。そこで、以下に紹介する コーシーによる剰余項 の表示 を用いて剰余項をより精密に評価する
;定理 点
aのまわりで
(n+ 1)階微分可能な関数
f(x)に対し、
xと
aの間の実数
cで
R(a)n,f =f(x)−Pf,n(a)(x) = f(n+1)(c)
n! (x−a)(x−c)n
を満たすものが存在する。剰余項
R(a)f,n(x)を上記のように表したものを コーシーの剰 余項
Cauchy form of remainderと呼ぶ
*6。
【証明の方針】
Kを
K =f(x)−Pf,n(a)(x) =f(x)− (
f(a) +f′(a)
1! (x−a) +f′′(a)
2! (x−a)2+. . .+f(n)(a)
n! (x−a)n )
で定めるとき、
aと
xを端点とする閉区間上で定義された
tについての関数
g(t) =f(t) +f′(t)
1! (x−t) +f′′(t)
2! (x−t)2+. . .+f(n)(t)
n! (x−t)n+Kx−t x−a
に対して ロルの定理を適用すれば良い
(講義で扱った関数の最後の項を変えただけです
;腕に自信の
ある人は挑戦してみて下さい
)。
□*6ラグランジュの剰余項と良く似ているが“(x− ⃝)のn乗”の形の部分が(x−a)nから(x−c)nになっているのが 最大のポイント。
対数関数に対するコーシーの剰余項は
(a= 0に注意して
) RCauchyn+1 = f(n+1)(c)n! (x−a)(x−c)n= (−1)n
(1 +c)n+1 ·x(x−c)n ∴ |RCauchyn+1 |= |x|n+1
|1 +c| 1−xc
1 +c n
と計算出来る。
0 x
−1 x c
|x−(−1)|
|c−(−1)|
ここで
−1 < x < c < 0であるから、辺々を
x <0で割り算し
て
−1x >1 > c
x >0
が成り立つ。特に
1− cx >0
が従う。また、
−1
x >1
の両辺に
c < 0を掛け算すると不等式
−cx < c
を得るの で、特に
1−cx <1 +c
が従う。
c >−1より
1 +c >0であるので、最終的に不等式
0< 1− xc
1 +c <1
が成り立つことが分かる。特に
1−xc 1 +c
n <1
である。一方で上の図より
|1 +x|<|1 +c|であるこ とが分かる。したがって逆数をとって
1|1 +c| < 1
|1 +x|
が成り立つ。これ等を纏めると
0≤ |Rn+1|= |x|n+1
|1 +c| 1− xc
1 +c
n< |x|n+1
|1 +x| ·1
となり、
|x| < 1より右辺は
n → ∞とすると
0に収束することから、挟み撃ちの原理により
nlim→∞|RCaucyn+1 |= 0
が従う。
以上を纏めて、対数関数
log(1 +x)のマクローリン展開は
−1< x≤1を満たす
xに対して収 束することが分かる。
5.
log(1 +x)α = 1 +αx+ α(α−1)2! x2+. . .+ α(α−1)· · ·(α−n+ 1)
n! xn+. . . . (
羃乗関数
)以下では
αは自然数でない とする
*7。
f(x) = (1 +x)α
とおくと、
f(n)(x) =α(α−1)· · ·(α−n+ 1)(1 +x)α−nである。ここでも矢張 り コーシーの剰余項 を用いると
(a= 0であることに注意して
)RCauchyn+1 =f(x)− (
1 +αx+α(α−1)
2! x2+. . .+α(α−1)· · ·(α−n+ 1)
n! xn
)
= f(n+1)(c)
n! x(x−c)n = α(α−1)· · ·(α−n)
n! (1 +c)α−n−1xn+1 (
1− c x
)n
=α·α−1
1 ·α−2
2 · · · · · α−n
n (1 +c)α−1
(1− xc 1 +c
)n
xn+1
= (αx) {−x(
1−α 1
)} {−x( 1−α
2
)}· · · · ·{
−x( 1−α
n )}
(1 +c)α−1
(1−xc 1 +c
)n
と計算出来る。そこで
|Rn+1Cauchy|を段階的に評価してゆこう。
⋆ 1− cx
1 +c
n
は 4.
(イ
)と同様にして
1より小さいことが分かる
*8。
*7自然数の場合は通常の多項式の二項定理なので、すべてのxに対して成り立つ。
*8先程は−1< x <0のときしか扱わなかったが、0≤x <1のときも同様に評価出来るのでやってみよう。
⋆ |1 +c|α−1
の部分は
−|x|< c <|x|であること、つまり
1− |x|<1 +c <1 +|x|であること を用いると、羃乗関数の単調性から
◦ α−1>0
のときは
(1 +c)α−1<(1 +|x|)α−1◦ α−1<0
のときは
(1 +c)α−1<(1− |x|)α−1となる。したがって
M = max{(1 +|x|)α−1,(1−|x|)α−1}とおけば
(1 +c)α−1< Mとなる。
⋆ −x (
1−α k
) (k = 1,2,3, . . .)
の部分については、先ず
−α ≤ |α|であることから不等式
x( 1− α
k ) ≤
x (
1 +|α| k
)
が成り立つ。ここで
kに関する数列
{1 +|α| k
}
は
1に収束 する単調減少な数列であり、一方で
|x| <1であることから、十分大きな自然数
Nに対し て
x (
1 +|α| N
)<1
が成り立つ。さらに単調減少性より
Nより大きい自然数
nに対して
x( 1 +|α|
n
)<
x (
1 +|α| N
)
が成り立つ。
以上より、
n > Nなる自然数
nに対して
0≤|RCauchyn+1 |=|αx|x (
1−α 1
)· · ·x (
1− α N
) x
(
1− α N + 1
)· · ·x (
1−α n
)|1 +c|α−1 1−xc
1 +c n
≤ |αx|
x (
1 +|α| 1
)· · · x
( 1 +|α|
N )
x (
1 + |α| N + 1
)· · · x
( 1 +|α|
n
)|1 +c|α−1 1−xc
1 +c n
<|αx| x
(
1 +|α| 1
)· · · x
( 1 +|α|
N )·
x (
1 +|α| N
)· · · x
( 1 +|α|
N
)·M·1n
< M′ x
( 1 +|α|
N
)n−N −−−−→n→∞ 0
が成り立つ
(但し
M′ =M|x|Nα (
1 +|α| 1
)
· · · (
1 + |α| N −1
)
とおいた
;これは
nに依らない定 数
)。したがって挟み撃ちの原理から
limn→∞RCauchyn+1 = 0
が従う。
以上を纏めて、羃乗関数
(1 +x)αのマクローリン展開は
|x|<1を満たす
xに対して収束する ことが分かる。
babababababababababababababababababab
注意 対数関数
log(1 +x),羃乗関数
(1 +x)αでは
−1≤x <1または
|x|<1のときに しか収束性を議論していないが、この範囲に含まれない
xに対しては 実際に無限和が発散 してしまう ことも確認することが出来る
*9。したがってこの
2つに関しては 収束する範囲 に注意すること
!!*9例えば『収束する級数
∑∞ n=1
anに対しては|an|−−−−→n→∞ 0が成り立つ』([石原・浅野]§1定理1.3参照) を利用して、
『
f(n)(0) n! xn
が0に収束しないことを確認する』方法などがある。