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博 士 ( 医 学 ) 濱 口 早 苗 学 位 論 文 題 名

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博 士 ( 医 学 ) 濱 口 早 苗

学 位 論 文 題 名

慢 性 腎 臓 病 は 慢 性 心 不 全 入 院 患 者 に お け る 独 立 し た 長 期 予 後 悪 化 の 危 険 因 子 で あ る

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

【 背 景 と 目 的 】 人 口 の 高 齢 化 ・ 生 活 習 慣の 欧米 化 に伴 う虚 血性 心疾 患 の増 加に より 慢性 心 不 全患 者は 増加 の 一途 を辿 って いる 。 慢性 心不 全は 死亡 率 ,再 入院 率と も に上 昇傾向にあり 医 療上 の問 題で あ るば かり でな く, 医 療コ スト の増 大に よ り社 会間 題と し ても とらえられて いる。

  腎 機 能 障 害 す なわ ち 慢性 腎臓 病Chronic kidney disease( 以 下CKDと 略す )は ,慢 性心 不 全 患 者 に お い て 総 死 亡 ば か り で な く 心 血管 イベ ン トを 含む 予後 の独 立 した 危険 因子 であ る こ とが 報告 され て いる 。し かし ,日 常 臨床 で遭 遇す るさ ま ざま な心 不全 患 者を 対象に,腎障 害の長期的予 後に及ぽす影響を評価した報 告は乏しい。

  Japanese Cardiac Registry of Heart Failure in Cardiology (JCARE一CARD)は,慢性心 不 全の 増悪 によ り 日本 循環 器学 会認 定 研修 施設 に入 院し た 患者 を対 象に , デー タを収集した 前 向 き 登 録 観 察 研究 で ある 。本 研究 ではJCARE―CARD研 究デ ータ ベー ス を用 いて ,慢 性心 不 全 患 者 に お け るCKDの 頻 度 を 評 価 し ,CKDが 独立 し た予 後の 規定 因子 か どう かを 検討 した 。

【 対 象 と 方 法 】JCAREーCARDで は 慢 性 心 不 全 増 悪 に よ り 入 院 治 療を 行 った 患者2675名を 対 象 にし ,登 録時 に 患者 背景 ,基 礎疾 患 ,心 不全 増悪 の誘 因 ,合 併疾 患, 臨 床検 査所見,治療 内 容 を 調 査 し た 。 本 研 究 で は 血 清 ク レ ア チ ニ ン 濃 度 よ り も 腎 機 能 を 良 く 反 映 す る Modification of Diet in Renal Diseaseの 式を 使 用し 算出 した 推定 糸 球体 濾過 率(eGFR)を 用 い て 腎 機 能 を 評 価 し た 。eGFRは1961名 で 算 出 可 能 で あ っ た 。 血 液 透 析 中 の62名 はeGFR の 値 に 関 係 せ ず に 対 象 と し て 加 え , 合 計2013名 の 患 者 を 解 析 対 象 と し た 。eGFR>60 ml/min/l. 73mz  (n=579),30−60 ml/min/l. 73m2  (n=1025),く30 ml/min/l. 73m2または維持透 析中(n二ニ409)の3群に分類した。

  退 院 後 少 な く と も1年 以 上 経 過 し た 時 点 で 登 録 患 者 の 予 後 調 査 を 施 行 し 解 析 し た 。

【 結 果 】 維 持 透 析 中 で な い 心 不 全 患 者1951名 に お い てeGFRは 正 規 分 布 し , 平 均 値 は49.5 土19.8ml/min/l. 73m2であった。全体のうち1372名(70.3%)が,eGFRく60ml/min/l. 73mz, す なわ ちCKDス テー ジ3以上 であ った 。 維持 透析 中の 患者 を含めると1434名(71.2%)の患者 が ,CKDス テ ー ジ3以 上 で あ っ た 。eGFR低 下 例 は , 有 意 に 高 齢 で 女 性 が 多 か っ た 。eGFR低 下 例は ,心 不全 の 基礎 疾患 とし て虚 血 性心 疾患 と高 血圧 性 心疾 患の 割合 が 高く ゝ拡張型心筋 症 の 割 合 が 低 か っ た 。eGFR低 下 例 は , 高血 圧, 糖 尿病 ,貧 血等 の合 併 症が 多く ,慢 性心 房 細 動 合 併 の 割 合 が 低 か っ た 。eGFR低 下 例は ,退 院 時に アン ジオ テン シ ン変 換酵 素阻 害薬 , 口遮断薬を処 方されている頻度が低かった 。

  退院 後平 均2.4年の 経過 観察 中の 心 不全 の増 悪に よる 再 入院 また は死 亡 率は43.6%であっ た 。 再 入 院 ま た は 死 亡 率 は ,eGFRが 低 下 す る に つ れ て 有 意 に 増 加 し た 。eGFR >60 ml/min/l. 73mzを対 照 とし て多 因子 補正 に よる 解析 を行 うと ,eGFRがよ り低 下 した2群で 再 入 院ま たは 死亡 の りス クは 有意 に上昇し, 腎障害が進行するにっれ,よ ルリスクが上昇した。

eGFR 30―60 ml/min/l. 73m2で は 補 正 ハザ ード 比1.542  (95%信 頼区 間1.206ー1,972) (P=O. 001),eGFRく30 ml/min/l. 73m2また は維持透析患者では補正ハザ ード比2. 766  (95%

363 ‑

(2)

信頼区間2. 041一3.747)(P<O; 001)であった。再入院または死亡に関連する独立した危険 因子は高血圧非合併例,腎障害,高齢,貧血,持続性心室頻拍・心室細動の既往,心臓再同 期療法であった。

【 考察】本 研究の 結果より 慢性心不全入院患者では,

CKD

の合併がきわめて高頻度にみと められると言える。さらに重要なことに,2.4年にわたる長期予後におしゝて,CKDは,他の 予 後 悪 化 因 子 と 独 立 し て 心 不 全 増 悪 に よ る 再 入 院 ま た は 死 亡 に 関 連 し た 。

  

本研究でのCKDの頻度は,以前報告された観察研究や臨床研究の結果よりも高頻度であう た。結果の相違は研究間の対象患者の違いに起因すると考えられる。JCARE―CARDでは日常 臨床の現状を反映させるため慢性心不全入院患者を選択せずに登録し,血清クレアチこン濃 度が高値や維持透析中の患者も除外しなかったため,高齢で合併疾患が多く,必然的に対象 患者における

CKD

の頻度が高くなったと予想される。

  

本 研究にお いても

CKD

が心不全入院患者の長期予後の悪化に関連していることが明らか になった。この結果は,心不全患者を対象にしたすでに報告された臨床試験の結果と合致す る。臨床試験の結果は,心不全患者でCKDが予後増悪因子であることを明確に示しているが,

これらの試験の対象患者は日常臨床で遭遇する一般的な心不全患者を反映していない。その ためこれらの研究の結果をそのまま一般臨床に当てはめることはできない。このようなギャ ップを埋めるのに登録観察研究の患者データベースを解析することは臨床的に価値がある と 考えられ る。本 研究の結 果は,CKDと院内死亡の関連を示したADHEREの報告と合致して いる。しかし,ADHEREは入院中の経過観察のみであり,長期予後に対する影響は検討され ていない。本研究とADHEREの結果から心不全入院患者では,腎不全が高頻度にみとめられ,

さらに,急性期ばかりでなく慢性期においても予後の独立した重要な規定因子となることが 示された。このような結果は

CKD

の早期発見,早期治療が心不全の予後改善にとって非常に 重要であることを改めて認識させるものである。

  CKD

が慢性 心不全 の予後規定因子となる理由はいくつか考えられる。まず第1に,CKDは 年齢,高血圧,糖尿病などの以前から言われている危険因子だけでなく,高尿酸血症や貧血 等最近注目されている危険因子のマーカーである可能性がある。そのため,CKDは腎臓と心 臓両方の臓器障害の重症度を反映しているのかもしれない。しかし,本研究では多因子補正 後 も

CKD

が 独立し て予後に 対して有意に関連していた。第2に,CKDは基礎心疾患の重症度 と直接関連している可能性がある。しかしながら,本研究でも先行する観察研究や臨床研究 と同様,CKDと左室駆出率の関連は認められなかった。したがって,心不全患者におけるCKD の 予 後 に 対 す る 影 響 は 収 縮 不 全 の 重 症 度 と は 相 関 し な い と 考 え ら れ る 。

【 結論】我 が国の 今日の日 常臨床で遭遇する慢性心不全患者では,CKDが高頻度にみとめ られ,かつCKDは慢性心不全患者の長期予後の悪化の独立した規定因子であった。慢性心不 全 患者にお ける

CKD

は収縮 不全や合併疾患に依存しない予後の増悪因子であることを認識 し,慢性心不全患者の管理においてはCKDの予防・治療の重要性を十分に念頭に置く必要が あると考えられた。

364

(3)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

慢性腎臓病は慢性心不全入院患者における 独立した長期予後悪化の危険因子である

  心 血 管 疾 患 の 連 鎖 の 概 念 で は , あ ら ゆ る 心 血 管 疾 患 の 終 末 像 が 慢 性 心 不 全 で あ る 。   腎 機 能 障 害 すな わ ち慢 性腎 臓病Chronic kidney disease( 以下CKDと略 す) は, 慢性 心 不 全 患 者 に お い て 総 死 亡 ば か り で な く 心 血 管イ ベ ント を含 む予 後の 独 立し た危 険因 子で あ る こ と が 報 告 さ れて い る。 しか し, 日常 臨 床で 遭遇 する さま ざ まな 心不 全患 者 を対 象に ,CKD の長 期的 予後 に 及ぽ す影 響を 評価 し た報 告は 乏し い。Japanese Cardiac Registry of Heart Failure in Cardiol09Y (JCARE‑CARD)は ,慢 性心 不全 の 増悪 によ り日 本 循環 器学 会認定研修 施 設 に 入 院 し た患 者 を対 象に した 前向 き 登録 観察 研究 であ る 。本 研究 ではJCARE―CARD研 究 デ ー タ ベ ー ス を 用 い て , 慢 性 心 不 全 患 者 にお け るCKDの頻 度 を評 価し ,CKDが 予後 増悪 の 独 立した危険因子かどうかを 検討した。

  JCAREーCARDで は慢 性心 不全 増 悪に より 入院 治 療を 行っ た患 者2675名を 対象 にし ,臨 床 的 特 徴 , 治 療 法 ,予 後 を調 査し た。 本研 究 ではModification of Diet in Renal Diseaseの 日 本 人 補 正 式 を 使 用 し 算 出 し た 推 定 糸 球 体 濾過 率(eGFR)を 用い て腎 機 能を 評価 した 。eGFRは 1961名 で 算 出 可 能 で あ っ た 。 血 液 透 析 中 の62名 はeGFRの 値に 関係 せ ずに 対象 とし て加 え , 合計2013名の患者を解析対 象とした。eGFR冫60 ml/min/l. 73m2 (n=579),30−60 ml/min/l. 73m2 (n=1025) , く30 ml/min/l. 73m2ま た は 維 持 透 析 中 (n二 ニ409)の3群 に 分 類 し た 。   全 患者 のう ち1434名(71.2% )が ,中 等 度以 上の 腎機 能障害であった。eGFR低 下例は,有 意 に 高 齢 で 女 性 が 多 か っ た 。eGFR低 下 例 は, 心 不全 の基 礎疾 患と し て虚 血性 心疾 患と 高 血 圧 性 心 疾 患 の 割 合 が 高 く , 拡 張 型 心 筋 症 の割 合 が低 かっ た。eGFR低 下例 は, 高血 圧, 糖 尿 病 , 貧 血 等 の 合 併 症 が 多 か っ た 。eGFR低 下例 は ,退 院時 にア ンジ オ テン シン 変換 酵素 阻 害 薬,ロ遮断薬を処方されて いる頻度が低かった。

  退 院 後 平 均2.4年 の 経 過 観 察 中 の 心 不 全の 増 悪に よる 再入 院ま た は死 亡率 は,eGFRが 低 下す るに っれ て 有意 に増 加し た。eGFR >60 ml/min/l. 73mzを対照として多因子補 正による解 析 を 行 う と ,eGFRが よ り 低 下 し た2群 で 再 入 院 ま た は 死 亡 の り ス ク は 有 意 に 増 加 し た 。   我 が 国 の 今 日の 日 常臨 床で 遭遇 する 慢 性心 不全 患者 では ,CKDが 高 頻度 にみ とめ られ , か つCKDは 慢 性 心 不 全患 者の 長期 予 後の 悪化 の独 立 した 規定 因子 であ っ た。 慢性 心不 全患 者 に おけ るCKDは 収縮 不全 や合 併 疾患 に依 存し な しゝ 予後 の増 悪因子であることを認識 し,慢性心 不 全 患 者 の 管 理に お いて はCKDの 予防 ・治 療の 重 要性 を十 分に 念頭 に 置く 必要 があ ると 考 え られた。

  質 疑 応 答 で は, ま ず, 副査 松居 喜郎 教 授か ら慢 性心 不全 とCKDの 相 関に つい て心 不全 に よ る腎 機能 障害 増 悪の 可能 性に つい て 質問 があ った 。次 い で, 副査 小池 隆 夫教 授か ら慢性心不 全 患 者 に お け るeGFRと 実 測 値 の 乖 離 の 有 無と 本 研究 にお ける 慢性 心 不全 の定 義, 処方 内 容

365 ‑

之 夫

裕 隆

井 池

筒 小

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

の結果の解釈にっいて質問があった。最後に,主査より日常臨床での慢性心不全患者におけ るCKD管理の具体的な考察について質問があった。質問に対して,申請者は本研究の解析結 果や以前報告された疫学研究および臨床研究の結果,フラミンガム研究の診断基準を引用し,

心不 全の重症 度指標を 交絡因 子として解析してもCKDは慢性心不全患者の独立した長期予 後増 悪因子であったこと,慢性心不全患者でのeGFRと実測値について比較した研究は今ま でに報告されていないこと,慢性心不全患者管理において腎機能評価の重要性,予後不良と 考えられるCKD合併例へのACE阻害薬や口遮断薬等心不全の予後改善が期待さ、れる処方の積 極的適応の必要性について回答した。

  

この論文は,我が国の日常臨床における慢性心不全患者における

CKD

の頻度と長期予後の 悪化への関与を前向き登録観察研究で初めて報告した点で高く評価され,臨床での慢性心不 全患者管理におけるCKDの評価・治療の重要性を示唆し,今後の心腎連関研究の礎となるこ とが期待される。

  

審査員一同は,これらの成果を高く評価し,大学院過程における研鑽や取得単位なども併 せ 申請 者 が 博 士( 医 学 )の 学 位 を受 け る のに 十 分 な資 格 を 有す る も の と判 定 し た。

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参照

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