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博士(歯学) 孔 令群 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(歯学)   孔   令群 学位論文題名

骨芽細胞様IVIC3T3 ・El 細胞の各種ATPase に対するエスト      ロゲンの作用

学位論文内容の要旨

「緒言」

  高齢女性の骨粗鬆症においては、閉経後のエストロゲン量の急速な低下が原 因となることが知られている。エストロゲンは破骨細胞の働きを抑制するだけ でなく、骨芽細胞に直接作用して活性化することにより、骨密度を増加させた り、骨基質の石灰化を促進する。骨粗鬆症の治療薬として使用されているが、

エストロゲンが分子レベルで骨芽細胞を刺激するメカニズム、特に石灰化に伴 う無機イオンの輸送に関与する可能性のある各種ATPase活性に対する研究は 少ないので、本研究を行った。

  エストロゲンには、エストラジオール、エストロン、エストリオールがある が、エストラジオールは最も生理活性が高く、骨代謝に重要な役割を果たすこ とが明らかになっている。本研究では、エストロゲンとして、エストラジオー ル(17ロ‑E)を用いた。

  Orimoによる骨芽細胞と基質小胞を介したハイドロキシアパタイトの合成蓄 積のモデルでは、基質小胞で合成され分泌されたハイドロキシアパタイトが成 熟するには高いCa濃度が必要である。このCaを供給する機構については不明 な点が多い。我々はCaを能動輸送するATPaseがこの機能を担うのではないか という仮説をもとに研究を行なった。

  我 々 の研 究から、MC3T3‑E1細胞(El細胞 )には以下 のようなATPaseが存 在する。

1. Ca‑ATPase:ア ル カ リ性 に 至適pHを 示 し、 最 大活 性 化に は 数mMのCa 濃度 を 必要 と する 。Nakanoら は 骨形 成 部位の 活性染色か ら石灰化部 位に Ca‑ATPase活性が 存在すると 報告したが 、El細胞に存在するCa‑ATPase活性 と共通点 が多い。こ のCa‑ATPaseはCa供給源として有カだと考えられるが、

この酵素に関する報告は少ない。

2. Mg‑ATPa8e:Mgで 活性 化 され る 以外 はCa‑ATPaseと 類 似し て いる が 、

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Ca‑ATPa8eと分離精製することが可能であり、この酵素に関する報告も少ない。

3. Ca,Mg‑ATPase: 形 質 膜 のCa‑ATPa8eと し て 知 ら れ るPMCAあ る い は SERCAに 相 当 す る 。 細 胞 内 のCa濃度 の 調 節 、 情 報 伝 達に 船い て重 要な 酵素 で ある が、骨 形成 に韜 ける 役割 は不 明で ある 。

4. Na,K‑ATPa8e: 細 胞 の 基 本 的な 機 能 に 関 与 す る 酵素 で、 中性 に至 適pHが あり 、NaとKの 能動 輸送 を行 なう 。

  今 回 は 、El細 胞 の こ れ ら4種 のATPa8eに 対 す る17ロ‑Eの 作 用 を 調 べ た。

「材料と方法」

  El細 胞 を10‑9Mか ら10‑4Mま で の17ロ .E存 在 下 で 培 養し 、コ ンフ ルエ ント 後 、10日 、20日 、30日 後 に回 収し たの ち、超 音波 処理 によ るホ モジ ェネ ート を 作成 し、冷 凍保 存し て実 験に 用い た。 タン パク 質量 はLowry法 で測 定し、ア ル カリ 性ホス ファ ター ゼ(ALP)活性 は、pH 10.13の 炭酸 バッ ファ ーを 使用し、

パ ラ ニ ト ロ フ ェ ニ ル リ ン 酸(pNPP)を 基 質 と し て 測 定 し た 。ATPase活性はATP の加水分解により生じた無機リンをChifflet法で定量することにより測定した。

「結果と考察」

1. Ca‑ATPase,Mg‑ATPase,Ca,Mg‑ATPase,Na,K‑ATPase活 性 測 定 の 最 適 条 件 を 決 定 す る た めに 、 回 収 し た細 胞の各ATPase活 性のpH依 存性 と基 質濃 度 依 存 性 を 測 定 し た 。1)ALP活 性 測 定 の 至適pHは10.1程 度 で あ り 、 活 性 は 約3 mMの ヰ 岬Pで 最 大 と な っ た 。2)Ca.ATPase活 性 はpH9.45付 近 で 、 ま た1皿M以 上 のCa濃 度 で 最 大 と な っ た 。3)Ca,Mg‐ATPa8e活 性 はpH7付 近 で 最 大 と な っ た 。 活 性 は100uM程 度 のCaで 最 大 と な り 、200uM以 上 で は 逆 に 抑 制 さ れ た 。4)Mg‐ATPase活 性 はpH9.45付 近 で 、 ま た2mM以 上 の Mg濃 度 で 最 大 と な っ た 。5)E1細 胞 のNa,K―ATPa8e活 性 のpH依 存 性 の 測 定 は、 アル カリ 性でMg.ATPa8eの 影響 が大 きく困 難であった。そこで、本研究で 使 用し てい る緩衝 液を 使用 して 、ラ ット 脳Na,K.ATPa8e活 性のpH依 存性 を測 定すると、最大活性は中性よりややアルカリ性であった。以上の結果をもとに、

各ATPa8e活 性 の 測 定 条件 を 決 定 し た。 本研究 では 、Ca.ATPa8e活性 は2.5mM のCaでpH8.5,Ca,Mg‐ATPa8e活 性 はO.1111MのCaでpH7.4で 測 定 し 、 Mg‐ArPa8e活性をpH8.5で測定した。

2 .El細胞 ホモ ジェ ネー トの タン パク 質量 は10日、20日 、30日目と増加した。

ど の 日 数 で も 、DMSO添 加 の コ ン ト ロ ー ル に 対 し て 、10‑8M及 び10‑6Mの17 ロ.Eは顕著な影響を示さなかった。しかし、17ロ.Eの濃度が10‑4Mに上がると、

どの 日数 でも タン パク 質量 は有 意に減少し、増殖抑制を示唆したため、今後の

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実験での17ロ.Eの濃度は10―、l0‑7及ぴlO‑sMとした。17ロ‑EはE1細胞に対 し て は顕 著 な細 胞 増殖 促 進作 用 を示 さ ず、10‑4Mでは 増 殖を 抑制した 。

3.石灰化の指標となるAI」P活性は、17ロ‐Eの有無にかかわらず、コンフル エント後20日目に最大値を示し、30日目では活性は低下した。どの日数でも、

ALP活性は10‑9MからlO‑sMの17ロ‐Eで濃度に依存して増加する傾向を示し、

lO‑sMでその作用は顕著であった。17ロ.EはEl細胞の石灰化を促進し、10‑sM ではその作用が強いことを示唆する。

4. 17ロ‐Eは20日目にNa,K‑ATPa8e活 性を約2倍増加したが、17ロ.Eの濃 度 依存性は認められなかった。10日及ぴ30日でも17ロ.EはNa,K‑ATPase活 性 を促進した 。

5.高濃 度 のCaで活 性 化さ れ るCa‑ATPaseの 比活 性 は、10日、20日、30日 目と も10‑9M及び10‑7M濃度の17ロ‑E存在下ではコントロールとの有意な差 は認 められなか ったが、lO‑sMでは有意 に増加した 。

6.低濃度のCaで活性化さ れ、細胞内Ca濃度の調節 と情報伝達 に関与する Ca,Mg‑ATPaseの比活性は、17ロ‐E存在下では10,20,30日目ともコントロ ールより高い値を示したが,10日日のlO‑sMを除いて、17ロ.Eの濃度依存性は 顕著ではなかった。

7.Mgの輸 送 に関 与す る可能性の あるMg‑ATPaseの 活性は20及び30日 目で,

17ロ―E存在下で高 い値を示した。17ロ‐Eの作用は、20及び30日ではALPに 対する作用に類似していたが、20日での17ロ‐E濃度依存性は観察されなかった。

    以上の結果から、17ロ.EによるEl細胞の各イオン輸送ATPase活性の活 性化時期は異なったが、ATPa8eに対する活性化作用はlO‑sMという高濃度の方 が強いことが示唆された。今回の結果から、骨形成を促進するエストロゲンの 作用に直 接関与する イオン輸送ATPa8eを 推測することはできなかったが、

Nakanoら の 報 告 と 共 通 点 が あ り 石 灰 化 部 位 に 存 在 す る と 推 測 さ れ る Ca‑ATPase活性は、10‑sMの17ロ‐Eで顕著に促進されたことから、石灰化部 位にCaを供給するATPaseとなる可能性があると考えられる。今後さらに研究 を進める予定である。

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学位論文審査の要旨 主 査    教 授    鈴 木邦 明 副 査    教 授    田 村正 人 副 査    教 授    進 藤正 信

学 位 論 文 題 名

骨芽細胞様IVIC3T3‑E1 細胞の各種ATPase に対するエスト ロゲンの作用

  審 査 は審 査 担 当者 が一 同に会し て行った。 まず申請 者に本論 文の概要 の説明 を 求め 、 口頭 試 問 形式 で提出論 文の内容及 ぴ関連分 野につい て試問し た。申請 者 は論 文 の概 要 を 以下 の よう に 説 明し た 。

  本 研 究は 、 骨芽 細 胞様MC3T3−El (El)細 胞を用い 、石灰化に 伴う無機 イオン の輸 送 に関 与 す る可 能性の ある各種ATPaSeに対するエ ストロゲ ンの作用 を明ら かにする ことを目 的として行 なった。

  各種濃度 の17口ーエ ストラジオ ール(17ロ−E)存在下で10,20,30日間培養し たEl細胞の ホモジェ ネートを測 定に使用 した。ア ルカリ性 ホスファ ターゼ(ALP) 活 性 とATPase活 性 は 、 反 応 で 遊 離 し た 無 機 リ ン を 定 量 し て 測 定 し た 。   1.ALP活 性 は 、 ど の 日 数 で も10‑9Mか ら10‑5Mの17ローEで 濃 度 に依 存 して 増加 す る傾 向 を 示し 、10―5Mで その作用 は顕著であ った。17ロlEはEl細胞の 石 灰化を促 進し、10−SMではその作 用が強いことを示唆した。2. Na,K一ATPase活 性を17ロ―Eは20日 目 に 約2倍増 加 した が 、17ロ ―Eの濃 度依存性 は認めら れな かった。3. Ca―ATPase活性は 、lOー噺及びlO−7Mの17ロIE存 在下ではコントロ ールとの 有意な差 は認められ なかった が、10一5Mの17ロ也ではどの日数でも有意 に増加し た。一方 、Ca,Mg一ATPase活性 も17ロ―Eに より増加 したが、17ロ也の 濃度依存 性は顕著 ではなかっ た。4.Mg−ATPase活性に対 する17B―Eの作用は、

20及 び30日 で はALPに 対 する 作 用に 類 似 して い たが 、20日 で の17ロ ーE濃度 依 存性は観 察されな かった。

  以 上 の結 果 から 、17ロ 一Eに よるEl細胞 の 各 イオン 輸送ATPase活性 の活性化 時期は異 なったが 、ATPaseに対する 活性化作用はlO一噺という高濃度で強いこと

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が示 唆さ れた 。石 灰化 部位 に存在 する と推 測さ れる 、アルカリ性至適pHで高濃 度のCaを 必要 とす るATPaseは、10―5Mの17ローEで顕著に促進されたことから、

石 灰 化 部 位 にCaを 供 給 す るATPaseと な る 可 能 性 が あ る と 考 え ら れ た 。

  以上の 説明 に対 して 、各 審査 委員 が行 った 主な 質問は、以下の通りである。

1) Ca一ATPase、Mg一ATPase、Ca,Mg一ATPaseの 細胞 膜にお ける 存在 部位 、 2) Ca一ATPase、Mg‑ATPase、Ca,Mg‑ATPase活性の各イオンの濃度依存性と細胞内   外のイオン濃度との関連性、

3) エ ス ト ロ ゲ ン は メ デ ィ ウ ム 交 換 ご と に 新 た に 添 加 し た の か 、 4)各ATPase活性測定の際のATP濃度が違う理由、

5) pNPPとは何か、基質阻害を起こす理由は、

6) Na,K‑ATPase活 性 を 測 定 す る 際 だ けrat由 来 の 酵 素 を 使 用 し た 理 由 、 7) 10‑4Mで は 増 殖 抑 制 な の か 、 そ れ と も 細 胞 死 が 起 こ る の か 、 8) ALPの 活 性 化 に は10一5Mの エ ス ト ロ ゲ ン が 必 要 な の か 、 そ の 理 由 は 、 9) 予備 実験 ではNa,K‑ATPase活性の測定は困難であったのに、どのように測定   法 を 改 善 し て 、 エ ス ト ロ ゲ ンの 作 用を 調べ る実 験を 行った のか 、そ の際 に   Mg一‑ATPaseによる測定の妨害はなかったのか、

10) Ca一ATPaseとALPがどちらも石灰化に関与していると推測するのなら、最大   活性化の時期に違いがあることをどのように考えるか、

11) mRNAレベルでの発現の相違は調べていないのか、

  これ らの質 問に 対し て、 学位 申請 者か ら適 切か つ明 確な回答船よぴ説明が得 ら れ、 申請者 が本 研究 の一 連の 実験 およ び分 析を 主体 的に遂行し、得られた結 果 につ いて科 学的 考察 を行 い、 それ らを 論理 的に 表現 し他者に伝達する能カを 有 する ことが 確認 され た。

  本 論 文 は 、 骨 芽 細 胞 様 細 胞 の 有す る 各 種イ オン 輸送ATPase活性 に対 する エ ス トロ ゲンの 作用 を明 らか にし た最 初の 論文 であ ると 考えられる。骨芽細胞及 び 基質 小胞が 関与 する 石灰 化の 機構 に関 する 理解 は進 んだが、最終的に石灰化 基 質に カルシ ウム やり ンが 輸送 され る機 構に 関し ては ほとんど明らかになって い ない 。本研 究成 果に は新 規性 があ り、 得ら れた 結果 はこの分野の今後の研究 と 発展 に大い に貢 献す るも ので ある こと につ いて 、審 査委員全員の賛同が得ら れ た。 以上よ り、 申請 者の 学位 論文 につ いて 、北 海道 大学の博士(歯学)の学 位 授与 に値す るも のと 認め た。 」

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